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2014年4月 9日 (水)

The Masked Empire, Chapter 1 (全訳3)

 セリーンは、オリージャン・シェヴァリエの稽古を見知っていた。もっとも著名な試練のひとつは、少なくとも公の目に触れるものの中では、大きな木製の足場に一連の剣先が配置されているものだった。召使たちが影にある巨大な車輪を操作すると、剣先が回転したり突き出したりして、前を通過しようとする者を目も眩むような速さで攻撃するのだ。夏祭りでは、分厚いパッド付きのチュニックを着た勇敢な若者たちが、その前をうまく駆け抜けようと腕試しするが、大抵の者は誇りもろとも身体をぼろぼろにされてしまう。話によれば真の試練では、剣先は研ぎ澄まされ、シェヴァリエは鎧を身に着けずにその試練を潜り抜けなければならない。 

 公式の晩餐に思いを巡らせるとき、セリーンはきまってその試練のことを連想した。
 幸運なことに、彼女は試練をひとりで駆け抜けなければならないわけではなかった。彼女のチャンピオン、サー・ミシェルがいつものように付き従い、セリーンが群衆の中を行き来する際に邪魔にならないように鎧こそ身に着けてはいなかったが、剣だけは手放さなかった。彼のタイツは豪華な黄金色の絹で、ダブレットはドワーフたちが牛代わりに飼っている獣の菫色のなめし革だった。鞘は、紫のサファイアを目とたてがみの部分に配した黄金の獅子の飾りを散りばめたものであり、両手には、剣技の邪魔になることを嫌って他の貴族が好むような指輪も腕輪も着けていなかったが、マスクのてっぺんには、シェヴァリエであることを示す背の高い黄色の羽根飾りが付いていた。

 「ご指示を、陛下?」 彼は、彼女にしか聴こえないようにできるだけ低い声で尋ねた。ミシェルがこの手の催しの場で喋ることはほとんどなく、セリーンもそれを好いていた。彼女のチャンピオンである彼は、彼女の公的な立場の付属物であり、他の関心を集めるべきは彼ではなく彼女のほうなのだ。彼は「ゲーム」にはほとんど関心がなかったが、その眼は鋭く、命令には忠実であった。彼は前任のチャンピオンが暗殺者を阻止するために落命してからこのかた、十年近く彼女に従ってきた。

「ブリアラが見つけたもののことはお聞きになって?」
「茂みの中の剣のことなら聞きました、陛下」 彼は声を低く平静に保っており、彼の身振りはあたかも、嗜好品の並んだ卓上にある愛すべきワイヴァーンの氷の彫刻について語っているように見せかけていた。
「バードのメルセンドレに気を配って頂戴。彼女がきっかけになる」
「できれば今宵は、宗教的偶像に関する謎かけは勘弁していただきたいところです」
 セリーンはくすりと笑った。「また必要になるときがあれば、今度は予め警告を与えることにいたしましょう」

 ギャスパードのバードであるメルセンドレが夏の終わりと喪った恋について愛らしい声で歌う間、セリーンは友軍と敵軍の、言祝ぐ者たちと挑戦の機会を狙う者たちの対峙する戦場を歩き回った。

「輝けるお方」 ヴェナンのチャントラル伯爵が彼女の視線をとらえてお辞儀をすると、彼の真珠色のマスクに数珠つなぎに取り付けられた黒真珠が音を立てた。「陛下の光が鳥たちに秋の渡りを思い留まらせているように存じます、まだ夏が続くと思い込んでいるかのように」 ここしばらくの間、チャントラルは彼女にしつこく求婚し続けていた。彼の見誤ることのない忠誠心と、「ゲーム」が不得手なことにかんがみ、彼女は彼の希望を完全に打ち砕くことはせず、穏やかで親しげな程度の関係に距離を保っていた。 

 セリーンの象牙色の夜会服の胸元は大きく開いていて、彼女の蒼白い肌に映えるように黄色のダイヤモンドがひとつ、豪華な黄金の台枠の中で輝いていた。夜会服はその立派な宝石を引き立てるつくりになっていて、彼女の胸元から黄色のリボンのように流れる涙形をした数多くの琥珀が、裾や両手首の黄金のせいで暗い色に見えていた。彼女のマスクはこの朝身に着けていたものと同じだが、羽根の部分が黄金細工に取り換えられていた。

「あなたのまごころは、まるでセレスティンの暖かい湖水のように、わたくしの心をなごませてくれます」と彼女は言った。「そして鳥たちは冬の寒さで凍え死ぬことのないよう、渡りをはじめなければならないでしょうが、ヴェランに春の空が訪れるとき、喜んでまた戻って来ることでしょう」 彼女はその場を立ち去り、レディ・モンツィマードと目を合わせた。彼女のマスクは、両頬の部分に輝くレリウム結晶を配しており、それらはオリージャン・サークルのファースト・エンチャンターから贈られたものであった。「コシーヌ」と彼女が親しげな内密さで呼びかけると、相手の女性は片方の膝を深々と屈してお辞儀をした。「しばらくたちますね。教えて頂戴、アヒルはいかがでした?」

「ソースが絶妙でございました、輝けるお方」 レディ・モンツィマードと彼女の夫は、夏の間大公ギャスパードを歓待しており、過去何年かは、サークルに対する一家の親密な関係と、その支配関係を交渉材料に用いていた。セリーンはその夫が危険で、彼女は愚鈍であることに気が付いており、メイジとの関係がどれだけ予断を許さない状況であるかについて、レディ・モンツィマードは何も気が付いていないのではないかと疑っていた。そして相手がこう付け加えたことによって、その読みが当たっていたことがわかった。「ところが実のところ、私どもがサークル・オヴ・メジャイを訪れたときには・・・」

「ああ、彼らと食事をするときは気を付けねばなりませんね」 セリーンは、軽く笑いながら割り込んだ。「彼らが食事を用意するときには、回りのものまで全部燃やしてしまうのでしょうから」 彼女は、レディ・モンツィマードがわざとらしい笑顔で別れの言葉を口ごもるのに任せ、その場を立ち去った。セリーンは自分の背後で、サー・ミシェルがレディ・モンツィマードに非難の視線を浴びせかけ、セリーンは笑って「ゲーム」に興じることも、もしそう望むなら、レディ・モンツィマードの頭を槍の先に飾ることもできることを無言で教えている様子を、目にする必要もなくわかっていた。彼女は、マダム・デ・ファー、帝国宮廷お付きのメイジに対して、モンツィマードとメイジたちとの親密な関係について知らせておくべきことを銘記した。

 彼女は人ごみの中にどんどん分け入り、毒を織り交ぜた挨拶と親し気な言葉を交わし続けた。ブライトからの復興も道半ばなフェラルデンとの間で、オーレイはより有利な交易条件を結ぶべきか。カークウォールのような事態がここで起きないようにどのような策を取るべきか。貴族の子弟が学ぶ大学に、ナイフ耳どもの入学を認めるべきか。笑顔を続けていたセリーンの顎は痛みでうずいた。顔の上半分を覆うマスクと、彼女の顔を覆う何層もの化粧の下で、最もはっきりわかる表情が笑顔だった。剣先を繰り出し合うような会話をよそに、メルセンドレの美しい歌声が続いていた。だがついに、大公ギャスパードの笑い声によってショウは終わりを告げた。

 それはかつて多くの戦場に響いた、深く、鳴り渡るような轟きであった。それはまるで弔鐘のように臆病者や召使たちを沈黙させ、他の貴族の男女たちの含み笑いを誘った。
 セリーンの前の人ごみが分かれ、大公と黒髪のバードのためにきれいに道を開けた。メルセンドレはマスクを身に着けていなかったが、庶民が貴族の会合の場に臨むときの厚化粧を施しており、ギャスパードが言った何事かに困惑して他所のほうを向いていた。

 セリーンは、外面上は一切表情を変えず、気を強く持っていた。彼女はこれまでの半生の間、ほとんどずっと「ゲーム」に興じてきた。どれだけ準備をしていても、どれだけ戦略について熟慮し、計画し、心を決めていても、常に恐怖の瞬間は訪れる。

 その瞬間が過ぎ去ると、彼女は、ギャスパードに忠誠を誓う衛兵隊長の手によって人目を避けるように来客リストに追加されたバードのほうに歩み寄っていった。サー・ミシェルの確かな足どりが彼女のものに同調して続き、大男が歩調を完璧にあわせていることがわかる。

 メルセンドレは良くやっている、彼女はそう心に留めた、だが完璧ではない。顔を覆う化粧は、彼女が本当に困惑している印である赤面を創り出せない事実を隠しているが、彼女は周囲の貴族たちにどの道そう思い込ませることができるように、あらかじめ頬に赤味を差す化粧を施しておくほど利口ではなかった。そのちょっとした不完全さ、過ちとまでは呼べないが、セリーンのほうが上手にできたであろう細部、それによって全てがより簡単なものに見えてきた。

「それで、従兄殿がその美声であたりを静かにさせたのは、いかなる趣向のためなのでしょうか?」 セリーンは、問われることを待ち侘びている沈黙に対してそう問いかけた。
 メルセンドレは不快そうにたじろいだが、ギャスパードは頭を少し傾け、見誤りようのない無礼とまでは辛うじて呼ばれずに済む程度のお辞儀をした。「皇帝陛下」 彼は含み笑いを続けながら言った。「この若い女性の歌は、『ミーグレン王のマバリ犬』の節回しによく似ておると指摘していたのだ」

 周囲に集まった貴族たちが、不埒な愉しみを込めて忍び笑いした。セリーンは笑顔を保っていた。最初の攻撃としては上々だ。その歌は有名で、何十年か前、フェラルデンがオリージャン占領下であった時代なら無害なものであった。不幸なミーグレンが、皇帝フロリアンに命じられて望まずフェラルデンに送り込まれたことを歌ったものだ。歌の中身は、その不運な貴族が粗暴なフェラルデン文化にいちいち腹を立てるというもので、よだれを垂らしたマバリ犬が彼のマスクを食べてしまったことまで含まれる。

 禁止こそされなかったが、フェラルデンのマリック王がミーグレンを殺害してから、その歌は人気を喪った。権力を握ってからこのかた、セリーンは両国間の緊密な関係を強化するため尽力してきたので、粗暴なフェラルダンとその文化的ではない風習に関する歌が再び人口に膾炙するようなことはなかった。
 それもこれまでのところは、だったようだ。

「行軍の間、兵士たちと歌ったことを覚えておる」とギャスパードが言った。「オーレイが世界全土の支配を覗う時代のことを思い出させてくれた。憐れなミーグレン、メイカーの眼差しから遠く外れたところに囚われ、犬コロ貴族どもの間でなんとか寛ごうとしていた」 彼は背が高く、肩幅が広く、ダブレットとタイツは無骨な仕立てで、銀の縁取りが鎧のような見かけを演出している。彼のマスクは黄金で、多くのエメラルドが彼の一家の紋章の形にあしらわれており、背の高い黄色の羽飾りがマスクの上から飛び出しているのは、サー・ミシェルと同様、彼もシェヴァリエの一員であることを示している。

 彼はまた、バン・ティーガン・グエリン、フェラルダン大使から十ペースも離れていないところに立っていた。化粧を施していない男の顔には、自らの民が「犬コロ貴族」と呼ばれたことに明らかに腹を立てている様子が現れていた。

「わたくしども皆にとって、悲しい時代でありましたし」とセリーンが言って、大使のほうに微笑みを向けた。「そしてオーレイは、この難しい時代にあって、フェラルデンを友好国に含めることができることをうれしく思っています」
 ティーガンは嬉しそうに微笑むと、お辞儀をした。「皇帝陛下、フェラルデンも同様に望んでおります」
「もちろん」 ギャスパードが歩み寄って来た。「過去のことは過去のこと、ですな、ティーガン? そして我々はただの老兵ふたりになってしまった」 彼はフェラルダンの肩を叩き、バン・ティーガンはその馴れ馴れしさに身体を強張らせた。

「犬もオーレイにお連れになったのですか、閣下?」 メルセンドレが付け加え、黒髪のバードの無邪気を絵に描いたような物言いに、人ごみから含み笑いが漏れた。ティーガンは振り向き、拳を両脇で握りしめた。「ええ、ただしこの舞踏会には連れてきていませんよ。ここの食事が口に合うとも思えないので」
 人ごみから笑いが起きた。「ゲーム」の達人ではないとはいえ、このフェラルダン貴族は、自分が嵌められていることに気が付き、周囲を味方につけておこうと試みるほどには利口だった。
「いずれ、貴殿の犬を見せてもらわねばならん、ティーガン」 自らの筋書から逸れることなく、ギャスパードが言った。「だが今宵は、我らの帝国と、貴殿の、えー、王国との間の友好を祝うため、贈り物を用意してまいった」 彼が指を鳴らすと、豪奢な緑色のヴェルヴェットで包まれた長い包みを携えた召使が急いで近づいてきた。

 ギャスパードは包みを受け取り、満面の笑みとともにティーガンに手渡した。渋々ながら、罠に踏み込もうとしていることを知りつつも、そこから抜け出す算段も見つからない大使は、包みを解いた。
 中身は、ブリアラが今日の午後早い時間にセリーンに告げたとおり、剣であった。フェラルダンの造りで、ほぼ実用に耐えうるものだったが、柄と鍔の回りには装飾の名残りがあり、貴族が戦闘で用いるものであることを示していた。剣は使い古して痛んでいて、刃にはへこみが残り、ところどころ錆が浮いていた。

「ギャスパード大公!」 ミシェルが自分の身体をセリーンと剣の間に割り込ませた。この広間に武器を持ち込むことは許されないはずであった。暗殺者が武器を内部に持ち込まないように、宮廷玄関の衛兵がすべての手荷物を検査しているのだ。だからこそ、とセリーンは思いを巡らす、ギャスパードは、今日の早い時分から包みを宮廷内にこそこそ持ち込み、迷宮の庭園に隠すことに苦心惨憺していたのだ。

「落ち着け、シェヴァリエ同輩」 ギャスパードは剣を見詰めた。「わしがこいつを手にした途端に、誰かが暖炉の火かき棒を手に打ち込んでくるだろう」 彼はバン・ティーガンに頷いた。「その剣は、憐れなミーグレンとの確執のため捕えられた、とあるフェラルダンの貴族の女性の亡骸から拾われたものだ。モイラ、と言ったかな」 黄金と緑色のマスクの陰で、彼の両眼は愉快そうに輝いていた。「わしらの召使どもが、地下蔵のネズミを退治する際に用いておった」

 ティーガンは身じろぎひとつすることなく、まるで宮廷の他の部分が丸ごと消え去ったのように、両手で支えた剣を見詰めていた。緑色のヴェルヴェットが、蒼白になるまで握りしめられた彼の両の拳の回りにくるまっている。
「貴族の剣だったのかしら?」とメルセンドレが尋ね、おんぼろの剣で周囲を笑いに誘うための最後の的確な仕上げを講じるとともに、ギャスパードが自分への侮辱と受け止めることのできるような一言を口にするよう、ティーガンの背中をさらに一押しした。 

 単純な策だが効果的だ。バン・ティーガンは怒りに任せて何かを口走るまで追いつめられるだろう。そうなったらメルセンドレが驚愕とともに息を呑んでみせ、一番愚鈍な貴族ですら、腹を立てるべき事態だと気づかせる算段だ。そうなったらセリーンは、オーレイの名誉を守るためにサー・ミシェルに対してティーガンとの決闘を命じるか、または自分は沈黙し、シェヴァリエの名誉の掟をこれ見よがしに振りかざしたギャスパードが自ら決闘を申し出るのを待つか、いずれかを選ぶしかなくなる。どちらの結果もオーレイとフェラルデンの間の関係悪化を招き、両国をまた別の愚かな戦争へ一歩近づけることになる。
 戦争こそが、ギャスパードの本領なのだ。

 これらすべての事柄がセリーンの胸中に去来している最中、ギャスパードはナイフをもてあそんでいた。「ふむ、彼女は自ら叛乱軍の女王と名乗っておったな。盗賊やら傭兵やらの首領という方が近かったんだろう、実のところは。彼女はわしらをフェラルデンから追い出せると思っていたのだ」
「実際そのとおりになった」と、依然としてギャスパードの方に目を向けずにティーガンが言った。「彼女の子息、マリックが我々の王国から貴殿らを叩き出した」
「モイラがそれを生きて目にできなかったのも残念なことだ」とギャスパードが言って、にんまりした笑い顔で室内を見回した。「彼女が貴殿らのでかい犬コロの一匹でも傍に置いておいたら、もしや・・・」

 何人かの貴族が笑った。ティーガンの堪忍袋の緒が切れるにはそれで十分だった。セリーンは、彼の両肩が強張るのを見て取り、また、ギャスパードがずっと待ち受けているまさにその言葉を発すべく、彼の口が開きかけているのを見た。
「バン・ティーガン」と彼女は呼びかけた。彼女は世界最大の帝国を二十年にわたって統治してきたのであり、自らの声を人ごみの中に分け入らせ、周囲を沈黙に導く術を心得ていた。口を半開きにしたまま、ティーガンが彼女のほうを振り向いた。

 彼女とギャスパードは、長い間「ゲーム」を戦ってきた宿敵の間柄であるため、足を踏み出す前に、彼女は従兄に小さな笑顔を投げかけた。なかなか上出来だった、とその笑顔は告げていた。もしかしたら次回には成功を手にすることができるくらい利口に立ち回れるかもしれないが、今宵はそうはいかない。

「皇帝陛下」 バン・ティーガンは身構えて立っており、彼の首筋には血管が浮いていた。「閣下の表情から、この剣が古い感情を呼び覚ましたことが見て取れました。モイラ・テイリン、フェラルデンの叛乱軍の女王の死がオーレイの仕業であったことについて、ずっとお気に障っておられたのでしょうか?」 群衆が一斉に溜息をつくと、彼女は付け加えた。「閣下は、その名誉挽回のため決闘をお申し出になるおつもりでしょうか?」
 ティーガンは両手で支えた剣に視線を落とし、それからギャスパードに目を向けた。そして最後に、彼は「ゲーム」に関しては冴えなかったかもしれないが間抜けではなかったので、セリーンのほうを見て、彼女の立場を見極め、静かに言った。「そのとおりです」

 群衆から叫び声が噴き上がると、セリーンは微笑んだ。ギャスパードは目を閉じて頭を振り、すでに敗北を認めていたが、かたや彼のバード、メルセンドレは彼の方を困惑した様子で見つめており、今となっては群衆の関心を取り返すためどうすべきか途方に暮れているのは明らかだった。

 セリーンがミシェルのほうを見て小さく頷くと、彼女のチャンピオンは剣を抜いた。むき出しのシルヴァライトの青さが大舞踏場に閃めくと、叫び声をあげていた貴族の集団は静まり返った。

「決闘をご所望とあれば」とセリーンはフェラルダン大使に言った。「サー・ミシェル?」
「輝けるお方?」とミシェルは尋ね、剣を手にしたまま、ティーガンからひと時も目を逸らさなかった。「わたくしどもは決闘の申し出を受け、あなたはわたくしのチャンピオンです。高貴なる血筋の者同士の決闘において、オーレイの名誉を守る用意は整いましたでしょうか?」

 間髪を置かずに、サー・ミシェルが言った。「まだです、輝けるお方。我ら決闘の申し出を受けた側が、お互いの用いる武器を選ぶ定めとなっております。それがなされない限り、はじめるわけにはまいりません」

「ああ」 セリーンはしばし間を置いて、雰囲気を高めた。「なるほど。わたくしは依然修復の途上にある二国間の友好関係を、過去の侮辱を償うために流される高貴な血で染めることには気乗りがいたしません」 彼女はバン・ティーガンのほうを見た。「よって、わたくしの権限により、この決闘に用いる武器は・・・、羽根飾りとします」
「心得ました、輝けるお方」 サー・ミシェルがそう言うと、躊躇することなく、自らのマスクに付いていた長い黄色の羽根飾りをもぎ取った。

 貴族の群衆は、気まぐれで、血に飢えていて、自惚れの塊だったが、何にもまして、彼女の臣下であった。血腥い決闘騒ぎが大好きなのと同じくらい、機転の利いたやり取りも称賛するのだ。サー・ミシェルが、剣の達人の鮮やかな精密さで羽根飾りを構えると、貴族たちは喜んで笑い声をあげた。

 目に見えて緊張を解いたバン・ティーガンは、ヴェルヴェットの包みを傍らの床に置くと、セリーンに救われたような笑顔を向けた。「輝けるお方、この種の決闘のための得物を手にしてこなかったことが悔やまれます。国元では、羽根飾りよりも毛皮のほうを好みますゆえ」 彼が毛皮飾りに覆われた自分の袖口を掲げると、群衆から笑い声さえ湧き上がった。

「そうでしょうとも」 セリーンがギャスパードのほうを見やると、彼は礼儀正しい微笑みを浮べていたが、それは宮廷内で敵対者からとげとげしく言い募られることを聞き流すときに用いる表情だった。「従兄殿、今宵の最初の贈り物によって、フェラルデンの従兄弟たちにあなたの気前の良さを示すことができました」 彼女は片手を挙げて、感謝の念を示した。「できましたら、ふたつめの贈り物を差し出していただけますでしょうか?」
 ギャスパードは目をしばたたせ、お辞儀をした。「幸甚の至り」と彼が言うと、素早く節度ある物腰で自分のマスクから羽根飾りをもぎ取った。
 それから、彼はその黄色の羽根飾り、オリージャン・シェヴァリエの名誉の印を、ついさっき彼が愚弄したばかりのフェラルデンの犬コロ貴族に手渡した。

 サー・ミシェルとバン・ティーガンが、お互いの手にした羽根飾りで突き合い、身をかわし合うのを観て、群衆は愉快そうな笑い声をあげていた。セリーンは微笑み、何か景気づけになるような歌を披露するよう、メルセンドレを促した。

*** 

 ブリアラはその夜、姿見の後ろの壁に隠された秘密の扉を通ってセリーンの寝室にやってきた。

 女帝は、しばしばそうしているように、舞踏会の後で入浴を済ませ、豪奢なヴェルヴェット織りのサテンの寝室着に着替えていた。書き物机の上の燭台は、彼女が読んでいた書籍のページを辛うじて照らせるほどの明るさであり、室内のほとんどの部分は、窓から差し込む天上の秋月の淡い黄色の光と、眼下のヴァル・ロヨ―街路の橙色の光だけで照らされていた。

「彼は話はじめたのですか?」 セリーンが書き物机のほうから振り返りもせずに尋ねた。
 ブリアラは女帝に向かって微笑んだ。相手の長いブロンドの髪はまだ湿っており、彼女の背中を流れ落ちるようにして月の光を受け止めていた。「ええ、ですが、その程度のことで今夜お邪魔する必要はないと考えておりました。陛下の元衛兵隊長は、ギャスパードの贈り物を宮廷内に持ち込んだことを白状し、陛下のご慈悲に身を委ねると申しております」

「随分と楽観的な心構えですこと」 セリーンはくすりと笑い、ペンを置き、ブリアラのほうを向いた。セリーンの顔は、幼少のころからずっと、彼女のマスクの繊細な写しだ。華奢な骨格、陶磁器のような肌、自然に愛らしい形に湾曲した紅い唇。「それで、シャトレインは?」

 ブリアラが躊躇すると、セリーンは好奇に満ちた微笑みを向けた。ついにブリアラが言った。「愚かでのぼせ上っていましたが、忠誠を喪ってはおりません」 ディシレラとリレーヌが、アヒルの出来栄えが悪ければ彼女に鞭打たれたかもしれなかったことを思い出し、彼女は付け加えた。「とはいえ、ちょっとした折檻を与えることで、彼女もその新らたな落胆を、優雅さと気品をもって、受け入れることができるかもしれません」

 セリーンは立ち上がり、まだ微笑んでいた。「もちろん」と彼女は言って、近づいてきた。「今宵の大公ギャスパードに対する勝利のあとには、寛容さだけが相応しいでしょう」 セリーンの指がブリアラの首の横を優しくなぞると、小さな音とともに、ブリアラのマスクが外れた。「結局のところ、ブリアラ」と彼女はマスクを脇に置きながらささやくように言った。「のぼせ上った恋ゆえの過ちは、大目に見なくてはなりませんもの」
 むき出しの頬がセリーンのそれに触れ合うとき、ブリアラは薔薇と吸い葛(すいかずら)、女帝の入浴剤の優しい香りを嗅き、サテンの寝室着は、滑り落ちて蒼白い肌を曝す際にブリアラの指の間に冷ややかな感触を残した。「いかようにでもお望みのままに、輝けるお方」と彼女はささやき、それから空いているほうの手で燭台の灯りを素早く消した。

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