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2014年9月24日 (水)

Last Flight 3(1)

 前回、細かいところですが、アンティヴァ(ヒューマンの国)の王族に言いにくい話を切り出すのは上位者であるウォーデン・コマンダーのドワーフではなく、ヒューマンのシニア・ウォーデンだったですよね。そういうところ切り捨てられないよねえ。
 著者は女性で(私が好きでやっているのではないが、やたら「美形」、「美形」出てくるところで察していただけるかと)、エスニシティもユニークな人のようです。

***

第三章

5:12 エグザルテド

 翌朝、ウォーデン・コマンダー・トゥラブはウォーデンたちを二人一組に編成し、脱出可能路、防御拠点、そしてダークスポーンの動向を探るため、上空からの偵察に送り出した。アンティヴァンから最良の地図を受け取り、ヤギの群れの通り道やけものみちに関する情報は得ていたが、トゥラブはそれらとダークスポーンの進撃の現状を照合することを望んだ。

 イセヤは、それが完全に最後の手段であることはわかっていた。ヤギの道からアンティヴァンを百人も逃がすことができれば恩の字だし、それもダークスポーンの注意をかなりの間逸らすことが必要だ。だが王と女王が迅速に行動しなければ、道はそれしか残されないのかもしれない。

 ハブルの腰にきつく両手を回してグリフォンの揺れに備えている彼女の胸に、その考えが暗くのしかかる。ブラックタロンの筋肉が飛翔を始めるため伸縮するのにあわせて眼下の地形は荒海のように上下し、翼の羽ばたきは埃の嵐を打ち据えた。イセヤが息を止めていたのは、埃で喉を詰まらせないようにするためでもあったし、本能的にくつろぐことを避けるためでもあった。グリフォンの飛行の魔力に魅了されないことなど、まったく不可能だった。

 空中に浮かび上がり、螺旋を描いて王宮の上空へ舞い上がると、やがて王宮の庭園が金色に縁どられた緑色の小さなタイルのように、衛兵たちが青銅色の蟻のようになった。城門の外の避難民たちの天幕は、焦げ茶色と灰色の染みで、船着き場は涼しげな碧の海に沿った棘のある白い縁だ。 

 昨日よりも船の数が減っているのを見て、イセヤは、脱出がはじまったのかと尋ねた。ハブルは首を振り、ブラックタロンの向きを沿岸に向けてから答えた。彼は王からは何も聞かされていないが、船長たちの多くは待てなかったに違いない。王との謁見が終わるやいなや、ウォーデンは街を救わないという話が広まったのだろう。夜に紛れて一ダースもの船が逃げ出した。一隻の船長が近衛兵に捕まり、この朝絞首刑とされたが、流れは変えられないだろう。ダークスポーンに殺されるくらいなら、縛り首のほうがましなのだ。

 何もできないのか、というイセヤの問いかけに、ハブルは、おそらくそうだが、試みることはできると答えた。それから彼はブラックタロンを下降させると、ダークスポーンの様子を観察すれば、王族たちを震え上がらせ、道理をわからせるような何かが見つかるかもしれない、と言った。

 ブラックタロンは、アンティヴァ・シティーを取り巻く緑の土地の輪の切れ目までは雲の上に留まり、ダークスポーンの群れに近づいてからは注意深く下降して行った。眼下に広がるダークスポーンの群れは、ぼろぼろのバナーの回りに密集した、穢れた肉のもつれあった絨毯だ。やつらはつぎはぎの鎧を身に着け、信じられないほど粗野なつくりのぎざぎざの武器を手にしていた。

 この上空から、個々のダークスポーンの顔まで判別はできなかったが、イセヤには、姿かたちと進み方からそれぞれの種類の区別がついた。ジェンロックは短躯でがっしりしており、まるで四脚の蜘蛛のように這い進む。ハーロックは背が高く、筋骨隆々としていながら、ジェンロックと並ぶとほっそりして見える。直立して進むやつらの姿はヒューマンに似ているが、鼻のない白い顔は本物と見紛うべくもない。死んだ瞳、爛れた肌、魚の腹のような頬を伝う赤黒い瘡蓋を見れば尚更だ。

 そいつらの上に聳え立つのがオーガ。角の生えた蛮獣で、古い痣の色の革のような肌をしている。黒い爪は、大きさも恐ろしさも斧の刃に喩えられる。イセヤがワイズホプトで学んだことによれば、オーガには恐るべき正確さと骨を砕くような威力で岩を遠くまで投げ飛ばす力があり、飛行中のグリフォンとウォーデンにとって脅威となる数少ないダークスポーンの種類のひとつだ。

 当初、アンティヴァ・シティーの外にたむろする群れの中には幸いにもそう多くはいないように思われたが、それは群れ全体の数が多すぎるため少なく見えるだけだった。背筋に寒いものを感じながら、イセヤが数え直したところ、少なくとも五十のオーガが、数えきれないほど多くのダークスポーンに囲まれていた。会戦となれば、戦場にはグリフォンの倍の数のオーガがいることになる。ハーロックとジェンロックを度外視しても、到底勝ち目のない戦いだ。

 もちろんやつらを度外視することなどできない。それら小型の敵がどれだけの数がいるかわからなかったし、通常の軍隊の規模を見積もる手段は、ブライト相手には役に立たない。ダークスポーンには、鍛冶屋も、召使いも、荷車も、調理人も付き従わず、便所すらいらない。それらを必要としない、雲霞のような冷酷な群れがあるだけだ。

 身体を震わせながら、若いエルフは目を逸らした。私たちに勝ち目はない。
 ない、と言って、ハブルはブラックタロンの手綱を弾いた。前のめりになってグリフォンに命令を伝えると、嵐の雲目がけて再び舞い上がった。アンティヴァンにも勝ち目はない。自分たちが目撃したことが、王族が考え直すに足りていることを祈ろう、そう彼は続けた。

 グリフォンが雲の中への上昇を始めたとき、イセヤは、微かな、心の中に染み入るような不思議な調べを聴いた。耳で聴くのではなく、身体の中から湧き起るような、自分で口ずんでいるかのような旋律。今まで聴いた中でもっとも美しい歌であり、これまでは想像することなど決してできなかっただろう。疼くような、この世のものではないそれは、彼女が今までになくした郷愁に満ちた至福の記憶へと誘うようではあるが、それを取り戻す手立ては決してない。

 ブラックタロンの金切り声がイセヤを瞑想から揺り戻した。グリフォンは手綱に逆らうように激しく首を振り、ハブルの手の中からそれをもぎ取らんばかりだが、シニア・ウォーデンはそれを固く引っ張っていることに自分でも気が付いていないようだ。彼の身体は鞍の上で凍り付いており、イセヤには顔こそ見えなかったが、彼も自分と同じようにあの調べの虜になったのだろうと思った。

 自分の無謀さにたじろぎながら、彼女は、彼の後頭部を横手で叩いた。ハブルは正気に戻り、毒づき、即座に手綱を緩めてブラックタロンに動きの余裕を与え、それから半身で振り返って面目なさげな顔をイセヤに向け、礼を言った。
 あれは何だったのか、とエルフは震えながら尋ねた。ハブルは雲の壁がダークスポーンの群れと彼らの間を隔てるようになるまで答えず、答えるときの声は固く緊迫していた。アーチディーモン。

 イセヤは鞍にどっしりと深く腰を下ろし、紐帯が身体を座席にしっかりと固定していたことに安堵した。彼女の唇から小さな呻きのような声が漏れ、風に流されていった。彼女の両足も背骨もゼリーになってしまったかのようだった。

 当然、ブライトはアーチディーモンを伴う。アーチディーモンこそがブライトの原因なのだ。だが穢れた古の神の一柱がダークスポーンの群れのどこかに蟠踞しており、それと自分たちを隔てるのが、この空とブラックタロンの翼しかないという考えは落ち着かないものだった。だが最も恐ろしいことは、アーチディーモンがあの海沿いの美しい不運な街に今にも襲い掛ってもたらす全き破壊以上に恐ろしいことは、彼女の心の中に湧き起った、あの調べの大変な美しさだった。

 それからアンティヴァ・シティーに戻るまでの間、イセヤはブラックタロンの背中で身を丸くし、黙したまま、ダークスポーンの恐怖とやつらの歌の甘美さのふたつを、どうにも結びつけることができないでいた。

*** 

 第四のブライトのアーチディーモン。もちろん呼び名は「後日」あてがわれることになるのかもしれませんが、(Dragonの時代には)アンドラル(Andoral)と呼ばれている。また「奴隷たちのドラゴン」(the Dragon of Slaves)とも呼ばれる。

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