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2014年5月 6日 (火)

The Masked Empire 7(4)

 第七章は今回まで。

*** 

 ギャスパードは、ハラムシラルの石壁の内側に幕舎を設営するよう命じた。彼は鎧を身に着けたまま不快そうにして立ち、一人の召使いが彼の胸当てについた戦いの傷跡を拭い去り、くぼみには素材に色を似せて目立たないようになっているパテを当てていた。その作業は難儀で、ギャスパードが鎧を脱いでいれば楽なのだが、彼はいつ何時それが必要になるかわからないと考える一方で、その際には戦いの傷跡を見せず、高貴な姿でいたいと思っていた。その双方を満たすため、やむなくこうして作業をさせているのだった。 

 それが済むと、彼は召使いを退かせ、鎧を輝かせながら捕虜用のテントに向かった。ハラムシラルのスラムからあがる煙はもや状になり、朝の戦いの舞台のそこここからあがる荼毘の油っぽい黒煙がとってかわっていた。一般の捕虜はひとまとめにされ、武装を解除され、厳重に監視されている。ギャスパードの癒し手たちが、敵味方の別なく負傷者の治療に専念していた。

 ハラムシラルの戦い、捕虜用のテントの垂れ幕を跳ねあげて入る際、彼はそう言った。どう思われるか、卿よ。
 その名を付されることは避けたかったと言わざるを得ない。簡素な寝床に横たわり、軍医の治療を受けているピエール伯爵はそう答えた。鎧を脱がされ、肩と腹は血まみれの包帯で覆われている。肩は治りそうだが腹のほうは無理だ。

 テーブルの前に座って器から葡萄酒をすすっているリマッチェ公爵が微笑んだ。
 その気持ち十分わかる、領地ライデスでこのような騒ぎは御免であるし、大公閣下もヴァーチエルで戦うのは避けたいとお考えだろう。
 ギャスパードと異なり、リマッチェはすでに鎧を脱いでいたが、宮廷用の絹の服ではなく、少なくとも乗馬用の革服を身に着けていることで許容するしかないのだろう、とギャスパードは思った。

 ギャスパードが身振りで軍医を立ち去らせると、多勢に無勢で挑み、かつ善戦したピエールの武勇を称えた。女帝はお逃げになった、ピエールが咳き込み、たじろぎながら、荒い息で言った。そうだと告げたギャスパードは手負いの相手の側に片膝をつき、彼女のエルフ、メインセライを殺した女は、女帝の行き先を知らないと言っている、と告げた。
 メインセライの名を口にしたピエールの蒼白の顔がゆがんだ。彼がこの災厄を街にもたらした。叛乱と、殺戮と、焼き討ち。彼は苦笑を浮かべながら、そのエルフが始末してくれたことを感謝せなばならんと言った。

 ギャスパードは首を振り、責めるべきはピエール自身だと詰った。ピエールは目を見開き、身体を起こそうとし、侮辱を受けたからには、決闘を申し込む、と言った。
 ギャスパードは頭を下げて謝罪した。非難するつもりはなかったが、言葉を選び損ねたようだ。ピエールはエルフの叛乱を鎮圧できなかった。それは奴らに同情していたからに違いない、と続けた。
 メインセライは自業自得だ、とピエールが繰り返した。

 ギャスパードはため息をついた。そしてピエールに対する激しい糾弾を始めた。ピエールは、メインセライに対するエルフの怒りももっともだと思い、軍をもって叛乱を制圧する代わりに、自ら手を縛り、巡邏を増やすだけの措置で済ませ、やがて事が穏便に済むことを願った。まるで無様な乗り手が馬に飛び跳ね、噛み返すことを教えるように、エルフに戦うことを教えた。衛兵を襲ってもお咎めなしで、連中にスラムの外の不相応な生活を夢見させ、もしセリーンがその愛人に手枷を嵌め、街を焼き討ちにしなければ、ピエールはオーレイ中のナイフ耳どもに、我々貴族に立ち向かうことを教えていたことになる。

 街の損害がいかほどかおわかりか、とピエールが声を荒げて尋ねた。ピエールがどれだけの金貨を失うことになるか、セリーンがエルフの怒りをそのまま勝手に消えるまで放置しなかったせいで、どれだけの家族が飢えることになるかおわかりか。

 ギャスパードは微笑むと、それはともかく、セリーンの行き先はどこだ、と尋ねた。
 ピエールは、知らないし、知っていても教えないだろうと答えた。
 ふたりの後ろでリマッチェが立ち上がり、彼の舌を軽くする手口を使う知り合いがいる、と言った。

 ギャスパードは凍り付き、ゆっくりと振り返った。そして、ハラムシラルのピエール伯爵はオーレイの貴族であり、それにもまして自分の捕虜だ。そのような拷問は掟に反する、と言った。

 リマッチェは頷くと、もちろんそうだろうが、外の守りの検分でもしてこられたらどうか、二、三時間でも費やせば、その間に新しい情報が手に入っているだろう、と言った。
 いい加減にしろ、ギャスパードは立ち上がり、リマッチェに振り返った。シェヴァリエの掟に重きを置かないのは勝手だが、自分はそれを文字通りに解釈して、その精神を疎かにするような真似はしない。ピエールを拷問することはないし、リマッチェがそうすることを看過もしない。捕虜を守るためなら、自らの命を惜しまないし、あるいは、リマッチェの命さえも惜しまない。 

 リマッチェは謝罪し、ギャスパードはそれを受け入れた。そしてリマッチェに対し、幕舎に兵を集め、ハラムシラルの街全部を手際よく火の海にする方法を練るよう指図した。
 怪訝そうな様子のリマッチェは、承知したことを示す言葉以外発せず、一礼してその場を去った。 

 呼びかけるピエールのほうを向きもせず、セリーンは街の中にいるかもしれない、とギャスパードが言った。森に向かったという兵の報告は間違いかもしれず、ピエールが街へ続く隠し扉を教えたかもしれない。ヴァル・ロヨーに無数にあるように、ここハラムシラルに隠し隧道があってもおかしくはない。

 中にはいない、と言うピエールに、他に探す場所もないのだ、とギャスパードが返した。振り返って見ると、寝床のピエールの顔色は蝋のように蒼白く、灰色だった。軍医を呼ぶからしばらく休め、ギャスパードがそう告げた。

 街を焼かないでくれ、とピエールが静かに言った。すでにセリーンに一部は焼かせたのだから、その仕事を引き継いで何が悪い、とギャスパードが尋ねる。
 ピエールは目を閉じ、身体を横たえ、しばらく苦悶の顔つきを続けたが、やがて、ジェイダー、と言った。 

 レディ・セリルの女帝への忠誠は間違いないかと問われると、ピエールは目を閉じたまま、間違いない、それについて長きにわたり話し合ってきた、と答えた。セリーンにはハラムシラルが陥落したらジェイダーへ向かえと告げた。この街に辿りついていないなら、東のジェイダーに向かったはずだ。ギャスパードの攻撃が始まるや否や、ここから伝令が放たれたに違いない。
 ギャスパードは思案気に頷いた。レディ・セリルの「ゲーム」の腕前は巧妙で、ギャスパードは彼女の立場についてなんら確信を抱いていなかったが、ピエールの苦悶の告白は真実だ。

 ギャスパードが鋭い口笛を吹くと、灰色のローブを身に纏い、両手の指に指輪をつけた若い女性が現れた。背中には細い杖を背負っている。癒せ、腹が先だ、とギャスパードが命じた。
 言うまでもなく、閣下、と微笑んだ女性に、ギャスパードは図らずも微笑みを返した。
 女性が傍らに膝をつき、自分の身体を触りはじめると、ピエールは目を開き、怪訝そうな顔をした。冷たい白い光が彼女の両手を輝かせ、ピエールの傷を覆っていく。

 サークルを味方につけたのかと問われたギャスパードは、連中はまだ態度を明らかにしていないとほくそ笑み、この女性はモンツィマードの娘だ、と告げた。リエンヌ・モンツィマードと名乗った女性はピエールにお辞儀をした。モンツィマードは、メイジとテンプラーの間で戦いがはじまることを以前から読んでいた。そして魔法で召使いたちを悩ませ、馬を癒しはじめた自分の幼い娘が、それに巻き込まれないように覚悟を決めた。

 アポステイト。ピエールは横たえてある自分の両手をまるで穢れたもののように見た。それからギャスパードの方に顔を向け、テンプラーが知ればただでは済まないことを知らせるということは、間もなく自分も処刑される手はずなのだろう、と目を細めて言った。

 リエンヌと会わせた理由は、ピエールを治癒したそれと同じだ。ギャスパードは、リエンヌの邪魔にならないように回り込むと、ピエールの前に再び片膝をついた。そして、ピエールは今やギャスパードの手中にある、と告げた。

 自分の街を救うためにジェイダーを差し出したではないか、ピエールは歯ぎしりして言った。ギャスパードが歯を見せて笑った。
 ピエールが衛兵を攻撃するエルフどもを見逃したことから、ピエールのどこを突けば怯むのかがわかった。もしこの女性でなく軍医を呼んでいれば、ピエールの傷は三日もたなかっただろう。その後誰がハラムシラルを統治するのか知らないが、その者に対して街を焼くと脅しても相手は気にもかけず、小汚い農奴どもを生きたまま火焙りにしろと言うかもしれない。だがピエールは街を愛しており、その安全のためならどんなことでもする。そしてピエールには、ギャスパードがそれを知っていることがわかっている。

 ギャスパードは身体を離し、軽く笑いながらピエールの脚を叩いた。リエンヌが治療すれば、自分たち双方にとっても、小汚い農奴たちにとっても、良い結果を招く。
 閣下(My lord)、ピエールは悲しげにそう言って、目を閉じ、頷いた。
 今やその呼び名(我が主)の通り、ギャスパードはそう言って、立ち上がった。

 ギャスパードは捕虜用テントを後にして、手下たちがリマッチェと話し合っている大型テントに入ると、ジェイダー、と告げた。
 リマッチェは驚いた顔つきで、ピエールがセリーンの行き先を白状したのか、と尋ねた。
 要は尋ね方次第なのだ、そう言ったギャスパードは、すでにジェイダーへの行程を地図の上で確かめはじめている手の者たちに頷いた。セリルはセリーンについている。街から放たれた鳥を全て捕まえることはできなかったわけだ。
 鳥は捕まえていない、とサー・ボーリューが言った。
 ギャスパードは笑い、望むのは自由だ、と言った。セリルは準備しているし、フェラルデンの犬コロどもの半分が攻めて来ることを想定し、それでも持ちこたえるよう築かれた街を攻めるのは難儀な戦いになるだろう。
 街道封鎖が必要では、とサー・ラゲールが尋ねた。 

 ギャスパードは頷き、帝国街道を横切って森林の中まで広がる封鎖網の要所要所を地図で示すと、ウェイキング海沿岸からフロストバック山脈まで、自分が兵士の肩から降りずに渡れるように兵を配置しろ、と命じた。
 閣下を肩に乗せて女帝を追いかけるのは難しい、サー・ボーリューがにやっと笑う。
 では代わりにリマッチェを乗せろ、彼のほうが軽い。 ギャスパードは街の西についても封鎖を敷くように命じた。女帝がピエールを欺けるほど利口だったら、すでにヴァル・ロヨーに向かって逃げている。

 リマッチェが薄笑いを浮かべた。東ではセリーンがセリルの元に辿りつくのを防ぎ、ハラムシラルもライデスも押さえている。女帝は罠に落ちた。

 ギャスパードがしかめ面をした。女帝はこの二十年間、舞踏会と晩餐会だけで帝国を支配してきたわけではない。何週間か前、あの狩り場で従妹自身から投げつけられた言葉を思い出して言った。
 彼女が鎖に繋がれ、自分の前に引き出されたときはじめて、罠に落ちたと呼ぶことにする。

***

 第七章終了。 

 ギャスパードの「シェヴァリエの掟」は、リマッチェならずとも「伸縮自在、拡大解釈自由かよ」と思ってしまいますが、これ、独裁者の絶対条件なんですってね。
 自分だけにわかる(自分にしかわからない)ある基準があって、本人はそれに間違いなく従っているのだが、回りは途方に暮れて右往左往させられる。古今東西、独裁者にはそういう逸話の持ち主が非常に多い。

 「貴官らは、戦争経済を理解していない!」
 果たしてアドルフ・ヒトラーの戦争経済の理解がいかほどであったか、というか何を指してそう言っていたのか、だーれもわからない。 

 そもそも軍略家が「掟」とか「常道」とか持っちゃいけない。兵は詭道。すべては欺瞞、臨機応変です。そういう意味で、ギャスパードの行動が相手にさっぱり読めないのであれば、結果的に立派な軍略家ということでしょうか。

 ギャスパードの領地は、Verchiel、天使ヴェルキエルの名から来ているのでしょうが、英語でどう読むのか。ゲイブリエル(Gabriel)から予想してヴァーチエルということにしておきます。

 地図を見ると、ハラムシラルの西方、帝国街道(The Imperial Highway)沿いには順に、ライデス(Lydes)、ヴァーチエル(Verchiel)、モンツィマード(Montsimmard)と街が続いており、それぞれ悪の(つうか謀叛の)三貴族、リマッチェ公爵、ギャスパード大公、モンツィマード侯爵の領地。後からとってつけたんちゃうん、と思ってDAOのセダス地図を見るとちゃんとありますね。設定まであったのかどうかはともかく。

 ハラムシラルから東のジェイダー(Jader)までの間には、フロストバック山脈(Frostback Mountains)がウェイキング海(Waking Sea)沿岸手前までせり出してきて、海と山に挟まれた比較的狭い地域がある。そこに封鎖網を敷くつもりでしょう。

 最後近く、ギャスパードが「因幡の白兎」みたいなこと言ってます。原文はこう。

 "I want to be able to walk from the Waking Sea to the Frostbacks on their shoulders."

 いつも思い出すのが、The Hunt for Red October(1990)のこれ。USナショナル・セキュリティ・アドヴァイザー (国家安全保障問題担当大統領補佐官、ひどい訳だな)が駐米ソヴィエト(まだあった頃の話)大使に向かって放つセリフ。 

"Mr. Ambassador, you have nearly a hundred naval vessels operating in the North Atlantic right now. Your aircraft has dropped enough sonar buoys so that a man could walk from Greenland to Iceland to Scotland without getting his feet wet."

「ソヴィエト海軍の落とすソナー・ブイの数があんまり多いので、グリーンランドからアイスランドを通ってスコットランドに至るまで、足さえ濡らさず渡れる有様」 

 本物の外交が、こんなに面白いわけじゃないでしょうけどね。 

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