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2014年9月27日 (土)

Last Flight 5(2)

 「本物の」アーチディーモンが登場したのは、これまでゲームではDAOのみ。
 小説では・・・。
 実ははじめてなんです。"Asunder"のは、あれは「空想」でしたからね・・・。

***

 兄は気がふれていた。相手は瞬きする間もなくハブルとデンジを葬り去り、そして一方ガラヘルといえば、ジェンロック一匹すら倒したことがないのに、正面からそいつにぶつかろうとしている。

 アーチディーモンも驚いたようだ、そんな感情があればの話だが。翼をさっと広げ、帆のように風を受けるとガラヘルとそのグリフォンとの衝突から身をかわした。アーチディーモンの下半身が前にせり出す。後脚の爪が空を切り裂き、棘のついた尾でガラヘルを打ち据えようとする。 

 それはかすりもしなかったが、そのときイセヤは兄の企みがわかった。アーチディーモンと戦おうとしているのではない。できるだけ長い間やつを混乱させ、仲間を逃がそうとしているのだ。そして彼のグリフォンは、九分どおりやり遂げることができそうだった。
 だがその「九分どおり」が、兄と乗騎の命とりにもなるのだ。 

 幽霊のような紫のエナジーの柱が夜空を切り裂く。アーチディーモンは、光り輝く穢れをガラヘルに向けて吐き出した。だがグリフォンは宙に留まり、眩い「反」光の縁のところで小さな黒い影に見えた。アーチディーモンがデンジとハブルや他の者たちを葬った瞬間に、ガラヘルか、あるいは彼のグリフォンがどうにかして、その必殺のひと吹きがどこまで届くか見極めており、それを丁度避けるだけの間合いを取っていた。
 本当に見極めたのだとしても、または完璧なまぐれだったのだとしても、とても信じられなかった。 

 イセヤは片方の踵でリーヴァスの脇を触り、進路を彼らのほうに向けさせようとした。大きな獣は躊躇し、彼女はリーヴァスが決断に要した何分の一秒の間か、空中で反応が途絶えたことを感じ、それから前に突進して、ガラヘルと丁度反対側に位置するよう、アーチディーモンの右側に出た。

 イセヤにとってありがたいことに、他の誰も自分たちの愚かな真似につき合わなかった。カイヤとタイヤ、そしてアンダーフェルズの部族の男は、ブライトの黒い雲の間を抜け、一目散に視界から逃れようとしていた。あと数分も経てば、彼女たちの脱出は成功する。
 あと数分。二分か三分、あるいは四分。それだけ稼げれば。 
 彼女は歯を食いしばり、リーヴァスを急かした。

 二千フィートのかなたから、風がアーチディーモンの匂いを運んでくる。イセヤのうなじの髪がちくちくした。強烈に不快な、まったく非情な、地下の冷たい死の場所の匂い。ぼろぼろの歯から吐き出すはらわたの、毒にまみれた河底の泥の匂い。全き穢れ。

 同じ穢れの響きがイセヤの心の隅に浮かぶ。アーチディーモンの不思議な呼び声の歌が、微かにほとんど気が付かないくらいではあるがまだ残っており、むしろその全てを聴くことができないために気が狂いそうになる。

 とはいえ、コーリングの前兆であることを知る彼女は、それを聴きたいのではない。だが無視するのは困難、いや不可能だった。締め出すことはできない。あまりに恐れ、あまりに不慣れで、やがて来る試練がいかに希望のないものであるかをあまりに気にかけている。 

 だから彼女は手綱を緩め、リーヴァスに進路を選ぶ完全な自由を与えた。荒っぽい、愚かな賭けだった。イセヤは彼女の新しいグリフォンに、熟練の騎手が何年もの間で築き上げるのと同じ連帯を示すように求めたのだ。
 だがそれしか道はない。

 リーヴァスは躊躇しなかった。グリフォンは空に駆け上り、眼下の戦場から立ち上る温かい空気を力強い黒い翼で打ち、上昇する速度をさらに稼いだ。
 イセヤはその煙い熱気の中に焼けた肉の臭いを嗅いだが、その意味するところを思いあぐねるのはやめた。今はアーチディーモンだけが問題だ。 

 彼女たちは、そいつに急接近していった。一千フィート。五百フィート。そいつの影が彼女たちを覆う。ぼろぼろの翼が、リーヴァスの頭上に崖のようにせりあがる。イセヤは、ドラゴンの表皮からその肉の中の穢れが結晶化したかのように飛び出している、血に塗れた棘の不気味な細部までつぶさに見て取ることができた。
 百フィート。危険空域に入った。やつが首を回してその顎を開ければ、あの一吹きで自分たちを葬り去ることができるだけ近い。

 だがやつは気にもかけなかった。その注意は依然白ぶちのグリフォンとその乗り手たちに釘づけとなっていたが、彼らは今や左に進路を変え、やつの注意を生き残りのウォーデンたちが脱出する方角から逸らそうとしていた。

 イセヤは鞍に寄り掛かり、杖を掲げてフェイドを探った。こちらの世界に魔法の一握りを掴みだし、リーヴァスが右に急旋回する直前、アーチディーモンに向けてラヴェンダー色に縁どられたエナジーを放った。メイジのスピリットの弾丸は、骨の棘が並んだドラゴンの側面に命中し、シューッと音を立てた閃光が皿ほどの大きさの鱗の間で光り輝く。だがアーチディーモンは気づいてもいないようだ。

 だが直後にリーヴァスが激突したのには気がついた。グリフォンは両の爪をアーチディーモンの横腹に深く沈め、鱗と棘をふたつかみ引きずり出す。グリフォンが身体を離すと、濃い、冷たい血が雨のない雲の間に降り注いだ。ドラゴンは魂を切り裂くような音声の悲鳴をあげ、鞭のように尾を空中で振り回す。
 翼を胴体の脇に固く折り曲げ、リーヴァスはその場で落下してそれを避けた。イセヤの胃もグリフォンとともに落下し、喉には恐慌の塊が湧き上がった。隣では、アマディスが悲鳴を上げた。

 アーチディーモンの尾が彼女たちの頭上を払い、それはイセヤの髪の幾筋かを棘で掠めとるほど近かった。巨大な頭を振り返ると、黒い焔が燃える大釜のような目を片方、彼女たちに向ける。あの破壊的な一吹きで薙ぎ払うためには角度が足りなかったが、それも長く続くとは思えない。 

 クロッキーテイルを追撃することはやめ、ドラゴンは空中でその全身を回し、彼女たちの方に向きを変えて来た。
 リーヴァスは踊るように身を翻しながら、がむしゃらな羽ばたきで位置を変え、時折ドラゴンの脇腹に爪を立てては、アーチディーモン自身の身体を盾代わりにし続けた。あまりに巨大なため、その胴体がとてつもない障害物となる。グリフォンが十分接近したままそれを利用し続ければ、彼女たちは安全だった。

 あと二分は持ちこたえられるかもしれない。他のウォーデンたちは視界から去った。イセヤは、皆嵐の向こうでは安全だろうと推測した。ガラヘルも逃げる機会はあったはずだが・・・、彼はそうしなかった。かわりに戻ってきて挟撃を試みた。

 クロッキーテイルが遮蔽物にしていた暗い灰色の雲から進路を変えて現れると、その毛深い耳が速度のため平らになっていた。
 射程距離ぎりぎりのところで、ガラヘルの乗客であるカリエンが蛇のくねった杖を掲げ、フェイドからファイヤーボールを呼び出した。それはアーチディーモンにまっすぐ飛んでいく間に、速度と、その実体を増していった。

 ドラゴンの胴体で緩和されたとはいえ、ファイヤーボールの威力はリーヴァスの毛並みを乱し、皆を熱波で洗った。そして古の神の穢れた表皮を焼き焦がし、そいつに再び怒りの咆哮をあげさせた。

 アーチディーモンは身体を持ち上げ、長い首を振りかざして両方の敵を同時に視野に収めようとしていたが、どう向きを変えようが、一吹きの範囲に収めることができなかった。そして、リーヴァスに背を向けることなく、クロッキーテイルとその乗り手たちに接近することもできなかった。 

 徒労をやめると、アーチディーモンは息を吸い込みはじめたが、あまりに強力な吸引は雲までその喉に引き込み、グリフォンたちの翼の羽根は引き寄せられて前方になびいた。リーヴァスは悲鳴をあげ、アーチディーモンの吸引から逃れようとしていた。クロッキーテイルもおそらく同じように鳴いているのだろうが、ダークスポーンの吸気のせいで、イセヤの耳には何も届かなかった。彼女は紫のエナジーの奔流が来るのを身構えて待ったが、それは来なかった。 

 やつの一吹きは、今度は、純粋な死の渦巻だった。
 アーチディーモンが彼女たちに向けたのは、間違いなく魔法の類であったが、イセヤの知るいかなるものとも違っていた。呪文にはフェイドを意味するものは何もなかった。夢と悪夢の王国のいかなるものも、アーチディーモンが放ったその中には含まれていない。
 それは霊的にも、物的にも、闇の竜巻だった。貪欲な風が彼女たちをその口に引き寄せ、彼女たちの生命の活力を、霊的な力もろとも奪い去ろうとしていた。
 イセヤはアーチディーモンの竜巻が彼女の力を奪っており、近くに引き寄せられるにつれ、その威力が強まるのを感じた。近づき過ぎれば激突することになるが、そのはるか以前に死んでしまっていることだろう。

 彼女にできることはなかった。リーヴァスは全力で竜巻に抗っているが、徐々に負けていた。羽根が翼からもぎとられ、螺旋を描きながら闇の中に消えていく。カラスの羽根のように光沢のあった羽枝はもろく白い骸骨のように血の気を失っている。健康なピンク色だった羽柄も死んだように蒼白で中空だ。イセヤは、自分の手が竜巻に吸われて白くなっていることに気が付いた。向こう側では、クロッキーテイルも抗い、そして同じ戦いに負けていた。

 灰と白のまだらグリフォンの背中ではカリエンがなんとか身を起こそうとしていた。羽根つきの頭巾はもぎ取られ、竜巻の中に消えていた。彼は杖を手離さないよう、両手で必死に掴んでいる。帯に結んであった小袋はあっという間に引きちぎられ、クロッキーテイルの主翼と羽角の柔らかく白い下羽とともに、渦を描いて消えていった。だが、メイジはなんとか起き上がり、アーチディーモンの回りの空に、輝く青い線からなる、獲物を締めつける格子牢を生み出した。

 呪文は、古の神の動きを止めるにはまるで力が足りなかった。アーチディーモンは鼓動一回分だけ金縛りになったが、鱗のついた胴体をゆすって、まるで雨水のように魔法を振り払う。格子牢は粉々になって砕け散った。 

 だが、カリエンがふたつめの呪文をやつに向けて放つまでは持ちこたえた。
 イセヤは、彼がどんな呪文を唱えたのかわからなかった。竜巻に近づくにつれ、彼女の視界はぼんやり霞んできていた。呼吸以外の何に対しても意識を集中することができず、それも急速に困難になっていた。彼女の肺の空気さえ、再び吸い込む前に吸い出されていた。

 それでも衝撃波は感じた。カリエンがアーチディーモンに何を放ったかわからないが、彼の最初の呪文の消え去りつつある痕跡を、激震を伴う強烈な新星の爆発に変えた。それは両方のグリフォンを渦巻の中から叩き出し、空中でどうしようもないほどきりきり舞いさせ、アーチディーモンの近くから飛び去るよりもずっと早く、遠くへ放り投げた。

 イセヤの頭はまるでオーガに殴られたように後ろにのけぞった。口の中が血だらけになり、呼吸を取り戻そうとして喉を詰まらせそうになった。それを必死に吐き出し、一方の手で鞍を掴むと、もう一方の手で杖を握った。腰の回りのアマディスの腕は、まるで締め付ける鉄のガードルのようだ。何度も何度も、上下にも左右にも錐もみし、その間ずっと落下を続けていた。そしてついに、ふらふらになりながらも、リーヴァスが息を切らして態勢を保持すると、ようやく正しい姿勢に戻った。

 リーヴァスは、それをやっとのところでやり遂げた。彼女たちは最初の位置よりもずっと下にまで降りていた。二、三百フィートも離れていない地面に激突するまであとほんの少しだったと思うと、イセヤはぞっとした。

 すでに日はとっぷりと暮れ、ブライトの止むことのない嵐の雲が星空をしみのように汚しており、ダークスポーンの群れと、残りの荒廃した土地を見分けることはできなかった。だがアンティヴァ・シティーは遠くの方で燃えており、その城壁は、まるでその中に呪われた炎を揺らす器のように見えた。

 その夜、一体どれだけの者が死んだのかはメイカーのみの知るところだが、少なくとも、彼女たちは脱出した。
「降りて」 イセヤは彼女のグリフォンに告げた。あまりにも疲れ切っており、あまりにも震えがとまらず、今夜これ以上飛び続けることは考えられなかった。
 彼女たちが生き残ったのは奇跡だった。ワイコムを見つけるのも、また別の奇跡だ。メイカーに対して、一晩にふたつもの奇跡を求めるなど、彼女には気乗りがしなかった。

***

 アーチディーモンとの空中戦ですから、まじめにベタ訳。

 鳥の(ちゅうか鳥のアナロジーを用いたグリフォンの)羽の部位。初めて聞いた(読んだ)日本語もありました・・・。一応調べて訳したので変なことにはなってないと思うのですが。
 "The Masked Empire"の馬に続いて、鳥にまで詳しくなっちゃうとは。

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コメント

空中戦!キタ──ヽ('∀')ノ──!!
しかもアーチディーモンと。
いやー、圧倒的な強さですね。
DAOでも出てきたものの、戦闘場面の設定があった為か、今ひとつ強さがわからなかったけど。
グリフォンは、ここでは鷲の部分がよく出てますね。

この場面は、アニメとかでもいいからヴィジュアルでちょっと見てみたい気がしました。
宮崎駿さんならどう描くだろうかとか。


>(次の記事より)この先お花にまで詳しくなっていってしまうのだろうか
鳥、花…、何をおっしゃいますやら、充分すぎます。
そういえば筒井先生もラベンダーを使っておられなぁ、と思い出してしまった。

DAのアニメ映画はドラゴン戦闘場面は秀逸でしたが、他が平凡でした。

ラヴェンダー。れいなの移ったバンド(ちがう)。
フランスといえばラヴェンダー。ゲイダーさんがAsunderで花畑を登場させたのは、季節がちょっち違う気がしたけどそういう由来でしょう。パトリックも今回の作者も踏襲したのかな。
日本にその名前を広めたのは、おっしゃるとおり筒井先生という説がある。霊的な由来があるのか探しましたがなさそう。圧倒的な花畑のヴィジュアルと忘れ難い香りの印象が用いた理由でしょうか。
DAには全編に紫のイメージがありますね。ロイヤルな、浮世離れした印象のせいかな。

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