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2015年1月11日 (日)

Last Flight 25(3)

 生きる屍。

***

 ミイラ化した屍どもがまずよろよろした足取りで現れ、中にはグレイ・ウォーデンの鎧を身に着けたもの、古代の修行僧のローブの切れ端を引きずるもの、変色した骨だけのものもいた。髪と髭には煉瓦のように赤い塵が固くこびりついている。羊皮紙のように黄色い肌は頭蓋の周囲に固く張りつき、悪魔のそれのように形を変えた口のあたりで切り裂かれていた。紙きれのようなその縁が、牙の生えた凍り付いたままの笑い顔の回りでひらひらしている。黒い穴のような眼窩には炎が燃えている。迂闊にもそのような死んだ殻に収まってしまった悪魔どもの狂った激怒だ。 

 ヴァルヤは恐怖に身を震わし、よろめきながらやつらから遠ざかった。闇雲に後ずさりしたため、踏みつけられた足元の死んだ鳥たちが砕けた。よろよろと歩み寄る骨どもの後ろ、洞窟の奥底からはシェイドどもが湧き上がってきた。油っぽい、流れるような闇がその異形の内部を満たし、不恰好にでかい紐や頭巾の中に、繊維でもない、皮革でもない、そもそも何かはっきり形があったわけでもないものからできているものにくるまれていた。それぞれのシェイドの頭の真ん中に気味の悪いただ一つの光が輝いていたが、それが何かを照らし出しているわけでもなかった。

「戦うんだ」 セイカが後ろから叫び、エルフの背中を押し出した。「戦うんだ、でないとやつらのようになる」
 叫び声と背中を押す手がイセヤを麻痺から呼び覚ました。恐怖の爪はまだ彼女を深くとらえていたが、彼女は杖を持ち上げ、震えながらもフェイドを探った。魔法が彼女を満たし、白熱したスピリットの弾丸が立て続けに杖からほとばしる。彼女はそれらを骸骨ども、顔なしの漂うシェイドどもに投げつけると、他の者たちの魔法とともに彼女の周囲の洞窟の中が照らし出された。 
 メイジたちの脇をすり抜け前に出たレイマスが盾を掲げると、骸骨どもの振り降ろすダガーが当たってがちゃがちゃ鳴った。修行僧の中には古代の青銅のナイフを手にしたものもおり、ウォーデンたちは斃れたときに手にしていた武器を握っていたが、他の骸骨たちは骨の手に尖った石片や錆びた何かを握っているだけだった。

 だがそれでも殺生には事欠かないように見え、現にレイマスの盾の塗装に長い傷跡を残していた。レイマスは険しい顔で黙り込んだまま反撃し、盾をしゃれこうべに叩き付け、長斧を力一杯振り回してシェイドを薙ぎ払った。カロネルが彼女の横に立ち、輝くアーケインの力の盾で骸骨どもの打撃をはね返し、あるいは和らげた。彼の剣は輝く篝火で、鋼の刃渡り全部がメイジの杖のクリスタルのように明るく輝いている。
 闇のエナジーがふたりを取り囲み、その身体から活力を奪ってシェイドのほうに吸い上げていた。レイマスとカロネルが傷つけるよりも早く、ディーモンどもの力が回復しているように見える。なお悪いことに、それはふたりの動きを弱め、そして遅くし、守りを疎かにさせるとともに、怒れる死者どもが粗野なナイフで傷つけ血を流させるままにしていた。 

 スピリットの弾丸では足りない。ヴァルヤはより強力な呪文を探った。サークルでもごく数えるほどしか試したことはなく、この戦いの混乱の中でうまくできるかどうかもわからなかったが、友がシェイドどもにやられてしまう前になんとかしなければならない。電撃が彼女の周囲で音を立て、彼女の髪を先端まで逆立て・・・。
 そのとき、なにか巨大で真っ暗で冷たいものが彼女の背中の狭い部分を打ちつけた。血管の中の血が凍り付き、生まれたての稲妻は力ない閃光になって霧散した。ヴァルヤは膝から落ち、息を詰まらせた。
 また別のシェイドが彼女の背後で実体となった。彼女は恐慌の涙にぼやける目で、頭巾の中で掻き回される暗闇を見た。瞼のない瞳はまるで冷たい青い月のように彼女を見下ろし、そこには温かみも憐みもなかった。爪からはインクのようなまっ黒な蒸気が吹き出し、それが触れた部分のエルフの肌は白く衰弱した。

 ヴァルヤは地面を這いずり、杖を取り戻そうと四苦八苦した。倒れたときにとり落としたが、恐慌にかられて見つけることができなかった。探る手には鳥たちの死骸、羽根や、役に立たない骨しか触れなかった。
 シェイドは彼女に近づくにつれ、かすれた声で意味の通じない言葉を話していたが、息は不潔で生臭く、その存在の冷たさからして不思議なほど温かかった。ヴァルヤは、ローブに隠してあった小さなナイフを必死にさぐったが、そんな得物がこの相手に役に立つはずもないことはわかっていた。彼女の震える手が角製の握りを掴んでそれを引き抜くと、間違いなく訪れるだろう最期を覚悟して目を閉じた。

 彼女が目を開くと、シェイドは紐が交差した胸を突き出した形のまま、彼女に覆いかぶさるようにして凍り付いており、まるで誰かに後ろから一撃をお見舞いされたように見えた。一瞬後、それはどろどろした煙になり、そして姿を消した。
 セイカがその後ろに立ち、さきほどまでシェイドがいた何もないところに向け、杖を水平に構えていた。彼の目はこの上ないほど大きく見開かれていた。
「やつは死んだ?」
「死んだ」 ヴァルヤはなんとかして立ち上がり、自分自身の恐怖の味とともにその言葉を吐き出した。杖は後ろの洞窟の壁のところにあった。ずっと手の届く範囲にあったのだ。それを取り上げると、うねった木に張りついていた埃と羽根を払った。

 レイマスとカロネルは背中合わせに立っていた。エルフはいくつもの小さな傷から血を流しており、光の盾も薄れ、最後には石鹸の泡のように形をなさなくなった。テンプラーの髪の毛は汗と血のため額に張りついていたが、それを拭うために彼女が長斧の構えを下ろすことは決してなかった。骸骨どもの姿はなく、ふたりの周囲を取り巻く骨屑の塊の輪になり果てており、最後のシェイドも霧散するところだった。

 彼らのいるところに、新しい敵が立ち現れた。ひょろ長く、ねじれた姿の灰と燃えがらの化け物が、ウォーデンとテンプラーを見下ろすようにそそり立った。身体は捻じれた煙の柱で、その真ん中の部分には赤く燃え上がる歯の並んだ巨大な口が開いている。熱波のためそいつの身体の回りの空気が揺らめいていた。
 アッシュ・ディーモン。ヴァルヤがサークルで学んでいるとき、シェイドや骸骨と同じように、そいつについて読んだことがあったが、下級のディーモンどもと戦うことはいつかあるかもしれないと思っていたとはいえ、アッシュ・レイスと対峙することになるなど考えもしていなかった。

 そいつは目もくらむような竜巻でレイマスとカロネルを打ち据えたが、その爪は取り巻く燃えさしの雲であまりにぼやけていたため、本当に余分に四本の手が生えているのか、動きが早いからそう見えるだけなのか、ヴァルヤには見極めが付かなかった。アッシュ・レイスの巻き起こす疾風がやむと、エルフは彼自身の血の海の中に正体なく横たわり、レイマスは壁に寄り掛かって弱々しく盾を掴んでいた。ふたりとも死にかけて見えた。それも間もなく。 

 ヴァルヤは、横たわったカロネルの身体越しに冬の寒さの一撃を投げつけてアッシュ・レイスを叩くとともに、そのおぞましい身体を形作っている火焔の一部を凍り付かせた。霜に覆われた燃えさしが蒸気とシューという音をたてながら飛び散り、化け物はその不機嫌な眼窩を彼女に向けた。
 そいつは身を屈め、あり得ない速度で跳びあがり、洞窟の天井で自分の身体を縮めると、灼熱の奔流の姿で舞い降りて来た。アッシュ・レイスが着地し、彼女を激怒とその重みで圧殺しようとする直前、彼女は辛うじてフェイドの岸辺に掉さすだけの時間を手にした。

 黒と赤の塵が彼女の視界の中に降り注ぐ。胸には苦痛がのしかかり、肺は焼ける肉の臭いで満たされた。焼けているのは彼女自身の肉だとわかっていたが、それさえ大したことには思えなかった。彼女を生かし続けた唯一の力は治癒の魔法のか細い流れで、彼女の中核に染み渡り、死の淵からわずかに救いあげている。
 それでも彼女は立ち上がることができなかった。アッシュ・レイスから自分の身を守ることができる望みもなかった。そいつは、彼女にとどめを刺すために動く労をとる必要すらない。ただそこに居座り、その熱波と重さで、彼女を押し潰して死に追いやることができる。

 だが、そいつは動いた。もはや死んでいると思っているらしいヴァルヤに向かってではなく、別の素早い動きで最後の生き残りであるセイカに跳びかかった。彼は洞窟の入り口から蒼白い陽光が流れ込むあたりまで後退していた。
 若いメイジは、アッシュ・レイスが跳びかかり、自分を闇の中に弾き飛ばす間、怯みもたじろぎもしなかった。彼は自分の身を守ろうとさえしなかった。その代わりにセイカが輝くマナの網を紡ぎ出し、倒れた仲間たちの身体を治療のエナジーの波で包み込む姿を、ヴァルヤは恐ろしさのあまり信じることができないまま見つめていた。ヴァルヤの身体に力が戻り、胸を押し潰される苦痛を和らげ、四股の感覚が戻りつつあった。視界の外のどこかではレイマスが動く際にたてる金属同志が鳴る音が聴こえ、そしてヴァルヤは、カロネルが自分の傷に激しく毒づく叫びを聞いた。

 そのとき、レイスがセイカに襲い掛り、遣い手とともに魔法が絶え果てた。
 ヴァルヤは、自分でも何をしているのかわからないまま、そいつに向けて再び冷気の一撃を浴びせかけた。杖と素手の両方から噴き出す氷の流れは何度も何度も続き、今まで手掛けたどんな呪文よりも、素早く、力強かった。雪片が髪を通して打ちつけ、杖を握る指は凍り付いたが、怒りの力に衝き動かされていた彼女には何も感じなかった。
 カロネルが彼女の隣に並び、彼自身の氷の呪文を加えた。レイマスはふたりの脇を抜けると、アッシュ・レイスの身体から凍り付いた塊りを長斧で削ぎ落とした。そいつはテンプラーに斬りかかったが、彼女は盾で爪を払いのけ、さらに打撃を加え続けた。

 とうとうレイスの姿が消え、溶けはじめている氷の破片と燃えさしの最後の燻りが残されると、セイカが立っていたところに、彼の打ち砕かれた亡骸が見えた。
 彼は死んでいた。亡骸は見分けが付かないほど打ち据えられ、焼け焦げており、それを目にしたヴァルヤは自分の嗚咽を抑え込んだ。彼女は、赤き花嫁の墓場に向かう危険を冒す心構えができていたと思っていた・・・、だが誰かが死ぬなんてことまで本当に覚悟していたわけではなかった。彼女は、今、アーチディーモンによってはじめて仲間を喪ったときにイセヤが感じた恐怖をようやく理解した。

 突然、グリフォンが見つかるかもしれない可能性について感じていた魅力は、とてつもなく小さくなった。そしてそれがとてつもなく重要な事柄になったのは、セイカの死に何の意味もなかったのなら、この後その思いを抱いたままで、生き続けることなどできないからだった。

***

 次回が最後。

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