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2014年4月20日 (日)

The Masked Empire 4(1)

 ウィークス氏の婉曲表現、省略表現、なかなかきつい。ちゃんと考えないと、まったく逆の意味にもとりかねない(だからこそ、婉曲なんですが)。なんか意味が変だなあと思うところは大抵こちらが間違っているので、大事には至らないと思いますが・・・。

***

 ミシェルは、痛みで充血した目で目覚めた。目をしばたたせて涙を散らし、咳き込み、身体を起こそうとし、それに逆らおうとする頭がい骨の痛みに唸り声を上げた。

 シェヴァリエの第一の教えに従い、目を閉じて呼吸に専念する。外界よりまず自己を把握せよ。肺も心臓も、筋肉も、傷んではいたがまだ思い通りに動きそうだ。 

 手足は枷ではなく縄で縛られていて、自分の脇腹の、傷などと矮小な言葉で呼びたくない裂け目に激痛が走るが、少し閉口する程度まで意識して抑え込むことができた。筋肉、関節、呼吸を確かめ、ギャスパードのバードから浴びせられた窒息の粉の残りを吐き出した。

 自分を取り戻すと、ミシェルは目を開いた。倉庫の柱に縛りつけられ、四隅に積まれた木箱で囲まれた部屋のようになった場所にいる。鉄格子のついた小さな窓から差し込む明かりが、宙に舞う埃を輝かせている。床は土がむき出しで、木箱からは腐りかけの果物や古着の臭いがする。外からは馬車の走る音や遠い叫び声が聞こえ、ヴァル・ロヨーの街中にいることがわかる。だが商業地区の商人が、倉庫をここまで無様な状態にしておくことはありえない。ゆえに、ここはスラムだろう。

 バードは彼の剣とダガーを奪い、上着を脱がせ、脇に血まみれの裂け目のある亜麻布の下着だけの姿にしていた。ミシェルは武器を隠し持っていない。彼はシェヴァリエとして訓練された戦士であり、暗殺者ではないからだ。

 足音を聴いたミシェルは姿勢を正した。シェヴァリエの掟は奇襲や戦術的待ち伏せを認めており、彼らは庶民向けの舞台で演じられるようなバカ正直な騎士ではない。それで逃げられるなら、寝ているふりをして不意を突くことも恥ではない。だがその手段が使えない限り、彼は敵の前に惨めな姿を曝すことを拒んだ。

 メルセンドレが木箱の陰から姿を現した。もうお目覚めなのね、と彼女は言って、彼の蹴りを受けないように間合いを保って片膝をついた。そして、酒場で彼に倒された男たちが、生き残った者ですらまだ昏睡していることを告げ、ミシェルの武芸を称賛した。

 ミシェルは、あの小袋の粉のせいでまだ傷んでいた喉で、狙いは何かと問い質す。お近づきになりたかっただけかも、とバードはにこやかに笑って、黒髪を肩越しに払い、昨夜の晩餐会でも、先ほどの酒場でも、まだ正式なご挨拶も済ませていない、と言った。彼女は立ち上がると、この場所のみすぼらしさを詫び、ここは大きな樹木の生えているエルフ地区の市場の一画にある場所だと言った。

 マスクなしでも良く知られているミシェルを、ヒューマンの多い場所に連れ込むわけにはいかなかったのだ。

「でも、本当のところは、良く知られていないのではないかしら?」
「何が望みだ?」とミシェルが再び尋ねた。

 メルセンドレはため息をついた。「シェヴァリエの心には、ちょっとした礼儀作法の占める場所もないのかしら。でも、考えたら、そのようなお家の出ではなかったのでしたね」 彼が黙ると、彼女はまた微笑んだ。
「あなたの後見人、シャロンズのブレヴィン伯爵は、亡くなる際にオーレイ大学に遺産を寄贈したことをご存じかしら?」
「ブレヴィン伯爵は熱心な学者であった」とミシェルが言うと、メルセンドレがようやく会話ができたことを喜んだかのように微笑んだ。

「そうね。そこで問題は、召使たちは彼の書籍をときたまぞんざいに扱うこと。クナリや、地下に棲むドレイクの角の治癒効果に関する研究書に、金銭の出納表が容易に紛れ込んだりする」メルセンドレは、はにかんだように指先を頬に当て、考え込んだような素振りを見せた。「あなたの訓練について、サー・ミシェル、彼が支払ったのはとてつもない額だったの」
「拙者は、家族を若い頃に皆亡くした」 ミシェルは声の落ち着きを保って言った。「そしてブレヴィン伯爵が拙者を引き取った。また彼からは、拙者がアカデミー・デ・シェヴァリエに入学するための学費を支払っていただいた」

 メルセンドレは首を振った。「モントフォートには、人々が『レ・マージャ・ドゥ・ソ』(le Mage du Sang)と呼ぶ男がいた」 ミシェルの虚ろな顔つきを見て、彼女は首を傾げて考え込んだ。「では、ご存じなかった。あなたの後見人、ブレヴィン伯爵がその男に大変な額の金銭を渡したことを」

 ミシェルは歯を食いしばった。「ブラッド・メイジ? 嘘をつけ、バード。ブレヴィン伯爵は善良なお方だった」 十歳の男の子が、三人の年長の子たちと路地で喧嘩しているところを見かけて馬車を止めさせ、そこから救い出したくらい善良だった。その男の子を引き取り、温かい食事と、古い貴族が有していた機会、捨て去ることなく有意義に使うことができるようにその力を与えてくれるほど、善良だった。「彼はブラッド・メイジなどと取引きしない」
「ああ、でもそれは名前だけの話よ」 メルセンドレが言って、また媚を売るような笑顔を返した。「つまり、レ・マージャ・ドゥ・ソは実際には書士で、紋章と公文書の専門家だったの。彼は、何もないところから貴族の血筋を生み出す能力でその名を獲得したのよ」

 ブレヴィン伯爵の地所で暮らしてから三年経った頃、ミシェルは、自分のその後の人生を大きく変えることになる紙片を一枚持って、自分の部屋に静かに入ってきた主人に起こされた。ブレヴィンは、ミシェルの剣の腕前は衛兵や傭兵にしておくには惜しいと言った。ミシェルは類まれな技量を有しており、それは帝国のために育むべき技量だと言った。そして最後に彼は、アカデミー・デ・シェヴァリエは貴族の血筋の者しか受け付けないこと、それから、その家名を他に用いる術のない死に絶えた貴族の家系があることを告げ、旅立った彼らの魂も、その家名を実りある目的に供するなら名誉に感じるであろう、と言った。

 メルセンドレは、ほとんど悲しげな顔つきで彼を見つめており、ミシェルは、自分の沈黙から彼女が何かを読み取ったことに気が付いた。「彼は支払いの記録を残していた。実際、とても多額の支払いだった。あなたのことを本当に買っていたのに違いない」 彼女はため息をついた。「そして彼は正しかった。あなたはセリーンのチャンピオンとなった」
「そうだ、拙者は女帝陛下のチャンピオンだ」 ミシェルが言った。「そしてお前はギャスパードに従っている。なぜ拙者を殺さない?」
「なぜなら、死んでしまったらあなたは、大公の悪辣な背信のために殺された殉職者になってしまうから」とメルセンドレが言って、彼のとなりで再び片膝をついた。「でも生きたままなら、そしてあなたの偽の貴族の血統が明るみに出たなら、あなたは女帝の名を貶めることになるから。想像してみて、そのときの審問、公開処刑、そして醜聞を、ミシェル。あなたが生き長らえている理由はそれ」

 勝利のさなかにあっても、彼女は幸せそうに見えなかった。彼女の微笑みには弱さが見え隠れしており、彼と目をあわせようともしなかった。

「拙者はいずれ程なく死ぬ」と彼は彼女に告げた。
「そうね」と彼女は頷き、ゆっくりと息を吐き出した。「そして、どのみちもったいない話。私も武芸大会の経験は豊富にあるけど、あなたこそ剣を手にするために生まれてきた男に違いないと言えるわ。本物の貴族かどうかなんてどうでもいいじゃない?」 彼女は苦々し気に首を振った。「私は大抵の廷臣たちよりも『ゲーム』を上手にこなせるけど、乳しぼり女と休暇中の兵士の間に生まれた父なし娘よ。身分相応のままでいろなんて嘘だわ」
「かもしれん」 ミシェルは肩をすくめ、気にしてない風を装った。「だが拙者たちは依然としてこうしている」

 メルセンドレは彼にまた悲しげな微笑みを向けた。「あなたは少なくとも、高貴な血筋でない者たちを慮る女主人に仕えている。そこは違う。彼女は大学に庶民だけではなく、エルフを入学させようと・・・、ああ、その話がまだ

 彼女の悲しげな面持ちが消え、楽しげな、クリームを舐めているときの猫のような笑顔が戻り、ミシェルは、オリージャン・バードと話をして、その同情を買えるかもしれないと考えた自分の間抜けさを呪った。冷たく、締め付けるような恐ろしさがこみ上げてきたが、彼は無表情を装った。「なにがまだだ?」

「私は農園で育ったって言ったでしょう」 メルセンドレは彼の隣に、今や親しげな様子で腰を下ろした。「とてつもなく退屈だったから、できるだけ早く逃げ出して、新し人生と新しい名前を手に入れた。あなたも同情してくれるわよね」 彼女は肘で彼のことを、ふざけるようにして突いた。「でも、いくつかのことは忘れていない。白い雌牛を黒い雄牛と番わせると、黒白まだらの仔牛が生まれるの。葦毛(あしげ)の牝馬と黒い種馬を番わせると、灰色の仔馬が生まれるけど・・・、その仔馬は育ってから黒い毛色の仔馬の親になるかもしれない。まるで黒い毛が血の中に残っているようなものね。牛や、馬の場合はそうだけど・・・、いえ、実は全てがそうなのよ」

 彼女は知っていた。

「でも、ヒューマンの場合は」とメルセンドレはまるでお天気の話のように言った。「エルフと番うと、生まれてくるのはいつもヒューマン。エルフの耳もなく、大きく可愛い目でもなく、ただのヒューマン。本当のヒューマンかどうか、見極める方法はない」 彼女はちらりと横目で見て付け加えた。「自分から告白でもしなければ」
 ミシェルは生唾を飲んだ。

「ギャスパードはあなたを排除したがっていて、あなたを貶めることのできる情報を集めるよう私に命じたけど、絶対に必要でもなければ殺さないようにも命じた。彼って紳士でしょう?」 彼女はほくそ笑んだ。「私があなたは偽の身分をつけた庶民だと言ったら、彼の喜びは計り知れないでしょうね。私が彼に、あなたがナイフ耳の売女から生まれたと伝えたら、セリーンのちっぽけな宮廷がどうなるか、考えてもみてごらんなさいな?」

 彼女は、如何わしい小さな秘密を知ってることを知らせる笑顔で、はにかみながら言った。彼女は自分で愉しんでおり、ミシェルがなんとか慈悲を乞うこと、または条件次第で取引きしたがることを望んでいた。あるいは訓練された密偵や人を操る名人として、他の情報を引き出そうと、またしても彼のことを弄んでいるだけかもしれなかった。

 サー・ミシェルは彼女の顔に額で頭突きを食らわせた。彼女が横向きに倒れると、彼は仰向けに転がり、両腕を強く引き下げ、両手を曲げた両脚にひっかけて、まだ結びつけられたままのそれらを持ち上げ、メルセンドレの頭から首に回した。彼は縄を輪にして、ひねり、強く引っ張った。彼女があげる苦痛の悲鳴は、ごぼごぼと半狂乱のような音を立てる喉に詰まって声にならなかった。

「拙者はサー・ミシェル・デ・シェヴィンだ」と彼は言って、彼女の首にかけた縄を引いた。
 最期の力を振り絞って、メルセンドレは尻の鞘からダガーを引き抜いた。彼女がそれを使う前に、ミシェルは両手をぐいと持ち上げ、強く引き落とし、メルセンドレの頭を地面に叩き付けた。彼女の身体はだらんとしたが、彼は何度も何度もそれを繰り返した。

「拙者はサー・ミシェル・デ・シェヴィンだ」 彼はもはや抗わない彼女の手からダガーを掴みとり、自分を縛っている縄を切りはじめた。しばしの後に自由の身になった彼は、彼女の前に立った。
「拙者はサー・ミシェル・デ・シェヴィンだ」 彼はまたそう言うと、彼女の傍らに膝をつき、その喉を切り裂いてとどめを刺した。

 彼がまた立ち上がったとき、ギャスパードの手の者たちが現れた。 

***

 真面目に(いつもですが!)訳しながら、この場面の光景を想像していると、正直メルセンドレにはまりそうになってやばかった。彼女が駆使するのは、バカな野郎どもを狂わす「アイドル」のお作法みたいなやつですよねえ。怖い怖い。

 最初に読んだときは、この最後の部分のブルータルな結末に驚いたものです。そして(野郎の一員として)、その残忍な結末に、心のどこかで喜んでいた。

 日本語ではよく、マルキ・ド・サドって呼びますけど、サド侯爵ですね。マーキス・デ・セイドウ(Marquis de Sade)。英語でサド言っても通じない。サディスト(sadist)はそのまま。

 細かいことですが、(私は全く違うが)競馬好きの読者がいるといけないので、馬の毛色は慎重に。黒い毛の馬は青毛と呼び、黒毛とは言わないそうで。灰色の毛は葦毛(芦毛)

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コメント

>バカな野郎どもを狂わす「アイドル」のお作法みたいなやつですよねえ。怖い怖い。

実は、メレセンドレこそは、サディストかもしれませんねぇ。
ちょっとずつ情報を小出しにしてじらして、「彼女は自分で愉しんでおり、ミシェルがなんとか慈悲を乞うこと、または条件次第で取引きしたがることを望んでいた」、そして報酬(ご褒美)を与える覚悟もある、ここまでがサディストの極意のはずですから素質充分です。
はまりそうになるVaniさんって、ひょっとして…。
単に相手に苦痛や恥辱を与えるのを喜ぶだけ止まりでは、サディストと呼ぶのにはまだまだ…。

この場面で、ちょっと気になったのはサー・ミシェルの体勢。
最後メルセンデスを屠るアクションは見事ですが、手足は縛られたままでありながらも、身体全体の自由がある程度利くからできたんじゃないでしょうか。
でも、確か彼は倉庫の柱に縛られてたはずでは?縛り方が甘かったのか。
取るに足りない些細なことですが、これは作者の説明不足という気がします。

 ハリウッド映画のサディストは、単に相手の苦しみを喜ぶだけのサイコパスに描かれることが多くて薄っぺらい。ヨーロッパはそこらへん半端ないですね。佐藤優氏もよくCIAの薄っぺらさと欧州諜報機関(イスラエル含む)の苛烈さを比較してます。ほんとかどうか知らんけど。
 アリステア・マクリーン(スコティッシュ)の、イーストウッド主演で映画にもなった小説「荒鷲の要塞」でのナチスの拷問の手口、ジャック・ヒギンス(アイルランド生まれのイングリッシュ)の小説に登場するアイリッシュ・テロリストのやり口。ボルチモアのただのオタクの保険屋だったトム・クランシーなんかと比べるとよくわかります。クリスチャニティ(カソリックか)って、根底にそういう世界を抱えてるんじゃないでしょうか。冒険小説の作者なんて皆基本サディストなんでしょうけど。日本の私小説は露悪趣味のマゾ?

 「縛り方が甘かった」のはいわゆる冒険小説の「お約束」ってやつですね。TV Tropesによれば、捕らわれの剛胆な戦士"Badass in Distress"、あるいは「女性」キャラにいつも救ってもらうしょぼい脇役であれば"Distressed Dude"。ミシェルの場合はニュアンス的に両方含む。
 この部分、原文を一切省略していません。後ろ手に縛られていた両手を、折り曲げた(同じく縛られていた)両脚の下から前に回したという、ごく普通の縄抜け術(の一部)。確かに工夫がないかもしれませんが、屈強の騎士は人一倍アドレナリンを噴出させて何でもできるのでしょう。
 

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