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2014年10月20日 (月)

Last Flight 12(2)

 なんとか、ここまでは。

***

 足場を喪ったイセヤは腰から崩れ落ち、したたかに打ち据えた尾てい骨が折れてしまったかもしれないと思った。地面が暴れ馬のように揺れ動き、断裂の深淵から沢山の手が付き出されてきた。

 必死に何かを掴もうとする数知れないほどの化け物の手、その爪は土を掻き分けようとして割れている。三本指のものも、六本、七本指のものもあり、雨に打たれた蒼白い芋虫のような指も、不気味なたこができた指もあった。砂混じりの黒い血が、裂けたり擦り切れたりした肌から滲んでいる。
 その血と、冷たくねとついた飢餓だけがやつらの共通点だ。

 手は彼女の肌を切り裂き、地中に引きずり込もうとし、ずるずると落ちていくイセヤの視界には、やつらの顔が悪夢の海から湧き出すようにせり上がってくる。ハーロックとジェンロックに加えて、痩せこけたシュライクの顔が見えた。やつらのとがった耳は浮き出た血管で囲まれた頭蓋にぴったりと張りつき、怒りに燃えた目で土の中から歯を突き出してくる。やつらは届くものは何でも引っ掻き、噛みつこうとしていた。ぐらつく足場から必死に逃れようと四苦八苦しているイセヤは、他のウォーデンたちも同じような憂き目にあっている様子を見た。

 中にはさらに悲惨な運命の者もいた。襲撃者たちの手に囲まれた射手のジョラクは、身動きもしていない。近くに転がる岩や砂が、彼の首筋から噴き出した血で紅く染まっていた。
 死んだ射手から二十フィート向こうでは、フェリスが腿や踵に纏わりつこうとする手を蹴り飛ばしている。彼女の矢は手の届かないところに散らばっていて役に立たない。肩まで地中に埋まったハーロックの腕が、大きな石で彼女の傍の地面を闇雲に打ち据えている。近くに半ばうずもれたジェンロックの頭が叩き潰されているのは、ウォーデンのものと間違えられたからのようだが、明らかに間違いに気づいているはずのハーロックは、それでも地面を打ちすえることをやめず、凶暴に振り降ろす血だらけの石は、次第にフェリスのほうに近づいていた。

 リズメが戦う場所からは、眩い閃光がひっきりなしに見えた。両性具有のメイジは、自ら巻き添えになるのも厭わず、ダークスポーンどもに零距離で炎の呪文を放っていた。潮まみれの網だったかつらは緑色の炎で燃えあがり、あしらわれていた数珠玉はほとんどが破裂して吹き飛んでいた。肌は剥き出しのまま赤く、また黒く焼け焦げ、頬とまつ毛の鱗は白く焼かれて剥げ落ちていた。彼女がまだ生きているのは不思議なくらいであり、またさほど長くは持たないように思われた。

 他の者たちの姿は見えなかったが、イセヤは見たいとさえ思わなかった。 リズメに触発された彼女はフェイドを探り、エナジーを純粋な力に変えて、彼女を取り巻くダークスポーンのただ中に撃ちつけた。
 衝撃は砂煙と血しぶき、そして岩石の欠片を巻きあげた。爆風に備えて目を閉じていたイセヤの額を岩の破片がかすめ飛び、彼女は思わず悲鳴をあげた。熱い血が肌を流れ落ち、瞼を覆う。
 だが呪文は周囲のダークスポーンを吹き飛ばし、彼女はほんのわずか生まれた隙を無駄にはしなかった。袖で瞼をせわしくこすると、身体を跳ね上げ、緩んだ地面やダークスポーンの手に躓きながらも丘を駆け下りた。血が瞼に容赦なく滴り落ちるのもものともせず、ピンク色の涙を振りまきながら走り続けた。

 彼女はグリフォンの羽ばたきを耳にして目をあげた。
 グリフォンたちは乗り手たちの救出にやってきた。シュライク、ダナロの黒い帯のある灰色のグリフォンが丘の斜面を急降下してくる。崩落以来、イセヤがダナロを目にしていなかったのは、彼が早いうちから倒れ、周囲をダークスポーンに取り巻かれていたためだったが、シュライクは空中から即座に彼の居所を見つけた。グリフォンは着地し、叫び、倒れた乗り手の回りで地中からようやく抜け出したダークスポーンどもを、爪と嘴で片っ端から切り刻みはじめた。

 フェリスの乗騎、黄褐色のトラヴェラーが頭上を飛び過ぎるとき、その翼は遮る陽光のせいで銅色にも銀色にも見えた。グリフォンは旋回して戻ってくると射手の傍に着地して埃の嵐を巻きあげる。爪のひとかきで岩を握りしめたハーロックの腕をその身体から引き千切ると、もう一方の爪でフェリスの腰のあたりを掴みあげ、離陸しようとして荒々しく羽ばたき、そしてしくじった。地面はグリフォンが飛びたつ力を与えるにはあまりにぐらついていた。

 地面は再び傾き、崩れ始めた。イセヤは膝から崩れ、あっという間に四フィートも落下した。足下では、先ほどまで固かった土が水のように流れ落ちている。エルフの傍に近寄れないリーヴァスは、崩れ落ちる丘の上空を旋回し、苛立ちの啼き声を上げていた。 

 丘の上、トラヴェラーが飛び立とうとしていたあたりは、まるで叩き割られたメロンのように崩れ落ちた。真ん中に大穴が開き、周囲がその空洞に向けて滑り落ち、グリフォンもそこに呑み込まれていった。トラヴェラーはずり落ちる地面にしがみつき、狂ったように翼を羽ばたいていたが飛び立つことはできず、崩れ落ちる地面で奇怪な芋虫のようにのたうちまわるダークスポーンどもが、その身体をずたずたに切り裂いていた。

 シュライクはほんの少しだけましだった。前脚でダナロを掴み上げると、なんとか飛翔する力を得ようとして丘を飛び跳ねながら駆け下りていた。自ら傷は負っていなくとも、嘴のまわりの毛皮にダークスポーンの血が黒ひげのようにこびりついている。丘の向こうの猛禽の象牙色の瞳がイセヤと会い、何年もグリフォンと暮らしてきた彼女ですら信じられないことに、そこには悟りと受容が見て取れた。

 ダークスポーンの汚染はシュライクを殺してしまう。グレイ・ウォーデンが乗騎に決してダークスポーンを噛ませないよう躾け、ときには嘴の回りを口輪で覆う理由がそれだ。ダークスポーンの血の穢れは、呑み込んだものを歪め、狂わせ、やがて死に至らしめる。既知の治療はなく、病状を避ける術もない。彼女も、シュライクもそれを知っていた。その瞳に宿る諦観がそれを強く物語っていた。その諦観は、だが後悔ではなかった。翼に風を受けてシュライクは飛びたち、ダナロを掴んだままホスバーグに向け離脱していった。

 イセヤは呪文でトラヴェラーを救えるかどうかと思案し、逡巡した。だがこの混乱の中で、呪文を命中させる角度を確保するのは困難だった。グリフォンの動きはあまりに早く、半狂乱で、フェリスの姿も全く見えなかった。グリフォンの前脚の筋肉の動きからまだそこに掴んでいるようにも見えたが、そうだとしてもまだ生きているかどうか定かではなかった。上空のリーヴァスの啼き声が痛いほど耳を打つ。

 彼女は諦めた。最後にジェンロックの手を蹴り飛ばし、惨劇の場から脱出した。安全な場所に出ると、即座にリーヴァスが降下してきて彼女を鞍に乗せた。ダークスポーンをあれだけ嫌悪していたにも関わらず、リーヴァスは一切の攻撃を行わず、悔し気な怒りの声をあげただけで、彼女を乗せて空に舞い戻った。

 上空からは、事態がよりはっきりと見えた。地上では絶望的に思えたが、結局のところ彼女たちは成功したようだった。丘の崩落は落ち着き始め、大穴の呑み込む力は弱まっているが、そこからなんとか逃れることのできたダークスポーンはほとんどいなかった。大部分は容赦ない自然の力に囚われたまま、そこで死ぬだろう。

 ウォーデンたちは、アンダーフェルズの土地に惨たらしい傷を負わせこそしたが、勝利した。ディープロードの入り口は封鎖された。
 味わうべき勝利は感じられなかった。しばらく経てばまた違うのかもしれない。だが、トラヴェラーの引き千切られた血だらけの残骸を見下ろすイセヤには、その重く虚ろな胸の中に昂りをかきたてることはできなかった。

 それでも、後悔という贅沢に興じている暇はなかった。戦いは終わっていない。安全な場所に逃げ延びていたカリエンは、痛々しい姿でのろのろと脱出を図っているリズメのため、彼女に追いすがるダークスポーンを蹴散らす援護の呪文を放っている。

 リズメは、自殺的な炎の呪文から生き残るだけではなく、戦場から脱出するための力も、どうにかして振り絞ったようだ。まったく動かない左足は、一歩進むごとに砂の上に引きずった跡を残し、焼け焦げたローブの破片が足跡をなぞるように散らばり落ちている。彼女はディーモンに憑依された屍のように見えた。

 だが彼女は生きており、その姿を目にした彼女のグリフォンが喜びの啼き声をあげた。ハンターという名の、傷痕のある、嘴の白いオスのグリフォンで、ガラヘルのクロッキーテイルに次ぐ速さの持ち主だった。
 リズメは、ハンターがやって来る間に倒れた。カリエンが最後のファイヤーボールでダークスポーンの生き残りを仕留めると、彼女に足早に駆け寄り、杖から治癒の魔法の光を輝かせた。両性具有のメイジが蒼白い光で包まれ、火傷で開いた傷口がいくらか閉じ、呼吸も穏やかなものになった。ハンターが近づいてくる間、リズメは身体を丸め、力を取り戻そうとしているようだった。カリエンに疑い深い視線を浴びせたハンターは、自分の乗り手の傍から翼で彼を押し退けた。心配になったイセヤは、リーヴァスに降下するよう合図した。

 「ドワーフたち」とリズメが吐き出すように言って、動かない左足を持ち上げ、身体をなんとかハンターの鞍の上に乗せようとしていた。「ドワーフたちがまだあそこにいる」
「私に任せて」とイセヤが言った。彼女はタンクとマンクが立っている場所に目をやった。ドワーフたちは周囲に目を配っていたが、危険をおよぼすダークスポーンは残っていなかった。皆を守るはずだったふたりの斧は、まったく血で汚れていない。「飛べる?」
「ええ」とリズメが言った。彼女はハンターの手綱を緩く腰に巻き付け、鞍の前についた装甲板で身体を支えた。目を閉じ、震える苦しげな息を吸い込み、吐き出して頷いた。破裂しなかった最後の数珠玉が黒ずんだかつらの紐から外れて地面に転がった。

「飛べる。戦いさえしなければ」
「よかった。ホスバーグに戻って。ガラヘルに、ドワーフを乗せるためのグリフォンをあと二頭送るように、それから入り口の封鎖を確認するための偵察隊も送るように伝えて。でも・・・、私たちはやったわ。やつらの補充は遮断した。これで街を包囲から解放することができる」
 リズメは疲れ切った、ためらいがちな微笑みを浮かべた。「伝えるわ」と彼女は言って、ハンターに離陸の合図を伝えた。

***

 ダークスポーンの汚染を、甘んじて浴びてしまったグリフォン。果たしてイセヤが感じたように、避けられない運命を「悟った」のでしょうか。グリフォンは「覚悟」するのでしょうか。

 ここはちょっと吟味しなければならないところですが、いかんせん時間がない。もうちょっとましな訳がありそうなんで、原語も載せておきます。
(すなわち、recognition、acceptance、resignation、それ全部揃っての「悟り」、あるいは「覚悟」じゃないか、という批判がありそうですね。確かに全体では「覚悟」が一番ぴったりくるかな。でもrecognitionもまた「悟り」なんですよね)

recognition 悟り
acceptance 受容
resignation 諦観
regret 後悔

Shrike シュライク、ダナロの乗騎
Hunter ハンター、リズメの乗騎

 

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