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2014年10月

2014年10月30日 (木)

【DAI】DAK、どーして、あーなっちゃう、かなー。

 ええっと、DAKはまだOpen Betaじゃないんですかね?
 文句はまだ言えない? Twitterで公開している範囲ならいいのかな?
 んー、載ってないな。

 ここまでが昨夜。ここから今日。
 

 もうオープンなのでNDAもへったくれもない。クローズドの間のこと書かなきゃいい。
 

 過去ゲームのセーヴファイルをインポートするわけじゃない。それはわかる。プラットフォーム違うから大変だわ。
 だが過去ゲームの主人公別ストーリーもリトリーヴしないのかい?
 なんのためのオンラインプロフィールだったんだ、DAOもDA2も。

 あり得へんやろ。
 

 何人おる思てんの、それぞれのゲームの主人公。
 タペストリーで一人づつちまちまいじれちうことかい?
 そんなもんいちいち覚えとらんわ。

 だから、あんまり、けったいなこと、最初から言わんほうがよかったんよ、BioWareさん。
 でも、あれじゃあ、かったるすぎて、つかいものになりませんわ。
 どのみち、あってもなくても、かこのストーリーはDAIのプレイに影響しませんって、じゃあ、なんでタペストリー作らせんだよっ?

Dak_2

 いや、うちの子、闇の儀式選んだから、死んでないからっ。
 あと、うちの子だって、ロマンスのひとつくらいあったからっ。

2014年10月29日 (水)

Last Flight ここまでの感想・愚痴(3)

 よく見たら遠坂さんがミニスカじゃない! ってなーんだ制服かぁー、っていらんわ!  
 えー、前のほうが良かったのにー。

 ドラゴンの時代のヴァルヤのエピソードの章が過ぎたら、感想・愚痴を書くと言いましたが、もう愚痴は途中で散々書いてます。

 物語は半分を過ぎましたが、どうなんでしょうね。これがアニメのシナリオなら、良かったかもしれませんね。
 乗りかかったフェリー船、いつ転覆するか知りませんが、私から降りることはしないと思います。すくなくとも一番最初には。

 追加すべき愚痴もありません。宮崎駿ならきっとブチ切れるだろうくらい、次々とキャラ使い捨ての作りにも慣れました。どうせすぐいなくなるなら、詳細な人物描写も全部すっとばしてやろうかとも思いましたが、それだと賢明な読者に、どのキャラにフラグたったかわかっちゃうもんね、つかフラグ立つ間もなく、いなくなってますけど。

 今後もDAのインハウス・ライターたちが忙しいと、こうやって小説版を仕出し弁当化するんでしょうかね。DnDのノヴェライズみたいなことにならないといいのですが。

 正真正銘本当の愚痴は、全て終わった後に書くことにしましょう。一体いつ終えることができるのか、わからないけど。

 ちなみに、これまでの二作同様に専用サイトを用意しました。PCならページ右上の「ウェブページ」一覧から行けます。スマホなら・・・、行けません。おいココログ・・・。PC表示に切り替える必要があります。ですが、すぐ死んだりいなくなったりするキャラが多すぎるせいで、キャラ紹介はなかなか増えないんでしょうね、きっと。

2014年10月28日 (火)

Last Flight 15

 この章は短い。でもかかった手間は他より多かった。

***

第十五章

9:41 ドラゴン

 

「ブラッドメイジに会ったことはあるの?」とイセヤが尋ねた。怖気づいている感じを苦労して出さないようにしても、どのみちそう見えたようだ。数か月の間にテンプラーたちと同居することは受け入れているはずだったが、ホスバーグの習慣は残っていた。
 
 ときにためらいがちであっても、イセヤはレイマスを本当に好きになりはじめていた。彼女の憂鬱そうな外見の下には、慈悲の心と深い思いやりが宿っている。ホスバーグのテンプラーたちが皆そうであったなら、サークルの恐怖に満ちた暮らしは違ったものになったはずだった。

 心を開こうとしない他のテンプラーたちと、そのような親密な関係を築くことはどのみちなかった。数週間前、騎士副長ディギエーがジョイニングの儀式の最中に死んで以降、イセヤが他のテンプラーたちを見かける機会はさらに減っていた。
 だがレイマスとはその後も朝の茶を付き合ったり、ワイズホプト要塞の立ち入りを許されている部分を一緒に歩いたりしており、ヴァルヤ自身が驚いたことに、しだいにふたりは友人のような関係になりつつあった。
 近しい間柄、少なくとも、気にせず悩みごとを打ち明けることができるような女同士の関係。

 レイマスはすぐには答えなかった。彼女は、茶色い小鳥が中庭の壁の上ではねながら、小さな林檎の木の葉っぱの裏の虫たちを探す様子を見つめていた。
 羽根と首の横に黒い斑点があり、腹がクリーム色のその小鳥は、ホスバーグに棲みついて用水槽に溜まる雨水をすすり、塔の高いところの岩場に巣を作っている群れの一羽だった。ヴァルヤは日々その小鳥たちを見つめ、自分にも同じような自由が手に入ることを夢想していたが、この要塞の近くに留まるしかない小鳥たちに彼女以上の自由があるわけではないこともわかっていた。

 小鳥は何かに怯えて飛び去った。レイマスはゆっくりとヴァルヤの方に振り返る。陽光が映える髪は、彼女がここに到着したときに比べてだいぶ伸び、また灰色のものがより多く混じるようになっていた。「もちろん、あるわ」
「どんな感じ?」
「怯えている、だいたいは」 レイマスは空になった茶器の縁をたこのできた親指でなぞった。面長の顔はいつでも悲しげに見えたが、今話をする彼女の憂鬱さは増しているようだった。「だけど、テンプラーに見つかったブラッドメイジたちに何を期待するというの? 怯えていてあたり前」
「邪悪なの? つまり・・・、邪悪な者しかいないの?」
 ヒューマンの女性は肩をすくめた。「まず、邪悪が何であるかを知らなければ答えられないし、私が人よりそれを知っているわけもないのだけれど、よりきれいな答え、よりはっきりした答えは、彼らはみな邪道魔術を禁止する掟を犯しているというもの」

「でもなぜ?」ヴァルヤが詰った。「その理由は問わないの?」
「問うべき」とレイマスが認めた。「でも、できないときもある。誰でも自分の行いには理由がある。他人の理解が得られるものも、漠然としたものもある。私自身が信じてあげたいと思うものもいくつかある。でもどうやってわかるというの? 口にすることなんてその理由のごくわずかな一部でしかないのだし、それさえも彼らのものの見方や、希望や恐怖に彩られている。彼らがたとえ正直だとしても、ブラッドメイジが他人に対しても、自分たち自身に対してもそうであるはずがないのだけど、彼らの話がフェイドの中の光景以上に『本物』であるわけじゃない。たったひとつ確かに言えることは、彼らがその道に手を染め、邪道魔術師になったこと。テンプラーにしてみれば話はそこで終わり。そこで終わらなくちゃならない」

「グレイ・ウォーデンはブラッド・マジックを用いていた」とヴァルヤが言った。そう言うとき彼女は声を潜めたが、誰か他のウォーデンの耳に入る危険は実際にはなかった。ワイズホプトは何世紀も前に比べて今は閑散としている。広間や中庭は、今いるここも含めて、過去の遺物と現在の空虚さに支配されていた。「彼らはどうなの?」
 再びレイマスはしばらく口を閉ざした。林檎の木のごつごつした枝が一陣の風に揺れ、わずかに残っていた茶色い葉が散った。テンプラーの髪が灰色の縞のカーテンのように顔に吹きかかる。彼女はため息をつき、目を閉じ、忌まわしい記憶を押しやるかのように片方のこめかみを押さえた。

「チャントリーの教えによれば、ヒューマンの傲慢とヒューマンの野望がダークスポーンを生んだ」と彼女は言って、風がやんだ頃に髪を元通りになるようにかき上げた。「マジスターたちがブラッド・マジックを用いてフェイドに侵入し、ゴールデン・シティを冒涜し、そうすることで、セダスの全ての民が彼らの愚行の代償を支払う定めとなった。ブラッド・マジックは、グレイ・ウォーデンが命を懸けて阻止することを誓う邪悪を生んだ。やつらと戦うために同じ呪われた武器を用いるのは、間違っていると思わざるを得ない」

「でも、汚染そのものも用いているわ」とヴァルヤが指摘した。「ダークスポーンの穢れを受け入れることで、やつらと戦うことができるようになる。ただの道具よ」
「遣い手を滅ぼす道具」とレイマスが険しい顔つきで言った。「ブラッド・マジックであれ、ダークスポーンの汚染であれ、破滅と取引きすることに違いはない」
「ディギエーがしくじったのも、そのためだと思ってる?」とヴァルヤが尋ねた。騎士副長の死については、すぐ後に丁重なお悔やみを述べた以外、これまでレイマスと話をしたことはなく、今彼の名前を出すのも場違いな気がした。だが彼女は知りたかった。

「かもしれない。儀式は弱さを容赦しないと思うし、ディギエーは普通の意味で弱い男ではなかったけど、テンプラーと袂を分かつ決心をしてこのかた、心は迷いで一杯だった。その迷いが、汚染に対して弱さとなり、死を招くことになったのだと思う。腐食に打ち勝つには強い心がいるのだから」
「あなたは生き残ると思う?」 ヴァルヤは興味ありげに首をかしげた。尋ねるのは無礼なことかもしれないと思ったが、レイマスの心にもその問いが過ぎっていたに違いなかった。そうでないはずがあろうか? 若いメイジたちはその話題について恐ろしい思案を巡らしたあげく眠れなくなり、夜遅くまで寝台の上でひそひそと語り明かしているのだ。 

「儀式を受けさせてくれないのではないかしら?」 レイマスの薄い、色のない唇が内側に隠れ、物思いにふけるしかめ面になった。「ファースト・ウォーデンは、ディギエーのしくじりがどのように影響を及ぼすかを見極めるまで、私たちの誰であってもジョイニングの儀式を受けさせることはしないのだと思う。私はそれでいい。今日、あの杯を受けることになったら、騎士副長と同じ運命を辿るのは間違いないと思うから」
「どうして?」
「なぜなら、私にも迷いがあるから」とレイマスが言った。「ここは由緒ある英雄の軍団。でもその軍団が戦うべき邪悪は・・・、私は、自分が命をグレイ・ウォーデンに捧げるつもりなのかどうかわからない。テンプラーになった理由はよくわかってる。サークルの壁の両方の側の人々を守るために何をすべきかは理解していたし、その任務を誇りに思っていた。でもそんな理解も、そんな誇りも、ここにはない」 彼女は肩をすくめたが、それは挫折への諦観が色濃く出た仕草だった。「そして、私は自分の目的に対して純粋でも、確信を抱いているわけでもないから、毒入りの盃を口にした途端に倒れてしまうのでしょう、ディギエーのように」

「私も、グレイ・ウォーデンになりたいのかどうかわからない」とヴァルヤが優しく言った。「自分にその力があるかどうかわからない。私は・・・、私は、英雄の心は私のものよりずっと強いのだと思う」
 今度はレイマスが好奇の眼差しを向ける番だった。「どういう意味?」

 たとたどしく、ヴァルヤが告げた。「日記を見つけたの」 彼女は膝の上で手を組んで、落ち着かなげにそれを見下ろした。何週間か前には読み終わっていたのだが、イセヤの日記について誰にも話していなかった。最初は、ウォーデンたちの注意を引くほど重要なものではないと思っていた。第四のブライトに関する英雄譚としての価値はもちろんあるが、チェンバレン・オヴ・ザ・グレイが彼女たちに調査を命じている問題に関係があるとは思えなかった。それから、イセヤのブラッド・マジックに関する告白を呼んで、彼女が何をしたかを知り、衝撃のあまり口にすることができなくなった。

 ガラヘル、第四のブライトの英雄にはブラッド・メイジのがいた。イセヤもまたグレイ・ウォーデンでありながら、ブラッド・メイジだった。
 そしてエルフでもあったという事実は関係ないのかといえば、そうではなかった。
 ガラヘルは、セダス中のエルフにその名が知れ渡る誉高き伝説であり、誰も否定できない偉大さの持ち主。人々がエルフについてどう思い、何を言おうが、「ナイフ耳」という呼び名にどんな非難や侮蔑を含ませようが、自分たちの国々が生き残り、今まで家系が途切れず続いてこれたのも、彼が自分の身を一顧だにせず、アーチディーモン・アンドラルを打倒したおかげであることは認めざるを得ないのだ。

 イセヤの告白を暴露することは、その輝かしい象徴をくぐもらすことになる。そうすることが正しいのだが・・・、彼女は瀬戸際に立たされ、それを認めることは舌の上に灰汁(あく)を乗せたような苦さを伴ったが、自らの民に対する裏切り者になったような感じがした。
「誰の日記?」とレイマスが促した。声は優しい調子だが、目は注意深く、ヴァルヤは、自分の口の重さを彼女が気にしていることがわかった。

「あるウォーデンの」とヴァルヤは曖昧に答えた。その名前を告げることはできなかった。「第四のブライトの時代のウォーデン。彼女はブラッド・メイジで、とてもひどいことをした・・・、でも彼女はひとつ偉大なこともした。だから私は、あなたにブラッド・メイジについて尋ねたの。ブラッド・マジックで善をなすことはできるのかと。もし、テンプラーのひとりが、それは可能なことだと認めるなら、私は自分自身に嘘をついていたわけではなかったのかもしれない。それは真実かもしれず、この・・・、彼女の伝説は・・・、皆に知らしめる意味があるのかもしれない」

 沈黙がふたりの間に訪れた。茶色の小鳥が林檎の木に戻ってきて、こぶのある枝の上ではねている。それとも先程とは異なる小鳥か。ヴァルヤにはわからなかった。ずっと長い間小鳥たちを見つめていても、彼女には違いを見分けることはできなかった。

「私はもうテンプラーではない」とレイマスが言った。まるで囁きのようなあまりに静かな声だったが、長い沈黙の後に発せられたその声がイセヤをびくりとさせた。「邪道魔術があるところどこであっても撲滅に向かうのは、もう私の任務ではない」 彼女の暗い、絶えず疲れ切った目には、ヴァルヤにはわからない何らかの感情が潜んでいた。希望、かもしれず、あるいは受容・・・、もしかしたら少しの恐怖か?

「どういう意味?」とエルフが尋ねた。
「つまり、私は白でも黒でもないものを受け入れることができる、という意味」とレイマスが答えた。「だから、もしかしたらブラッド・マジックで善をなすことは可能かもしれない。たぶん。そのウォーデンの伝説はどんなものなの?」

*** 

 またしても女子高生ののり。辛い。本当に辛い。

 ひとつ、私自身と大きく解釈が違うのが、ジョイニングの儀式。私は、これまで何度か書いたように、ジョイニングの儀式で生き残るかどうかは、その者の過去の行為や抱いている意志などとまったく何の因果もない、という立場。もちろんダークスポーンの汚染を克服できる肉体的な何かの要因があるのでしょうが、それは儀式をやってみなければわからない、そのほうが物語として格段に面白いと考えている。

 心が弱いから、迷いがあるから、汚染に負ける。それはまったく受け入れがたい発想ですね。第一、物語としてなんら斬新でもなければ、面白くもない。
 この世は理不尽な混沌が支配している。だがその中に何らかの救いが、理(ことわり、秩序)があるのではなかろうか。いや、あるに違いない。あると信じよう。救済宗教とはそういうもの。
 「意志が強いから汚染に生き残りましたー」って、現世ご利益(りやく)宗教ですらないですね。つか能天気、バカでしょう。ファンタジー史上屈指の優れた設定が、お子ちゃま向け少年ジャンプになってしまう・・・。
 決してそうじゃない、本人の善行も意思も関係ない。やって見なければわからないことは、DAO、DAOAのジョイニングの儀式で、わかるように提示されたはず。
 まー、作中で語っているテンプラーがそう考えている(つまり間違っている)だけ、そう思ってればいいのかもしれないけどね。

 "humanty and deep kindness"、上では「慈悲の心と深い思いやり」とか苦しいことになってますが、一緒じゃん。"humanity"を「人間性」、「人間らしさ」とやるわけにはいかない。「ヒューマン」に異なる意味が付されている世界で、ヒューマニティはやめてほしいのです、まじで。(つっても「友人」とか「二人」とか使ってるけどね・・・)

 Mass Effectでいう「ヒューマニティ」は、「人類世界」というまた異なる意味なんで問題なかったんだけど。"people"が「人々」は、これはしょうがないかな。

2014年10月27日 (月)

Last Flight 14(2)

 文中、ダークスポーンの描写などを読むと、どうやら著者はDAOなどを遊び倒しているようで、スーパー・ファンフィクションの様相。

***  

 太陽よりも眩い青緑色の炎が砕けた四つの土器から巻き上がり、粉塵を二十フィートもの高さまで吹き上げた。二百ヤード以上離れていても、爆音と爆風はイセヤの耳と肺を激しく打ち付けた。最も近くにいたダークスポーンは、魔法の炎によって一瞬にして骨まで焼かれ、次の瞬間には灰と化した。岩石や白熱した金属片が襲いかかった他のダークスポーンどもは切り刻まれ、湿った黒い染みを噴き出しながら霧散した。爆発の近くにいて形を留めているものはいない。
 焦天陣の威力は、イセヤがまったく目にしたことのないものだった。ウォーデンたちの頭上を吹き抜ける風が運ぶ突然の死の匂いは、燃えたレリウムの刺すような刺激臭に縁どられている。 

 彼女は、仲間に出撃を告げるとともに、リーヴァスに合図を送る。激しい羽ばたきとともにグレイ・ウォーデンたちが飛翔した。
 彼らは、混乱し、傷ついた残党どもを容赦ない手際良さで始末した。ハーロックどもの崩れた陣形をファイヤーボールが襲い、死にかけたオーガは岩石の直撃でなぎ倒される。アイスストームとフロストコーンがジェンロックどもの黒い血を凍りつかせ、シュライクどもの細い骨を粉砕する。破裂した地面はリズメの地震とイセヤの力場の呪文が揺り動かす。さらに加えて、射手たちの矢が死の雹のように降り注いだ。
 河の中まで押し戻す手はずだった敵は、グリフォンが上空を再び通過する頃には、一匹も生き残っていなかった。ドワーフの焦天陣の威力は予想をはるかに上回り、小規模の待ち伏せのはずだった戦いは、完璧な屠殺場と化した。

 主戦場のほうはずっと予断を許さないように見えたので、イセヤは仲間を再結集した上で規律ある突撃を送り込もうとして振り返り、すでにシュライクが単騎で正面戦線に飛び込んでいく姿を目にした。ダナロは鞍の上に立ち上がるようにして手綱を力一杯引いていたが、彼女が今まで見たこともないような憤怒にまみれたグリフォンを引き留めることはできなかった。 

 グリフォンは重装オーガの一団に向かって急降下していく。やつらに取り囲まれている血だらけのヒューマンとドワーフのウォーデンひとりづつの姿が一瞬見え、すぐにオーガの図体の影に隠れたが、ふたりとも立っているのが精一杯であることは間違いなかった。
 シュライクがふたりを救うために、あるいは単にそのオーガどもが一番目立つ目標であったためにそこを目指したのかはわからなかった。いずれにしろ、グリフォンは前脚の爪を拳のように握りしめ、速度を緩めないまま一番でかいオーガの頸の後ろに激突した。頸ががくんと前に曲がり、そのまま横向きに折れたでかぶつの化け物は立ったまま絶命した。

 他の二匹のオーガがグリフォンに掴みかかり、一匹が左の翼を荒々しく引き抜こうとする。シュライクがオーガに引きずられるところまで目にしたイセヤは、リーヴァスが旋回するため向きを変えたところでその姿を見失った。
 再び視界に入ったシュライクがとうに死んでいると思っていたイセヤは、そのグリフォンが生き残っているどころか、折れた翼を羽ばたきながらまだ宙に浮いている姿を目にして驚愕した。恐怖に駆られたダナロはシュライクの背中にしがみつきながら、オーガどもに向けて、最後まで唱え終えることのできないままの呪文を放っている。

 一体、君はあのグリフォンに何をしたのだ、とカリエンが息せききって尋ねた。わからない、とイセヤが告白した。シュライクをダークスポーンの汚染から救おうとしただけで、あんなことになるなど思ってもいなかった。

 イセヤは振り返ると右腕を挙げ、仲間のウォーデンたちに自分に続いて突撃するよう命じた。その言葉を言い終わる前に、リーヴァスが急降下をはじめる。シュライクと異なり、グリフォンたちは訓練されたとおりの戦いを繰り広げる。戦場の低空を飛び、ダークスポーンの呪文や矢は回避しつつ、乗り手には十分な射撃の機会を与えた。

 イセヤは、ジェンロックの暗殺者どもに襲われているルビードレイクの小集団の頭上にリーヴァスを向かわせる。妙な魔法の力によって手練れのアンティヴァン・クロウのように姿を消しつつ戦う敵を前にして、深紅のドラゴンの槍旗の元で戦う傭兵団の男女は劣勢に追い込まれていた。ジェンロックどもはルビードレイクが正面を向けば姿を消し、側面を曝すと姿を現して容赦ない一撃を加えてくる。

 だがそれも魔法の力で帳消しにできる。リーヴァスが上空を通過するとき、イセヤは氷の呪文を放って戦場の周囲を凍り付かせ、続いてカリエンが交差するように氷の円錐を吹き出してイセヤが取りこぼした敵に浴びせかける。巻き沿いになった何人かのルビードレイクも含め、二発の呪文はほとんどの敵を凍り付かせた。傷を負っていた敵はピンクの氷の繭の中で即死し、他は釘づけになったまま数秒生き永らえたとしても、生き残ったルビードレイクの刃先で刈り取られていく。

 戦場のそこここで、他のグリフォン・ライダーたちも同じようにして、大会戦のただ中の局地的な戦いに介入し、あらゆる手段で味方を有利に導いていた。地上の炎から巻き上がる煙や灰が眼窩や鼻孔を襲おうとも、グリフォン・ライダーたちは痛みを無視して戦い続けた。退却する地上のウォーデンには矢の援護を与え、再結集しようとする味方に迫るハーロックどもやジェンロックどもは炎と岩で退かせ、オーガどもやエミッサリーどもには空中から欺瞞と混乱をもたらし、地上の味方にそれを最大限利用する機会を与えた。

 一頭のグリフォンが、メイジの戯画のような装いのハーロック・エミッサリーの炎の呪文を浴び、なんとか立ち直ろうとしたところをオーガの投げた岩石で叩き落とされた。乗り手のふたりのウォーデンたちも墜落し、ダークスポーンが殺到する前にグリフォンの下敷きになって死んだ。残忍に切り刻まれた一頭とふたりの血が霧のように立ち上る。
 それはイセヤが対処する暇もなくあっという間に終わったが、そのときは彼女自身も危険に曝されていた。ジェンロックどもが弩でリーヴァスを狙い、彼女とカリエンが放ったファイヤーボールが飛んでくる矢を焼き払ったものの、グリフォンにとってあまりにも危険に満ちた状況に違いはなかった。

 弩の矢が一本、イセヤの前腕をかすめ、立て続けにあと二本が鞍の前面の装甲板に当たった。彼女はできるだけ身を伏せ、リーヴァスに後退を命じながら、炎の呪文を放って時間を稼いだ。
 傷を負い、不平を告げながら、黒いグリフォンは空高く舞い上がった。ジェンロックの弩の矢が追ってきたが、数百ヤード上空のリーヴァスを射抜く射程も精度もなかった。

 戦場の上空高くを旋回しながら、彼女たちには戦いを見守ることしかできなかった。イセヤが驚いたことに、シュライクはまだ地上で戦い続けていた。全身血だらけで、すぐには判別できなかったうえに、ダナロの姿はどこにも見えなかった。狂ったグリフォンから逃げ出したのかもしれず、よりありそうなことには、とうに死んでしまったのかもしれなかった。
 それさえも、シュライクが気づいているかどうか定かではなかった。グリフォンはただやみくもに戦いに没入していた。オーガをハーロックの群れの中に蹴り飛ばすと、そのまま跳びかかって四本の脚の爪で八つ裂きにしながら、同時に嘴で喉を噛み千切る。

 無謀な戦いはシュライク自身をハーロックどもの攻撃に曝す。立ち直ったやつらがシュライクに殺到し、殴り、斬りかかった。
 それでもシュライクは、まるでダークスポーンの挙動が事前に手に取るようにわかるかのように攻撃を避け続けていた。多勢に無勢のためいくつかの攻撃は命中し、またシュライクは身を守るために獲物を離すつもりもないようだったが、こんなにも長い間にわたって戦場に留まっていることができる理由はそれに違いなかった。 

 その力と素早さは、超自然的な水準に達している。視界に入っていないハーロックの剣を避けた後脚は、イセヤの目に止まらない速さでそのハーロックを蹴り倒し、腸を周囲にまき散らす。
 同じ光景を目撃したカリエンが、どうしてあんなことができるのだ、と尋ねた。

 イセヤは首を振るしかなかった。やがて叫び返したとき、喉は痛いほど渇いていた。年老いたウォーデンも、コーリングの儀式が近づく末期には、ダークスポーンの思考を手に取るように知ることができると聞いた。だがそれは、単に最期のときが近づいている予兆に他ならない。
 シュライクの最期も近いのは間違いない。そう答えたカリエンがしばらく黙り込み、イセヤには後ろの鞍に座る彼のことは見えなかったが、長い付き合いの彼が口にしたくない疑問を抱いていることは如実にわかった。

「はっきり言って」とイセヤが尋ねた。
「君がしたことは・・・」
「私が望んだのはあんなことじゃなかった」とエルフがぞんざいに答えた。彼女はシュライクの生存だけを願った。空飛ぶ破壊の化身になどしたくはなかった。
「だが、他の連中が望まないわけがあるまい」 彼は、ついにシュライクがよろめき始める姿を指差した。グリフォンの灰色だった翼は、赤黒くなり、残った風切羽からは動くたびに血が滴り落ちている。横腹には凍傷とばっくりあいた切り傷が見える。頸には折れた矢が刺さり、右の前脚も別の一本が貫いている。
 だが、それでもグリフォンの速さはほとんど衰えておらず、周囲には屍の輪がうず高く積み上がっていた。

 前線から、味方の勝利を告げる真鍮の角笛の音が聴こえた。彼らは勝った。ダークスポーンの戦列が崩壊し、烏合の衆と化したのは、どこか遠くにいるアーチディーモンがこの戦場への興味を失い、負けた手下どもの統制をあきらめたからだ。ハーロックどもとシュライクどもが、思い思いに散り散りになって、味方の屍の上を逃げ去っていく。オーガどもは、図体がでかすぎて逃げ足も遅いため、できるだけ多くを地獄へ道連れにしようとして戦い続けていた。 

 ウォーデンとその味方は歓声をあげ、逃走する敵を新たな決意とともに追撃しはじめた。彼らの勝利は間もなく敵の大潰走となり、ダークスポーンはラッテンフラス河に追い詰められ、そこでもがき苦しみ、溺れ、あるいは射手の的になる他なくなるだろう。

 イセヤは歓喜をともにすることはできなかった。彼女はシュライクを、ついに斃れたその姿を見下ろした。この戦には勝利したが・・・、戦いは続く。アーチディーモンがいる限り、どんな勝利も長くは続かない。ホスバーグは解放されたが、一週間、ひと月、または一年の後には、ダークスポーンの手中に落ちているかもしれない。

 カリエンは正しい。それを認めることに怯むのと同じくらい、彼女にはそのことがわかっていた。多くの者がグリフォンが今にもまして強力になることを望むだろう。少なくともグリフォンを友や相棒と見なすグリフォン・ライダーたちは除いても、焦天陣や投石器同様、戦略的に投入すべき、感情を有さない、単なる戦争の道具と見なす者たちは、その代償のことなど頓着しないのだ。 

「私の呪文のせいだ」 彼女は、カリエンと自分自身に聴こえるように声に出して言った。戦場からずっと上空のここでは、風が運んでくる血と煙の臭いもかすかだった。リーヴァスの麝香の香りのほうが強く感じられる。「私の、私だけの。この秘密は誰にも知らせない。そして、二度と使うことはしない」

*** 

 戦いのシーンは、「にせ要約」がどうしても長くなる。バッサリやっちゃっても意味が通じなくなることはないですが、せっかくの戦いですし。

 姿を消しながら戦うジェンロックの暗殺者(アサシン)。DAOですね。重装甲のオーガ。DAOA。ゲームをプレイしなくても設定だけ読んで書けないわけではないかもしれないが、ジェンロックのアサシンの設定はDA2あたりではもう廃れているはず。シュライク(ダークスポーンのほう)もDA2では、納期と予算の都合で割愛されてしまって登場しない。
 著者はオリジナルのゲーム本編からかなりやり込んでいるとみているのですが、いかがでしょうか。

 なお、シュライク(グリフォン)とシュライク(ダークスポーン)は、英文なら前者は頭文字が大文字のShrike、後者は小文字のshrike(s)で見分けがつく。日本語ではどうしようもなく、「シュライクども」とか多用しているのはそのせい。

 また、原文ではオスのグリフォンは「彼」、メスの場合は「彼女」で受けるのですが、日本語でそれはしませんよね。個人的に違和感が大なので、訳では逃げまくっているつもりですが、見過ごしたところあるかもしれない。

 グリフォン・ライダーは、乗騎のグリフォンを戦争の道具とはみなさない。やっぱこの人(イセヤまたは著者)「甘ちゃん」やなあと思ってしまうんですが、どうでしょう。
 そんなこと言ったら、戦場でばたばた斃れ、置き去りにされる軍馬とか立場ないじゃん。
 「愛情」がいかに「差別」そのものであるか、良く分かると思うんですけどね。シュライクの話はそういう含意なのかどうなのか。

 ノルマンディー上陸のときなんて、爆撃で死んでしまった牛さんの死骸がそこらじゅうにごろごろ転がってたんだよ? イルカやワンちゃんに爆弾積んで、スクリューやらエンジンやらの下で餌付けしたの誰だよ(ロシアだろ?)。それはまた別の話か。

【DAI】ソーシャル・メディア・キット、ウォールペーパー

USのEAの方ですが、表題のツールがダウンロードできます。

http://www.dragonage.com/#!/en_US/news/social-media-kits-wallpapers

 コールが・・・、まじ怖い。

Daiwallpaperandroidcole2

(画像はブログ容量制限上、かなり縮小しております)

 なんか、スティーヴン・キングの某ホラー作品の主人公みたい・・・。

2014年10月26日 (日)

Strikebreaker

 今や日本のサイファイ・シーンでは一切相手にされなくなり、ゴミクズ扱いとなっている故アイザック・アジモフ博士ですが、日本のサイファイ・シーン自体が一切相手にされないゴミクズ扱いなので構わないと思います。

 映画"Edge of Tomorrow"(2014)とかで浮かれているはずないと思うけど、あれ、和製サイファイつうよりラノベだし、うまく行ったのは脚本とトムのおかげだから。しかもボックスオフィス的にうまく行ったわけじゃないから。マイケル・ベイのトランスフォーマーに勝てるはずないから。

 やっぱトムは、やさぐれたキャラクターをやらせたらピカイチです。"Magnolia"(1999)並によかったのではないかと思ったら、案の定、あの映画のキャラクターを手本にしていたようです。脚本も、非常に乾いた、思わずにやりとさせられる諧謔が頻繁に登場して、マンネリに陥りやすい物語を救っている。

 映画としての出来栄えで言ったら、褒めざるを得ないと思います。"iteration"(反復代入)ものとしてはかなり上出来。「ループもの」というのは、ちょっと頭悪い呼び方なのでやめてほしいと思いますけど。

 以下、表題作のプロットそのものを記述します。ネタバレです。

 アジモフ博士の1957年の短編サイファイに表題のものがあります。直訳の意味は「スト破り」。和訳はどんなだったか忘れましたが、「アンタッチャブル」(不可触民)だったかもしれない。小惑星エルスヴェア(どこか別の世界、というしゃれ)に住む三千人は厳格な職業カースト制に支配されており、個別の労働分野はそれを担当する家系以外の者が担うことは厳に禁止されている。

 その小惑星で廃棄物処理(当然、汚物処理を含む)を担当していた一家がストライキを開始する。長い歴史の間に、その一家は他の家系から接触を忌避されるアンタッチャブル、不可触民となっていた。ストライキはその孤立的立場の解消を要求する目的だったが、政府は拒否。このままストライキが長引けば、小惑星の廃棄物処理作業は停止したままとなり、いずれ住民は衛生状態の悪化に伴う疾病の蔓延によって死に絶えてしまうだろう。

 研究目的で訪れていた地球の社会人類学者は、状況が打開されないことを危惧し、逡巡しつつも政府の依頼を受けて廃棄物処理システムの運転管理作業に従事する。地球人の「スト破り」を見てとった不可触民の家系はストライキ完遂を諦め、本来の業務に復帰した。

 小惑星社会の壊滅もあり得た事態を解決した地球人は、だが、住民たちの称賛を受けることはなかった。それどころか、彼はいまや穢れた仕事に携わった不可触民と見なされる。かの家系の者以外、彼にスト破りを依頼した政府関係者含め、小惑星の誰一人として彼に接触しようとする者はいなかった。 

 アジモフ博士の提示した教訓とは多少ずれていますが、私はもちろん、エボラ熱の治療にまい進していた医療関係者たちが、ニューヨークなどの空港で受ける酷い仕打ちをリファーしています。
 逆に考えれば、小惑星の住民たちは、土地の風習と禁忌に従って、エボラ熱で死んだ親族の遺体が火葬にされることを防ぐため隠してしまう土地の人間たちと共通している部分があると見ることもできる。

 なお、自分たちも山ほど「迷信」に惑わされている島国の連中が勘違いしているのではないかと心配なのですが、職業カースト制には社会システム上の合理性があるわけだし、なにしろこの島国にも現に存在していた。

 今でも存在している? そういう主張をするときは、注意深いに越したことはないですね。核燃料汚染問題、その風評災害については今のところそうではありません。だが、この短編の小惑星でもそうであったように、やがて風習や習慣がその由来や意義を喪失して制度化されれば、同種の「差別」になることはあり得るかもしれない。

 時を越え、場所が変わっても色々な状況に適合するから「寓話」なんですけどね。

Last Flight 14(1)

 前回のくだりは、「動物のお医者」(略)みたいで、正直辛かった・・・。やっぱ戦闘シーンは楽です。

***

第十四章

5:19 エグザルテド

「来るぞ」 リズメが告げた。彼は左目に当てた真鍮製の望遠鏡を目を細めて覗き込んでいる。「焦天陣のところまで接近中」

 両性具有のメイジは、ディープロードを封鎖する戦いで受けたピンク色の傷跡がまだ残っていたが、それも衣裳の趣向の一部に仕立てていた。今日は男の格好で、黒髪は肩よりも下まで垂らし、同じだけの長さの髭を伸ばしている。頭蓋の左側に残る生生しい斜めの縞状の傷跡の回りだけは髪も髭も綺麗に刈り取られ、ピンクの輝く傷口が剥き出しとなっていた。 

「数は?」とイセヤが緊張気味に尋ねた。彼女は兄からグリフォンに乗ったメイジとアーチャーの小部隊を委ねられていた。部下の全員が手練れの古参ウォーデンだったが、規模は大きくなかった。この戦での役割は補助的なもので、重要だが小さい。ダークスポーンが予想よりも大規模なら任務遂行は不可能だった。

 彼女たちの任務は、ホスバーグの南方にあるラッテンフラス河の分岐にいるダークスポーンを殲滅することだった。友軍の大部分はガラヘル麾下で街の北西に位置しており、ダークスポーンの軍勢のうち最大の群れと対峙している。
 南方の戦線は比較的静かだったが、その空虚さこそ欺瞞だった。誘うような間隙は、ダークスポーンが軍勢の大きな部分を割いて後方から奇襲を仕掛けるよう仕向けるためのもので、ウォーデンは弓と剣ではなく、策略と魔術で敵を粉砕することを意図していた。

「二百か、あるいは二百五十」 リズメがしばらくして答えた。望遠鏡を下ろすと、肩越しにイセヤのほうを振り返る。風が彼の髪を捕え、彼の後ろに黒い絹のバナーのようにはためかせた。「ほとんどがハーロックで、シュライクも少し。オーガは三匹いる」
「アーチディーモンはいない?」とイセヤが尋ねる。
「いない」とリズメが認めたが、驚くべきことでもなかった。アーチディーモンはここ何週間も目撃されていない。直近の信頼に足る情報は、アンティヴァ・シティの廃墟の上空、六日前のものだ。

 アーチディーモンが今日の戦いに現れないのは安堵でもあり、失望でもあった。現れればブライトを終息させる機会だが、また一方ではより大きな破壊に見舞われることも意味した。七年続いた籠城の後で、ホスバーグの守りにそのような強敵と会いまみえる力は残されていない。

 リズメは再び望遠鏡を構え、接近するダークスポーンの姿を覗いた。イセヤには地平線に見える動く闇にしか見えない。ラッテンフラス河の輝く流れは、ブライトのもたらした旱魃のため、今や土手から二十ないし三十ヤードも下がっており、進軍する鋸の歯のような群れの後ろでたどたどしく流れている。
 やつらの前方、ウォーデンたちとグリフォンたちが待ち伏せを仕掛けている場所までの丁度中間あたりには、焦天陣が敷設されている。

 ドワーフたちがディープロードでダークスポーンどもと戦う際に用いる罠から翻案された焦天陣は、沢山の壊れた鎧、鋭い岩、その他の破片が一杯に詰まった、地中に埋められた大きな土器群のことだ。それぞれの土器の中心には特別仕立ての石がいくつか入れられ、それぞれの石にはレリウムでルーン文字が記されており、ドワーフたちが彼女の兄に請け負ったところによれば、適当なときに着火すれば爆発する仕組みになっているということだった。精度は悪いと言わざるを得ず、失敗しやすい仕掛けではあるが、レリウムの紋様がダークスポーンどもに壊滅的な打撃を与えることを保証するはずであった。

 墓標には斃れた者たちの武器が飾られており、それはオーレイやテヴィンター帝国の一部における習わしだった。セダスの文明国に土葬を風習とする国はほとんどない。ディーモンや悪意あるスピリットが死骸を乗っ取る危険があまりに大きすぎるためであり、代わりに屍を焼き、武器を飾るのだった。

 ところがアンダーフェルズでは、生活は厳しく、武器は死者に奉じるにはあまりに貴重すぎた。ダークスポーンがヒューマンの習慣を少しでも知っていれば、貴重な矛槍や槍が岩だらけの墓標に飾られているのを訝しく思ったにちがいない。
 だがガラヘルは、ダークスポーンがそのような些細なことまで気にするはずがないと考え、また連中が敵の死骸から優れた武器を漁る機会を見逃すはずがないと見込んでいた。ハーロックやジェンロックには鍛冶の才能がなく、追従するグールたちの手練に頼っていたが、グールたちも鍛冶場の作業に長けているわけではない。故に彼の見立てによれば、四つの墓標に置き去りにされた武器を目にしたダークスポーンどもが、そのような戦利品をみすみす見逃すはずがなく、先を争って奪い合うに違いなかった。

 そしてダークスポーンが槍や矛槍や、金物付きの得物を手にしたとき、やつらは死ぬ。それらの武器に結び付けられた導火線が隠された焦天陣まで続いている。少しの間を置いてレリウムのルーンが起動し、そして願わくば、より多くのダークスポーンが殺到してきた頃に、焦天陣はその名の通りの働きをなす。

 イセヤは近くで目撃したかった。火を用いる技術は何でも好きで、ドワーフの作った爆弾は優れものに違いなかった。ウォーデンたちは、それを今まで一度も用いたことはない。数か月前に受け取ったばかりで、ガラヘルの終わりのない同盟集めの努力の成果だった。ドワーフたちは数多くの戦士を割くことは嫌ったが、鉱山カースト出身の二人の女性とともに、いくつかの荷車に山と積まれた資材を送りつけて来た。

「もうすぐだ」とリズメがつぶやいた。「準備しろ」
 イセヤは頷き、他の者たちが待つところまで退いた。少し後にリズメもやってきて、低く腰を屈めながら、依然として望遠鏡でダークスポーンの動向を監視している。

 仲間のグレイ・ウォーデンはわずか二十三名で、一ダースのグリフォンを伴っていた。彼らは、ホスバーグの鉱夫たちが渇き壕になるように堀り広げた自然の渓谷に隠れている。何年も前にはラッテンフラス河が壕を水で満たしていたが、ブライトが長く続き、河の水位が下がってしまったため、壕の底は今や固い泥がむき出しになっている。そこには、残念なことに、待機するグレイ・ウォーデンたちを悩ますブヨどもが棲みつく程度の湿気は残っていた。
 ブヨの雲を手で振り払うと、イセヤはリーヴァスの鞍に跨った。カリエンはすでに後ろの鞍に掛けており、他の者たちも同様にしていた。全ての乗騎が二人乗りで、ダナロのシュライクだけは、ジョイニングの後で相当気が立ったままなので、主人一人だけを乗せていた。

 シュライクは他のグリフォンたちから少し離れ、思い悩むような不機嫌な様子でしゃがんでいた。イセヤの儀式の後、あっというまに回復したが、その経験に怒りを覚えているようだった。苦難から復活した後はずっと怒りっぽく、他のグリフォンたちもシュライクに対して同じように敵意を顕わにしていた。シュライクは他のグリフォンとすでに二度喧嘩をして危うく殺しかけ、夕飯用のヤギを届けた後も長くそこに留まってしまった厩舎番の片腕にもひどい怪我を負わせた。ダナロだけが、威嚇の啼き声や、憎悪に満ちた視線や、それ以上悪いことに見舞われることなく、彼のグリフォンに近づくことができた。
 シュライクに二人目を乗せないのは当然だった。イセヤは、そのために今日彼らが苦労することのないよう願った。

 北方の遠くからは、戦太鼓の鳴る音と、進軍を促す喇叭の騒がしい音が聴こえて来た。ホスバーグの戦いが間もなく始まる。
 ダークスポーンもまたそれを聴いて知っている。何匹かが迷っているように引き返そうとしているのは、ラッテンフラス河を渡って戦いに参加すべきかどうか逡巡しているからだろう。さらに多くは駆け出して、墓標の傍の武器の方に突進を始めていた。

 オーガどもが先頭に出て、回りの小型のダークスポーンどもを弾き飛ばしながら、自分たちの図体が大きすぎて使えもしない戦利品を目指した。やっとこのような口をしたシュライクどもは、オーガの足元に纏わりつき、大型の仲間に先んじようとしている。

 墓標に辿り着くと、ダークスポーンはそこに留まり、頭を持ち上げて空気を嗅いだ。風向きはやつらの方に向かってはいなかったが、それでもイセヤは緊張した。ダークスポーンの能力は計り知れず、ときに彼らもまた、ウォーデンたちと同じように、ジョイニングの儀式で同族となったグレイ・ウォーデンの存在を察知することができるのだ。

 やつらが壕に潜むグレイ・ウォーデンの存在を察知したとしても、それを示す動きはなかった。オーガどもは、気味の悪い、鳴き声を挙げるシュライクどもと争うように墓標に押し寄せた。たこまみれのでかい手とともに、針のような爪のついた痩せこけた手が槍や杖を掴むと、罠仕掛けの武器を持ち上げ、勝利の叫びとともに空中に掲げた。ハーロックとジェンロックもやってきて、羨ましそうに吠えたり、鳴いたりし、叫び声をあげるシュライクどもから小さな武器を奪い取ろうともみ合った。その周囲ではオーガどもが、戦利品を取り合いながら踊りを踊るようにぐるぐる回っている。

 そして、やつらの足元の地面が爆発した。

***

 島国では、かつては(儒教の影響もあって)安上がりな土葬文化、仏教の影響を受けた後は火葬文化も生じたので違和感はないでしょうが、USでは火葬が宗教上禁忌と見なされることもあり、あまり一般的ではないようです。
 一方UKなどでは火葬のほうが一般化しているそうで、ここら辺詳しいところ良く分からないのですが、(火葬が流行したのは)この島国でも土地の有効利用のためもあったそうで、文化だけではない要因も影響しているのでしょうね。

 西アフリカ諸国の一部でも、火葬は習慣上禁忌なところがある。焼かれた死者は再生できずに、この世を呪われた亡霊として彷徨うとの言い伝え。
 そのためエボラ熱の死者が焼却されるのを避けるため、家族や親族が隠してしまうことがあるとか。死んだ直後の死体からの感染確率が一番高いので、親族も続いて死んでしまうのではないか。
 禁忌を犯すくらいなら死んだ方がまし。国連の低能どもは、諸国の文化の違いをきちんと理解できるのだろうか。

 島国では幽霊がメジャーで、あちらではゾンビやスケルトン(まとめてリヴィング・デッド)がメジャー。そんなところにも関連していそうです。まあ・・・、あまりに爆発的に死人が出て火葬する暇がない場合は、島国だってゾンビだらけになるわけですが。

 以前、ゲイダーさんが反省とともに述べていました。、DAOリリース直前のテストで、レッドクリフに「土葬」の墓があるのを見つけ、あわててアート部門に怒鳴り込んだが、時すでに遅しで修正不可。大量の書類を渡しただけで、設定をきちんと説明していなかったライター衆も悪かった。
 死者が蘇る話そのものが進行中のレッドクリフに土葬の墓。さすがにそれはまずいわけですよね。

 skyburners、スカイバーナーズ、「焦天陣」と訳しましたが、要は敷設爆弾、偽装爆弾、大掛かりなブービー・トラップなのですね。戦利品目当てに殺到してブービー・トラップに引っかかる。近代戦争では至るところで行われていた(今も「いる」)策略のようです。

 ところで「ブヨ」は関東弁なんですね? 漢字は蚋(ブユ)しか出ないのだ。
 果たしてあちらでいうgnatsが、この島国でいう「ブヨ」(ブユ)と同じかどうか定かではないが。

Last Flight 13(2)

 ようやく復帰。

***

 顔をあげた兄は、今必要なのかと尋ねた。
 彼も、アマディスやユーヴァシャ同様、長い籠城戦の疲れと来るべき戦いのため緊迫した様子で、三人とも以前より痩せ、目と口の周りには疲労の色が濃く出ていた。ユーヴァシャの明るい茶色の髪は洗髪されずに汚れ、着の身着のまま眠るアマディスの衣服は皺くちゃだった。
 できるだけ早く彼らの傍を離れるに越したことはない。イセヤは頷き、片手を差し出した。七年前に滑らかで繊細だった彼女の手には、戦傷とエミッサリーどもの呪文の痕跡が残っている。

 忙しいのでしばらく待てないのかと聞き返す兄に、儀式の差配を頼んでいるわけではなく、用具を貸してもらえばあとは自分でやる、と彼女が答える。
 躊躇しているガラヘルの緑色の目は、苛立ちではなく好奇のため光った。妹は、これまで誰かをウォーデンにリクルートしようとしたことはないのだ。
 今までは必要なかっただけ。自分に瓶を渡せば、兄は今の心配事に没頭できるではないか。

 いいだろう、と言った兄は、ポケットから鋼鉄の指輪を取り出した。そこから飛び出している小さな鍵は変哲のない銀製で、くすんだ灰色に変色しており、宝石箱以外に合う大きさではない。
 用具箱は自分の机の中にある。終わったら元通りに返しておくように、と告げられたイセヤは承知して鍵を受け取り、アマディスとユーヴァシャに軽く会釈をしてから扉に向かった。

 彼女は、待ち構えていた女王マリウェンにやさしく前腕を取られた。親指以外の指にはどれにも輝く宝石のついた指輪をはめ、爪にはラッカーが塗られたばかりの手、軽い手触りに過ぎないのに、エルフはまるで鉄の棒に突き刺された蝶のように、その場で釘づけになった。 

 女王マリウェンは青紫色の瞳を寄せると、兄ガラヘルについて聞きたい、と囁いた。瞼には真珠の粉が散りばめられ、コールのメイキャップが長い睫毛をさらに際立たせている。巻毛の黒髪と、大きく胸の開いた青いヴェルヴェットの夜会服からは、薔薇と遅い夏のプラムの香りが漂っていた。七年の籠城生活は、女王の外見にも思考にも何の影響も及ぼしていないかのようで、イセヤにはそれが心底我慢できなかった。平静を装う顔に、多少その苛立ちが出ていても構うつもりはない。兄とは何年も一緒にいるのに、今さら何を聞きたいのか、彼女は尋ねた。

「あら、言い間違えたかしら」 女王の甘い調子が、無邪気に高まった。「あなたから彼に、わたくしのことについて伝えていただけないかしら、と言うべきだったかもしれません。フィールド・コマンダーはご多忙に過ぎて、わたくしと過ごすお時間がないご様子。もちろん、外のひどい状況のため頭を一杯にされているのは致し方のないことでしょうけれど、もうすぐそれからも解放されるのではありませんかしら?」
「そう願っています」 答えながらイセヤは注意深く、女王の手から自分の腕を抜いた。
「グレイ・ウォーデンが勝つことに、わたくしは何の疑いも抱いておりません。あなた方はどなたも大層勇敢でいらっしゃるから。そして中でもフィールド・コマンダー・ガラヘルは、お顔立ちも良く、なによりも礼儀正しいお方。稀に見る殿方。わたくしは熱烈に敬愛しております」
「ガラヘルは、ご厚意に痛み入るに違いありません」
「そうでしょうか」 マリウェンの笑顔が曇った。「もちろん、わたくしも直接申し上げたのですが、あのお方は本当にお忙しい。ですが、一たび籠城が終われば、それも変わるのではないかと心から望んでおりますの。この恐ろしい戦が終われば、ユーヴァシャもずっとありふれた任務に戻ることができるでしょうし・・・、おそらく彼にも、女王の敬愛を受ける余裕がようやく生まれるのではないかしら」

 イセヤは目を細めたが、素っ気なく一度頷いた。彼はなんと言うだろう、またアマディスはどうするだろう。アンダーフェルズの今後の協力を取りつけるための担保として、彼が女王の要求を受け入れなければならないと知ったなら。「お伝えしておきます」
「そうしていただけると信じておりましたわ」 女王マリウェンは、つやのある黒髪を片方の肩の後ろに跳ねあげると、立ち去る前に睫毛をしばたたせ、最後の媚を振りまいた。「アンダーフェルズの民は皆、あなた方の働きに感謝しております」
「ありがたいお言葉」とイセヤは言った。ふたりの会話の一部を立ち聞きしていた古参ウォーデンの、どうしようもないほど不愉快そうな顔に目配せし、彼女は部屋から逃げるように立ち去った。

 外に出た途端、彼女は一気に自由になった気がした。待ち受けている危険で不快な仕事が、女王のくだらない欲望に対処するより千倍もましに思えた。大きく息を吐くと、彼女は階上のガラヘルの部屋に向かった。
 兄の部屋の前には若いグレイ・ウォーデンの立哨がいた。ぎこちなく緊張した様子の敬礼を不要だといなし、イセヤは兄の部屋からジョイニングの用具を持ち出すことを告げた。若いウォーデンの名は覚えていなかったが、彼もつい一か月前にジョイニングを経たばかりだった。

 また誰か儀式を受けるのか、期待と、自らの儀式の経験の忌まわしさの記憶の両方の入り混じった表情で尋ねる新米に曖昧な返事をし、イセヤはガラヘルの部屋に入った。彼の部屋はとてつもなく質素であり、ジョイニングの儀式の用具を見つけるまで時間はかからなかった。机上にある何枚かの軍用地図と手紙以外、洗面器と、整えられていない寝台があるだけで、部屋を散らかすようなものはない。彼は長い戦いの間で城中に飾り付けられるほど沢山の戦利品を手に入れていてもいいはずだが、この部屋の飾りは、クロッキーテイルの抜け落ちた羽根が入れてある壺ひとつきりだった。その羽根は彼の矢羽に用いられる。アマディスの寝室着が一着と、羊皮のスリッパが寝台の傍に置かれ、磨かれた鎧と革の匂いの他、女用の香水の香りがかすかに漂っていた。

 イセヤは、鍵のかかった机の引き出しを開けた。中には、角を灰色の金属で囲われた黒い木製の箱があった。警告を示す印はないが、簡素な造り自体が危険を伝えている。イセヤは、まるで生きた蠍が入っているかのように慎重に箱を持ち上げた。
 もちろん中身は蠍よりずっと危険なものだ。爪の先で蓋を開けると、くすんだ銀杯、レリウムの粉末の入った小袋、そして曇った灰色の小さな瓶が三つ入っていた。ヴェルヴェットの敷物はぼろぼろになって、馬の鬣の詰め物がはみ出し、内容物を包み込んでいる。瓶のうち二つには澱んだ黒い液体が入っていたが、三つめはほとんど空だった。瓶の底に数滴分の液体が残っているだけだったが、イセヤの用途にはそれで十分だった。アーチディーモンの血が一滴あれば、ジョイニングの儀式には事足りる。

 箱を閉じ、外套の下に隠し、引き出しに鍵を掛けると、部屋から出た。若いウォーデンが再び彼女に敬礼する。ウォーデンは、とりわけ戦場では儀礼に拘らないのが伝統だが、彼はそれに安心を求めているようでもあり、害があるわけでもないので彼女も真似して返礼した。自分自身の恐怖を克服する手段も、そのくらい簡単に見つかれば良いのだが、メイカーは彼女に平穏を与えるつもりはないようだ。彼女は城を出て、シュライクのいる治療用の厩舎に向かった。

 シュライクは厩舎の仕切りのひとつの隅で身を丸めていたので、見つけ出すまで時間がかかった。たとえ怪我をしていても、グリフォンは厩舎の中に留まるより大空に飛び立つことを好む。だが、シュライクは落胆とともに闇の中に縮こまり、イセヤの方に頭をあげもせず、逆に翼の中に頭を深く埋めた。自らの汚物の中に無頓着に留まっているため、毛皮は汚れきっていた。
 誇りを剥ぎ取られたグリフォンの姿はイセヤの心を痛めた。大空の支配者である高貴な獣は、ふだんは見かけどおりの威厳を示しているものなのだ。

 仕切りの外に跪いたイセヤは用具を広げた。ガラヘルの箱の隣に、ナイフと、昨日手に入れたハーロックの血の入った瓶を置く。ハーロックの血は黒っぽい赤色だが、ガラヘルの箱に入っている古代の瓶の内容物のほうは完全な黒色でずっとどろどろしている。第三のブライトのアーチディーモン、二百年前にハンター・フェルで成敗されたトスの血だ。

 シュライクはイセヤの用具のほうを向こうともしない。彼女は銀杯の中に輝くレリウムの粉末を入れ、ハーロックの血を注いで溶いた。渦を巻く溶液にアーチディーモンの血を一滴垂らすと、冷たく黒い蒸気が銀杯から立ち上り、ダークスポーンの腐食の、身も凍るような不気味な異臭が漂った。
 イセヤの身体が、自らのジョイニングの儀式の恐怖の記憶のため凍り付いた。同僚リクルートたちの何人かが死に、彼女も危うくそうなりかけた。邪悪さが身体に忍び込み、骨髄に溶け込み・・・、自己の感覚の中心が捻じ曲げられて二度と元には戻らない。彼女に限らずジョイニングを経た誰であっても以前と同じではなく、後戻りはできないのだ。
 だが彼女は生き残り、シュライクにも生き残る道を見つけることができると信じていた。

 フェイドとの繋がりを探ると、イセヤは魔法を紡ぎ出し、慎重に銀杯に注ぎ込む。澱んだ液体はさらに早く渦巻き、その表面には、渦で伸ばされ歪められた、この世に存在していない生き物たちの姿が見えた。

 中に魔法を維持したまま銀杯を横に置き、彼女はナイフを手にしてシュライクに触れることができるほどまで近づいた。ようやく彼女の方に頭をあげたグリフォンの鼻先は灰色になって窪み、羽根は乾いて柔らかい表皮の上で色を喪っていた。赤黒い染みが嘴の内側に広がっており、瞳はぬるぬるしたタールのような黒っぽい汁で覆われている。

 ダークスポーンの血を吸ってからたった一日しか経っていなかったが、穢れは急速にグリフォンを蝕んでいた。イセヤが前脚を取り上げても気にかける様子はなく、耳は萎れ、どんより濁った瞳はエルフの後ろの厩舎の壁のほうに向けられていた。

 助けるから、とイセヤが言っても、抜け殻のようなグリフォンに通じているとは思えなかった。不思議なほど知能があると言っても、獣に違いなく、人語を解するはずもなかった。イセヤはむしろ自分に対して言ったのだった。ダナロを救った代わりに、お前を死なせるわけにはいかない。 

 グリフォンは再び頭を汚れた藁の中に埋め、イセヤがナイフで片方の踵に傷をつけても意に介さなかった。深紅の鮮血がほとばしると、イセヤは血の力を引き出して呪文を完成させた。カリエンが見せてくれたように、シュライクの精神の中にもぐりこみ、グリフォンの野性の意識を自分自身の姿に作り替えた。受け入れよ、とイセヤが念じると、シュライクが嘴を開けた。目は虚ろで何も見ていなかったが、内面は突然の恐慌に襲われていた。頭蓋の中に恐怖の雷鳴が鳴り響く。蜘蛛の巣に囚われた蜻蛉のように、闖入から逃れようと必死に戦っていた。

 受け入れよ、とイセヤが繰り返し、グリフォンの精神を優しく、だが力強く捻じ曲げる。銀杯に手を伸ばすと、慎重にグリフォンの嘴の中に流し込み、呪文をかけたレリウムと血の溶液を何度かに分けて喉の中に流し込んだ。シュライクの精神がイセヤのそれを打ち破るのではないかと恐れたが、彼女はしっかりと抑え込み、感情と記憶の奥底へ、グリフォンの自己の中心に辿りつくまで降りて行った。

 そこで彼女はグリフォンの意識を造り変え、ダークスポーンへの憎悪の念を減じ、汚染を呑み込んでからの変化に対する強い嫌悪も取り払った。それらの感情の代わりに、受容と失念しやすさを埋め込み、変貌の自覚を曇らせ曖昧なものにした。異常な病状を隠し、ただの風邪などの一過性の病気だと思いこませた。

 カリエンが見せてくれたよりも複雑で難儀な作業だったが、イセヤはなんとかうまくやり遂げたと思った。ゆっくりと自分を引き戻すと、シュライクの意識を捻じ曲げたものに委ねた。彼女のぼんやりしていた意識が鮮明になった。気が付くと厩舎の藁の上に跪いており、空になった銀杯は傍らに置いてある。

 シュライクの呼吸が平板となり、鼻先も健全な色に戻った。瞳はほとんど閉じていたが、明るい象牙色の瞳が戻っている。全てが元通りになったように見えるが、本当に元通りかどうか、イセヤにはわからなかった。イセヤがブラッド・マジックから解放すると、グリフォンは即座に不安げな眠りについた。だが眠る姿は普通と変わらないもので、一度だけ咳をしたが、その後は完璧に安静になった。ジョイニングの試みが成功した証かもしれない。イセヤはそう思いたかった。

 イセヤは倒れた銀杯を拾って外套の端で中を拭き、レリウムの小袋とともにガラヘルの箱に戻した。ハーロックの血が入っていた空の瓶も拾ってポケットに入れる。最後にナイフから深紅の血を拭き取ると、治療用の厩舎から慎重な足取りで立ち去った。

 彼女は、まずダナロのところに向かった。メイジは以前どおり寝台に横になっていた。横の机の上に広げてあるアーケイン魔法史に関する書物はおそらく以前と同じページが開いたまま読まれていない。
 彼女が入って行くと、彼は気乗りしなさそうな期待を込めた目をあげた。「うまく行ったのか? あいつを救えたのか?」
「わからない」とイセヤが答えた。「でも、取り敢えず何かはしたんだと思う」

***

 Toth、第三のブライトのアーチディーモン、別名「炎のドラゴン」(the Dragon of Fire)

2014年10月22日 (水)

Last Flight 13(1)

 途中まで空港で書いた(笑)。

***

第十三章

 5:19 エグザルテド

 助けることはできないのか、とダナロが静かに、期待を込めた声で尋ねた。彼は、怪我をした自分の両脚を覆っている野戦用毛布の角を無意識にいじっているが、その部分は過去にも似たようにした者たちの手で汚れて黒ずんでいる。
 彼自身はあと一日二日で診療所から退院できる見込みだ。唯一心配されているのは毒を受けた片足の状態が悪化することだが、彼自身は全く気にかけておらず、シュライクの容体だけを憂慮していた。自分を救ったグリフォンをそのまま死なせるわけにはいかない。このままおぞましいグールになってしまうのは耐えられない。

 ダナロへの共感で胸がいっぱいなイセヤは、そうはならないと約束した。乗り手たちは、その乗騎がトラヴェラーのように戦いで斃れることを恐れていたが、速やかな死であればまだしも、ゆっくりとグールと化していく運命は比べようもないほど酷い。
 フェラルデンの野花が効くらしい、そう話しはじめたダナロは、すぐに首を振り、自分は子供の話に救いを求めている愚か者だと認めた。仮にそんな魔法があったとして、ブライトと七年も戦ってきた今は根こそぎにされているに決まっている。お伽噺のお助け妖精に、杖の一振りで治してもらうよう頼み込むのと同じことだ。

 試すべきことはある、とイセヤが言った。寝台に横たわるダナロを見おろしながら逡巡し、疑わしげな目を向けた。危険を冒すつもりがあるのなら。
 ジョイニングか、そう言ったダナロは自分の言葉にたじろぎ、鼻の横のほくろを片方の親指でいじった。過去にも試されたが、グリフォンには通用しなかったし、それから五十年の間、誰もが考えることを避けたほど悲惨な結果だった。たとえ上手くいくとしても、汚染で死にかけているグリフォンは救えない。

 そうかもしれないが、思いつく方法はそれしかない、とイセヤが言った。最初の儀式は、今のシュライクと同様、汚染で死にかけた人々を救うために試されたのだ。何を喪うものがある。
 山ほどある。微笑もうとしたダナロの唇が歪んで渋面になった。ほくろをいじっていた手が再び毛布をもてあそびはじめた。シュライク、イセヤ、それ以外の多くの友人たち。グリフォンにジョイニングの儀式を受けさせたときの物語は、イセヤだって聞いて知っているはずだ。
 イセヤも知っていた。五十年前の試みがもたらした警告は、ウォーデンたちの胸中に鮮明に残っている。ジョイニングの儀式を受けたマバリ戦犬の運命は、ヒューマンたちと変わらない。一部は死ぬが、生き残ればウォーデンのような無謬性と同調性を獲得する。仮にマバリがヒューマンほど長生きするならコーリングすら経験するのかもしれなかったが、犬の寿命は短く、戦犬であればなおさらだった。

 だがジョイニングを経たグリフォンは、手が付けられない猛烈な憤怒に見舞われる。その爆発的な暴力は、付近にいるもののみならず自らも危険に曝す。ダークスポーンへの嫌悪は自らの肉体に宿った汚染さえ許さず、高貴な生き物は荒々しい激怒とともに自分の身体を食いちぎってしまう。その古い試みの恐怖と惨劇のせいで、ウォーデンたちは二度とその道に踏み込ませないよう肝に銘じているのだ。 

 だが当時のウォーデンたちはブラッドメイジではなかった。そしてイセヤは、カリエンから学んだことのどこかに、グリフォンがダークスポーンの汚染を受け入れる可能性が見いだせると信じていた。グリフォンたちの心を歪め、完全な憑依ではなく、だが受容を強いることによって、その意志をほんの僅か曲げることができるなら、盲目的な嫌悪を克服し、汚染と共存できるかもしれない。

 ダナロは頭を持ち上げ、イセヤの顔を探るように見詰めた。平凡な農奴の顔に浮かぶ心の広さと正直さは、あからさまな期待を隠しもしていなかった。彼は、自分が愛するグリフォンをイセヤが救うことを信じたかった。だが実のところ、信じてはいなかった。
 試すがいい、と彼は言った。そのつもりだとイセヤが答え、兄を探しに出た。

 ガラヘルは城の指揮所におり、アマディスの他一ダースの者たちと評定の最中だった。古参のグレイ・ウォーデンたち、民兵隊長たち、傭兵団長たち、彼らはアンダーフェルズの玉石混交の軍勢を率いる者たちで、ダークスポーンが補充を遮断されているうちに、ホスバーグの包囲を打ち破るべく軍議を行っていた。

 そこにはユーヴァシャ、アンダーフェル王立軍の女貴族の司令官も加わり、また愛らしい、常に口を尖らせている摂政女王のマリウェン、二年前にオーガに肋骨を叩き折られて短い統治を終えた亡きエノー王の代わりとして、ホスバーグの指導者の地位に就いている彼女もいた。エノーの家督グリヴォード王はまだ三歳で、育児室から統治することは適わない。

 その母は、当然のように支配者の地位を喜んで引き受けた。そしてイセヤも宮中で囁きを耳にするように、女王マリウェンに対する最悪の誹謗は、他でもないブライトのおかげで、実質的な支配が彼女の代わりに女司令官ユーヴァシャの手に委ねられていて幸いだった、というものだった。女王は、目にした男前の傭兵に手当たり次第に媚びを売る一方で、ユーヴァシャは静かに、疲れも知らずに必要な職務を果たしていた。

 ユーヴァシャは地図台の一方の端で、アマディスとガラヘルと一緒に頭を寄せ合っていた。イセヤが近づくと、地図上の兵の配置を示す駒が目にとまった。白い大理石の人形がホスバーグの街の内外に位置するウォーデン、メイジ、グリフォン、そしてさまざまな傭兵軍団を示す。子供の遊びで用いる黒と白の石はアンダーフェルズ王立軍。山と積まれた乾いたゴキブリの死骸がダークスポーンで、ガラヘルの突飛な命令に従って召使たちがかき集めたものだった。 

 彼らはラッテンフラス河沿いのどこでダークスポーンどもを包囲殲滅するのがよいか、どうやってその罠に誘い込むかを議論していた。アーチディーモンに率いられていてさえ、ダークスポーンは通常の軍隊のような行動はとらない。補給路も、兵の損耗も意に介さず、ただ闇雲に獰猛な突進を繰り広げる相手は、ヒューマンやドワーフの指揮官が注意深く待つ罠の只中に引きずり込むことができる。

 それがうまくいくときも確かにある。だが、アーチディーモンが狡猾にも群れを死地から逃れるように誘導すれば、罠は仕掛けた側にとってしっぺ返しとなる。その先の読めなさが、重大な難関だった。

 だがそれは、今日の彼女にとっての難関ではなかった。イセヤは地図台のそばをすり抜けると、兄の肩を叩いた。

「ジョイニングの儀式に使う用具がいるの」

***

 「グール」(ghoul)とは、ダークスポーンの汚染を浴びながら生き延びた生き物(ヒューマノイド含む)のこと。熊、狼、ウェアウルフ、カラス、蜘蛛などが本編ゲームに登場する代表格。徐々に知性・知能が蝕まれていくのみならず、一般に不気味な異形に化していく(ヒューマノイドだけは、辛うじて原形をとどめるようだ)。
 ブルードマザーは、強制的にダークスポーンの肉を食らわされ、「グール化」(ghouldom、本編ゲームには登場しない、著者の造語)されたヒューマノイドの女性。DAOにもむごたらしい姿で登場しました。

 グレイ・ウォーデン、あるいは上述の汚染を克服したマバリ犬はそうは呼ばない。汚染への無謬性と、ダークスポーンに対する(またはアーチディーモンの歌声への)同調性を得つつ、少なくともコーリングまでの間は知性・知能を保持するから。

 以前紹介したゲイダーさんのTumblr記事で、「マバリの寿命はどのくらい?」というファンの質問は、おそらくここの部分からきているのでしょう。

 Uvasha、Lady-Commander ユーヴァシャ
 Mariwen、Queen-Regent マリウェン 
 King Henault、エノー王
 King Grivaud、グリヴォード王

2014年10月20日 (月)

Last Flight 12(2)

 なんとか、ここまでは。

***

 足場を喪ったイセヤは腰から崩れ落ち、したたかに打ち据えた尾てい骨が折れてしまったかもしれないと思った。地面が暴れ馬のように揺れ動き、断裂の深淵から沢山の手が付き出されてきた。

 必死に何かを掴もうとする数知れないほどの化け物の手、その爪は土を掻き分けようとして割れている。三本指のものも、六本、七本指のものもあり、雨に打たれた蒼白い芋虫のような指も、不気味なたこができた指もあった。砂混じりの黒い血が、裂けたり擦り切れたりした肌から滲んでいる。
 その血と、冷たくねとついた飢餓だけがやつらの共通点だ。

 手は彼女の肌を切り裂き、地中に引きずり込もうとし、ずるずると落ちていくイセヤの視界には、やつらの顔が悪夢の海から湧き出すようにせり上がってくる。ハーロックとジェンロックに加えて、痩せこけたシュライクの顔が見えた。やつらのとがった耳は浮き出た血管で囲まれた頭蓋にぴったりと張りつき、怒りに燃えた目で土の中から歯を突き出してくる。やつらは届くものは何でも引っ掻き、噛みつこうとしていた。ぐらつく足場から必死に逃れようと四苦八苦しているイセヤは、他のウォーデンたちも同じような憂き目にあっている様子を見た。

 中にはさらに悲惨な運命の者もいた。襲撃者たちの手に囲まれた射手のジョラクは、身動きもしていない。近くに転がる岩や砂が、彼の首筋から噴き出した血で紅く染まっていた。
 死んだ射手から二十フィート向こうでは、フェリスが腿や踵に纏わりつこうとする手を蹴り飛ばしている。彼女の矢は手の届かないところに散らばっていて役に立たない。肩まで地中に埋まったハーロックの腕が、大きな石で彼女の傍の地面を闇雲に打ち据えている。近くに半ばうずもれたジェンロックの頭が叩き潰されているのは、ウォーデンのものと間違えられたからのようだが、明らかに間違いに気づいているはずのハーロックは、それでも地面を打ちすえることをやめず、凶暴に振り降ろす血だらけの石は、次第にフェリスのほうに近づいていた。

 リズメが戦う場所からは、眩い閃光がひっきりなしに見えた。両性具有のメイジは、自ら巻き添えになるのも厭わず、ダークスポーンどもに零距離で炎の呪文を放っていた。潮まみれの網だったかつらは緑色の炎で燃えあがり、あしらわれていた数珠玉はほとんどが破裂して吹き飛んでいた。肌は剥き出しのまま赤く、また黒く焼け焦げ、頬とまつ毛の鱗は白く焼かれて剥げ落ちていた。彼女がまだ生きているのは不思議なくらいであり、またさほど長くは持たないように思われた。

 他の者たちの姿は見えなかったが、イセヤは見たいとさえ思わなかった。 リズメに触発された彼女はフェイドを探り、エナジーを純粋な力に変えて、彼女を取り巻くダークスポーンのただ中に撃ちつけた。
 衝撃は砂煙と血しぶき、そして岩石の欠片を巻きあげた。爆風に備えて目を閉じていたイセヤの額を岩の破片がかすめ飛び、彼女は思わず悲鳴をあげた。熱い血が肌を流れ落ち、瞼を覆う。
 だが呪文は周囲のダークスポーンを吹き飛ばし、彼女はほんのわずか生まれた隙を無駄にはしなかった。袖で瞼をせわしくこすると、身体を跳ね上げ、緩んだ地面やダークスポーンの手に躓きながらも丘を駆け下りた。血が瞼に容赦なく滴り落ちるのもものともせず、ピンク色の涙を振りまきながら走り続けた。

 彼女はグリフォンの羽ばたきを耳にして目をあげた。
 グリフォンたちは乗り手たちの救出にやってきた。シュライク、ダナロの黒い帯のある灰色のグリフォンが丘の斜面を急降下してくる。崩落以来、イセヤがダナロを目にしていなかったのは、彼が早いうちから倒れ、周囲をダークスポーンに取り巻かれていたためだったが、シュライクは空中から即座に彼の居所を見つけた。グリフォンは着地し、叫び、倒れた乗り手の回りで地中からようやく抜け出したダークスポーンどもを、爪と嘴で片っ端から切り刻みはじめた。

 フェリスの乗騎、黄褐色のトラヴェラーが頭上を飛び過ぎるとき、その翼は遮る陽光のせいで銅色にも銀色にも見えた。グリフォンは旋回して戻ってくると射手の傍に着地して埃の嵐を巻きあげる。爪のひとかきで岩を握りしめたハーロックの腕をその身体から引き千切ると、もう一方の爪でフェリスの腰のあたりを掴みあげ、離陸しようとして荒々しく羽ばたき、そしてしくじった。地面はグリフォンが飛びたつ力を与えるにはあまりにぐらついていた。

 地面は再び傾き、崩れ始めた。イセヤは膝から崩れ、あっという間に四フィートも落下した。足下では、先ほどまで固かった土が水のように流れ落ちている。エルフの傍に近寄れないリーヴァスは、崩れ落ちる丘の上空を旋回し、苛立ちの啼き声を上げていた。 

 丘の上、トラヴェラーが飛び立とうとしていたあたりは、まるで叩き割られたメロンのように崩れ落ちた。真ん中に大穴が開き、周囲がその空洞に向けて滑り落ち、グリフォンもそこに呑み込まれていった。トラヴェラーはずり落ちる地面にしがみつき、狂ったように翼を羽ばたいていたが飛び立つことはできず、崩れ落ちる地面で奇怪な芋虫のようにのたうちまわるダークスポーンどもが、その身体をずたずたに切り裂いていた。

 シュライクはほんの少しだけましだった。前脚でダナロを掴み上げると、なんとか飛翔する力を得ようとして丘を飛び跳ねながら駆け下りていた。自ら傷は負っていなくとも、嘴のまわりの毛皮にダークスポーンの血が黒ひげのようにこびりついている。丘の向こうの猛禽の象牙色の瞳がイセヤと会い、何年もグリフォンと暮らしてきた彼女ですら信じられないことに、そこには悟りと受容が見て取れた。

 ダークスポーンの汚染はシュライクを殺してしまう。グレイ・ウォーデンが乗騎に決してダークスポーンを噛ませないよう躾け、ときには嘴の回りを口輪で覆う理由がそれだ。ダークスポーンの血の穢れは、呑み込んだものを歪め、狂わせ、やがて死に至らしめる。既知の治療はなく、病状を避ける術もない。彼女も、シュライクもそれを知っていた。その瞳に宿る諦観がそれを強く物語っていた。その諦観は、だが後悔ではなかった。翼に風を受けてシュライクは飛びたち、ダナロを掴んだままホスバーグに向け離脱していった。

 イセヤは呪文でトラヴェラーを救えるかどうかと思案し、逡巡した。だがこの混乱の中で、呪文を命中させる角度を確保するのは困難だった。グリフォンの動きはあまりに早く、半狂乱で、フェリスの姿も全く見えなかった。グリフォンの前脚の筋肉の動きからまだそこに掴んでいるようにも見えたが、そうだとしてもまだ生きているかどうか定かではなかった。上空のリーヴァスの啼き声が痛いほど耳を打つ。

 彼女は諦めた。最後にジェンロックの手を蹴り飛ばし、惨劇の場から脱出した。安全な場所に出ると、即座にリーヴァスが降下してきて彼女を鞍に乗せた。ダークスポーンをあれだけ嫌悪していたにも関わらず、リーヴァスは一切の攻撃を行わず、悔し気な怒りの声をあげただけで、彼女を乗せて空に舞い戻った。

 上空からは、事態がよりはっきりと見えた。地上では絶望的に思えたが、結局のところ彼女たちは成功したようだった。丘の崩落は落ち着き始め、大穴の呑み込む力は弱まっているが、そこからなんとか逃れることのできたダークスポーンはほとんどいなかった。大部分は容赦ない自然の力に囚われたまま、そこで死ぬだろう。

 ウォーデンたちは、アンダーフェルズの土地に惨たらしい傷を負わせこそしたが、勝利した。ディープロードの入り口は封鎖された。
 味わうべき勝利は感じられなかった。しばらく経てばまた違うのかもしれない。だが、トラヴェラーの引き千切られた血だらけの残骸を見下ろすイセヤには、その重く虚ろな胸の中に昂りをかきたてることはできなかった。

 それでも、後悔という贅沢に興じている暇はなかった。戦いは終わっていない。安全な場所に逃げ延びていたカリエンは、痛々しい姿でのろのろと脱出を図っているリズメのため、彼女に追いすがるダークスポーンを蹴散らす援護の呪文を放っている。

 リズメは、自殺的な炎の呪文から生き残るだけではなく、戦場から脱出するための力も、どうにかして振り絞ったようだ。まったく動かない左足は、一歩進むごとに砂の上に引きずった跡を残し、焼け焦げたローブの破片が足跡をなぞるように散らばり落ちている。彼女はディーモンに憑依された屍のように見えた。

 だが彼女は生きており、その姿を目にした彼女のグリフォンが喜びの啼き声をあげた。ハンターという名の、傷痕のある、嘴の白いオスのグリフォンで、ガラヘルのクロッキーテイルに次ぐ速さの持ち主だった。
 リズメは、ハンターがやって来る間に倒れた。カリエンが最後のファイヤーボールでダークスポーンの生き残りを仕留めると、彼女に足早に駆け寄り、杖から治癒の魔法の光を輝かせた。両性具有のメイジが蒼白い光で包まれ、火傷で開いた傷口がいくらか閉じ、呼吸も穏やかなものになった。ハンターが近づいてくる間、リズメは身体を丸め、力を取り戻そうとしているようだった。カリエンに疑い深い視線を浴びせたハンターは、自分の乗り手の傍から翼で彼を押し退けた。心配になったイセヤは、リーヴァスに降下するよう合図した。

 「ドワーフたち」とリズメが吐き出すように言って、動かない左足を持ち上げ、身体をなんとかハンターの鞍の上に乗せようとしていた。「ドワーフたちがまだあそこにいる」
「私に任せて」とイセヤが言った。彼女はタンクとマンクが立っている場所に目をやった。ドワーフたちは周囲に目を配っていたが、危険をおよぼすダークスポーンは残っていなかった。皆を守るはずだったふたりの斧は、まったく血で汚れていない。「飛べる?」
「ええ」とリズメが言った。彼女はハンターの手綱を緩く腰に巻き付け、鞍の前についた装甲板で身体を支えた。目を閉じ、震える苦しげな息を吸い込み、吐き出して頷いた。破裂しなかった最後の数珠玉が黒ずんだかつらの紐から外れて地面に転がった。

「飛べる。戦いさえしなければ」
「よかった。ホスバーグに戻って。ガラヘルに、ドワーフを乗せるためのグリフォンをあと二頭送るように、それから入り口の封鎖を確認するための偵察隊も送るように伝えて。でも・・・、私たちはやったわ。やつらの補充は遮断した。これで街を包囲から解放することができる」
 リズメは疲れ切った、ためらいがちな微笑みを浮かべた。「伝えるわ」と彼女は言って、ハンターに離陸の合図を伝えた。

***

 ダークスポーンの汚染を、甘んじて浴びてしまったグリフォン。果たしてイセヤが感じたように、避けられない運命を「悟った」のでしょうか。グリフォンは「覚悟」するのでしょうか。

 ここはちょっと吟味しなければならないところですが、いかんせん時間がない。もうちょっとましな訳がありそうなんで、原語も載せておきます。
(すなわち、recognition、acceptance、resignation、それ全部揃っての「悟り」、あるいは「覚悟」じゃないか、という批判がありそうですね。確かに全体では「覚悟」が一番ぴったりくるかな。でもrecognitionもまた「悟り」なんですよね)

recognition 悟り
acceptance 受容
resignation 諦観
regret 後悔

Shrike シュライク、ダナロの乗騎
Hunter ハンター、リズメの乗騎

 

戦士のコスト

 超余談ですが、新聞はどうして御嶽山の救助に大活躍のUH60を「ブラックホーク」と書かないのだろうと思っていたら、日本でカスタマイズしたUH60J(A)は「別もの」という扱いなんですかね。でも、「ブラックホークをベースに」くらい書かないのだろうか。産経新聞。まさか「ブラックホーク・ダウン」を想起させるからでもないだろうけど。

http://www.sankei.com/premium/news/141017/prm1410170001-n2.html

 Last Flightに登場するグリフォンなんて、著者も含め誰も見たことがない。完全武装の兵士ふたりを載せてもびくともしないサイズの鳥類はじめとした飛行生物も(おそらく)この世にはいない。
 ひっきょう、何かのアナロジーになるわけですが。
 離着陸の騒々しく、かつ、砂や塵埃を巻き上げるメッシーな場面は、どうやらヘリコプターからの連想のようです。着陸時はVTOLとみることもできるが、離陸時の騒ぎはヘリコプターでしょう。
 また地上の熱源から噴き出る上昇気流や局地的な突風で挙動(操縦)が乱れることのないよう「風を読む」必要がある点は、低空を飛ぶヘリコプターそのもの。
 ただし、(少なくとも実用化されている)マシンは、操縦士が操縦桿から手を離せば複雑な動作はできなくなるが、グリフォンはウォーデンが手綱を離せば、あるいは敢えて離したほうが、自主的かつ画期的な動きができるようになる。知能のある生き物だから。

 ヘリコプターもいずれ、「操縦桿から手を離」しても複雑な、自律的な動きができるようになるのか? 
 「攻殻機動隊」SACに登場する対戦車ヘリは、操縦士が行動不能(戦死・意識不明)とのシグナルを受けたら、基地(作中では海自空母)までただちに帰投するようプログラムされていた。そのシグナルを受けることなく操縦桿からの入力が途絶しても、本来有している自律プログラムによって(攻撃を含めた)自己防御的な運動を行うように設定されている機体も登場した。
 
 US(正確には選挙で負けることを恐れる大統領・与党)は、自国兵士が戦死するコストに耐えられないため無人機(UAV)導入に熱心だが、兵士数自体の慢性的不足に恐怖しているイスラエルもまた兵器の無人化に熱心で、国境を警護する装甲車の一部は、すでに無線操縦化された無人車両(UGV)だ。英陸軍はUGVを爆弾処理に用いている。US国防総省は犬型の自律走行ロボットを主として補給・充電等ロジスティックス用途で開発中(ここらへん、「ニューズウィーク日本語版」による)。
 
 一説によれば、USで無人機導入に否定的なのは、エアフォースそのものだそうだ。反対する理由が「ロマン主義」によるものなのか、「雇用問題」なのか、単に「縄張り争い」なのかはともかく、実際に活用が本格化しているのはUSアーミーやマリーン。アーミーに入隊したヴィデオ・ゲームの得意なあんちゃんが、エアフォースのパイロットと同等の仕事をしてしまうことを嫌悪する「プライドの戦い」なのかもしれない。もしそうなら、プライドを有する方が必ず負けるのだから結果は見えている。

 偶然かどうかわからないが、Last Flightを読んでいると、シリア・トルコ国境のクルドとイスラム国の戦いが、第四のブライトの不気味なアナロジーに見えてくる。もちろん現実のほうは宗教起因の騒乱であるから、理由づけとしてはテンプラー・メイジ抗争のほうが近いのだが、作中でも語られるように、テンプラー相手なら説得も、恫喝も、買収も通じる場合がある。イスラム国相手には今のところ何も通じない(それでも「交渉」すべきだとの論者はいるとしても)。
 枯れ果てた辺境の街、アインアルアラブ(コバニ)の包囲戦では、孤立無援のクルド側が補給の欠如と兵士の損耗に恐怖しているのに対し、イスラム国側の兵の補充は無尽蔵に見える。一旦包囲が破られてしまえば、待ち構えるのは近代戦の「占領と統治」ではなく「掠奪、虐殺、殲滅」。イスラム国の悪趣味な黒い旗までダークスポーンのバナーに見えてしまう。
 USなどの空爆はグリフォン・ライダーの勝利同様に「なんの意味もない」(AFPBBによれば、「USの空爆で数百人が死んだが、イスラム国の勢いは衰えない」)。補給路を断とうにも、イスラム国の進軍はそもそも道なき道を進む融通無碍なもの。用いる兵器の多くは、USがイラクに供出した最新兵器を鹵獲したもの。

 気に食わない仲間を平気で大量に処刑する。新兵は弾除けがわり、地雷原の掃除役。女性や子供は虐待の対象。付近の地帯では知らないうちに家族や親族の多数が自主的に、または強制的に徴兵されている。行動様式にしても、まるでどちらかがどちらかをコピーしたかのようにダークスポーンとそっくり。
 リアル地球では近代前にしかお目にかかれないと思っていた世界を、21世紀に目の当たりにしているわけです。

 中間選挙の敗北におびえるオバマは、空爆以外の介入手段を用いないとみられており、自国への拡大を恐れるトルコなど周辺諸国も手出しできない。欧州各国は(これもまたブライトの、US共和党に言わせればアボネーションの、強烈なアナロジーにもなり得るが)エボラの拡大に戦々恐々で、国際社会に地位を得ていないクルドのことは後回し。島国は・・・、宗教のことはよくわかんないし、まあ遠いから(そのうち石油輸入が本格的に途絶した頃あわてるのだろう)。

 一方、USなどの軍事アナリストたちは、「汚染」が拡大して中東一帯が(西欧、すなわちクリスチャニティ社会から見て)暗黒地帯とならないよう、すでに遅きに失している介入を早急に行うべきだと主張している。
 派遣した自国の兵が死んだら選挙に負ける。だが中東が暗黒地帯と化したら、史上最悪の大統領という汚名が確定する。
 無人機や無人兵器を、敵味方入り乱れた混戦地帯に投入などできるのか。
 
 私などは、故コードウェイナー・スミスのサイファイ作品群を想起せざるを得ない。
 島国では「人類補完計画」のほうが有名になってしまったが、あれはスミスの用いた造語"the Instrumentality of Mankind"の和訳である「人類補完機構」に由来している。
 基本的に暗鬱なイメージに支配されている彼の作品群でも、ある短編に登場する殺戮マシン、メンシェンイェーガー(Menschenjegar)のアイデアはとても暗い。ドイツ語を直訳すれば人間狩猟(マシン)となり、そのとおり接触した人間を皆殺しにするよう設定されている。ただしドイツ人以外。作品が書かれた時代が時代でもあり、敵味方識別はDNAとか生体IDとかそんなテクノロジーではなく、「ドイツ語話者」かどうかで区別するのだったか。

 「戦死」(変換ミスした標題の「戦士」でも一緒)のコスト格差があまりに大きすぎる世界。
 もしかしたら無人機、無人兵器の世界はそこまで突っ走っていくことになるのかもしれない。
 それさえも「敵」が鹵獲してしまったら?
 それ以前に、開発者は両方に売りこむのでしょうね。アナハイム・ラボラトリーズ(エレクトロニクスだったか)。

水と安全はロハ

 私事ですが、今週またしても長期海外出張となってしまいました・・・。
 Last Flightは、あの場面のまま放置はまずい。なんとか今の章だけでも済ませてから出かけるつもりです。
 今回はスマホ以外のネット環境も用意して出かけるつもりですが、果たして自由な時間があるのかどうか。
 現在丁度半分のあたり。DAIリリースまであと一か月。この調子だと間に合わないことが確定的になりつつある。
 (間に合ったら、間に合わなかったらどうなるのか、とかそういうことを言うこと自体、潜在的ネタバレの危険があるから黙ってます)
 ま、わかっていながら自分の遊びを優先させてたのもありますけどねえ・・・。

 DAKのDAO主人公シンクロも依然としてダウンしたまま(公開情報(笑))。さすがによそ様のストーリーでは(あー、ここからNDAに触れるから中止)。出張先で果たして閲覧できるんだろうか。少なくともネット情報を統制している国ではないから大丈夫だと思うけど。

(アップデート)DAKのOpen Betaは現地10月29日からだそうです(公開情報)。
むひひ、私の場合、一体どこがClosedだったんだろう。

 たまに他の国にいくと、この島国のネット環境がいかにノンズル、なんでもありかわかりますよね。公衆Wi-fiが整備されてないとかガイジンが怒ってるとしても、別に要らないんだもん。どうしても欲しければお金払えばいいだけ。少し待ってれば、ガイジンに弱い島国の人たちがオリンピックまでに必死に整備するでしょう。
 どこぞの国だか街だかで「ネットの威力で権力に対抗する」とか騒いでいること自体が悲しい現実。
 島国では「水と安全はタダ」だそうですが(そう信じて疑っていない)、キャリアはぼろ儲けなので「タダ」というのは語弊があるとしても、ネットワークもいつでもどこでも手に入ると思い込んでいる点では一緒かもしれない。
 水も、安全も、ネットワークも自由にならない場所に出かけてみれば、その事実一発でわかりますね。安全には「身の安全」も含むので、若いときしかおすすめしないけどね。
 
 

2014年10月15日 (水)

Last Flight 12(1)

 さっさと行きましょうね。

***   

 くだんのディープロードの入り口は、丘の間にできた醜い斧傷のような不規則な裂け目だった。大昔の地震で口を開けた裂け目は、何十年も、あるいは何世紀もの間、人知れずそこにあったのだろうが、ブライトが静けさを破り、まるで満潮の波のように、その深淵からダークスポーンを噴き出した。 

 だが日中は、丘は静かだった。アンダーフェルズはいつであっても過酷な土地だが、ブライトは最も強靭な生き物さえ打ちのめしていた。乾いた植物や死んだ草が風に揺れ、立ち枯れた木には一羽のスズメさえいない。ブライトの超自然の嵐で朝は翳っていたが、その弱々しい陽光でさえ、ダークスポーンを地下に留めるに足りているようだった。

 小編隊の先頭を飛ぶイセヤは、リーヴァスに着地するように、そして仲間には後に続くように合図した。黒いグリフォンは小さく正確な螺旋を描いて裂け目付近の丘に降り立つ。すぐに続いて、他のグリフォンたちも周囲に着地した。 
 鞍から降りると、イセヤは裂け目に近づいた。地面は乾いて脆く、彼女が踏み砕いた石が深みの中に落ちていく。奥底から、ダークスポーンの汚染の冷たい異臭が漂ってきた。

 裂け目の内側は、長く洗わずにあった茶器のように奇妙に汚れている。その染みのせいで、深さを計るのも、壁がどのように連なっているのかを知るのも困難だった。イセヤが杖の先に魔法の光を灯らせても何も見えなかった。 

 崩落させるのはとても容易く見えたし、それこそ重要なことだった。彼女は他のメイジたち、カリエン、ダナロ、そして奇妙な、美しい、笑わないリズメの三人に集まるよう合図した。その間、ジョラクとフェリスは弓を構えて警戒し、ドワーフの兄弟、タンクとマンクは水筒に入れた酒を分け合って騒々しく口の中を洗っていた。入り口の爆破をもう少し面白がるとイセヤが思っていたドワーフたちはうがいに没頭しており、その熱心さと、フェリスの呆れたような顔つきから、道中で射手の予想どおりのことが起きたことがうかがえた。イセヤは、それが街の頭上でなかったことを祈った。
 メイジたちが裂けた丘の麓に集まると、どうやって封鎖するつもりか、とリズメが尋ねた。

 リズメはメイジ三人の中でもっとも背が高く、意図的に落ち着かなげな様子をしていた。鬘と顔の塗料、その他の化粧によって、見かけは仰々しく非人間的だ。彼女はときには男である日もあり、また女の日もあった。何年も戦いをともにしながら、イセヤには実際どちらなのか、あるいは本当にどちらかであるのかさえ、見当がつかないでいた。このメイジはまるで衣裳を変えるかのように性別を自由に変えることができ、あわせて雰囲気まで造り変えることができた。彼女にとって、男か女かは単に装いの問題であって、自己認識ではなかった。噂では、サークル・オヴ・メジャイに入る前からもその後も、ずっと深刻な虐待に曝されてきたのだといい、ウォーデンに入団してからの彼女の不可思議な外見は、若い時代に自己の認識を保持しようと努力してきた名残りだった。抹消されることを免れた彼女は、自らに抹消できない痕跡を残したのだ。

 今日のリズメは女性の格好で、髪は古い漁師網のもつれた塊り、潮でこわばり、陽差しで漂白された縄だった。瞳は薄い、脱色された青っぽい緑色で、網にあしらわれたくぐもったガラスの数珠玉と同じ色合いをしている。乳白色の魚の鱗をどこかで見つけたらしく、それらを頬と眉毛に糊付けして、夢の中の生き物である妖精フェイの格好をした血の気のない肌を隠していた。

 だが彼女の熾烈な瞳には、夢見がちなところはまるでない。リズメはダークスポーンを嫌悪していた。ブライトと七年間戦ってきたイセヤでさえ、他の者で見かけたことがないくらいの激しさだった。彼女の嫌悪は、リーヴァスがダークスポーンを嫌悪するのと同じであった。猛禽の心の、全身全霊をかけた闇雲な獰猛さ。 

 地震が一番簡単だ、とイセヤが言った。丘を揺さぶれば、裂け目の上に崩れて落ちるだろう。
 あるいは、この穴が見かけよりもずっと大きければ、裂け目の中まで崩れ落ちてしまうかもしれない。そう言ったリズメが身を乗り出して穴の中を見つめる。頬の鱗がフェイドの中で見る涙のように輝いた。
 彼女は突然身体を起こした。今はよそう。疑う暇はない。さっさと崩してしまおう。やつらが来る。
 一体何を、と言いかけたイセヤは、ハーロックの足音と唸り声の響きが近づいてくるのを聴いた。ダークスポーンが急速に近づいてくる。地下の壁の反響から読み取るのは難しいが、群れは三十匹から百匹の間の数のハーロックとジェンロックで、囁くような耳を切り裂くシュライクの叫びが混じっているのは、あの地獄の暗殺者たちも中に含まれていることを意味していた。彼女は本能的に後ずさりした。

 やってしまって、と彼女は言った。
 鱗を付けたメイジが頷き、杖を掲げた。原初の力を駆使して地響きを起こせるのはメイジたちの中で彼女しかいなかったが、他の者たちもそれぞれ破壊の術を繰り出した。イセヤはフェイドのエナジーを念動力に変えてリズメのもたらす破壊力を増幅し、他のメイジたちも補完的な魔法を操った。

 リズメの瞳が、稲妻の電光に照らされた夜空のように白くなった。足元の丘の斜面は揺らぎ、裂け目からはものすごい早さで亀裂が走った。ダークスポーンの見開かれた瞳に輝く陽光を一瞬認めたイセヤは、そこに自らの呪文の力を投げつけ、その衝撃の角度を別のメイジが巻き起こした地震の響きとぶつかるように仕向けた。亀裂は急激に広く長くなり、足元の地面は気味が悪いほど揺らいだ。塵がうねるように舞い上がり、空中はざらざらした砂まみれになった。

 イセヤは後ずさりし、どうしようもないほどくしゃみを繰り返し、瞳に刺さる砂を拭い去ろうとしていた。もやを通して、彼女は丘の内側から不気味な赤い光が、まるで火山の熱い喉が咳き込んだかのように発せられるのを垣間見た。それは地下の隧道のどこかから登ってきたもので、仲間のメイジの呪文によるものではない。

 エミッサリー・・・。塵に向かって叫ぼうとした彼女の言葉は、丘の中腹から噴き上がる炎と岩のため途中で途切れた。熱せられた石の欠片がウォーデンたちの回りで弾け飛び、悪態と悲鳴が一斉にあがる。
 視界を奪った岩と煙の噴出が地上に降り注いでくるその前に、地面は彼らの足元から崩れていく。リズメの推測は正確だった。ディープロードに走る亀裂は、仲間の誰もが思っていたよりも大きかったため、丘はその上にではなく、その中に崩れ落ちていった。

 そしてそこには、ダークスポーンどもが待ち構えていた。

*** 

 続くっ。

 原初の力、the primal forces、DAゲームに登場する、魔法の一派(スクール)。

【DAI】DAK他

 これは公式Twitterに載っていることなのでNDA的にも大丈夫。

 ようやくDAKに入ることができましたが。 
 DAOの、私の山ほどあるウォーデンのプロファイルや、アチーヴメントのデーターがシンクロされない。
 メンテ中(笑)。

 メンテ中っつうか、これって(それ以上はダメよ)
 おいおい、本編リリースいつだよ、これじゃあ(ダメダメ)

 新トレイラー。

 The Hero of Thedas

https://www.youtube.com/watch?v=qzRjfkXW9Lo

 んー。これまでで一番へぼいかな?

 どうしちゃったのくらい水準下がってます。

 まるでアマチュアYouTube。
 作った人たちが以前と違うのでしょうか。
 それとも、今までのはゲーム内シネマトグラフィーの画像だけど、これはゲームプレイ画像の品質だからかな?

 さすがBioWare。いつまでたっても、やることがちぐはぐ。

 

 

2014年10月14日 (火)

Last Flight 11(2)

 まるで女子学生が非合法ドラッグにあっけらかんと手を出すように、イセヤ、なんのてらいもためらいもなく、ブラッド・メイジになりました。

***

 夜は知らないうちに明けていた。ブラッド・マジックの不思議な世界を一晩中渡り歩いていた彼女の頭の中は、日の出頃には可能性と疲労のためくらくらしていた。カリエンもまた高揚と疲弊のはざまにいるようだった。二十年近くにわたり秘密をひとりで背負ってきた彼は、その魔術の可能性を探索することに興奮を隠さないイセヤのせいで、ブラッド・マジックを用いることに対する戦慄が緩和されているようだった。彼はイセヤよりもずっと慎重だったが、自分がしばらく前になした取引きに、今ようやく意味が生まれたことを率直に喜んでいるようだった。

 だが城中が目を覚まし始めたころになっても、それがいかなる意味なのか定かではなかった。朝餉の支度のため召使が中庭に姿を現すと、ようやくふたりは実験をやめた。
 魔法で自分たちの傷口を治癒し、実験の痕跡を残さず消し去ると、ふたりは他のウォーデンたちが集まる朝餉の席に向かった。

 今日こそホスバーグが包囲から解放される日だと聞いた。イセヤの隣に並んだフェリスがそう言って、ポリッジ、オート麦の粥とレーズンを匙ですくい、自分の皿に載せた。フェリスによれば、秘密を守るのが苦手な兄ガラヘルは、知りたがる誰であってもその話を吹聴しているようだった。
 兄はまた、期待を現実的なものにとどめることも苦手なのだ。オート麦と薬味を皿に取りながら、イセヤが応じた。今日包囲から解放されるのではなく、そのための血塗られた道に第一歩を踏み出すだけなのだ。

 それでも構わないが、指揮を執るのは誰だろう。フェリスの問いに、当然一番はしゃいでいるガラヘル自身だ、とイセヤは皮肉を込めて答えたつもりだったが、兄こそ適任であることに違いはなかった。この春フィールド・コマンダーに選ばれたのもそのためだった。ウォーデン・コマンダーのような正式なものとは異なり、ここの現状特有の暫定的な職位だが、この地域に派遣された者は皆彼の配下に入ることになる。

 それも当然だった。兄はブライトの戦いの間、何年にもわたり戦闘指揮官としての力量を証明してきており、また彼のグリフォンは、卓抜した運動能力と敵の軍勢の弱みを発見する才能に恵まれていた。ウォーデンの中でも最良のチームで、七年の間生き残り続けた最古参でもあった。

 であれば、今日の出撃に自分を入れてもらうように媚を売っておく必要がある。フェリスは食器を乗せた盆を片手で器用に支え、ガラヘルの座る場所を目指して人混みをかき分け進んでいった。イセヤは湯気の立っている苦い茶の入った椀を掴んでその後を追う。

 ガラヘル、アマディス、カリエンは、他の二人のウォーデンとともに一か所に集まり、塩入れの瓶やレーズンを用いて卓上に描いたディープロードの入り口らしき模型を囲んで頭を寄せ集めていた。
 この地図は正確か、と兄が問いかけてきた。朝食で作ったにしてはましだが、そんなものが必要なのか、とイセヤが言って、ポリッジの入った椀を卓上に置き、茶を一口すすった。苦いどころか、舌が固まるほど渋かった。
 だが徹夜明けの頭をしゃきっとさせるには丁度良かった。できるだけ長く目を覚ましていられるなら何でもうれしかった。もう一口すすってしかめ顔を作ると、そんなに精緻な作戦が必要なのか、と尋ねた。昨夜も告げたように、発見した入り口はなんの警護もされていないのだ。

 そうかもしれないが、念を入れるに越したことはない、とガラヘルが答えた。
 街のすべてのグリフォンを出撃させる気ならば、ダークスポーンですら手薄になったホスバーグに攻め入ろうと考えつくのではないか。イセヤが詰ると、そのつもりはない、と兄が優しく答えた。四頭のグリフォンと八人の乗り手。出撃部隊の規模としては大きいが、ホスバーグの包囲を破るという目的を危険に曝すほどではない。別々の方角に出て行って、ディープロードの入り口付近で落ち合う。封鎖を完了したらホスバーグに帰還する。ガラヘルは、四人のメイジ、空から警護する二人の射手、地上で守る二人の戦士という構成を提案し、イセヤに異存があるかと尋ねた。

「いいんじゃない」
「よし。カリエンはイセヤと行け。フェリスはダナロと、ジョラク、リズメ、それから、ああ、タンクとマンクはどうかな」
 赤毛の射手がのけぞった。「ドワーフたち? 空にあがると必ず具合が悪くなるじゃない。こないだなんて、トラヴェラーの翼から彼らの吐いたものを綺麗に取り除くのに、何日かかったと思ってるの。引き具にはまだ匂いが残ってるんだよ」
「そのとおりだが」 ガラヘルは気楽な平静さを崩さずに言った。「戦いじゃ、誰も連中を突破できやしない。あの兄弟だけで、ホスバーグの城門を何日も支えることができる。それだけじゃなく、彼ら以上にディープロードに精通している者もいない。他の連中が見過ごすものだって見つけるかもしれない。何度もつきあえと言っているんじゃないんだ、フェリス。今回に限り、大目に見てくれ」

 射手は憤然として両手を差し上げた。「しょうがないね。私はダナロを呼びに行く。ドワーフたちは、早いとこここから連れ出したほうがいい。連中が腹の中一杯にしなければ、私が後で拭き取るものも少なくて済むんだから」
「そいつは実に賢い」とガラヘルが言った。彼は、イセヤのほうに手つかずのポリッジが入った椀を押し出した。「お前は、ところで、何か食べといたほうがいい。昨晩は寝ていないんじゃないのか?」
「寝付けなくて」とエルフが認め、椀を手に取った。食欲はまったくなかったが、冷たいオート麦を無理やり食べた。「でも、大丈夫」
「そう願うぜ。食べ終わったら、中庭に出ろ。太陽をできるだけ浴びた方がいい。日が暮れれば、また押し寄せてくるダークスポーンの新手と戦わなくちゃならんのだ」

「イエッサー、フィールド・コマンダー、サー」 イセヤがポリッジまみれの匙を掲げて、ふざけた敬礼をすると、アマディスが思わず鼻先で笑った。「兄さんは一緒に来ないつもり?」
「無理だ」 ガラヘルが真面目くさった顔になった。「俺はフィールド・コマンダーだぜ? ダークスポーンとの戦いに好きなだけ顔を出すわけにはいかない。実際に街の包囲を突破するときには、先頭に立たなくちゃならないし・・・、だが、出撃部隊ひとつなら、お前に任せる」
「がっかりさせないよう、努力するわ」
「そうはならないさ」 兄の顔はまだ笑顔のままだったが、瞳はかすかに悲し気に見えた。「お前のことだ、イセヤ。そんなことはできない」

***

 前の記事では、イセヤとカリエンを「ふたりのウォーデン」と呼んでいます。しかしカリエンはジョイニングを経ていない。これは私が省略してしまったわけではなく、作者の勘違い。またはジョイニング前でも広義のウォーデン(ウォーデン・リクルート)と呼ぶことがあるという言い訳も成り立つ。
 だが七年間もブライトと戦っていながらジョイニングを経ていない者を、果たしてウォーデン・リクルートと呼ぶのかどうか。
 著者は、(これからも事例が出てきますが)勘違いの多い人のようです。

 Danaro ダナロ

 Lisme リズメ 

 Tunk and Munk タンクとマンク

 Traveler トラヴェラー、フェリスの乗騎

【DAI】DAK Closed Beta

EAとのNDAに合意したため、以下のことしか書けません(笑)。

 ・Dragon Age Keepのクローズドベータが、現に存在する。
 ・不肖わたくしは、そのクローズドベータに招待され、参加に合意した。

 とはいえ、ロット単位でインヴァイトされるので、ロビーで待機中。
 まだ現に参加したわけではありません。

 リリース期日から考えて、もうじきオープンベータが始まるのでしょうね。
 今更という気がしますが、だいぶ前に届いていたメールに気が付くのがかなり遅くなってしまったのでした。

(余談)以下の記載自体は、NDAそのものの引用なので、NDAには触れない(なぜなら公開されている)から書きますが、USとカナダにならんで、「日本」(に居住するユーザー)もメンションされてるんですよ。その三カ国のユーザー(すなわち契約者)を管轄するリーガルの拠点と、それ以外の諸国のユーザーを管轄する拠点は異なるという記述の部分。

 創業者のムジカのおっさんが「XBOX売れていない日本なんて、ぺっぺっ」とのたまっていた頃とは隔世の感がありますなあ・・・。
 やっぱケーシーのMass Effect 3のおかげかなあ。
 DAI、島国でどんだけ売れるのかなあ・・・。
  
 DAKの公式Twitterによれば、日本語版で招待されている方もいるみたいですね?
 NDAに触れない範囲で情報教えてくださいね(それは無理だ(笑))。

2014年10月13日 (月)

Last Flight 11(1)

 Amazon KindleのコンテンツがPCのブラウザ(Cloud Readerなる呼び名がついている)でそのまま読めるようになったのは、非常に助かる。といっても私の場合、英語原書のみしか確認していませんが。日本語の書籍はPCでは閲覧不可。日本のコミックがいけるそうだが、Kindleでは一冊も買っていないので不明。
 もちろん本国ではとっくに実現しているはずで、島国なんて後回しにされたのだろうが、ないより全然ましである。

 Kindleは移動中、外出時にはそりゃあ便利で助かるけど、マルチ大画面環境の自宅にいるのに、なにが悲しゅうてちっちゃーい画面を見ながら翻訳せなならんのでしょうか、とずっと思っていたのでした。

 いやいや、それは単なるわがまま。以前はペーパーバックとにらめっこして訳していたかもしれないじゃないですか(残念でした、Asunderを翻訳することにした時点でKindle版を入手していました)。
 英文と和文を横に並べて作業するほど効率的なことはありません(上下でやってみることもあるが結構きつい)。
 唯一、オンラインの辞書がサポートされていないのが残念だが、まあそれも些細なことです。

***

 

第十一章

5:19 エグザルテド

 ホスバーグの城に帰還するや否や、イセヤは、ダークスポーンが用いるディープロードの入り口を発見したことを伝えた。手はずどおり、落後した一匹を追跡して見つけたことにした。ここからさほど遠くなく、メイジたちの力で封鎖することができるくらい狭い。 

 やつらの補充を遮断できると考えているのか。随分前に帰還したらしいガラヘルの金髪が黒く見えるのは、すでに入浴を済ませたことを示しており、騎乗用の鎧は柔らかい寝室用のローブに着替えていた。アマディスもまた同じように入浴と着替えを済ませており、妹が見ている前で、ガラヘルの腰に両手を回していた。ふたりの間の愛情表現は、恥知らずなほど人前をはばからなくなっている。
 だが、この女を一体誰が躾けることができるだろう? 特段法を犯しているわけでもなく、ブライトを目の前にしている今、お行儀について頓着するのは馬鹿げた話かもしれなかった。 

 そのとおりだ。イセヤはリーヴァスの装具を外し、その下で皺になった毛皮を繕うように撫でつけながら答えた。カリエンは、無言のままグリフォンから降りたところだ。

 いつやるつもりか、とアマディスが尋ねる。できるだけ早く、明日にでも。イセヤはふたつの鞍を順番に取り外し、世話役の召使いの傍に重ねて置いた。ダークスポーンは入り口を要塞のように固めたりしないし、警護もしない。出会うのは、付近をうろついている少数のダークスポーンだけだろう。

 イセヤがそう望んでいるだけ。アマディスが言った。彼女のローブの帯には、さっきまでなかったはずのダガーの柄が挟まれており、次の瞬間にはまた消えていた。
 それはどうやるのか、イセヤが尋ねたが、女は決して教えてくれないだろう。七年ずっと一緒にいても決して。

 イセヤは、そのとおり楽な仕事であることを期待している、と答えた。手に負えないとわかれば中止してまた別の日に試みればよいだけだ。やつらは性質上、拠点を築くことはしないし、その入り口にしても今夜まで目立たず、発見できなかったわけだから。

 よくやった、とガラヘルが言った。アマディスの腕を腰から外すと、彼女の手をとり、自分たちの自室に向かって中庭を歩き始めた。明日そこまで飛んでみることにする。警護が厚くなければ崩落を試みよう。警護が厳しければ戻ってくる。そして、必要なメイジは何人か、とイセヤに尋ねた。

 イセヤは肩をすくめ、意見を求めるような顔でカリエンを見た。三人か、四人。入り口は狭く、ドワーフの築いた古い門などではない。時間さえあればメイジひとりでもなんとかなるが、近くにダークスポーンがいれば、こちらの企みに気づいて怒って襲ってくるかもしれない。素早くさっさと片付けるためには、最低三人。
 カリエンも同意した。頭巾を引いて顔を隠しているため、言葉はまるで深淵の底から届いたように聴こえた。

 アマディスとガラヘルが視線を交わした。では、明日、とエルフが言った。メイジ三人、イセヤとカリエン、それにおそらくエラカスだが、彼の場合はフェリスに無理を言って借り受ける必要がある。
 イセヤが同意した。兄は頷くと、アマディスとともに城の中に姿を消した。

 すでに夜はかなり遅く、召使いもすでに辞し、ときおり巡回してくる衛兵たちを除けば、自分たちの他に中庭に残っている者はいなかった。
 ジェンロックに魔法をかけたとき以来、カリエンは言葉少なだった。イセヤは、彼が帰還後早々に自室に戻ると思っていたが、驚いたことにまだその場にとどまっていた。イセヤにはリーヴァスに餌を与え、世話をする仕事が残っていたが、彼がとどまる用事は何もないはずだった。

「あなたは休まないの?」と彼女が尋ねた。
 彼は頭を小さく振った。わずか数フィートしか離れていない彼の言葉はほとんど聴き取れなかった。「なぜ、ブラッド・マジックを学びたがる?」
「なぜなら、有益そうだから」とエルフが答え、油を滲み込ませた布で固くなっているグリフォンの翼を優しく拭いた。「そしてブライトと戦うため、役に立つどんな手段でも使う。あなたの理由は?」

「私はアポステイトだった」 カリエンが変わらぬ静かな声で言った。彼の瞳は見えなかったが、どこか遠くを見ているに違いなかった。彼女にではなく、過去の彼の亡霊に向かって話をしているようだった。「私はアポステイトで、そして生きたかった」

「そして生きた、役に立ったじゃない。誰が教えたの? クロウの誰か?」
「違う」とカリエンが不機嫌そうに答えた。彼は、自分の身体を預けるように寄り掛かっている杖をゆっくりと回しており、その先端の水晶が城の篝火に輝いた。「ディーモンだ」

 五年前なら、イセヤはその告白に衝撃を受け、怖気を奮っただろう。だが今はただ頷いただけであった。ブライトの恐怖は、彼女が師匠たちから受けた古い警告を、取るに足らない色褪せたものにしてしまっていた。ブルードマザーにされるため引きずられていく女性の悲鳴をはじめて聴いたとき、その惨劇を終わらせるためなら、自分はディーモンとの間で千もの取引きをしたかもしれない・・・。そして何年もの間、そのような誘惑に負けないよう、イセヤは自分自身を強く持つことを学んできたが、考えが完全に消え去ったわけではなかった。「どこで見つけたの?」

「我々のある契約から。アポステイトのブラッド・メイジがアンティヴァに逃亡してきた。追ってきたひとりのテンプラーは彼女を倒すこともできず、倒そうともせず、自分の任務をクロウに肩代わりさせることにした。
 我々は、花売りに身をやつしていた彼女をトレヴィソで見つけた。楽な殺しのはずだったが、実際には・・・、違った」 カリエンはしばし黙り込んだ。それからため息をつき、中庭の井戸の近くにあった低い壁に近づき、そこに腰を下ろして頭巾を脱いだ。顔はやつれて疲弊しており、口の回りにある疲労を示す皺が、篝火のためくっきりと照らし出されていた。「彼女を捕まえたとき、あのテンプラーがあわてて我々を雇った理由がわかった。彼がアンティヴァン・クロウと事を構えたくないからではなかった。彼女と対決したくなかったのだ」

「彼女はアボミネーションだったの?」とイセヤが尋ねた。ディーモンの憑依に呑み込まれたメイジがどうなるか、彼女も見知っていた。悪夢に棲む化け物になる。身体は溶け、超自然的な形に代わり、この世のどんなものよりも、不可解な夢で見る幻覚がそのまま現実になったと言うほうが近い。心は消え去り、憑依されたディーモンの傀儡となるか、あるいは、彼女には確かなことがわかるはずもなかったが、完璧に破壊されるかするのだった。

 ブライトの最中には、平時よりも頻繁に生まれる。絶望したメイジが自分で操ることのできる以上の力に手を染め、愚かにもフェイドに心を曝してしまう。才能を抑制する術を学ばないメイジは大変危険だ。ダークスポーンから闇雲に自分を、あるいは自分の家族を守ろうとする未熟な魔法の遣い手たちこそ、ブライトの周縁部で最もよく見られるアボミネーションの正体であった。

 だが、手練れのメイジもまた、戦いによる疲労や不眠のため、その罠に陥ることがある。自ら望んで選ぶこともある。ウォーデン・メイジも例外ではなく、援軍も救助も期待できない敵の真っただ中で、敵に最後の一矢を報いてから死ぬためディーモンを自らの身体の中に招き入れるのだ。強力なアボミネーションは、死ぬまでの間に数十匹のダークスポーンを道連れにすることができる。

 イセヤは、ダークスポーンに連れ去られてブルードマザーにされるくらいなら、自らアボミネーションになると、ずっと以前から心に決めていた。恐怖の中で生きるよりも、その中で死ぬ方がましだ。

「そうだ」とカリエンが言った。「他のほとんどの場合に比べ捉えにくかった。外見には何もおかしなところがなく、少なくとも我々の目には止まらなかった。憑依される以前の彼女を知っていれば話は別だったのだろうが。
 だが我々にわかるはずもなかった。最初に尋常じゃないと気が付いたのは、毒を塗ったダガーをまるでブヨか何かのように叩き落としたときだった。それから襲いかかってきて・・・、わずかの間に、彼女と私の他、その待ち伏せから生き残った者は誰もいなかった」

 イセヤはリーヴァスの向こう側に回ると、もう一方の翼を持ち上げ、同じように油を滲みこませた布で拭いた。拭き終わると、傷の有無を確かめる。グリフォンの勇気と不屈さは、乗り手に苦痛や弱体の兆候を気づかせないことがしばしばだが、風切羽についた傷が戦場では命取りになりかねない。「どうしてディーモンは、あなたに魔法を与えると約束したの? どうしてあなたをただ殺さなかった?」

 カリエンの唇が歪んだ笑みを見せた。「クロウの名は、まんざら伊達ではない。彼女は我々の大部分を葬ったに違いないが、我々も血で購わせた。戦いの最後に死に瀕していたのは彼女のほうで、私のほうはまだほぼ無傷だった。そのまま、あっさりけりをつけることができた。私にもわかっていたし、彼女に憑依していたディーモンにもわかっていた」
「だからディーモンが取引を持ち出した?」
「そうだ。ブラッド・マジックの秘密と引き換えに、やつの定命の器を治癒すること」

「そして、受け入れた?」 彼女はリーヴァスの翼を離し、尾翼のほうを確かめるため回り込んだ。拭き布は砂で汚れで黒くなっていたので、イセヤは逆に折り返してきれいな面を外に向けた。
「そうだ」 カリエンは、自らの告白のため苦しそうにも、また同時に救われたようにも見えた。「私はディーモンの知識の申し出を受け入れ、彼女を治癒した。ほんの僅かだけ。それから彼女の心臓をダガーで貫いた。クロウは約束を破らない。相手がディーモンであっても、顧客でも」
「そして、あなたはブラッド・メイジになった」 イセヤは、リーヴァスの黒い背中の反対側から彼に目をやった。「随分と楽に学んだものね」

 カリエンは彼女に諧謔のない微笑みを返した。「そうだ。教わったのではない。ディーモンが私の頭蓋に穴をあけ、誰かの記憶をそのまま注ぎ込んだような感覚だった。見たことのないフェイドの場所が見え、聞いたこともない呪文を唱える術を知った。全ての知識はただそこにあり・・・、今日まで誰にも話したことはないし、それに手を触れる気はさらさらなかったと取り繕うつもりもないが、ディーモンの秘密は決して消え去りはしなかった」 

 イセヤはグリフォンの世話を終えた。汚れた拭き布を肘にかけ、リーヴァスの肩を叩き、今夜はお役御免であることを伝えた。承知したような声をたてると、リーヴァスはふたりのウォーデンから歩み去り、空に飛び立ち、月光に照らし出されたアンダーフェルズの地で、ひどく痩せこけているに違いない何かの獲物を探すため出かけていった。

 グリフォンが飛び立つにあわせ巻き起こった埃まみれの風がやむと、イセヤは口から砂を拭き取り、カリエンに視線を戻した。「実際には学んでもいないものを、誰かに教えることができるのかしら?」
「やってみるしかあるまい」と年長のメイジが答えた。「とどのつまり、術が何かはわかっているのだ。自分の大部分の記憶などよりも、ずっと鮮明に覚えている」 彼は間を置き、彼女を見つめた。「まだ本当に望んでいるのか? これは邪道の魔術だ」

「武器よ」とイセヤが言って、瞬きせず彼の視線を受け止めた。「武器であるし、私たちはブライトと戦っている。もちろん望んでいるわ。憑依それだけでも強力な武器になるわけだし・・・、でもあなたの話が本当なら、ブラッド・マジックはとてもそれだけに限らないわけでしょう」
「そのとおりだ」とカリエンが言った。「他にもある」
「何を教えてもらえるのかしら?」
「何もかも」と彼は言った。

*** 

 ここに何度か出てくるブルードマザーのくだり、以前紹介したセダスUKのゲイダーさんインタヴューで初めて話題になりました。

 コーリングに向かう女性ウォーデンは、「運良く」戦いの末斃れればまだよいが、誤ってダークスポーンに囚われてしまえば、あのおぞましいブルードマザーにされてしまうのではないだろうか。そうであれば、女性ウォーデンは、コーリングそのものを忌避するのが普通ではないのか。あるいは(上でイセヤが誓うのと似たように)自ら命を絶つほうが賢明か。

 セダスUKでは話題にならなかったのですが・・・。アリスターの(ゲイダーさんの)コーリング三十年説はここでも「余計な」設定になっちゃうんですね。それによれば女性ウォーデンがコーリングに赴くのは(二十歳前後でジョイニングを経るとすると)、四十台後半、あるいは五十台の場合が多い。その年齢の女性ウォーデンが「ブルード」(繁殖)マザーに供されることがあるのかどうか・・・。
 こんな生々しいことを書いてしまって申し訳ないが、それも「設定」したほうが悪いわけですからね。
 もちろんコーリングかどうかに関わらず、ディープロードで戦う女性ウォーデンにはその危険が常に付きまとう。イセヤが言っているのも、まだ若い彼女の抱く、考えるのも忌まわしい運命のひとつであるのでしょう。

 著者はDAロアをよく勉強してますね、ってところですかね。カリエンとの話は、まるでアボミネーションに関するDA Wikiの記事か、ゲームのコーデックスのようでもある。良く整理されているので、その部分ベタ訳しました。それ以外に意味はありません。というか「伝聞」や「昔ばなし」は、やっぱ迫力の点からすると良くないですね。

Eracas エラカス

2014年10月12日 (日)

Last Flight 10(2)

 あちらエボラで大騒ぎなのに、うちわだのスカーフだの、島国のバカは何をやってるのか。

***

 ブライトはアーチディーモンが打倒されない限り続き、ダークスポーンは際限なくやってくることは皆知っていた。
 でも、ここに辿りつけなければ。イセヤの呟きをカリエンが聞きとがめた。イセヤが鞍の上で肩越しに彼が見えるだけ振り向くと、彼の髪はぼさぼさの普通の状態に戻っていた。ホスバーグの頼りない灯りでは濃い茶色ではなく黒に見える。灰色の瞳も同じようにあいまいで、時折閃めく以外は眼窩の底で深い闇を湛えるのみであった。

 今日の勝利は何の意味もない。何千のダークスポーンを殺しても、何も変わらない。アーチディーモンを倒すまで、必ず新手がやってくる。だがその補充を断つことができれば。ホスバーグにやってくるディープロードを遮断できれば。街の周囲のダークスポーンを殺すことに意味が生まれる。そして、籠城を解くことができる。 

 カリエンは、疑わしそうに首を振った。ディープロードには数えきれない入り口がある。ドワーフが建造したもの以外にも、地震や腐蝕による地割れや裂け目もあり、ダークスポーン自身が掘っている通路もあるだろう。どこからやって来るのか誰も知らず、仮に埋めたとしても、その上に別の抜け道を作るだけだ。 

 誰もがそう言うが、誰も試したことはない、とイセヤが反駁した。やる前から諦めるのではなく、少なくとも試すべきだ。ダークスポーンが地下に戻る跡を付ければよい。
 どんな追跡者もやりたがらない任務だ、とカリエンが応じる。一匹のハーロックを群れから見分けることができたとしても、そのハーロックがディープロードに戻るかどうかわからない。灼熱の夏ならまだしも、冬のさなかに戻りはしないし、追跡者は八つ裂きにされるだけだろう。

 追跡者などを使う気はない。イセヤが言った。代わりにカリエンを使うつもりだ。

 おかしなことを言う、カリエンの唇の隅が、諧謔の全く混じらない笑顔をただ模倣するかのように歪んだ。なぜ自分が役に立つ?
 カリエンがブラッド・メイジだからだ。イセヤは無意識に声を落とした。ふたりは空中にいて、冬の風が発した声をすぐにかき消してしまったのに、カリエンはまだその言葉の形を見つめていた。ホスバーグの灯りからも遠く、ブライトの永劫の嵐の雲を通す月光は微かで弱かったが、そのほとんど完全な闇の中でも、イセヤには彼の顔から血の気が引く様子がわかった。

 危険な告発だった。ブラッド・マジック、邪道の魔術は古代からセダス全土でご法度であり、手掛ける者には死罪が、それも速やかとは限らない形の死がもたらされる。
 だが、イセヤはカリエンの隣で何年も戦い、お互いに何度も命を救い合ってきた。ブライトの厳しい試練がふたりの信頼を築き、彼女に彼の秘密を暴くつもりがあれば、ずっと前から何度もそうする機会があったことを、彼は知っているはずだった。

 どうしてわかった、と静かに尋ねる彼の声は、危うく風でかき消されるところだった。
 自らもメイジであるイセヤには、フェイドと繋がらずに繰り出す魔法がわかる。彼が実際に用いるところを彼女が目にしたことは何度もなく、必ず彼が重大な窮地に置かれたときで、また彼がすでに傷を負った状態だったため、血の力を用いて魔法を増幅する様子ははっきりとはわからなかったが、通常の魔法と何かが違うことに彼女は気が付いていた。イセヤはしばらく間を置くと、カリエンが実際にダークスポーンを内部から操って、ディープロードに導くことができるのかどうか尋ねた。

 彼もしばらく答えなかったが、やがてはっきりと頷くと、いつ始める気かと尋ねた。
 誰にも見とがめられずに行うには今夜しかない。仲間には、今夜の戦いで傷を負ってはぐれたやつをディープロードの入り口まで追跡したことにする。
 ダークスポーンが一匹必要だ、とカリエンが言うと、その手当てはする、とイセヤが答えた。彼女はリーヴァスの手綱を再び取ると、体重を前にかけて速度をあげるようグリフォンに示し、その羽角の傍に顔をやって、狩りの開始を告げた。

 熱意のこもった啼き声をあげ、グリフォンは北に進路を取り、高度を下げ、雲の合間を縫って飛んだ。ブライトのため生気を喪った眼下の地に不自然な動きが見えれば、それがダークスポーンだ。
 グリフォンの夜目は乗り手たちよりも良く利いた。乗騎が速度をあげるため激しく羽ばたきして初めて、イセヤには獲物の存在がわかった。数秒後には、グリフォンは翼を畳み込み、やみくもに急降下を始めた。 

 グリフォンの影の下に見えたジェンロックの少数の集団は、もはや逃げ出すには手遅れだった。リーヴァスは拳のように丸めた爪で最寄りの二匹を叩きのめすと、その首をねじ切って即座に殺した。やつらが剣の柄にかけた腕が動きをとめるよりも早く、グリフォンは残りの敵にとりかかっていた。

 グリフォンの直感は鋭く、訓練は行き届いていた。リーヴァスはジェンロックに決して嘴を立てない。ダークスポーンの血は、その汚染に耐性がなければ恐るべき毒になる。グレイ・ウォーデンがジョイニングの儀式で守られているとしても、その免疫を乗騎と共有しているわけではない。ダークスポーンを一噛みしてしまったグリフォンには、苦痛に満ちた死が待っている。
 だがリーヴァスはその爪を存分に用いて、一分もしないうちに、六匹から七匹のジェンロックを八つ裂きにしてしまっていた。

 イセヤが力場の球で捕えた一匹だけが生き残った。その魔法はリーヴァスの爪からやつを守っているとともに、そいつを金縛りにしている。そいつの悪夢のように黄色く汚れた瞳が、イセヤのほうを困惑に満ちた様子で見つめていた。

 イセヤがグリフォンに落ち着くように宥めると、手綱を握ったままその背中から降りた。優しく、獣を囚われのジェンロックから遠ざけようとすると、グリフォンは一瞬抗い、苛立ちとジェンロックへの嫌悪に満ちた啼き声をあげたが、イセヤが手綱をはなさなかったので、不貞腐れたあばずれ娘のようになって、連れていかれるままにした。

 リーヴァスがちょっかいを出せないくらい遠ざかったところで、イセヤはカリエンを促した。
 彼は前に進み出て、ナイフを握り、自分の手のひらに傷をつけ、ジェンロックの足元から一インチも離れていないところにその血を滴らせた。ジェンロックの醜く扁平な顔から胸中を読み取ることはできなかったが、イセヤ自身のはらわたは不安のため痛んでいた。先ほどまでの虚勢もどこかに消えてしまっており、邪道魔術を目の前で見ることは言い様のない動揺をもたらした。
 だが、これはなさねばならない。これから何が起きるのかわからないまま、彼女は自分を勇気づけた。

 力場がシャボン玉のように消えるや否や、ジェンロックが歩み出た。リーヴァスが気を荒げ、イセヤが囁き声で落ち着くよう命じると、前脚の爪を岩だらけの地面に深く突き刺したまま、喉を鳴らすような声をたてていたが、その場に何とかとどまっていた。
 ダークスポーンが動いた瞬間、カリエンが手を掲げた。ジェンロックは凍り付き、その滑稽な唸り声は、唇のない口蓋の中に消えた。それから水っぽい黄色の目を閉じ、悪い夢から覚めたかのように首を振ると、彼女たちに背を向け、不毛の岩場の方に駆け出していった。

 ディープロードに戻ろうとしている、とヒューマンが言った。追跡すれば入り口がわかるはずだ。
 素晴らしい。イセヤは鞍に再び跨ると、片手でカリエンを引きあげた。空に戻るように告げられたグリフォンは、喜んでそれに従った。
 ジェンロックは北に向かった。ダークスポーンに似つかわしくない一心不乱さで歩みを進めていたが、空の上の追跡者を引き離すことはなかった。 遅い相手を追うために、リーヴァスは相手の頭上で輪を描きながら飛んだ。

 獲物をしばらく追跡した後で、カリエンがかすかに身じろぎし、イセヤに尋ねた。自分の秘密を暴くつもりはないだろうな。
 もちろん、そのつもりだ。ジェンロックを見つめながら、イセヤが言った。ブライトと戦ってきたこの数年で、このような光景を見たのははじめてだった。ウォーデンの虜となり、その意に従うダークスポーン。彼女はもうひとりのメイジに目を向けた。

 自分にもやり方を教えて欲しい。

***

 「邪道魔術」ってのは、"maleficarum"の苦し紛れ訳。 マレフィカラムは、元々魔女などのなす悪行(島国では巫蠱(ふこ)なんてのがありました)のことで、「アナ雪」よりだいぶ面白かったディズニー映画「マレフィセント」(Maleficent、2014)の語源なのはお気づきのとおり。でも森の妖精に「悪行」なんて名前つけないと思うけどね・・・。 

 エボラに絡めるわけではないけど、ブライトの汚染が含意する疫病の感染も恐ろしいが、魔道もまた恐ろしい。これもご承知の方多いだろうが、かつて両者は結び付けられて考えられたりしました。
 インクイジション、異端審問は、その和名のとおりクリスチャニティの(正しくは「教会」の)教義の正統性を認めない、信仰を異にする信者たちを取り締まることであった。
 創作上は魔女などのマレフィカラムを退治する「魔女狩り」などのために編み出されたとされていることも多いが、魔界道に走る輩は元々クリスチャニティを信仰しているはずがないので、「異端」でもなんでもないんですけどね。
 そんなこといったら迷信にかぶれた島国のほとんどの民衆は「異端」になっちゃうわけだから。言うならば「化外」でしょう。

 とはいっても、クリスチャニティ世界を破滅に導く点では同じだと、異端と魔道(化外)もいっしょくたにして、一旦糾弾がはじまってしまえば、松明とくわ持った民衆たちが集まって、手の付けられない大騒ぎになってしまうのでした。

 

【DAI】Giclee

 これ自体はジクレイ(Giclée)、インクジェット・プリンターで印刷されたアートワーク。

http://www.biowarestore.com/art/giclees.html

 でも、説明書きには「72枚のカスタム・タロット・カード・デッキ用のアート」の中からの一枚、と書いている。

Artgicleemetheloversfull_1
こちらさんは、The Lovers, 「恋人たち」。

Artgicleemequeenofstavesdetail
 The Queen of Staves、「杖の女王」。

 これが欲しいのではない(部屋に飾ってどうする)。

 このタロット・カード・デッキって以前売ってましたっけ?
 DA2とかにトランプ・カードデッキはあったんよね。持ってませんけど。

 あーっ、あの日本ではどうやって注文していいかわからなかった、DAIのドラゴン・ウーバー・エディションに付属しているやつか・・・。
 んー。ほとぼりが冷めたら別売りしてくんないかなあ。

 まー、眺めていたいだけだから、画像だけアップしてもらえば同じなんで、別にいらないんですけどねえ(出た、酸っぱい葡萄)。
 結局もったいなくて、占いには使えないわけだし(やっぱ欲しいんじゃん)。 

 つうか、ヴァリックがThe Loversのアートというのは洒落ていますね・・・。すなわち、ヴァリックとビアンカってことでしょう? 意表をついていて面白い。

 でも、モリガンがこっち(マイナー・アルカナ)に来ちゃったんだったら・・・。
 The Magician、「魔術師」は誰やろうか?
  The Fool、「愚者」も気になるなあ。

Last Flight 10(1)

 年数表記にご注意。

***

第十章

5:19 エグザルテド

 準備はいいか、とフェリスが言った。彼女の声は、跨る黄褐色のグリフォンが受ける上昇気流のため震えて聴こえた。準備よし、とイセヤが叫び返す。唇に入った髪の束を吐き出し、リーヴァスにフェリスの後ろにつくよう合図を伝える。冬の風が街の篝火の燃えかすを巻きあげ、雪片と焼け焦げた灰というつじつまの合わない組み合わせが彼女の頬に当たる。

 空を飛ぶウォーデンとグリフォンの眼下では、ホスバーグの街が城壁と燃え盛る障壁陣地に取り囲まれていた。障壁陣地の外では、ホスバーグの弩砲や投石器の射程に入るあたりで、まるで邪悪な海のようにダークスポーンの群れが打ち寄せ、また引いてを繰り返していた。

 七年にわたり、籠城はずっと続いていた。グレイ・ウォーデンに率いられたアンダースたちは、その年月の間、ダークスポーンを定期的に打ち破り、平和を夢想するに足るだけ、群れを大きく押し戻すこともあった。だがブライトは必ず新たな恐怖の波として押し寄せてきて、安全な城壁とタールを滲み込ませた木杭の障壁の中にアンダースを押し込めた。

 グレイ・ウォーデン抜きなら、街はずっと前に陥落していただろう。ホスバーグの農夫たちが街の周囲の荒れた土地からささやかな収穫を済ませ、狩人たちが森の中に生き残っていた鹿などほんの少しの獲物を狩るに足るだけの休戦期はあったが、街が自立するにはまるで不足していた。ホスバーグは、ウォーデンとそのグリフォンたちの空中補給のおかげで生き延びていた。 

 イセヤもその補給を担っていた。アンティヴァ・シティから来たメイジ、カリエンがリーヴァスの後ろの座席に跨り、ガラヘルに同乗するアマディスも、街の向こう側の空のどこかにいるはずだった。四人はこれまで夥しい数の戦友たちを亡くしていたが、幸運と技倆のおかげで、なんとか生き延びていた。

 今日の任務は、街の東端にダークスポーンの注意を引き付け、ホスバーグの西側に補給を落下させる輸送本隊を支援することだった。
 本隊に比べて囮の側は常に、意図的に危険を伴うような働きが求められた。一般に、ダークスポーンの戦いは洗練されておらず、戦術らしきものを用いることもなかった。イセヤは、ブライトとの戦いの間、二匹のエミッサリーが高い知性を示すわずかな兆しを見かけたことがあり、他にも何例か報告されていたが、ウォーデンは常にそれらを探し出し、発見次第ただちに打ち破るようにしていた。 

 才能ある指揮官が不在で、アーチディーモンの直接の指図もなければ、他のダークスポーンはただの凶暴な群れに過ぎない。何度かの低空飛行、ファイヤーボールの一、二発、あるいは矢の雨でも降らせれば、あらぬ方向に釣り出すことは容易だった。 

 釣り出した後も生き残ることは、だが難儀だった。十分低く飛ばなければ、群れの興味を失わせ、低く飛び過ぎれば、オーガの投げる岩石で叩き落とされる。ジェンロックとハーロックは、そのまがまがしい黒い弓から放つまぐれ当たりでグリフォンを撃ち落とすかもしれない。ダークスポーン抜きでも、篝火の近くを飛ぶのは危険だ。煙と光はグリフォンを惑わせ、温かい上昇気流が羽ばたきを邪魔して制御を失わせれば、軟着陸を余儀なくさせてしまう。味方の戦線の彼方で地上に降り立ったグリフォンと乗り手は、死んだも同然だ。 

 だが注意深くやれば、群れの結構な頭数を壊滅させ、四方を囲まれたホスバーグの守り手たちに束の間の救いをもたらすことができる。そしてそれは価値のある賭けだった。 

 彼女たちの前では、フェリスのグリフォンがダークスポーンの不気味な奔流に急降下していった。群れはまるで磁石に引き付けられる砂鉄のように集まってくる。ジェンロックとハーロックの中には野蛮な剣を宙に振るやつがいて、四十フィートも隔たっているフェリスと乗騎に飛び上がれば届くとでも思っているようだった。

 やつらの三十フィート頭上で、グリフォンは降下をやめ、水平飛行に移り、燃え盛る障壁陣地から群れの注意を逸らした。フェリスの同乗者、ジョラクと言う名のグレイ・ウォーデンが、白い羽根の矢を群れの中に放ち、ハーロックどもの怒りの叫びがさらに高まる。苛立ちとともに斃れた仲間を引き千切るやつもいたが、ほとんどはウォーデンたちを追撃していた。

 こっちも行く、イセヤがカリエンに告げ、リーヴァスにフィネスの進路に続くよう伝えた。視線の隅でメイジが頷くのが見えたが、降下がはじまると、彼女はダークスポーンに意識を集中した。

 リーヴァスの急降下が最も低い位置に達し、イセヤがむかつくような冷たい汚染の匂いを感じさえしたとき、カリエンがいくつものスピリットの矢弾を群れの中に撃ち始めた。やつらはあまりに近く、あまりに密集していたので、より強力な魔法で一掃することさえできたはずだったが、ファイヤーボールやテンペスト・ストームは群れを散りぢりにしてしまう。今はやつらを互いに畳重ねのようにしておく必要があった。 

 前方では第三のグリフォンが降下をはじめ、フェリスとイセヤと空中で交差する軌道を描いていた。そのグリフォンがダークスポーンの頭上をかすめると、同乗者が、持っていた重たい袋を喚き散らしているハーロックの頭の上に放り投げた。そこから滝のように沢山の瓶が流れ落ち、ほの暗い火の光の中で、毒入りの雹がまるで真珠のように輝いた。

 それぞれの瓶が割れると、入っていた乳液色の液体がダークスポーンの群れの中に巻き散らされ、あっという間に濃い半透明の霧になり、その錬金術の霧がダークスポーンに眩暈と苦痛をもたらした。角の生えたでかいオーガどもが悲痛な喚き声をあげる。ハーロックとジェンロックが互いにもつれ合い、むかつきのため叫び声や悲鳴をあげはじめると、グレイ・ウォーデンたちが矢と呪文を放った。

 ジョラク、フェリス、そして瓶の袋を投げた射手は、矢筒があっという間に空になるまで射ち続け、ダークスポーンの頭上に、容赦のない矢の雨を降り注いだ。斃れた一匹のオーガは、まるで至る所に丁子を刺されたハムのように見え、その下敷きにされた二匹のジェンロックの四肢は、潰されたクモのようにぺしゃんこになった。斃れたオーガの隣では、ハーロックのエミッサリーが呪文を唱えようとしたその顎の中にウォーデンの矢が飛び込み、舌もろとも胸まで串刺しにされた。箆にまとわりついていたエミッサリーのおぞましい悲鳴は、あと二本の矢に貫かれると静かになった。

 他のダークスポーンどもも、暗闇と霧に取り囲まれたその周囲で死んでいった。即座に絶命せず、傷ついて倒れたやつらは、仲間に踏まれてずたずたになって死んでいく。
 イセヤはその叫び声から耳を塞いだ。ダークスポーンの叫びは勝利でも死でも同じだ。苦悶に満ちた唸り声と喉鳴りの響きで、最後まで邪悪なままだった。
 彼女の後ろでは、カリエンがフェイドとの間の結びつきを完全に開いていた。メイジを取り巻くエナジーのオーラはあまりに強力で、肉眼でも見えるほどだ。ダークスポーンさえ恐れをなしただろうが、霧に包まれ、三人目のメイジの放ったファイヤーボールで周囲を焼かれ、傷つき、一か所に固まるように誘導されつつ悲鳴をあげるやつらに、それを目にするような余裕はなかった。カリエンの周囲に電荷がまとわりつき、メイジの髪を逆立てた。電光が髪の毛の周囲に踊り、フェイドとの連絡の強さを示すように明るく輝いた。 

 イセヤはリーヴァスの手綱を緩めた。グリフォンは、すぐ後に襲う嵐の中を自力で切り抜けなければならない。乗騎の頸を叩いてそう合図を送ると、イセヤは自分自身もフェイドとの連絡を探り、呪文を形作り始めた。
 
 彼女の周囲の冬の空気がさらに冷気を帯びた。アンダーフェルズのさらさらした雪片が空中で結晶になり、突然あまりに脆くなりはじめたため、彼女の騎乗用の手袋の甲の部分をちっちゃな鐘のような音を立てながら流れていった。周囲でつむじを描く風が強まり、リーヴァスの身体を左右に揺らした。グリフォンにはお馴染みのことで、できる限り態勢を維持していたが、これから一番危険な場面がやってくることをイセヤは知っていた。

 彼女は、自分のほとんど真下にいるダークスポーンに呪文を放った。 唸り声を立てる吹雪が群れを切り裂く。その超自然の冷気の第一波がやつらを襲い、傷を負ったハーロックどもの血が凍りついて毛羽立った黒い氷となり、ジェンロックどもの関節を樹液で一杯の樹木のように破裂させた丁度そのとき、カリエンが冬の嵐の中に自分の呪文を放り込んだ。

 稲妻が回転花火のようにダークスポーンの回りに飛びかい、地面と平行に走る光り輝く白熱の電弧がやつらを刈り取っていく。一ダースものハーロックが電撃で麻痺し、その矢まみれの身体が吹きすさぶ雪の中で不自然な弓なりの形で持ち上がる姿を、イセヤは垣間見た。衝撃から解放されると、やつらは地面に倒れる間もなく死んでいた。

 リーヴァスはその上を飛び過ぎ、乗り手たちの呪文が巻き起こした乱気流を利用して、どんどん上昇し、眼下の戦場を遠い彼方に置き去りにした。イセヤは呼吸を取り戻し、凍り付いたような感じのする指をほぐして生気を取り戻した。カリエンはフェイドとの連絡を絶っており、身体の回りに渦巻いていたオーラは消えていた。

 完全な作戦だった。乗り手は誰一人損なわれておらず、重大な怪我を負った者もいないだろう。彼女たちの攻撃は、ダークスポーンの軍勢からかなりの部分をえぐり取り、また街の反対側のどこかでは、トラデン王の兵たちが、ホスバーグの民が感謝とともに受け取ることになる、塩、乾き肉、大麦などの新たな補給を手に入れていることだろう。 

 彼女たちの勝利は圧倒的だった。そして、それにはまったく何の意味もなかった。

 何週間か経てば、あるいは何日かの間にも、彼女たちが倒したダークスポーン一匹に対し、二匹かそれ以上の新手がやってくる。アーチディーモンの軍勢は無限なのだ。ウォーデンの「集めて殺す」戦術は、これまで数えきれないくらい試されたため完成の域にあるが、依然として、まとまった数のダークスポーンを死地に誘き出すことが可能で、それというのもダークスポーンは以前の失敗から何も学ばないからなのだが、学ぶ必要すらないのだった。やつらの兵力の補充は無尽蔵だった。

*** 

 戦闘シーンは楽しいんだけどなあ・・・。すっとばすつもりが、結構まじめにやっちゃった。
 ま、戦争シーンは、大抵愉しめますよね。きったはったの戦いは楽しい。おそらく本当にやるともっと楽しい。だからこそ、おっかないんだけどね。

 ホスバーグはグリフォンの空中補給で生き延びていた。まるでインパールの戦いで旧大日本帝国陸軍の包囲を受けた英軍のようですが・・・。ダークスポーンが日本軍? まあ、指揮官についてはダークスポーンとほとんど代わりなかっただろう。 

 「集めて殺す」、"gather-and-destroy"は造語ですね。"search-and-rescue"、"search-and-destroy"などからの連想でしょうか。
 ゴキブリホイホイとはまたちょっと違う手法で・・・。ん、バルサン?

 

 そうそう、「栄光の勝利、ただし何の意味もない」で思い出したのが、映画"The Longest Day"(1962)のこのシーン(下にYouTubeのリンク)。英コモンウェルス軍が上陸したばかりのノルマンディ、ゴールド・ジュノー・ビーチに、ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)のフォッケウルフ(んー、映画ではメッサーシュミットぽく見えますが、実際にはFW190のはず)がたった二機だけで機銃掃射を敢行するシーンでした。ちなみにリードは百機撃墜のエース、ヨーゼフ・プリラー中佐。

「(僚機のヴォダルチックに)バーグスドルフにとっとと帰ろうぜ、ルフトヴァッフェに栄光あれ! あっはっはっ・・・、あぁあ」

https://www.youtube.com/watch?v=F6IHANM9_k0

 本当はこの前段の、出撃を命じられる場面からあるといいんだけどね。 

 ・・・。あったあった(笑)。あるもんだなあ。こちらが「完全版」ですかね。

https://www.youtube.com/watch?v=cbxbEv2xMnU

 三つのシーンのつぎはぎですが。

 出世して司令官になったかつての同僚へのプリラーの罵詈雑言もすごいが、彼の警告を切り捨てずに、真面目に受け取る上司も面白いですね。
 戦闘機たった二機しか配備されていない「航空隊」で出撃しろと命じられた場面。

「礼を言うぜ、ハンス、もうこれっきりだからな! じゃあな!」 (電話を切る)
「おちおち寝ていられやしませんぜ」
「どうせすぐにぐっすり眠れるぜ、侵攻が始まったんだ。ノルマンディー。俺たちふたりで飛ぶ。他には誰もいない。生きて帰ってこれるとは思えん」

Felisse フェリス

Jorak ジョラク

King Traden トラデン王

Last Flight ここまでの感想・愚痴(2)

 遠坂さんが、なんか幼な過ぎる感じがする! 太も、もとい、絶対領域もスレンダーすぎてあんましあれじゃないし。えー、前のほうがよかったのにー。

 Dragon Ageの章が過ぎたら、こうやって感想・愚痴を書こうと思っていたのですが、予想に反して同じようなインターバルで挟んでいるのではなかった。

 第一章はDragon。グレイ・ウォーデンへの入団を目指して、あるいはセダス全土に拡大したメイジ・テンプラー抗争から逃れるため、ワイズホプトに到着したエルフの女性ヴァルヤと同僚のホスバーグ・メイジたちの話。

 第二章から第五章はExalted。第四のブライトにおける伝説の英雄だったエルフ・ウォーデン、ガラヘルの妹にして、兄と同じグリフォン・ライダーだったイセヤが書き記した、アンティヴァ・シティの崩壊、さらには兄妹が駆るグリフォンたちとアーチディーモンとの間の空中戦について。

 第六章は再びDragon。ウォーデンへの入団に必要なジョイニングの儀式を引き延ばされているイセヤの苦悩、彼女たち同様ワイズホプトを避難先としてやってきた脱走テンプラーとの「呉越同舟」。 

 第七章と第八章はExalted。グリフォンと魔法の力で宙を進む空中アラヴェルの船団を用い、ワイコムの民をスタークヘイヴンまで脱出させることによって手に入れた、兄妹たちのささやかな勝利。

 第九章は三度Dragon。第四のブライト終焉後に訪れたグリフォン絶滅の謎について、軍団の知恵袋、チェンバレン・オヴ・ザ・グレイからすら答えを得られないヴァルヤ。脱走テンプラーの女性から、テンプラーを頑なに拒否する態度が無用なことを諭されても、素直に耳を貸すことができないヴァルヤ。 

 プロットだけ並べてみると、なるほど、なるほど、面白そうですね。この後、ガラヘルとイセヤは、予告どおりアンダーフェルズで任に就くのですが、舞台はさらに広がり、セダス大陸をまたにかけるという感じで、まるで007かグリフォン・ライダーか(いや、そうなんだけども)。

 愚痴はもう色々書きました。まあ、冒頭書いたような類の「趣味の問題」ではあるのでしょう。わらわらと出てくる沢山のキャラクターたちの話をほったらかし、さっぱり回収しないのも、きっと「戦乱」やらフォッグ・オヴ・ウォーを表現しているつもりなのでしょう。ほんまかいな。

 空中戦で隊長機が真っ先に撃墜される話なんて、古来よくある手法で枚挙に暇がないですが、戦闘シーンはたしかに楽しめる。魔法の描写は華やかで派手。そして漁船を空中馬車に変えるなんて、とても乙女チック。
 ところが内省的なシーンになると、その乙女チックさのせいで、とたんに私の翻訳の筆が遅くなってしまいます。
 アマディスもカリエンも、いやガラヘルもイセヤも、これから内面的なことが色々わかってくるのかなー、と思いながら読み進めていますが、特には・・・。見たまんま、書いてあるまんまですな。
 ラノベ・アニメの趣が強いと思われる理由のひとつでしょう。
 

Last Flight 9(2)

 ここは、短くまとめます。

***

 エルフは凍り付かずにはいられなかった。ホスバーグのサークルにおける長い暮らしで染みついた反応だった。何とか努力して落ち着き、強張った顔を取り繕い、年上の女性に振り向き、返事をした。
 女は、ここにきて話をしないか、と告げた。

 ヴァルヤは再び身体を固くした。ここはサークルではなくワイズホプトなのだから、テンプラーに従う必要はない。だが身についた習慣から抜け出すのは容易ではなかった。

 理由を問うヴァルヤに、女は、ただ話すだけだ、と答えた。レイマスの長く薄い顔に浮かんだ笑顔もぎこちなく、いつも熟考に沈んでいることを示す皺になっていた。
 だが要求はぎこちなさこそあれ真っ当なもののようであったので、ヴァルヤは机を挟んだ向かい側の椅子に渋々近づいていった。できるだけ距離を置くため斜め向かいに腰を下ろす。

 ヴァルヤはテンプラーたちを信用していない、そう言うとレイマスは、目の前の閉じられた書物の上で両手を組み合わせた。男のように大きな手は、太い指とたこのできた掌をしている。甲には古傷が残る、兵士の、テンプラーの手だ。メイジたちは誰も自分たちテンプラーを信用していないのはわかるが、ヴァルヤほど疑い深い者はいない、と女は告げた。

 したいのはその話か、とヴァルヤが問うと、そのとおりで、疑う必要はない、と答えたレイマスの瞳には、古くて長く秘められた苦痛が見え隠れした。ここにはメイジを狩りに来たのではない。全てのテンプラーが、メイジを踏みつけにして喜ぶわけではない。
 そうしないで他に何をするのだ、とヴァルヤは苛立ちを示しながら言った。恐れ戦き、落胆したメイジたちで一杯のタワーで過ごす理由が他にあるのか?

 少なくとも自分にはある、テンプラーの女は細い茶色っぽい黒髪を耳の後ろに撫でつけ、視線を閉じたままの書物に落とした。ヴァルヤはそれが「訓戒とメイカーへの賛歌」という祈りの書であることに気が付いた。背表紙は固く、まだ多くの者に読まれていないことを物語っている。自分はメイジたちを守るために騎士団に入った、と女が言った。 
 崇高な考えだが、その理由を問うことを期待しているのか、とヴァルヤが尋ねる。どちらでもよい、と言って女は話しはじめた。

 レイマスの父はメイジだった。さして強力でもなく、訓練を受けたこともなく、その天賦の才をできるだけ隠していた。自分の子供たちにも話さなかった。妻にすら話さなかったのかもしれないが、身の回りで不思議なことが色々起きたから、レイマスの母親は知っていたのかもしれない。鶏の卵が一晩で凍り付く、焚火が青や緑色の炎をあげる、小さな声がするなど。よそ者に告げてはいけない類の話であることはわかっていた。村人の誰かにばれていたとしても、彼らもその秘密を守り続けた。 

 ヴァルヤは、この話がどこに向かうのか気が付き、それを聞きたくもないと思って苛立っていた。サークル・メイジは誰であれ、似たような退屈な警句めいた話を聞かされる。不慣れなメイジがディーモンに唆され、アボミネーションになる話。レイマスの父がそうなったとして、それは確かに悲惨だが、今更聞きたい教訓ではなかった。
 だが、話はまったく違った。 

 レイマスの父についての話を誰かが漏らし、テンプラーがやってきた。誰が漏らしたか、なぜ知ったかはわからず仕舞いだったが、それは問題ではない。レイマスの父は強い男ではなく、さしたる勇気もなかった。テンプラーがやってくると知ったとき、彼は着ていた服のポケットに石を詰め、湖の中に入って行った。

 レイマスはしばらく黙り込んだ。両方の親指を互いにぐるぐる回し、握りこぶしは感情を押し殺すかのように白くなっていた。それから長いため息をつくと、両手を広げて書物の表紙に乗せ、指の間からのぞく表題を見つめていた。

 彼女はそれからしばらく怒り続けた。テンプラーを憎み続けた。彼らは、まるで疫病患者を隠しているのを疑っているかのように冷たい高慢さで母親を問い詰め、自分を含めた子供たちには、魔法の素養を隠しているのではないかと問い質した。彼女の怒りと憎しみは数年にわたって持続し、自分に対峙する者とは誰とでも戦い、怒りのやり場を見出していた。 

 どうして、なぜ変わったのかわからないが、ある日彼女は、父のような目に会う者を出さないようにするためには、内側から変えなければならないことに気が付いた。聖職につくための敬虔さは有していなかった。メイカーのことなどこれっぽっちも気にかけてはいなかった。だが、メイジの安全を守ると信じられていたのはテンプラーであった。その責務を正しく果たすのなら。そしてレイマスはその通り果たすつもりだった。

 だから脱走したのか、とヴァルヤが尋ねた。
 だから脱走した。レイマスがとうとうヴァルヤの顔を見た。年長の女の瞳は輝いており、もしかしたら涙で潤んでいたのかもしれないが、暗い図書館の中では何とも言えなかった。 
 騎士団がその責務を果たさなくなったため。

「どうしてそんな話を私にするの? 何が望みなの? 騎士団への赦罪? 父親への赦罪?」
 レイマスはぎこちなく笑った。彼女は袖の先で瞳に触れ、そこにあるのかもしれず、ないのかもしれないものを拭い、いつものふさぎ込んだ冷静さの壁の中に戻って行った。「赦罪をくれるというなら断りはしない、でもそれを求めるのが意図ではない」
「では、何?」
「テンプラー騎士団は本来の姿ではなくなってしまった。正しい道に戻すこともできると信じているけど、でも・・・、今、私の手ではできない」 レイマスは訓戒の本を脇によけ、二人の間の卓上を開けた。「でも、グレイ・ウォーデンは依然として伝説の英雄のままでいる。私たちはふたりともここにいて、入団を待っている。あなたには、ここに一緒に座って私の話を聞いて欲しかったのだし、怒りや恐れを抱く必要がないことを教えてあげたかった。私たち皆がここにいるのは、真っ二つになってしまった外の世界から逃れるため。自分たちを裏切ることのない大義を、信頼できる同志を見つけるため。私が話したかったのはそういうこと」

「わかったわ」とヴァルヤが言って立ち上がった。彼女は椅子を机の下に戻した。「話は聞いた」
「でも、あなたに通じたのかしら?」 レイマスが尋ねた。
 ヴァルヤは返事をしなかった。彼女はガラヘルの記念碑のある書庫に戻ると、読みかけの日記を手に取り、テンプラーのことは、読まれもしない祈りの書物とともに置き去りにした。

***

 うむむ。この場面については、次の一点を除いて「ノー・コメント」にしときましょう。 

「訓戒とメイカーへの賛歌」は、"Homilies and Hymms to the Maker"。
 女テンプラーは、なに故にその書物を閉じたまま(読まずに)目の前に置いているのか。
 ここら辺、クリスチャニティの造詣が深くないと、解釈をしくじりそうで怖いですね。やめとこう。

 

 

 

 

 

Last Flight 9(1)

 続きます。

***

 第九章

 9:41 ドラゴン

 

「グリフォンたちに何が起きたのでしょう?」とイセヤが尋ねた。
 チェンバレン・オヴ・ザ・グレイが答えるまでには、しばらく間があった。正確には老人とは呼べないが、彼は容易にそう見間違えられる。穏やかで夢見がちで、髪の薄くなった自らの頭の中に迷い込んでいるように見えることもしばしばだった。どこまで本気かわからないカロネルの言葉によれば、来客が彼をトランクィルと見誤ることもよくあるそうで、両者がぼんやりした雰囲気を確かに共有していることから、彼女もさもありなんと思っていた。

 彼は彼女に振り向き、フクロウのように目を瞬いた。「グリフォン?」
「第四のブライトの後で、みな消えてしまいましたよね?」
「そうだ」 チェンバレンは書庫の通路をすり足で進み、灰色の陽だまりを通って闇の中へと入ると、再び振り返った。ヴァルヤは彼の隣について歩き、その日届いたチェンバレンへの手紙の束を詰めた肩掛け鞄の位置を直した。ほとんどの信書はファースト・ウォーデンの注意を引く目的で認(したた)められていたが、過去数年、あるいはそれよりも長い期間、日々ワイズホプトに届く些末な手紙の処理を行っているのはチェンバレンだった。ファースト・ウォーデンの心は、より重大な物事に向けられていた。
 新米が毎日交替で、チェンバレンの身の回りの世話係を担うことになっていた。通常であれば、ジョイニングの儀式を終えたばかりの成り立てのグレイ・ウォーデンたちが担う役目であったが、ホスバーグのメイジたちも分担するように命じられていた。

 ヴァルヤは気にしなかった。それが意味するのは、静かな一日、楽な仕事、そして頭の中からなかなか消えない疑問への答えを求める機会でもあったからだ。チェンバレンは肩書きを一切気にしない、穏やかな気質の男であった。彼女はあたかも対等な立場で彼に話しかけることができた。「それで、グリフォンたちはどうなったのでしょう?」
「死んだのだ」
「でも、どんな風に?」
 チェンバレンは白髪交じりの眉毛を片方持ち上げた。彼の眉毛は恐ろしく長く、睫毛に触れんばかりだ。「君たちは第四のブライトについて調べているんだな」
 
 ヴァルヤには、それが問いかけなのかどうか定かではなかった。そうは聞こえなかったし、チェンバレン・オヴ・ザ・グレイは、彼女が過去何か月かにわたって彼の書庫をつつきまわっているよそ者のひとりであることは百も承知しており、なぜならそれは彼の仕事のためであるからだが、そうであっても彼女は、それがただ事実を述べている言葉には思えなかった。
「はい、もちろんです」

 彼は頷き、ローブの肩にかかった、薄くはなっているがもつれた灰色の後ろ髪を払いのけた。「そして、その当時の戦いで、我々にあれほどの栄光をもたらした獣たちのいく末について知りたがっている。彼らによって成し遂げられた魔法のような驚異を、我々がもはや手にしていない理由を知りたがっている」
「そうです」
 チェンバレンはため息をついた。彼の顔は切ない笑顔で皺になった。「誰しもが知りたがっている。私もかつてそうだった。だがグリフォンは喪われたのだ、娘よ。彼らはブライトで死んだ。戦いであまりに多くが死に、生き残りは頭数を支えられなかった。次第に弱っていった。最後には新しく生まれるべき命が卵の中で死んだ。そして途絶えた。大いなる犠牲。大いなる悲しみ」
 大いなる嘘、ヴァルヤは思った。

 彼女は口には出さなかった。チェンバレン・オヴ・ザ・グレイが嘘をついてると信じるに足る理由もなかった。彼の語り口にそう告げるようなところもなく、グリフォンがブライトの終焉とともに姿を消したのは事実だった。戦は果てしない年月の間続き、そのほとんどの期間、グリフォンが狩りをし、子を産み、巣を作っていたと伝えられるアンダーフェルズ中に戦火をもたらした。彼らは、本当にブライトによって皆死んでしまったのかもしれなかった。
 だが彼女は、心の奥底に宿る疑いの小さなねじれを消し去ることはできなかった。

 チェンバレンは彼女の沈黙を同意と受け取ったようだ。彼は再びため息をつくと、私室の扉を開けた。部屋の中には際限なく散らばる紙の塊が、乱雑な山となって聳え立っており、多くは厚い塵埃に覆われていた。かつて来客用の椅子だったものには、机の上にもましてうず高く紙が積まれている。木彫りの背もたれのてっぺんだけが、その堆積の中から顔をのぞかせていた。
 

 ゆっくりと、ギシギシと音を立てながら、チェンバレンは書斎の中でその用に供することができる唯一の椅子に腰を落ち着けた。革は古びて座席の両脇で裂けており、尻と背中のクッションは、その上級ウォーデンの身体にぴったりあわせて完全にへこんだままだった。椅子にもたれるとチェンバレンはヴァルヤに身振りで促した。
「今日はどのような手紙が来ているかね?」

「ああ」ヴァルヤは手紙鞄を急いで降ろすと、中身の巻物や小包をごそごそと探った。「一通はヴィジルズ・キープから。デネリムからも一通きていて、でもすみません、私にはどのアールの紋章かわかりません。あとはオーザマー、スタークヘイヴン・・・」
「南からは? オーレイは?」
「いいえ、ないと思います」彼女は残りの手紙の封緘と紋章を見た。「外からそれとわかるものはありません、少なくとも私に印の意味がわかるものの中には。もちろん私が見逃していても不思議はないですが」

「うーん」 チェンバレンは頭を後ろにそらし、椅子に深く腰掛け、目を閉じながら彼女にもう一度手を振った。「いやいや、君が正しいと思う。年寄りの他愛もない思いつきなのだ、たまたま支援を必要としていないかもしれないのに、ウォーデン・コマンダー・クラレルから便りが途絶えたのはなぜだろうと・・・。人が手紙を書くのはいつも要求があるときで、満足しているときには決して書かない。あるいは困らせようとしてふざけているか。どちらであっても問題ではない。ヴィジルズ・キープからは何と言ってきている?」

 ヴァルヤは蝋の封緘を親指で破り、折りたたまれた小包を開いた。最初の数行に目を通して悲しげに笑い、首を振った。チェンバレンは正しかった。「新任のウォーデン・コマンダーが、レリウム、武器、装備の補給を丁重に要求してきており、それらは・・・、ああ、ディーモンに憑依された木々との戦いで喪われたとか。火事で燃えて。具体的な目録が添付されています」
「そうだろうとも」 チェンバレンが鼻を鳴らして言った。目を開けさえしなかった。「それから、デネリムの謎のアールはなんと?」

 それもまた別の支援の要求だった。酒瓶を取りに地下室に降りたアールの妻がジェンロックを見かけたので、彼の葡萄酒の酒蔵にディープロードから疑いなく侵入したダークスポーンを退治するため、ウォーデンの一部隊を派遣するように求めていた。アールまたはその妻が、目撃当時どれだけ泥酔していたかについては手紙に記されていなかった。
 他の手紙はさらに取るに足らないものだったが、ほとんどが何かを要求しているに違いなかった。メイジとテンプラーは敵との戦いに支援を求めており、テンプラーとメイジの双方とも避難先を求めていた。アンダーフェルズの偵察たちは、ダークスポーンの目撃談とその活動形態について知らせている。ドワーフたちは、ディープロードにおけるダークスポーンの活動について似たような知らせをもたらし、また、コーリングのためその地を訪れたウォーデンたちの到着、旅立ち、そして死を伝えていた。

 ヴァルヤがオーザマーが伝えて来た名前の一覧を読み終えたとき、とうとうチェンバレンが身体を起こし、目を開けた。「もういい」と彼は言って、彼女に向かって書斎から出るよう手振りした。「もういい。行きなさい。他に仕事があるだろう。残りの手紙は置いていきなさい」
 お辞儀をすると、若いエルフは退室した。
 彼女は、ガラヘルの記念碑がある書庫に向かい、ホスバーグのメイジたちと調査を再開するつもりだったが、後から気づいたことには、他の者たちは昼餉のためすでにその場を離れていた。図書館に残っている唯一の人物は女性テンプラーのレイマスで、机に一人で向かい、閉じたままの一冊の書物を目の前に置いていた。

 ヴァルヤは、その女性が閉じた書物で何をしていようとも、そのまま続けていてくれればありがたかったが、彼女は図書館の静寂を通して呼びかけて来た。「あなた。ヴァルヤ」

***

 「彼は彼女に振り向き、フクロウのように目を瞬いた」
  "He turned and blinked owlishly at her."

 あるいは「しかめ面で」目を瞬いたのかもしれない。
  フクロウのように見つめる("stare owlishly at")だと「しかめつらで睨み付ける」だそうで。フクロウってしかめ面してましたっけ? 目をぱちくりのイメージしかないんですが。

 ところで最初はミミズクとやっていた。
 ミミズクとフクロウの違いは何でしょう?

 「耳」の有無なのだそうだ。ズクがフクロウを意味するから、「ミミフクロウ」。
 耳といっても正しくは「羽角」。グリフォンにもあるやつですね。
 よって英語でミミズクを区別するときは"horned owls"。

2014年10月11日 (土)

DAOが無料だよ。

 Originで。

 って、何故かすでに4つもあるんで、5つめとか要らないんですけど・・・。DAOAもついてないし。もしかしたら自分のアカウントで入ればDAOAとかすでに入手しているDLCとか全部ついてくるんかなあ、試してみますが。

 ちなみにBejeweled 3も無料だよ。 

 先ほど買い物から戻りましたら、ダウンロードが終わっておりまして、DLCもAwakeningも特に問題なく認識していただいたようです。

(DLCやAwakeningは無料ではないようで。どうせなら全部まとめてギヴアウェイと太っ腹なことやればよかったのに)

 さすがに懐かしがって今からプレイするような時間の余裕はありません。

2014年10月 8日 (水)

アップルサイダー

 先日のLast Flightの記事で書いたばかりなのでめちゃ気になりました。
 他おふたりの日本人科学者とノーベル物理学賞を受賞したUCSBの中村教授(すでに米国籍)の記事。

http://www.sankei.com/west/news/141008/wst1410080013-n1.html

 素人が中身についてうんちくを述べるつもりなど毛頭ございませんが、問題はスウェーデン王立アカデミーからの電話でたたき起こされたのち、着替えてUCSBに向かった場面。

「(中村教授は)サンタバーバラの自宅からすぐに研究所に移り、構内で大学関係者から手渡されたアップルサイダーを飲み、喜びを分かち合った」

 そそそ、「サイダー」。ついこの間書きました。
 英文記事を探しても、このくだりは出てこないので、(現場に立ち会った)共同通信記者の「味付け」でしょうか。
 Apple Ciderはアルコール、それともノンアルコール?
 大学構内ですからノンアルコールですね。アメリカで一般にアップルサイダーというとそう。
 サイダーが一般にアルコールを指すブリティッシュの場合、ノンアルコールは「スウィート・サイダー」と呼ぶそうな。
 一方、Last Flightのイセヤとガラヘルたちが飲んでいた「サイダー」はアルコール。林檎酒。ブリティッシュ風なわけですね。

 それにしても、なんか奇遇やなあ。(発明については触れずかい!)

Last Flight 8(2)

 前回の短さはさすがにまずかろう、とは思いますが、あまりに女性ホルモン満載なくだり、ほんとに気力が途絶えた。
 気を取り直して書き足そうかと思いましたが、やっぱ、「ありのままで」? ぶっ。

*** 

 ガラヘルの金槌の腕は最悪だった。慎重さと忍耐が求められる大工仕事は、エルフの射手にとって呪いであった。射つ、口説く、下ネタを話す以外、彼は一切興味がないのだ、とアマディスが文句を言う。

 そのマーチャーの女にしても大差なかった。ただし彼女は、自分には不向きな町人の仕事に手を出さないだけの分別がある、と言い募った。代わりに、フリー・マーチズの貴族社会の様々な友人たちや親戚たち、同業の傭兵隊の馴染みの隊長たち、その他戦争の際に有益となる知り合いたちに手紙を書いた。それらの手紙の配達をガラヘルに託すこともしばしばで、おかげで彼はグリフォンに乗って、朝から晩までワイコムを留守にすることが多かった。

 とうとうある朝、アマディスが手紙の詰まった袋と宛先の一覧をガラヘルに渡したとき、見かねたイセヤが、兄に遣い走りをさせていたら、ウォーデン・コマンダーが怒り出すのではないか、と彼女に問い質した。

 アマディスは驚いたように黒い瞳を見開いて、そんなはずがないと答え、黒髪を振りながら笑い出した。魔法も鋸も使えない彼がアラヴェルを扱ったら、漁船を陸の上で沈没させてしまうだろう。だが、おかしな見かけのグリフォンに乗れば、彼はセダスの隅々まで驚くべき速さで往復できるし、その魅力を振りまいて、貴族の男女やこわもての殺し屋たちを自分たちの目的に従わせることができる。ルビー・ドレイクの姫君隊長の手紙を、グリフォンに跨ったグレイ・ウォーデンから受け取る意味は軽く見るべきではない。それは孫に語り継ぐ類の話だ。授かるほど長生きすればだが。 友人に自慢し、部下を敬服させる話だ。敬服しない者たちには、力づくでも従わせるという警告にもなる。どのみち、相手にとって抗うのはとても難しい。

 つまり政治か、とイセヤが不快を顕わにして言った。それが、アマディスがこの書類机つきの個室を与えられている理由でもあり、ワイコムの鵞鳥の羽根が矢羽にするため皆むしられたのに、贅沢な羽根のペンを与えられている理由だ。いくらスタークヘイヴンの支配階級相手にしても、頑として実利的なセナステが似合わない厚遇をするものだと思っていたが、実は功利的な理由だったのだ。
 

 政治だ、アマディスが人好きのする笑顔で言い返す。イセヤもそのゲームには慣れたほうがいい。戦争は剣を用いた政治であって、自分たちはそれに勝つもりなのだから。
 自分の得手は魔法だ、とイセヤがつぶやき、手紙を書いているヒューマンの女を置いて立ち去った。 

 だが、それらの手紙は役に立った。毎日、ガラヘルは支援の約束を取り付けて戻って来た。プリンス・ヴェイルは、ワイコムからの難民のスタークヘイヴンへの避難を快諾した。アマディスが従兄弟の約束を簡単に信じるなと忠告しても、勝利の感覚を味あわせることに違いはなかった。もちろん実際に勝利を手にするには、ワイコムの民を手遅れにならないうちに連れて行かなければならない。 

 時間はなくなっていた。五体満足な男女は皆駆り出され、昼夜兼行でアラヴェルの建造に励んだが、ブライトが到達する前に三十台よりも多く完成させることは困難に思われた。イセヤは、ダークスポーンの襲撃で街が滅びるのを見なくて済むように、自分が命令どおりに脱出第一陣の護衛につけることを願っていた。

 それでも街の民は憑かれたように働き、イセヤが「硝子の林檎」でアラヴェルの考えを話してから一週間後には、脱出第一陣分のアラヴェルを完成させていた。
 十八台が二列に並び、引き具で繋がれた。十九台目は、イセヤが行った着陸時の衝突実験に耐えられなかった。

 フリー・マーチズを速やかに進むとは到底思えない脆そうな乗り物に、街の民二百五十人ばかりが詰め込まれ、食糧、衣服、そして貴重な家宝が、目を見開いた子供たちとその親たち、勇敢な顔つきで抱き合っている彼らの間の薄い木でできた船殻に積まれている。場所を節約するため、ほとんどの者が一張羅を身に着けており、彼らの晴れ着姿が場の空気に珍妙な彩りを与えていた。
 鶏と鵞鳥は、船側に結び付けられた籠の中で不機嫌な鳴き声をあげ、時折り舞い散るその羽根が、超自然的な雰囲気に演出を加える。 

 クロッキーテイルとリーヴァスが各列の先頭に位置し、それぞれ九台のアラヴェルを牽引することになる。ウォーデン・コマンダー・セナステが新調した引き具の、つめもの入りの革帯にいくつも並ぶ輝く銀のメダリオンが、朝もやの光の中で宝石のように輝いていた。グリフォンたちがどれだけ強力でも、これだけのとてつもない重量を空中に持ち上げることができるとは思えず、そして魔法を用いなければ、そのとおり不可能だった。 

 魔法をもってしても無理かもしれない。イセヤは、その考えを無理やり脇に押しやった。ローブの袖を手首と肘のところで固く結び、髪留めを直し、別の列の先頭に立つウォーデンに目をやる。ガラヘルはその男の隣に座り、グリフォンを安心させるように何かつぶやいている。クロッキーテイルを操るのは彼だが、アラヴェルを宙に浮かべるのは同乗するメイジの仕事だ。
 一方イセヤは、何もかも自分ですることになるので、もう一人分の乗客の席を生み出すことができる。

 彼女は深呼吸して、別のグリフォンの乗り手に、準備はいいか、と尋ねた。 
 準備よし。ガラヘルの返答は、イセヤが感じているよりも上機嫌なように聞こえた。別のメイジが厳粛に復唱する。

 イセヤは左手でリーヴァスの手綱を絡め取り、両手で杖を固く握った。フェイドとの繋がりを開くと、杖を通じて別世界のエナジーが身体に流れ込むのを感じた。スピリットたちとディーモンたちのからかうような囁きが彼女の思考の縁に触れ、彼女の魂を通して魔法の爪弾きがこだました。

 彼女はそれらの囁きを押し退け、魔法の力を集めた。何度も練習したように、イセヤはそれを柔らかい、底の広い円錐に変えた。枕のような形で、底のほうは雲のような緩衝材になるよう散らされている。形の定まらないその平らな底が、船列全体を支え、呪文を浸透させるように十分に広くなっており、アラヴェルの隊列がバラバラになることを防いでくれる。
 優しく、彼女はリーヴァスに告げた。飛んで。自分の背骨を折ることなく、不可能と思われる荷重を引きあげることができるのだ、イセヤを信じたグリフォンが黒い翼を羽ばたくと、エルフは、力の円錐を地面に押し付けた。 

 グリフォンの背後ではアラヴェルの列が、まるで木と綱と金属でできた芋虫のようにくねりながら持ち上がった。息を呑む音と悲鳴がイセヤの後方からあがり、すぐ後にはクロッキーテイルも彼女たちの隣で二列目を浮かび上がらせていた。

 アラヴェルを結ぶ綱と鎖が悲鳴をあげるが、メイジの呪文によってそれらも持ち上がり、持ちこたえた。船団は地面から二十フィート上空で安定する。なんの荷重もかかっていないグリフォンたちが滑らかに前方に進み出し、それぞれ宙に浮いた漁船の長い列と、活気づき、また恐れおののく乗客たちを引っ張りはじめた。

 二頭とも、さらにはイセヤも、それほど低く飛ぶことには不慣れであった。リーヴァスの両耳はぴったりと頭蓋に張りつき、荒い鼻息は木々の先端の近くを飛ぶ緊張を示している。イセヤは、もっと高く飛ばせてやりたかったが、力の円錐が支えるためにはこれが精一杯だった。高く飛べば魔法がしくじり、アラヴェルは地面に墜落してしまう。
 信じて。彼女はグリフォンに懇願した。
 リーヴァスに聞こえたかどうかはわからなかった。片方の黒い耳が持ち上がったが、風のせいかもしれない。いずれにしろ、グリフォンはまっすぐ水平に飛び、高木を避ける際には、上昇するかわりに迂回した。 

 彼女たちは、フリー・マーチズの地表をなぞるように、岩肌や、低木、そこにいるはずの家畜がことごとく屠られた牧草地の上を飛んだ。ちらりと見える小川や渓流の銀色の輝きも、イセヤがほとんどそれと気づく前に、後ろに流れ去って行く。
 リーヴァスが全速で飛んでいるのではないことはわかった。長旅に備えて力を温存しているのかもしれなかった。だがそれほど低空を飛んでいれば、地形はいつもより随分早く、視界から流れ去っていく。

 三十分ほどすると、後方のワイコムは影も形も見えなくなった。あたりにはミナンター河の支流がいくつか流れており、船団が上空を通過するときには、イセヤの力の円錐のせいで水面がへこんで見えた。水上で魔法を維持するには用心がいる。予期せぬ渦や逆流のためアラヴェルを安定させるのが難しくなるのだ。そのためエルフはリーヴァスに、支流は素早く通過させ、その後は川沿いを進ませるようにした。

 北の方、アンティヴァン・シティーがあったところ、まだあるかもしれないところには、地平線にブライトの汚れた黒雲が見えた。慈悲深いことに、ほとんどは木々に隠れて見えない。だが、時折木々がまばらになるところでは、爆発の周縁に沸き立つように膨張する雲のため紫色になった空、苦悶を電撃で示すような雲間を伝う音のない稲妻が、イセヤにも見えた。 
 陽の光は決してこぼれず、雨も決して降らない。地平線には、嵐の影だけが広がっていた。 

 それさえも滅多に見えず、さほど遠くない北方にあるはずのアンスバーグについては何も見えなかった。低空を飛んでいるため、視界には木々か丘しかはいらない。放棄された農場の上を飛ぶときには痩せた犬が物欲しげに吠え、まだ住民のいる農家では、木を打ち付けられた窓の中から疑わし気な目が見上げていた。

 陽は正午までゆっくりと登り、それから日没に向かって容赦なく傾いていった。アラヴェルの船団は、グリフォンたちとメイジたちに小休止を与えるため、また乗客たちに食事と休息の機会を与えるため、二回停止した。だが、この旅の恐ろしさと切迫さを知る乗客たちの中で、船から降りて強張った身体を伸ばそうとする者はほとんどいなかった。誰しもが、スタークヘイヴンの城壁に守られる安全を望んでいた。 

 そして夕焼けで空が赤くなる頃、とうとうその堂々たる城壁が見えて来た。高い灰色の石壁が同心円状に囲む湾曲した山が夕日に映える。北の方ではミナンター河が街の水門から流れ込み、海鳴りに似た低い音を立て続けていた。街自体は、広い大通りが取り巻く緑の丘の上にそびえる大理石の宮殿の威容が目につく他、近づく船団からはその城壁しか見えなかった。

 城壁の塔に掲げられた槍旗には、赤地に三匹の黒い魚が雪のように白い杯を取り囲む様子が描かれていた。少なくともイセヤには魚に見えたが、沢山のとげと渦巻き模様のせいで良くわからなかった。それらが何であれ、赤い陣羽織と鋼鉄の鎖帷子を纏った兵たちによって厳重に守られていた。 

 プレートメイルに身を包み、金の胸飾りをつけた将校らしき兵士のひとりが、近づくグレイ・ウォーデンたちに片方の小手を挙げ、歓迎の挨拶を叫んだ。
 ガラヘルが感謝の言葉を叫ぶ。他の者たち同様に疲弊しているはずなのに、その声は至って陽気だった。彼がクロッキーテイルを降下させると、イセヤともうひとりのメイジが、高度を下げるグリフォンに続いて丁寧にアラヴェルを降下させていく。着地には慎重を期して五分も時間をかけた。空中アラヴェルが有用なことはわかったので、今度はどの一台も損なわないことが重要であった。
 だが着地は円滑にいった。木の軋む音と、船側の金網が鳴る音を立てながら、船団はミナンターの河岸に底を着けた。ワイコムの難民たちは、不安げな様子で船を降りはじめた。

 空中での長旅を終え、乗客たちが平衡感覚を取り戻そうとしている最中に、スタークヘイヴンの城門が開いた。食糧と水、そして葡萄酒を手にした人々が駆け出してくる。ワイコムの英雄たち、万歳。ひとりが叫ぶと、群衆がすぐに続いた。グレイ・ウォーデン、グレイ・ウォーデン、ワイコムの英雄たち! 

 いつまでそう呼ばれるのかしら、とイセヤはため息とともにつぶやいた。スタークヘイヴンはダークスポーンに一矢報いた勝利に沸き立っている。やつらの群れから、たったこれだけのワイコムの民を救い出したというささやかな勝利。だが彼女は、あと数百もの難民が続くことに気づいたとき、すでに緊迫した状態に置かれた街がその熱気を維持できるかどうか疑わしいと思っていた。 

 その疑いを共有している者もいた。自分たちに居場所はあるのか、年配で丸顔の女性が、責めるような震える声でイセヤにそう尋ねた。彼女は明るい青色の孔雀と真紅の薔薇が描かれた派手な絹のスカーフを肩に纏っている。おそらく彼女にとって取って置きの品物で、手織りの地味な衣服との間には強烈な落差があった。彼女の口元の皺は、衛兵を見上げるとき震えていた。籠城の最中に難民にまわす余分な食糧などあるはずがない。
 余分な兵なら歓迎される。エルフが答えた。彼女が正直に告げられる希望はそれだけだった。苦難のとき、手助けは常に歓迎される。

 女性はスカーフを留めている木彫りのブローチを握りしめ、自分は老婆で兵士ではない、と言った。自分は戦えない。
 今はブライトなのだから。イセヤの答えには冷酷さが混じり、自分でもそれに気が付き、老女がたじろぐのもわかった。だが過度の疲労のせいで、彼女は我慢がきかなかった。老婆でも戦えるし、戦わなければならない。アラヴェルに乗り込んだときにそう心に決めたはずだ。ワイコムの皆を逃がすことはできない。船も、グリフォンも、メイジも足りない。老婆の席に座るはずだった誰かが代わりに死ぬ。だから戦わなければならない。そうでなければ、自分の努力を徒労に終らせ、代わりに死ぬ誰かの勇気も無駄にした老婆のはらわたを自分が抜いてみせる。
 女性の口が驚愕のため大きく開いた。意味不明なことを口籠り、踵を返すと、荷降ろしをしている群衆の中に逃げ込み、あっという間に姿を消した。

 ガラヘルがクロッキーテイルの引き具を外し、解放されたことを伝えるためグリフォンの横腹を叩いて、それからイセヤのほうに近づいてきた。「さっきのは・・・、兵を鼓舞するには随分変わったやり方だったな」
「それはあなたの仕事でしょう」 イセヤが兄に唸った。「あなたこそカリスマのある指揮官でしょう。ここまで皆を連れてくるまではやったけど、後は知らないわ」
「真実の欠片もないな」とガラヘルが陽気に言った。「だが、まあいい。疲れてるんだろう。来なよ、プリンス・ヴェイルの歓迎の宴とやらを楽しもうぜ。一晩しかないんだから」
「明日にはワイコムに戻らなければならないことなら、わかってるわ」とイセヤがうんざりして言った。ダークスポーンがワイコムの城門に迫る前に、できるだけ数多く往復する手はずになっていた。一日中船団を支え、導いた後の疲労困憊を経験する前であれば、それもまずまず良さそうな考えに思えたものだった。

「いや。カヴァラスとスタークヘイヴンのウォーデンたち三人がワイコムまでアラヴェルを連れ帰る。彼らが到着したら、ウォーデン・コマンダー・セナステはまた別の連中に交替させる。そうやってできる限りアラヴェルを往復させる。だがお前とおれはワイコムには戻らないし、スタークヘイヴンに留まりもしない。アンダーフェルズで任務がある、忘れちゃいないだろうけど。だから今夜は葡萄酒でも馳走になって、皆の歓待を受けようじゃないか。一晩だけ英雄を演じればいいさ。朝になれば、おれたちはまた一介のグレイ・ウォーデンに戻るんだからな」

***

 この章、最後までずっと女性ホルモン満載だった・・・。ちょっと勘弁して。
 ん、老婆にブチ切れたところ?
 野郎はおばあちゃんにはブチ切れません。切れてもあんな仕打ちはしない。
 まったくもって女性視点ではないですか。

2014年10月 6日 (月)

Last Flight 8(1)

 ここは、本気ではしょりたい。

***

第八章

5:12 エグザルテド

 七日間は要しなかった。最初のアラヴェルが完成するまで三日で済んだ。

 伝説のデーリッシュのものに比べ、ずんぐりしてみすぼらしい出来栄えだった。荷馬車の車輪の上に漁船を積んだだけに見え、実際まさにそのとおりだった。ウォーデンたちは、街の人々から供出を受けた素材を用いて一から作り上げ、伸び放題の牧草地で試運転した。 

 ウォーデン・コマンダー・セナステがガラヘルたちの企てを知ると、シニア・ウォーデンふたりをつけてくれた。思いつきのような取り組みにそれ以上割く余裕はなかったが、ワイコム全体がブライトに呑み込まれる事態を回避する手段を無視することもしなかった。メイジふたりを差し出すことが、彼女の妥協できる線だった。

 二人のメイジの助けによって、試みは曲がりなりにもうまく行った。デーリッシュのもののように滑らかに進むわけではなかったが、イセヤは、船を空中で支え、安定させる術をなんとかものにした。最初の試みでは力の加減を誤り、アラヴェルを十フィートも宙に舞い上がらせ、地面でバラバラにしてしまっていた。
 だが新しい船はさらに頑丈に造られ、イセヤの力加減も向上し、三日目には、たとえ乗り心地は最悪であっても、なんとかフリー・マーチズを速やかに渡れる算段がついた。
 彼女自身の力だけでは、アラヴェルを空中に静止させることしかできない。引き具をつけたグリフォンがけん引することで、空中に二十フィートほど浮かんだまま前進するようになる。

 あと百台あればいいんだな、とガラヘルが言った。かつて牧草地の柵だった石柱に寄り掛かり、にやけた笑いを隠そうともせず、イセヤが苦心惨憺しながらアラヴェルを宙に浮かせる努力を見ていた。
 それから、あと百頭のグリフォンがいるのじゃない、とアマディスが応じた。草の中からヒナギクを見つけ、暇そうに指で弄んでいる。そして、こんな単純なことに今まで誰も気が付かなかったなんて信じられない、と言った。
 ブライトの脅威がなければ、誰も思いつかないのが当然だ、とガラヘルが指摘する。そして脅威が現にある今であっても、街の者たちがこれに乗りたがるかどうかはなはだ疑問なのだ。

 ふたりとも十分楽しんでいただけているようだ、とアラヴェルを操りながら、イセヤが皮肉を返した。離陸と着陸が一番難しく、乗り物を壊してしまう危険が大きい。今回も彼女は、車輪を痛めることなく上手に着地させることができて満足していた。
 だが、何か役に立ちたいなら、あと百台のアラヴェルを用意する仕事が待っている。それが揃えば、本当に街の人々を皆救うことができるかもしれない、と彼女がふたりに言った。

 セナステはすでにそう命じた、とアマディスが言った。その満足げな笑顔は、カナリアを咥えた猫のようだ。セナステは一時間ばかり前に公式に命令を出し、グレイ・ウォーデンは空中アラヴェル、「エアリアル・アラヴェル」という舌がもつれそうな呼び名のものが二十台揃った時点で、ワイコムの民の避難を開始することになった。自分たちのうち三人と兄妹の二頭のグリフォンが、スタークヘイヴンへの脱出第一陣を護送することになる。 

 イセヤは漁船アラヴェルから離れると、涼しい風に髪をなびかせながら、牧草地をふたりのほうに歩み寄った。周囲の生垣の小鳥たちは、乗り物の不気味な動きのせいで鳴りを潜めていたが、再びさえずりはじめていた。
 セナステは、また賭け金を分散する気だ、とイセヤが言った。そのとおりだが、彼女に賭ける気があるだけましではないか、とガラヘルが応じた。これは本当に街を救える機会かもしれない。
 救えるのは街の一部だけ、との思いをイセヤは口には出さなかった。兄の目に浮かぶ期待と興奮を台無しにしたくはなかった。希望こそがガラヘルの最大の天賦の才であり、フリー・マーチズに今なくてはならないものだった。

 あと二十台必要なら、と彼女は言った。兄たちも大工仕事に勤しんだほうがいい。

*** 

 まだ一回分のノルマには足りないんですが、区切りでもあるので、本日はちょっとここまでにしときます。おやすみなさい(笑)。

 
 

 

 

 

Last Flight 7(2)

 日々淡々と続けたいところですが。 ちょっとまじ忙しい。

***

 最寄りの酒場は「硝子の林檎」という名だった。他と同様、店が破裂しそうなほどごった返していたが、イセヤは無理やり中に入った。
 当初、店中の視線が一斉に彼女に集まったが、胸のグレイ・ウォーデンの紋章を目にした途端、人々は酒と会話に注意を戻した。立場さえはっきりしていれば、エルフでも問題にならない、イセヤは苦々しく思った。ウォーデンだろうが召使いだろうが、人々の先入観に逆らわなければいいだけの話。

 彼女はその考えが浮かぶと同時に恥じた。ウォーデンだからとの理由だけかもしれないが、フリー・マーチャーズは他のヒューマンたちよりも彼女に優しい。彼女は自分の罪の意識を減じるためだけに、彼らを貶めたいだけなのだった。
 その煩悶と戦いながら、イセヤはバーに向かった。人々は彼女に道を譲り、グレイ・ウォーデンへの畏敬の念と、ワイコムを救うことへの感謝の気持ちを呟く。彼女は耳を塞ぎたい気分だった。

 イセヤがワインを注文すると、バーテンは誇りと謝罪の入り混じった様子で、ウォーデンにはとても供することのできないような小便臭いものしか残っていない、と答えた。店の水準を下げるわけにはいかない。
 バーテンが奨めるドワーヴン・エール、ブラックウォーター・ラム、ウインター・サイダー(林檎酒)の中から、イセヤは林檎酒を選んだ。バーテンはイセヤから勘定を受け取らなかった。
 

 自分を呼ぶ兄の声がした。店内を見回すと、ガラヘルと仲間たちがたむろしているのを造作もなく見つける。自分たちで指定したのか、それとも与えられたのかわからないが、彼らは店の特等席を占領していた。カイヤとタイヤの他、鼻を鳴らしながらドワーヴン・エールを呑むアマディスもいた。カリエンは部屋の隅に座っており、濃い青色の頭巾で顔を隠している。アーチディーモンに吹き飛ばされた間抜けな羽根つきの頭巾に比べて、彼の見かけは前よりもだいぶ威厳が増している、とイセヤは思った。 

 イセヤは、林檎酒の杯を胸の近くに支え、他の客を押し退けて近づくと、どのくらい前からいるのかと一同に尋ねた。
 ウォーデン・コマンダー・セナステから新しい命令を受けて以来だ、とガラヘルが仰々しく言って杯を呑み干す。彼女と同じ林檎酒の杯をもう随分重ねているようだ。

「大いに酩酊するに十分なくらいだ。来なよ、一緒にやろう」
「私もそうしたいかも」とイセヤが応じた。タイヤが彼女に椅子を譲って、自分は双子の姉妹と椅子を分け合うことにした。
「セナステと話したのね?」
 ガラヘルはがっかりした様子で大げさに肩をすくめた。「ああ。くだらない命令だった。お前は?」
「一緒よ。スタークヘイヴン、それからアンダーフェルス」
 ガラヘルは林檎酒を呑み終えると、杯を指二本で弾き、テーブルの上の沢山の空の杯が並ぶあたりに押しやった。「まあ、みな一緒にいられることには違いない」 
「私もね」とアマディスが割り込んだ。

 ガラヘルが金色の眉毛を片方持ち上げる。「ウォーデン・コマンダーは、お前さんがスタークヘイヴンで役に立つと思ってるらしいぜ」
「ウォーデン・コマンダーなんて、病気たかりのオーガと熱烈に愛し合ってればいいのよ」 長い黒いまつ毛をしばたたせながら、アマディスが甘い声で言った。「私に命じる権利なんてない。スタークヘイヴンで助けが欲しければ、にっこり笑って歯を食いしばりながら、私が好きなようにさせることね」

「彼女はどうしてあなたがスタークヘイヴンで助けになると思っているの?」とイセヤが尋ねた。「あなた、本当はクロウじゃないでしょう?」
「違うわ」 アマディスが笑って、首を振った。彼女は、隅で身動きひとつしていないカリエンを指さす。「彼こそ、アンティヴァン・クロウよ。空の上で本当のこと言ったじゃない。私はフェドラス・ヴェイルの次女、プリンス・オヴ・スタークヘイヴンの従姉妹」
そして、ルビー・ドレイクの首領」とガラヘルが言った。「そっちのほうがより重要じゃないか」

 イセヤはゆっくりと頷いた。ルビー・ドレイクという傭兵隊については聞いたことがあり、新しい首領がフリー・マーチズの若い貴族の娘であるとの噂だった。擁するのは千の歩兵、三百の騎馬、二百の弓兵、さらには二十人の戦闘に長けたメイジたち・・・、そして、その力を誇示する最大の尺度は、チャントリーのテンプラーたちが、それらアポステイト・メイジたちにこれまで一度も手出しをしようとしなかったことだろう。
 グレイ・ウォーデンがドレイクの力を欲しているのは間違いない。それだけの規模の軍隊は、ブライトとの戦いにおいて大変な力となる。参戦の報酬が単に生き残ることのみであることを、傭兵たちが納得すればの話だが。

「あなたが、アンティヴァン・クロウ?」 遅まきながらタイヤが言って、カリエンに視線を投げた。
「そうだ」 メイジは身動きせず答えた。頭巾の下の表情はまったくわからない。たった一言、その耳障りな声が沈黙に溶け込んでいった。
「へえ」 瞬きしたタイヤは、身体半分だけ腰掛けた椅子にのけぞり、頭皮を片手で撫でた。髪が再び伸びはじめた頭は、ごく短い茶色の毛をまぶしたように黒ずんで見えた。「メイジがいたなんて知らなかった。彼らはみんな・・・、だって、ほら。暗殺者でしょう。ナイフ使いの、つまり、呪文じゃなくて。あなた、どんなことをやらされるの?」

「必要なことは何でも」とカリエンが答えた。つっけんどんな声に、暗い諧謔の調子が忍んでいる。
 イセヤは林檎酒を呑み終えた。一日中食事をしていなかったので、その泡だつ酒は頭に直接まわったようだ。「必要なことは何でも、ですって? じゃあワイコムの人たちを連れ出せる?」
 頭巾の奥で、カリエンの目が暗く光った。
「それができんことは知ってるだろう?」

 タイヤがふたりを見比べ、カイヤも隣で鏡写しのように同じようにしていた。「どうして? 魔法では動かせない? 門とか・・・、その類のものでは?」
「無理だ」 カリエンの答えは平板で、打ち止めを意味していた。
「そういう風には使えないの」 イセヤは申し訳なさそうに言った。彼女は話す前からそのことを知っており、タイヤが間抜けに見えてしまったことをすまなく思った。「杖を一振りするだけで、誰かを一瞬で別な場所に移すことはできない」

「何か別のものに変えることは?」 空の杯の塊の影で聞き耳を立てながら、ガラヘルが尋ねた。彼の目には、お馴染みのいたずらっぽい輝きがあった。「ネズミとか・・・、それともゴキブリ? 何か小さくて、街中の者たちを漁船団に全部詰め込めるようにできないのか?」
 イセヤは首を振った。「無理よ。それじゃあ、子供向けのお話じゃない」
 カリエンはほんの少し身体を乗り出し、闇から姿を現した。頭巾は後ろにずれ、酒場に差し込む陽光の中に、メイジの堅い顔と顎をさらけ出した。「お話ではない。私の力が及ばないだけだ。荒野の魔女たちなら、自分たちを獣に変えることができる。私の知る限り、望まない生贄もまたそうできるのだろう。だが私は荒野の魔女ではないし、君も違う」

 ガラヘルは憤然として椅子を揺らし、背もたれを酒場の壁に打ち付けた。「じゃあ、何ができるんだ?」
「アラヴェル」とイセヤがつぶやいた。
 兄は両眉を吊り上げた。アマディスは鼻を鳴らした。「アラヴェル」と黒髪のマーチャーの女が繰り返した。「あの陸の船のこと? デーリッシュが用いるような? 森の中を走る、あのどでかい荷車? あれは実在しないわ」
「実在するの」とイセヤが言った。「そして、魔法の力で森の間を抜けるの。人々を宙に飛ばすことはできないし、ネズミに変えることもできない。でも魔法が使えるし、ちょっとの大工仕事で、漁船を陸の船に変えることができる」

 彼女はその考えがグレイ・ウォーデンたちとその仲間たちの腑に落ちるのを待った。ともかく、誰も嘲って笑ったりしなかった。ガラヘルは興味をそそられたように見え、アマディスは疑わし気で、双子はその提案の斬新さに単純に喜んでいた。

 カリエンは頭巾を完全にかぶりなおした。「アラヴェルに呪文をかける方法を知っているのか?」
「いいえ」とイセヤが認めた。「デーリッシュではないから。彼らの伝承は知らない。でも、できることはわかっているのだから、やり方を探すべきよ。私たちの船は、本物のアラヴェルのように強くも立派でもある必要はない。ブライトに呑み込まれる前に、ワイコムの人々が海の上や河川敷の上を渡れるようにするだけでいい」

「それでも、かなりの労力だ」とカリエンが疑いを込めて言った。「新しい魔法の研究にどれだけかかるか、わかっているのか?」
「一週間」とイセヤが答えた。「なぜなら、それしか時間がないから」 彼女は立ち上がり、空の杯を他の杯の塊のほうに押しやった。「たまたまだけど、グレイ・ウォーデンもまた、クロウと同じような掟に従うのよ。必要があれば何でも。そして、それを七日間で成し遂げるの」

***

 カボチャを馬車に変えてみせましょう!
 ま、つっこむのはほどほどにしよう・・・。
 うーん、ここら辺も真面目にやるんでしょうか?

 アニメじゃない? アニメじゃない?
 これ、アニメですよね・・・。 

 あー、あと傭兵団。出た、女首領。傭兵団とやらが「なんとかの軌跡」には山ほど出てきて、なんかバカみたいに強いことになっていて、設定があまりに子供っぽくて食傷気味なんです。個人的にはここでは避けてほしいかった・・・。

 悩んだのは、その傭兵団ルビー・ドレイク(Ruby Drakes)が登場して、後半だけ呼ぶときは(本物のドレイクと混同しないように)「ドレイクス」とやりたかったのだが、よく考えたらアンティヴァン・クロウ(Antivan Crows)は昔から、「クロウ」とやっていました。ううう。
 「シーカーズ」(Seekers)が登場した時も、この際、「テンプラーズ」(Templars)も統一しようかと考えたのですが、なんかちょっと違うよねえ、と思ってやめた。  

 なんといっても、「ウォーデンズ」(Wardens)と一度もやってませんしね。

 ドレイク団、クロウ団、とやる手はあるが、「死ね死ね団」とか「レッドリボン軍」(あ、団じゃないのか)みたいで、個人的にあまり好きではない。「テンプラー騎士団」もまた、テンプラーにはすでに「騎士」の意味が含まれているのでイヤ。だってその場合「シーカーズ」はどうするのでしょうか?

 あやふやなルールなので、いずれ破綻するかもしれませんが、まあ余計なことはせんとこう。

 原文では、「あなたはクロウなの?」と呼ぶときは、"an Antivan Crow"と単数。これは常識。「ヤンキースの一員」が"a Yankee"と同じ。

 有名な話ですが、Yankeesを形容詞として用いるときは、"the Yankee Stadium"と単数。「ジャイアンツ球場」は日本語ですが、じゃあ英語なら"the Giant Stadium"か?
 それだと「巨大な球場」になってしまうので、実際は"the Giants Stadium"(もう今はないけど)。
 いちいち覚えなならんかったのですね。 

 なお「サイダー」(cider, cyder)は、ここでは林檎のお酒です。アメリカン・カナディアンにはアルコールを含まない林檎ジュースもあるけど、酒場ですからブリティッシュ風に泡立つお酒。
 
 日本の「サイダー」は、あれは違いますね。

2014年10月 4日 (土)

【DAI】ロシアではどんなリークも秘密する

 ゲイダーさんが珍しくツイッターで「どこかの国?」のことを怒っているので珍しいなと思ってちょっと調べたら・・・。

http://forum.bioware.com/topic/514833-the-art-of-dragon-age-inquisition-leak/

 なんだ、ロシアンね。いつものことじゃん。ずっと以前にXBOXのアチーヴメント・リストも全部漏れてましたよ?

 しょうがないじゃん、そういう国からも漏らさずキャッシュをかき集めなければならないんだから。世界中で一千万本売り上げるには、PC大国のロシアはマーケットから外せないんだべ? BlizzardもBethesdaも食い込んでいるのに、どうしてEA/BioWareだけが入れないんだ、って話だべ?

 今回なにがどれほど漏れたのか私にはわかりませんが、DAIに関しては、むしろ色んなところで色んなことが漏れているので、何が何だかわからず、もうどうでもいいって感じですけどね。

2014年10月 3日 (金)

【DAI】マバリの寿命

ヤバい、人がいるところで大笑いしそうになった

http://dgaider.tumblr.com/post/98894278729/hello-mr-gaider-i-have-some-kind-of-lore-question

ハロー、ゲイダーさん。ロアに関する質問です。
マバリはどのくらい長生きするの?

プロットが必要とするだけ。


アリスターのコーリング三十年説がよっぽど懲りたのかな。
Last Flightにもちらっと登場する話題なので、質問はそこから出たものかもしれない。

2014年10月 2日 (木)

Last Flight 7(1)

 とまあ、再開してみるわけですが、冒頭でいきなりプロットの混乱か勘違いが見られる。とりあえずありのまま訳しますので、詳細は後ほど。

***

 生き残ったのはお前たちだけか、とウォーデン・コマンダー・セナステに問われ、イセヤは、もう千回も答えたかのように感じることを伝えた。王族も、残りの者たちも、皆アーチディーモンに吹き飛ばされた。 

 セナステの狼狽ももっともだ。皆、狼狽え、怒り、恐れていた。アンティヴァンの王族丸ごと全部、そしてウォーデン・コマンダー・トゥラブを喪ったことは、グレイ・ウォーデンの権勢と名声にとって甚大な打撃だった。

 他の者たちは計画どおりワイコムに集結していた。船はオスティヴァーとフェナダール、彼らの乗客たちを乗せてまだ海上にいたが、グリフォン・ライダーが定期的に無事を確認している。

 ブライトは、追い風を受けた野火のようにアンティヴァに広がっており、今の安全がいつまで続くかはわからなかった。どの諸国も目立った抵抗を組織してはいなかったが、中でもフリー・マーチズの自由都市国家連合が一番ばらばらだった。まるで生存と独立が同じくらい重要だと考えているようで、ダークスポーンが城門に迫っても、アンティヴァと同じように現実から逃避しかねなかった。

 ワイコムの街中も不信と覚悟の間で揺れている。日々、日が登る前から夜遅くまで、急ごしらえの民兵を訓練し、城壁を補強しているが、ウォーデンの誰が見てもそれらは無駄な努力だった。城壁は守りに不向きで、人々の勇気に見合う技倆も数も足りない。市民を海越しの諸島に逃がし、兵はカークウォールに送るべきだ、とイセヤは思った。
 だがワイコムは漁師街で、沿岸用の漁船は遠洋航海には耐えられない。商船はすでに逃亡した後であり、かりに船旅に賭けるとしても街の皆は救えない。
 だから踏みとどまって戦うしかなく、それが実る望みもなかった。オスティヴァーの船が到着する前に、街は陥落しているだろう。

 セナステが冷たい調子である理由はそれだった。彼女は滅多に敗北を経験したことのない女だった。横柄な金髪の戦士は、グレイ・ウォーデンの二十年に及ぶ任務で鍛えられ、これまでの人生でうまくいってきたように、進路を妨害するものは粉砕しなければ気が済まなかった。
 だがブライトは、彼女に望まない敗北を味あわせ、また別の敗北に直面させていた。そのほうが、アンティヴァの王族や、ふたりのグレイ・ウォーデンとそのグリフォンが喪われたことよりも彼女の怒りを募らせていた。

 トゥラブとデンジがやられた戦いで、どうしてイセヤたちは生き延びることができたのか。ワイコムの民兵隊長から接収した事務所の中で、壁に掲げられた古い槍旗や記章を見つめる素振りをしながら、ウォーデン・コマンダーが尋ねた。イセヤは、そのほとんどが兄ガラヘルとそのグリフォンの働きによるものだったと答えた。自分の手柄があったとしても、それは実際には自分のグリフォンのものだった。それからアーチディーモンが正体不明の魔法を放ったときには、ガラヘルの乗客であったカリエンの力で救われた。自分はほとんど何もしていない。

 セナステが若いエルフの方に振り返ると、高窓から入り込む陽光が彼女の短い、ほとんど白色の髪を照らした。アーチディーモンの目の前で囮になることは、「ほとんど何もしていない」とは呼ばない、と彼女は告げた。そして、今回がイセヤの最初の戦闘であったことを確かめると、立派な働きであったことを認めた。スタークヘイヴンのアマディス・ヴェイルと、カリエン・デヴァリステは貴重な友軍であり、他の三人のグレイ・ウォーデンと乗客たちの安全な脱出を確保したことの功績は言うまでもない。ウォーデン・コマンダーは、心を決めるようにしばし黙り込むと、それから活発に頷きながらこう告げた。ウォーデンは全員スタークヘイヴンに帰投する。だがそこでの守りを固めたら、イセヤと兄ガラヘルにはアンダーフェルズに赴いてもらうことにする。

 アンダーフェルズ、とイセヤはおうむ返しに繰り返した。
 ワイコムはもたない、とセナステが続ける。守りはあまりに薄く、ブライトからあまりに近い。仮に一晩で軍隊を招集できたとしても、ダークスポーンが沿岸に到達する前にここにたどり着くためにはへとへとになるまで強行軍を続けねばならず、そして疲弊した兵は死んだ兵と同義だ。セナステは近くの地図を手でなぞった。ブライトはリヴァインも呑み込むだろう。半島はすでに大陸から分断されており、ダークスポーンがそちらに進行すれば救いはない。船とグリフォンを送って住民を避難させることはできても、国そのものは亡ぶ。
 だが、スタークヘイヴンとカークウォールなら、踏みとどまることができるかもしれない。そこでなら、ブライトを阻止するための時間も、兵力も手に入る。彼女の鷹のように容赦のない蒼白い瞳がイセヤを見つめた。もしそこに、十分な同盟軍を結集することが可能なら。 

 オーレイとテヴィンター帝国のほうが強力だ、とイセヤが困惑とともに言った。どうしてアンダーフェルズなのか? 
 両大国は確かに強力だが誇りも高い、とセナステが応じた。イセヤとガラヘルには地位も血統もないどころか、さらに悪いことにはエルフだ。使者として送り込めば、それは相手から侮辱と受け取られる。だがアンダーフェルズでは、その者が何をなしたかで評価される。アーチディーモンと戦って引き分けたふたりなら、称賛されるのは間違いない。

 だがそこで兵を結集するのは、容易でもなければ短時間で済む話でもない。アンダースはほとんどが小さな街や村に点在して住んでいる。都市と呼べるものはまずない。街道も少なく、土地は辛く厳しい。グリフォン・ライダー以外にかの地で兵を招集できる者はいない。
 自分にそのグリフォン・ライダーの役割を果たせということか、とイセヤが尋ねた。とても無理な話に聞こえた。自分は鞍ずれを防ぐためのまともなたこさえまだできていない新米なのだ。ウォーデンの威厳が重く彼女の肩にのしかかり、それを用いてアンダーフェルズの村人たちをダークスポーンとの戦いに駆り出すことなど、想像もできなかった。

 だがセナステは間違いなく真剣だった。その通りだ。イセヤと、兄ガラヘル、そして、おそらくカリエンを含む他の者たちも向かうことになる。イセヤたちの英雄譚を聞けば、かの地の者たちは集結するだろう。
 もし、集結しなかったら。ウォーデン・コマンダーはイセヤの問いに肩をすくめ、壁に張られた地図に向き直った。物腰には先ほどまでの氷の壁が戻っていた。
 集結する。させるんだ。
 それはまた厳とした退室の命令だった。イセヤは途方に暮れたまま一礼すると、部屋を辞した。

 外では、太陽が明るく輝く青空をレースのリボンのような白い雲の筋が横切り、風の気配はなかった。ブライトの終わりなき嵐は、傷を負った親指の紫色の指紋のような形で、ここからは遠くのほうに微かに見えるだけだった。

 だがその存在は街に重くのしかかっていた。煮られたタールの匂いと、いくつもの調理の竈から立ち上る煙があたりに立ち込めていた。ワイコムの民は、家畜を片っ端から屠っては、その全ての肉を塩漬けや燻製にして籠城に備えていた。枝を網んだ棚には、尾頭付きの魚の列が、牛やヤギの輪切りにされた肉の隣に並べられている。彼らは、日が沈んだずっと後までその準備に勤しむようで、その時分には燻製用の火の灯りが、防柵を築く者たちの手元を照らし出すことだろう。
 勇敢だが、破滅に突き進むだけの空しい努力。イセヤは見ていられなかった。

 彼女は街の市場の唯一の門に向かった。ワイコムには四つの門があるが、二頭立ての荷車が通過できるほど大きいのはそのうちひとつだけだった。小さな商人地区がその回りを取り囲んでおり、イセヤが目指したのはそこであった。近くの居酒屋は、なんとか希望を見出そうとして口々に語り合う人々で一杯であり、イセヤにとってそれは聞くに堪えなかった。

*** 

 デンジとともにアーチディーモンに吹き飛ばされたのは、ハブルだったはず。ウォーデン・コマンダー・トゥラブは、フェナダールたちと一緒に船に向かうと言っていたはず。
 きっと混乱しているんでしょうね。ハブルについて触れられることがないので、取り違えたかな・・・。むーん。 

 なお、地名については、ネットのDA Wikiなどで見つかるセダスの地図をご覧いただければ一目瞭然です。
 ワイコム(Wycome)は、アンティヴァ・シティーから沿岸沿いに南に下ったマーチズの街。

 スタークヘイヴン(Starkhaven)は、地図でわかるとおり山間の要衝。アフガニスタン、あるいはマーチズがバルカン半島をモデルにしているなら、ギリシャからブルガリア、さらには旧ユーゴ諸国まで連なる山岳地帯のように、守りやすく攻めにくいってところでしょうか。
 カークウォール(Kirkwall)はご存知のとおりですね。こちらもまた高い絶壁に囲まれた地形。ほぼ唯一の進入路である回廊状の水路は、ダークスポーンが水を渡れないために、むしろ防壁として機能する、ってことでしょうか。

 セナステ Senaste

 以下は、フルネームが判明したふたり。

アマディス・ヴェイル Amadis Vael
カリエン・デヴァリステ Calien d'Evaliste 

 DA2をプレイした方には言うまでもなく、スタークヘイヴンの王子(公国ですのでプリンスが当主にあたる)は代々ヴェイル家の出身であった。セバスチャン・ヴェイルの一門です。

 

Last Flight ここまでの感想・愚痴(1)

 Last Flight、本来であれば、今までのDA小説紹介と同様、区切りのいいところで感想と愚痴を書き、そのあとを続けるつもりだったのですが。
 愚痴しか出ないかもしれない・・・。
 次章の冒頭では、どうやら著者の勘違い、または書き洩らしみたいな箇所があり、自分の訳が違っていないことを調べるためかなり時間がかかったのもありますけど。
 これは個人的な感覚と断ったうえでの話なので、お読みになるなら(読む必要はまったくない)、そのおつもりで。

 枠物語の体裁をとっているのは仕方のないことで、商売上、コンテンツはゲーム本編の時代(Dragonの世紀)と関連づけなければならない。 そうでなければごく一部のコアファン以外読まない(プリクエル嫌いの私も、きっと読まなかったでしょう)。
 本作のテーマであるグリフォンがウォーデンとともに戦った時代(Exaltedの世紀)は二百年以上前ですから、すでにファンタジー世界なのに敢えてその世界の「時代小説」を読むような人はいない。出版側はそういう判断をしたのでしょうし、そこは特に問題ではない。

 問題は、私が考えていたDA世界とはちょっとというか、だいぶ違うんだよなあってところ。
 一言でいうと、ハリポタ以上に乙女チック。紹介したここまでも。これからも。
 こうなると趣味の世界なんでしょうけどね。プロの翻訳家は「違うんだよなあ」と思っても、まじめにお仕事しなければならないから大変なことが重々わかります。

 複数メディアをまたがる作品が成功した例がごくわずかである、ということにも関連するのだと思う。それはメディアのルールが違うからだと考えていましたが、そうではなく、単にクリエーターが違うからなのかもしれない。押井さんのように、アニメと実写映画の落差が「え?」くらい大きい人もいるけど。
 極端な例を挙げると、手塚治虫のアトムを主人公にして、石ノ森章太郎他の著名な漫画家が競作したときの絵は、もう失笑するしかないくらい別のキャラになっている。The Dark Knightのように(私は観ていないが「剣心」のように)オリジナルのファンからも絶賛される「移植」はあるようですが、本当のレアケース。

 ゲイダーさんは言うに及ばず、パトリックにしても「ノリ」はゲーム本編とほぼ変わらない。さらに言えば、コールの例にあるように小説作中の人物がいずれゲーム本編に登場するかもしれないという前提を置いているはず。「ノリ」は維持しなければならない。
 今回は「ノリ」が違いすぎる。

 あり得ないとは思いますが、Exalted Ageのゲームを作らない限り(その場合タイトルそのものが変わってしまう)、Last FlightのイセヤもガラヘルもDAI(またはそれ以降)のゲーム本編に登場することはないはず(まあ、例えばフェイドという裏ワザ使えば何でもアリだけどね)。
 ホスバーグ・メイジやウォーデンたちは同時代の人物なのであり得るかもしれないが、小説ではあくまで端役であり、コールのように小説のテーマ自体を担っていたのとは異なる。
 それゆえ作者はかなり自由に書けるわけですが、おかげで「ノリ」まで変わってしまったというのが感想。あくまで私の趣味であって、そういう「ノリ」が好きな人にはたまらないんでしょうが。

 Last Flightの作者を弁護するなら、「エンダーのゲーム」などで有名なサイファイ作家のオーソン・スコット・カードが(本当に書いたかどうか知らないが)原作者の最初のDAコミックは、設定上「メイジは虐げられている」だけしか知らないで書いたのじゃないかと思ってしまうくらい、もっとずっとどうしようもない内容だった。今誰もあまり話題にしないのは、中身がつまらないのもあるが、実はカードが名うての差別主義者であることがわかったからもありそう。EA/BioWareの方針と一番あわない人を選んじゃった。

 Last Flightの著者は、グレイ・ウォーデン、特にジョイニングやコーリングの設定を詳細に把握して、その上で「自分なら」こう考えるという線を打ち出してきているから、(たぶん名前貸しただけの)カードと比べたら失礼だ。そしてそれは、聞かれれば多くの人が吐露する答えと一緒である。

 ジョイニングの儀式なんて受けたくもない。当たり前。例外は(著者も言っているように)超英雄的か、超絶望的な状況に置かれた人物のみ。
 しかも当のブライトなんていつ来るかわからないのに、犠牲を強いる必要があるのか。自衛隊の装備に莫大な予算使うなんてけしからん。ブラックホークが御嶽山の救助活動やってるなんてどういうことだ。もっと安いヘリでいいではないか、反日新聞がちょうど今元気ないからそう書かないだけ。

 以前、クリスチャニティ(その重要な一派)の教えに照らし合わせてジョイニングを解釈したことがある。
 Last Flightの著者が書いているように、グレイ・ウォーデンには卓抜した戦闘能力、戦術眼、魔法の才能などがなければ選ばれない。それは本当。
 でもそれは「十分条件」。
 「必要条件」は、ダークスポーンの血を飲んで生き残ること。その結果は、儀式を受けてみなければ、やってみなければわからない。メイカーのみぞ知る。

 DAOでもDAOAでも、プレイされた方々なら十分ご承知のこの二つの条件。グレイ・ウォーデンになるためにはこの「必要十分条件」を満たさなければならない。
 どれだけ善人でも、どれだけ世界を救いたいという思いが強くても、なーんの関係もない。  (なお十分条件のほうはメイカーではなく、ウォーデンが選定する。よってべサニー/カーヴァーのように、あるいはDAOデーリッシュ・エルフ主人公のように、汚染からの救済(慈悲)のため選ばれるケースもある。もちろんその場合でも必要条件は満足しなければならない)
 
 なんか逆転しているような、居心地の悪い違和感を抱かれる方は、たぶんわかってらっしゃる。
 裁きの日、過去生きていた者も含め、すべての人は神に選別される。誰が神の祝福を得られるのかはわからない。神のみぞ知る。
 神の選定基準なんてわかりっこない。しかも予め定められているから、人が何をどう頑張ろうが「遅い」(予定調和)。
 それでは聖人君主のような態度を貫いても、ゴミクズのような人生を送っても、なーんも関係ないのか。
 ジーザスの言葉は皆知っている。そこから推定可能な、神に予め選ばれている人々の行動様式はなんだろう。導き出されたそれこそが善。
 神に選ばれる必要条件はわからない。でも、こんな行動様式の人物こそ選ばれているに違いないと信じることのできる十分条件はある。

 DAOで最初にこの場面に触れたときは、もちろんその残酷さに驚愕しましたが、しばし考えた後で上に気が付き、見事な設定だと感心したものでした。これに勝てそうな設定はDnDのパラディン・オーラくらい。どちらも神がかりなのも似ている。
 因果律、カルマ(業)の発想に縛られている我々には、思いつくのは土台無理なんだろうなあと。
 一方コーリングは、英雄には必ず弱点、強さには必ず裏返しの代償があるというテーゼそのもの。当初私は、ウォーデンが無敵のヴァンパイアになってしまうのではないかと誤解していたのですが、そうならないようにするための措置。もっともゲイダーさんが筆が滑ったと認めているように、「三十年寿命説」はやりすぎでした。

 長々書きましたが、ジョイニングとコーリングがそういう深淵な背景を有する設定であると信じている私は、「でも、こわーい」と女子高生(ヴァルヤはまさにそうなんだけど)みたいに不安がるってのが、頭ではわかってもどうにも腑に落ちない。ヴァルヤも、カロネルも、イセヤもその心の一部では、生まれついた悲惨な身分から逃れるため、やむにやまれずウォーデンを目指したということになるのですが、それはたまたま虐げられているエルフであるからか。では特段虐げられてもいないヒューマンやドワーフはどうなのか。脱走テンプラーのリーダーにしても、チャントリーの教えとの和解に苦悩しているだけのひとりよがり。
 
 まだ紹介していない部分の愚痴はやめときますが、その登場した脱走テンプラーたちにしても、うーん・・・。小説Asunderのホワイト・スパイアの地下水道で、いやいやながらメイジたちと戦うふりをせざるを得なかった無名のテンプラーたちのほうにずっと共感するんだよなあ。あるいはなんの自省もなくロード・シーカーに盲従する部下たちのほうがリアル。   
 まあ、好きでやってる以上手抜きしないでやるつもりですけどね。「ニセ要約」でも密度は粗くなりそう。
 今のところそんな感じです。   

2014年10月 1日 (水)

タロットウーマン

 前回いただいたコメントのうち、アート部分すっとばしてしまいました。グスタフ・クリムトも知らないのか、シーレとアドルフ・ヒトラーは同窓になったかもしれないのも知らないのか。教養のないやつだな、と思われてもしゃくなのですが、コンセプト・アーティストのマット・ローズ氏のTumblrのアートをたまたま次に紹介していたのでまあいいかと。教養は知識ではなく、あくまで経験(場数)に裏打ちされた感性ですからね。「知識と教養」って言うでしょ。はき違えてるのが多いけど。

 そういえばヒトラーの逸話はどこで読んだっけなあ。橋爪大三郎氏のヴィトゲンシュタインに関する著作かなあ。ああ、調べると(なんて簡単なんだ、Kindle万歳!)、ヒトラーはヴィトゲンシュタインと同窓で学んだことがあったという話題だった。ヒトラーがウィーン美術アカデミーに受かって入れば、20世紀の世界は今とどう変わっていたんでしょうね?
 そういう時代のウィーンということで。

 タロット関係で少し。本当の発音はタローですが。
 先日たまたま、お店をはじめた知り合いの女性から集客の相談を受け、「占い、しかもタロット」と答えていたのでした。たまたまその女性と一緒に何度か、タロット占いを無料でしてくれる主人のいるお店に行ったことがあるので、自然に出た発言。
 でも、昔からそういう集客イベントの相談を受けたときは必ず「占い」と答えることにしている。そして何度か成功している。

 なぜなら、あれほど初期投資がミニマムで(タロットカードなどツールとせいぜい入門書!)、高確率で大きな集客効果をあげるものは、他にはあまりないから。手相なんて、奥さん、初期投資ゼロですよ!(易者風の衣装を着ているとプレミア料金がとれるかもしれないが)
 たとえうまくいかなくても、「ちぇ」で済むから。
 それ自体を商売にすると言っているのではない。集客イベントとして他を圧倒する絶大なコスト・パフォーマンスを享受できるのです。だからこそ、誰でも参入できてしまうからこそ、それ自体を生業にするのが大変でもある。参入障壁の高い手品や奇術を目指したほうが競争は少ない(はず)。

 何を適当なことを、と怒り出す人がいるかもしれないが、そういう方は「占い」の本質を見失っているんでしょうね。
 「占い」とは、相手が「どうしても聞きたいこと」、または/及び「聞きたくもないこと」を伝えること。カードも、拡大鏡も、筮竹も、あんなもん飾りですよ、飾り。偉い人には(略
 津軽の潮来や沖縄の祝女などの「巫覡」も一緒。
 「どうしても聞きたいこと」と「聞きたくもないこと」は、実は同じことです。その場の相手の言動や様子から、相手はいったいどちらを望んでいるのか(たとえば恋愛なら幸福な将来か、本人がすでに覚悟している挫折か)を解釈し、そのとおりの回答を与えれば「あたっている」、そしてまだ起きていないことは「きっとあたる」となる。だから「はずれがない」、「裏はない」でうらない。

 ああ、「コールドリーディング」でしょ、流行ったよね、ニセ占い。
 お客さん、そんな浅い話で終わるとほんとうにお考えですか? わたしがそんな風に、ここをお読みになる読者のみなさんをバカにしていると思いますか?(気を付けて! コールドリーディングの手口はじまってるよ!)

 まあでも、同じことですね。「コールド」とは初対面などの場合で、相手に対する予備知識がないことですから、馴染みの相手にやれば、まず間違いなく当たることになります。シャーロック・ホームズが初対面の依頼者の素性を、聞かずに当てることができるなら、一時同居していたワトソンのことはすべて手に取るようにわかる。
 
 面白い本があって、マジシャンでもある英国の心理学者リチャード・ワイズマン著の「超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか」("Paranormality: Why We See What Isn't There")というもの。多くの人がオカルト現象、超常現象が実際にある、そして予言や占いが当たると考えるのはなぜか、というお話。タロット占い師が用いるリーディングの手法を解明する話があった(ここでも、カードは飾りです)。
 「あなたでも超能力者になれる」というおまけがうれしい。
 
 そんなのまだるっこしい、幸せになる方法を教えて!という方には、やはり同じ著者の"The Luck Factor"でしょう(私はずいぶんと前に、こちらを原書で読んだ)。「運のいい人の法則」という邦訳が出ているようです。私の印象では「運が悪いとしかいいようのない事態になることを避ける方法」なんだけど。だから、読めば不幸になる事態を避けることはできるかもね。

 そもそもタロットの解釈なんてたくさん流派や流儀があるが(そこがすでに胡散臭い)、多くは描かれた絵柄に基づいて解釈する。一方ではデッキによってデザインが違う。ゆえに占う者とデッキが違えば、同じカード(の配列)で無数のヴァリエーションが生まれていくことになる。そんなのカオスなこの世界そのもの、人生そのもの。だからこそ「当たる」のかもしれないけど。
 よって、ぼろが出ない程度に入門書で一般的な占い方と、それぞれのカードのシンボリズムだけでも暗記して、あとは自分の感性だけで絵柄を解釈すれば事足りる(たとえば右向きの絵柄は前進、左向きは後退、上は上昇、下は停滞)。お酒を飲みながら占いで騒ぐのに、それ以上何が必要とされるのか。
 
 そういう深淵な発想を踏まえ、件の女性に「占い」を試すよう得意げに勧めたところ、こちらがタロット・カードまで用意しなければならない羽目に・・・。
 仕方がないんでAmazonで一番ふつうのものと、少々豪勢なものと両方を見繕って開店祝いに差し上げました。
 ん? お前が下心を読まれている(リーディングされてる)んじゃないかって? し、心外でありますっ! いや、皆無とは(略

 結局、最初に言っていたアートについては、なーんにも触れなかったのね?
 (こういうこと言う人がいると、占いも手品もやりにくいんだよね・・・)

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