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2014年5月25日 (日)

The Masked Empire 10(4)

 第十章終わらせましょう。

***

 ブリアラは、どれだけ長い間逃げてきたのか見当がつかなくなっていた。深い森は月光を通さず、フェラッサンの杖の光に照らされる無害な木々でさえ、走る彼らを引き留めようと手を伸ばしているように見える。

 ブリアラは、枯れ葉に隠れた根茎に足を取られ、剥き出しの枝で顔を引っ掻かれ、肩と膝は鎧で擦れ、下着は汗まみれになっていた。フェラッサンは刺青の顔で疲労と苦痛を隠し、杖で釣り合いの取れない両脚の歩調を支えている。セリーンは紅潮しているが、決意に満ちた眼差しに全ての不快さを隠していた。サー・ミシェルだけがいつものとおり、規則正しい平板な呼吸で、中の鎧がガチャガチャ鳴っている袋を背負って走っていたが、その顔は泣き腫らして赤く、汚れていた。農奴たちなら顔色も変えず殺すシェヴァリエが、愛馬のためには涙を流した。 

 後方から、木が砕け、根が裂ける音が追いかけて来る。シルヴァンどもが仲間を呼ぶのか、森全体がやつらになってしまったのか、仲間の警告で目覚めたのか、ブリアラにはわからなかったが、フェラッサンに尋ねる息も惜しかった。

「どこまで来る気?」 あやうく衝突しそうになった木を突き放してブリアラが尋ねた。
「知る由もない」 フェラッサンが言って、杖を根に引っ掛け転びそうになる。「やつらが興味を失うまで。やつらは・・・」 彼は息を吸い、低い繁みに足を踏み入れて唸った。「感情に対して怒っている。嫉妬しているんだ」

 感情。彼女とセリーンは口論した。それからセリーンが彼女を抱きしめた。
「こちらの足のほうが早い」 ミシェルが言って、セリーンが通れるように枝を脇にどかした。「この調子で行けば、やつらも最後には諦めるしかない」

 ブリアラはセリーンの視線をとらえた。女帝の目はまだぎらぎらしていたが、顔は疲れ切って蒼白だった。「あとどれだけ行けるかしら」
「だめよ」 セリーンがつまづいた。「こんなところまで来たのは」 彼女は自力で立ち直り、仲間に追いついた。「に殺されるためじゃない」
「健気な心意気だ。前を」 フェラッサンが空いているほうの手で示した。「水だ。やつらの動きを鈍らせる」

 ブリアラはよろめきそうになる足で必死に駆けた。頭を上げ、肺一杯に空気を吸おうとして、枯れ葉の下の岩に気が付かなかった。足を滑らせた彼女は、地面に手ひどく打ち付けられた。
 咳き込む彼女の腕を温かい手がつかむ。「大丈夫か?」 サー・ミシェルが尋ねた。淑女を敬うシェヴァリエの鏡だ。彼の後ろでは、青ざめた顔をしたセリーンが両手を膝につき、荒い息をしながらブリアラのほうを心配そうに見つめている。

 ブリアラは自分がまだましな姿だと思っていた。セリーンが芸術家と接遇する間、自分は古い倉庫の中で汗だくになるまでダガーの稽古をしていた。彼女は、一日中馬上で過ごしてやつれた女帝の姿を見て、にやついていたのだ。
 だが、恥ずべきことに、ブリアラは口を利くだけの息すらできなかった。彼女は素早く頷くと、フェラッサンの後ろからよろよろ続き、ミシェルとセリーンがさらに続いた。彼らの後ろから、怒れる木々の騒音が聴こえる。

 フェラッサンが見たのか、魔法で察知したのか、または元々知っていたのか、ブリアラにはわからなかったが、水とは渓流のことだった。春先には奔流が飛沫をたてて流れているだろうが、長い夏が終わり、秋にはこれまで雨も降らなかったので、水は土手のずっと下の方を流れている。フェラッサンは杖で平衡を保ちながら躊躇せず傾斜を跳び下り、膝まである水に浸かった。

 続こうとしたブリアラは、最後の一歩で乾いた土が崩れるのに脚を滑らせ、危うく水の中に落ちそうになった。彼女は岩と泥の間をなんとか伝って、ほとんど対岸のほうまでやってきてから、振り返った。
「フェラッサン!」 ブリアラの喉はからからで、叫び声はひび割れ、調子はずれだった。
 彼は対岸の土手の上で膝をつき、両手で杖に寄り掛かり、荒い息をしてブリアラを見下ろしている。 「急げ!」

「彼らはどこ?」 ブリアラは自分が滑り落ちた土手の上の闇を見つめたが、何も見つからなかった。鎧の鳴る音もせず、怒れる森のたてる音だけが聴こえる。闇の中、彼女は木々が揺れているのが見えた。
「来るんだ、ダーレン!」 フェラッサンが呼ぶ。「シルヴァンどもはそこまで来ている!」

 やつらは感情に惹き付けられる。彼はそう言った。
 彼女はいまだに怒り、傷つき、裏切りに打ちのめされており、セリーンが告げた真実も、闇の中ですら隠し立てなくセリーンの顔に浮かんだ傷心も、まだなお足りなかった。
 だがその下では依然として、セリーンを二度と永久に目にすることがないかもしれないとの考えが、彼女の腹の中に暗く空っぽの穴を開けているのだった。

 ブリアラは唾をのみ、長く息を吸った。それから彼女はよろめきながら渓流をに進み、緩い土に震える指を沈め、自分の身体を土手の上に持ち上げた。
 フェラッサンの杖の光は影を色濃くするだけで、こちら側ではほとんど何も見えなかった。土手をよじ登る彼女の前に、木々が砕け落ち、木の葉を乱暴に振りまきながら動く巨大なシルヴァンの姿が現れて来た。そいつは、横にいる何かに激しく打ちかかっている。 

 それはサー・ミシェルだった。シェヴァリエの鎧はまだ袋の中で、両手に女帝を抱えている。闇の中でもブリアラには、セリーンの青ざめた顔と、彼女の頭皮から流れる血を見ることができた。
 シルヴァンの一撃が、ミシェルが肩に担いでいる鎧の入った袋に当たり、木々の間でよろめかせる。彼はセリーンの身体を地面に横たえると、空いた両手に長剣と盾を構えた。

 彼は這い寄ってくるブリアラに怪訝そうな顔をした。「逃げなかったのか」
「そうみたい」 ブリアラはセリーンのところまで来て、喉の脈を確かめた。生きて、息をしている。 「逃げ切れる?」

 ミシェルは長剣の力強い一振りで、シルヴァンの腕から枝を斬り落とした。「渓谷に辿りつく前に叩き潰されてしまう」 彼は一撃を受け流して呻いた。「彼女を安全なところに運んでくれないか?」

「無理だと思う」 セリーンの指輪のひとつは、どんな武器にも焔を纏わせる。ブリアラは疲労と、この世のものではない咆哮に震えながら、セリーンの手をいじくりまわした。
「陛下!」 ミシェルが叫び、別の一撃を飛び退って避け、シルヴァンの幹から結構な塊を削り取った。 「陛下、起きてください!」

 闇の中、ブリアラには指輪の見分けがつかなかった。彼女は両方とも外し、それらを自分の指になんとか嵌め込んだ。

 彼女は立ち上がり、弓を掲げ、矢を一本取り出してつがえた。ルビーの指輪が焔をあげるとき、思わず叫び出しそうになり、その焔が矢に移った。

あなたこそ、彼女を安全なところに運んでくれる?」 彼女はそう告げると、シルヴァンの幹に向けて焔をあげる矢を放った。そいつは焔にたじろぎ、苦痛の咆哮をあげた。
 ミシェルが振り向き、当惑した間抜け面で見つめると、ブリアラは別の矢をつがえて撃ち、さらに撃ち、目前の化け物の木の葉も枝も炎で覆った。「拙者は・・・、承知した」

 彼らの前の木々が裂け、別のシルヴァンが燃えあがる仲間に衝突する。ブリアラはそいつにも焔の矢を撃ち、セリーンの愛らしい蒼白い顔をちらりと見下ろした。「では、行って」 彼女は言った。「私は・・・」 

 四十本もの矢が、眩い紅の焔をあげながら夜の闇を照らし、彼女が言葉を失う間、シルヴァンどもの頭上から降り注いだ。
 驚いたブリアラが振り返ると、渓谷の対岸の上に焔の列が並んでいる。それらが一瞬踊るように動くと、再度夜空を照らし、シルヴァンどもの上から矢が降り注いできた。

 燃えあがり、苦痛の唸り声をあげ、シルヴァンどもは地面から根茎をもぎ取り、周囲の木々を打ち倒しながら、我勝ちに森の中に逃げ込んでいった。ブリアラはやつらが逃げる音を聴きながら、ようやく両脚の冷たさを感じるまで、自分が両膝をついていたことに気が付かなかった。

 ミシェルは彼女とセリーンの傍に立っていた。「ついていた」 表明というよりも、質問のような口調で彼はそう言った。
 ブリアラは渓流の向こう側の射手たちのほうを見た。ひとつの紅の焔だけが他よりも明るいこと以外、何もわからなかった。その近くの緑の焔、彼女はそれがフェラッサンであることはわかった。

 それから、渓流の川底から射手の何人かが優雅な身のこなしで登ってきた。彼らは簡素とはいえ美しい、しなやかな革の鎧を身に着け、アイアンバークの長剣の刃をすっぽり覆う紅の焔は、彼らの顔の刺青を躍らせている。

 ブリアラは、フェラッサンを除くと、はじめて出会うことになるデーリッシュ・エルフを見つめた。「マ・セラナス」 彼女はたどたどしく告げた。 「あなたたちは命の恩人です、それから・・・」
「彼の言ったとおりだ!」 デーリッシュのひとりが渓谷の向こう側に叫んだ。「平ら耳ひとりと、シェムレンふたりだ」
「縛り上げろ!」 年配の者の声がして、彼女の前に立つエルフが頷いた。「逆らったら殺せ」

 彼女の側らで、ミシェルがセリーンを見て、それからエルフたちを見た。そして、うっすらと笑うと、剣を落した。

「やっとのことで、ブリアラよ、お前の民を見つけたな」

*** 

 シルヴァン(sylvans)。DAOでも、DAOAでも、おなじみでしょうが・・・。
 またマニアックな、というかマイナーな化け物を登場させるのですね。

 デーリッシュの森の中、薄くなったヴェイルを通ってフェイドからやってくるスピリッツが憑依する相手は、木々ですか。
 本来、スピリット(ディーモン)は、フェイドでは手に入らないものを欲する。「感情」を有する生きたヒューマノイドに憑依したいわけですが、それも能わずたまたま憑依したのは木。
 「感情(の持ち主)に嫉妬する」というのは、そういうことでしょうか。 

 デーリッシュ中心の話であるし、セリーンとブリアラの間の確執がシルヴァン登場の引き金となった、とやりたいのだろうから辻褄は会うのですが、どうせなら、もうちょっと派手な化け物というわけにはいかなかったのでしょうかね?
(まあ、勝手に翻訳している身で言うことじゃないが、あまり気乗りせえへんかった)

 「指輪物語」では、感情も自意識も、知能もある木、「エント」(ents)が登場します。これもDnDでは、「ミスリル」が「ミスラル」に変わったように、オリジナルとの版権争いを避けるために「トレント」(treants)と名を変えています。ただし、概ね「中立にして善」。シルヴァンのように嫉妬に狂うような化け物ではないですね。

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