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2014年11月17日 (月)

Last Flight 19(2)

 リズメ。

***

 彼女たちは月明かりのもと、霧の中出発した。夜明けは東の空のサファイヤ色が仄めかすのみで、陽光が注ぐのは二時間ほど先であった。
 カークウォールでの離着陸を真昼に行う狙いから逆算して、闇の中での旅立ちとなった。消え去ることのないブライトの嵐の雲によって、ダークスポーンは恐れる陽光から昼の間幾分守られてはいたが、夜に比べれば弱く、臆病であり、イセヤはあらゆる優位を利用するつもりだった。

 優位は他にはほとんどなかった。グリフォンたちはブラッド・マジックの力で強力になり、憤怒していたが、それを勘定に入れても足りなかった。グレイ・ウォーデンたちは包囲された都市に突入し、またそこから離脱しなければならず、その際には、扱いにくい大勢の市民たちを満載した隊列という重荷を背負っている。市民に被害が及ぶことを避けるのみならず、周回に用いるつもりのアラヴェル自体も、大きな損傷を避けなければならないのだ。

 イセヤはアラヴェルを三両ずつの四列に編成し、それぞれに牽引役のグリフォン一頭と護衛役の二頭をあてがった。リーヴァスとともにハンターに牽引役を担わせることにしたのは、イセヤにとって賭けだった。ジョイニングの魔法を施した灰色のグリフォンの緊張と憤怒がもたらす混乱を、リズメとの間の絆が食いとどめることを期待していた。

 残りの二頭は自分が制御するつもりだった。どの乗り手とも絆を築いておらず、手綱を嫌い、血の憤怒のただ中にあるグリフォンたちは、野放しにすれば完全に手がつけられなくなるだろう。引き具の中で鼻息を荒くし、苛立ち、近づく者誰であっても噛みつこうとする。途切れることない咳のたびに鼻孔から深紅の霧を巻き散らしているのは、身体の内部から蝕み続ける汚染の最初の兆候だ。

 道理で手なずけることは無理なので、彼女は憑依することにした。最後に残った自由意志さえ奪うことに心は傷んだが、他に手段はない。二頭の心の中の赤い色あいを帯びた困惑は無視して、彼女はすべてを包み込んだ。そこから滲み出してくる無言の怒りのため、彼女の心は毒ツタの茂みの中に飛び込んだかのように刺されて傷んだが、彼女はこれから待ち受ける任務にできるだけ精神を集中した。皆が私たちを必要としている。

 後ろに座るカリエンが、リーヴァスの引く隊列を浮遊させるための力場の魔法を担っている。リーヴァスと他の二頭のグリフォンを制御するだけでイセヤは精一杯であり、もうひとり必要となるメイジには信頼しているカリエンを選んだ。カークウォールの外で災難に見舞われたとしても、ブラッド・メイジなら変異したグリフォンたちを制御して、へイン要塞までの帰路につかせることができる。

 準備は良いかと尋ねるイセヤの声の素っ気なさに、カリエンは片方の眉を上げたが、彼には彼女のしようとしていることがわかっており、鼓動一回分後には単に頷き、復唱した。
「リーヴァス、飛んで!」 そう叫ぶ瞬間、イセヤは憑依した他の二頭も宙に舞わせた。リズメのハンターも後に続き、揺らめく隊列はへイン要塞を後にした。

 山下りは縦にも横にも揺れのひどいものだった。進路はできるだけ直線を選んだつもりだったが、コーン状の力場の広い底が松林にあたって弾け、山肌の裂け目で急激に落ち込み、また必死に蛇行を繰り返さなければならない場面もあった。緩やかな麓にたどり着いた頃には、歯を食いしばっていたイセヤの頭蓋全体がきしんでいた。頭の周りには、ディーモンどものせがんだりねだったりする囁き声が飛び交っている。自分たちもまぜてくれ、グリフォンの重みを代わりに引き受けてやる。憑依などしなくてよい、自分たちに任せれば重荷から解き放ってやる。

 イセヤは、いつものようにそれらを頭から閉め出したが、フェイドに触れている間に声が完全に消え去ることはなく、さらにこれから長い一日が待っている。
 
 麓の丘陵のあたりでは、気分はだいぶましになった。東の空の雲間から夜明けが始まるのがわかり、赤みがかった黄金の色合いが、背景になるブライトの嵐と対照的に輝いていた。行く手には銀のもやが谷間に漂い、その向こうの白い山頂を取り巻いている。眼下には青く茂った森の緑が広がり、フリー・マーチスの他の部分では喪われた牧歌的な美を目にすることができた。汚染を帯びたグリフォンの憤怒が頭から離れなくとも、イセヤの心は早朝の平穏で楽になった。

 それも長くは続かなかった。
 丘陵を越えると、土地は急速に荒廃していった。数マイル行くうちに、木々は立ち枯れたものとなり、その下草はブライトに冒された熊、ベレスカーンの肌の疥癬のようなまだらの塊に変わっていた。空を覆う陰気な灰色の雲が太陽の輝きを遮っている。出くわした生き物はできものだらけのシカの一群のみで、牝ウシの屍の肉を貪り食っていた顔を上空を飛び去るウォーデンたちのほうにあげ、歯の抜けた血まみれの口から唸り声をたてた。

 変貌したシカの群れの姿は、汚染を帯びたグリフォンたちの憤怒を呼び覚ましてしまい、なんとか引き戻そうとするイセヤは、血の味がするまで舌を強く噛まなければならなかった。口の中に本来とは違う、どろどろした、冷たい、粘り気のある毒気を帯びたゼリーのような汚染のいやな感じがする。風の中に吐き出してみると、それはただの血だったが、その味と感触と邪悪さは、シカの姿が見えなくなり、グリフォンたちの憤怒がもやもやした余韻に変わる頃まで尾を引いた。ディーモンどもが思考の中にけたたましく割り込み、やつらが怯えているのか喜んでいるのかはわからなかったが、それもどうでもよかった。

 イセヤは、ダークスポーンの汚染が自分の中で力を増していることを諦めとともに確かに感じていた。グレイ・ウォーデンの間では、血の穢れはブライトの期間のほうが早く進行すると噂されている。汚染の影響はそれぞれ異なり、自分のことを口にする者はごく僅かなため、その確かなところは誰にもわからないが、イセヤは噂が正しいことを骨身に染みて感じ、グリフォンたちに用いたブラッド・マジックの呪文が進行を一層早めていることもわかっていた。
 彼女はその考えを心から締め出そうとして、幾分かはうまくいった。カークウォールの姿が急速に近づいている今、気を散らしている暇はない。

 カークウォールの壮大な岩の要塞の頂上には背の低い黒い火鉢が並び、まるで鉄の冠のてっぺんに施された尖晶石のように炎が輝いている。手にした杖から遠目にもそうわかるメイジたちの小さな姿が壁の周りを動き回り、時折黒い火鉢から下方のダークスポーンに向けて魔術で増強された炎が降り注いでいるのが見えた。
 その轟音をあげる滝のような炎の流れがダークスポーンを後退させ、愚かにもとどまったり逃げ損なったやつらを黒焦げにしている。それでも都市の包囲を解くのが無理であることはすぐ見て取れた。炎は群れを壁から数百ヤード後退させるのが精一杯で、都市の外には数千ものジェンロックとハーロックがひしめいているに違いない。都市の周囲に難民の住む小屋はひとつもなく、あるいは跡形もなく潰されていた。

 それであっても火鉢の光景はイセヤを力づけた。ガラヘルから告げられていた、都市に出入りする際の援護とはこのことだった。
 同じ眺めを見ていたカリエンが切り出した。自分たちが空から近づくのを見たダークスポーンが寄ってくれば。火鉢の炎で瞬時に灰と化す、とイセヤが引き取る。ただしイセヤたちは素早く真っ直ぐに進入しなければならない。ガラヘルによれば炎の柱は多少制御が利くそうだが、イセヤの見たところ、左右に身をかわしながら進入する自分たちの隊列を正確に逸れてくれるほどの精度は期待できない。

 ならば身をかわしながら飛ばなければいい、操縦するのはイセヤなのだから、とカリエンが指摘した。それも朝飯前だろうというつもりか、とイセヤは鼻を鳴らし、彼に道を切り開く準備をするよう告げた。彼女は鞍の上に立ち上がると、隊列に前進の指示を告げるため手を振った。

「ウォーデン! カークウォールへ進め! 護衛は道を切り開け! リズメ、素早く真っ直ぐ、素早く真っ直ぐに突入する準備を!」

 護衛の乗り手たちは右の拳を掲げて了解を示し、急降下していった。ダークスポーンどもが気づいて弓や弩を構えて振り返った頃には、上空から炎や氷の魔法が襲いかかり、群れの間に、短い間だけ持ちこたえることができそうな間隙が生まれた。撃ち漏らした敵には射手たちの必殺必中の矢が浴びせかけられる。
 ディーモンどもの唸り声を可能な限り閉め出して、イセヤは憑依した二頭を操るための力を強め、仲間が切り開いた道に向け相次いで降下させていった。道は、黒く渦巻く海の上にできた艪の一かきの筋のようにはなかく、そしてあまりに狭く、グリフォンたちの大きな灰色の主翼の先が、焼け焦げたり凍り付いたりしたジェンロックどもに触れるほどであった。だが二頭の獣は嘴と尾をつけるようにして、牽引する隊列が炎で取り巻かれたカークウォールの壁の中に辿りつくまで、真っ直ぐぶれずに飛び続けた。

 ハンターは別だった。
 リズメは、他の汚染を帯びたグリフォンの乗り手と同じように、ダークスポーンが視野に入った途端に乗騎の扱いに手こずりはじめたが、彼女の進路は他のものよりもずっと群れに近づいていった。前方にいるメイジたちと射手たちは敵の攻撃を避けるためできるだけ高度を保ち、隊列に道を切り開く短時間だけ地上に接近してくる。その群れとの距離だけが、他のウォーデンのグリフォンが表面上正気を保っていられる、その脆い理由であることをイセヤは見て取った。

 ハンターは隊列に繋がれ、浮遊の魔法が届くだけしか高度を取れないため、ダークスポーンのずっと近くを飛ばなければならなかった。やつらの群れは、イセヤの仲間が築いた脆い死の線引きのぎりぎりまで殺到し、剣を掲げてグレイ・ウォーデンを挑発する叫び声をあげており、ハンターはそれを無視してやり過ごすことができなかった。

 怒りの啼き声をあげながら、グリフォンはダークスポーンの群れの中に飛び込んでいき、その間リズメは鞍の上に立って無為に手綱を引き絞っていた。メイジの集中が途絶えて乗り物の隊列は支えを失い、轟音をたてながらダークスポーンのただ中に激突する。二十匹ものダークスポーンが木材の瓦礫の中に姿を消したが、ハンターもまた引き具に引きずられて墜落し、ダークスポーンが周囲に殺到する混乱の中、イセヤの視界から消えうせた。

「君にできることは何もない」 カリエンが後ろから鋭く言った。「街に向かうんだ」

***

 続く。

 

 

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