フォト
無料ブログはココログ

« The Masked Empire 4(2) | トップページ | The Masked Empire 4(4) »

2014年4月28日 (月)

The Masked Empire 4(3)

 倉庫はスラムの基準からみてもおんぼろだった。土の地面に置かれた古い木箱の数々は腐りかけており、中身が何であったとしても忘れ去られてもはや台無しになっているだろうが、それでも高く積まれたその山は倉庫内部に迷路を作り出していた。床の汚れや木箱についた武器の傷からみて、ブリアラには、ここが密輸業者の密会や人殺しの死体遺棄に用いられる場所であることがわかったが、冷たい風は不潔な身体と安い麻薬の悪臭を運んできていた。

 倉庫のどこかから、剣戟の音と苦痛に呻く声がする。ブリアラは視界を確保するために、下手をすると崩れてしまいそうな木箱の山のてっぺんまで登った。フェラッサンが彼女に、先祖譲りの才能を敬いたい気持ちはわかるが、エルフは今は誰も木に登ったりしない、リスではないのだから、と茶々を入れる。

 バカ、とだけ応じたブリアラは、サー・ミシェル・デ・シェヴィンが、バードのメルセンドレの死骸のそばに立ち、片手にダガーを、もう一方の手に奪った長剣を構えている姿を見た。兵士がひとり倒れていたが、側面には他の敵が回り込んでいて、ミシェルの分が悪い。まだ少なくとも半ダースもの敵が残っており、ミシェルは脇腹の傷口をかばっていた。「左、それから右!」

 ブリアラの指図に従って、フェラッサンが迷路の中をミシェルのほうに近寄っていくと、彼女は弓を持ち上げ、狙いをつけ、息を吐き、第一の矢を放った。いつも快感を呼ぶ瞬間だが、彼女にはそれが、暴力への渇望なのか、セリーンも授かっていない天賦の才を持つ喜びなのか、定かではなかった。 

 少しの間ブリアラは、矢が液体のような空気の中を飛んでいき、ミシェルの左にいた男の喉を貫くまでの様子を、心の中でほとんど完璧になぞることができた。
 最初の男が倒れ、ミシェルが呆然とした面持ちになる間に、彼女は次の矢をつがえた。予期せぬ援軍に驚きながらも、依然として当代最良のシヴァリエの一人であるミシェルは、躊躇することなく倒れた男のいた場所に動くと、木箱の壁を背にして立った。 

 ミシェルが敵ふたりの突きをかわす間、ブリアラは他の兵士を探った。ひとりが彼女のほうに顔を向ける。彼女が放った矢はその男の鎖帷子ごしに肺を捉えた。他の兵士たちが皆彼女のほうを振り返ると、ブリアラは一番でかい男に笑顔を見せ、別の矢を放った。男は慌てて身を隠そうとしたが、ミシェルがその膝に剣を打ち込み、ダガーを喉に埋め込んだ。 

「オリージャン・シェヴァリエに背を向けるか、犬め」 床に伏した男の亡骸を蹴りあげてミシェルが叫ぶと、他の男たちがうろたえ後ずさりした。「潔く剣を交えよ、されば貴様らには不相応な名誉ある死を授けよう!」 
「その要もなし」 角から姿を現したフェラッサンが言うと、掲げた杖から巻き毛状の青い光が走り、残った兵士たちを捉えた。 

 空気がシューッと鳴り、氷の爆発が続き、立ったまま凍り付いた兵士たちの表面はつやつやと輝いた。ひとりは絶叫をあげる最中の姿のままだった。
 フェラッサンが木箱の山のひとつに狙いをつけ、杖から緑色の炎を噴き出してそれを切り裂いた。凍り付いた兵士たちの上に、崩れ落ちてきた沢山の木箱が降り注ぎ、まるで棚一杯に並んだ陶磁器を金槌で粉々にしたときのような音が響き渡った。

「私の弓で簡単に倒せたのに」とブリアラが言った。山のようになった木箱の残骸のまわりで、赤っぽい色の氷が滑り、飛び跳ねている。
「ああ、かもな」 フェラッサンがそう言って、杖を回した。

 荒い息をしながら、ミシェルが困惑した顔つきでブリアラを見上げた。「ふたりに借りができたようだ」
 「その話は、無事宮廷に戻ってから」とブリアラが言って、木箱の山から慎重に床に降りた。スカートが破れていたが、今はそのままにしておくしかない。

 その声でミシェルが瞬きした。「ミス・ブリア? 陛下の侍女の?」
「何だって? いや、そんなバカな」 フェラッサンが驚いたような身振りをしてみせる間、手にした杖は、元の棒切れの大きさになるまで縮んでいった。
「あなたをここから連れ出さないと、サー・ミシェル」 ブリアラは彼の傷を負った脇腹を見た。「歩ける?」

 「もちろん」 彼は床に倒れている男の死骸のひとつに振り向いてその眼窩から小さなダガーを引き抜き、次にバードのメルセンドレの亡骸のほうを見た。彼は彼女の懐を手際良く探り、それから立ち上がった。「とっとと出よう」

 三人は倉庫を後にした。フェラッサンとミシェルは、それぞれシェヴァリエとデーリッシュ・エルフの相手を値踏みするように見ていた。ブリアラはよそを向いていた。
「連中はどうしてあなたを捕えたの?」 通りに出てから、彼女が尋ねた。中の戦いの騒ぎを聞きつけた者がいたとしても、他に漏らしたりしないだろう。広場のエルフたちはヴェナダールの回りで商売に忙しく、ブリアラと連れたちのほうに目を向ける者はいない。

「メルセンドレは、今日一日拙者を陛下のそばから遠ざけておくようにギャスパードから命じられた、と言っていた」 ミシェルは倉庫を振り返った。「まんまと嵌められた」
「どうやって?」 ブリアラは、ミシェルが後ずさりするまで詰め寄った。「どうやってあなたをここまで連れ出した?」
「騎士の名誉にかけて・・・」
「黙りなさい、ミシェル」 彼が瞬きする間、ブリアラは彼をまじまじと見つめた。「あなたは宮廷から酒場におびき出された。あなたは些細なことで任務を忘れたりしないから、彼女はあなたを何かで脅したか、惹き付けた。あなたは亡骸から何も見つけていないから、彼女はあなたのものを何か盗んだわけじゃない。友人からの偽の手紙、家族から、かしら?」 彼はひるんだが、片方の目の隅に浮かんだごくわずかなたじろぎには、自分でも気が付かなかっただろう。「でも、スラムの酒場に陛下のチャンピオンの友人なんているはずがないし・・・、あなたに家族は残されていない」 またしても、たじろぎ。家族がカギだ。

「尋ねても無駄だ、ナイフ耳」 ミシェルが言って、先刻奪ったダガーを片手で強く握りしめたが、持ち上げはしなかった。「陛下が尋ねるつもりなら、侍女を送ったりはしない」
「当たり前よ、バカ。陛下が送り込んだのは密偵」 彼女はフェラッサンのほうを向いた。「ナイフ耳」
 フェラッサンはあくびをかみ殺した。「傷ついたなあ。君も傷ついたか?」

「いいえ。彼がそんな呼び方をしたことなんて、これまで一度もないから。召使を呼ぶときだって、慌てているときだって」 ブリアラは微笑んだ。「つまり、彼は何かを隠していて、私たちの目を逸らそうとしている。何からなの、ミシェル? 家族の過去の醜聞? 違う。急な報せであなたを誘い出すことはできないから・・・、ああ」 彼女が満足げに頷くと、彼の顔面は蒼白になった。「偽の血筋。ブレヴィン伯爵は、あなたに類稀なる才能を見い出したに違いない」
「すっとぼけ通す顔つきができる才能じゃないな、きっと」 フェラッサンが言った。
「マスクを被り慣れていると、ちょっとした表情に心の中が出ることを忘れてしまうのよ」
「そして、シェヴァリエは貴族しか受け入れない、そうじゃないのかね?」 フェラッサンが尋ねた。
「その通り。さらに言えば、偽の血筋を名乗った者への罰は死罪」 ブリアラはミシェルの手を見下ろした。「庶民? いえ、それだけじゃない。ナイフ耳に力を置きすぎだった。 エルフの母親?」
「黙れ」 そう言ったミシェルの声は、囁きと大差なかった。長年訓練を受けたブリアラの目には、彼が戦いのためにダガーを握り変えたことがわかった。
「ダガーの手を緩めなさい、サー・ミシェル。こんな昼日中に、誰にも気づかれずに私たちふたりを殺すなんて無理でしょう、それだけじゃなく・・・」 彼女は彼に冷たい笑顔を見せた。「私の姿が消えればセリーンが気づくに決まってるし、彼女はとことん調べ尽くすはずよ」

 ミシェルはダガーを降ろしたが、その手は震えていた。「お前はあのバードよりたちが悪い」
「あのバードは、あなたを辱しめようとしていたし、あなたが始末しなければ、逆にあなたを処刑していたのよ。その彼女の計画を、まさか本気で私に引き継がせたいの?」 彼女は彼に指を突きつけた。「ギャスパードは陛下を脅かしている。そんな大変なときに、陛下のお側にチャンピオンをつけずに放っておくなんて私はしない。メルセンドレは、あなたの過去についてギャスパードに告げたのかしら?」

 彼女の言葉に、ミシェルは沈痛した面持ちで首を振った。「いや。まず拙者に確かめようとしていた」
「よかった。彼女が死んだ以上、私たちは安全ね。もしギャスパードが似たようなことをまた企んだら、あなたは真っ先に私に伝えること」 ミシェルは、彼女を疑わし気に見て、それからフェラッサンを見た。

「そのほうがいいな」 フェラッサンが言った。「自分ひとりじゃ、うまく立ち回れんだろう」
「そしてお前たちは秘密を守ると?」 ミシェルが、強張った、堅苦しい口調で尋ねた。死を命じられた男のような声だった。「セリーンにも?」
「条件がひとつある」 ブリアラは指を一本立てた。「いつか、あなたに頼み事をする。そしてあなたは私のためにそれをする、それが何であっても、秘密を守りたいなら」

「頼み事ひとつ」 ミシェルが吐き出すように言った。「そんな言い草を信じろと?」
「頼み事ひとつ、それだけ」 ブリアラは冷静な声を保った。彼に感情を剥き出しにすることはできなかった。自己の名誉と人生を危ぶんで自暴自棄になった男には、それらを上回るような立派な理由を示すしかないのだ。「それ以上求められたら、あなたはそれが私を殺す十分な理由になると考えてもいい。さっきのメルセンドレの亡骸を見たわ。兵士たちが到着する前に彼女はすでに殺されていた」 ミシェルはしかめ面になり、ブリアラは声を潜めた。「確かに約束したわ、ナイフ耳のひとりとして。あなたが約束を果したら、あなたの秘密は永久に漏れない。書き留めもせず、無二の親友にも囁かない。セリーンにさえも。頼み事ひとつ、どれだけ無茶なものであろうとも、たったそれひとつだけ」

 ミシェルは躊躇しており、ブリアラは彼のマスク無しの顔から、彼が考えを巡らす様子を見ていた。まず傷つけられた誇り、そして自問。この女は信用できるか? 今殺してしまって、過去の秘密を守ったほうがよいのではないか? 今約束したふりをして、あとから彼女を殺すことができるか?

 そしてついに、ひきつった渋い笑顔を見せた。「ギャスパードが別のバードを送り込んで来たら」と彼は言った。「お前の助けがいるだろう。取引成立だ」
「よかった」 ブリアラは、彼は彼女を信じてよいし、その決断を後悔することはないだろうと告げることもできた。だが庶民の血筋にも関わらず、彼は貴族のマスクをあまりに長い間身に着けてきたので、その言葉を信じることはなかったであろう。その代り、彼女はフェラッサンの方を向いた。「倉庫の中に何も痕跡が残されていなければ、私たちはより安全なはず」

 フェラッサンは頷いた。「ダーレン、倉庫そのものがあった痕跡すら、見つかることがないようになるから安心するがいい。この手の訪問はいつでも大歓迎だ」 彼は愉快そうに口笛を吹きながら、倉庫のほうに戻っていった。
 少しの間、気まずい時が流れた後、ミシェルがブリアラに身振りした。「行こうか?」
 ふたりがエルフのスラムを後にしたとき、後ろでは倉庫から火の手があがり始めた。

*** 

 残念ながら、第4章が終わる前に力尽きました。もう少し続きます。

« The Masked Empire 4(2) | トップページ | The Masked Empire 4(4) »

ゲーム」カテゴリの記事

Dragon Age Inquisition」カテゴリの記事

DA: The Masked Empire」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: The Masked Empire 4(3):

« The Masked Empire 4(2) | トップページ | The Masked Empire 4(4) »