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2015年1月12日 (月)

Last Flight 25(4)完

 最後です。

***

 レイマスは長斧を力なく下ろした。盾を落とすと、テンプラーは額の血と汗をぬぐった。セイカの亡骸に向かって弔いの印を切ると、他の者たちの脇を抜け、シェイドと骸骨どもが現れてきた洞窟の奥を見つめた。「あれで最後。もうこれ以上来るとは思えない」
 カロネルは自分の衣服で剣を拭うと鞘に納めた。 「ワイズホプトに戻ったら、彼の死を讃えよう」 彼はヴァルヤに言った。ウォーデンはまだ残る自分の傷口のうち最もひどいものに手を圧しつけ、軽い魔法を紡いで縫い合わせた。彼はレイマスにも同じようにし、それからヴァルヤにもそれを施したが、彼女は自分から注意を呼ぶようなことはせず、とりたててそうして欲しいとも思わなかった。残りの道中、苦痛と共に歩むのが自分には相応しい
 だが、端的に言って、誰が何に相応しいかはどうでもよいことであり、血飛沫の飛ぶ石の上に転がっているのは、セイカではなく彼女だったのかもしれないのだ。

 ヴァルヤは黙したまま感謝の頷きを返し、治療を受けた。荷袋に入れてあった着替えの外套を取り出すと、斃れた友の上にかけ、できるだけ丁寧に覆った。
 それから身体を起こすと、肩をまっすぐに張った。悲歎で喉を詰まらせないように、急いでこう告げた。「卵はドラゴンの棲みかに隠してある。イセヤは、母親のドラゴンが自分の卵を守る際の熾烈さが、知らずにグリフォンの卵を守るのにも役立つと考えた。ハイドラゴンが通り抜けられるだけの通路はここには多くないし、それさえ見つかれば、卵のありかも見つけることができると思う」

 レイマスが頷いたが、テンプラーの険しい顔つきからヴァルヤは、まるでもう見つけたも同然、みたいに彼女が取り繕った威勢の良い調子を、ヒューマンの女が鵜呑みにしていないことがわかった。「では、それを探そう」と彼女は言って、戦いのため使い物にならなくなったものの代わりに別の松明に火をつけた。炎を高く掲げたテンプラーは、修行僧たちが放棄した神殿と続く奥へ一行を先導した。

 そこは風変りで悲しい場所だった。乾いた不毛の死から漂うかすかな香料の香りが灯りのないいくつもの広間を照らし出している。信仰を示す印が壁を覆っている。とっくの昔に燃え尽きた祈りの燭台が置かれた小室(アルコーヴ)、かつては浄めの水を入れていた空の聖水盤(フォント)、最初の聖なる行軍とミンラソウスにおけるアンドラステの殉教が描かれていたぼろぼろになったモザイク画。そのモザイクは、平素な貝殻や色づけされた陶片などからできているにしては精巧なものだったが、この貧しく辺鄙な土地にしてみれば、とてつもない費用をかけたものに違いなかった。だが何世代もの間放置されてきたが故にタイルの多くは剥落し、残っているものも乾いた塵に覆われくすんでいた。

 探索をはじめてから一時間も経たないうちに、レイマスは今まで通ってきたものよりもずっと広い回廊の入り口で足を止めた。彼女は松明を高く掲げ、他のふたりに前に来るように合図した。
 他の広間が窮屈で狭苦しかったのも、平凡な修行僧たちが簡素な道具を手にして固い岩を掘り進んだ隧道であると思えば納得もいくが、それらに比べてそこは、二人が横に並んで歩けるほど幅広く、天井もレイマスの兜のてっぺんからさらに二フィートほど高かった。ここの壁面のモザイク画は、箔に裏打ちされたガラス製と、色彩を施された高価そうな石製のタイルからできており、小室にある祈りの燭台には、貴重な蜜蝋の燃えさしがまだ残されていた。

「ここを礼拝堂にしていたんだ」 修行僧たちの狙いに気が付き、ヴァルヤは囁いた。
「もちろん、そうでしょう」 レイマスが言って、広間の中に歩み入った。松明の光の、ちっちゃな、断片状の反射がいくつも、モザイク画の宝石のようなガラスに輝く。「ここで最も壮麗な場所。彼らはここの存在が、アンドラステから与えられた徴だととったに違いない」
「彼らがここを見つけたとき、ドラゴンはすでに生きていなかった、ということか」とカロネルが指摘した。彼とヴァルヤは彼女から少し遅れて、絢爛な技巧にぽかんと見とれていた。天井にまでモザイク画が施されており、アンドラステの使徒たちが、青色と黄金の四つ葉飾りとして描かれている。
「そうだとしても、修行僧の誰かが生きて伝えることができたとは思えない」 テンプラーは再び黙り込み、広間の端まで辿りついた。彼女の松明が風に揺れた。前方には巨大な部屋が口を開けており、弱い松明の光が届かない奥深いあたりは闇になっている。

 だが彼らの目にとまったのは、アンダーフェルズの苛烈な土地で目にするのがとても信じがたい宗教的作品だった。石の洞窟は一インチたりとも残さず手が加えられている。そのほとんどすべてが痛々しいほど手の込んだ彫刻で覆われており、岩に描かれた聖なる光景のあとに別の光景が続き、その微細狂わぬ精巧さを目にしたヴァルヤは、鼓動丸ごと一回分の間、ちっちゃな人々が石の中に囚われているのではないかと感じたほどだった。複雑に入り組んだ雲形模様の帯が、ひとつの聖人伝と別のものの間を分け隔てている。

ここの中から、卵を見つけるんだって?」 畏敬の念にとらわれてしばらく黙り込んでいたカロネルが、ようやくそう言った。「元々の目印が残されているわけないじゃないか」
「そんなものは最初からないの」とヴァルヤは答えた。「イセヤは見つかる危険を冒すような真似はしたくなかった」 彼女は、今となっては何千回も前の人生の出来事のように感じられる、あのワイズホプトの書庫でそうしたように、再びフェイドに身を委ねた。

 そして、あの時と同じように、何千回も前の人生の出来事のように、青緑色のレリウムの輝きが彼女の目をとらえた。ワイズホプトの地図が示したような絢爛な彫刻ではなく、ただのかすかな、背の低い女性の手が辛うじて届くほど高いところにある壁の上の不規則なしみ。おそらくそこにはかつて伝言が記されていたはずなのだが、修行僧たちが大部分削り取ってしまって、ほんの僅かなぼんやりした断片だけが残されていた。

「あそこ」とヴァルヤが言って、さらに魔法をかき集め、レリウムに差し向けた。輝きは増し、彼女がその眩しさから顔を背けなければならないほどになった。「石の後ろ」
「ただ単に・・・、叩き割ればいいのか?」とカロネルが尋ねた。暗緑色がかった青色の輝きが、困惑した顔つきで見上げるエルフのウォーデンの鼻先と頬を染めている。
「ううん、もっといい方法があるはず」 杖を掲げると、ヴァルヤはそれを探し出すため歩み出た。

 イセヤは卵を巧妙に隠していた。レリウムの印が残された石を覆うように描かれた、聖なるアンドラステの積み薪から遺灰を掠め取った使徒ハヴァードの姿を彫るのに、この神殿に住みついた修行僧たちは何週間も費やしたに違いないが、それでも彼らが、そこの洞窟の壁の中に場違いなものが隠されていることに気が付くことはなかった。
 だが当時彼らは普通の眼で見るしかなく、秘密の隠し場所は、それを示す印にマナが流れ込まない限り目にとまることはない。レリウムが道を示しているとはいえ、彫刻の下に隠されてぼやけた輪郭は、ヴァルヤも辛うじて目にすることができただけだった。

 だが彼女が魔法で石に触れると、それは音もなく震え、一インチだけ前にせり出してきて、それにつれて使徒ハヴァードの鼻が欠けた。石が示すのは這って入ることができるほどの大きさで、三人がかりでも取り出すことはできないほど重かったが、ヴァルヤの魔法が一度触れるだけで、勝手にせり出し、横にずれ、岩の中に断面がまるで鏡のように滑らかに切り出された通路を曝した。
「一体どうやったんだ?」 カロネルが驚いて尋ねた。
「何もしてない」とヴァルヤが、自分でも驚いたまま答えた。「ただ触っただけ。イセヤの呪文に違いない」
「何百年も経ってるのに?」
「偉大なメイジだったのよ」とヴァルヤが言った。「私がそう思っていたよりもずっと」 彼女は杖の輝く瑪瑙を差し向けて新しく口を開けた通路を照らし、その光を頼りに中に踏み込んだ。

 遠くはなかった。ヴァルヤは、探索者が宝物を手にするに相応しいかどうかを試すため、イセヤが罠や、結界や、なんらかの謎を仕掛けているかもしれないと考えていたが・・・、その類のものは何も見つからなかった。死にかけたウォーデンはあまりに弱っていて、最期の際に、さらに安全策を講じることができなかったか、あるいはこの場所が秘密で、辺鄙であること、そしてかつてはハイドラゴンが棲みついていたことで、守り手には十分と考えていたのかもしれない。
 二十フィートも進むと隧道は終わり、丸い小室に出た。小室の中央の床には、輝くレリウムで描かれたルーン文字の輪の上に輝く半透明の力場の球が浮かんでいる。球の中に、ヴァルヤは、包みに覆われた大きな丸い塊りを目にした。
 卵だ。興奮のため心臓が飛び出しそうになった。これは現実なのか? 嘆きも疲労も消え去った。アドレナリンのもたらす高揚が血流に染み渡る。震える両手で、ヴァルヤは魔法の球体に触れた。

 彼女の指の下で震えたそれは、生きた肌のように温かく、しなやかだった。彼女の両の掌に波紋が生まれ、球体は自然と床に降り、花のように、てっぺんから下に向かって花びらを開いた。それが何層も続き、眩暈がするほど複雑で、それぞれあっという間に開いていくので、ヴァルヤはそこに用いられている魔法を追いかけることができなくなりはじめた。力場のエコーがあり、治療の呪文の活発な震動があり、その後には他の呪文を支えるための剥き出しのマナが続き・・・、そしてそれらが全てなくなると、瞬きする間に、イセヤが施したことを彼女が理解する前に、いくつもの卵が彼女の前に、何からも守られずに横たわり、動きを止めていた。

 息をとめ、ヴァルヤはそれらを覆っている毛布の端を持ち上げた。それも同じように、温かかった。灰色の羊毛が擦れてけばだち柔らかくなっており、発情した雄猫をぼんやり思わせる獣の麝香のような匂いを微かに漂わせている。グリフォンの臭いだ。この何世紀もの間にわたり、彼女がそれをはじめて嗅いだ人物になった。
 毛布の下には卵があった。全部で十三。美しかった。真珠のように青味を帯びた白色で、黒い不規則な渦巻模様があり、片方が滑らかにすぼんでいる。それぞれが彼女の両手で丁度包み込めるくらいの大きさだった。ヴァルヤは息を呑み、それらを見つめていた。

 彼女が、歓びとかすかな不安に満ちた顔をあげると、レイマスとカロネルが後ろに立っていた。「この子たちは・・・、大丈夫?」 彼女はもう一人のエルフに尋ねた。グレイ・ウォーデンはダークスポーンの汚染を感じることができ、もしこの卵にその気配があるのなら・・・。
 だがカロネルは微笑み、優しく首を振った。「汚染は感じないよ。微塵も」
「それなら、この子たちは大丈夫」とヴァルヤが言って、ようやくその自分の言葉を信じることができた。
「この子たちは大丈夫」

 彼女は卵を振り返った。ひとつが動いている。黒い染みがついた殻の一か所が割れ、また別の箇所が割れた。突然訪れた静寂の中、その音は雷鳴のようにとどろいた。三人が回りに集まり、孵りはじめた卵を夢中になって見つめた。ヴァルヤは杖をあまりに強く握りしめていたため、指が痺れてしまっていた。はらはらどきどきしながら、彼女はそのグリフォンに手を貸したいと思っていたが、余計な手出しひとつで、この貴重な雛を殺してしまうことも恐れていた。 

 次の割れ目ができるまで、永遠とも思えるような時間が過ぎ、それから最初の割れ目が広がりはじめた。 卵歯の生えたずんぐりした嘴の先が、穴の間から顔をのぞかせた。濡れた羽毛が割れた殻の下にちらりと見える。それから卵がまた大きく跳ね、青い殻に別の裂け目が現れた。
 他の卵も同じように動きはじめた。隧道の中はたちまち、殻の割れる音の響きで満たされる。それは何時間ものあいだ続き、仲間は誰一人動きもせず口も開かず、時間がもっと早く流れればいいと感じている者が誰もいないことは、ヴァルヤもはっきりわかっていた。彼らは歴史に立ち会っているのだ、三人一緒に、この神殿に三人だけで、メイカーの偉大な奇蹟のひとつを目撃しており、その瞬間の魔力が彼女に痺れるような衝撃を与えていた。

 とうとう、羽毛だらけの頭が一つ目の殻から顔を出した。その濡れた産毛はところどころ白色で、灰色の縞も混ざっていた。平らな耳たぶが頭蓋に張りつき、翼は灰色のまだらでずんぐりしていた。ヴァルヤには、そのひなのはっきりしない産毛のどこが毛皮になり、どれが羽根に変わるのかわからなかったが、だが彼女には目にしているものが何か、なにものか、わかっていた。
「クロッキーテイルだ」と彼女はつぶやいた。「ガラヘルのクロッキーテイルだ」

 他の卵も孵りはじめた。一羽づつ、腹をすかして、ぎこちなく卵から顔を出し、身体を揺すって殻の欠片と粘っこい薄膜を振りはらっている。煙と炭のような色をしていて、中には朝霧のように淡い色のものも、まっ黒のものも一羽いた。十三羽のグリフォンはさまざまな灰色で、それぞれが特別で、皆あり得ないほど弱々しく、そして完全だった。
「この子たち、どうすればいいの?」 レイマスが尋ねた。
「家に連れて帰るのよ」とヴァルヤが答えた。「家に連れて帰るの」

***

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