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2014年5月 6日 (火)

The Masked Empire 7(2)

 The battle rages on. 戦は、今やたけなわ。

***

 巨漢の戦士が大槌を振り回すと、その一撃がセリーンの必死の防御を払いのけ、彼女の鎧を打ち砕かんばかりに強打した。

 セリーンが落馬する最中、周囲の世界は回転し、さらに第二の激しい衝撃が、彼女の肺にわずかに残っていた息すら根こそぎ奪い去った。周囲で彼女の兵が戦い、死んでいる中、世界は一様に鋭い、苦痛に満ちた煌びやかな色合いとなった。早朝の空の色は、煙のため病的に蒼白い。

 サー・ミシェルは彼女から分断され、戦いの大音声の向こう側から、森に向かって逃げるよう彼女に身振りしていた。主力の軍勢が必死に体制を立て直そうとしている間、周囲にごく僅かな手勢のみ伴って、彼女がなんとか森に辿りつきそうになる寸前、ギャスパードの戦士たちに見つかった。
 それから先は、全てが剣戟の音と苦痛の叫び声の混濁のためはっきりしなかった。

 彼女の前に立つギャスパードの戦士は、巨大な鎧をまとった巨大な男だった。彼が何かを口にしたとしても、戦場の咆哮の中に消えていった。彼はその大槌で敬意を表することもせず、相手の降伏を求める伝統にも従わなかった。彼は振り向きざま、彼女の兵のうち周囲に残っていた最後のひとりの頭がい骨を打ち砕き、再び彼女に向き直り、躊躇なくその大槌を振りかぶった。
 その瞬間、セリーンは自分が本当に死ぬかもしれないことに気が付いた。

 彼女は這いつくばって戦士から逃れようとしたが、息をすることもできず、打ちのめされた際の横腹が押しつぶされたのか、どうしようもなく耐え難かった。儀仗用の剣をどこに取り落したかも見当がつかない。ギャスパードの兵がとどめの一撃のためその武器を振り上げる間、彼女はやみくもに地面の土を掴もうとしていた。

 そのとき、戦いの激しい咆哮の中から、馬上のサー・ミシェルがこちらに向かってくるのが見えた。彼の駿馬はギャスパードの兵に激突し、巨大な戦士が地面に打ち倒された。即座にミシェルは馬を降り、飾り気のないシルヴァライトの長剣を抜き、盾を構えた。

 ギャスパードの兵は、巨大な鎧に身を包みながらも、まるで踊り子のような優雅さで身体を起こし、立ち上がりざまに大槌をミシェル目がけて振り回したが、ミシェルは踏み込んで、大槌の柄に盾を当て、ギャスパードの兵の顔面に兜で頭突きを食らわせ、よろめかせた。

 セリーンはどうにかして腹ばいになった。押しつぶされた胸は、小さく息をつくごとに痛みとの戦いを余儀なくされていたが、彼女が見下ろすと、視界の端の闇の中でちらちらと光るものが目に入り、その理由がわかった。鎧が強固であったが故に、大槌に打たれた胸当てがその形のままくぼんでおり、まるで鉄製のコルセットのように彼女の身体を締め付けていたのだ。

 ミシェルが彼女の命を救うため戦う間、セリーンは小手の底の隠し場所に忍ばせてあったダガーを引き抜こうと手こずっていた。ようやく引き出すと、喘ぎながら、胸当てを締め付けている留め具の部分を切りはじめた。

 金属のこすれるキーッという音と、大槌が命中したときのガチャンと鳴る音を耳にしながら、彼女はそちらの方を見ることもせずに留め具を切り続けた。サー・ミシェルが敵を斬り倒しても、血を流して地面に伏せていても、どのみちこの鎧は脱がねばならず、故に彼女は脇目も振らず作業に没頭し、ドレイクの革を切り続けた。息をするのがきつくなり、頭がくらくらし、目の前にちかちかと光の明滅が踊りはじめたが、そのとき留め具のひとつが外れ、胸当てが不自然な形に開いた。彼女は震えながら新鮮な息を吸い込み、別の留め具に気も狂わんばかりに取り掛かった。しばしの後、使い物にならなくなった金属の大きな塊が彼女の側の地面に落ちた。

 そこで一分間でも座って息をしていることが許されるなら、セリーンは代わりにデールズでもくれてやったことだろう。

 だが結局のところ、さしあたり彼女はオーレイの女帝であった。その肩書きはギャスパードの攻撃を阻止することはできなかった。敵の戦士が大槌で彼女の鎧をへこませることを阻止することもできなかった。だが、彼女をその場に立ち上がらせるには十分だった。彼女が立つと、右手の指輪の魔法によって、ダガーが焔の舌で包まれた。

 ミシェルとギャスパードの兵はお互い手詰まりとなっており、ミシェルの盾が大男の大槌を抑え、それぞれ唸り声をあげ、相手の隙を狙う素早い足取りで動き回っていた。背が低い方の男、ミシェルにはバランスの点で分があるが、ギャスパードの巨漢の戦士はあまりにも大きかったので、ミシェルが劣勢になるのは目に見えていた。

 彼女は、重い脛当てを身に着けたまま、可能な限り静かにふたりのところまで歩くと、間を置くことなく、焔をあげるダガーを背後から戦士の腋窩に突き立てた。
 ギャスパードの兵は叫び声をあげて後ろに退いた。ミシェルにはその隙だけで十分だった。乱暴な一押しとともに、彼は相手を突き放し、セリーンはまた必要になるときのため、ダガーを構えた。
 ミシェルは上段からの大きな一振りで戦士の力ない防御を打ち破ると、大槌を盾で受け止めて叩き落とし、戦士の片足を深く斬り裂いた。戦士は片膝をつき、大槌は地面の草の上に落ち、とどめの一撃で、ミシェルは相手の頸甲もろとも、その喉を切り裂いた。

「陛下」 崩れ落ちたギャスパードの兵がまだひくひくと痙攣している間、ミシェルは荒い息をしていた。「ここは危険です」
「ありがとう、わたくしのチャンピオン」 セリーンは咳き込み、依然として息を整えようとしていた。「どうなることかと」 彼女が目をやると、巨漢の戦士は最後の痙攣のあと静かになった。
 セリーンは人を殺したことがある。レディ・マンティロンのバードの技術の訓練を受けた女性は誰でも、寝室で自分の暗殺を狙った相手の喉を掻き切り、それから二分も経たないうちに、完璧な化粧と清潔な手で宴会の場に戻り、機知に満ちた会話を嗜むことができる。その試練の間でさえ、レディ・マンティロンは、彼女の冷徹な神経を称賛したものだった。

 それもまた、随分と前の話だ。

「かたじけない、陛下」 ミシェルが言った。「お守りすることにしくじりました」
「おやめなさい、ミシェル。まだわたくしが息をしているのであれば、あなたはしくじってなどおりません」 セリーンは戦場の他の様子に目を向けた。彼女の兵たちは虐殺される最中で、もはや戦線などどこにもなく、ギャスパードの兵の回りに固まっているだけであり、彼らの手によって順々に屠殺されていた。乗り手のいない馬たちは悲鳴をあげながら戦場を駆け回り、ところどころ包囲されたままのセリーンの兵たちの上には、まだ矢の雨が降り注いでいる。帝国の陣羽織姿の兵たちが、盾を投げ捨てて森の中に逃げ込んでいた。

 彼女は過酷な速度の行軍を強い、兵たちには醜悪だが容易な屠殺の任務の後、彼女の冬の宮廷で一週間の休暇を与えると告げていた。
「街、そう考えていますか?」 彼女は尋ねた。
 ミシェルは頷いた。「他に道がないかと」 彼は口笛で馬を呼び、優雅に跨り、彼女を自分の後ろに招きあげた。

 彼女は、まだ自分で馬を操れると言いかけたが、自分の雪のように白い牝馬が数ヤード離れたところに動かず伏しているのを見た。首が捻じれ、脇腹には矢が何本か突き刺さり、しばしの間、彼女は最期に乗馬に出かけたときのことを思い出していた。森の中の狩りで、自分の牝馬に跨り、何が起きようとも自業自得とギャスパードから告げられた日だ。
 もしもその時わかっていたのなら、彼女はその場で彼を刺し殺し、すべてをおしまいにしていたであろう。

 彼らは馬を猛然と進めた。ミシェルの長剣は断固とした弧を描き、歩兵たちの間を切り開き、馬上の敵を寄せつけなかった。しばしの間、戦いの混沌のおかげで、彼らも単なる別の乗り手とみなされているようだったが、そのうち彼女は蹄の音の向こうから、自分たちの素性に気が付いた叫び声があがるのを聴き、彼らの回りに矢が一層降り注ぎ始めた。その一本が彼女の脛当てに当たって跳ね、彼女は今や鎧を着けていない自分の背中に汗が流れるのを感じた。しばしの後、ミシェルが盾を掲げ、彼女の顔から手のひらの幅ほどもないあたりで、それに一本の矢が当たって粉々になった。

「ありがとう、わたくしのチャンピオン」 彼の後ろで馬に跨る彼女の声はつかえながらだった。
「愚かでした、陛下。前にお乗りいただくべきだった」 彼は突き出してきた槍もろとも、槍兵を斬り捨てた。

 ようやく彼らは密集した戦場を逃れ、安全な街の城壁に向かって突進し続けた。後ろで金属のぶつかり合う音がして、彼女が一瞬だけ振り返ると、ギャスパードの乗り手の一団が追跡してくる姿が見えた。

 セリーンがミシェルの肩越しに前を見やると、街の門が依然開いているのが目に入った。飛び出してくる兵士たちは、ハラムシラルのピエール伯爵の手の者たちだ。彼女は胸が一杯になり、自分自身の兵たちに思いをはせた。彼らの手数があれば、彼女はギャスパードとまだ戦えるかもしれない。

 だが、彼女が自身の血まみれの残兵たちの方を見ている間にも、彼女は、ピエールが自ら対処できなかった叛乱を代わりに鎮圧し、その街の四分の一を燃やしたこと、その叛乱こそが、自らをギャスパードの罠に誘い込んだことに、突然思い至った。
「彼らは味方?」 彼女はミシェルの耳に呼びかけた。
「程なくわかります、陛下」 振り向かずに彼が言った。

 街の衛兵の前に、馬上のピエール伯爵と彼のシェヴァリエたちが進み出てきた。ピエールの鎧は街中を覆う灰で煤け、その顔は疲労で曇り、汗で輝いていた。朝に現れた時以来、兜を被り直す暇もなかったようだ。

「輝けるお方」 彼らが近づくと、彼が叫んだ。 
 戦闘はハラムシラルの周辺には及んでおらず、ピエールとその手の者たちはいずれの側にも与していなかった。罠を発動するには絶好の機会だ、彼がその一部であれば。彼は武器を手にしており、それも至極当然のことだ。彼は彼らのほうに猛烈に馬を進めてきた。彼女は前に乗るミシェルが、攻撃の用意のため緊張するのがわかった。

「安全なところへ!」 ピエールは叫び、彼らを通り過ぎて進んだ。「街、または必要なら東のジェイダーへ逃げてください! 我々が彼らをできるだけ食い止めます!」
 セリーンは振り返り、ギャスパードの軍勢が後ろから、さらに右側からも彼らを猛追してくるのを見た。自らの兵で生き残った者は二十名もおらず、ギャスパードの兵が側面から彼女を釘付けにするのを阻止することはできない。

 ハラムシラルのピエール伯爵と、彼の二十騎からなるシェヴァリエたちは、彼らを通り過ぎ、接近しつつある敵の戦線に突撃していった。
 彼女は、ピエールの手勢の上に矢の雨が降り注ぐのを見た。ギャスパードの弓兵たちにとり、彼らは誤って味方を射る恐れがないほど十分に離れていた。ピエールは肩に矢を受けたが、馬を進め続け、自らとその手勢を、彼女とギャスパードの間に割り込ませた。

 そしてそれでも、戦線全部を食い止めるには足りなかった。
 彼女の思いを実際に聞いたかのように、ミシェルが呼びかける。「ギャスパードの兵がいくらか漏れてきます!」 彼女の目には彼が振り向いた様子がなく、彼が蹄の音だけから判断したのだろうかと不思議に思った。

「街までたどり着けますか?」
「おそらく」 その言葉の最後には疑問があり、彼が女帝を戦場から運び出す最中であっても、口にしたくないものであった。
「ミシェル、ハラムシラルに着いたら、そこで守り切れますか?」
「街の衛兵は叛乱への対処によって手薄になっており、ピエールはほとんどのシェヴァリエを伴って出たようです」 ミシェルが言った。

 矢が一本、彼の鎧の肩に跳ねた。彼らの目前で、ピエールの歩兵たちが容赦なく降り注ぐ黒い雨の中で死んでいった。「我々の兵たちと同様、彼らのほとんどは戦死するでしょう。ただの街の兵士たちでは・・・、降伏を交渉する機会は与えられるでしょうが、玉座までは救えません」
 セリーンはつばを飲み込んだ。ピエールとその兵たちを無駄に死なせるわけにはいかない。彼女の兵たちを無駄に死なせるわけにはいかない。

「冬の宮廷は?」
「守りのための建物ではありません、陛下」
 彼女はそのことを恐れていたが、彼女のチャンピオンの口から確かめたかった。であれば、行き先はジェイダーしかなく、東に馬で数日の距離にあるそこでは、レディ・セリル、間違いない忠誠を捧げる長きにわたる盟友である彼女が、彼女たちをかくまってくれるだろう。

「森に向かって、ミシェル」 彼女は言った。「ジェイダーまで撤退し、ヴァル・ロヨーに連絡を取り、帝国の総力をあげてギャスパードを粉砕するのです」
「仰せのままに、陛下」 彼は言って、彼の軍馬を左に向け、街の門からも、迫りくるギャスパードの手の者たちからも遠ざかった。

 彼女たちは馬を進め、その後ろでは、セリーンの血路を切り拓くために、オーレイの兵たちが死んでいた。

*** 

 血腥くなってまいりました。

 ウィークス氏はRPGコアファンの血が騒ぐのか、趣味が高じてしまってるのか、いきなり大槌、モール(maul)とかマイナーな武器持ち出すんですね。ここの読者には説明不要だからいいでしょうけど、知らなければ、なんで戦場で大槌振り回してるの?ってなる。リアル地球で武器として用いられたのはだいぶ最近で、中世で用いられたのはウォーハマー(ウォー・ハンマー、Warhammer)のほうですね。

 こういう場面で日本語のつらいところが、馬上なのか、徒歩なのか、いちいち触れると冗長だが、省略するとなんだかわけわからなくなること。英語はride(rode)で済む。
 単に騎馬と馬上の戦いに関する私の日本語の語彙が足りないだけという話もありますが、それを考えても、一般的に言ってだいぶ風化しちゃったんでしょうかね。

 笑い話ですが、アメリカでは自動車のブレーキをかけることを"pull over"、"pull up"と言う。実は免許試験でそれがアウトになった経験があり(教官から突然そう叫ばれたら即止まらないといけなかった)、なんのこっちゃと思ったのですが、馬の手綱を思い浮かべればたちどころにわかるんですね。手前にぐっと引くこと。馬(馬車)は止まります。
 原文中では、即座に止まることを"pull up short"と言ってますね。

 馬具についての日本語はあらかたちゃんと残っているので助かりますが、鞍(くら)とか手綱(たづな)はともかく、轡(くつわ、つわ)、鐙(あぶみ)、拍車(はくしゃ)とか、わからんで書くわけいきませんから調べるの面倒。
 しかも、あちらの馬具と完全に一致しているわけでもない。拍車(spur)は西部劇に出てくる「輪拍」を思い浮かべますが、欧州中世では突起だけの「棒拍」。だから本当は「拍車」じゃないんだ。日本は違うだろうと思って調べると、やっぱあの形なわけないですね。鐙に突起部があったそうな。 

 かつて日本列島には軍馬、使役馬、野生馬、江戸時代で何十万頭、戦争前後で百万頭以上、ものすごい数の馬がいました。いつごろから競馬馬(外来だし)だけになったのか。それは、日本人がキツネに騙されなくなった頃ではないか、という本がありました。昭和30年代頃だそうで。

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