フォト
無料ブログはココログ

« 【DAI】コンパニオン | トップページ | The Elder Scrolls Online »

2014年4月29日 (火)

The Masked Empire 5(2)

第五章はもうあと一回分ありそう。

*** 

 市場の伝手からめぼしい情報を集めていたブリアラのところに、フェラッサンが再び姿を現した。彼とはこの先何か月も会うことはないと思っていた彼女は、予期せぬ再会を喜んだ。
 外套こそ旅先の汚れもなく、いつもどおり小奇麗だったが、フェラッサンの顔つきは強張り、やつれていた。ブリアラのマスクを被った愛すべき顔が恋しかった、と軽口を叩きながらも、彼が現れた本当の理由は、より現実的な問題、ハラムシラルに関するものだった。

 ふたりは、ほんの数日前に会話を交わした公園まで歩いた。ブリアラは何も知らなかった。芝生の上では裕福な商人の息子たちが皮袋の葡萄酒を回し飲みしており、意地の悪い視線をふたりに向けてくるが、彼女はそれを無視し、声を潜めて言った。自分の鳥たちはとうに戻ってこなくてはならない時分だが、いつも秋には遅れ気味になる。ウェイキング海を渡ってやってくる船からも何の便りも得られなかった。

 フェラッサンはうんざりしたような笑顔で、古代の骨に鞭打ってやってきたのも無駄ではなかった、と言った。彼によれば、ある阿呆なシェムレンの貴族が、エルフの商人を理由もなく殺して残忍な仕打ちをした。エイリアネイジでは怒りのあまり、ミエンハレルを口にする者たちもいる。
 衝撃のあまりの大きさのため、ブリアラは笑い出してしまった。毎日どれだけの数のエルフが惨殺されているかわからないのに、ひとりの商人がどうしたというのか。
 乾いた森のどこに稲妻が落ちるかはわからない、と言ってフェラッサンは芝生に腰かけた。だが煙の臭いはする。彼は意味のある数少ない細部、貴族の名前と死んだエルフの名前だけ伝えた。

 エルフが蜂起しても鎮圧されるだけ、ブリアラは腹立たし気にあたりをうろうろ歩き始め、苛立ちを口に出した。女帝にとって何の助けにもならないどころか、最悪の事態に違いない。
 そんなことを言えば惨殺されたエルフの友人たちは心外に思うだろう、彼らは女帝の手助けを求めているに違いない。フェラッサンの言葉に突然振り返ったブリアラは、当たり前だ、と叫んだ。女帝は大義のためディヴァインに枉屈し、ギャスパードと対峙している。彼女の立場が危うくなれば、エルフにとって到底ましとは言えないギャスパードの相手をしなければならなくなる。

 自分がひとつ学んだことがあるとすれば、大きな政変は自分の考えたとおりには起きないということだ、とフェラッサンが言った。だがブリアラなら、オーレイの女帝が事態に対処する際の姿勢を変えることができるかもしれない。フェラッサンは、この報せをヴァル・ロヨーの誰よりも早くブリアラに伝えていた。

 商人の息子のひとりが仲間に向かって投げた酒袋が大きく逸れた。フェラッサンは間髪入れずに立ち上がり、二歩動いてそれを空中で掴むと、振り返りざま中身を一滴もこぼすことなく投げ返した。若者たちは、自分たちのおふざけにエルフが割り込んできたことに明らかに腹を立てていたが、あまりに見事な動きであったので、笑って頷いただけだった。

 師匠が正しい、とブリアラが礼を言った。フェラッサンは優し気に微笑むと、行け、と促した。 

 宮廷に戻る道すがら、ブリアラはマスクを被り直し、富裕層の住む一帯を不作法なくらい早足で進んだ。宮廷の中に入ると大広間に急ぎ、途中シャトレインが呼び止める声も無視した。後から叱責されるくらいどうということはない。

 セリーンは大学の管理官と会議の最中だったが、ブリアラは給仕の女性から茶器の載った盆を奪うと、お辞儀して中に入った。管理官は、予算増額を請願しつつ、どれだけの庶民の学生を入学させれば女帝の意図に沿うのか確認を求めていたが、ブリアラは長年の訓練によってその発言を遮ることなく給仕した。セリーンは、茶器を差し出すブリアラのほうを一瞥した。

 ブリアラは茶盆を給仕の女性に返すと、大広間をうろつきながら考えを巡らせた。
 完璧に抜け目なく進めなければならない。人はいつでも簡単に死ぬ。ブリアラは、レディ・マンティロンがセリーンの玉座への道を万全なものにするため、彼女の両親を含む召使い全員を殺した日にそれを学んだ。だが正しい言葉を用いれば、多くの命を救うことができる。

 避けられない死のため涙する贅沢は許されない。その点では彼女は、市場のエルフよりも、自分が仕える貴族たちに似ているかもしれないと思った。ときに吐き気を催す考えだが、それもまた、数多くの死を食い止めることができるなら仕方ない。 

 数分の後、セリーンは人払いをして、ブリアラを「石の間」に招き入れた。女帝は開いた窓のそばに立ち、庭園を眺めている。その部屋の名は、床から天井までの全面を様々な色彩の象牙で覆われた壁の一面に由来する。そこには、グレイ・ウォーデンたちが伝説のグリフォンに跨り、ダークスポーンの大群に立ち向かう様子が描かれている。ウォーデンたちとそのグリフォンはもっとも明るい黄金、空は蒼白、そして巨大なアーチディーモンに率いられたダークスポーンは煤けた赤で表現されていた。 

 部屋の他の部分には、伝説の軍団の戦利品や美術品が並ぶが、由来を詳述されているものはひとつもなかった。枠のはめられた大きな地図は、第二のブライドが最盛期にどれだけ広大な範囲に渡って猖獗(しょうけつ)を極めていたかを示している。部屋の角、ガラス棚の中に安置された甲冑一具は、ワイズホプトに籠城するグレイ・ウォーデンをダークスポーンの包囲から救出するため、ドレイケン皇帝がオリージャン軍を派遣した時代、ディヴァイン・エイジまで遡るものだとされている。

 セリーンは身振りでブリアラに、その脚がグリフォンの爪の形を模した椅子のひとつに座るよう指図した。それから、市場で何を見つけたかわからないが、夕刻まで待てないのかと尋ねた。
 ブリアラは、ハラムシラルのエルフたちが騒然となっていること、メインセライ卿が正当な理由なくエルフ商人のひとりを殺害したこと、エルフたちはミエンハレルを叫んでいることを告げた。沈黙するセリーンに、ブリアラはそのエルフの言葉の意味を伝える。増長するヒューマンに向けられるもので、「短い剣への敬意を忘れるな」。

 叛乱が起きる。セリーンの言葉は肌寒い秋の空気を切り裂いた。セリーン自身に対して。今まさに。 

 叛乱ではない、と言ってお辞儀をしたブリアラの息は震え、手はグリフォンの頭の形をした椅子の肘掛けを握りしめていた。彼女が恐れていたのはこれだった。ハラムシラルのエルフは女帝の姿を目にしたことすらない。彼らの不満は女帝に対してでも、オーレイに対してでもない。陛下の帝国で理由なく死んだ者に対し、正義がもたらされることだけを望んでいる、とブリアラは主張した。

 民の望みに意味はない、セリーンは振り向くと窓から離れた。彼女はすでに二正面での戦いを余儀なくされており、 これ以上戦線を拡大することはできない。
 その必要はない、とブリアラが言って立ち上がり、セリーンの前を遮った。彼らに正義を与えればよいだけだ。

 エルフひとりの代わりに貴族ひとりを差し出すわけにはいかない。セリーンはマスクを乱暴に脱ぎ去った。彼女の顔は紅潮しており、不眠のため両目は赤く充血していた。メイカーの御前にはエルフもまた平等な市民であり、玉座に就く者も同様、とでも宣言せよというのか。だが、今玉座に就いているのはセリーン自身だ。

 そうすべきではないのか、と言ってブリアラも自分のマスクを脱ぎ、落ち着きを取り戻す間を稼いだ。信じてもらえないのなら、自分は陛下がまだ愛想を尽かしていないだけの、のぼせ上った厨房の女に過ぎない。 
 セリーンは振り向いて、マスクを長椅子の上に放り投げ、巨大な象牙の壁の前に立った。そして、ギャスパードの頭文字を玉座に刻むような真似はできない、と言った。

 黄金と赤色の壁の前に立つ女帝と愛人の顔は蒼白になっていた。セリーンは睡眠を敵、またはほとんど必要悪とみなしているようだったが、カークウォールの一件以来、高まる緊張への不安のため、ほぼ毎朝夜明け前に目覚めている。それが十分早い時間であれば、ブリアラは彼女を肉欲に誘い、恍惚に浸らせ、その後で短い睡眠をとらせることもできただろう。だが最近では、それすら役に立たなくなっているのかもしれない。

 それは承知している、とブリアラがため息をつき、茶器の載った小さなテーブルのほうに歩み寄った。茶を淹れた器をセリーンに差し出すとき、やさしくその肩に手を置いた。

 エルフを救うために貴族たちの背中を押してみよう、茶器を受けとったセリーンは、器を口まで運んでゆっくりと吸い込んだ。女帝の強張った肩がこれほどほぐれなかったことは、ブリアラの知る限り未だかつてなかった。 

 アンドラステそのお方がハラムシラルをエルフにお渡しになって以来、女帝ほどエルフの民に助力を与えるお方はいなかった、とブリアラが言った。
 悲しいことに、エルフにハラムシラルを与える力は今の自分にはない。セリーンはかすかに笑った。

 ブリアラも微笑みを返し、女帝の手を取った。自分に提案があると言うと、長椅子のところまで彼女を連れていき、ふたりで座った。玉座がメインセライなる貴族に正義を下すことはできないし、そのため女帝にとってエルフの民は頭痛の種以外の何物でもなくなる。だが、自分なら手助けできる。

 ブリアラは息を吸った。自分をハラムシラルに派遣してほしい。
 セリーンはしばし黙り込み、やがて、メインセライを殺す気かと尋ねた。

 ブリアラは自信ありげに、事務的な話題であるかのように頷いた。自分にはエルフを導くことのできる伝手がある。求める血を与えれば、彼らが矛先をよそに向ける前に懐柔することができる。それは叛乱ではなく、街の衛兵にとっては真相不明な犯罪に過ぎず、もしも女帝が意見を求められたなら、無辜の生き物を殺すような野蛮な貴族は、身の守りこそ怠るべきではなかった、とだけ告げればよい。

 セリーンがブリアラの頬に手を寄せた。ふたりがキスをするとき、セリーンの腕がブリアラを強く抱きしめた。
 それから彼女は立ちあがり、マスクを手にして再び身に着けると、窓の方にゆっくり歩み寄ったが、その間物音ひとつ立てなかった。

「跡を残さず、手際よく、ブリア」と彼女は言った。
「輝けるお方」 ブリアラはお辞儀をし、旅支度のため引き取った。 

*** 

 「要約版」などと言っていると、上の文中、「レディ・マンティロンがセリーンの玉座への道を万全なものにするため、彼女(ブリアラ)の両親を含む召使い全員を殺した」というところなど、「お前、誤訳したんじゃねえん?」と、何とか細胞(あわわ)のようにあらぬ(?)嫌疑をかけられてしまいかねない。何とか細胞はあります!(じゃなくて)ちゃんと筋は通っています!

 でも、レディ・マンティロンが裏切ることなく、ずっと律儀にプロスパー/セリーン派だったんだね、というのは(書かれていないことを推理でもしなければ)ここで初めてわかる。トラスト・ミー、嘘じゃないよ。

 ブリアラの両親を含め、屋敷全部の召使い(セリーン以外の者)を皆殺しにしたのも、(レディ・マンティロンの)偽装工作。それによって(当然嫌疑をかけられる)玉座を争うギャスパード一派の動きを封じ込めるという苦肉の策。いや召使ごときはチェスゲームのコマですらない扱いだから、何人死んでも数に入らない。「苦肉の策」とは呼ばないね。 

 セリーンは(女帝でなければ)立派な学者になっていたでしょう、とブリアラが言うように、彼女は数学好き。オーレイの「ゲーム」をチェスや将棋に喩えると、目的のためには手駒をあっさり切り捨てるということになって、どうもギャスパードのほうが近い。
 セリーンは、まるで数学の証明問題を解くように、本質以外は全て無意味と見極める。または隠された答え(解)をいち早く見つける。そんな才能に秀でているのかもしれない。それって数学っちゅうか、論理学かな。

 だが、「セリーンが学生に『批判的考察(思考法)』を施した」と書いてあるのには思わず笑ってしまった。それってビジネス・スクールで良く言われる「クリティカル・シンキング」"critical thinking"そのもの。
 中世の時代にあるか、そんなの(いや、ここ欧州じゃなくて、セダスだから)。

 ゲイダーさんがクルセーダー(十字軍)とか平気で使ったり、ウィークス氏のこれといい、アナクロニズム(時代錯誤)と呼ぶべきか、あるいは広い意味で現代リアル地球の概念の混入と言うべきか。
 とても気になってしまうんですよね。

« 【DAI】コンパニオン | トップページ | The Elder Scrolls Online »

ゲーム」カテゴリの記事

Dragon Age Inquisition」カテゴリの記事

DA: The Masked Empire」カテゴリの記事

コメント

初めまして。

ドラゴンエイジ関連の情報をいつも提供して頂き大変感謝しています。

DAOやDAⅡの一ファンの立場ですとオーレイ帝国に対してはどうしても悪い印象を抱いていましたが、女帝セリーンの努力している姿を見ると今までのオーレイ帝国に対する悪い印象が変化して来ました。

DAⅡのダウンロードコンテンツの登場人物だったプロスパー公爵が本当に女帝の友人だったのも驚きました。

てっきり『自称』友人の取り巻きの1人くらいだと思い込んでいましたから。

後オーレイ帝国のシュヴァリエが意外と実戦的な事にも驚きました。

DAOのサマーソードのコーデックスに出てくるシュヴァリエは、貴族のボンボンという印象を持っていましたから。

ロゲイン公爵が諸侯会議でシュヴァリエの脅威を声高に主張していた事が、この小説でシュヴァリエの実戦的な訓練などを知る事で納得がいきました。

 ありがとうございます。力づけられます。

 本編でもこれから触れられるでしょうが、先代皇帝はセリーンの叔父。プロスパーはセリーンの母方の従兄(日本と違って遠縁でもそう呼ぶ)。友人であるだけではなく、一族郎党の絆で結ばれていた。DA2のMoTAで、プロスパーはクナリの重大な秘密を手に入れる役割を担っていましたが、それも女帝と固い同盟関係にあったからこそなわけですね。カークウォールの(場合によっては将来の)チャンピオンにあっさりいわされてしまいましたが(笑)。

 シャルルマーニュ(シャーリーメイン、カール大帝)の時代にその端を発する「シェヴァリエ」については、ただ単に「騎士」と訳したくないんですよね、少なくともDA世界では。(といっても意味は単に「ホースマン」だそうですが)。
 今更"Asunder"や上のようなレヴェルで紹介する気もありませんが、ゲイダーさんの小説第一作目"The Stolen Throne"では、フェラルデンの叛乱勢力と戦うオリージャン・シェヴァリエの勇猛凶暴ぶりが存分に描かれていました。

 もちろんミシェルもギャスパードもベスト中のベストです。貴族子弟のみ入隊を許されるということは、逆に名前だけを手に入れたい不相応な縁故入隊もいると思ってよいでしょう。訓練に生き残れるとは思えないが、金と地位があれば何でもできそう。

フェレルデンの貴族の息子達は自分の家の教育で鍛えられるイメージ(間違っているのかも知れません)がありますが、オーレイのシュバリエの教育の方が洗練されているように見えます。
やはり文化的にはオーレイの方が進んでいるんでしょうね。
ゲームではヴァル・ロヨーがどれほどの大都市なのか楽しみです。

フェラルデンの騎士、ナイトについては、結構あいまいですね。レッドクリフの騎士団は、玉座(君主)ではなく一領主であるイーモン卿に忠誠を誓っていた感じだし。それはそれでありですが、まだ国家として洗練されていないって感じですね。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: The Masked Empire 5(2):

« 【DAI】コンパニオン | トップページ | The Elder Scrolls Online »