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2015年1月 6日 (火)

Last Flight 24(1)

 スタークヘイヴン。

***

第24章

5:24 エグザルテド

「スモークは檻に入れている」 アマディスは、イセヤの顔を見ずに、そう静かに告白した。彼女はワイングラスから一口すすると、ごくかすかに鼻の頭にしわを寄せた。ブライトが終焉を迎えて間もない時分、たとえスタークヘイヴンの名家であっても、優れた葡萄酒がそう手に入るはずがなく、そして戦いを終えた今、ルビー・ドレイクは事実上の近衛兵という新たな役割に収まっており、アマディスも渋々ながら彼女のそちら側の顔を演じる立場を受け入れざるを得なかった。

 街がダークスポーンの手に落ちることこそなく、平和が戻るや否や、スタークヘイヴンの表面上の気品を示す装飾の復元は、城の召使いたちの手によって速やかになされていたが、二十年に渡る苦難の跡は残っていた。調理人が香辛料や蜂蜜でなんとか甘さを加えた酸っぱい黄色の葡萄酒もそのひとつであり、フリー・マーチャーたちのスモークに対する扱いも別のひとつであった。

「あの子は暴れ始めた」 ヒューマンの女は、変わらぬ柔らかな声の調子で続けた。アマディスの部屋にはふたりきりで、それぞれの椅子は暖炉の火の側に引き寄せられていたが、イセヤが相手の声を聴き取るためには神経を集中させる必要があった。「あの子にはもはや私が誰であるかもわからないのかもしれない、わかっても気にかけていないのかもしれない、それがとても辛い」

「スモークが誰かを傷つけることはあった?」 イセヤはできるだけ優しく尋ねた。
  アマディスは悲痛な顔で頷いた。「厩舎で馬丁の子の一人を傷つけ、もう一人を殺した。別々のときに。二人目の馬丁が殺されたとき、私が檻に入れた。ふたりとも馴染みだったし、気を荒げないようにするこつも知っていた。どうしてなのかわからない」 彼女はワイングラスをしばし見つめ、ふやけた香辛料の澱もろとも、残りの酒を味わう様子もなく一気に飲み下した。

「どうするつもり?」
「あなたが教えてくれるのではなくて」 アマディスは空になったグラスに酒を注ぎ、カラフェを持ち上げて無言で勧めたが、イセヤは今回も首を振って辞した。「どうすればいいかわからない。スモークはガラヘルから私への、最後の、最高の贈り物だったし、クロッキーテイルとの間の雛たちが間もなく孵る。私の個人的な嘆きは横に置いても、そのことはスタークヘイヴンの名声と士気にとって、とてつもなく重い象徴となるはず。

 だけどスモークは、盾に描かれている紋章のグリフォンじゃない。生身の生き物。考え、感じ、幸福も苦痛も知っている。そして私はスモークが惨めだと心から思っている。小さな檻に閉じ込められ、空を飛ぶことも許されない」 アマディスの瞳からは涙が溢れ出した。それをぬぐい去ると、彼女はワイングラスを見下ろし、笑顔になりきれなかった唇は憤りに小さく歪んでいた。「おそらく私もそう」
 ふたりの間に静寂が訪れた。暖炉の薪が割れる音やため息のような音を立て、刺さくれだった灰の塊の奥に沈んでいく。

 アマディスは二杯目を呑み干すと、暖炉の前でグラスを左右に揺すり、赤い輝きが透明な曲線の中で弾む様子を眺めた。「どうしてここに来たの?」
「もうすぐ死ぬから」 イセヤは何の感情も交えずに言った。もはやそのことに対する感情はほとんど持ち合わせておらず、それは太陽が西に沈むのと同じように、彼女の存在にとって単なる事実だった。「人生が終わる前に、自分の犯した過ちを正すことができないかと思った」

 黒髪の女は彼女のほうを向き、涙を溜めた瞳に好奇の輝きが浮かんだ。「あなたの過ち? グリフォンたちを襲ったのは疫病だと聞いたわ。ブライトで広まるダークスポーンの病だと、ベレスカーンの病のような」
 イセヤは肩をすくめた。「それもひとつの見方」
「別の見方があると?」
「グレイ・ウォーデンがグリフォンたちを死に追いやったのではないかと恐れている。もっと言えば、ファースト・ウォーデンの指示で、私がなしたことが。ジョイニングの儀式のせいだと思う。その反動。その道を選んだとき、私たちの誰もこんなことになるとは思ってもいなかったけれど、意図しなかったからと言って何も変わらない。私たちの仕業、そしてこれが結果。私たちがグリフォンたちを殺した」

 アマディスの指は蒼白になり、ワイングラスの脚を握ったまま固まった。彼女は、それ以上ないくらいの細心の努力を払って指を引きはがすと、グラスを脇へ置いた。彼女は部屋の小さな窓のひとつに歩み寄り、それを隠している重いヴェルヴェットの布を除け、木製の雨戸を冬の冷気の中に開け放った。風が彼女の黒い長髪を肩の後ろになびかせ、ちらつく雪片がその顔を払った。「元に戻せる、と言った?」
「わからない、本当のところは。でも試したい。許してもらえるなら」
「どうやって?」

「スモークを救うことはできない」 まずその細やかな希望を打ち消すのが大事だった。彼女には、アマディスがそれを考えていたことはわかっていたし、案の定、相手の女の口は、イセヤの想像が正しかったことを示すように固く結ばれていた。
「でも、身籠っている雛たちを救うことはできるかもしれない」
とうやって?」

「これはブラッド・マジックのせい。私が考えるに、願うに、ブラッド・マジックがそれを帳消しにすることができるはず。少なくとも、まだ生まれていない、定まっていない心なら。成獣の心を捉えたものを変えることはできない。大人の心はずっと複雑だし、血流はずっと早い。私に残された力では、汚染を消し去って、心を綺麗に結び直すことは、たとえ試してみたところでできない。望みがあるとすれば、それは・・・、病の鳥たちを隔離して健全な群れだけを別にする、そういう類のことしかあり得ない。それは魔法に頼るものではないし、少なくとも私の魔法ではできない。私にできることは、若鳥たちを殻の中にいるうちに別にすること、だと思う、たぶん」

 アマディスは躊躇い、思案する間、爪で木枠を叩き続けていた。それから彼女は顔をしかめた。「その後、その子たちはどうなるの? もしあなたのやり方が上手く行っても・・・、また孵化したときに同じ病にかかるのではなくて? その子たちが他の多くの仲間たちと同じような病にかかることを食い止める方法があるの?」

「ない」とイセヤが認めた。「時の流れだけしか、ない。私はグリフォンを悲惨な運命に追いやってしまったことを恐れている。私が間違っていればいいけれど、健全なグリフォンを隔離することが可能ならばいいけれど。でも、間違っていなければ、グリフォンは絶滅する。どの一頭たりとも逃げられない。他より早く倒れるものはいるとしても、でもひとたび曝されてしまったなら・・・。私は自分が触れたすべてのグリフォンの中にそれを感じていた、リーヴァスでさえも。リーヴァスは強いし、隠しているけど・・・、でも他の皆と同じように、すでにそれは心の中にあって、いつの日か蝕まれて死ぬ。
 でも、皆が死んでしまえば、病も一緒に死ぬ。そして汚染されたグリフォンたちが全部いなくなるまで、雛たちが殻を打ち破らずにいるのなら、その子たちは、たぶん、安全だと思う」

たぶん。あなたは、そう思う」 アマディスは窓から落ち着かなげな様子で離れた。布は元の位置に戻り、開け放たれた窓の一部を、枠で切り取られた街の銀色のとばりを覆った。蒼白い月明りの元、スタークヘイヴンのパン屋たち、メイジたち、その他夜の仕事に勤しむ者たちを示す小さな灯りが、いくつかの散らばる小さな星屑のように見えた。この平時には、警戒を怠らなかった籠城の時代よりも街はずっと暗かった。「もし、間違っていたら?」

「結果を見ることはできない。私はもう死んでいるから。今日生きている誰ひとり見ることはできないでしょう。もしうまくいくのであれば、グレイ・ウォーデンには知らせたくない。ウォーデンがグリフォンたちを殺した。あの生き物たちを導く資格はない。ともかく、今のところは。この世代では。五十年か百年、二百年でも経てば、グリフォンは伝説の生き物になっているでしょう。おそらくその頃には彼らも、危うく喪いかけた種を、ずっと慎重に守り育てようとするのではないかしら」

 彼女はヒューマンの女をまじまじと見つめた。兄の恋人、彼女の最も古い友人のひとり。何がなされたのか知っている、ただもう一人の人物。
「この秘密を守って欲しい。ウォーデンたちからも、フリー・マーチャーたちからも、他の誰からも。今日生きている者で、世界で最後に残ったグリフォンのことを託せるに足る人は、誰もいない」

「孵ったときはどうなるの?」とアマディスが尋ねた。
 イセヤは杖を握り直した。そのクリスタリンの先端が、それにあわせてかすかに輝き、フェイドの霧のような、くすんだ色合いをほとばしらせた。「孵らない。誰かが見つけるその日までは」
「その誰かが真っ当な人物だと、どうしてわかるの?」
「わからない。でもあなたが秘密を守るなら、私はできるだけ確かなものにしてみせる。少なくとも、自由がはかなく、そして得難いものであることを理解し、そしてグリフォンの真の精神を尊重してくれる人物の手に渡ることを」
「あの子は、彼の私への最後の贈り物だった」とアマディスが言った。その言葉で彼女は声を詰まらせたようだ。「あの子は、私の最も美しい友だち。私の強さ。私の自由。風に乗る力。ガラヘルが私に与えてくれたもの。そして、あなたはあの子が死ぬのは、あなたがなしたことのせいだと・・・」

 イセヤは言葉もなく首を垂れた。彼女はもはや、今まで以上に罪の意識を抱くようなことはないと思っていたが、アマディスの言葉ひとつひとつが、石つぶてのように彼女の心を打ちすえていた。
「そして、あなたはこの上ないほど間違っている。これはブライトのせいよ、イセヤ。ダークスポーンが古の神を目覚めさせなければ、アーチディーモンが襲ってこなければ、私たちの誰一人、あの暗黒のときに、こんなひどい選択を迫られる必要など最初からなかった。ガラヘルはいつも、英雄の勇気なんて恐怖の別名だと、それよりなお悪いものかもしれない、と言っていた。英雄はいつも、正しいことをなさなければならないと感じている。ときにはそのことが、事がなされたずっと後まで、彼自身を苛むの。あるいは、彼女自身を」 元傭兵は、敢えてそう付け加えた。「あなたの兄さんはずっと前から言っていたわ、あなたは自分に厳しすぎると。たぶん彼は正しかった」

 それについてイセヤに言えることはなにもなく、言いたいと思うこともなかった。その代りに彼女は、直近の懸念に、たったひとつの把握できるだけ簡単な事柄に意識を集中した。「あなたの意思は?」
「あなたが卵を奪ったらスモークはどうなるの?」
「死ぬかもしれない」とエルフは認めた。「それによって救われるかもしれないけど、でも」
「だめ」 その言葉は語気荒く発せられ、アマディスは自分自身の力に驚いたように瞬きをした。彼女は頭を振って、ずっと抑制の利いた調子で続けた。
「それはやめて。楽にあの世を迎えさせることができるのでしょう? 魔法で? 穏やかに、まるで・・・、眠りにつくように」
「ええ」とイセヤは言った。フェイドの衰退(エントロピー)の力は、彼女の得意分野ではなかったが、そのくらいは可能だった。スモークを再び目覚めることのない眠りに送り込むことは可能だった。

「なら、そうして頂戴。自然に天に召されたように、安楽に、目に見える傷もなく。できるわね?」
「ええ」
「よかった」 アマディスは最後にもう一度目を拭い、イセヤの良く知る、決意に満ちた雰囲気を纏った。初めて会ったときにアンティヴァの宮廷で最初に目にし、ふたりとも今は老いてくたびれてはいるものの、そしてその頃と同じ人物のままではなかったものの、その特徴あるわざとらしさは、変わっていなかった。「スモークに治療が施せないのなら、それだけの慈悲をかけてあげたい。それが私があの子にしてあげること」

 そして、それによってあなたも政治的窮地から脱却できる。スタークヘイヴンは、グレイ・ウォーデンからの贈り物を処分することに伴う象徴的な含意に悩まされることもなくなる。だが、そう告げることはあまりに意地悪に過ぎた。その代りにイセヤは頷き、扉に向かった。「今夜にでも」

「待って、お願い」
 エルフが振り向いた。
 アマディスの顔は暗く曇っていたが、暖炉の炎が映る彼女の両手は、まるで黄金の手袋を身に着けているように見えた。彼女はそれらを自分の頬のところまで持ち上げると、仮面を脱ぐような仕草をしてみせた。「行く前に、顔を隠しているものを取って頂戴。最後にもう一度、あなたの本当の姿を見ておきたい」

 ゆっくりと、イセヤは応じた。彼女は頭巾を後ろにはねて肩のところに掛るままにすると、醜く変貌した顔に巻いていた襟巻を解き始めた。鳩のような紫がかった灰色のものが額の回りを取り巻き、くすんだ青色のものが口と顎のあたりを覆っていた。ふたつとも音もなく床に落ちると、夜の風の冷たい息の中に、彼女の素肌が剥き出しになった。襟巻がなくなり、イセヤの痛ましいほど崩れた顔が完全に曝されると、アマディスは衝撃を受けたように小さく息を呑んだ。

 頭巾をかぶり直し、イセヤは扉から外に出た。襟巻のことは放っておいた。後ろで、鉄枠のはまった重たい木製の扉が閉じるとき、彼女はアマディスがつぶやく声を聴いた。「さよなら、友よ。ありがとう」

***

 女性は、他の女性に対して情け容赦ないですね。著者の、アマディスに対する視点。

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コメント

ありがとうございます!

 こうなったらこっちも必死です(笑)。

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