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2014年9月28日 (日)

Last Flight 6(1)

 ふたたび、「今」の時代のワイズホプト。

***

 第六章

 9:41 ドラゴン

 ホスバーグのメイジたちがワイズホプトに到着して二か月が経っていたが、未だ彼らのジョイニングについての話題が出ることはなかった。ヴァルヤには、ウォーデンが彼女たちを軍団に欲しているかどうかも定かではなかった。毎朝、霊廟つきの図書館で調査を行い、毎夕、埃っぽい講堂に集まり、ダークスポーンとの戦いについて学んだが、グレイ・ウォーデンになることについての話に及ぶことはなかった。他のサークルからも避難したメイジたちが数名到着していたが、彼らもホスバーグからの避難者以上のことは知らされていなかった。

 それはある意味、救いともいえた。第五のブライトが終わりを告げてからわずか十年。セダスの歴史上、直前のブライトから百年以内に新しいものが発生したことはない。ヴァルヤは、世界に破滅をもたらす惨劇を終焉させることの意味は理解していたが、自分の生きている間にブライトが起きないというのに、ダークスポーンの汚染によって狂気と穢れに見舞われる人生を送る意味はないと思われた。 

 だが、また危惧もあった。彼女たちがグレイ・ウォーデンでないのなら、ただの避難民だ。兵士でなく避難民なら、彼女たちの召喚を求めるチャントリーを、ウォーデンが拒絶することはできないのではないか。
 その不確かさが、彼女を悩ませていた。 

 ある朝、その悩みに耐えきれなくなり、彼女は、日が高く登る前にカロネルがよく書物を読んでいる小さな中庭を訪ねた。緑と白のタイルは削れたりかすれたりしていたが、まだ美しく、周辺に幾何学的なモザイクを描いている。真ん中で小さな噴水がばしゃっばしゃと水を吐き出し、早朝の青い日陰にさらに涼しさを与えていた。
 それも長くは続かない。アンダーフェルズの夏は短いが酷暑であり、この中庭の魔法のような穏やかさを間もなく焼けるような日差しで消し去ってしまう。それでもあともう少しの間だけは、素晴らしかった。 

 ヴァルヤは、その平穏を、これから問おうとしている謎の答えを知ることで損ないたくないとさえ思った。だが彼女は、平和の幻想よりも、答えを欲していた。 

 「自分たちは、いつジョイニングの儀式を受けるのでしょう」 彼女からそう問われたカロネルが、書物から頭をあげるまでには間があった。彼の表情からは、その質問を歓迎しているのか、困惑しているのかはわからなかったが、驚いているのは間違いないようだった。読みかけの部分に親指を挟むと、彼は首を振って金髪を後ろにはねあげ、「どうしてここにいるのがわかったんだい」と感情を交えずに尋ねた。 

 ヴァルヤは、肩にかけた鞄から折りたたまれた手紙を取り出した。紫丁香花(ライラック)の強烈な香りを振りまくそれは、おそらく中身も同じように強烈なものなのだろう。ある意味、自分たちが置かれた状況をものともせず、べリスが未だに向こう見ずな乙女の夢物語にかまける暇を見つけていることに、ヴァルヤは感心していた。
 カロネルに手紙を差し出すと、彼女は言った。「自分たちの中には、あなたの行動を逐一把握している者がいるの。この手紙を手渡すと約束したら、あなたの日課を全部教えてくれたわ」

 金髪のエルフはため息をつき、面白がると同時に苛立っていた。手紙を受け取ると、目もくれずに本の表紙に挟み込んだ。紫丁香花の香りが嫌が応でもあたりに漂う。「驚くほどしつこい娘だな。そして本当に子供だ。君たち皆と同じように」
「だから、ジョイニングの儀式に招かれないのですか?」

「それもある。君たちに仕事を与えているのが別の理由だ。君たちの半分がアーチディーモンの血で窒息死してしまったら、あの退屈な古い手紙の束や地図を、この私が代わりに調べるという本当にとんでもない話になる」 カロネルは頭をもたげて彼女を見た。「それはともかく、どうしてそんなにジョイニングの儀式を受けたいんだ? 私の身勝手は横に置いても、あれはおぞましい体験だよ。試練を受ける何人もが死ぬ。今はブライトもないし、ここにいる君はすでに安全な身だ。どうして急ぐのかわからんね」

 ヴァルヤは中庭の反対側の長椅子から埃を払って腰掛けた。石は冷たく、ざらつき、彼女の前に座った数えきれないウォーデンたちのため削れて前に傾斜していた。彼らの影に腰掛けるのは、幽霊の足跡に立つのと似たような感じがする。ワイズホプトの歴史の重みが、再び彼女にのしかかっていた。
 彼女はなんとかそれを振り払った。彼女はまだ歴史に抱かれてはいない。「私たちが本当に安全かどうか定かではないから、急ぐのです」

 ガラヘルの瞳が正真正銘困惑しているように輝いた。「ここで誰が君たちを脅かすんだい?」
 ヴァルヤは浮かない顔で肩をすくめた。「ホスバーグで私たちを脅かした者たち。テンプラー。チャントリー。アポステイト・メイジを恐れる者たち。あなたはエルフでしょう。デーリッシュの刺青がないから、私と同じようにエイリアネイジで育ったのでしょう。ならば、自分たちの仲間と思っていない相手から守られなければならない気持ちがわかると思います」

 年上のエルフの微笑みが少し悲し気になった。自分たちの民と一緒に、不安定な、だがかけがえのないデールズの自由を享受する恵まれた者は少ない。デーリッシュ・エルフが顔に粗野で奇抜な刺青を施すのは、彼らの独立を宣言しているのだ。だがヒューマンとともに暮らすエイリアネイジのエルフにそんな機会はない。顔に何も彫らず、目立たぬ忘れられた存在でいたほうがいい。注意を引いて安全でいられる試しはなく、決して賢いことでもない。「そのとおりだ」 彼は間を置いた。「君はウォーデンになりたいのか?」 

 ヴァルヤは自分の袖のほつれを見つけ、上の空でそれを弄んだ。「わかりません」 彼女は顔をあげ、好奇半分、挑発半分で尋ねた。「あなたはどうでした?」
「私もわからない」とカロネルが答えた。 彼は書物から親指を抜くと、それを完全に閉じ、長椅子の上、脚の横に置いた。「今とは時代が違う。世界も違った。フェラルデンは、ブライトが勃発した直後だった」

 彼の眼差しは噴水に彷徨い、水の流れを見るともなく見ていた。声は柔らかく、抑揚がなかった。「推測どおり、私はエイリアネイジで生まれた。フェラルデンのエイリアネイジ。ブライトの影が国中に広がろうとしているときに、いるべきところじゃない。皆おののいていた。食糧は乏しかった。ケイラン王がオステガーで戦死したと聞かされた夜には、暴徒がエイリアネイジを襲った。それが初めてでもなく、最後でもなかった。私の両親は店を焼かれた。靴職人だった。平凡だが、真っ当な仕事だ。私たちにはその店しかなかった。

 私がグレイ・ウォーデンになったのは、ブライトからヒューマン世界を救うためではなく、自分自身を救うためだった。ヒューマン世界なんてどうでもよかった。むしろ、シェムレンが私の家族を焼こうとしたように、奴らが焼かれる様を眺めたかった。機会があれば、奴らをアーチディーモンの喉にひとりづつ投げ込み、そんなことのできる自分を幸せ者だと思ったことだろう」 

 カロネルの言葉は怒りを帯びておらず、調理用の食材を読み上げるような落ち着いた単純さだけがあった。その無表情が隠しているに違いない苦痛の深さに気付き、ヴァルヤは心の奥で身震いした、
「でも、あなたはともかく、ジョイニングの儀式を受けることにしたのでしょう」と彼女は言った。「この世界のため身を投じる覚悟で」

「ああ、そんなことを言うつもりはないよ」  カロネルは長椅子の上に鞘に納めて置いてあった剣の柄に手をやった。彼の指が柄頭のグリフォンの紋章をなぞるが、目はそれを見ていなかった。「私は依然ここにいて、世界も依然ここにある。ブライトは私に犠牲を強いなかった。落後した数匹のジェンロックと出会った以外、戦いに臨んだことすらない」

 涼し気な青い目でヴァルヤを見つめたまま、彼は紋章から手を離した。「ブライトからは無傷で逃れたものの、ダークスポーンの汚染のせいで、私は二十年のうちに死ぬ。運が良ければ三十年。ウォーデンにならなかった場合に比べて随分と短い。 だから君が、まだそんなに若いうちに、ウォーデンになる差し迫った必要もないときに、急いで決断するべきではないというのは、私自身が、もう一度決断し直す機会が欲しいからなんだ」

「テンプラーが来たらどうなるのです?」とヴァルヤが尋ねた。ほつれはようやくプツリと切れ、彼女の指の間には小さな毛玉が残った。彼女がそれを投げ捨てると、石畳の間に飛んで見えなくなった。「ウォーデンでもないのに私たちを守ってくれるのですか? 本当に?」

私は守る」とカロネルがわずかに微笑んで言った。彼女が笑いを返さないのを見ると、彼は優し気になった。「ああ、君たちはここにいれば安全だ。世界の他の誰もと同じくらい。そのためにジョイニングの儀式を受ける必要はない。だが、それ以外の問題については、ファースト・ウォーデン自身もわからないと思う。チャントリーが何を言うか、何をするかを見極めるまで待つだろう。それから 彼はチャントリーとテンプラーの間の、あるいはテンプラー内部が分裂するあらゆる可能性を分析したがるだろう。メイジの叛乱がこの先どう転ぶかも知りたがるだろう。それらがはっきりしてはじめて、ファースト・ウォーデンは立場を決めるんだと思う。慎重な男だから」
「むしろ臆病な男ではないのかしら」 ヴァルヤは辛辣に言った。

 カロネルは肩をすくめた。「政治は慎重にやらないなら、最初からやるべきではないゲームだ。そしてファースト・ウォーデンは、ゲームから降りることはできないみたいだ。であれば、注意深く立ち回るしかないのさ」 彼は書籍と剣を手にして立ち上がった。「長居が過ぎたようだ。君には図書館での仕事があるんだろう、確か勘違いでなければ。生きたままでなければ終えられないやつが」

***

 恋文・・・。「今」の時代のお話は、どうしてもハリポタ風学園ものの印象が強く感じられてしまいます。ここでもまた香りのお話。ライラックの和名はムラサキハシドイ(紫丁香花)。「丁香」(ちょうこう)はクローブ(Clove)のことで「丁子」(ちょうじ)ともいいます。
 薔薇に関する記述の部分ですらドキドキしていた私が、あらかじめ知っていたはずがないじゃないですか。
 この先お花にまで詳しくなっていってしまうのだろうか。

 ジョイニングとコーリングに関する部分。(著者を代弁する)ヴァルヤ、あるいはここではカロネルがとても思い悩んでいる記述が多い。

 個人的には正直「ちょっとくどくないか」と思う。でも、そらそうなんでしょうかね。予め命数が定められている人生、気が気ではないほうが普通であろう。ましてやブライトの勃発がない「平時」においては尚更である。んー、納得はしないが、理解はできます。

 「穢れがウォーデンを狂気と死に導くまで長くて三十年」というのは、実はリード・ライターであるゲイダーさんのチョンボなんですけどね・・・。DAOの中でうっかりそう書いてしまったので変えようがなくなった。

 以前訳した、大勢のUKのファンとのインタヴューで、彼は非常に後悔していると述べていた。

 インタヴュー原文はここ。

http://swooping-is-bad.livejournal.com/1286233.html

 拙訳はここ。(上の記事を5回に分けて訳していますが、その4回目)

http://vanitie3.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/da2tuk-f1c6.html

 

 原文と訳文、それぞれ関連部分を下にコピペしておきましょう。

(原文)

TUK: On that note, you've said that it takes about thirty years more or less between the Joining and the Calling, ish, [DG grimaces audibly and visibly]...sorry! What can accelerate or decelerate that process if anything, or is it something you created that you now regret?

DG: It's something I put in Alistair's dialogue that I now regret! Afterwards I was like, "Wow, thirty years is a long time for that time frame." I didn't really intend when I was writing it, and only afterwards when I went back I said "Oh...I guess it does sort of implies thirty years after you take the Calling, doesn't it..." Sorry, after you take the Joining. That wasn't really my intention. But it's out there now so I'm like, okay, thirty years. But the idea is also that it varies. Thirty years is the maximum that you could probably expect. It's going to vary for an individual according to their willpower and the level of their interaction with the darkspawn. During a Blight you can expect that the Grey Wardens are going to have shorter lifespans. Outside of a Blight the Grey Wardens would tend to live longer. We have instances in the game of people going on their Calling after five or ten years. Alistair's thirty year quote shouldn't be taken as gospel, that's the way I like it.

TUK: I'm really glad you said that because I took it that you wouldn't live past thirty, and it was only the fact that everybody else seemed to think it was the opposite that pulled me with them.

DG: Well, if Duncan was  thirty years old, he would look pretty good for thirty. Yeah, so it's supposed to be a maximum thirty years after you take the [Joining] but it can vary, so I'd say the rule of thumb right now is between ten and thirty years, is the most common.

(訳文)

Q: ジョイニングとコーリングの間は三十年くらいだと言われてましたが(ゲイダーさんが音でも画面でもわかるように顔をしかめる)、すみません! それは伸びたり縮めたりできるものなのか、それともそんな設定をして後悔してますか?

A: アリスターのセリフに後悔してるところがあるよ! 「わあ、三十年とか書いちゃったけど、物語のタイムフレームはみだしちゃったじゃないか!」って。そう書くつもりはなかったんだが、後から考え直して「ああ、コーリング(いや失礼ジョイニング)から三十年後っていう意味にとられちゃうなあ」と気づいた。そんな気はなかったんだ。でももう世に出てしまったので、まあ仕方がない、三十年ね。でもばらつくんだ。たぶん三十年は最長のケースだ。本人の意志とか、ダークスポーンとの関りあい方で違ってくる。ブライトの時期にはグレイ・ウォーデンの寿命は縮む。それ以外の時期は比較的長生きだ。五年後か十年後にコーリングに赴く者の例もゲームにあった。アリスターの三十年説を金科玉条のように考えるべきではない。そんな風に思うのがいいね。

Q: そう言われて本当にうれしくて、私は三十歳までしか生きられないというふうに受け取っていて、他の皆は全員がそうじゃないと考えているように思えることすら、私を間違いのほうに引き込もうとしてると思っていたから。

A: もしダンカンが三十歳だったとしたら、ずいぶん貫禄があるね。そう、ジョイニングから最長三十年だよ。そしてばらつく。だからざっくり言えば十年から三十年の間が一般的ということだよ。

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コメント

コーリングの設定をゲイダーさん自身後悔しているとは!
Last Flightがコーリングに触れることが多かったので、DA:Iにもその辺のエピソードを入れてくるんでしょうかね~
死地に赴くウォーデンを見送るなんていう風に持って行かれると、涙もろいワタシは号泣してしまいそうです(笑)

 コメントいただいて読み直したところ、今頃になって誤訳に気が付きました(笑)。ありがとうございます。
「(三十年という設定は)まあ気に入っている」は違いますね。"I'm like, Okay, thirty years."は「三十年か、まあしゃあないね」でした。直しました。よってゲイダーさんは今でも後悔していることになる。
 実はDAOプレイ当時、私もこの設定は「意味不明」だったので、紹介記事でわけのわかんないことを書いていたはず。
 ブライトのない時代であっても命数が最長三十年と限られるという設定は、Last Flightの著者でなくとも「完全に英雄的か、完全に絶望的でなければ、誰もウォーデンなんかを目指さない」と思うでしょう、少なくとも現代の地球に生きている者たちは。軍団が平時でも長く存続するという設定が嘘になりかねない。
「最後にはウォーデンの誰もが狂気に囚われるが、コーリングの訪れは人それぞれ」のほうがずっとスマートですもんね。
 
 DAIに登場するグレイ・ウォーデンについて、コーリングの話題を持ち出したがるファンは多いですよ。MLもDGもまだ何も答えていないと思うけど。
 それもあって、設定自体は、意図せずクリティカル・ヒットだったんだと思います。
 あちらの人は「エイジング」(Aging、加齢)に異常な恐怖を抱きますからね・・・。敬老という発想が基本ないから、年寄=役立たず。最近は島国人も一緒みたいだけど。

 なお、引用先の記事(英文も和文も)には、ブルードマザーに関するおぞましい話題も載っていますので、心臓が悪い方以外でご興味があればどうぞ。
 

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