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2015年1月10日 (土)

Last Flight 25(2)

 赤き花嫁の神殿。

***

 彷徨いの丘に到着するまで一週間かかった。丘陵は渦巻く赤い塵の上に険しくそびえており、その塵は終わりなく続く息もできないような吹雪の中、みぞれのように荒れ果てた土地に降り注いでいる。ヴァルヤと彼女の仲間たちは、塵を締め出すため湿り気のある襟巻を鼻と口の回りに巻いていた。そのおかげで彼女は、まるでイセヤと同じようにして赤き花嫁の神殿に近づき、イセヤと同じ目でそれを目撃するかのように感じていた。

 丘陵が時の流れに影響されていないのは間違いないようだ。彷徨いの丘は、セダスに現実にある土地というよりは、むしろフェイドの悪夢めいた幻想に近かった。殺伐として近寄りがたい様子で空にそびえ、それがどこまでも続くように思われた。麓では塵を巻きあげる風が終わることなく渦巻いているため、丘はたなびく深紅の霧の中に浮かんでいて、地面とはなんら繋がっていないのではないかと思わせる。

 この丘陵にはオースの民が住んでいると言い伝えられていたが、この険しい赤い岩場で生活を支えることができるなどとは到底考えられなかった。周囲何マイルにもわたり草など生えず、水源も見当たらなかった。平らな地面のそこここに、酷い裂傷の瘡蓋のように黒い岩が飛び出している。視界の中に美しさがあるとすれば、半マイルほど先の崖の側面に彫られたアンドラステの静謐な顔立ちだけだった。 

 花嫁の容貌は彼女たちから背けられていた。今いるところから目にできるのは、そのショールの優雅な曲線、髪の一房、それと落ち着いた様子の微笑みだけだった。アンドラステの首に飾られた水蓮の花びらがわずかに見えている。ヴァルヤはどこかで読んだ話を思い出した。アンダーフェルズの初期の芸術家たちは、あらゆる種類の花々が咲き誇ることができるほど水を豊かに湛えた湖のある土地、という発想に魅せられていた。彼らにとって決して目にすることのかなわぬ楽園であり、それが故にメイカーの花嫁の描写にそれを加えたのだという。

「洞窟は向こう側だ」 顔に巻いた襟巻越しにカロネルが言った。過去何日かにわたって彼の能天気さも底を尽き、今一同は赤き花嫁の洞窟を視界に収めるとことまで来ていて、ウォーデンの声の緊張も張り裂けそうなほど高まっていた。「中に入った途端に、生きる屍が襲ってくる」
「ならば準備怠りなくしなければ」とヴァルヤが言った。そんなことができるのならば

 吹き付ける砂粒を避けるため頭を下げ、彼女たちはそそり立ついくつもの丘を回り込み、それらの間を抜け、アンドラステの肖像が彫られた丘に辿りついた。今は亡き修行僧たちの洞窟のそれぞれの入り口は、険しく浸食された壁の上三分の一の側面に、モザイク模様の欠けたタイルのように口を開けている。丘の麓には小さな亀裂があって風よけの用をなしていた。アンダーフェルズの正真正銘必殺の砂嵐から身を守ることはできないが、乗馬を数時間残しておいても安心な場所であった。メイカーのおぼしめしがあれば、それ以上時間がかかることはないだろう。

 一同のうち最も登攀の得意なレイマスが先頭に登った。重い盾、長斧、プレートの鎧は身に着けず、ひとまとめにして後から続くカロネルに運搬を委ねて登攀を開始した。蜘蛛のように確実な足取りで、彼女は崖のギザギザの岩肌をよじ登り、その後ろに網状になったロープと、ピトン(ハーケン)を残していった。 
 彼女が洞窟の入り口までの半分ほど登った頃、カロネルが続いて登りはじめた。セイカが彼に続き、ヴァルヤは最後に登った。

 石のそこここに手がかり足がかりがあり、またロープのおかげで身体を持ち上げるのはだいぶ楽ではあったが、登る間、じっとりとした汗が彼女の背中から噴き出していた。漂う赤い塵のせいでたちまち地面は見えなくなり、万が一のときにどれだけ先まで落ちるかわからないのはありがたかったが、下を見ても何も目に入らないことは眩暈を払う助けにはならなかった。何度か、風がエルフの身体をロープに押し付け、登るのを中断しなければならなかったが、その間目を固く閉じ、再び登り始める前には、まず呼吸からはじめることを自分に言い聞かせなければならなかった。
 てっぺんに辿りつき、カロネルの手で洞窟の中に引き入れられた時には、両肩は焼けるように痛み、両脚は震えていた。
 息を切らしながら、ヴァルヤは岩壁に固く背中を押し付けて座り、動悸が収まるのを待った。どうにか呼吸を整えることができたとき、彼女はようやくなんとか両目を開いた。

 レイマスが洞窟の中を照らすため松明に火を灯すと、入り口の奥の闇にたちまち光が広がった。ヴァルヤの目には、二十フィートばかり先まで続いている、他の修行僧たちの洞窟の網の目状になった隧道のみが映った。その奥にあるのは漆黒だけだった。
 だが最初はそれにも気づくことができなかったのは、彼女の注意が入り口に散らばる鳥たちの死骸に釘づけになっていたからだ。
 百羽に近い分はあった。頸の肌が剥き出しのハゲタカから、虫を喰らうちっちゃなイワツツキまで大小さまざまで、暗闇が始まるところまで洞窟の床にずっと散らばっている。中にはあまりに古く、骨の回りに埃まみれの羽根が取り巻くミイラのようになった塊りしか残されていないものもあったが、肉の腐臭がするくらい真新しいものもあった。 

 洞窟に差し込む光の変化を追うようにして死骸の散らばり具合が変わっていることに気が付き、ヴァルヤの首の後ろがちくちくした。日の光が常に差すところには死んだ鳥はいない。だが日の傾きによって光が闇に道を譲るところには死骸が積み重なっており、そして闇が決して晴れないところで最もうず高い。
「やつらは闇の中で狩りをする」とセイカがつぶやき、鳥たちの死骸を観察しながら杖を掲げた。「やつらは闇の中で狩りをする、そして光を恐れる」
「おそらく」とヴァルヤは言った。彼女も背負っていた自分の杖を解き、フェイドから魔法の煌めきを呼び出した。杖の蒼白い瑪瑙から青い光がこぼれ、レイマスの松明の炎よりも遠くまで闇を追い払う。隧道の奥の埃の層の厚みは入り口よりもずっと浅いが、赤い塵の上に残るヒューマンの足跡が見て取れるには十分だった。
 違う、ヒューマンじゃない、とヴァルヤは思った。屍の足跡だ
 手にした松明を洞窟の壁の割れ目に差し込むと、レイマスは鎧を身に着け、左手に盾を括りつけ、風変りな長斧を手に構えた。「行ける?」
「今更」とカロネルが言って、ヴァルヤの光と松明の煙をあげる炎の脇を通り過ぎた。彼の顎はきつく噛みしめられている。「もう来てしまったんだ」

 彼女は目で見る前にやつらを感じた。闇の中から彼女を衰弱が襲い、身体から温もりを、四股から力を奪っている。シェイドども
 ヴァルヤの耳を囁き声が覆う。ディーモンの悪夢の饒舌。四方八方から近づいてきて、たとえそうわかっていても、彼女を閉所への恐怖で押し潰そうとする。あるいは彼女はわかっていると思っていただけかもしれない。日の光と新鮮な空気は、彼女の背中の後ろにしかない。
 その光は、またこの世界の別な側のものだったのかもしれない。今彼女を取り囲むのは、恐怖と、もろさと、そして死。彼女は背後でセイカが息を呑むのを耳にして、彼もまた同じように感じているのだと気が付いた。

「出て来い、くそども!」 カロネルが闇に向かって吼えた。彼の手にした剣に一体化したスピリットのエナジーが音をあげ、暗闇の中に向かって唸り、自分たちの誰の目にも見えない敵を打ち据えているかのようにパチパチ音を立てていた。「姿を見せて、かかってこい!」
 やつらはやってきた。 

***  

 オースの民、the Orth people、元々アンダーフェルズ(旧名オースランド、Orthland)に住んでいた民のことだが、アンダースたちは、彷徨いの丘地域に住んでいる者たちのことをそう呼ぶ。顔面を乱切(スカリフィケイション)する風習がある。

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