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2014年4月 6日 (日)

The Masked Empire, Chapter 1 (全訳2)

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 貴族が公共の場で身に着ける顔半分を覆うマスクは、その召使いたちのマスクとよく似ているのが常だが、後者のものは贅沢さが少なく、また貴族が流行に合わせていくつかのマスクを持つ余裕があるのに比べると、変化に乏しい。主人の家系のマスクが、象牙から削り出され、縞瑪瑙と黄金が散りばめられた獅子の形であれば、その召使いたちのマスクも、同様に獅子の形ではあるが、黒に塗られて真鍮の線が描かれている。マスクは外出時の召使いを守る役目があり、貿易商や商人が召使いに示した侮辱は、そのまま主人へのものになることを警告している。他の家の召使いにとっては、マスクは相手をたちまち見分ける手段である。潜在的な味方であることを・・・、あるいは潜在的な敵であることを。

 ヴァル・ロヨーの宮廷内で公的な場に出ることがある召使いが身に着けるマスクは、女帝セリーンのそれとよく似ている。彼女のものが月長石を散りばめられているのに対して、召使たちのものは単にエナメル加工されたものか、上級の召使いなら象牙から切り出されたものであり、黄金と菫色はただの塗料であった。ヴァル・ロヨーの召使いたちは仮面の下の顔を白く塗っており、特別な立場であることを示している。

 来訪者が黄金と菫色に飾り付けられた青白い顔の海を見ても、見分けはほとんどつかない。女性たちが身に纏う給仕の衣裳、男性たちのぴったりしたズボンは、どちらも最先端の流行に即して仕立てられ、皇室の色で染め上げられている。衛兵たちと、決して公的な場面に出ない、例えばコックやその助手たちのような召使いたち、私室の清掃人たちは、顔を曝している。
 だが、すべての召使いが顔半分を覆うマスクを身に着ける目的は、壮麗さを誇示するためであって、匿名性を維持するためではなかった。そうでなければ、ブリアラのマスクはエルフを示す耳までを覆っているはずである。

「あんた、そこ、ウサギ!」ブリアラが大広間を通り過ぎようとすると、シャトレイン(宮廷の家政一切を取り仕切る女主人、その職名)が呼び止めた。
 ブリアラは振り返った。「ご主人様?」
「追い出されたんだね?」シャトレインは大広間を振り返り、召使たちが梯子に乗って、女帝セリーンの出自、ヴァルモント家の黄金の獅子が正しい高さになるように大きな紫色のバナーの位置を直している方を見た。「普通の日であれば、あんたに女帝陛下の気付けをさせてもいいんだが、舞踏会だから、連中何もかもきちんとやりたいんだろう」彼女は眼を細めた。「左が高い!」

 ブリアラはシャトレインが数えきれないくらいの舞踏会の準備をしてきたことを知っている。この女性はいつも怒っていて、ときにはぶっきら棒になるが、そうできる相手なら誰にでも自分の不安をぶちまけるのだ。だが今日は違う感じがした。彼女の辛辣さには熱がこもってなく、召使いは皆、セリーンが最も公式な場に出るための着付けを行う女性たちとブリアラがうまくやってきたことを知っているのだ。そうしなければ、彼女たちの敵になってしまうのだが。

 それだけではなく、シャトレインのマスクの下にほつれた髪の房がいくつか挟まっており、それは宮廷のどの召使いであってもまったく許し難い不作法なのだった。マスクを外し、また急いで着け直したのではない限り、シャトレインが気がつかないはずがない。
「はい、ご主人様」ブリアラは言った。彼女は幼い頃からセリーンの侍女であり、それはセリーンがまだ、玉座を争う数えきれない候補者のうちのひとりの娘に過ぎなかった頃だ。今やヴァル・ロヨーにおいて、ブリアラは公的な場面で身に着けるマスクを与えられた数少ないエルフのひとりである。

「では、何か仕事をやって頂戴。厨房に走って、コックと娘たちに話して。ここのところ空気が乾いているので、お肉が干からびないようにしないとね」彼女はブリアラに向きなおった。「去年の秋、レディ・モンツィマードが、サークル・オヴ・メジャイのほうがここよりまともなアヒルを出すと言ったの」彼女が睨み付ける目が細くなるのが、マスクを被っていてもわかった。「もし今年もそんなことになったら、娘たちに鞭打ちを食らわしてやると言ってきな」
「はい、ご主人様」ブリアラはまたそう言って、敬意を間違いなく示すため首をすくめた。宮廷召使いの階層は厳格で明確であり、ブリアラがセリーン付きの侍女という立場のためその命令系統から外れているとはいっても、そこから完全に解放されているわけではまったくなかった。

「ああ、心配いらないよ、ウサギ」シャトレインは親しげに彼女の肩を叩いた。そうするとき、ブリアラは女性のカフの留め金がはまっていないこと、シャトレインの着付けをする召使いが今までしたことのないような過ちを目にした。「怠けた仕事にメイカーのお怒りを与えるだけだよ。お前を鞭うったりは決してしないから。さあ、お行き」
「はい、ご主人様」ブリアラはみたびそう言うと、召使いたちにバナーの左が下がり過ぎだと叫んでいるシャトレインを残してその場を立ち去った。

 
 床は良質なネヴァラン絨毯に覆われ、壁には古典的な絵画と渦巻き型の飾りしっくいが並んでいる大広間を通り過ぎる間、ブリアラは考えた。
 シャトレインは十年以上にわたってセリーンに忠実に仕えてきた。彼女は職務にとても熱心で、彼女の威信にかけて、舞踏会の日に仕事から気を逸らすようなことはないはずであった。留め金と髪の房は、新しい恋人、彼か彼女かが強引に言い寄って、シャトレインの時間を少しばかり横取りしたことを示している。

 もちろん、ただそれだけのことなのかもしれないが、ヴァル・ロヨーでは、すべてが「ゲーム」の一部であり、重要な地位にある召使いの秘かな情事ですら例外ではない。ブリアラはその「ゲーム」を見ながら育ってきたし、セリーンの手ゴマのひとつとして、それに勝つ覚悟を決めていた。
 ブリアラの最悪の予感が当たれば、シャトレインは巻き込まれていることにも気づいていない。セリーンの困窮はシャトレインの困窮でもあり、メイカー許したまえ、仮にセリーンが亡き者となったり、その権力を喪ったりしたら、シャトレインも職から外されることは間違いない。もしこれが情熱的に過ぎる恋人の話だけでは済まないのであれば、シャトレインは道具であり、積極的に策略を企む一味ではない。
 問うべきは、誰の道具なのかだ。

 厨房の熱気は息も詰まるほどで、世界中ありとあらゆる地方の料理が支度中であった。コックのリレーヌは、太った赤ら顔の女性で、その前腕は若い頃の事故によるやけどの跡があった。前任のシャトレインがリレーヌのことをでしゃばリ過ぎると考えた結果を「事故」と呼べるのであればだが。ブリアラは彼女を好いていて、その女性を守るためできることはしたのだが、「ゲーム」の複雑さを理解するよりも菓子パンを焼く方が得意な女性だった。

「ミス・ブリア!」とリレーヌは呼びかけ、ブリアラが入ってくるのをにこやかに出迎えた。「輝けるお方のために晩餐会が始まるまで何かお入り用? ライデスのおいしい菓子パンがあるのよ」
「ありがとう、リレーヌ、でも必要ないわ」彼女はリレーヌが使っている女たちを見た。ヒューマンも何人か含まれているが多くはエルフであり、誰もマスクを身に着けていなかった。貴族の目に触れることがないのである。「シャトレインはアヒルを心配しているわ。たいそう・・・、きつい感じで」
 リレーヌは、感謝をこめて頷いた。「あたしが自分でやるわ」 彼女はやけど跡のある手から小麦粉をはたき落とすと、ソースの中でローストされたアヒルがぐつぐつ煮えている鍋のほうに歩み寄った。
「それから、誰か女の子を遣わして、シャトレインが直前にスケジュールを変えていないかどうか確かめさせたほうがいいのじゃないかしら?」とブリアラが申し出た。
「そうね、ミス・ブリア」リレーヌは微笑んだ「あなたのところに送るわ」
「ありがとう」

 ブリアラは厨房を後にすると、宮廷の中を見て回った。大広間ではシャトレインがバナーの位置決めを終わらせており、今度は食卓の配置について大声で指図していた。広間に接する手の込んだつくりのいくつかのカード・ルームは、それぞれ異なる国のスタイルに飾り付けられており、大きな熊の毛皮と金のマバリ犬の彫像が置かれたフェラルデン風から、退廃的なシルクと魔法のランプのテヴィンター風まで揃っていた。バルコニーは大広間を見渡すことができるとともに、そこから外の空気を吸うため退出することもでき、ヴェランダからはきらめく大理石の噴水群が点在する迷路状の庭園が眺望できた。

「おい、そこ、ナイフ耳!」
 大抵親しげに見下す場合の「ウサギ」という呼びかけなら、ブリアラも多少歯を食いしばる程度で済んだが、「ナイフ耳」は侮辱以外のどんな意味でもなかった。仕事をするには怠けすぎ、盗みもできないくらい愚かな掃き溜めのごみを呼ぶときにヒューマンが用いる言葉なのかもしれない。
 宮廷衛兵の隊長はマスクを身に着けていなかった。衛兵は誰もがそうだった。暗殺者が紛れ込み、武装したまま女帝に近づくことがあまりに容易になるからだった。彼の尖った顔は貴族の血筋を示しており、外衣の下には、ヴァルモント家の黄金の獅子が鮮やかに描かれた儀式用の胸当てが輝いていた。

 ブリアラにとってより重要なことは、彼の胸板の留め金のひとつが斜めに曲がっており、片方の耳の下に恋人に噛まれたときできるような腫れた跡があったことだった。
「こそこそ隠れまわって、仕事をさぼるつもりか、ナイフ耳?」彼は嘲りとともに言った。
「女帝陛下から、今宵の晩餐会の準備怠りないことを確認するよう申し付かっております」ブリアラはお辞儀をしなかった。衛兵の隊長は彼女が当然そうすべき重要人物だが、ブリアラはそう望んだときには規則を迂回するだけの力を持っており、今がまさにその時だった。
「都合のいい話だな」彼は鼻を慣らし、今度は別の興味を抱きながら彼女を見た。「必死に隠そうとしてるんだろうが、お前の頭から飛び出している汚い耳を見逃してやってもいいくらい、いい身体してるじゃないか」彼は近づき、彼女から庭園の視界を遮った。「たぶん、手綱みたいに引っ張れるんじゃないのか」彼からは汗の匂いの他に、シャトレインのお気に入りの香水、ラヴェンダーの匂いがした。
 彼女は室内に踏み下がった。「女帝陛下がお許しになるとは思えません」彼女は振り向くと後ろも見ずにその場を立ち去り、そしてまだ思案していた。

 衛兵の隊長がシャトレインとよろしくやっていて、今、彼女が立ち去るまで嫌がらせを続けた彼が実際注意をこらしていたのは、彼女に眼下の迷路の庭園を見せないようにするためで・・・、だから視界を遮ったのだ。ブリアラの記憶によれば、隊長は前任者の死を受けて最近登用された。その以前は軍に所属していた。ブリアラは配属部隊までは知らなかったが、大公ギャスパードが兵士たちから人気を集めていることを考えれば・・・。
 誰が、どこで、はこれでわかった。あとは何を企んでいるかを突き止めるだけだ。

 彼女は、赤いヴェルヴェットの絨毯を大理石の段に敷き詰めた曲り階段を急いで降りたが、迷路の庭園に続く扉に辿り着くまえに、後ろから呼びとめられて足を止めた。
「ミス・ブリア!」ブリアラが振り返ると、厨房で働いていたエルフのひとりが急いで追いかけてきた。「探すようにいわれてきました」
「ありがとう、ディシレラ」ブリアラは若い女性に微笑んだ。「なにか見つけた?」
 ディシレラは声を潜め、細い指先で袖口を神経質に引っ張った。「シャトレインが、バードのメルセンドレを今夜の招待リストに追加しました」
 ブリアラは頷いた。「ありがとう。さて、リレーヌからもうしばらくあなたを借り受けることにして、今日衛兵隊長が何をしていたか探ってもらえるかしら?」
「もちろんです、ミス・ブリア。リレーヌはあなたを手伝うように言ってましたから」
「よかった」ブリアラは迷路の庭園のほうに向きなおった。「私はあそこに行く。狩りのため」

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