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2014年5月 6日 (火)

The Masked Empire 7(3)

 戦の場面はベタ訳でしたので、ここから少し端折ります(といっても手間は余分にかかる)。

 ***

 ブリアラがずきずきする頭で目覚めたのは、妙に心地よい囚人用の荷馬車の中だった。

 木の床が剥き出しで、外の様子や天候からも、ヒューマンの農奴たちが投げる石つぶてからも身を守れないふつうの檻馬車に比べればずっと居心地がよい。座席があり、そこには薄いとはいえ当て物まで付いていた。鉄柵の嵌った側の壁はカーテンで覆われ、薄い赤い布から朝の陽光が透けている。扉に取っ手こそないが、壁には小さな用足し用の壺までしつらえてある。手枷せがなければ、今まだハラムシラルまでの旅の途中だと夢想することもできた。重大かつ不要な惨劇を密かに阻止するセリーンお気に入りの侍女として。 

 燃える建物の臭いがし、昨夜あげた叫び声のためまだ傷む喉に煙が滲みる。彼女の鎧はシェヴァリエの手から逃れようとして膝をついた部分が擦り減っている。ミシェルに殴られたことをぼんやり思い出したが、それに痛めつける意図はなく、彼の顔には注意深い思慮が浮かんでいた。他のシェヴァリエたちは彼女の叫び声を真に受け、彼女の素性を知らない者たちがナイフ耳にいつも与えるような仕打ちをしただろう。ミシェルの一撃は慈悲深さを意味していた。
 彼の表情が、焼き討ちされた街に対しての態度を示していたかどうか思い出そうとしたが、傷む頭のため諦めた。 

 車内に伝わる地面の様子から考えて、馬車はハラムシラルの大通りを進んでいるらしかった。ギャスパードの打った手が手際よく済んでしまったのか、まだ始まってもいないのかもしれない。
 ギャスパードに企みがあったことは間違いない。セリーンは従兄より利口に立ち回れると考えてヴァル・ロヨーを留守にした。エルフの叛乱を鎮圧するに足る兵のみ伴っている自分が、恰好の餌食になりうることに思い至らなかった。ブリアラならそう警告しただろう。
 あるいは、まだ間に合うかもしれない。 

 両手は後ろ手に手枷せを嵌められ、不自然な恰好のためすでに傷んでいた。彼女は座席に腰掛け、御者との間を仕切る板を蹴った。
 しばしの後、小窓の覆いが横に開き、兵士の兜と鎖帷子を身に着け、灰色の髭を生やした男が顔を出し、何が望みだ、ウサギ、と尋ねた。

 彼女が水が欲しいと言うと、彼はそれが途方もない頼みであるかのように思案し、囚人には正午まで食事は出さない、と言った。
 彼女が何も言わずに見つめていると、彼は水の入った革袋を突き出した。手枷せのため受け取れない彼女は、仕切りにできるだけ顔を近付けて口を開けた。
 男は栓を開け、水を飲ませる間、何も言わず、笑いもしなかった。飲み終わった彼女が感謝の言葉を伝えた。

 丁重に取り扱えと命じられているが、ヴァル・ロヨーまで静かに戻りたかったら揉め事だけ起こすな、とぶっきらぼうに言って、男が小窓を閉めた。
 彼女は生ぬるい水を顎から垂らしながら、自分が間違っていたかもしれないと思った。ギャスパードは、セリーンのハラムシラル行軍に本当に驚き、待ち伏せすら準備していなかったのかもしれない。ハラムシラルのエルフの血を流すことなく、外交と政治だけで勝利しようとしているのかもしれない。セリーンを直接攻撃して謀叛を起こす度胸がなかっただけかもしれない。
 だがギャスパードのことを良く知るブリアラが、度胸がない、などと形容することは決してない。

 脅威は本物だが、問題は警告を発すべきかどうかだ。 
 この街で起きたことに関わらず、彼女の忠誠を示すことはできるが、実際それがなんだというのだろう。忠誠を疑われたことなど今までなかったし、おかげで囚人の身分で手厚い扱いを受けている。
 セリーンのことは間違いなく愛しているし、ギャスパードより彼女のほうがオーレイのエルフにとってより良い支配者であることも間違いない。
 だが彼女は、燃えるスラムの煙の臭いを拭い去れないでいた。

 再び仕切り板を蹴るつもりだった彼女が、しばらくそうしないでいるうちに、周りから警告の叫びが湧き上がった。
 何百もの矢が飛んでくる音がして、人や馬の断末魔の叫び声が聴こえた。女帝を守れとの指示の声と、地響きのような蹄の音が鳴り渡り、金属が衝突する音で馬車が揺れた。

 騒音は耳をつんざかんばかりで、剣戟の大音声に、外で死んでいく者たちの叫び声や悲鳴が時折混ざった。目を閉じても助けにならない。馬車に沢山の矢が突き刺さる音に続き、すぐ近くで何かが砕けるような鋭い音がしたので目を開けると、一本の矢がカーテンを切り裂き、彼女の片足から何インチも離れていないところに深々と突き刺さっている。彼女は目を開けたままにしておくことにした。

 馬車が急に停止して激しく揺れ、馬がいななく。ブリアラの守衛が叫び、馬車がまた突然動き出すと、ブリアラは座席の上に伏せ、両肩と両脚をそれぞれ向き合った壁に突っ張り、自分がカップの中の小石のように翻弄されることを防いだ。
 馬車の横に並び掛ける蹄の音がして、御者席からの叫び声が金属のぶつかる音で途切れた。しばしの後、馬車が突然停止し、ブリアラは座席から転げ落ちた。

 くらくらする頭で床に伏せている彼女の回りで、戦闘の音は続いていた。人が叫び、死んでいき、馬が駆け去り、馬車が震動した。
 いつまで続くのかわからなかったし、馬車が揺れていて考えることもできなかった。やがて戦闘の音が済むまで、彼女は精一杯身体を丸め、歯を食いしばって耐え忍んだ。

 誰かが正式に終わりを告げたわけではないが、戦いの音声より、命令を出す声のほうが大きく聞こえてくると、彼女は座席に座り直した。聞こえてくる数々の指示は、負傷者の手当てや乗り手のない馬の措置を命じるもので、まるでヴァル・ロヨーのシャトレインが大して大事でもない舞踏会の準備を指図するときのように、世を儚むような一貫性があった。

 馬車の中の囚人のことを尋ねられた兵が、セリーンのエルフです、閣下、と答えるのを耳にして、ブリアラは目を開けた。
 大公ギャスパードが馬車の扉を開けた。マスクを身に着けておらず、兜も脱いでいたが、彼女は彼の素顔を以前から知っていた。男の髪は汗で撫でつけられ、顔は先ほどまでの戦いのため紅潮しており、鎧にはいくつもへこみや擦れた跡が残され、手の者に戦わせて自分は高みの見物を決め込んでいたわけではないことを示していた。 

 ブリアラが、大公の鎧にシャロンズの紋章がないことを指摘し、自らの行いを正当化するため、いずれシェヴァリエの掟を潜り抜ける手口を編み出すだろうと思っていたと告げる。大公は、セリーンの侍女であるブリアラのことを覚えていると言った。そしてそのときはマスクも、もちろん鎧も身に着けていない姿だったと付け加えた。

 もちろん、とブリアラが丁寧にお辞儀をすると、大公は笑い、正当化などいかようにでもできる、それが名誉を守るためか、堕落を阻止するためであれば、と言って身を乗り出し、青く輝くシルヴァライトの小手を着けた片手でブリアラを指さした。そしてエルフと結託する狂える女帝を阻止するためならば、と言い添えた。

 大公は仲間の貴族に嘘をついたわけだ、とブリアラが指摘すると、大公は、自分の言葉には十分なくらい真実が含まれていると言い返す。セリーンの大学を卒業した貴族の子弟たちはエイリアネイジの待遇改善を口にし、教授たちはエルフどもにも教えるよう要求されている。貧しい商人たちは税を払わずすり抜けている。そして、デーリッシュからエルフどもを追い出す遠征軍の編成を進言して、かわりにダークスポーンの掃討を命じられたことが、今まで何度あったことか。

 三度だ、とブリアラが薄笑いを浮かべて言うと、ギャスパードは感心して首を振った。
 ひとりの取るにたらないエルフが女帝の振り付けをしている。であれば自分のついた唯一の嘘は、エルフが寝室の愛技で女帝を操っているという部分だけに違いない。
 ブリアラは息をのみ、冷笑で動揺を隠そうとしたが、他に山ほどある欠点はともかく、ギャスパードは目敏い男だった。

 まぐれ当たりか、と彼はまるで射られたかのようにのけぞり、それから哄笑した。自分との婚儀も拒否するはずだと言って、馬車の壁を本当に叩いていた。ブリアラは紅潮しているのが自分でもわかったが、両手に手枷を嵌められてはいても、できるだけ姿勢を正していた。再び彼女のほうを見たギャスパードは涙を拭きながら、女帝は誇りと理想が高すぎるのだと思っていたが、単に男を相手にしないだけだった、ダークスポーンを狩る際にシルヴァライトを手にするべきところ、自分は間違えてコールドアイアンを振り回していたと言った。
 ブリアラは眉を吊り上げて、自分がシルヴァライトに喩えられたのかと問う。彼は、自分に比べれば目には優しいのだろう、ウサギ、と返した。

 ギャスパードは噂を広め、叛乱が尻すぼみになるのを待つかわりに、女帝が鎮圧せざるを得なくなるよう仕向け、かつ彼女自身が光臨するに違いないと読んで罠を仕掛けた。ブリアラの分析を聞いてギャスパードの笑いが消えた。ようやく今思いついたわけでもない口ぶりだが、なぜ警告しなかった。ブリアラは御者が先刻顔を出した間仕切りを見つめ、手遅れになるまで気が付かなかったと答えた。それが本当であれば、多くのシェヴァリエの命が救われただろうに残念なことだ、と疑わし気に彼が言った。ハラムシラルの命を救うことにかけては精一杯やったが、どうやらしくじったようだ、とブリアラが返す。 

 セリーンが出てくると読んで大公が罠を仕掛けるつもりであったことに、ブリアラが気が付いていたとしても、責めるべきは罠を仕掛けた方ではなく、のこのこ飛び込んできた方だろう、と大公が指摘する。大公に期待することは何もなかった、ブリアラがそう言うと、だが女帝には期待していた、と彼が言い返す。ゆっくり時間をかけ、彼女がエルフの民のため尽力するよう仕向けたが、そのうちどこまでが自分で、どこまでがセリーンの考えであるか忘れかけた。だが彼女はあくまでオーレイの女帝であり、エルフのことなど歯牙にもかけない。必要なら帝国中のエルフどもを皆殺しにするだろう。

 嘘だ、と言ってブリアラは彼を睨みつけた。その声は震えていた。
 どうやら自分は、自分が思っているほど嘘はついていないようだ、ギャスパードが歯を見せてにやりと笑い、身体を引いて扉を閉めた。彼は鉄格子の嵌った窓から、ヴァル・ロヨーに戻り、そこでセリーンと盟友たちの抵抗を打ち砕くために有益な情報を語ったなら、無事快適に過ごせるだろう、と言った。

 そのために来たのか、と問いかけると、貴族の大男が一瞬黙り込み、ブリアラはひとときだけ溜飲を下げた。先ほど彼女の声に潜ませた震えを弱さと受け取り、相手はまんまと嵌ったようだ。大勝利の後間もなく、ナイフ耳の召使いにわざわざ会いに来たのは不思議に思っていた、と彼女は続けた。

 セリーンにとって大変重要なナイフ耳の召使いに会いに来たのだ、ギャスパードはくっくっと笑った。 
 であれば、まだ彼女を仕留めていない。ブリアラがとどめを刺した。大公は、セリーンとその盟友と言った。彼女が自分に何かを話したのか知りたがっている。今彼女がどこに向かっているか知りたがっている。なぜなら待ち伏せを仕掛けたにも関わらず、彼女を捕えることができなかったから。迅速かつ正確な攻撃で帝国を奪取するつもりだったが、降伏宣言か死骸でもなければそれもかなわず、しかもそのどちらもまだ手に入れていない。

 二人の間に沈黙が流れた。
 油断も隙もない奴、とギャスパードが言い、思案気に唇を結び、窓から遠ざかった。そして近くの手の者に、見張りをつけて誰も話しかけさせるな、と命じた。

 彼が遠ざかり、兵たちが負傷者の手当てに戻る音を聴き、ブリアラはフェラッサンも捕まっていないことを思い出した。セリーンも逃げている。彼女にはいくつか選ぶ道がある。

 だが、その考えに彼女は思わず凍り付きそうになった。セリーンは戦いで死んでいるのかもしれないのだ。いくつかの出来事の連鎖はある可能性を封じ、別の可能性に道を開く。セリーンは逃げ延び、依然帝国の指揮を執っているかもしれない。だがそれはエルフの叛乱軍を焼き討ちにした女。ブリアラが警告を伝えそびれた女。

 セリーンが戦場で死んでいたらことはずっと簡単だった。ブリアラは喪に服し、ブリアラの民を沢山殺した女を悼むことに罪を感じるだろうが、だがその後何が起きようとも、どれも単純なことだっただろう。
 だが単純なことはいつでもできる。願わくば、フェラッサンが今どこにいようとも、きっと同じようにしていると信じたい。

 目を閉じると、ブリアラは矢を引っ張った。さっきまでギャスパードの視界に入らないよう隠していたのだ。座席の後ろからそれを引き抜き、手枷せの細工に取り掛かった。

*** 

 シルヴァライト(Silverite)は、DAOかDA2を遊んだ方ならご存知、架空の金属。蒼白く輝き、錆びないとされ、毒除けに用いられるとの説話もある。単結晶なのか、複数金属の合金のつもりなのか、そこら辺はうやむや。
 錆びず、軽く、希少で(だから高価で)、正しく加工すれば十分固いというのは、要するに「指輪物語」のミスリル(mithril)、それをパクったDnDのミスラル(mithral)のこと。ミスラルのほうは銀の合金とされている。
 

 さて、珍しく薀蓄コーナーッ!(いや上がすでにそうだし、いつもやってんじゃねえの!)

 ここでウィークス氏は筆が滑ったふりをして、コールドアイアン(Cold Iron)を持ち出してきた。 DAシリーズではAwakiningにルーンの素材の形で登場しているのを記憶されているだろうか。だが特別な説明はなかった。ルーンの性能はアンデッドに効果的とされているが、別段ダークスポーンに通用しないわけでもないし、シルヴァライトがダークスポーンに効果的でもない。

 実はコールドアイアンは、(少なくとも3.x版までの)DnD世界では、通常の武器ではかすり傷さえ与えることのできないディーモン(Demons、DnDでは悪魔族の一種)を打ち破れる特殊な金属。一方デヴィル(Devils、悪魔族の別の一種)を打ち破れるのは、アルケミカル・シルヴァー(alchemical silver、錬金術を施した銀)。どちらも希少品扱い。ウィークス氏は、ここらを暗に仄めかしていると見たがどうか。

 ヴァンパイアやウェアウルフは銀の武器(弾丸)でしかとどめを刺せない、というのは銀細工商人が広告宣伝ではじめた騙りか、銀のもつ毒を検知する性質(砒素に反応する)が神秘性を生んだのか。

 ご承知のとおり銀はもろい(鉄も、正しく加工しなければかなりもろい)。人を斬るだけならともかく、わけわからんイミューニティ(完全防護)を持つ敵に対しては、ドワーフやら錬金術師やらが奥義を駆使して強化して、はじめて実用の武器となりうる。
(鉄が素材として優れているのは遍在性、加工性のみならず、銅と並んで再生利用が非常に容易であることも重要。銀などの貴金属の再生利用はうまみがあればやるけど、専門性が高いうえにお金がかかりますからね)

 会話部分は、ほんとーにベタ訳が楽。そして(比較的日本語で好き勝手遊べるから)楽しい。つらいのは一人称選びくらいで、ギャスパードの「わし」はいまだに違ったかと思っている。

 ですが全部そうやると本来の趣旨からはずれるので、一応主要キャラクターごとの「見せ場」だけに限定しようとしています。残念ながら、ここはブリアラにとってもギャスパードにとっても大事な見せ場ではないと判断。そして二人とも、他に山ほど出番がある(これからもありそう)。

 ただ、物語としては(まだ先の話をネタバレするつもりはなく、ここまでの展開からの推理でわかるように)、ふたりの直接対決は、この後せいぜい一回か二回あるかないか、と読めますよね。それを考えると、もしかしたら最後までやってみてから、戻ってきてベタ訳にやり直す場面かもしれない。

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