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2014年6月22日 (日)

The Masked Empire 14(4)

 十四章ラスト。

***

 振り返って大公を目にした瞬間、セリーンの世界は熱いものから冷たいものへと変わった。
 ギャスパードは彼女たちが用いたものと同じエルーヴィアンから出てきた。それは彼らの背後でまだ動いており、セリーンには、それが自分のルビーのせいか、ギャスパード自身がどうにかしてディーモンと取り引きを交わしたためかわからなかった。

 彼は部屋の端に立ち、その両脇にはリマッチェ卿と、灰色のサテンのローブに身を包み、柔らかい白色に輝く杖を手にした若い女性が立っている。彼らの後ろでは、エルーヴィアンを通って兵士たちがまだ現れ続けている。
 彼女たちは数の上で劣勢だ。それもひどく。ミシェルは誇り高く毅然とした風情を保っているが、疲弊しきっているに違いない。
 それでも、今しかない。ギャスパードの残りの兵たちが扉を通り抜けてしまえば、もう勝機はない。

 彼女は攻撃を命じるため口を開いたが、視界の隅の小さな動きが目に入った。ブリアラが、ほんのかすかに首を振っている。
「大公ギャスパード」とセリーンが澱みなく言った。「相変わらず驚きを与え続けてくださいますね。もっとも、もう少しだけ早く到着なされたなら、手を貸していただけたのですが」
「屍との戦いにか?」 ギャスパードがにやりと笑った。「助力を求められたら、名誉にかけて手助けしなければならんところであった。遅れてきたのが僥倖」

 セリーンは目立たない慎重な動きで退き、彼女とギャスパードの間に石棺を挟むようにするとともに、ブリアラの姿がより良く見える位置に立った。ブリアラは矢をつがえた弓を掲げてはいるが、まだ弦を引いてはいなかった。セリーンがちらりと見やると、ブリアラは小指で弓を叩いている。バードの技倆の訓練を受けていない者にとっては、だらしない戦士の神経質な仕草にしか見えない。
 バード同志の会話では、ブリアラの仕草は「連中がもっと近くに来るようにけしかけろ」を意味する。

 セリーンにはブリアラの意図が掴めなかったが、その仕草そのものが何か企てがあることを仄めかしており、セリーンは今それ以上知る必要はない。「いつまで分別のないことをお続けになるつもりですか、ギャスパード? この権力争いのため、あなたはどれだけ多くの命を投げ捨てたのでしょう? 『ゲーム』に従うことを拒否するあなたのせいで、これからどれだけ多くが死ぬことになるのでしょう?」

おぬしの『ゲーム』だ」とギャスパードが言った。「わしのではない。これからどれだけ多くがかと言えば・・・」 彼は肩をすくめ、にやりと笑った。「必要なら必要なだけだ。だがわしのほうが少ない」
 彼の確信はあまりに揺るぎない。彼女は足元をぐらつかせる必要があった。「そしてわたくしがあなたの求婚の申し出を受け入れたなら?」
 ギャスパードの笑いが消えた。「わしは真面目に申し込んだのだ、セリーン。だが今となっては、それもまたおぬしの別のゲームのひとつだ。言葉の戦いではおぬしに勝てん。決してな」 さらに多くの兵たちが彼の後ろにひしめき合い、彼は前に進み出た。
 セリーンがブリアラを見やると、彼女の符牒は「まだ」だった。

「言葉を操るのがそれだけ苦手というのなら」と彼女は言った。「オーレイの玉座は、あなたがお考えになるほど快適な場所ではないかもしれませんね。あなたは背伸びしすぎているのです。粗暴な戦士が、力いっぱい剣を振り回していれば、帝国の安全を守り続けるに足りると考えているだけ」 彼女はギャスパードの隣に立つ男を見た。「リマッチェ公爵、シェヴァリエでもないのに、次の大公の座が手に入ると妄想する者。そして・・・、若きレディ、リエンヌ・デ・モンツィマード」と彼女は言ったが、それは少女の面影から推測しただけであった。「あなたは、ギャスパードがサークルを配下に置いたその後でさえ、ひとりのアポステイトへ庇護を与えると信じている。将来の帝国の支配者たちは・・・」 セリーンは冷たく笑った。「女帝とチャンピオンが屍と戦う間、臆病にも扉の前で震えていたのでしょうね」

「そうだ、セリーン、それを戦術と呼ぶ」とギャスパードは言って、ため息をついた。セリーンはリマッチェが非難の言葉に怒り、リエンヌは何も気にせず肩をすくめているのを気に留めた。「おぬしがチャントリーに阿(おもね)り、廷臣どもと世辞を交わしている間、シェヴァリエがわしに教えてくれた高貴な発想だ。それでうまくいったのかね、ところで? テンプラーどもとメイジどもが、この栄光ある帝国を戦に引きずり込むことにならずに済んだのかね?」
あなたこそ、わたくしたちの栄えある帝国を戦に引きずりこんでいるのに、それを論争の種にしようとするのですか」

 セリーンは首を振り、その身振りの間に、ブリアラの片方の足のほんのかすかな仕草を見た。彼女は自分のダガー、この部屋の古代の罠を作動させる床板のところにまだ刺さったままのダガーを示している。それでようやく、セリーンも合点がいった。「そしてわたくしたちの国土が、フェラルデンやネヴァラによってさらに奪われたとき」と彼女は続けた。「そのときあなたは、決して戦うべきではなかった戦いに負けたことに腹を立て、自分の落ち度ではないと言い募るのは間違いありません」

 ギャスパードは睨み付けた。「だが、この戦はわしが勝つだろうな、セリーン」と彼は言って、さらに多くの兵たちが鏡を通って部屋に入ってきたため、また前に踏み出した。「弓兵、矢をつがえよ。おぬしらのかつての女帝がわしに忠誠を誓うと懇願するなら、彼女は生かす」 最後のひとりが鏡から歩み出た。セリーンが驚いたことには、それはデーリッシュの逗留地にいた若いエルフの癒し手であった。「鏡は?」

「私たちの後ろで閉じました」とエルフが言って、セリーンに冷ややかな視線を浴びせた。「でも、あの女が持つ宝石を手に入れれば、お望みのどのエルーヴィアンでも私が開けてみせましょう」
「今すぐ手に入れてやろう、セリーン?」 彼は微笑み、彼女が何も言わなかったので、視線を逸らすことなくギャスパードがこう告げた。「兵よ、彼女とその仲間が愚かにも戦おうとするなら、その場で殺せ」 そしてブリアラの方を見やった。「少なくともおぬしは、自分の民とともに埋められるわけだ」

「私が囚人の馬車に座っていたとき、あなたが私を何と呼んだか覚えていて、ギャスパード?」 ブリアラが尋ね、石棺からゆっくりと下に降りた。
 ギャスパードは片方の眉を吊り上げた。「わしに比べれば目に優しい、か?」
 地面に降りた途端、彼女は自分のダガーを蹴り飛ばした。
「違うわ。油断も隙もない奴、よ」

 彼女が石棺の影に飛び込んだとき、多くの矢が音を立てて彼女の脇を飛び去り、ブリアラは一本だけ自分の矢を放った。
 それは、弦を半分だけ引いて放たれた緩くてぐらついた一撃で、鎧を貫くことも、骨に突き刺さることもできなかったろう。
 だがそれは、ギャスパードの足元近くの床にある小さな圧力板を起動させるには十分だった。

 爆発の光と音響の中、焔の咆哮が宙を埋め尽くす。衝撃はセリーンを地面に押し倒し、耳なりを生み、さっきまで彼女が立っていた場所を焔が覆い尽くした。朦朧としたまま息を継ごうとした彼女は、爆発が彼女を押し倒したのではないことに気が付いた。それはミシェルで、彼は自分の身体を盾にして彼女を守っていた。彼が横転して身体を離し、何事もないように立ち上がったが、セリーンは彼の鎧から煙が上がっていることに気が付いた。

 ギャスパードとその兵たちが立っていた地面は黒焦げになっており、兵の多くは焼け焦げて床に転がり、新しい屍として古い屍の仲間入りをしていた。ギャスパード自身は、ミシェル同様にその鎧が焦げていたが、再び立ち上がったその顔つきは険しい。リマッチェは数ヤード離れたところで跪き、咳き込んでおり、リエンヌは静かに横たわったまま身動きしていなかったが、エルフの癒し手は、パチパチいう魔法のエナジーの輝きの中に守られながら、彼女を物珍しそうに見下ろしていた。

 彼らの後ろでは、全員が通過してきたエルーヴィアンに蜘蛛の巣のようなひび割れができ、その表面は鈍い灰色で、活力を失っていた。
「女帝のために!」 ミシェルが叫び、ギャスパードに打ちかかった。ギャスパードは盾を掲げた。ふたりのシェヴァリエが剣戟の音を鳴り響かせ、ミシェルが押すと、ギャスパードが後ずさりし、ミシェルの猛烈な攻撃を必死に盾で防いでいた。

 口舌を操るときは過ぎたようで、彼女自身としても、セリーンは誰かを殺す気構えができていた。
 ギャスパードの兵のひとりがよろよろと立ち上ると、躊躇することなくセリーンが駆け寄り、男の膝の裏を蹴り、喉を掻き切った。別の戦士はひどい火傷を負いながらも意識が確かで、自分の剣を手にしたが、その途端に喉を矢に貫かれ、言葉もなく崩れ落ちた。「サー・ミシェルに倣って、女帝のために」 再び立ち上がっていたブリアラが別の矢をつがえ、セリーンは彼女にかすかに微笑みかけた。 

 次に彼女は、なんとか立ち上がろうとしているリマッチェのほうに振り向いた。「あら、リマッチェ公爵」 セリーンは突きを入れ、彼ののろのろした剣を横にかわし、激しく襲い掛かって彼の頬骨のあたりに切り傷をつけた。「劇作家をお続けになるのは、本当に考え直した方がよろしくてよ」

「ミシェル」 冷たい憎悪を感じたセリーンが見やり、彼女はエルフの癒し手が、言葉を発しながら杖を掲げているのを見た。
 彼女の回りではエナジーが踊り、光が歪んでおり、セリーンは腹の中が不快に捻じれるような思いとともに、光の螺旋でできた巻きひげが、付近の死者の屍の回りに現れるのを見た。エナジーが屍からシューと音を立てて流れ、エルフの癒し手は身体の内側から照らされているかのように輝いた。

「ブリアラ、あのエルフ!」 セリーンはリマッチェから跳び退り、癒し手に向かって突進したが、リマッチェは横跳びして、二人の間に身体を割り込ませた。頬から滴る血の下の顔で唸り、彼はセリーンにでたらめに斬りつける。彼の技倆のせいではなく、その腕の長さのため、彼女は退くことを余儀なくされた。

 ギャスパードは盾に盾をぶつけてミシェルを押しやり、上段から斬りかかった。ミシェルは恐るべき速さでそれを払いのけ、踏み込むとギャスパードの片足に低い蹴りを見舞い、相手をよろめかせた。ミシェルは続いて大上段からの一撃を浴びせかけ、ギャスパードは盾でそれを受け止めるや否や、ミシェルの盾に続けて打ち付けられ、悲鳴を上げて後ずさった。

「ミシェル」とエルフの癒し手が言うと、彼女の声は部屋中にこだまし、今度はミシェルもそれを耳にした。「お前は私を殺すべきだった」
 彼女は、あたかも間の空気を包み込むように掲げた両手を硬くし、爪に変えた。 
 ミシェルの回りの空気がぶんと鳴り、セリーンのチャンピオンの回りを煙のようなエナジーのフィールドの輝きが取り囲んだ。それは彼の回りで塊りになり、ミシェルは叫びをあげながら無為に斬りかかった。彼は呻き、魔法の力と葛藤し、セリーンは彼の鎧が軋んで、ゆっくりした甲高い音を立てるのを耳にした。

 リマッチェは呆けたようになって、ミシェルを打ち砕こうとするその輝く魔法に、怖気を奮いながら見とれていた。セリーンは彼の横を駆け抜けた。「ブリアラ!」と彼女は叫び、部屋中の屍から引き出した白熱のエナジーのため光を発しているエルフの癒し手に打ちかかる。
 エルフのメイジの喉元から手のひらの幅ほどもないところで、セリーンの両手のダガーは、アーケインのエナジーの輝く障壁によって敢え無く逸らされた。一瞬後、ブリアラの矢も同じ障壁によって弾かれる。

 エルフはそれらに一瞥もくれなかった。彼女はミシェルだけを見つめており、彼は片膝をつき、彼女の魔法の押し潰す力に耐えている。
「お前は私の民を殺した!」と彼女は告げ、ミシェルが呻いた。「お前は、私が愛した者たちすべてを殺した!」

「おお、いいね、魔法の奥義の才能をお披露目し合う趣向か」 フェラッサンが告げ、外套からまだ煙をあげ続けながら、身体を起こした。「お次は私の番かな?」 彼が自分の杖を素早く回転させると、それはぶんぶんと唸るような音をたて、炸裂したその力の波動が波紋のように部屋中に広がった。
 それはセリーンの身体も過ぎり、部屋中が暗闇に包まれた。

 恐怖に見舞われる鼓動一回分の間、彼女は自分が盲目にされたのかと考えたが、エルーヴィアンの光が、破損した一つだけを除いて依然として部屋を取り巻いているのを目にした。さらに彼女は、跪いているミシェルの回りの蒼白い輝き、幽霊のような光が揺らぎ、まるで雨の中の白墨の絵のようにうっすらと無に帰していくのを見た。

 セリーンは、フェラッサンが何をしたのか気が付いた。彼は、回りのすべての魔法を消し去ったのだ。
 エルフの癒し手が悲鳴を上げ、セリーンは、エナジーの巻きひげがパチパチと音を立て、彼女が痛みに身体を捻じ曲げているのを見た。彼女の魔法すべてが、防御用の障壁も、付近の屍から絞り出した力がなんであれそれも、彼女の肌できしめいている。彼女の杖は地面に落ち、赤い光はくすんでいた。

 フェラッサンの杖は明滅し、再度光を発すると、部屋全体をさっきと同じ優しい輝きで洗い流した。エルフの癒し手は床に伏し、震え、他の者たちもしばし身動きしなかった。リマッチェは出血した顔を片手で抑えている。ブリアラは畏敬とともにフェラッサンを見つめ、ギャスパードでさえ次にどうすべきかわからない様子で、数歩退き、守りの構えのままひとりひとりを見回していた。ミシェルはまだ跪き、蒼白く汗まみれで、鎧は、危うく彼を圧殺しかけた幽霊の力によってできたへこみで台無しになっている。

 セリーンが驚いたことに、フェラッサン自身は得意げというよりも、心配げに見えた。
「強化された魔法消散は、身の回りをあまりに多くの魔法で取り囲んでいる者に対して、手ひどいしっぺ返しを与えることができる」 彼は沈黙に対して告げた。「そしてここにいる全てのメイジに聞いて欲しいのだが、これ以上、どでかい派手な魔法を、このヴェイルが非常に薄くなった部屋で用いるのはやめにしてもらえないだろうか、というのも、何かがこちら側に通り抜けて来る気になってしまってはいけないからな」 

 古代の石のたてる音が低く轟き、部屋の中にあるうちでもっとも大きな三つの石棺の蓋が、滑って開いた。

*** 

 色々書きたいけど、記事アップを優先します。

 

 

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