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2014年5月 5日 (月)

The Masked Empire 7(1)

 戦(いくさ)です、ついに。

***

 第七章

 敵の視認から完全に外れた離れた木立ちの中、弓兵の射撃開始を見たギャスパードがほくそ笑んだ。

 横にはリマッチェ公爵が、乗馬の色と似せた色に塗られたシルヴァライト製のフルプレートの鎧を身に着け、馬の側に静かに立っている。「シェヴァリエの掟が、このような戦術を許すとは驚きです」
「わしらは名誉ある戦いのため訓練されているのだ、リマッチェ、愚かな戦いのためではない」 矢の雨がセリーンの混乱した隊列を刈り倒していく。兵たちは長い行軍と醜悪な屠殺で疲弊困憊しており、その盾を掲げるのが心臓の鼓動何回分か遅れ、一瞬の後には、断末魔の叫び声が戦場中を覆った。「掟はわしらを栄光の道に導くもの。戦術を制約するものではない。違いがわかるか?」
「腑に落ちるというわけには、大公閣下」 リマッチェは召使いの用意した踏み台を無視して、自ら鞍に跨る。「ですが、シェヴァリエとして訓練を受けたわけではございませんので」

 ギャスパードも馬に跨った。彼の鎧もリマッチェのもの同様に煌めいていたが、その塗装は剥がされ、シルヴァライトの表面が剥き出しとなっている。「わしはセリーンを暗殺するわけではない」 彼は言って、鞍に落ち着いた。「毒殺するわけでも、自ら遠く安全な場所にいて、どこぞの農奴に弩で射殺(いころ)させるわけでもない」
「ところが、女帝に対する謀叛の軍を導くことはする」 

 ふたたび矢の雨が空を覆う。セリーンの哀れな兵たちは、依然として守りの陣形をとろうと苦心している。
 ギャスパードが間を置いて顔を向けた。「幾分不躾に聞こえるぞ、わしの側らにおるにしてはな、リマッチェ」
「それもまた、大公閣下」 リマッチェは言った。「単に掟に関する好奇心からのもの」
「貴公、シェヴァリエをあまり好いておらんのだろう?」 ギャスパードが尋ねた。 リマッチェが答えを返さずにいると、ギャスパードはため息をついた。「シェヴァリエから直に挑戦を受けたのなら、わしは何の躊躇もせん。上官からの命令なくして退却もせねば、帝国の名において公式に裁くのでもない限り、戦の外で貴族の男女を手にかけることもせん。そして、セリーンと戦う際には、当家の紋章を身に着けることもせん」 

「奇妙だと思っておりました」 リマッチェはギャスパードの素地剥き出しの鎧のほうを身振りで示した。
「わが家の色を纏ったまま女帝に背くのは、シャロンズ家の名折れとなる」 ギャスパードが言った。「わしがここでしくじった場合、わが家にわしの行いの累が及ぶことがあってはならない。女帝に異を唱える権利は、ひとえに帝国の血脈を継ぐ一人、大公としての身分にのみ拠るのだ。それ以外の階位は、今日この戦場で勝ち取るだけだ」

「もしここでしくじれば、セリーンが閣下の鎧の様子に鑑みて、一族縁者への沙汰を定めるとは思えませんが」 リマッチェが微笑みながら言った。
 ギャスパードはにやりと笑った。「たしかに。ありがたいことに、しくじるつもりで策を練ったわけではない」

 彼は木々の間から、彼の残りの馬上の兵たちが待機しているところを見た。そこには、シェヴァリエたちも、リマッチェのようなただの貴族たちも、さらには正式には貴族と呼べない軽装の兵士たちも含まれている。「策と言えばところで、連中は前進しているのではないか?」

「そのとおりです!」 木々の上に登っている偵察のひとりが叫んだ。
「いいだろう。女帝を守るため前に出てきおった」 ギャスパードは片手を伸ばし、差し出された槍を手にした。

「街に退却すればいいものを」 リマッチェは首を振り、兜の面頬を下げた。
「セリーンは先頭近くにおるのだ」 ギャスパードがほくそ笑んだ。「女帝が斃れようというのに、自分の身の安全のため退却するシェヴァリエはおらん。そして叩かれるしかなくなるというわけだ」 彼は鐙(あぶみ)の上で立ち上がった。「突撃!」

 命令が隊列に次々と伝わった。ギャスパードは面頬を下げ、鞍に腰を落とし、拍車で馬を蹴った。

 その騒音にはいつも驚かされる。神経を集中すると 世界全部が前方の敵の戦線とその間の草原だけに縮んだかのようで、数百の彼の兵たちが彼の側らでその乗馬を駆り立てていることさえ、ぼんやりとしか意識の中に入ってこない。だがその騒音、蹄の連打する音や鎧の鳴る音が周囲を被い、地面から彼の身体の骨まで伝わり、自らの息遣いですら兜の中でこだましている。彼はその戦いの大音声を聴きながら、乗馬のリズムに身を委ね、その足並を感じ、敵の前線までの距離を覗い、時を計り、それから完璧な激突の瞬間に飛び込んでいくのだった。

 その激突の衝撃は、目前の敵が不器用に構えた盾を弾き飛ばし、その胸当てを貫いた。必殺の一撃だ、ギャスパードは満足げに独り言ちた。そのまま戦いのただ中で押しつぶされなくとも、その男は血の泡を吐くまで天幕の中に置き去りにされ、腕の良い軍医が息の根を止めるしかないだろう。
 その思いを巡らしたのも鼓動一回分の間だけで、ギャスパードは敵の戦線を突破するため、槍の代わりに剣を手にし、乗馬の速度を緩めることなく、また剣を弾き飛ばされることのないよう、強く短い振りを激しく繰り出し続けた。盾に一撃を受けても、そのまま馬を駆け続けさせ、肩甲を別の一撃がかすったが、そこで敵の戦線の後ろに出た。 

 彼は周囲が開けたと見るや即座に馬を止め、その巨獣の向きを変えた。セリーンの軍勢は、全力で退却すべきか、槍ぶすまを築くべきか決めきれずにおり、その結果、どちらもうまく行っていなかった。ギャスパードの近くにいた味方の兵たちはセリーンの戦線に大きな穴を穿いており、両側面を進んだ兵たちは、彼の指図どおり、突破する代わりに馬を止めている。
 中央部分は大混乱で、女帝は両側面から挟撃を受ける形になった。

 ギャスパードは、リマッチェが鮮やかな手並みで歩兵の一人を斬り倒すところを見た。男の筋はいい。シェヴァリエとしても通用しただろうが、その戦術について、つくり話を真に受けたような誤解をしているのが残念だ。

 哄笑をあげると、ギャスパードは乗馬を駆け出させ、屠殺の混乱の中に再び飛び込んでいった。

*** 

 当初、次の場面も一緒にやってしまおうと思ったのですが、やっぱ戦闘シーンは(ウォーゲーマーあがりとして、個人的に専門分野(!)でもあり)下手に省略しないで、ちゃんとやろう。できているので次もすぐアップします。

 「家の色」には苦労した。原文はfamily colorsとなっているのですが、それで検索すると「おうちで遊ぶぬりえ」、「お絵かき」が出る(笑)。family coloringというらしい。

 いわゆる禁色(きんじき。意味を勘違いしないように)は、王朝ごとに定められていた大陸国、日本の律令制下のみならず、ロイヤル・ファミリー以外使用禁止の禁色は多くの国にもあったのでしょう。エイジアですとタイ王国なんかが有名かな。
(日本ではだいぶ緩和されましたが、天皇陛下、皇太子殿下のみ着用可能な禁色はいまだに存在するとのこと)

 もちろん日本の家紋(紋所)、西欧の紋章(Coat of Arms)はありました。というか個人(家系)特定、代々世襲、排他性などを満たす厳密な定義では、日本と西欧にしかなかったという説もあるようだが本当だろうか。

 ところが「家の色」ってのは見つからない。紋章にカラフルな色が用いられるのは、戦場で敵味方を識別するため、あるはフルフェイス・甲冑姿の騎士が何者であるかを示すためですから、あんまりたくさん色を禁止しちゃうと問題が生じる。ご承知のとおり西欧ではもともと盾の装飾に用いられた。
 そもそもロイヤル・カラー以外にあったのかどうか定かではない。アメリカンの「カレッジ・カラー」やプロスポーツの「チーム・カラー」のノリで言ってるだけかもしれない。

 現代であれば色彩はおおむね標準化されているので、コードなどから再現可能でしょうが、紋章をつけた騎士たちが戦場を闊歩していた時代はそれもかなわず、かつ染料・染色の技術水準自体に信頼性の問題があるので、(天才的な才能で色彩を正確に記憶できる者以外)実際に現物を比べるしかなかったはず。

 マーク・トウェインの「アーサー王朝のコネチカット・ヤンキー」という小説には、騎士の盾や馬飾りの紋章の代わりに、職人や商人などスポンサーの宣伝広告(PR)を描くというネタがあって笑っちゃうのですが、現代社会のF1レーシングなどでやっていることと何も違わない。つうかF1レーシングが騎士同志の馬上試合やトーナメントと何も違わないということか。

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コメント

西洋の紋章の色は厳密に決められてて、ご指摘の通り染料の問題から白黒の点と線の組み合わせで色を表現することも多かったようです。ティンクチャーてやつですね。
日本では源氏の白と平家の赤みたいなものじゃないですかね。あとは赤備えとか。

 紋章の画像(もちろん現代まで伝承されたか、再現されたもの)など眺めていると、実は現代メディア作品が再現するリアリティ重視の色彩感覚は間違い(悪しき進歩主義の産物)で、中世はずっとド派手だったのではないか、なんて思ったりしますね。
 「暗黒時代」という言葉に引きずられているのかも。

 日本の禁色もその発色の素材なり工程なりが「お金かかりすぎるからお前ら禁止」という理由は腑に落ちる。そういうところの蓄財から謀叛とかはじまりそう。逆に言えば、少なくとも貴族は、こぞってお洒落したかったんじゃないでしょうか。

 赤備え、乗機なんでも赤に塗っちゃう大佐の発想のもとですね。
 ふと思い出して、黒母衣(くろほろ)隊(衆)は黒一色だと思ってみたらなぜか鮮やかな赤。と思ったら、赤母衣衆もいた。
 菊池寛の短編「形」では、猩々緋の服折(陣羽織)。
 赤が出しやすかったのかな。調べてるときりがない。

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