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2015年1月 7日 (水)

Last Flight 24(2)

  ラスト・フライト。

***

 マーチャーたちは、スモークを城の闇の中、戦時に脱走兵や反逆者たちを収監してあった急ごしらえの監獄に閉じ込めていた。
 イセヤは、闇から闇を伝うように慎重に進んだ。杖の先端の光は麻布地の袋で覆ってある。暗い色の外套は夜に紛れ、そもそも外に出ていて彼女の姿を目に留めそうな者は数えるほどだったが、彼女の心臓は一歩進むごとに喉から飛び出しそうになっていた。

 発見されることを恐れていたのではない。それは失敗を意味するからだ。彼女にはたった一度の機会しかない。
 ひとりきりの守衛が監獄の木製の椅子の風下側にもたれかかり、パイプで鼻を突くような臭いのする草、ブライトの時代にフリー・マーチャーズが他にましなものがないときに吸っていたような草を詰めて吸っていた。パイプの雁首は薄暗い闇の中で桜んぼのような赤い色に輝いている。

 男はそこから扉のほうを見ることができないが、そうする必要もないのだろうとイセヤは思った。スモークが逃げ出せば、どこに座っていてもわかるのだ。
 守衛はイセヤが近づくことにも気がつかなかったが,彼女は見つかる危険を冒すつもりはさらさらなかった。中で彼女がたてる物音を聴かれてしまうかもしれず、彼女が作業をしている間に位置を変え、退出するときに見つかってしまうかもしれず、それですべてが台無しになる。

 注意深く、彼女はフェイドを探り、杖の光が周囲を照らし出すのを見つめる間、パイプ吸いから片方の目を離さずにいた。魔法が導管を通して流れるにつれ、杖の頭の涙型の石が音もなく震えたが、結びつけていた袋が光量を十分に抑えている。呪文を形にするときに察知されてしまいそうな揺らめきもなく、それを手放すときに音もたてず、ひとりきりの守衛を眠りに誘い込んだ。

 男が椅子に腰掛けたままがっくりと沈みこんだ。パイプが口元からこぼれ落ち、固く踏み固められた地面にくすぶる弧を描くように燃え差しをまき散らしながら落ち、そして暗くなった。イセヤはそれを踏み越え、男の帯から鍵の束を取り上げ、監獄の扉に向かった。
 鍵はかかっていなかった。彼女の腰回り以上も太さのある頑丈な木製の柱で閂がかかっていた。扉には爪痕が深く刻み込まれており、イセヤが覗き見ることができるくらいの裂け目ができていたが、それがグリフォンの憤怒の印であることは明らかなのに、そこからスモークの姿は見当たらなかった。

 イセヤは閂を留め金から外し、壁に立てかけて扉を開けた。
 スモークは薄汚れてボロボロになった毛布が散らばる中にしゃがんでいた。重い鋼の鎖は壁に繋がれ、グリフォンの頸に嵌められた拘束具のような首輪は、地中深く埋められた杭に結び付けられている。暗い色をした金属の口止めが、周りの羽根を挟み込んだまま嘴を締め付けていた。その上半分の表面はグリフォンの咳とくしゃみに交じっていた血がこびりついている。身体のそこここに羽毛も羽根も抜け落ちた大きな禿げた部分があり、その剥き出しの肌にイセヤは、ワイズホプトのタスクを痛めつけていた穢れとそっくり同じものを見てとった。

 グリフォンの目は闇の中で黒と黄色に見え、イセヤがたじろぐほどの憤怒に燃えていた。嫌悪の熾烈さが頸の回りの鎖をじゃらじゃら鳴らした。エルフを目にしたスモークは、封じられた嘴からしゅーという息を漏らしたが、続いて咳き込み、くしゃみをし、口止めと毛布に新しい血の霧を振りまいた。

 マーチャーたちは広い場所を確保するため、いくつかの独房の木製の壁を取り壊していたが、それでも監獄は狭苦しく惨めで、スモークの存在には全く相応しくないものだった。たとえ鎖で繋がれていなくとも、スモークが首を持ち上げ、あるいは翼を広げるだけの空間もない。古い尿と、病と、絶望の汚臭が漂い、イセヤはどちらをより憐れむべきなのかわからなかった。ここに閉じ込められたスモークのほうなのか、それとも掛け替えのない友を、このような場所に送り込まざるを得なかったアマディスのほうなのか。

 だが、それもすぐに終わる。そこにはほんの少しだけ慰めがあった。
「もうじき楽になるから」 イセヤの呟きは、グリフォンに向けたものなのか、自分自身に向けたものなのか定かではなかった。彼女は再びフェイドを探ると、霧とほとんど変わらないくらい希薄な魔法の綛(かせ)を引き出し、そこからまた別の眠りの呪文を紡ぎ出した。
 スモークは長い間抗い、何かしら戦うべき相手を見つけるという純粋な目的のため魔法に戦いを挑んだが、とうとうその意志も潰え、魔法の眠りに襲われた。
 そしてイセヤは、ナイフと、無限の悲嘆を携え、グリフォンのほうに近づいて行った。

***

 彼女は夜明け前に発った。パイプ吸いの守衛は外の地面でまだ寝ており、柔らかいいびきのため唇を震わせていた。監獄の中では、スモークの羽毛に包まれた身体が薄暗がりの中で生気のない塊りになっており、最期の日々を苛んだ怒りと緊張も消え失せていた。イセヤは、グリフォンの魂がどこに向かったにしても、安楽を見つけ出していることを願った。

 彼女の肌を、いくつかの卵が温い重荷として取り巻いていた。イセヤはそれらを、旅をするデーリッシュが赤子を運ぶ時に用いるようなつり紐に括り付け、外套の下に隠していた。その重みで彼女の肩は低く下がっていたが、心は高ぶっていた。

 卵に汚染はない。イセヤが最も恐れていたことは、母親や他の同族たちの多くと同じ病のため、それらの卵がすでに取り返しのつかないほど穢れていることだった。だがそれらのちっちゃなまどろむ生命は、ずっと微かにしか呪いに侵されておらず、彼女はそれらも上手に拭い去ることができたと信じていた。
 彼女は、穢れを自らの身体で引き受けた。イセヤの知る限り、一たび生き物に取りついたダークスポーンの汚染を消し去る方法はない。それは癌のように膨れ拡がり、彼女はそれを治療する術を知らない。ジョイニングを施す他になく、それもただ進行を遅らせるだけだ。

 だが、それらの卵の中には、そのまだ形のない、萌芽の段階の生き物には、汚染の足掛かりとなるものもほとんどなく、そして彼女はそれさえも拭い去った。消し去ることはできなかったが、まだ生まれていないグリフォンたちから、自分自身の身体に移し替えることは可能だった。そしてその通りにした。

 それによって病が増したわけでもなかった。イセヤはそうなることを、それによって、卵を隠すことを目論んでいた聖域に辿りつくことができなくなることを危惧していたが・・・、汚染をさらに加えたことによる悪影響は感じられなかった。ただ腹部に、まるで消化できないほど大きな何かを呑みこんだときのような拭い去れない重みを感じ、また不意に頭を動かしたときに、視界の端に油っぽいおぼろな暗闇が映るだけだった。そして途切れることのない痺れ、身体の末端に感じるひりひりするような冷たさ。彼女は両手や両足をどれだけこすっても、暖めることができないような気がした。
 だが、それが足止めになるわけではなく、それこそが大事なことだった。

 リーヴァスはスタークヘイヴンの城壁の上で待っており、そこは戦いの間にグリフォンが止まっていたのと同じ場所だった。だがかつては、十頭よりも多くのグリフォンたちが、互いにいがみ合い、あるいは高飛車に無視しあっていたところに、今は黒いグリフォンが一頭止まっているだけだった。射手用の穴の開いた胸壁の上にただ一頭、リーヴァスは白々と明け始めた空を背景に佇んでいた。

 イセヤの姿を見かけると、リーヴァスは翼を一度羽ばたき舞い降りて来た。リーヴァスは卵の塊の臭いを嗅ぎ、好奇心のため首の後ろの羽根を逆立てたが、エルフがしっしっと追い払うとすねた様子で、乗り手が鞍に跨るまで待っていた。
 もう随分と擦り切れた鞍に跨ると、郷愁の深い疼きがイセヤを襲った。今度こそ、まず間違いなく、自分たちの最後の飛行になるのだ。

 最初に、彼女たちはアンダーフェルズに向かい、彼女が慎重に選んでいた場所にスモークの卵を隠すことにする。卵の安全が図られたなら、彼女とリーヴァスはワイズホプトに戻る。そこでイセヤは、自分の日記とそこに記された十二年分の秘密を、エルフにしか解明できないだろう一連の魔法で守られたところに隠すつもりだった。

 彼女がアマディスに告げたことは真実だった。ファースト・ウォーデンには、将来のグリフォンの命運を握る資格はない、と彼女は考えていた。彼こそが、彼女にあの獣たちにブラッド・マジックを用いることを何度となく命じた張本人だった。彼こそが、グリフォンが苦痛を感じないことによる警告を無視し、ダークスポーンの汚染が感染する道を開いた男だった。 そして彼こそが、効果的な隔離措置を手遅れになるまで逡巡したのみならず、新しい平和協定の樹立を急がせるため、ウォーデンたちにセダス中を飛び回らせ、そしてグリフォンの病を既知の諸国ことごとくに蔓延させた張本人だった。彼がたとえ今夜行動を起こしたとしても、と彼女は思った、もはや手遅れになっているだろう。この瞬間にも、すでに手遅れなのだ。

 だがそれでもイセヤは、いつかその日が来るのであれば、グリフォンの再生はグレイ・ウォーデンの手に委ねたかった。グリフォンとの相棒の関係を永久に消し去りたくはなかった。彼女がリーヴァスとの間に育んだものを、ガラヘルがクロッキーテイルとの間に、アマディスがスモークとの間に・・・。それは、歴史の中で喪われてしまうには、あまりに掛け替えのない、力強い友情関係だった。
 だから彼女は、その宝物を隠して、痕跡を残し、グリフォンたちの将来のことは運を天に任せることにするのだ。

 それが済んだら、彼女とリーヴァスは正式にその任を辞し、コーリングに赴く。彼女たち一組が、一緒にそうする初めての一組でもないし、最後の一組でもない。最近では、憤怒の病の本質とその拡がりが自ずから明らかになると、羽毛の生えた相棒と永年連れ添った多くのグレイ・ウォーデンたちがそれと同じ旅立ちを選んだ。獣たちを襲う野性の憤怒は、グリフォンたちにとってのコーリングだとみなされ、ほとんどの相棒思いのウォーデンたちは、その老練のグリフォンたちとともに最期の戦いに臨むことを選んだ。たとえ自らのコーリングが訪れていなくとも、グリフォン抜きでこの世界に留まろうと望む者はほとんどいなかった。
 イセヤも望んでいなかった。そしてそのつもりもない。

 彼女は、リーヴァスの首筋に優しく触れた。そこの羽毛は短く柔らかかった。若い頃には闇夜のような漆黒で、ときどきマガモ・ドレイクの緑色の頭のように玉虫色に輝いていた。今やそれは夜明け前の空のような灰色で、日の光の下では白く、彼女の指の下では擦り切れ、はかなく感じられる。時の移ろいとブライトは、彼女たちのどちらにとっても寛大ではなかった。

 だが今日この日は、ここにいる。一緒に揃って。今日この日は、彼女たちの最後の飛行なのだ。
「リーヴァス」 彼女は囁いた。「飛んで」

***

 次回からの最終章は、ドラゴンの時代。

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