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2014年5月 4日 (日)

The Masked Empire 6(1)

 物語の舞台は、ヴァル・ロヨーからハラムシラルへ。

***

第六章

 スレンは、友人だったレメットがシェムレンのクソ野郎に殺されてからの日々、盗賊たちから多くを学んだ。

 第一に、恐れていたほとんどの法は、笑えるくらい容易に無視できること。ハラムシラルのエルフは、手のひら以上の長さの刃物を持ち歩くことを禁じられていたが、盗賊ギルドの半数の者が腰にこれ見よがしに剣をぶらさげており、それを咎めて戦いを始める勇気のある衛兵などいなかった。

 第二に、自らの革職人としての技倆が高い尊敬を集めること。盗んだくず革からスリングを作り、それ以外武器を持たない者たちに配る。盗賊たちは弓の矢や弩の矢を手に入れることは難しかったが、石つぶてまで禁じることはシェム公どもにもできない。スレンはさらに、叛乱エルフたちに生皮の鞣し(なめし)方や、胸当てや脛当てを作る方法を教えた。見かけはともかく、それで剣や矢から身を守ることはできる。

 第三に彼が学んだのは、自分でも驚いたことに、ヒューマン殺しを自分が心底楽しんでいること。 

 交易商の広場にその馬車が到着したのは日没直後だった。そこは主として職人たちと、食糧を取扱う商人たちが用いる市場で、ハラムシラルの高地の市場ほど洒落てはいなかったが、エルフのスラムにあるものよりは小奇麗だった。広場の周囲には、ドラゴンとシェヴァリエが明るい色で描かれた簡素な麻布が何枚も掛っており、中央にはバードや他の芸人たちが小銭を稼げる舞台があった。 

 ヒューマンの衛兵たちは馬車を検査すると、いそいで荷降ろしをするよう命じた。薄汚いエルフどもは夜活動するし、かつて安全だった地区でも今は危ない。
 広場を見下ろす屋根の上からその様子を観察していたスレンは、レメットが救おうとして命を落とした遣い走りのほうに合図を送った。男の子はにやりと笑った顔を返すと、脱兎のごとく駆け去った。 

 スレンは百まで数えて立ち上がり、スリングに石つぶてを落とし、振り回し、放った。広場を超えてからは石の行方を見失ったが、鎖帷子に石が当たる音とともに、ひとりの衛兵が肩を抑えてよろめくのが見えた。

 それに続いて沢山の石つぶてが、まるであられのように広場中から降り注ぎ、石畳、鎧、素肌に当たって騒音を立てはじめると、商人たちは喚きながら逃げ惑り、弩を構えた衛兵たちは黄昏の中の的に狙いをつけようと、目を凝らして周囲を見回した。馬たちは飛び跳ね、嘶きはじめ、そのまま駆けださないように御者が苦心して抑えつけていた。スレンの二弾目は、放った途端に大きく的から逸れたことが自分でもわかった。

 鋭い音がスレンの耳元で響き、弩の矢が彼の顔のすぐ横をかすめて後ろの建物の壁に当たる音がした。数週間前のスレンだったら、恐怖のあまり地面に伏して怯えていただろう。今夜は、野生剥き出しの笑い顔になっただけだ。一瞬の後、彼を狙った衛兵は顔から血を流して膝から崩れ落ちた。 

 広場から人影はほとんど消えた。倒れている衛兵たちは死んでいなければ朦朧としており、彼らの援軍が到着するまでには、まだわずかながら貴重な時間がある。盗賊の一人が命令を叫び、スレンも屋根の端にぶら下がって広場の地面に飛び降りたが、不恰好に足首をひねってしまった。悪態をつきながら立ち上がると、仲間たちを追いかけて走り出した。スリングは腰帯に戻し、今はナイフを手にしている。 

 頭から血を流して膝をつき、自分には家族がいると命乞いする商人に近づくと、スレンはその男の喉を掻き切り、仲間たちににやりと笑った。先ほど彼を弩で狙った衛兵はまだ膝をついて呆然としていたが、彼は後ろに回ると、その喉も掻き切った。

 はじめて衛兵を殺そうとしたとき、彼は躊躇し、相手の隠し持ったナイフで危うく殺されかけた。彼の命を救ってくれた手慣れた仲間は、その晩の間ずっと、スレンのことを大声で冷かし続けた。二回目のときは、初めて女性と寝台をともにする若い男のように息を荒げ、無様にではあったが、なんとか相手の耳の下を突き刺すことができた。衛兵の息の根が止まるまでそれからしばらく時間がかかり、スレンはその間、自分の短剣を引き抜くこともできなかった。
 だが三回目はスレンもうまくやってのけ、それから何週かの間に何人も殺した。慌てず急ぎもしない滑らかな動きひとつで、ずっとエルフのことを蔑んできたヒューマンを地面に転がる屍に変えるには十分だった。

 エルフたちは、地面に転がる御者を殴打していたが、スレンはそれを無視して、荷台を点検している仲間のほうに加わった。ほとんどが食糧と料理に使う鍋、それから灯り用の油だと仲間のひとりが言うと、スレンは頷いた。油は焼き討ちの燃料になるし、鍋は鎧になる。全部持ち去る暇はないと仲間が言うのには答えず、殺気立った嘶きをあげ、馬具を強く引っ張っている馬たちを見た。この荷は全部持ち帰る、とスレンが言って、馬車を操れる者がいるか回りの仲間に尋ねた。沈黙が返されると彼は顔をしかめ、御者を殴打している仲間たちの方に、そいつを立たせろと、大声で呼びかけた。 

 仲間たちはぶつぶついいながらも御者を立たせた。鼻のあたりが血だらけで、痛みに身体を屈めていたが、身体は無事なようだ。

 生き延びたいか、シェム、とスレンが強い口調で尋ね、言う通りの場所まで馬車を運んだら、放免してやると告げた。御者は息を吸い咳き込むと、馬たちはどうなる、と問い返した。

 交渉できる立場だと思うか、とスレンが、まだ戦いの熱気が消え去っていないのか、自分でも驚くほどの大声で笑った。だが御者は馬たちを返してほしいのではなく、殺さないでほしいと歎願しているのだった。馬を傷つけるつもりなどない、スレンは仲間たちが肩をすくめる姿を見渡してそう言った。

 それを聞いた御者は、よろよろと馬車に近づいた。スレンが他の盗賊たちに合図すると、手に持てるだけの戦利品を持った仲間たちはその場から逃げ出した。スレンと数名の仲間が御者とともに馬車に乗り、スラムまでの道を指図した。後にした広場は、殺さず見逃した商人たちのうめき声以外、静かだった。 

 馬車はスレンの指示で進み、ハラムシラルの一画にエルフが設置したバリケードのところまでやってきた。大声で命じる声がすると、馬車が通れるようにエルフたちが障害物をどかしはじめた。

 エルフのスラムはここ何週間かで様変わりしていた。衛兵たちの報復攻撃のため黒焦げにされた建物がどの街区にも一つか二つあった。市場の建物の扉には板が打ち付けられ、馬と料理の臭いの代わりに、スラムには煙の臭いが充満している。

 だが、それらを目にするスレンは、同時に幸せも感じていた。馬車に並んで走っているエルフの少女のほうに、盗賊の一人が戦利品のリンゴをひとつ放り投げた。ヒューマンがエルフの食事の時と場所を決めていた時分なら、少女は飢えていただろう。今、ヒューマンが懲罰措置としてエルフの物流を遮断し、エルフは日々の糧を得るために戦いを余儀なくされているが、むしろ以前よりたらふく食べていた。 

 エルフの叛乱の本部は、スレンとレメットがあの運命の日に立ち寄った酒場だった。今、ほとんどの机はどかされ、バラバラにされ、木製の盾として供されており、床のおがくずは、バーの側に並べられた簡素な寝床に横たわる傷ついたエルフたちの血で汚れている。

 壁のひとつには、誰かが炭で街の地図を描いており、襲撃目標の候補、逃走路、隠れ家などが記されていた。スレンは戦いでひねった足首の痛みにひるみながら馬車から飛び降り、荷降ろしは他の者たちに任せた。まだ給仕のエプロンをつけたままのジネットが、張り詰めた気分であるかのように唇を強く結んで、彼に手を振った。

 酒場の中に足を踏み入れるスレンに、連中は危険だから気を付けろ、とジネットが告げたが、言われるまでもなかった。バーに腰かけるエルフの女の見たこともないくらい上等な革鎧は、ウェイキング海のように青い色で、銀の鋲打ちがしてあり、女の身のこなしから、まるでそれには下着ほどの重さもないかのように見える。彼の知らない木材が用いられた弓には木の葉を連想させる渦巻状の紋様が描かれ、ダガーはシルヴァライトの蒼白い光で輝いている。この女が身に着けている一揃いは、スレンのこれまでの生涯の稼ぎ全部あわせても賄えない。

 だが、女の隣に座る男のほうがさらに不気味だった。その外套も、ズボンもチュニックも質素で、裸足だった。手にする輝く杖と、その顔の複雑な紋様の刺青さえなければ、乞食と見られても不思議はない。杖からは彼がメイジであることがわかるが、サークル・タワーに安全に隔離されているメイジではなく、制止するテンプラーもいない倉庫の中で、なんでも自分の思い通りにできるメイジだ。刺青からは、彼が伝説の存在であることがわかる。 

「ハーレン」 スレンは、記憶にあった古い言葉をたどたどしく口にした。「名誉ある長老よ、我らが自由のため、ともに戦うために来ていただいたのか」
「私たちが来たのは」とエルフの女が言った。「あなた方に自分から殺されるような真似をするのをやめさせるため」

***

 動物愛護週間(運動)というのは、人間以外の動物を、まるで、んー、けだもののようにしか扱わなかったアングロサクソンの自らへの戒めとしてはじまったのはご存じだろうか。
 キリスト教的博愛精神の発露だと勘違いしてたりしないだろうか(まあ、今や本人たちが丸ごと勘違いしているが)。クリスチャニティでは博愛は人間以外には及ばない。人間以外に原罪はなく、故に救済もない。完璧に無関係。だから動物愛護は本来的には邪道の発想。愛護するな、などとは言っていない。私が自称仏教徒(実質葬式だけ)だからでもなんでもなく、宗教に絡めてるのがおかしい、と言っている。

 まあ、そんなこと言っても見向きもされないどころか、頭がおかしいと思われるだろうが、中東や中央アジアやアフリカでどれだけ人が殺されているか、餓死しているかに興味はなく、家の犬猫や、クジラ、動物園の白黒熊猫のほうが大事。ちょっと機嫌が悪いだけで大騒ぎ。死んだりしたらまあ大変。

 街でエルフがどれだけ死んでも勘定に入れないくせに、ヒューマンもまた回りで山ほど死んでいるのに、馬車馬のことだけは大事にする。
 まさか、作中の御者が「いい奴」だなんて読まれていないですよね?
 もっとも、著者もアメリカン。ひねくれ者の私の誤読かもしれないしね。 

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