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2014年4月15日 (火)

The Masked Empire 2(3)

 第二章の最後です。

 いいところでやめんなよ、って言われてもしょうがない、小説だから。

***

 サー・ミシェルは、自室の寝台の下に手紙を見つけたとき、しばらくぶりに怖気をふるった。サー・ミシェル・デ・シェヴィンとの宛名は、最初は丁寧な筆致であったにも関わらず、デ・シェヴィンの部分で歪み、引っ掻いたようになっていた。

 サー・ミシェルが手紙を開くと、時間と場所のみが記されていた。セリーンのチャンピオンとして女帝の日程は暗記しており、午前の貿易大臣との面会は特に問題ないが、午後には、昨夜の舞踏会の後もヴァル・ロヨーに留まっている貴族たちと狩りに出る予定だ。その時には、彼は女帝の傍らにいなければならない。体裁を保つためもあるが、多くの政権交代が狩りの最中の事故に伴って起きていることも理由だった。手紙の主との会合を短く済ませれば、時間には間に合いそうだ。

 女帝のチャンピオンは、宮廷生活の周辺部を歩んできた。デ・シェヴィンの名は貴族の出自を示すが、彼は一切の個人的野望を抱くことも、女帝とシェヴァリエの名誉以外に忠誠を抱くことも避けるよう求められていた。暗殺者や挑戦者から身を挺して女帝を守ることは誓ったが、彼は女帝の衛兵であると同時に親密な友人でもあり、彼女から沢山の秘密を打ち明けられ、また女帝不在のときにはその目や耳となるよう求められていた。

 彼は、戦いや公的な場面では女帝自身の生きる権化であり、それはギャスパードが、テヴィンターやフェラルデンと対決しているときにはオーレイの生きる化身であるのと同じであった。とはいえ、比べられるのはギャスパードも御免だろうが。

 彼は、戦いやすいように工夫された乗馬用の服に着替えた。召使用の通用門から宮廷の外に出るとき、マスクを外して懐に仕舞った。ヴァル・ロヨーをマスク無しで歩けば、彼もただの人に過ぎない。

 急ぐつもりはなかったが、足取りは早まった。宮廷近くの富裕層の住む地区を離れると、左手の丘の上に、実際には要塞の一部であるタワーと緑の公園が見えてきた。アカデミー・デ・シェヴァリエだ。 

 その公園の芝生には、シェヴァリエの他には稽古を受ける学生しか立ち入れない。今、学生たちは、大きな樹木の上によじ登って、教官たちが樹木の上に投げ掛けた巻布を手にして降りてくる最中だ。彼らは地面に着いた途端に剣と盾を手渡され、打ちかかってくる教官の模擬剣から身を守らなければならない。しばらくすれば、巻布が樹木の上に投げ戻され、また最初からそれを繰り返す。 

 ミシェルにとって、アカデミー時代がこれまでの人生最良の生活だった。彼は、モントフォートのガイ伯爵から血統を証明した推薦状と、学費分の金貨を受け取り、それ以外なにも持たずに入学した。そこでは、身体が言うことを利かないくらい疲弊しても立ち、呼吸し、動く方法を学んだ。大剣、剣と盾、大小二刀流などの剣技、軍馬と一心同体になること、訓練されていない馬でも殺されないように乗りこなすこと、プレート、チェイン、レザーなどの鎧それぞれを着て有利に戦うことを学んだ。
 さらには、シェヴァリエの名誉ある歴史、また命に代えても任務と武勇を守ること、戦いで仲間を守り、名誉のためには死も辞さないことを学んだ。 

 アカデミーでの試練が終わると、彼は他の上級生たちとともに馬車に乗せられ、夜のスラム街に連れ出された。身体も精神も鍛えられたと教官から告げられると、強い酒の入った袋を渡されて馬車から降ろされた。そして、貴族の男女がここのエルフたちに近頃頻繁に襲われていることを知らされ、オーレイのシェヴァリエとして、奴らに正義の剣を食らわせろ、と命じられた。

 ミシェルは、その話がでたらめであり、かつ、この最後の試練では、それが真実であるかどうかには意味がないことにも気づいていた。彼は酒をあおると、自分の剣の腕前を試しに向かった。

 サー・ミシェル・デ・シェヴィンは過去を振り返らない。 
 彼はアカデミーに背を向け、スラム街に入って行った。 

 彼は、手紙に記されていたみすぼらしい酒場に着いた。この朝の早い時分、中には他に行き場のない酔っ払いと盗賊だけしかいなかった。
 メルセンドレ、昨夜の晩餐会に招かれていた黒髪のバードが、今日はドレスではなくレザーを身に着け、腰にはリュートの代わりにナイフをぶらさげ、机にひとりで腰かけていた。 

 彼女はミシェルに微笑み、愉快そうに呼びかけた。彼が腰をおろして用件を質す。バードはミシェルに、自分の幼年期のことを思い出してみてもらいたいと謎をかけた。ミシェルは机がきしみ音を立てるくらい強く握りしめる。シェヴァリエには冗談が通じないくらい、自分もそろそろ気づかなければいけない頃合いだ、とバードが言って、機転だけで生きていくのは危険な人生なのだ、とうそぶく。
 そして、自分たちが訓練した若い貴族の血が、実際には貴くないかもしれないとの疑いがもたれたら、シェヴァリエたちはどう思うだろう、そのときは笑うのだろうか、とミシェルを挑発した。

 今や断絶したとされているシェヴィン家の遠い親戚に過ぎないことを揶揄されたのは、お前からがはじめてではない、とミシェルがバードを睨み付けながら応じる。そして、自分の出自への疑念は、自分の名誉への疑念と同義であり、面倒な公式の審理を経て疑惑が晴らされた頃には、糾弾した歌い手は間違いなく死んでいるであろうと恫喝した。

 メルセンドレは言葉を口にしなかった。脅しが利いたことに満足したミシェルは、何が望みだと問いかける。バードが欲しがる品を自分が持っていない限り、ここにわざわざ呼びつけた意味はない。

 バードはくすりと笑うと指を鳴らした。ミシェルの背後で、酒場の中にいた男たちの全員が一斉に剣を抜いた。

 サー・ミシェル、望みの品はとうに届けていただきました、とバードが言った。

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