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2014年12月14日 (日)

Last Flight 22(3)

 潮風になびく金色の髪。

***

 魔法の呪縛から解き放たれ、グリフォンたちは待ち構えるドラゴンに突進していった。ダークスポーンの矢の雨もブヨくらいにしか感じていないようだ。乗り手たちはあっという間に倒されてしまい、見ているイセヤはたじろいだが、グリフォンたちはそれにすらほとんど気づいていないようだった。獣たちは弾幕の中を抜け、鞍には死骸を乗せたまま、アーチディーモンを罰当たりな止まり木から追い出した。

 黒い翼のドラゴンの傷は完全な偽装でもなかったが、まだ弱々しく飛ぶことができた。教会の塔から飛び立つと、ジョイニングを経たグリフォンたちの猛追を受けながら、リアルト湾の鉛のような灰色の海面すれすれを東の方角に、放棄され傾いた船舶群が固まっているあたりを目指して飛んでいく。その帆柱群は水面に浮かぶ葉のない森のようになっており、その森の中にアーチディーモンは逃げ場を求めた。

 それからやつは、沈みかけたガリオン船の上向きに傾いた舳先に舞い降りた。攻め手は陸からも海からもやつに近づくことはできず、空から接近する難しさも大差なかった。予期せぬ動きをする他の船舶の帆や帆柱の谷間を抜け、頻繁に向きを変えながら進むしかない。潮の香りのする海霧が、常にある衝突の危険をさらに増し、なんとか空の道を切り抜けることができたとしても、アーチディーモンの焔の届く範囲に飛び込んでいくしかないのだ。

 無茶なことだったが、彼女たちにはもはや他の機会はない。
「行くわ」 イセヤはカリエンに告げた。「盾の用意を」 彼女は他の乗り手たちに自分の赤い旗を掲げ、彼女が攻撃を主導することを示した。仲間が後ろに下がると、彼女はリーヴァスに前進を促した。
 
 イセヤは手綱を手放し、黒いグリフォンに進路を選ぶ自由を与え、自らは再びフェイドへの連絡を開いた。手の中に溢れ出た魔法を力場のエナジーに変えながら、リアルト湾までの間にいるダークスポーンの射手たちの上空を通過する。ハーロックとジェンロックが射程に入った瞬間に、イセヤはやつらの青白く、死んだ目をした顔に向けて魔法を解き放った。

 力場のエナジーは、アイスレイの廃墟の屋根に並ぶジェンロックどもをガーゴイル像もろとも吹き飛ばす。火炎の魔法はハーロックの放った矢を空中で焼き、弓の弦を溶かしてひん曲げた。後続のグリフォン・ライダーたちも続いて弾幕を浴びせ、ダークスポーンどもをファイヤーボールで、アイス・ブラストで、骨を砕く岩石で打ちすえた。呪文が廃屋の軒に連なる氷柱を溶かし、熱く白い蒸気が宙を覆った。

 蒸気は射手から姿を隠すために役立ったが、力場の盾のほうが有用だった。イセヤの意志に反応するかのように、カリエンはかすかに輝く青色のエナジーの球を呼び出し、彼女たちの周りを取り巻くように覆った。霧を通してそのメイジの造り出した障壁をとらえたダークスポーンの何本かの矢が粉々に砕け落ちたが、その時分には射手たちは降り注ぐ呪文の嵐のただ中に置かれており、次の矢をつがえ終わる頃には、グレイ・ウォーデンたちはすでに飛び去っていた。

 きしみながら音をたてる船の墓場が前方に見えてきた。リーヴァスはギリギリの瞬間まで待って急降下をはじめ、船の索具の間を抜け、ぐらつく帆柱群と凍り付いて重くたわんだ布地の帆の間を縫うようにして進んだ。ほどけて垂れた縄が彼女たちを打ち、カリエンの盾に当たった。船舶群の下で波が揺れるたびに、それらがたてる、みしみしぎしぎしという騒音の大合唱が鳴り響き、あと一陣の風が吹けば周囲の帆柱が全部倒れてくるのではないかとの恐怖が、イセヤの肌に刺すような痛みを走らせた。ダークスポーンどもの叫び声がそれに続き、木と鉄に打ち付ける冷たい波の音が周囲にこだましている。

 
 荒ぶるグリフォンたちの叫び声がそれに加わったのは、リーヴァスが、アーチディーモンの逃げ場との間を遮る、もつれた縄と帆が造り出した最後のアーチをくぐり抜けたときだった。
 舳先の水をかぶった先端にとぐろを巻くようにして、巨大な黒いドラゴンは,頭の周りを旋回する二頭のグリフォンに向け紫色の舌の焔を吐き出した。二頭の周囲に浮かぶ船の残骸は水蒸気と煙をあげる破片と化し、浮かぶ雑多な残骸が下の海面を覆い尽くした。それらの木屑の中に飛び出している翼の片方は、三頭目のグリフォンの水中の墓場を示している。四頭目の姿はどこにもなかった。

 だが、グリフォンたちはかなりの打撃を与えてもいた。アーチディーモンが身体を動かすたび、鱗には大きな穴がいくつもぽっかり口を開け、右の前脚はつかい物にならず、フジツボが取り巻く舳先の下部の木材にだらんと垂れ下がっている。翼は両方とも見る影もなく、棘だらけの背びれがある背中で途切れがちに羽ばたいており、その翼膜は自らの身体の棘によって短冊のように切り裂かれていた。イセヤが記憶している限り、古の神が殺せる存在に思えたのは、これがはじめてだった。

 
 だがまだ死んではいない。またしても発せられた紫黒い焔が、ついに汚染されたグリフォンの一頭をとらえ、その身体を氷が層をなす帆に打ち付け、煙と輝く氷片の降り注ぐ中、海中に沈めた。最後の一頭が金切り声を上げ、それが耳をつんざかんばかりに周囲に鳴り響き、それからアーチディーモンの頸の後ろに飛びかかった。

 他の者たちが、霧の中を抜けてきた。それは霧深い沈没船の森から抜けてきた亡霊たちが、生身の姿を取ったように見えた。クロッキーテイルに跨がるガラヘル、それからイデリスという名の若いドワーフ娘が、彼女がウレンと呼ぶ黒い耳をしたグリフォンに乗って現れ・・・、それだけだった。それが仲間の生き残りだった。あの誉れ高い行進に参加していた他のグレイ・ウォーデンたちはもうおらず、死んでアイスレイの灰燼のどこかに散っているか、リアルト湾の灰色の海中に没している。

 カリエンの力場の魔法がちくちくする泡のように瞬いている。「とっとと終わらせよう」と彼は言った。メイジの杖の上に青い光の焔が燃え、アーチディーモンを衝撃弾で打ちすえた。だが彼が続けて呪文を発しようとする前に、ガラヘルが大声で止めた。
「だめだ! ウォーデンが、アーチディーモンはウォーデンが倒さなくちゃならないんだ! 手を出すな、さもないと、すべてが無駄になる!」
「まだ死にそうには見えんが」 カリエンがつぶやいたが、杖を後ろに傾け、魔法が消えるに任せた。彼もまた、他の者たち同様に危険を承知していた。グレイ・ウォーデンではない誰かがとどめの一撃をくらわせば、アーチディーモンのエッセンスは単に最も近くにいるダークスポーンのところまで飛んでいき、無傷でまっさらの古の神が甦ってしまうのだ。そのような生き物に本当の死は存在せず、グレイ・ウォーデンの誰かの剣によってのみ、とどめを刺すことができる。そのグレイ・ウォーデンの命と引き換えに。
 その役割は、イデリス、ガラヘル、そしてイセヤのうち誰かが担う。他には誰もいない。

 そしてドワーフには無理であることが、イセヤには一目見てわかった。勇敢なのは間違いないし、仲間がこれだけ死んだ中で生き残る運もある。だが彼女は若い、あまりに若く、そしてまるで夏草のように青い。彼女はこの戦いを、手綱を引く乗り手としてではなく、後部の鞍に乗って始め、今は血だらけの前方の鞍、ヒューマン用にあしらわれたそれにぎこちなくしがみついている。イデリスは、この手の戦闘に欠かせない乗騎グリフォンとの以心伝心の関係も築いていない。

 
 たとえ築いていたとしても、死の行進を間近で目の当たりにしたドワーフは痺れるような恐慌に襲われており、弓の弦にかけた手の指はあまりにひどく震えていて、すべての矢が大きく的を逸れていた。たとえアーチディーモンを射抜くことができたとしても、それは単なる完全なまぐれ当たりによるものであり、そしてイセヤには、メイカーがそこまで自分たちを愛しているとは到底思えなかった。

 そうなると、ガラヘルか彼女になる。それに気づいた彼女は、ほろ苦い誇りを感じて胸を締め付けられた。イセヤが手綱を寄り集め、リーヴァスに最後の急降下を告げるため備えていると、だが、兄が片手を挙げて彼女を制した。
「狭すぎる」 ガラヘルが叫んだ。「お互い衝突してしまう。俺がひとりで行かなきゃならん」
「でも・・・」
「俺が行く」 彼はすでに前に出ていたが、まわりの索具で押し出された二頭は、互いの翼の羽根が触れ合うほどまで近寄っていた。白の上に黒、黒の上に白。

 ガラヘルは肩越しに振り返り、彼女に微笑みかけた。兜はアイスレイ上空のどこかで飛ばしたらしく、霧むせる風の中、彼の黄金の髪がなびいていた。
「アマディスに愛していると伝えてくれ。そして俺の武具はウォーデンたちの手に」と彼は言った。「それから、イセヤ、自愛するんだぞ」
 
 クロッキーテイルが白ぶちの翼をはばたくと、エルフとグリフォンは待ち受けるドラゴンに向かって飛んでいった。

 イセヤはリーヴァスを頑丈な帆柱の止まり木まで導いた。グリフォンの首の毛は逆立ち、戦いに臨みたがっていた。だが、これはリーヴァスの戦いではないし、別の船の索具に止まり木を見つけたイデリスとウレンのものでもない。彼女たちはアーチディーモンの攻撃が届く範囲から距離を置き、自身の射程からも外れている。彼女たちにできるのは、ただ見守ることだけだ。

 
 エルフは、見守り続けることができるように祈った。波に揺られて船舶の残骸がたてるリズミカルな鈍い騒音ですら、彼女自身の鼓動のためかき消されそうだ。
 アーチディーモンが、最後の汚染されたグリフォンをとうとうその首から引きはがし、ずたずたになった獣をガレオン船の上向きに傾いた船体に叩き付けたとき、ガラヘルが戦いを挑みかけた。血と裂けて垂れ下がった鱗まみれの皮がドラゴンの顎の周りに付着していて、獅子のたてがみのように見える。背中のずたずたになった肉の間から覗くむき出しの骨は白色ではなく、輝く玄武岩のような黒色だった。

 ガラヘルが接近すると、やつが頭を持ち上げた。汚れた古の神の瞳に、まるで風を送り込まれた炭火のように敵意が燃え上がる。長く黒い歯の列に囲まれた奥で、菫色の炎がしゅーと音をたてていた。
 
 クロッキーテイルは、先ほどの荒ぶるグリフォンたちのように、まるで避ける様子もなく、まっすぐに勢いをつけて急降下していく。そして、以前と同じようにアーチディーモンが輝く焔の奔流で呑み込もうとして、立ち向かってくる翼ある敵に吐き出した。
 
 最後の瞬間、物理的に避けるのは不可能だと思われたとき、クロッキーテイルは石つぶてのように空から落下した。一瞬前にはアーチディーモンの死の噴出の中にそのまま突進していたはずなのに、次の瞬間には姿を消した。

 
 それからアーチディーモンの右、傷ついてほとんど見えなくなっている瞳の側に、霧のような潮の飛沫をあげながら再び姿を現した。飛んではいない。飛べるだけの空間はない。クロッキーテイルは、ガリオン船の湾曲したフジツボだらけの船体に、その木材と白亜の殻を脚がかりに爪をたて、飛び跳ねながら登ってきた。飛ぶよりもそのほうが素早く、まだらのグリフォンがすぐそばまでやってくるまで、アーチディーモンは気が付かなかった。
 それも長くは続かなかった。無鉄砲なグリフォンの姿をとらえると、やつは顔を突き出し、クロッキーテイルはそれを逃れようともしなかった。ドラゴンの黒い歯がグリフォンの縞模様の白い毛皮に埋め込まれる。素早く、まるで鼠を咥えたテリアのようにアーチディーモンが首を持ち上げ、それから獲物を放り投げた。音もなく、クロッキーテイルはがらくたの浮かぶ海の中に消えていった。

 だがグリフォンの犠牲は、その狙いを果たした。ガラヘルは鞍の上に立ちあがったままアーチディーモンが襲い掛かるのを待っていて、そしてその頭が低く下がったとき、跳躍した。無数に生えたやつの棘を手がかりにしてしがみつくと、エルフはドラゴンの額をよじ登っていく。やつは頭を振って彼を振り払おうとするが、ガラヘルはへばり付いていた。彼は手がかりをひとつひとつ確かめながら、角の生えた頭の突起を通りすぎ、汚染されたグリフォンたちが切り裂いた、アーチディーモンの頸の後ろにある裂け目のところまで辿りついた。

 古の神のいかつい鱗で自らの身体を支え、ガラヘルは、彼の湾曲したナイフをやつの脊髄のむき出しになった骨の上に振りかぶり、それからアーチディーモンの頭蓋の底の部分に向けて振り下ろした。
 一瞬、電撃的な静けさが訪れた。イセヤは、兄の唇がかすかに動くのを見たが、彼が何かを口にしたとしても、彼女に聴き取ることはできなかった。彼女の目には、彼の頬に一か所血が染みており、そこに黄金の髪の一房が張り付いている様子が、はっきりと映った。頭上ではブライトの嵐が晴れ、あるいは単に消え失せ、純粋な曇りない陽の光が、まるでどこかのチャントリーの大聖堂で見かける黄金の光の筋のように、漂う船舶群を照らし出した。

 そしてアーチディーモンの死に伴う衝撃波が彼女たちを襲った。彼女たちの周りでシーダー材やカナリーウッド材が砕け散り、重い帆の布はぼろくずのように切り裂かれた。縄や索具からは氷の雨が騒々しいシャワーのように降り注ぐ。衝撃波は鞍の上のイセヤの顔をひきつらせ、両の肺からすべての空気を奪い去った。鞍に身体を縛りつけていなければ、間違いなく海中に投げ出されていただろう。

 まるで永久に続くと思われたその間、世界全体がリアルト湾の白い波頭のように荒々しくかき回された。・・・だがやがてそれもやむと、リーヴァスは、アーチディーモンの水上の墓場の上空高く、晴れ渡ったところに苦労して舞い上がり、そして太陽が再び顔を出した。イセヤは、兄の小さく輝く姿を見た。彼は打ち倒した古の神の巨大な屍からずっと遠くまで投げ出され、自らが取り戻した世界の岸辺に、眠りに就くため戻っていた。

 戦いは終わった。彼女たちは勝った。


***
Rialto Bay リアルト湾
Edelys イデリス
Wren ウレン 

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