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2014年7月 6日 (日)

The Masked Empire 16(3)

 第十六章ラスト。

***

 セリーンを押しやってどかすと、ミシェルは掴みかかる爪に打ちかかり、化け物の腕に必死に斬りつけた。攻撃はヴァーテラルの石のような肌を削り取ったが、化け物はミシェルを掴み、シェヴァリエの身体を苦も無く地面から持ち上げた。
 牙の生えた口蓋を大きく開き、ミシェルがうめき声をあげる間にも、ヴァーテラルは彼を顎の近くに引き寄せた。
 だが、下から叫び声が聞こえると、そいつは動きを止めた。「戦いなさい、チャンピオン!」
 オーレイの女帝セリーンはヴァーテラルの脚の下に飛び込み、跳ね上がり、化け物の膝の内側を蹴ると、両手のダガーを再び下腹に埋めた。

 ブリアラはセリーンを信じており、ふたりが子供の頃からずっと愛していたが、彼女が自分に仕える者のために命を懸ける姿を目にするなどとは、夢にも思っていなかった。
 苦痛の叫びをあげ、ヴァーテラルはミシェルを地面に放り投げた。彼は地面に叩き付けられてうめき声をあげたが生きており、セリーンは転がり出てきて、彼女を潰そうとする化け物から身をかわした。彼女の顔は紅潮していたが歓喜に満ちており、次に狼狽えた表情になって、彼女に執拗に斬りつけるリマッチェ公爵から身体を離した。

「リマッチェ! おぬしの名誉はどこにいったのだ?」 ギャスパードは、リエンヌの魔法の力を受けながら、まだヴァーテラルの後ろ脚に斬りつけていた。ヴァーテラルは彼のほうに向きを変えたが、身体の側面に冷気を浴びて尻込みした。
「間抜けな化け物。やつを掴んでいたのに」 ミーリスは、さらに再び冷気を浴びせかけ、自分が立っていた長椅子をヴァーテラルが叩き壊す前に、別の長椅子に飛び移った。
 その攻撃は、ヴァーテラルの脆弱な部分をブリアラの立っている場所に曝すことになり、彼女は矢を地面に反射させ、ヴァーテラルの柔らかい下腹に突き刺した。そいつはまた吼えると、ブリアラが飛び退いた地面を叩き壊した。

 ヴァーテラルは、近くの長椅子のほとんどを瓦礫に変えていた。ブリアラは崩れかけたそのうちのひとつの影に滑り込み、彼女の回りに石のかけらが飛び散るにあわせ、回転して身をかわした。立ち上がった彼女は、石の鎧で守られた巨大な脚が襲い掛かるのを目にし、その一撃を受けた彼女の身体は錐もみした。衝撃は彼女の肺から空気を奪い、彼女の身体はしばし宙を舞い、それから破壊で荒らされた石の上を滑り、大理石の長椅子にしたたかに身体を打ち付けてようやく止まった。頭がくらくらし、なんとか息をしようと苦労しながら、わずかの間、ただそこに横たわって事態を見ているしかなかった。

 ヴァーテラルは彼女を追いかけてくると思ったが、ミーリスの冷気を牙の生えた口蓋に受けて注意を逸らされたそいつは、エルフの癒し手のほうを向いて、怒りの叫びをあげた。
 一方の端では、リマッチェが円を描くように動きながら、セリーンをヴァーテラルのほうに押しやろうとして剣を掲げ、彼女を後ずさりさせていた。
 セリーンとリマッチェの間に割り込んだ大公ギャスパードが、盾でリマッチェの一撃を受け流した。

「貴公の忠誠には感謝しておる、リマッチェ」 ギャスパードは悲しげにそう言って、公爵の兜を殴りつけた。
「だがこれは・・・」 彼は盾を放り投げると、空いたほうの手でリマッチェの面頬をこじ開けた。
「・・・とても・・・」 彼は剣先を覗き口の間に乱暴に差し込み、ブリアラは、リマッチェの兜の後ろから剣先が飛び出すのを見た。
「認められん」 リマッチェが膝から崩れ落ちると、ギャスパードは男の身体を蹴り、自分の剣を引き抜いた。「セリーンよ、わしの手の者の不名誉な行いを謝罪する」

 ブリアラには、セリーンが何と答えたのか聴こえなかったが、自分がようやく息を継げるようになると、どうにかして膝立ちになり、それから立ち上がった。近くに落ちていた弓を手に取り、矢をつがえる。彼女の両手は震えていた。戦いはあまりに長く続き、さっきの一撃が戦意を喪なわせていた。

 彼女がヴァーテラルのほうを見た丁度そのとき、倒れるミーリスが目に入り、逆手の一撃を浴びたエルフの癒し手は瓦礫にまみれた床の上を滑って行った。
 ようやく立ち上がったミシェルは、のろのろとだが動いており、ヴァーテラルの毒液を浴びた鎧は酸で爛れていた。彼は大声で吼え、歯切れよく、手際よい攻撃を繰り返した。だが怒りは帯びていなかった。戦いで動揺していたのはブリアラだけではなかった。

 そのとき、ギャスパードが彼女の前に立った。ギャスパードは盾を拾い、片方の小手を外したが、彼の指輪を目にするまで、ブリアラにはその理由がわからなかった。
「後で返すんだぞ」 ギャスパードはぶっきら棒に言うと、指輪をはずして彼女に放り投げた。彼女は反射的に受け止めた。
 男の指のサイズは少々大きめだったが、それはブリアラがレディ・マンティロンから贈られて身に着けているものと同じ、複雑なパズルの形をしていた。

「これをどこで?」と彼女が尋ねる間、セリーンがヴァーテラルの脚に斬りつけ、ミシェルから注意を逸らそうとしていた。
「レディ・マンティロン」 彼女の問いに片方の眉をあげて、彼は言った。「わしが彼女をはじめて『ゲーム』で感心させたときだ」
 ヴァーテラルは目の前にいて、怒りの咆哮を上げ、石を砕いていたが、しばしの間、ブリアラの目前には、床に血が流れる読書室しかなかった。セリーンが彼女を隠れ場所から連れ出したとき、セリーンの指には新しい指輪があった。

「おい!」 ギャスパードは両手で彼女の肩を荒っぽく叩いた。 「しっかりするんだ。おぬしの矢と、セリーンのダガーが、わしらの剣よりもあやつを痛めつけることができる」 彼はセリーンとミシェルの方を向いて、声を張り上げた。「ミシェル、このエルフを守るのだ!」 ミシェルはたじろぎ、それから頷いた。「あやつが死ぬまで、ブリアラが矢を下腹に埋め続ける。セリーンは機会を見て、また下に潜り込め。リエンヌ?」 彼は、自分のメイジの方に振り返り、彼女は最初からずっと同じ長椅子の上に立って、ギャスパードに魔法で力を与え続けていた。「わしのことはいい。あやつに方向を見失う呪いをかけろ」 

 リエンヌが微笑むと、ヴァーテラルがギャスパードのほうを向いた。「木や石や空気から生まれたスピリット、汝は今は亡きこれら死者たちを守るため生み出された。汝はかつてその役目にしくじった」 彼女が片手をあげると、杖は蒼白い光に輝いた。「再びしくじるがよい

 ヴァーテラルがよろめき、蒼白く不確かな光がその周りをしばし包み込んだとき、ブリアラは指にギャスパードの指輪をはめた。彼女の周囲の空気が静かになり、弓を掲げると、その狙いが違(たが)わないことがわかった。彼女が矢を放つ前でさえ、ヴァーテラルがどう動き、その脚をどう持ち上げて、無防備な下腹をほんの少しだけ曝すことになるのかがわかった。
 彼女の矢は化け物が持ち上げた爪をくぐり抜け、無防備な下腹に刺さった。
 そいつは吼え、彼女の方を向いたが、ミシェルとギャスパードが前に立って、巨大な爪のついた脚に対して盾を掲げ、その力の衝撃に後ずさりしたものの一撃を脇に逸らした。 ミシェルとギャスパードはよろめいたが立ち直り、ヴァーテラルが怒りに任せて降り注ぐ酸は盾を掲げてしのいだ。

 ブリアラが再び矢を放つと、それは開いた口蓋の中に飛び込み、巨大な化け物は脚を蹴り上げ、金切り声をあげ、激怒して地面を叩いた。石の塊がそこらじゅうに飛び散り、ギャスパードとミシェルは跪いた。一瞬の後に、ヴァーテラルは彼らの傍らを通り過ぎ、ブリアラのところまでやってきて、彼女の立っているところ目がけ、二本の脚を槍代わりに持ち上げた。

 ギャスパードの指輪は、依然としてブリアラに魔法の力を与えている。彼女は、彼女のことを叩き殺そうと心を決めているヴァーテラルが、まだはっきりと彼女の居場所がわからない様子であることがわかった。前脚を持ち上げたときの体重を支えねばならない後ろ脚は、セリーンの前に無防備なまま曝されている。彼女がそれを切り裂けば化け物はたじろぎ、ブリアラへの攻撃を阻止できる。彼女は、セリーンが計算深く機会を覗い、ダガーを構えている姿を見た。

 そう見て取ったブリアラは再び射かけ、放った矢はヴァーテラルの掲げた両脚の間を抜けて柔らかい下腹に命中した。
 ヴァーテラルは再び悲鳴を上げた。
 セリーンは躊躇し、動かず身を守った。

 ヴァーテラルの脚が振り降ろされ、ブリアラが横っ飛びして避けても間に合わなかった。再び彼女は打撃の力に打ちのめされたが、今回は地面に叩き付けられたときの一撃で引き裂かれるような苦痛を覚え、息を継ごうとすると身体が燃えるように感じ、動き、戦い、その他何をしようと試みても、星々が目の前に踊った。

 セリーンは動かなかった。彼女はミシェルを救うために危険を冒し、彼女を救うことは躊躇った。
 ブリアラは咳き込み、無理やり頭をあげ、そして赤くかすむ視界の中で、ヴァーテラルが自分の上に立っているのを見た。
 そしてそのとき、セリーンがやってきて、彼女の両手のダガーが、繰り返しヴァーテラルの下腹に突き上げられるたびに輝いた。ヴァーテラルは悲鳴を上げ、前のめりに倒れ、ブリアラはその場から逃れようとしたが、脇腹に刺すような激痛が走り、頭上に押し潰すような重みが降り注ぐことから身を守る術はなかった。

 彼女が最後に見たのは、セリーンが安全な場所に飛び去る姿だった。
 それは一瞬のことだったように思われたが、ブリアラはほとんど同時に、自分が気を喪っていたことに気がついた。彼女は倒れていたところにそのまま横たわり、ヴァーテラルの巨大な身体が傍に倒れていた。ミシェルとギャスパードがその側らに立って荒い息をしており、そして彼女は、ふたりが化け物の屍を彼女の身体の上からどかしたに違いないことに気が付いた。

 彼女の胴体に温かさが広がり、見下ろすとリエンヌがブリアラの腹に手を当てていた。「次に巨大な化け物が上に来たら」と彼女は静かに笑いながら言った。「避けたほうがいい」
「私は・・・」 ブリアラは言い澱み、何を言っていいかわからないことに気が付いた。
 セリーンが、彼女が目にしたのと同じ隙に気づき、それにつけ入ろうとしていたのは間違いない。とどのつまり、セリーンもまたブリアラと同じ種類の指輪を身に着けていたのだし、その指輪は敵の隙と攻撃の機会を示すものだ。
 セリーンがレディ・マンティロンから贈られた指輪。

「ミーリスとフェラッサンは?」 答える代わりに、彼女はリエンヌに尋ねた。
「ふたりとも無事だ」とギャスパードが言った。「ひどい怪我は負っていない。おぬしのほうは、むしろ、よき鎧職人を見つけねばならんだろうな」

 ブリアラは、リエンヌが差し出した手を取って立ち上がった。固い石の床に打ち付けられた痛みが残り、レリアナが今も癒している胴に負った傷からはしぶとい痛みを感じていた。彼女の鎧は奇妙な形でぶら下がっており、見下ろすとギャスパードの言葉の意味が分かった。良質の青いドレイクスキンの鎧の胸はずたずたになっており、ヴァーテラルの棘のついた爪によって、丁度真ん中のところから裂かれていた。

 その鎧がいかに頑丈な守りをもたらしていたとしても、それほどの被害を被ったうえで、彼女を救うことはできなかっただろう。彼女はリエンヌのほうを見た。「ありがとう」
 若い女性は再び微笑んだ。「皆、天賦の才によってできることをするまで」
 「たしかに」 ブリアラはミシェルを見た。「そしてあなたも無事だった?」
 ミシェルは頷いた。「だが今日この日は、女帝のチャンピオンが女帝によって救われ、面目を失った日になった」
 「そうね」 ブリアラは息を呑んだ。彼女は彼のために命を懸けた。

 ギャスパードがにやりと笑った。「メイジ三人、シェヴァリエふたり、それ以上の者たちが戦って、あやつをようやく倒すことができた。おぬしが正しいのかもしれん、セリーン。わしがエルーヴィアンを手にしたとき、エルフを用いるべきかもしれん。少なくともこのメイカーも呪われる化け物は連中を襲うことはない」
「今、気にすることではない」 フェラッサンがわずかに足をひきずりながら、ヴァーテラルの屍の脇を歩いてきた。他の者たちのことよりも屍のほうに興味があるようだった。「こいつは死んでいる。まあ、死んだようなものだ。やつらはむしろゴーレムに近い」

「惜しいな」とギャスパードが言った。「良き守り手はなかなか見つからん。近頃では、誰かの忠誠を信じることさえほとんどできん」 彼はリマッチェの斃れた姿を見やってため息をついた。
「貴族は殺さないのではなかったの?」とブリアラが言うと、ギャスパードは首を垂れた。
「彼はわしの手の者だった」と大公が言った。「そしてわしらの休戦を破り、戦いのさなかに味方の背中から襲い掛かった。あやつは死んで当然なのではない。死ななければならなかったのだ」 彼は心から悲しんでいるように見えた。「宮廷では、あやつは類稀なる助けになったはずだ。ここに連れて来るべきではなかった、あやつが掟を受け入れられない世界に」
 ブリアラは、今このときも、自分自身がその掟を受け入れているかどうか定かではなかった。

 彼女がセリーンを見ると、彼女はヴァーテラルの怒りによって瓦礫に変えられなかった、数少ない長椅子の一つに腰掛けていた。セリーンは荒い息をしていたが、ブリアラの見る限り怪我を負ってはおらず、彼女の顔は奮闘の余韻で紅潮したままだった。そのため彼女の顔は薔薇色になっており、それはブリアラがヴァル・ロヨーではほとんど目にすることのなかったもので、その頃セリーンはいつも蒼白い顔色をして、マスクを身に着けていた。 

 それは彼女に、ふたりで愛を交わし合った後の、いつものゆっくりした怠惰なひとときを思い出させたが、そのときにはあらゆることが可能に思え、そしてブリアラは、なされた約束はきっと守られると信じることができた。
 セリーンはブリアラの視線を捉えて微笑みかけた。彼女の目はブリアラの鎧の惨状に見開かれたが、それでも彼女は、ブリアラが生き延びたことを心から喜んでいるように見えた。

「そして、ついに」と、ブリアラが何をすべきか思いつく前にギャスパードが言った。「残念なことだが、エルーヴィアンを手にするのが誰か、決めねばならんときがやってきた、セリーン・・・、そしてわしらのうちどちらが、ここで死者たちとともに過ごすことになるのか」

***

 リマッチェの最期については、また別途・・・。

 戦闘シーンはできるだけ長く。ベストセラー小説を狙う際のルール・ナンバー・ワンだそうですが・・・。The Masked Empireの戦闘シーンは、それでもまだ「ぜんぜん短いほう」にも関わらず、なんでこんなに訳するの面倒なんだろう。
 ウィークス氏の癖(ほぼ一緒に起きたことは、なにもかもひとつの文(センテンス)にぶち込む)もありますが、ヴァーテラルのような「空想上の、多くの読み手が知らないと想定される」化け物との戦いのせいかもしれない。

 ハラムシラルの戦いのように、騎兵同士、弓兵や歩兵同士の戦いは、やはりやりやすい。様式があるからでしょうね。ヴァーテラル、あるいはシルヴァンとの戦いの描写で非常に困惑するのは、それら化け物についての同じ表現が何度も何度も繰り返されること。
 「炎にたじろぎ」とか、「悲鳴をあげ」とか、原文では多くてもニ、三種類の表現のヴァリエーションしかない。

 それと、セリーンがブリアラを救わず躊躇したくだりで、ヴァーテラルに「hamstringを仕掛ける」とあるんですが・・・。ファンタジーRPGファンならおなじみの「ハムストリング」、相手の腱を傷つけて歩けなくする、ローグ系の技としてよく描かれますが、どー考えても、外殻(外骨格)を有する「虫」に「腱」はないのでは・・・。剥き出しの関節をなんとかするべきでしょう。

 ギャスパードが、リエンヌに指図するとき、"Hex the bastard blind."と言ってますが、「あいつに目を見えなくする呪いをかけろ」ですよね。でも、ヴァーテラルには最初から目がないんですけど! んー。blindにはもちろん、目が見えない以外に色々な意味があって(べろんべろんに酔っぱらっている、もそう)、そっちかなあと思いつつも、あまり意味が通じないですね。リエンヌは以前グレーター・シルヴァン相手にも同じ(相手に致命的な暗示をかける)呪文を用いていた。「我を忘れさせる、狼狽させる」が近いのかな。

 また、ようやく気が付いたのは、ギャスパードがよく口にする、「メイカーも呪われる(呪いになられる)」化け物(だったり、このエルフの世界)。"Maker-damned"を愚直にそう訳していましたが、これ"god-damned"のことですね。あーっ、やっちまったよ! ガッデム・イット!(いや、そうじゃなくて!)
 後でこっそり直しておきます。 

 他にも小ネタは数えきれないくらい色々ありますが、ついに最終章。グチはまとめて終わってからやることにしましょう。

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