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2014年5月10日 (土)

The Masked Empire 8(4)

 第八章ラスト。

***

 この古代の街道は両方向に何マイルも続いている、とミシェルが告げた帝国街道を横切り、ふたりはまたすぐに森の中に入った。フロストバック山脈が東に小さなシミのように見え、西側のハラムシラルからは依然として黒煙があがっていた。

 進路が定まった今、セリーンの心には南部オーレイの美しい風景を楽しむ余裕が生まれそうになっていた。馬車に揺られるのではなく、風の中に道を見つけ、広大な森を眺め、鮮やかな黄金色に染まりつつある木の葉の香りを嗅ぐ。さほど前でもない時分、彼女は乗馬を望んでいたことを思い出して一人笑いした。次回はもう少し具体的に希望することにしよう。

 時折ミシェルが片手をあげ、ふたりは馬を降り、ギャスパードの乗り手たちが通り過ぎるのを馬を静かにさせながらやり過ごした。セリーンも訓練を積んでいたとはいえ、ここではミシェルの感覚が優っていた。彼女には竪琴の音色のほんの些細な外れを聞きわけることができるとしても、蹄の音にはミシェルのほうがずっと早くから気づいていた。

 ときには小さな獣が進むための径を進み、ギャスパードの手の者が近づいてくるときには、それからも脇にそれ、陣羽織の家紋がはっきりわかるほど間近を通り過ぎていくのを、剣を構えて見守った。ライデスからギャスパードの援軍に出ているリマッチェの手の者たちだ。 

 森の端に辿りつくと、ミシェルがごく小さく毒づき、追い付いたセリーンはすぐにその理由を見て取った。前方に見える小高い丘の、草に覆われた頂上にはギャスパードの兵たちが陣取り、周囲に抜群の視界を確保している。

 戻るべきか、とセリーンが声を潜めながら尋ねる。ミシェルは、背後から追手が迫っている以上、南に向かう他に道はない、と答え、森の縁近くにある干上がった河床を指さした。身を低くして速やかに進めば、見つからずに渡り切れる。セリーンは頷き、チャンピオンの準備が整ったらいつでも行けると告げたが、ミシェルは低く笑って、準備が整うのを待っていたら、初雪が降り始めてしまうだろうと言い返した。夜まで待ちたいところだが、闇の中馬をかけさせる危険は冒したくない。
 では行こう、今。

 ふたりは過剰なくらいの細心さで馬を歩ませたが、ミシェルのように訓練を積んだ者たちが、些細な音も聞き漏らさないことはセリーンも目の当たりにしてきていた。乗り手たちが付近を駆け回る音が聞こえ、叫び声もなく、自分たちの姿も見えていないはずだが、セリーンの胸の鼓動は高まった。ギャスパードがどれだけ多くの兵を動員しているかを知るのも脅威だが、その間をすり抜けなければならないのはまた別の問題だ。

 森の縁までやってくると、ミシェルはふたつの手綱を取り、鎧に身を包んだ者とは思えない身軽さで二頭とも涸れた河床に引き下ろした。セリーンが続き、背の高い草の陰で身を潜める。奪った馬が神経質に跳ね上がるが、チェリテンヌがいななき、軽く身体を押して静かにさせた。彼女はまるで上からの視線が自分に突き刺さるような居心地の悪さを感じていたが、それは単なる気のせいだと自分に言い聞かせ、敢えて丘を見上げることはしなかった。
 すでに鞍に跨っているミシェルのところまでようやくたどり着くと、彼女も同じように馬に乗り、振り返って自分たちが敵の視界から遮られていることを確認し、馬を駆け出させた。

 ところがそこから一分も進まないうちに、彼女たちを三度目の遭遇が見舞う。曲がり角に早足で馬を進めたところで、セリーンたちとまったく同じ理由で河床を抜け出て来たふたりのエルフとばったり出会ったのだ。

 ふたりは倒木の切株の側に身を半分だけ隠してしゃがんでおり、ひとりはその顔の刺青と緑色に輝いている杖からデーリッシュのメイジと知れた。
 もうひとりはブリアラだった。

 ブリアラの顔は汗と埃にまみれており、額には木の葉の間を駆け抜けたときのものらしい擦り傷がいくつもできていた。彼女はセリーンが贈ったドレイクスキンの鎧を身に着け、その上から安手の茶色い外套を纏っている。
 彼女の美しい弓は掲げられ、つがえられた矢はセリーンの心臓に狙いを定めていた。
 しばらくの間、誰も動かなかった。

 セリーンは百もの言葉を考えていた。前腕に隠した二本のダガーのことを考え、矢の先に間違いなく塗られているだろう毒のことを考えた。囚人用の馬車の鉄格子のことを考え、乗馬で傷んだ自分の足のことを考えた。首筋がかゆくなり、それが掻きたくなってほとんど笑い出しそうになった。

 ブリアラが弓を下げた。「セリーン」
 セリーンは長い息を吐き出した。「ここで何をしているのです?」
「身を紛らすことのできるエルフの同族たちを探していたのさ」 デーリッシュのエルフが言った。「そちらこそ何をしにここへ?」

「ギャスパードがジェイダーへの道を封鎖しました」 セリーンが躊躇なく答えた。「そしてライデスも彼らの手中にあるため、何とか迂回しようと試みていたのです」

 ブリアラが頷き、その意味を理解した。「では旅のご無事を」 彼女のデーリッシュの連れが眉を吊り上げた。
「ふざけているのか?」 サー・ミシェルが疑わしそうに笑いながら尋ねた。
 ブリアラは彼を直視した。「昨夜、セリーンが私の身柄を拘束したのはあなたもご存じでしょう。ハラムシラルを焼き討ちにする前に」
「わたくしが叛乱を鎮圧する前に、です」 セリーンが鞍の上で居住まいを正して言った。「わたくしがエルフに手緩いとの、ギャスパードが広めた噂を押さえるためやむを得ず」
「そして私を檻の中に放り込んだ?」 ブリアラが尋ねた。彼女の声は冷静だったが、大きく暗い瞳には怒りと心痛を示す光が宿っていた。 

 セリーンは鼻を鳴らした。「もしあなたがあの場にいたのなら、あなた自身がギャスパードからわたくしの名声を守るための策となることと、あなたが黙らせておくべき面倒な相手だとみなす彼の支持者たちから、あなた自身を守るための策を告げていただけたのでしょうね」
 ブリアラは何も言わなかったが、デーリッシュ・エルフが不思議そうに首を傾げた。
「自力じゃ、ヴァル・ロヨーまで行き着けやしないでしょうが」と彼は言った。「そのギャスパードなる者は心底あなたを見つけたがってるようだから」

「そうでしょうね」 セリーンは微笑んだ。「でも、たとえそうでなくとも、彼はヴァル・ロヨーにとって返して、わたくしの不在をいいことに玉座をせしめるやもしれず、そうなればあなた方にとっても、わたくしの好意を受けるいかなる機会も失われるでしょうね」 
 デーリッシュ・エルフはにやりと笑った。「あんた盗んだ鎧を着て、盗んだ馬に乗ってるんだぜ、シェムレン。今この瞬間、帝国なんてどこにもないのに、好意が多大なる施しだからありがたがれって?」 彼はブリアラの方を向いた。「気に入った」

「鎧と馬はオリージャン兵士のもの、故に間違いなくわたくしのもの。わたくしの力について言えば・・・」 彼女は冷たく笑った。「デーリッシュが支援するというなら、ギャスパードの兵を悩ませ、彼を戦場まで引きずり出し、彼が玉座を奪う前にわたくしをヴァル・ロヨーまで連れ戻す手助けをするのなら、わたくしの施しが如何ほどのものか思い知ることになるでしょう」
「随分とあいまいだな」 エルフが言った。「一番最近エルフがこんな取引きをしたときには、デールズを手に入れた。まあ、そちらの民が『聖なる行軍』を始めて、取り返すまでの間だけだが」 

「ギャスパードはあなたの民を皆殺しにし、デールズを血の海に変えるでしょう」 セリーンは西の空、ハラムシラルがまだ煙をあげているほうを見た。「そして彼がそうしなくとも、テンプラーとメイジがもたらす狂気を食い止める力のある者がいない中、生き残ることができれば僥倖と思うべき」
「何を差し出すつもりだ?」 エルフが尋ねた。
「あなた方の指導者がわたくしを説得する機会です。わたくしがエルフの助力を受け入れることを許すことにより、わたくしの貴族の間に巻き起こる悶着に値するだけの存在かどうか、デーリッシュが示すための」 セリーンは平静な口調で言った。「それ以上のことは、あなた方のキーパーに直接お話します」
 デーリッシュ・エルフは黙り込み、彼女を値踏みするかのように見つめていた。

 最後に、ブリアラが頷いた。「ここから動かないと。ギャスパードが偵察を出しているし、あなたたちの足取りは目の見えないドワーフでさえ追うことができる。村も大きな農園も避けなければならない。彼はあらゆるところに人を置いている。フェラッサン、馬は連れていけるの?」

「歩くのに慣れていないなら、必要だろうな」 デーリッシュ・エルフはサー・ミシェルを見た。
「またお会いしましたな、ミシェル」 彼とブリアラは空地を出て南に向かい、ミシェルとセリーンが後に続き、馬たちが枯れ葉を踏みしだく音が鳴り渡った。

「彼女は姿を消すと思ったのですが」 ミシェルが静かに言った。
「それなのに、あなたの剣は鞘から抜かれなかった」
 ミシェルは微笑んだ。「拙者も陛下には驚かされました。そして自分が間違っていたことを知って喜んでおります」
「わたくしもです」 セリーンは言って、径の前を進む愛人の方を見た。「わたくしもです」

***

 竪琴(Lyre、リラ、ライラ)のほんの些細な音のはずれも聞き逃さない。こちらは周瑜の逸話を思い出す。「曲に誤りあれば周郎が振り向く」。しこたま酔っていても、だそうですが。古今東西、英傑たちのやることは一緒か。 

 セリーンとフェラッサンは初対面のはずですが、女帝はともかく、デーリッシュは名乗りさえしない。それは当然です。
 セリーンの言い回し、わかりにくいですね。訳が変なのかと思って考えてましたが、やっぱ「女帝」たるもの、「高みから見下ろす」、「くれるならもらってやる」という態度を崩さないのでしょうか。そうだとしたらそれも当然か。

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