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2014年7月 2日 (水)

The Masked Empire 15(5)

 十五章ラスト。

***  

 一日の終わりに差し掛かると思われる頃、ギャスパードが休息を言い出したときには、セリーンの頭は傷んでいた。小さな円形の部屋には粗末な寝台が円状に並んでいた。部屋の中央には大きな金属の鉢の中で炎が勢いよく燃えていたが、セリーンの目には、その燃料が見当たらなかった。

 壁際の箱の中から食糧を発見した、と告げたブリアラのほうをセリーンが見ると、彼女が新鮮なパンと思われるものを火で炙っていた。フェラッサンによれば、魔法によって保存されていたものだから安全だという。
 携行食の補充になる、と戦いで傷だらけになった鎧を脱ぎ捨てながらギャスパードが言った。

 火の側に腰掛けたセリーンは、この部屋の目的を尋ねた。たとえ魔法に由来するものであっても、自然の炎はあの道の光とは違って目に心地よかった。とはいえその炎の上で調理するのは、古代のエルフの慣習に反しているのではないだろうか。
 フェラッサンは、何の問題もないと上機嫌な様子で言った。
 この部屋では、ソムニアリが偉大な儀式を行った、とミーリスが言ってブリアラとフェラッサンを睨んだ。神聖な薬草が永劫の焔に投げ入れられ、その煙がエルフのドリーマーをフェイドに導いた。
 素敵な話だ、とフェラッサンが微笑み、だが単に調理する場所だったかもしれず、寝台で召使いに寝首を掻かれることなく、眠りに就く間のドリーマーを守る場所だったかもしれない、と付け加えた。

 そのほうが分別がある、とギャスパードが言って、鎧の胸板を脱いだ。
 セリーンは自分の魔法のポットを思い出し、それは自分の地位に相応しい優雅さを加えるものとしか思っていなかったが、数ある墓を渡り歩き、あまりに多くの古代エルフの謎を見て来た今では、そのような小物ですら農奴たちが恐れる理由がわかった。玉座に戻ることになっても、セリーンはもはや魔法を容易く信用することはないだろう。

 それはともかく、彼女は両手を炎のほうに伸ばして暖を取った。
 ブリアラが隣にやってきて、何を考えているのかと尋ねた。セリーンは彼女に身体をもたれかけた。多くの戦いを経た鎧の匂い、汗と血、調理の煙、雨ざらしにされた衣服。そんな姿であってもブリアラが美しく見えるとは思いもしていなかったが、長い一日の道のりの後、ふたりで身体を丸め、すべてを忘れることにした。

 この驚くべき世界のことを考えていた、とセリーンが言った。ブリアラのようにエルフの目で見ることはできないが、数多くの可能性が見える。セリーンは笑って、オーレイを取り戻してからの話だが、と付け加えた。
 当たり前だ、とリマッチェが言ってふたりを睨んだ。彼は、ギャスパードやミシェルと同様、自分の鎧の応急修理に勤しんでいる。セリーンは彼を無視し、これからどれだけ素晴らしい世界が待っているかわかるか、とブリアラに尋ねた。貴族たちはヴァル・ロヨーまで何週も何か月もかけずとも、数日で到着することができる。女帝の命令が伝令の馬の速さでしか行きわたらなかったせいで、どれだけ多くの政策が行き届かず終わったことか。

 エルフをスラムから解放する政策もそうか、とブリアラがパチパチ音を立てている炎を見つめながら尋ねると、セリーンは、そんな話よりもっとずっと大きなことだ、と答えた。交易。大学への知識の集積。エルーヴィアンを安全に行き来できるなら、それらを各都市に配置することで、帝国のどこであってもヴァル・ロヨーからあっという間に到達することができるようになる。

 ブリアラのくすくす笑いが無理に作られたものであることが、セリーンにはわかった。 ブリアラの大きく黒い瞳は笑っていなかった。セリーンの指輪はレディ・マンティロンからの贈り物で、敵の弱点を教えてくれると同時に、小さな細部も見逃さないくらい知性を鋭くもしてくれる。ブリアラは、自分がエルフの民以外は何も気にかけていないことを白状した。

「ああ、女帝にはおぬしの民について計画があるぞ」 脛当ての紐を締めながら、顔をあげずにギャスパードが言った。「エルフどもをスラムから外に出し、この隧道に連れてきて、女帝自身の密偵の組織を作るのだ」
 セリーンが鼻を鳴らした。「長くスラムの生活を続けて来たオーレイのエルフたちは、今行動をともにしているエルフたちのように、古代の先祖の歴史を見て喜ぶかもしれません。エルフにとってそれほど喜ばしいのであれば、そのような計画は誰に取っても実りあるものになりうるのです」 セリーンは、部屋の向こう側でフェラッサンとミーリスが壁の古いルーンを検分している姿と、その傍らで飽きて暇そうにしているリエンヌの姿を見た。

「まあ、あなたにとってはそうでしょうな、陛下?」 リマッチェが尋ね、ブリアラを見た。
「エルフどもをスラムから外に出すのは、単に女帝の個人的な暗殺者にするためだ」 ギャスパードが微笑んで首を振った。「それを知って、わしのほうにつく貴族も何人かおるに違いない」
「その頃には、あなたはメイカーの腕に抱かれて安らかな眠りに就かれているわけですから、気にかける理由はございません」とセリーンが冷たく言い放つと、ギャスパードは笑いながらパンに手を伸ばした。

 ブリアラは自分が焼いた一切れを差し出した。「女帝陛下が帝国の全ての都市の全てのエルフに愛と支援をお与えになるなら、貴族たちは彼女に逆らおうとはしないでしょう」 彼女はギャスパードに微笑みかけた。「私たちはただの虫けらかもしれませんが、大公、ハチもまたそうです。賢き者はハチの巣には近づかないものです」
 ギャスパードはパンを手に取った。「もちろんだ。賢き者はハチを燻って殺す。あるいは炎で」
 彼はパンをがぶりと噛み、頷いた。「なかなかうまい」

「私が、ハラムシラルの件を忘れたとでもお思いか」と言うブリアラの声は固く、怒りを帯びていた。「思い出させて、セリーンと私の仲を違えようとするおつもりか。ハラムシラルの焼き討ちは、あなたが引き起こしたのだと思っています」
「女帝セリーンは、閣下がそう強いなければあの街を攻めることはなかった」とミシェルが言い、作業から顔をあげ、ギャスパードに視線を合わせた。 
「そのとおりだ。だがブリアラがあの街の外の馬車の中で告げたことはそれとは違うぞ」とギャスパードは言って、パンにもう一度かぶりついた。「記憶が正しければ、彼女はわしらの企みに気が付いていながら、それをセリーンに伝え損なったのだ」

「どのみち、わたくしは聞く耳持たなかったでしょう」と言うセリーンのブリアラを見る目は驚きに満ちていた。「問題なのは、わたくしたちがここで決着をつけた後、エルフたちはより良い暮らしを送ることになるということです」
「より良い暮らし」とリマッチェが顔をしかめた。「あなたはどぶのゴミと取引きするつもりか」
「問題は」とギャスパードが、リマッチェを無視しながらセリーンに言った。「ほとんどのエルフがどう考えるか? デーリッシュは含まず、おぬしの侍女は含まず、だがほとんどの連中はどう考える? 連中は、エイリアネイジの暮らしぶりなんぞ気にしておらん・・・、あるいはハラムシラルのスラムの生活なんぞを。連中は、大公や女帝が自由と呼ぶことなんぞ気にしておらん。連中は頭の上に屋根があって、食卓の上に食事があるかどうかのみ気にしておるのだ。おぬしがその大胆な声明を出したとしても、貴族たちはのらりくらり身をかわしながら、エルフどものことを忘れる方法を探すだけだ」

「では、私たちが忘れないようにして差し上げましょう」 ブリアラがギャスパードを見て、それからセリーンを見た。
 セリーンは躊躇することなく彼女の手を取った。「わたくしはあなたの民を悪いようにはしない、ブリア。誓います」
 ブリアラの手が彼女の手の中でこわばり、セリーンが彼女のほうにさらに身体を寄せると、ギャスパードとリマッチェは不快そうに顔を背けた。ミシェルは自分の鎧の作業に戻り、気が付かない素振りをした。

 火の光の中に、セリーンは、飢えたエルフたち、暴動を起こす庶民たち、彼女の制止する暇さえなくシェヴァリエを繰り出す怒れる貴族たちの姿を見た。 帝国の兵士たちが、エルフたちが商売敵となることに抗議する商人たちの家を焼く姿を、はじめての自由の味を知り、その他も早く味わいたいあまりに先走り、盗賊と化し、叛乱を起こすエルフたちの姿を見た。
 彼女は自分の帝国が燃える姿を見た。火はすでに放たれた。彼女が祈ることができるのは、その火で焼かれることになるのが誰か、自分自身が決められるようになることのみであった。

***

 大公と女帝の間の論争は、格好良く言えば、現実主義と理想主義、保守と変革の争いと言えるものでしょうか。弱者の意見を聞け、という一方に対し、弱者はそもそも意見など有していない、というもう一方。「弱者」を「大衆」と置き換えれば、まあたった今現在でも繰り広げられている不毛な論争に通じることになる。

 そして「野蛮」にもふたりは、その論争に決闘で決着をつけようとしている。
 いや、果たして「野蛮」なのか。戦いに敗れれば死ぬことが、敗れたほうの「少数意見を尊重する」などという子供でもわかる欺瞞に塗り固められた愚民主義の今の世界より、どうして劣っていると言えるのか。 

 小説Asunderのエイドリアンは(同じくリバタリアンズ寄りであるグランド・エンチャンター・フィオナと並んで)過激な変革派、「独立主義」、ともすれば「無政府主義」とも呼べると思いますが、子供同然であったコールですら見抜いたように、「彼女が『自由』という言葉を口走るとき、彼女本人にも自分で何を言っているのかまったくわかっていないようだった」。

 現実主義と理想主義の双方から無視され続けるリマッチェは、過激な守旧派、「伝統主義」ということになるのでしょう。意外にもギャスパードのほうが、格段に柔軟な発想の持ち主。

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