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2014年11月16日 (日)

Last Flight 19(1)

 イセヤ。

***

第19章

5:20 エグザルテド

 ガラヘルが去ると、イセヤはすぐに厩舎に向かった。瞳は涙でくぐもり、馴染みのあった世界は歪んだ、溶けたガラス越しに見えた。レリウムの粉末とアーチディーモンの血が、まるで百パウンドもの鉄の鎖のように重く感じる。塔を登る間、グリフォンたちの喉を鳴らす声や短い啼き声が聴こえ、イセヤにはその音に喜ぶべきか、避けられない損失を嘆き悲しむべきかわからなかった。

 グリフォンたちがジョイニングの儀式を経れば、そうした生きる証を示す音は消え去るだろう。満足げな息遣いも、夜にたてる囁き声も、さえずりもなくなり、怒りと嫌悪の唸り声と、血の中の汚物を吐き出そうと無駄に咳き込む音しか聴こえなくなる。口笛のような音も、喉を鳴らす声をたてることもない。

 ブライトは、自分たちから何もかも奪い去っていく。

 だが逆らうことなどできないだろう。これこそが自分たちの生きる目的なのだ。戦場に出るたび、グリフォンとライダーたちは望んで死と向き合う。全身全霊をかけ、我が身を一切顧みずダークスポーンと戦い、他の者たちがブライトの恐怖から生き残ることを願う。グレイ・ウォーデンたち自らが、彼女がグリフォンに求めようとしている犠牲をすでになしている。それと何の違いがあるのだろう?

 違いはある。

 知能があるといっても、グリフォンは獣だ。話せず、言葉もわからず、彼女がなそうとしていることの帰結を理解することもないだろう。グリフォンも喜んで同意する、などという言い方は真実でもなんでもなく、気休めの幻想に過ぎないし、イセヤは自分に嘘をつくことはしたくなかった。

 だがそれも関係ない。彼女はグリフォンたちに儀式を強いる。それがフリー・マーチズを救うことになるのなら、グレイ・ウォーデンがブライトを終息させる助けになるなら、ヘイン要塞の十頭のグリフォンはごく小さな代償に過ぎない。

 デ・ラ・ヘイン卿がついに完成することのできなかった塔には天井がなく、ウォーデンが厩舎代わりに用いるのにうってつけだった。塔は静かで風遠しが良いが、傷口に塗る軟膏や湿布薬の匂いに交じって強い麝香の香りが蔓延している。それに血と、餌の古い肉の匂いが混じり、さらに刺激的な小便の匂いがしているのは、オスが序列を示すため、猫がやるように一番高い壁にまき散らしているからだ。世話をしなければ、グリフォンはやりたい放題の生き物なのだ。 

 儀式の後もそのままであるのかどうかは、わからなかった。儀式に用いる魔法には苦も無く手が届いた。彼女はそれが今回はしくじればいい、魔法の才能がなくなり、このおぞましい選択を記憶から消し去れないものか、とさえ思っていた。だが手を伸ばせばフェイドはそこに待っていた。彼女は血とレリウムとダークスポーンの穢れを蜘蛛の巣のように紡ぎ合わせ、グリフォンたちの目は見ないようにして、それを一頭づつ心の中に垂らしていった。

 そうしたところで手遅れになるまでの間、抗うグリフォンはいなかった。彼女は馴染みがあって信用されており、すべてのグリフォンがシュライク同様に衝撃と不快感を受けていたが、そのときには彼女のブラッドマジックの手のうちに落ちていた。以前同様、イセヤは反抗を無視し、無慈悲な精確さをもって呪文を最後まで唱えた。内側では、自分の仕業にたじろぎ、嘆き、グリフォンと一緒に憤っていたが、呪文には悲嘆も憤怒も紛れ込みはしなかった。

 彼女はとうとうやり終えた。頭も、脚も痛み、中でも心が一番傷んでいた。どうにか立ったまま、エルフは壁に手をついて視界が元通り戻るのを待ち、それから塔を後にした。
 レリウムもアーチディーモンの血もごく一部しか用いなかったが、その意味するところを忖度したくはなかった。ファースト・ウォーデンは単に安全を期して、必要より多めに配分したのかもしれない。

 グリフォン十頭は手を加えられた儀式を通過した。リーヴァスにそれを施さなかったのは、裏切りに過ぎると思われたからで、同じようにリズメのハンターにも施さなかった。
 だがイセヤが塔を降り切ると、両性具有のメイジが立っていて、影の中から見つめていた。どれだけの間待っていたのかはわからなかった。

 「グリフォンたちにジョイニングの儀式を施したのね」と背の高いメイジが言った。最後に会ったときの男性の装いではなかった。彼女は今日は女性の格好をしており、瞳の回りの濃いコールの化粧は、まるで盗賊のマスクのように見えた。
「ええ」とイセヤが言った。
「でもハンターには施さなかった。なぜ?」
「リーヴァスにしなかったのと同じ理由よ」とエルフが言った。
「グリフォンたちの儀式は、私たちのジョイニングとは違うの。別な風に作用するし、それよりずっと酷い。あなたもホスバーグにいたでしょう。シュライクを見たでしょう」
 リズメはゆっくりと首を垂れた。今日は鬘をかぶっていない。代わりに剃り上げた頭蓋を金属の銅の色の渦巻き模様で塗り、それが闇の中では暗く、陽光の下では輝いて見えた。「見たわ」

「だったら、ハンターに施さない理由がわかっているはず」
「わからない。あなたが自分のグリフォンにそうしなかったのはわかる。でもなぜ私のグリフォンまで除いたの?」
「なぜなら、あなたは私の親友だからよ」とイセヤが答えた。「そしてあなたもハンターが今のままでいて欲しいと思うのだと考えたから。ハンターは変異で死んでしまう。マーチズの都市からの脱出任務に生き残ったとしても、それさえもわからないけど、ダークスポーンの汚染は、私たちよりもグリフォンたちのほうがずっと早く進行する」
「ハンターは強くなる?」
「ええ。一時的だけど。でも強くなる」

 リズメが明るいところに出て、イセヤが最後に変異させたグリフォンを観察するため塔を横切ると、彼女の綺麗に剃り上げた頭の銅模様がきらめいた。グリフォンは年老いたメスで、翼は幾度もの戦闘で傷つき、嘴は老いて白くなっていた。ヘイン要塞に送り込まれたのは、傷が重すぎて戦場で戦い続けることが無理だったからだ。

 だがイセヤの呪文はそのメスから苦痛を取り除き、ブラッド・マジックのもたらす困惑から晴れたグリフォンは、まるで若いメスのように動き回っていた。だがそれは本当に若かった頃とは違う。シュライクと同様に、手を加えられた儀式を経た他のグリフォンたちと同様に、動きはせわしなく、ぎこちなく、時折あまりに素早いかと思えば、変にたどたどしくゆっくりになるときもあった。頭を振って咳き込み、嘴を爪でかきむしり、呪文によってただの風邪と思いこまされた不快な汚染を身体から取り除こうとしていた。

 だがグリフォンは再び強くなった。たとえ毛皮は白く咳き込んではいても、それははっきりわかった。彼女は強くなり、そして自制を喪っていた。
 リズメの口が固く結ばれ、身もだえしている獣を見上げた。「この力が必要なの?」
 イセヤは嘘をつくことができなかった。「ええ。それがあってさえ、しくじるかもしれない。それがなければ、勝ち目はない」
 女が頷くと、頭に塗られた渦模様が輝いた。
「そうならば、ハンターにも施して頂戴。必要ならどんなものでもあなたに差し出す。私たちはグレイ・ウォーデン、私たち二人ともが、そして私は自分の感傷なんかのために、この任務をしくじるわけにはいかない」

***

 愛は差別である。イセヤの愛は差別である。
 リズメの愛は、なにひとつわけ隔てのない隣人愛である。
 宗教を考えるとき、とても重くて難しいテーマのひとつではないでしょうか。

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