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2014年5月 1日 (木)

The Masked Empire 5(3)

 第五章の最後までと思ったが、長いし、中身濃いしで、もう一回分残りました・・・。

***

 その夜、女帝セリーンはひとり寝をした。ブリアラは毎晩寝室を訪れてきたわけではもちろんない。彼女の仕事柄、夜遅くまで活動するときもあるし、セリーンが他の貴族の邸宅を訪れるときにはふたり別々の寝室があてがわれた。
 だが、ブリアラが長く留守にするのは久方ぶりであった。

 彼女は毎朝夜明け前に目覚め、こごえて、ひとりで、まるでまんじりとして見れば全ての事柄が見えるかのように、窓の外の闇を見つめていた。メイジ、テンプラー、エルフ、さらにはギャスパードとリマッチェ、あるいはギャスパードに寝返った者たち。それらが宮廷の外にうごめき、彼女が寝ている毎夜徐々に近づき、彼女が過ちを犯して、つけ入る隙を与えるときを待っているのだ。

 毎朝、彼女は自分で茶を淹れ、頭痛が後頭部の微かな唸りになるくらいに納まるまで飲み、学者以外は見向きもしないような古書に読みふけった。
 二、三日の間は、口上を聴いたり、貢物を受け取ったりして静かに過ごした。ハラムシラルのエルフが暴動を起こしたとの報せがヴァル・ロヨーまで届くと、居合わせた貴族や廷臣たちはあきれて首を振り、ハラムシラルののぼせたエルフどもが、フェラルデンやオーレイの他の地域ではエイリアネイジで生活しなければならないのに比べて、どれだけ恵まれた暮らしを送っているか知らないことに腹を立てた。ピエール伯爵は、統治下の街の恥ずべき様子を謝罪する弁を伝えてよこし、程なく鎮圧すると言明したが、誰もそれでは満足しなかった。ヴァル・ロヨーの貴族たちが手を打つよう迫っても、セリーンはそれを丁重に聞き流し、ブリアラの旅が手短かに済むことを密かに願っていた。

 ブリアラの旅立ちから三日目、彼女は観劇のためグランド・ロヨー劇場に出向いたが、そこで事態がのっぴきならないところまで来ていることを目の当たりにすることになった。

 グランド・ロヨー劇場はおよそ二百年前に建立された。帝国中で最高の劇場であるとの評を受けているように、もっとも著名な演者たち、もっとも優れた劇作家たち、そしてもっとも贅沢な舞台装置と演劇効果の集大成であり、とりわけ一部の出し物の煙と炎の演出は、錬金術師の作りだした粉末からではなく、サークルから短期間借り出されたメイジたちが持前の才能から生み出したものであった。だが競争相手を絶えず凌駕してきたが故に、グランド・ロヨーはそのきわどい中傷含みの演目について、チャントリーと玉座の双方から注視を浴びることになった。狂気の皇帝レミールは、芝居が自らの統治への叛乱を誘発することを恐れ、言葉を用いないパントマイムのみに演目を制限したことがあり、セリーンの叔父である皇帝フロリアンは、オリージャンのフェラルデン支配を軽んじたたったひとつの芝居を不愉快に思い、あやうく劇場自体の閉鎖を命じるところであった。

 セリーンは、財政的にも政治的にも劇場を支援するように気を配ってきた。チャントリーの非難を退け、文字どおりにでも比喩的にでも彼女自身を題材とした芝居が上演される際には、時々に応じて笑い、喝采する姿を周囲に見せ、文化に明るい女帝は舞台の上でどう扱われようが意に介さないことを示した。その見返りとして、オーレイの劇作家たちは彼女を常に好意的に扱った。 

 彼女の箱馬車が表玄関の前で止まると、豪奢な巻絨毯が敷き延ばされ、最上級の貴族が観劇に現れることを知らしめた。馬車の外では、群衆が敬意を示して遠巻きにしている。

「ご指示を、陛下?」 ミシェルが尋ねた。ブリアラの手によってギャスパードの罠から救われて以来、彼は寡黙で用心深くなっており、自ら恥じているしくじりの分を取り返そうと努めていた。あるとき、ブリアラの助言もあって、彼はたどたどしく謝罪を試みたが、セリーンは即座に会話を遮って、この件についてサー・ミシェルを咎めるつもりがないことをはっきりと示した。
 チャンピオンが自信を喪失している暇など、今はないのだ。

「気を配って、いつもどおり」

 サー・ミシェルは頷き、外に出て振り返ると、彼女に手を差し伸べた。外では、馬車の外に乗っていた召使いたちが急いで絨毯の塵を払い、馬車から降りるセリーンのため庶民たちや下級貴族たちを押し戻していた。

 群衆たちの何かがおかしい。彼女は即座に気が付いた。お辞儀は当然しているものの、そのつぶやきが違う。サー・ミシェルに伴われて劇場の中に入るまで、召使たちが彼女のドレスの長い裾を支え持ち、群衆の臭いが女帝の気に障ることのないよう、薔薇の香水を彼女の行く手の空中に振りまく間、彼女はできうる限りの努力で、顔半分を覆うマスクの端から観察し、聞き耳を立てた。

「・・・彼女はいない・・・」
「ここには来ない・・・」 

 劇場の中では、家族が商売で蓄えた財産を上手に用いてグランド・ロヨー劇場の現在の所有者となった、丸々と太った女性のお辞儀を受けた。今宵彼女は、片側に笑い顔のマスク、もう片方に泣き顔のマスクの刺繍をあしらった、簡素だがお洒落なガウンを身に着け、商人用の分厚い化粧は女帝への敬意を示すため、真似しているとみなされるほどではなかったが、セリーンのそれとよく似させていた。だが彼女の化粧の下の顔には、懸念を示す皺が寄っていた。

 ブリアラが今ここにいてくれるなら、セリーンはどんなものでも差し出しただろう。彼女の侍女かつ愛人は、些細な観察から真実をまとめあげる才能にかけては彼女さえ上回っており、またセリーンが立ち入れない場所にも、召使いのマスクを用いて人目に触れず赴くことができる。劇場の所有者が皇室専用の貴賓席、セリーンと彼女の客人が舞台を見事に一望できる豪勢に飾り付けられた間仕切り席へセリーンを案内する間、彼女はいつもどおりに上品に微笑んでいた。

 セリーンの召使いのひとりが彼女のために茶を淹れ、別の者が紫色のヴェルヴェットのクッションをセリーンの座席にしつらえていたが、貴賓室がどれだけ見事に飾り付けられていようとも、結局女帝が座るのは木製のベンチに過ぎない。三人目の召使いは、汗と、塩漬けの食べ物と、劇場の煙の臭いが十分に消え去るまで薔薇の香水を空中に振りまいていた。

「今夜はワインをいただこうかしら」 彼女は、茶の入ったポットを手にしている召使いに向かって言った。
「畏まりました、輝けるお方」
「取りに行くついでに、マドモアゼル・アーチェットに、新しいカーテンについてわたくしからの賛辞を伝えて頂戴。それから・・・」 セリーンは考え込んだ様子で壁に掛った灯りを一瞥した。「他の娘を一緒に連れて、新しい蝋燭を見つけに行かせて頂戴。ここのはだいぶ減っているみたいだから」
「畏まりました、輝けるお方」 召使いが言って、連れと一緒に出ていった。

 蝋燭は減ってなどいないし、セリーンが観劇の席でワインを飲むことなど滅多にないが、彼女の召使いたちはどちらも十分承知している。さらに彼女たちは、群衆の声を聴き、丁重に質問をして、何が起きているのか確かめることをセリーンが欲していることも承知していた。もちろん、ブリアラの技量には娘たちの誰ひとり及びはしないが、オーレイの女帝の側に仕える者として、「ゲーム」の嗜みがないなどということはあり得ない。

 芝居はアンドラステの物語を恋物語に仕立てたものとの売り口上だったが、間もなく開演した。アンドラステは愛らしい若い金髪の女性が演じている。彼女はテヴィンターへの叛乱を熱狂的にはじめたが、セリーンにとってその演技は、知性よりも興奮が優っているように感じた。セリーンは、門外不出のものまで含めて史料の研究を続けてきていたが、アンドラステはチャントリーが描くような理想を追い求める信奉者というよりも、ずっと政略的であったと考えていた。そうでなければ戦に勝つことなどできなかった。

 扉を静かに叩く音に彼女は振り返った。ミシェルが立ち上がって扉を開け、セリーンのほうに振り返った。「ライデスのリマッチェ公爵です、陛下」
「お招きして、ミシェル」
 リマッチェ公爵は中に入るとお辞儀をした。「女帝陛下。ご観劇にお出ましと知り、厚かましい申し出でなければ、愚臣が拙くもご相伴差し上げることをお許しいただきたいと存じます」

 彼女は手首を優雅にひらめかせ、彼に座るよう促した。「あなたご自身の客人のご機嫌を損なわずに済むなら、歓迎いたします」

 彼は頷くと、彼女の隣の席に腰かけた。ミシェルは女帝専用の間仕切り席の後ろに静かに立っている。

「たとえテヴィンター・メイジが支配していようとも、魔法は跪いて仕えるにしくはなし!」

 舞台ではアンドラステが宣言している。
「変わったお芝居」 セリーンがつぶやいた。「恋物語か悲劇を予想したのですが、これは?」

 リマッチェが彼女をちらりと見た。「では、何だと思われます、陛下?」
「喜劇でしょうけど、グランド・ロヨーですら、アンドラステの生涯をそのように扱うことはいたしません」 セリーンは微笑んだ。「劇場に対する史上初めての『聖なる進軍』をもたらすかもしれません」
 リマッチェは静かに笑った。

 舞台では、アンドラステが叛乱軍に対してエルフとの同盟を訴えていた。「かかる魔法を前にして、いかにして自由を手にすることができようぞ? 我らの軍勢を並べてもまだ足りぬ! だが芳しき正義をひたすら口ずさむなら、エルフ来たりて我らの支えとならん・・・、一たびならず何度でも!」

 観衆はひきつったように笑い、そしてセリーンは、何百もの顔が彼女を見上げるためこちらに向いたため、眼下の闇が明るくなるさまを見た。

 シャルタン、アンドラステの古代テヴィンターとの戦いに与した物語、それがチャント・オヴ・ライトから抹消されてしまった異端のエルフの戦士が、舞台に登場した。
 彼は女性として配役されており、彼女はドレスを着ていて、滑稽なほど誇張した仕草で尻を振り、あまりに大きな木製の付け耳のせいで、ずっと後ろの席でも彼女がエルフであることがわかった。

 彼女がアンドラステの片手にキスをすると、観客が口笛を吹いた。
 セリーンは回りの世界が凍り付いたような気がした。彼女の首筋が固まり、身じろぎひとつしなかった。

 しばしの後、彼女は言った。「あなたの以前の申し出のことを、いつ持ち出そうかと考えていたのです、リマッチェ」
「敢えてお話すべきようなことは、なにも記憶にありませんが、陛下」 そう言う間、彼は舞台から目を離さず、劇を観て笑っていた。
「そう。観劇の楽しみを台無しにするわけにはまいりませんね」 セリーンは言った。「教えてくださる、良くご覧になるの?」
「自ら後援したものだけ」
「今日の劇はギャスパードが後援しているようですね」 下の観客が見て取れるような、いかなる表情も顔に出ないように努めてセリーンが言った。「羽根飾りで」

「ああ、私はシェヴァリエではありませんので、羽根飾りで突き合おうがどうしようが意に介しません」 リマッチェは、依然顔も向けずにそう言った。「ですが、ギャスパードはライデスの狩りについていたくご執心の様子であり、かたや陛下は、ただの責務としか考えておられない」

 舞台では、マフェラスが怒りのため手を振り回し、アンドラステとシャルタンがいちゃつき、じゃれあい、テヴィンターとの戦のことを完全に失念していると、たったひとりで非難している。 「治める者らの心が奴隷となり、エルフどもと浮かれ戯れて責務を忘れ、自ら戦うことも能わずというのなら、その心どうして貴いと、勇ましいといえようか?」

「もしかしたら」 セリーンは顔も向けずに言った。「マフェラスがアンドラステを裏切ることにより得難い犠牲となる、英雄になるのですね?」

「ああ、この版の脚本ですと、アンドラステはエルフの愛人のほうを選んで、義務を忘れたようですな、陛下」 リマッチェは間をあけた。「とはいえ、結末を言ってしまうのは興ざめになりかねません」
「結末ならひとつ存じています。劇作家は処刑されるでしょう」 セリーンが言った。「そしてあるいは、劇場の所有者も」

「公正を期すため申し添えるなら」とリマッチェ公爵が言った。「この上演直前の台本変更は劇場所有者にとっても驚きだったでしょう、というのも彼女の子息が姿を消し・・・、もっとも坊やは今夜遅く無事に見つかると思いますが」
「そしてわたくしが、あなたまで導く手がかりを見つけることは、リマッチェ?」
「ないでしょうな、陛下、ともあれ自ら後援した演劇が、いかれた異端者のせいで台無しになってしまったことを詫びるため、チャントリーには惜しみなく寄付させていただく所存です」

 セリーンは立ち上がった。「大公マフェラスに伝えていただきましょう、彼にも文芸のたしなみくらいあると思っていましたが、どうやらその賭けには負けたようです」
 サー・ミシェルが扉を開け、リマッチェを刺すような目つきで睨みつけ、セリーンは眼下の観衆の囁き声を無視して外に出た。

 ミシェルが後ろで扉を閉めるまで、彼女は気を強く持って耐えた。それから、ミシェルと他の召使いたちが通路の闇の中にいる以外、回りに誰もいないところで、頭を下げ、深く息を吸った。 

 気づいている。ああ、なんて奴ら、皆気づいている。

***

「剣戟ものか隠密ものを予想したのですが、これは?」

 んー。BioWareの"Jade Empire"(レイドロウのおっさんがリード・ライターのひとり)にも演劇ネタがあるし、Baldur's Gate、Neverwinter Nightsにもあった気がするし、以前からCRPGには頻出している。もちろん和製でもFFIX(だったかな)にもあった。

 あちらのライターは間違いなく、演劇の世界の素養が豊富。

 申し訳ない、実は疎いのです。
 舞台の上でのセリフの訳は勘弁してつかわさい。これでいっぱいいっぱい。思い切り「なんちゃって古語」になってるが、なんとか意味は通じるのか、やっぱ無理なのか。さらにリズムまで保つのは至難の業。後でしこしこ枝葉を剪定します。

 グランド・ロヨー劇場、原文は"the Grande Royeaux Theater"ですが、調べるとフランスでおそらくもっとも著名なボルドーの大劇場は、"Le Grand Théâtre de Bordeaux"。Grandeちゃいますね。どのみちGrandeは英語では固有名詞でもないかぎり「グランド」。

 アーチェット(Archet)は、仏:アルシェ。「マドモアゼル」はどーしようかと思ったが、前にレディはそのまま「レディ」とやっているので、そのまんまがいいかな。

 アンドラステの物語の「オリジナル」を知ってる前提で書いてあるので、 マフェラスがメイカーの花嫁である彼女の(現世の)旦那で、嫉妬に狂って裏切って(一説にはフレメスに誑かされて)、とかいう話を知らずに読めば、なんのこっちゃということになる。

 これ、暇があったらジーザスの伝説との比較で構造分析でもやると面白いよなあ、と思いつつ(ジーザスは神であり、かつ人。かたやアンドラステは人の妻であり、かつ神の妻)、できていない。 

 リマッチェについての感想は、また別途吐露します。本編に詳しい描写はない(つうかマスクを脱いだ場面がまだない)が、きっとすげえ美男なんだろうと想像している。

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