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2014年11月18日 (火)

Last Flight 20(2)

 カロネル。

*** 

 イセヤから、赤き花嫁の墓がどこにあるかと尋ねられたカロネルは、片方の眉を吊り上げ、汗まみれのチュニックを脱ぐ手を止めた。爽やかな朝、身の引きしまるような冬のはじまり、彼の身体から立ち上る湯気が、稽古場の開いた窓から吹き込む山風に揺れた。彼は詰め物をした人形相手に、腕力を鍛えるため籐を束にして重みを増した稽古用の剣を一時間以上振るっていた。

 それを尋ねるためやってきたのか。問われたイセヤは、自分は見つける必要がある、と落ち着かなげに答えた。年長のエルフが傍にある長椅子の上から手ぬぐいを取り、縁に氷のついた洗面器にその端を浸し、肩の汗をぬぐう間、彼女は後ずさりして待った。そこに一度行ったことがあると聞いた、と彼女は続けた。 
 カロネルは鼻を鳴らした。汗で濃い色になった髪に水を被り、ごしごしこすって、最後に髪を振り乱して水滴をばらまいた。手ぬぐいで髪から水を拭うと、別の綺麗なチュニックを身に着けた。

 過ちを犯すのは、誰であれ一度でいい。話を聞いたのなら、悲惨な結末を知っているはずだ。どうして繰り返そうとする。
 そこには何か重要なものがあるからだ、とヴァルヤが答えた。冷たい風が窓から吹き込んでくる。相手のエルフとは異なり、ヴァルヤはここに歩いてくる以外身体を動かしてはおらず、それも数分前のことだった。彼女は外套の前をきつく閉めたが、ウォーデンたちが身に着ける羊革と狐の毛皮でできた重たい外套ではなく、兎の毛皮を張っただけのもので、他に持ち合わせもなかった。

 文字どおり屍どもがうごめく場所に、敢えて赴くに足るだけの重要な理由などない、とガラヘルが指摘した。

 流離いの丘の奥深くにある赤き花嫁の墓は、かつては赤き花嫁の神殿と呼ばれていた。干上がった峡谷の険しい斜面に口を開いた一連の小さな洞窟からなっており、古代に彫られ、今は風化したアンドラステとおぼしき顔がそれぞれの入り口の間に彫られている。「アンダーフェルズの聖母」はそれに感化されたものだと言い伝えられており、より大きな彫像さえもマーダインの白い岩石に彫り込まれた。だが「アンダーフェルズの聖母」がセダス中の巡礼を磁石のように惹き寄せる一方で、赤き花嫁は今や呪われた場所とされており、ワイズホプトのグレイ・ウォーデンたちは、それがただの噂でないことを承知している。

 かつて、赤き花嫁を取り巻く洞窟には、世を捨て、アンダーフェルズの厳しい自然の中で、メイカーの御業を瞑想する修行僧の一派が棲みついていた。行き来は縄梯子で行い、聖地への長い旅の末辿りついた巡礼たちからお布施を受け取っていた。
 ブレスト・エイジの末期、神殿はダークスポーンに襲われ、長い籠城の末に、修行僧たちは個々の洞窟の中で死んだ。ヴァルヤがいくら歴史書を調べても真の死因はわからず、知る者がいるかどうかも不明だった。
 修行僧の何人かがメイジだったのかもしれない。迷信に囚われた無学な者にとって、孤立した信仰を目指すことは珍しくなく、メイカーのご加護を祈り、魔法こそその最初の顕示であると信じる。そして、真っ当な訓練を受けたことのないメイジが誤ってディーモンを呼び出した。あるいはダークスポーンを追い払うため、絶望にかられて敢えてそうした。歴史はそれについて何も物語らない。

 確かなことは、修行僧が一人残らず死に絶えたということであり、死の直前の渇きと飢えに苛まれて、恐るべき所業に頼らざるを得なかったということだ。修行僧たちに召喚されたのかどうかはともかく、彼らの死にディーモンが惹き寄せられ、かつての聖地で彼らの屍が安らかな眠りに就くことはなかった。
 ヴァルヤの知る物語はそれだった。そしてカロネルが、不意の嵐を避けるためその崖の麓に訪れたウォーデンの小部隊のひとりだったこと。七人が出ていって、三人しか戻らなかった。それにより、赤き花嫁の神殿の変わり果てた姿が知られることになった。

「だけど」とヴァルヤが言った。「私たちが慎重を期せば、そこで待つものに備えれば、赤き花嫁の墓に足を踏み入れられないわけではないと思う」
「君はあの時いなかった」とカロネルが言った。口をつぐみ、眉をひそめ、首を横に傾けた。「『私たち』だって?」
「一人で行くつもりはないわ。あなたも一緒に来てほしい」
 グレイ・ウォーデンは瞳を閉じた。壁にもたれ、息を吸い、緊張したように音もなく顎を動かし、それから告げた。「ヴァルヤ。どうして私が、あの呪われた場所にそもそも戻らなければならないんだ? あそこにはディーモンと屍しかない、私の友のものも含めて」
「話して」

 カロネルは壁から身を離すと、長椅子から稽古用の剣を取り上げた。必要以上に力を込め、大きな音を立てながら、束にした籐をひとつづつ壁の棚に戻していった。彼は、怒りと罪の意識で肩をこわばらせながらも、彼女に答えた。「ダークスポーンを狩るはずだった。あのあたりに不穏な動きがあるとの噂があり、オーガの姿さえ見かけられた。ファースト・ウォーデンは部隊を派遣するに足るだけの理由があると考えたが、その夜政治的に面倒な賓客をもてなすことになっていたので、我々を単にワイズホプトから外に出したかっただけかもしれない。
 いずれにしろ、我々は出発した。流離いの丘で砂嵐に見舞われた。修行僧の洞窟でやり過ごそうと考えた。知っての通り、それが間違いだった」
「一体何に出くわしたの?」
「さまよう屍以外にあるかい? 牙の生えた骸骨、指が刃物のような干からびた屍、ぼろぼろの修道院のローブに包まれた音を立てる骨の寄せ集め。シェイドもいた、私の多くの仲間が斃れたのもあの亡霊どものせいだ。魔法で眠らされて、ようやく目を覚まして武器を手にしたときには、ディーモンとその手先どもに取り囲まれていた。我々は逃げ出し、それでも半数以上がやられた」

「もしも目覚めたままでいれば、なんとかなったのでしょう」
「もしも、もしも」 カロネルの黄金の斑点のある瞳は鋭かった。彼はチュニックの上からベージュ色の羊革の外套を着こみ、喉元を固く引き絞り、稽古場に新鮮な空気と冷たい冬の日差しを入れるため開けていた窓を閉じた。「どうして、そんなにもあの場所に行きたがる? あそこには何もないんだ、ヴァルヤ。骨と古代の惨劇と、そのどちらも手に入れたディーモンだけだ。今や四人分増えている。君の理由がなんであれ、足を踏み入れる価値はない」
「価値はあるはず」と若いエルフが言った。「赤き花嫁の墓には、セダスの歴史の行く末を揺るがす何かがあるの」
「ああ、そうかい、だったら私は何もかも投げうって、今日これからふたりで向かわねばならん。それが何かを敢えて話す気はないんだな?」

 ヴァルヤは気まずそうに首を振った。ワイズホプトのグレイ・ウォーデンの中で、カロネルだけが友人と呼べる相手だった。他のウォーデンは新入りから距離を置いている、すぐに死んでしまうかもしれない、またはジョイニングの儀式を通過できないかもしれない相手と仲良くするつもりがないのか、自分たちのことで精一杯なのかはともかく。決して不親切というわけではなかったが・・・、ウォーデンの身内の絆はよそ者を完全に排除しており、イセヤの日記を読んだおかげで、ヴァルヤもその絆をいくばくかは理解するようになったものの、まだ腑に落ちてはいなかった。 

 ふたりは友人ではあるが、彼のより大きな忠誠はきっと騎士団に向けられるのだろう。ヴァルヤも、彼の立場だったらそうかもしれない。そして彼女は、グレイ・ウォーデンが彼女を置き去りにして、自分たちだけでイセヤの秘密を暴いてしまうような危険を冒すことはしたくなかった。
「ここから出発したら、話すわ」とヴァルヤは約束した。彼女の声は小さかったが、揺らいではいなかった。「ワイズホプトにいる間にそうできない理由は話せない。でも、ここから出たら、間違いなく話すと誓う。何もかも。そしてあなたが、それでは赤き花嫁の墓に赴く理由に足りないと考えるなら、そこから引き返してもいい。文句は言わない。そう誓う」

「では、グレイ・ウォーデンには隠す秘密だが、私には隠さないと」とカロネルが言った。彼は急いで最後の窓を閉め、ようやく彼女のほうに向きなおった。彼の口調は和らいでいて、底の方には苦痛の記憶がまだ残っているとしても、彼女には、彼がほとんど以前通りに戻ったと思うことができた。ほとんどは。
「そうじゃないわ」とヴァルヤが言った。「皆に話す前に、私の考えが正しいことを知っておきたいだけなの」
「そんなことが、あるのかね?」
「私を赤き花嫁の墓に連れて行って」と彼女は言った。「そこでわかるわ」

***

 超真面目で大事な場面ですが。最初の方、部活上がりのセンパイの着換えを見ている女子高生にしか思えない・・・。
 Asunderのエヴァンジェリンの着換えシーンと対になってるのかな。「洗面器の水に氷が張っている」、「洗面器の縁に氷がついている」というところ似ています。意図的な洒落と見たのですが、それともあちらでは普通の光景なのかな。
 今でも、毎朝お湯を張った洗面器をメイドが届けるホテルって、あるのかしら。かつてロンドンにはありましたけど。

 The Red Bride's Grave: 赤き花嫁の墓
 The Shrine of the Red Bride;赤き花嫁の神殿
 The Wandering Hills: 流離いの丘
  Our Lady of Anderfels:「アンダーフェルズの聖母」、アンドラステのこと。その像。
 Merdaine:マーダイン、アンダーフェルズの聖母を彫り込んだ白い巨岩。セダス七不思議。

 Blessed Age: ブレスト・エイジ(8:00–8:99)。ドラゴン・エイジのいっこ前。

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