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2014年12月19日 (金)

Last Flight 23(2)

 ワイズホプト。

***
 一月後、休息できる見込みは、それを待ち焦がれる気持ちがこれまでになく強まる一方、これまでになく遠ざかっているようにも思われた。
 イセヤが望んでいたのは、抗うことをやめ、わずかに残った自分の面影さえ手放すことだけだったが、今はワイズホプトに向かうため、リーヴァスの鞍に跨がっている。
 ブライトが終息したというのに、グリフォンたちがおかしな振る舞いをはじめ、ウォーデンたちの誰にもその理由がわからなかった。異変はへイン要塞に駐留していた獣たちからはじまったとされ、イセヤはファースト・ウォーデンからアンダーフェルズへの帰投を命じられた。彼女がコーリングに旅立つ前に、グリフォンたちの異変に関してウォーデンたちに意見を述べるためだ。

 大した洞察を与えることはできないはずだ。原因が何であれ、異変はすでにへイン要塞の外まで拡散しているし、リーヴァスを除くグリフォンたちのほとんどは、汚染があまりに進行してしまっている彼女のことを、グレイ・ウォーデンではなくダークスポーンとみなすに違いない。
 だが彼女にはどうであっても同じことで、命令は命令であり、実のところ、最後にもう一度偉大な栄光の獣たちと出会う機会を歓迎する気持ちであった。
 
 だが、彼女がワイズホプトで目にしたのは、かつてグリフォンだった獣たちの恐ろしいまがい物であった。
 厩舎はほとんど空っぽに近く、その理由の一部は、もちろん無慈悲な戦争の時代に被った損失によるものであり、一部はグレイ・ウォーデンたちが未だにセダス全域に広く散らばり、生まれたての脆い平和の時代に、諸国間の協調関係を構築するため奔走しているためだ。
 それでも、ワイズホプトの厩舎の空き具合は彼女を震撼させ、厩舎長の報せはさらに驚くべきものだった。
 グリフォンたちは互いに殺し合っている。そう告げたダンセインという名の厩舎長の男は、背が低くがっしりしており、茶色い顔の頬には痘症の痕が、笑う唇にはナイフの傷跡があったが、ともかく気さくな人物であった。若く間抜けな修行時代に、傷付いた獣に素手で餌を与えようとして、嘴で左手の三本の指と親指の一部をもぎ取られていたが、獣たちに対する愛情がしぼむことはなく、その人生をワイズホプトのグリフォンを世話するために費やしてきた。男の顔に浮かぶ苦渋の表情は、これまでにないくらい深刻なものだった。

 イセヤは男の言葉の意味を問い質した。彼女は頭巾を目深にかぶり、顔の下半分は青黒い襟巻きで覆っている。まるで病で損なわれた顔を隠す癩病患者の恰好だが、実際の姿はなお悪く、古い友人に見せたくはなかった。命果てる間近であっても虚栄心は重要だった。

 男は、自分の目で見るほうが良いと告げ、彼女を伴って外に出た。風が吹きさらす階段を登る間、ふたりの陰は冬の霜で銀色に見えた。さくさくした雪の粒を踏みながら、彼女たちは獣たちの餌となる山羊や羊を投げ入れるグリフォンの餌場、石肌がむき出しになった大きな器がある場所を見下ろす高い壁のところにたどり着いた。

 餌も出されていないのに、灰色の石には湯気をあげる鮮血が深紅の弧を描いていた。白い陽光の眩しさの中、目を凝らすと、一頭のグリフォンがもう一頭を追いかけて輪を描くようにぐるぐると飛び回っており、最初は遊んでいるように見えたが、血の雨が降ってくるに及んで、それがとんでもない間違いだとわかった。

 争っている理由はダンセインにもわからない。彼は途方に暮れた様子で答えた。牝を取り合う牡同志が争うことはあるし、子供を守ろうとして母親が襲ってくることもあるが、ここには牝も幼獣もいない。餌は十分に与えているので取り合いになることはないし、餌場が共有すべき場所であることはどのグリフォンもわかっていた。まるで説明がつかない。だがすべてのグリフォンが争いはじめ、それは日々ひどくなっていく。ここ二週間ばかりは人々にも襲いかかりはじめた。深い傷を負い、または手が付けられないほど凶暴になり、始末することを余儀なくされた獣は一ダース近くになる。

 懸念がイセヤの背骨を冷たい指のようになぞった。彼女は、一頭を間近で観察したいと申し出た。最初はどの獣でも構わないと思ったが、すぐに心変わりし、へイン要塞に駐留したことのない獣を選ぶよう厩舎長に頼んだ。
 厩舎長が案内したのは、傷病に見舞われたグリフォンのための恢復用の洞窟であった。生まれたての雛もここで育てられるが、今はいない。

 小さな扉の奥にいるグリフォンはタスクと呼ばれ、ここでは一番年老いていた。覗き窓からの姿は他と変わらない。前脚や尾、嘴の周りの羽毛は老齢のため真っ白で、翼はまばらで、尾は擦り切れている。耳は遠いようで、イセヤが扉を開けても反応せず、もう聴こえないのかもしれない。獣は脇腹にそっと触れられてはじめて、驚いた様子でしわがれ声をたてた。瞳はひどく白濁し、空を無事に、あるいはそもそも、もう飛ぶことはできないだろう。
 牡は老いているだけではなく病に罹っていた。乾いた血が鼻孔と嘴のまわりに跡をひいている。鼓動は危険なほど早く、だが呼吸は遅く震えており、吐く息は弱々しい。

 最も落胆させられたことは、四股全部の内側の毛皮と羽毛をグリフォンが自分で削ぎ落としていることであり、噛みすぎて傷が化膿している部分もあった。膨らんだむき出しの肌の表面に醜い濡れた輝きがあり、イセヤが近づいてみると、肌の下にはインクのような紫色の筋が走っている。それは彼女自身の肌同様、まるでダークスポーンの肌のようだった。だが、それはあり得ない。

 イセヤの呼びかけがタスクに聞こえていたとしても、反応はなかった。厩舎長に見えないように、イセヤは自分の指を刺して血を一滴たらし、タスクの前脚からも血を一滴たらした。この老いた獣が、餌場で争っていた二頭と同じ憤怒を共有してるとは到底思えなかったが、呪文ですぐに明らかにすることができる。

 フェイドを掴み、血と魔法の流れを辿ってタスクの精神に入り込んだイセヤを、むき出しの赤い敵意が出迎えた。高齢のグリフォンの心は血の色の憤怒の海で、老い過ぎて行動に移すことこそできなかったが、ウォーデンたち、グリフォンたち、そして自分自身も含め、何もかも殺し尽くしたいという激しい欲求を抱いている。筋肉には異様な煩(わずら)いが走り、自分が破壊し尽くしたいと願っているウォーデンたちや他のグリフォンたちからも同じものを感じていた。憎悪が獣を呑み込もうとしている。

 イセヤはその衝撃から我に返った。これまで一度もタスクの心に触れたことはなく、ジョイニングを施したこともないのは間違いない。にもかかわらずタスクの憎悪は、シュライクや他の変異させた獣たちよりずっと熾烈だった。そして認めたくはないが、その憎悪と見舞われている汚染は、彼女が他の獣たちに広めた魔法と結びついていた。

 両者は同一のものではないが、完全に異なるものでもない。獣の精神を曇らせる憤怒の赤い幕の下、彼女の仕業の名残りと輪郭が辛うじてだが識別でき、それらも何か異なる新しいものに変容していた。だが彼女は、その根源となった原因を疑うことはできなかった。

 どうしてこんなことに? 確かに、彼女は変異を受容させるためグリフォンの心を捻じ曲げ、ジョイニングはただの病気だと思いこませたが、実際には病気ではなかった。
 だが、本当にそうだったのか?
 ブラッド・マジックについて、ほとんど何もわかっていないではないか。彼女がジョイニングに飛びつく前、カリエンはそのごく基礎的な側面さえ教えようとはしなかった。だが、彼ですらより詳しく知っていると誰が言えようか。ただ見かけを真似るつもりで、誤って本当の疾病を造り出してはいなかったと誰が言えようか。

 ブラッド・マジックは厳しく禁じられた魔法であり、数少ない遣い手たちは雲をつかむような中で実践を強いられる。彼女はより大きな善のためにその縛りを踏み越えたと考えていた。だがそれこそ、よく子供向けの話で間抜けな者たちが思い込むことと何が違うのか? 彼女のしくじりが予期せぬ惨たらしい結末を招くことは、何かおぞましい方法によって、完璧に予見可能だったのだ。

 だが彼女は確かめなければならなかった。タスクから遠ざかり、手から綺麗に血をぬぐい、ダンセインにタスクのこれまでの戦歴を尋ねた。
 タスクはスタークヘイヴンでも、アイスレイでも、どの戦闘にも参加したことはない。ブライトが始まる前から目が弱りはじめ、空を飛ぶことができなくなった。アーチ・ディーモン・アンドラルが目覚めてから一度もワイズホプトを離れていない。他のグリフォンと接触した最後は、ここに移される直前までで、目が弱って他の獣から邪険にされるのを恐れ、また他の獣たちの咳き込みが気になったダンセインが隔離したのだった。

 イセヤはその時期を問いただした。彼の記憶によれば二年か三年前。イセヤの頭の中は、ぼんやりしてぐるぐる回った。他の獣たちから感染して、潜伏する何年もの間気づかれなかった。これが病であれば、あるいはそれに似たものであれば、伝播するには長い年月を必要とする。
 エルフは厩舎長に礼を告げた。だが彼が期待していた解決策を示すことはできず、彼女はさらに調査が必要だとだけ告げた。
 ではどうすればいいのか、と彼が尋ねた。白い鼻先のグリフォンを見つめ、途方に暮れながら彼女は答えた。なすべきことをなすしかない。
 慈悲深き扱いを。

***
Dunsaine ダンセイン
Tusk タスク

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