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2014年5月17日 (土)

The Masked Empire 9(4)

 第九章ラスト。名実ともに折り返し地点。

*** 

 ハラムシラル南西の野営地で、ギャスパードは焚火の前に腰掛け、香辛料を利かせた温かい葡萄酒を傾けながら、偵察の報告を聞いていた。

 レディ・セリルの肝がそこまで据わっていたなど、誰が気づいていただろう。リマッチェが尋ねた。敵に使わせないため、自らの村を焼き討ちにするとは大した女だ。ギャスパードが答える。偵察たちは、くだんの村の付近に蹄鉄の跡を見つけていた。村の名はラク・ダージェントである、と偵察の指揮官が答える。村人たちは誰も目にしていないと言い張っていたが、部下たちによれば、見つけた蹄鉄の跡は軍馬のものに間違いない。

 それは手がかりになる。ギャスパードが頷いた。セリーンが村や街で足跡を残したのはじめてだ。これ以上追跡するためには手がかりが必要だった。そして、あのエルフの侍女は逃亡してしまった。おかげで何人かの衛兵を鞭打たねばならなくなった。

 戦はヴァル・ロヨーから指揮できるのではないか、セリーンを自分自身で追跡する必要があるのか。乗馬用の革服の襟を不快そうに引いてリマッチェが尋ねた。彼らは女帝が身を潜めると思われるあらゆる場所を捜索した。馬上行はさして難儀でもなく、強行軍と呼べるものではなかったが、それでもリマッチェは、まるでディープロードへの道連れを強いられているかのように振る舞っている。

 ギャスパードは偵察の指揮官を退かせると、リマッチェに答えた。ヴァル・ロヨーに戻れば、セリーン派の貴族に取り囲まれ、セリーンはまだ生きており、大公には玉座に座る資格がないと責め立てられる。一方で大公派の貴族からは、自分たちの利得がどこにあるのかと詰られる。そして彼らは、自分たちの意に沿わなければ、気のない素振りで手を振って大公に脅しをかける。捜索にあと二、三日費やすだけの余裕はあるし、セリーンの死骸を携えて戻れば、帝国の誰であっても、邪魔立てすることはできない。

 だが今は、レディ・セリルが邪魔立てをしている、とリマッチェが指摘する。 ハラムシラルは奇襲で押さえたが、ギャスパードは全軍を集結させているわけではない。レディ・セシルが守りを固めていればジェイダーを陥落させることはできないし、彼女の放つ偵察との接触は日に日に増えている。

 何か策があるのか。ギャスパードが尋ねた。それとも小便をひっかけて葡萄酒の味を台無しにしたいだけか。
 リマッチェは唇を噛みしめた。セリーンは死んだと噂を流す。ハラムシラルに戻り、兵を集め、ヴァル・ロヨーに凱旋する。女帝本人が戦うため姿を現すなら殺せばよし、そうできなくとも大公はすでに玉座にあり、ひとたび流浪の身となった者にできることは負け犬の遠吠えのみ。

 ギャスパードが唸った。セリーンが現に死んだと判明しない限り、そう言いふらすことはしない。
 だが、彼女がエルフの侍女と寝ていたと言いふらしたではないか、片方の眉を吊り上げながらリマッチェが言った。
 そうかもしれないと仄めかしたに過ぎず、どのみちそれは「ゲーム」の範疇だ。ギャスパードは気のない素振りで手を振った。一方でこれは名誉ある戦であり、シェヴァリエが越えてはならない一線がある。

 不愛想に呼びかける相手の方を見たギャスパードは、リマッチェが自分を睨み付けていることに驚いた。盟友の貴族たちが大公を支援しているのは、彼が玉座を襲うためであって、女帝を殺すためではない。玉座に就く資格があることを示すなら、ヴァル・ロヨーに戻って力量を見せれば良い。

 それに答える前に、偵察の呼ぶ声がして、ギャスパードは立ち上がった。偵察の一人が焚火の灯りの中に来て、森の中で敵兵をひとり生け捕りにしたと告げた。捕虜はジェイダーの兵ではなく、女帝の紋章を身に着けているという。

 捕虜をこの場に連行するよう命じると、偵察は駆け去り、ギャスパードはリマッチェのほうに向けてにやりと笑った。どうやら、つきが変わったのかもしれない。 
 女帝の仲間などではなく、ただの逃亡兵かもしれないではないか、とリマッチェが言うと、それを確かめるために尋問するのだ、とギャスパードが答えた。

 両脇を兵に抱えられ、焚火の前に引き立てられた捕虜は白髪交じりの老練な兵士で、当て物のされたチュニックには古い血と新しい血が染みついており、抵抗せずに捕らわれたわけではないことを示していた。

「こちらに、火の側に寄せろ」 兵たちは命じられた通りにした。ギャスパードは器を火の傍に置くと立ち上がり、思慮深げに男を横目で見た。ついに彼は言った。「なぜ捕らわれた?」
 兵は首を垂れた。「飢えていました。渓流で魚を一匹捕まえました。生で食べるわけにはいかないので、焚火を起こす危険を冒しました。そこで閣下の兵に見つかりました」

「長年訓練を受け、幾多の会戦で名誉とともに戦い、なおまだ遠目から発見されないよう焚火を起こす術も学ばなかったか」 ギャスパードは微笑んだ。「ならば、どのようにしてここに行き着いた、ハラムシラルから一週間もあれば辿りつく道のりであろうに?」

 兵は頭を下げたままだが、ギャスパードはその顎が一瞬引き締まるのを目にした。「戦の後で逃亡しました。ジェイダーまで逃げ延びることができると考えました」
 リマッチェが微かに身振りし、ギャスパードは頷いた。「そうではないだろう。その方ら、この兵をどこで捕えた?」
「北にある小さな河の傍であります」

「舟を探しておったのに間違いない」 ギャスパードは歩み寄った。「そして、ひとりなら、いくら徒歩(かち)であるとはいえ、ずっとジェイダーの近くまで行き着いていたはずだ。街道を封鎖している我々の兵に出くわさない限り」
「そのとおりです」 兵は急いで頷いた。「閣下の封鎖線に出くわしました。引き返しましたが、閣下の兵が近づいてくるのに気が付き、どこかの村で舟を手に入れ、ウェイキング海に出ようと考えました」 彼はギャスパードの目を見ることができず、口籠った言葉は早口で、捕まったときのため用意していた作り話であることは明らかだった。

 リマッチェが咳払いし、ギャスパードは苛立たし気にその顔を見た。「この者が嘘をついているのはわかっておる」 彼は兵の方に向き直った。「話は悪くはないが、話しぶりが最悪だ。そして貴様のような身分の者がなぜ嘘をつくのか、不思議に思わざるをえん」 彼がさらに歩み寄ると、ついに兵が顔をあげ、疲労で浮腫み、恐怖に染まった目で彼を見た。「わが方に降伏し、旗幟を乗り換えると名乗りを上げることもできたであろうに。とどのつまり、貴様は古参兵で、生き残りだ。戦の勝ち負けがいつ決するか知れたはず。主を乗り換えるべきことも知れたはず」

 彼はたじろぎ、ギャスパードもそれに気が付いた。
「だがそうしなかったのだな? なぜなら貴様は彼女に出会ったからだ」 彼は息を継いだ。「この森の中で。彼女に出会った。貴様は彼女がまだ生きており、どこに向かっているかも知っている」
「知りません!」 兵はうっかり口走り、そしてそれは、たとえやけくそであったとしても、真実だった。

「だが、知っていることは話すことができる」 ギャスパードは言った。「そしてその話が有益であれば、わしは貴様の命まで取ろうとは思わん」
「話すこともできましょうが」 もはや嘘をつく必要もなくなり、兵は姿勢を正してギャスパードの視線を直視した。「自分は貴族でもシェヴァリエでもないとはいえ、名誉を重んじる者」 彼は胸を張った。「自分は女帝セリーン陛下直々の命により直轄の偵察に任じられており、死すべきときもその任のまま死ぬ所存です」

 ギャスパードは彼の目を見つめ、ゆっくりと頷くと部下が待機しているほうに目をやった。それから兵の方に目を戻した。「その意気やよし。速やかに苦痛なく死ぬか、戦いで死ぬか?」
 兵は、長い、震える息を吐き、それから胸を張った。「戦いを望みます、閣下」
「うい奴」 ギャスパードは部下に身振りし、彼らは遠ざかった。ギャスパードは乗馬用の革鎧のみ身に着けていたので、公平を期すためにセリーンの兵に鎧を与える必要もなかった。「剣を持て!」

「なぜそんな馬鹿を」 リマッチェが咎め、ギャスパードが彼のほうを向いた。「貴公は『ゲーム』に関しては達人だ、リマッチェ、そしてわしが玉座を手に入れるためには、貴公の力が必要だ。だが貴公には、剣に生き死にを懸ける者たちのことは決して理解できん」 彼は手を伸ばし、差し出された剣を見もせずに受け取ると、こう叫んだ。「シェヴァリエの名誉にかけて誓う、セリーンの直轄の偵察がこの一戦でわしを倒したなら、この者はその鎧、その武器及び三日分の食糧を与えられ、この場から自由放免となる」 

 彼の手下たちが、受諾する旨咆哮で応じ、剣と盾を打ち鳴らした。セリーンの兵は剣を丁重に受け取った。ギャスパードが向き直り、兵と兵が対峙した。
 そして動きはじめた。
 ギャスパードは慎重に数歩動く間に、セリーンの兵の動きは良く、間合いを上手に取ることを見て取った。だが彼の力を抜いた握りは剣にそぐわない。強く握り、激しく振るべき武器を技巧重視の形で握っている。そして彼の守りの姿勢は短い武器のための訓練を受けていたことを物語っていた。ギャスパードは、相手がおそらく槍兵であり、短剣は近接戦用の備えだと推量した。
 ギャスパードは手早く済ませた。

 長年の槍の訓練が災いして、兵士はあまりに遠い距離からの陽動を払いのけようとして反応してしまい、続く上腕への突きを受け、振り落された剣先で脚を斬られ、躊躇ない一撃で胸板を突き刺された。
「うい奴」 彼は再びそう言うと、相手の目から命の灯が消え去るまで、その身体を支えた。
 リマッチェは焚火の傍から立ち上がろうともしていなかった。剣に着いた血の始末と亡骸の処置を召使いに任せたギャスパードが近づくと、彼はひきつり笑いを浮かべた。「まったく必要のない決闘に生き残られたことをお喜びいたします、閣下」

「決闘ではない」 ギャスパードが腰を下ろした。「さっきのは処刑だ。だがあの者は女帝を襲った相手との一対一の戦いで、誇りとともに死んだ」
「確かに、法悦の様子と見えましたが」 リマッチェはそう言って、死骸の方を見た。「拷問すれば情報を引き出せたでしょうに」 ギャスパードに睨まれ、リマッチェはため息をついた。「相手は貴族ではなかった、ギャスパード。閣下の掟の埒外でしょう」

「あやつは役立つことは何も知らなかった」 ギャスパードは偵察たちのほうに手振りをし、それから静かに言った。「いいか、リマッチェ。あやつがセリーンの行き先を知っていたのなら、セリーンに信用されて彼女に付き従っているか、または信用されずに殺されていたはずだ」

 リマッチェは顔をしかめ、それからゆっくりと頷いた。
「つまり、我々が知っていることは、あの男が間違いなく彼女と出会ったということだけ。図らずも何かを暴露してしまうかもしれないというあの男の罪の意識からくる恐れが、そのことをはっきりと示した」
「その通り」

 偵察たちが焚火の傍に近づき、お辞儀をした。「閣下?」
「あの男を見つけた場所に戻れ」 ギャスパードが命じた。「あの男の足取りを探し、それを逆に辿れ。どこかで、あやつはセリーンと出会っていた」
「畏まりました、閣下」 偵察たちはお辞儀をし、駆け足で去って行った。

「できるのでしょうか?」 リマッチェが尋ねた。「何日もの足取りを逆に辿って、セリーンと遭遇した場所まで行き着くなどということが?」
「そんなことわしが知るか、リマッチェ」 ギャスパードは器を再び手に取り、胡散臭そうに覗き込んで、蠅を掴み出した。「だが、ジェイダーの攻略を試すよりは、まだましだろう」

***

 くだんの村の名前(湖の名前か)は、Lac d'Argent(仏:ラク・ダルジェン、ダージェント湖)で、カナダ・ケベック州に本当にある湖の名前と一緒。

 フィネッセ(フィネス、finesse)は「技巧重視(の形)」、フェイント(feint)は「陽動」。カタカナを使わないとすると結構大変で、苦しかった。
 フィネッセは仏語で、もともとカードの世界の言葉(英語で言うとfineness)らしく、それを剣技に用いるのはRPGファンでもなければ通じないのかもしれない。フェンシング(fencing)と合わせて検索すると、土建関係のフェンスがぞろぞろ(笑)。「お洒落な、気の利いたフェンス(家の柵)づくり」ということらしい。

 フェイントは「見せかけ」じゃあちょっと変。剣道でなんていうのかなと思って調べると、「フェイント」(笑)。
 なんかなかったのか。「陽動」としてしまいましたが、それって規模の大きな会戦レヴェルの話に使う言葉。あまりにスケールが大きすぎるような気がします。
 ちなみにアメフト、バスケなどアメリカ発スポーツでは「フェイク」(fake)と呼ぶ。ベースボールのフェイント/フェイクはごく地味な限られた局面にしか用いられないかな。

 「うい奴」の元は、"good man."こういう風に二回使われると、別の訳にするわけ行かないんでうんうん唸りますね。一回目「よくぞ言った」だと二回目に会わないし。

 数日の足取りを逆に辿ってセリーンと遭遇した場所を見つける。それこそ、「指輪物語」のレンジャーの技能そのものでした。ギャスパードの態度はそのパロディでしょうか。

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