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2014年4月

2014年4月30日 (水)

The Elder Scrolls Online

 の何に誘導しようとしてるかしらないが、スパム・コメントが付いていたので消しました。

(スパム自体は腹立つが、これが付くのは多くの読者に読んでいただいているときなので、痛し痒し。あっちがそんなふうに閾値かなんか決めてるんだろう)

 The Elder Scrolls Online。GameSpotのケヴィンが、いつになく厳しい評価(60)をしていたのは読んだのですが、なんとあの大甘IGNも、ビッグゲームでは近年ないほどの厳しい点数(78)。有名作品でIGNの評価が80点切るのはよっぽどのこと。

 ケヴィン曰く、マルチプレイは真に必要な戦闘以外、(そもそもチームで活動するような作りになっていないので仲間は邪魔であり)やる気がそがれるそうだ。MMO/MOリタイア組(歳とったため)としては、お、じゃあソロプレイでいけるのかと思ったが、四人用ダンジョンやエリート・ボスなどは用意されているそうで、それがプレイできないんじゃ意味ないよね。
 音楽通のケヴィンにとって、音楽は上出来だそうですが。

 やっぱ、MMO/MO開発は、ソロゲームのそれとは別ものなんだろうなあ。Oblivion、Fallout 3、Skyrimと連戦連勝だった辣腕ディレクター、トッド(ハワード)も噛んでいないようだし、見かけは確かにSkyrimぽいけど、ケヴィンに言わせるとその薄いヴェールの下は別。 

 DiabloIIIもオークションハウスなどがなくなって、ソロプレイにやたら手厚くなった頃にようやくはまっている私だから、ESOもそうなればプレイするのに、と思ったりしている。
(ケヴィンは、いつかESOが生まれ変わる日を期待したい、とまとめているが、MMO/MOの世界でローンチ時点を上回る成績を後日あげることはまずない。放置すればするだけどんどん悪くなっていくことは歴史が証明している。例外は、課金などのシステムも含めて抜本的に作り直した場合だけ)

 いっそ、Dragon's Dogmaが用いた、他プレイヤーキャラクターのレンタル制(非同期)でもパクったら、かなりいけると思うのだけど。時代は非同期だと思うんだけどなあ。

 そういえば、DAIのマルチプレイ部分については、とんと音沙汰がない。"Keep"のアプリがソーシャルであるとみなして、うちのゲームはなんでもかんでもコネクトしろと厳命していたEAのCOOムーアが許してくれたのだろうか。それでおしまいだと個人的にはうれしい。

 ただし、スマホゲーの"Heroes"をプレイするとDAIのアイテムがもらえる!みたいなのは勘弁。あんな大変なのやってる暇ありません。

 

 

 

2014年4月29日 (火)

The Masked Empire 5(2)

第五章はもうあと一回分ありそう。

*** 

 市場の伝手からめぼしい情報を集めていたブリアラのところに、フェラッサンが再び姿を現した。彼とはこの先何か月も会うことはないと思っていた彼女は、予期せぬ再会を喜んだ。
 外套こそ旅先の汚れもなく、いつもどおり小奇麗だったが、フェラッサンの顔つきは強張り、やつれていた。ブリアラのマスクを被った愛すべき顔が恋しかった、と軽口を叩きながらも、彼が現れた本当の理由は、より現実的な問題、ハラムシラルに関するものだった。

 ふたりは、ほんの数日前に会話を交わした公園まで歩いた。ブリアラは何も知らなかった。芝生の上では裕福な商人の息子たちが皮袋の葡萄酒を回し飲みしており、意地の悪い視線をふたりに向けてくるが、彼女はそれを無視し、声を潜めて言った。自分の鳥たちはとうに戻ってこなくてはならない時分だが、いつも秋には遅れ気味になる。ウェイキング海を渡ってやってくる船からも何の便りも得られなかった。

 フェラッサンはうんざりしたような笑顔で、古代の骨に鞭打ってやってきたのも無駄ではなかった、と言った。彼によれば、ある阿呆なシェムレンの貴族が、エルフの商人を理由もなく殺して残忍な仕打ちをした。エイリアネイジでは怒りのあまり、ミエンハレルを口にする者たちもいる。
 衝撃のあまりの大きさのため、ブリアラは笑い出してしまった。毎日どれだけの数のエルフが惨殺されているかわからないのに、ひとりの商人がどうしたというのか。
 乾いた森のどこに稲妻が落ちるかはわからない、と言ってフェラッサンは芝生に腰かけた。だが煙の臭いはする。彼は意味のある数少ない細部、貴族の名前と死んだエルフの名前だけ伝えた。

 エルフが蜂起しても鎮圧されるだけ、ブリアラは腹立たし気にあたりをうろうろ歩き始め、苛立ちを口に出した。女帝にとって何の助けにもならないどころか、最悪の事態に違いない。
 そんなことを言えば惨殺されたエルフの友人たちは心外に思うだろう、彼らは女帝の手助けを求めているに違いない。フェラッサンの言葉に突然振り返ったブリアラは、当たり前だ、と叫んだ。女帝は大義のためディヴァインに枉屈し、ギャスパードと対峙している。彼女の立場が危うくなれば、エルフにとって到底ましとは言えないギャスパードの相手をしなければならなくなる。

 自分がひとつ学んだことがあるとすれば、大きな政変は自分の考えたとおりには起きないということだ、とフェラッサンが言った。だがブリアラなら、オーレイの女帝が事態に対処する際の姿勢を変えることができるかもしれない。フェラッサンは、この報せをヴァル・ロヨーの誰よりも早くブリアラに伝えていた。

 商人の息子のひとりが仲間に向かって投げた酒袋が大きく逸れた。フェラッサンは間髪入れずに立ち上がり、二歩動いてそれを空中で掴むと、振り返りざま中身を一滴もこぼすことなく投げ返した。若者たちは、自分たちのおふざけにエルフが割り込んできたことに明らかに腹を立てていたが、あまりに見事な動きであったので、笑って頷いただけだった。

 師匠が正しい、とブリアラが礼を言った。フェラッサンは優し気に微笑むと、行け、と促した。 

 宮廷に戻る道すがら、ブリアラはマスクを被り直し、富裕層の住む一帯を不作法なくらい早足で進んだ。宮廷の中に入ると大広間に急ぎ、途中シャトレインが呼び止める声も無視した。後から叱責されるくらいどうということはない。

 セリーンは大学の管理官と会議の最中だったが、ブリアラは給仕の女性から茶器の載った盆を奪うと、お辞儀して中に入った。管理官は、予算増額を請願しつつ、どれだけの庶民の学生を入学させれば女帝の意図に沿うのか確認を求めていたが、ブリアラは長年の訓練によってその発言を遮ることなく給仕した。セリーンは、茶器を差し出すブリアラのほうを一瞥した。

 ブリアラは茶盆を給仕の女性に返すと、大広間をうろつきながら考えを巡らせた。
 完璧に抜け目なく進めなければならない。人はいつでも簡単に死ぬ。ブリアラは、レディ・マンティロンがセリーンの玉座への道を万全なものにするため、彼女の両親を含む召使い全員を殺した日にそれを学んだ。だが正しい言葉を用いれば、多くの命を救うことができる。

 避けられない死のため涙する贅沢は許されない。その点では彼女は、市場のエルフよりも、自分が仕える貴族たちに似ているかもしれないと思った。ときに吐き気を催す考えだが、それもまた、数多くの死を食い止めることができるなら仕方ない。 

 数分の後、セリーンは人払いをして、ブリアラを「石の間」に招き入れた。女帝は開いた窓のそばに立ち、庭園を眺めている。その部屋の名は、床から天井までの全面を様々な色彩の象牙で覆われた壁の一面に由来する。そこには、グレイ・ウォーデンたちが伝説のグリフォンに跨り、ダークスポーンの大群に立ち向かう様子が描かれている。ウォーデンたちとそのグリフォンはもっとも明るい黄金、空は蒼白、そして巨大なアーチディーモンに率いられたダークスポーンは煤けた赤で表現されていた。 

 部屋の他の部分には、伝説の軍団の戦利品や美術品が並ぶが、由来を詳述されているものはひとつもなかった。枠のはめられた大きな地図は、第二のブライドが最盛期にどれだけ広大な範囲に渡って猖獗(しょうけつ)を極めていたかを示している。部屋の角、ガラス棚の中に安置された甲冑一具は、ワイズホプトに籠城するグレイ・ウォーデンをダークスポーンの包囲から救出するため、ドレイケン皇帝がオリージャン軍を派遣した時代、ディヴァイン・エイジまで遡るものだとされている。

 セリーンは身振りでブリアラに、その脚がグリフォンの爪の形を模した椅子のひとつに座るよう指図した。それから、市場で何を見つけたかわからないが、夕刻まで待てないのかと尋ねた。
 ブリアラは、ハラムシラルのエルフたちが騒然となっていること、メインセライ卿が正当な理由なくエルフ商人のひとりを殺害したこと、エルフたちはミエンハレルを叫んでいることを告げた。沈黙するセリーンに、ブリアラはそのエルフの言葉の意味を伝える。増長するヒューマンに向けられるもので、「短い剣への敬意を忘れるな」。

 叛乱が起きる。セリーンの言葉は肌寒い秋の空気を切り裂いた。セリーン自身に対して。今まさに。 

 叛乱ではない、と言ってお辞儀をしたブリアラの息は震え、手はグリフォンの頭の形をした椅子の肘掛けを握りしめていた。彼女が恐れていたのはこれだった。ハラムシラルのエルフは女帝の姿を目にしたことすらない。彼らの不満は女帝に対してでも、オーレイに対してでもない。陛下の帝国で理由なく死んだ者に対し、正義がもたらされることだけを望んでいる、とブリアラは主張した。

 民の望みに意味はない、セリーンは振り向くと窓から離れた。彼女はすでに二正面での戦いを余儀なくされており、 これ以上戦線を拡大することはできない。
 その必要はない、とブリアラが言って立ち上がり、セリーンの前を遮った。彼らに正義を与えればよいだけだ。

 エルフひとりの代わりに貴族ひとりを差し出すわけにはいかない。セリーンはマスクを乱暴に脱ぎ去った。彼女の顔は紅潮しており、不眠のため両目は赤く充血していた。メイカーの御前にはエルフもまた平等な市民であり、玉座に就く者も同様、とでも宣言せよというのか。だが、今玉座に就いているのはセリーン自身だ。

 そうすべきではないのか、と言ってブリアラも自分のマスクを脱ぎ、落ち着きを取り戻す間を稼いだ。信じてもらえないのなら、自分は陛下がまだ愛想を尽かしていないだけの、のぼせ上った厨房の女に過ぎない。 
 セリーンは振り向いて、マスクを長椅子の上に放り投げ、巨大な象牙の壁の前に立った。そして、ギャスパードの頭文字を玉座に刻むような真似はできない、と言った。

 黄金と赤色の壁の前に立つ女帝と愛人の顔は蒼白になっていた。セリーンは睡眠を敵、またはほとんど必要悪とみなしているようだったが、カークウォールの一件以来、高まる緊張への不安のため、ほぼ毎朝夜明け前に目覚めている。それが十分早い時間であれば、ブリアラは彼女を肉欲に誘い、恍惚に浸らせ、その後で短い睡眠をとらせることもできただろう。だが最近では、それすら役に立たなくなっているのかもしれない。

 それは承知している、とブリアラがため息をつき、茶器の載った小さなテーブルのほうに歩み寄った。茶を淹れた器をセリーンに差し出すとき、やさしくその肩に手を置いた。

 エルフを救うために貴族たちの背中を押してみよう、茶器を受けとったセリーンは、器を口まで運んでゆっくりと吸い込んだ。女帝の強張った肩がこれほどほぐれなかったことは、ブリアラの知る限り未だかつてなかった。 

 アンドラステそのお方がハラムシラルをエルフにお渡しになって以来、女帝ほどエルフの民に助力を与えるお方はいなかった、とブリアラが言った。
 悲しいことに、エルフにハラムシラルを与える力は今の自分にはない。セリーンはかすかに笑った。

 ブリアラも微笑みを返し、女帝の手を取った。自分に提案があると言うと、長椅子のところまで彼女を連れていき、ふたりで座った。玉座がメインセライなる貴族に正義を下すことはできないし、そのため女帝にとってエルフの民は頭痛の種以外の何物でもなくなる。だが、自分なら手助けできる。

 ブリアラは息を吸った。自分をハラムシラルに派遣してほしい。
 セリーンはしばし黙り込み、やがて、メインセライを殺す気かと尋ねた。

 ブリアラは自信ありげに、事務的な話題であるかのように頷いた。自分にはエルフを導くことのできる伝手がある。求める血を与えれば、彼らが矛先をよそに向ける前に懐柔することができる。それは叛乱ではなく、街の衛兵にとっては真相不明な犯罪に過ぎず、もしも女帝が意見を求められたなら、無辜の生き物を殺すような野蛮な貴族は、身の守りこそ怠るべきではなかった、とだけ告げればよい。

 セリーンがブリアラの頬に手を寄せた。ふたりがキスをするとき、セリーンの腕がブリアラを強く抱きしめた。
 それから彼女は立ちあがり、マスクを手にして再び身に着けると、窓の方にゆっくり歩み寄ったが、その間物音ひとつ立てなかった。

「跡を残さず、手際よく、ブリア」と彼女は言った。
「輝けるお方」 ブリアラはお辞儀をし、旅支度のため引き取った。 

*** 

 「要約版」などと言っていると、上の文中、「レディ・マンティロンがセリーンの玉座への道を万全なものにするため、彼女(ブリアラ)の両親を含む召使い全員を殺した」というところなど、「お前、誤訳したんじゃねえん?」と、何とか細胞(あわわ)のようにあらぬ(?)嫌疑をかけられてしまいかねない。何とか細胞はあります!(じゃなくて)ちゃんと筋は通っています!

 でも、レディ・マンティロンが裏切ることなく、ずっと律儀にプロスパー/セリーン派だったんだね、というのは(書かれていないことを推理でもしなければ)ここで初めてわかる。トラスト・ミー、嘘じゃないよ。

 ブリアラの両親を含め、屋敷全部の召使い(セリーン以外の者)を皆殺しにしたのも、(レディ・マンティロンの)偽装工作。それによって(当然嫌疑をかけられる)玉座を争うギャスパード一派の動きを封じ込めるという苦肉の策。いや召使ごときはチェスゲームのコマですらない扱いだから、何人死んでも数に入らない。「苦肉の策」とは呼ばないね。 

 セリーンは(女帝でなければ)立派な学者になっていたでしょう、とブリアラが言うように、彼女は数学好き。オーレイの「ゲーム」をチェスや将棋に喩えると、目的のためには手駒をあっさり切り捨てるということになって、どうもギャスパードのほうが近い。
 セリーンは、まるで数学の証明問題を解くように、本質以外は全て無意味と見極める。または隠された答え(解)をいち早く見つける。そんな才能に秀でているのかもしれない。それって数学っちゅうか、論理学かな。

 だが、「セリーンが学生に『批判的考察(思考法)』を施した」と書いてあるのには思わず笑ってしまった。それってビジネス・スクールで良く言われる「クリティカル・シンキング」"critical thinking"そのもの。
 中世の時代にあるか、そんなの(いや、ここ欧州じゃなくて、セダスだから)。

 ゲイダーさんがクルセーダー(十字軍)とか平気で使ったり、ウィークス氏のこれといい、アナクロニズム(時代錯誤)と呼ぶべきか、あるいは広い意味で現代リアル地球の概念の混入と言うべきか。
 とても気になってしまうんですよね。

【DAI】コンパニオン

 DAIコンパニオンに関する潜在的ネタバレ。ゲーム発売前に騒ぐのが気に入らない方は、読まない方がいいかも。

 

 私はようやくここまで追い付いてきた。人によっては旧聞かもしれない。

 コンパニオン(インクイジターのパーティーに参加する者)は9人から変更されていないはず。 

 カッサンドラ、ヴァリック、ヴィヴィアン。ここまでオフィシャルだった。アイアンブルがオフィシャルとか、カレンがオフィシャルとか、いろいろ話は飛び交っているようだ。またマイク・レイドロウが余計なこと言っているせいかもしれない。

 ウォー・ルームの画像(公式)には9人以上(13名)登場している。BioWareフォーラムの意見。

Wartable_wm_web

 左から、カレン、ヴィヴィアン、ヴァリック、コール?、ソラス、カッサンドラ、インクイジター、アイアンブル、ドリアン?(DHMG)、レリアナ、セラ、スクライブ(書士)ガール、グレイ・ウォーデン。

Cullen, Vivienne, Varric, Cole?, Solas, Cassandra, Inquisitor, Iron Bull, DHMG, Leliana, Sera, Scribe Girl, and Grey Warden 

※DHMGは、 "dramatic hands mustache guy"の略で、流出コンセプト・アートに由来。ドリアンという名前も流出画像のものだが、こちらは怪しいようだ。 

 また、グレイ・ウォーデンとか、セラとか特定しているように記載されているのも、その流出画像からの予想。

 このうち、カレン、レリアナ、スクライブ・ガールが武装していないので除外(だそうだ)。カレンがロマンサブルって話は、コンパニオン外ロマンスってことか、それともデマだったか。 

 残りはインクイジターを含めて10名。数はあっている。クラス別。  

・ウォーリアー: カッサンドラ、アイアンブル、グレイ・ウォーデン

・メイジ: ヴィヴィアン、ソラス、ドリアン(DHMG) 

・ローグ: ヴァリック、コール?、セラ 

 バランスは上々。次は種族・性別分布。(画像から推測) 

・ヒューマン(5): カッサンドラ♀(ネヴァラン)、ヴィヴィアン♀(オリージャン)、グレイ・ウォーデン♂(?)、ドリアン♂(DHMG、テヴィンター?)、コール?♂(理屈上はオリージャン? でも、そもそもコールだったら性別あるのだろうか) 

・エルフ(2): ソラス♂、セラ♀

・ドワーフ(1): ヴァリック♂

・クナリ(1): アイアンブル♂ 

 種族はシリーズ過去作から見ても、まあまあ、こんなものでしょうが、随分男性に偏っている気がする。ストレート・ロマンスがいい男子は、カッサンドラとセラの二択なのか?

 んー、どうかなあ。

 Asunderをお読みになった方(あるいはここの紹介記事を読まれた方)は、コール?をどう扱うのか気になるところでしょうが、この顔・姿は確かに似てるね。ローグのイメージより背がだいぶ大きい気がするが、別段矛盾はしない。でも二刀流ダガー(なのか)ってのは小説とは違う点かな。

Leliana_01_wm_web  

 レリアナが、老け顔?になっちゃったのが少し悲しい。もちろん、DAOから10年経っているんだから、それが当たり前っちゃそうだけど。レリアナズ・ソングから数えたらさらに何年か経っているもんなあ。
 いや、これはこれで十分ストライク・ゾーン、好みですよ? でも正式にシーカーズの一員だったんだなあ。そいつは知らなかったというか、予想外(DA2のラストは変装、ディスガイズだと思っていたので)

Lelianas_song

 んー、この頃が一番よかったなあ(DAIコンパニオンの話じゃなかったのかい!)

2014年4月28日 (月)

The Masked Empire 5(1)

 さて、DiabloIIIも遊ばずに(ちょっとだけ遊んだ(笑))、続いていきましょう。

*** 

 第五章 

 ハラムシラルのスラムでは、叛乱の火口(ほぐち)が燻っていた。貴族の冷酷な所作は目新しくもなく、街中のエルフは下を向いて歩くことをわきまえていた。エルフ女性は、一人で出歩くこと、見かけが可愛いらし過ぎることの危険をまだ若い頃から知っていた。エルフの商人は、滞っている支払いの一部をせしめるくらいまで貴族に催促することは許されるが、やりすぎると自分の家を焼かれることも知っていた。 

 それが好まれていたわけではないが、そう知られ、甘んじられ、世の中はそういうものだと諦められていた。

 レメットの死は許されなかった。友人だったスレンは、他の商人たちとかつての彼の善人ぶりを囁き合った。仕事に正直で、家は清潔に保ち、安価で丁寧で完璧な仕事ぶりによって貴族の御者たちの仕事まで請け負っていた。怒らず、良く笑い、友人には気前よく酒を奢った。レメットはごみ屑などではなかったが、メインセライ卿の手の者たちは彼を殴り、切り刻み、バラバラになった身体をみせしめのため、まるで最悪の犯罪者のように街中に晒した。レメットのようにいざこざと無縁だった善きエルフがそんな目に合うなら、他の者たちはどうだ。 

 レメットは遣い走りを救うため死んだ、と盗賊たちは囁き合った。稼業がなんであれ、真のエルフの心の持ち主を、支配者が誰か見せつけるためシェムどもが犬のように切り刻んだ。それによって石つぶてがさらに飛んでくるとヒューマンどもが恐れていたのは、とうに昔の話だった。 

 レメットはあの晩酒場で歴史の話をしていた、とジネットや他のエルフ信奉者たちは囁き合った。彼が何を話したかはともかく、ヒューマンが和平を反故にして侵攻するまで、ハラムシラルがエルフの故郷であった時代の話を聞いていた。そしてエルフの故郷を焼いた貴族の末裔どもが、ひとりの無辜の子供を殺そうとしたとき、彼はその前に立ちはだかった。そうしないエルフがいるものか。 

 ハラムシラルのピエール伯爵は、ヒューマンに害が及ばない以上メインセライ卿の行いを咎めることはせず、スラムの巡邏を強化するように命じた。深夜仕事から帰宅するエルフの集団は、衛兵たちから執拗に苛まれ、殴打された。翌朝、市場の開かれる広場で衛兵たちの死骸が見つかり、その耳はエルフの盗賊がやるように切り取られていた。 

 ピエール伯爵はシェヴァリエの一隊をスラムに送り込み、屋内に留まる分別を欠いていたエルフを十人、見せしめのため殺した。翌朝、シェヴァリエの厩の馬丁たちが殺され、彼らの馬の喉が皆掻き切られているのが見つかった。 

 レディ・エルスペスは、彼女の領地へ立ち入ろうとするメインセライ卿を追い帰した。彼の粗暴な行いによって、彼女の大好物であるタルトの原料ベリーが市場から調達できなくなったというのが理由だった。卿が引き返すと自邸からは煙が上がっており、馬車の窓から飛び込んだ石つぶてが、卿の鼻に当たって血で濡らした。

 賢い貴族たちは秋の休暇と称して別荘に引きこもった。愚かな貴族たちは衛兵を増やした。

 そしてそういった顛末は、静かに、ゆっくりと、ハラムシラルからオーレイ全土に伝播していった。

---

 セリーンにとって、ギャスパードが初手をしくじった後の日々は、爽やかで静かに流れた。外交文書に署名し、報告を読み、援助を求める発明家たちや芸術家たちに謁見し、ディヴァインを主賓として招く舞踏会の準備に追われた。そこでディヴァインは貴族たちを前にして、メイジとテンプラーの間の緊張関係を緩和する何らかの一歩を踏み出す手はずだった。

 ディヴァインの赤毛の代弁者から便りはない。拒絶も承諾もなく、続く沈黙はセリーンの胃を締め付けた。また眠れない夜が訪れ、寝台の隣で丸まって横になっているブリアラをよそに、彼女は夜明けを眺めていた。 

 オーレイに必要なのは次のブライトだ、と彼女は考えを巡らせていた。それが真の救いになるわけではなく、帝国に破壊が訪れるのも望まなかった。だがブライトへの対処は、容易ではないとしても、少なくとも単純だ。戦える者を集め、ダークスポーンに立ち向かわせ、グレイ・ウォーデンたちがアーチディーモンを退治するのを待つ。即座にそうならなくても、最後には政治ごとは抜きになる。ローゲイン・マク・ティアがグレイ・ウォーデンを愚かにも裏切り、先のブライトの最中に政権を簒奪しようとした話は、どう考えても困惑を呼ぶが、野蛮なフェラルダン貴族たちですら、最終的には結束することになった。

 アビサル・リフトからダークスポーンが湧き出し、次のブライトが始まるなら、大公ギャスパードは前線に立って、その類稀なる軍略の才を持って敵と対峙するだろうか? テンプラーたちとメイジたちは、怒りの矛先をダークスポーンに向けるだろうか? 

 セリーンはため息をついた。次のブライトは文字通り、内紛や内戦など及びもつかないほど手ひどくオーレイを切り刻むことを知っていた。それだけではなく、ブライトのたびに文化は失われ、知識は散逸した。戦時に図書館を建てる者はいない。彼女の大学、父の教えに虚ろに盲従する代わりに、批判的考察を学んだ彼女の受講生たち、学び舎への道を徐々に進むことになる庶民たちやさらにはエルフたち・・・、それらすべての事柄は、単なる生存のための戦いを前にすれば、置き去りにされる。

 眠ったほうがいいと、横でブリアラが囁いた。起こしてしまったと謝るセリーンに、ブリアラはとうに前から起こされていたと答える。
 女帝の背負う重荷、とセリーンが言って笑う。ブリアラは彼女の上に覆いかぶさると、一緒に背負わせてほしいと求める。
 耳と目はブリアラに委ねたが、これは自分だけで背負うもの、セリーンは相手を引き寄せるとそう言った。起き直ったブリアラが、ひとりでは無理だと告げ、リマッチェの求婚への返答について尋ねた。ブリアラの両の瞳はあまりにも大きく、朝早い光の中では暗く、セリーンは、穏やかで深い底なしの水面の中をのぞき込んでいるような感じがした。 

 リマッチェはすでにギャスパードについた。そう言ったセリーンはため息をついた。ギャスパードが狩りの旅で彼女に提案を持ちかけた日の夜、ブリアラがバードの罠からミシェルを救い出した日の夜、二人の貴族は誓約を交わしていた。ギャスパードは二つの戦線で敗北したが、リマッチェが失われた事実が、セリーンの勝利に後味の悪さを加味したことは知っている。

ブリアラが彼女の手を握りしめ、彼が忠誠の向ける先を変えたことを度外視すれば、今からでもリマッチェの求婚を受け入れることは可能だと言った。彼にとって、玉座の隣で統治するほうが、ギャスパードにつくより魅力的なはずだ。求婚を正式に取り下げて、女帝の怒りを買うよりもそのほうが・・・。

 それではブリアラを失ってしまう。その言葉はセリーンの喉をつまらせた。自分にはブリアラしかいない。ブリアラがいてこそ自分だ。彼女はブリアラを引き寄せ、その温かい腕が自分の身体を抱くのを感じた。そして、ときにはブリアラのことが羨ましくなる、と告げた。

 セリーンは、それが言ってはいけなかった言葉であることに即座に気が付いた。ブリアラの身体が強張るが、彼女の声に変化は現れず、オーレイの女帝がエルフの侍女に嫉妬するのか、と問い返した。
 ブリアラはいつでもここから立ち去り、別の人生を歩むことができるから、とセリーンが答える。それでも依然としてエルフのまま、そう言ってブリアラはえくぼを浮かべて笑ったが、セリーンには彼女がまだ傷ついていることがわかった。

 でも、自分は玉座に座るために生まれ、それ以外なにもすることはできない。自分の両親とレディ・マンティロンが・・・。セリーンの声は小さくなっていく。
 ブリアラは身体を離して立ち上がり、自分のローブを羽織りながら、セリーンは立派な学者になれるでしょう、と言ったが、それも皇帝ギャスパードが彼女の意に沿わない決断をするまでの話であり、そのあとは面倒なことになるのは間違いない、と付け加えた。

 そうかもしれない、愛しい人、と言ったセリーンも立ち上がり、何事もなかったかのようにローブを羽織り、リマッチェのことは考えてみよう、と言った。
 ブリアラは頷き、マスクを身に着け、姿見の陰の通路から姿を消し、ため息をついたセリーンは、小さな魔法のポットを手に取った。

 どうやら、今朝のお茶は自分で淹れなければならないようだった。

*** 

 後半のブリアラとのやり取り、女帝と立場はだいぶ違いますが、フランス革命前夜の宮殿近衛連隊長(准将)、ジャルジェ(ジャルジャイユ)伯爵家令嬢のことを歌った歌を思い出しますね、って「ベルばら」のレディ・オスカー(オスカル)かよ! 

The Masked Empire、ここまでの感想(1)

 ネタバレ? 大丈夫、だって最後まで読んでないから!
 本編はちょうど半分を読み終わったあたり。紹介記事はほぼ四分の一を終わったあたり。四半期決算ではないが、ここまでのお話を整理しましょう。というか、単なる「私にも何か喋らせろ」のコーナーです。 

 ここまでの間、個人的に(先入観に対して)わりと意外なことが多かったので、それをまとめます。

・セリーンが弱々しく描かれている?

 意外だったのは、「弱い女性」としてのキャラクターを打ち出そうとしていること。マスクの下の顔に浮かぶのは「冷笑」ではなく「恐怖」。 
 観察と機知と陰謀(もっぱら女性の武器)を駆使してどれだけうまく立ち回っても、結局無骨な暴力(もっぱら男性の武器)の前では無意味。それを露骨にやっちゃうと身も蓋もねえなあ、と思っているのですが(黒沢明監督の映画「乱」では、その辺のモチーフを見事にバッサリやってのけてました。素晴らしかった)。 

・メイジ・テンプラーではなく、エルフ問題が中心?  

 あんまりデーリッシュに興味ないんすよね。というかこの手の話題は実は避けたい。
 やっぱどう考えてもインディアン(ネイティヴ・アメリカン)と、奴隷制で言えばアフリカンのアナロジーでしかない。
 もちろんオーレイが「帝国」である以上、他文化圏・異種族圏を平気で併呑しなければならない。DAにとって必然的なテーマではあったが、敢えて今そのカードを切るんだ、と驚いた。
 本来主題であるべき「メイジ・テンプラー抗争」はDAIゲーム本編と齟齬が生じることのないように背景に後退し、代わりに(ゲームで主題で取り扱われることのない、と推測される)種族問題が主題となっちゃったわけ。

・レズビアンは「流行」?  

 してるみたいに扱われているそうですが。

 そう言えば、セリーン(まだアラサーと呼べるのかな)がお歳を召されるとジュディー(ジョディ)・フォスターみたいになるのかな、とぼんやり思ってたが、彼女もカミングアウトしたそうですね。ブリアラのほうは、ジェシカ・アルバ以降の私の女優データーベースが更新されていない・・・。(まだ若いんじゃないかと思って調べてみたらなんと本日(現地は明日)がご本人の三十●歳のお誕生日。アラサーですね)

 もちろん同性愛問題は、中間選挙がやばくてどうしようもないオバマが見て見ぬふりしたい数多くのイシューのひとつ。ま、社会保障も、ウクライナ(ユークレイン)も、イスラエルも、イランも、エイジアも、欧州財政危機も、TPPも、何もかもやばいんですが。
 男女で発想は異なるでしょうが、どこかの女性大統領を例に出すまでもなく、政争で自分の家族を惨殺された過去があれば、家庭を築こうなどという気が失せるのも当然と言えば当然なのか。

 敢えてレズビアンを持ち込んだのは、もちろんEA/BioWareの(というかデヴィッド・ゲイダーの)聖戦、インクルーシヴィティ(Inclusivity)の戦い(人々の人種、文化、宗教、性嗜好、その他諸々の違いを乗り越えて、一緒に暮らしていこうというリベラルな発想)のせい。戦場が女人禁制とされるのがふつうだった以上、男色はごく自然にあったでしょうが、女性支配者と同性の愛人の例は多かったのでしょうか。と思って探せば結構出てくるが、この検索結果さえもインクルーシヴィティの戦いに影響されているに違いない。推進派はあれもこれも歴史上の有名人物は同性愛だった(同性愛なくして人類の歴史はなかった)みたいに誘導する。
 言ってみれば、半島国・大陸国の言論戦と同じ発想で、だから連中は(一部の)アメリカンと馬が合うんだろう。 

・これ、フレンチ笑劇のパロディ?

 大学、羽根飾りのくだりなど、最初は笑劇(ファース)もどきかと心配したが、しばらくするとようやくブルータルな殺戮劇が繰り返される。 

 エンターテイメント小説では異例なことですが、敢えて狙って「温い」出だしにしたのだろうか。機知の戦いを剣技のそれと同列に扱おうと試したのなら、それは残念ながらうまくいっていない。読者はしょせんバカ。そこまでついてきません。
 んー、文芸的にチャレンジングなのはいいんだが、最初のまともな戦闘シーン(ミシェル@酒場)が380ページの原書でようやく50ページ目過ぎたあたりで登場ってのは・・・。版元良く許しましたね。立ち読みでは誰も買わない、固定読者狙いの「ジャンル小説」だから許されるのかな。

 個人的にうれしいのは、そのミシェル@酒場含めて、著者の戦闘シーンの描写がターンベースト・テーブルトップRPG(ぶっちゃけDnD)のモチーフ丸出しであること。そしてその舞台は、懐かしのDnDやそのCRPG/MMO/MOで描かれたものと酷似している。
 たとえば木箱が迷路のように山積みになっているスラムの倉庫。鼻がひん曲がりそうな悪臭のするそんな場所で、これまでのゲーム人生、いったい何回戦ったことでしょうか!(DOOストームリーチだけでも百回は下らない)

・DAファンにサーヴィスしすぎ

 登場人物として出てくるのは、これまでのところレリアナ、ティーガンくらいでしょうか(マバリ犬は登場しなかったよな)。フェラルダン玉座に座っているのが誰かについては、ぼやかされていますね。

 ただし、エピソード・レヴェルではDA過去作品(ゲームおよび小説)をメンションすることが非常に多い。征服王ミーグレン、マリック王、その母モイラ、フェラルデンの英雄、ドロシア(ジャスティニア)、エルシナ、マージョレイン・・・。
 さらに、セリフのレヴェルでも過去作品へのオマージュというか、引用が多い。いちいち書き留めているわけではありませんが、今後気が付いたら指摘しておきましょう。たとえばブリアラがフェラッサンの指摘に対して「なるほど」("Point taken.")と答えるところは、DAO本編冒頭、フレメスとアリスターの間の有名なやり取りを想起させる。

 また、思いついたら書き足していきますが、とりあえず紹介のほうを進めよう。
 ・・・。DiabloIIIちょっとやってから・・・。

この人は・・・。

 どうしてこう、ヘイト集めるようなことばかりするのだろう。

 DAIには関わらないでほしい、Stay out! 

 「ふぇりしあさん、お・ね・が・い」(マイメロの声で)

Felicia_thane

The Masked Empire 4(4)

 白状せねばならん、ラマッチェ。まだくすぶり続ける倉庫の前に止めた馬車の中で大公ギャスパードが言った。狩りの不作だけで、今日一日のとてつもない失望には十分だと思っていたが、スラムに足を運んでそれを上塗りすることになろうとは思ってもいなかった。 

 建物は、ここスラムの他の場所と同様のごみ溜めになっていた。市街のほとんどから油まみれの黒煙を目にすることができたが、日が暮れてからも燃えさしの火が広場の回りを松明のように照らしている。

 ギャスパードは馬車から降り、無傷のほうの腕で上着を正すと、広場中央の大木のほうを目を細めて眺めた。付き従うラマッチェ、ライデス公爵がこの訪問の意図を尋ねる。ギャスパードがメルセンドレから受け取った自画自賛に溢れた謎めいた手紙には、セリーンのチャンピオンをこの倉庫に捕えたと記されていた。昼間痛めたほうの腕で倉庫を指し示そうとした彼は顔をしかめ、無傷なほうの腕を突き出した。だが今やチャンピオンは宮廷に帰還しており、彼はその理由を知りたがっていた。そして大公自身は男やもめだが、公爵には立派な女帝となるに相応しい娘がいることが彼をここに伴った理由だった。

 ラマッチェが微笑み、それから人気のない広場を見渡すと、身が汚れるのも厭わずに残骸を自ら掘り返すつもりでもなかろうと言った。大公が口笛を吹くと、物陰から彼の家のマスクと揃いの衣服を身に着けた者たちが現れた。その者たちが鎧を身に着けていないことをラマッチェが指摘する間に、男たちの後ろから、つぎはぎだらけの商人の皮服姿のエルフがひとり続いてきた。 

 鎧姿は惨めなナイフ耳どもを怯えさせ、身を潜めさせてしまう。今宵は彼らから話を聞きにきたのだ、とギャスパードが笑い、男たちが馬車のそばの明るい部分にやってくるのを待って、エルフの男に挨拶をした。
 エルフはジーリグと名乗った。ギャスパードは焼け落ちた建物のほうに頷いて、自分の手下たちは、ここで起きたことを知っているエルフに大枚払う用意があるそうだと告げた。生唾を飲んだエルフは、そこが自分の倉庫で、市場に店を出す金が払えない商人たちに貸し出していたが、ヒューマンの歌い手が借り切りたいと言ってきた、と答えた。

 彼女は大公のために働いていると言っていた、と続けるエルフを遮り、ギャスパードは笑顔を絶やさずに、彼女はそんなことは一言も言わなかった、と決めつけた。聞き間違えたようだとエルフが言うと、ギャスパードはさらに、お前は目の前の人物が誰かも知らない、と続けた。

 エルフ商人は、今日の午後二人のエルフが倉庫に入って行くのを見た。ギャスパードの・・・、歌い手に雇われていたどこかの兵士たちが入って行った後に。戦いの物音がして、鎧を着ていないヒューマンの男がエルフたちと一緒に出てきた。三人は広場で話をし、ヒューマンがエルフ女に怒っていたが、それを黙って見ていたエルフ男が倉庫の方にとって返すと、一瞬にしてそこが燃え上がった。エルフ商人は首を振りながら続けた。エルフ男の顔には、古いデーリッシュの言い伝えに出てくるような刺青が彫ってあった。

 デーリッシュのお出ましとは、まさか騙りではあるまいな、とギャスパードが笑った。エルフの商人は慌ててそれを否定する。そして彼は、上等な衣装を着たエルフ女と捕らわれていたヒューマンの男が一緒にスラムを出た先までその後を追ったと告げ、自分は商人地区への通行証を持っているのだと言った。彼は、建物の燃えかすの光で輝くギャスパードの瞳をちらりと見上げ、それから自分の懐を探った。ギャスパードは続けるよう促した。

 エルフ商人は、ふたりが商人地区も越えて進んでいったこと、エルフ女のほうは、売れば帝国金貨一枚以上は手に入るレッド・シダーの弓をあっさり捨て、それからふたりは宮廷の方に向かい、そこで女はマスクを被ったことを告げた。
 マスクを被るエルフ女はさほど多くない、とギャスパードが首をひねり、息を吐いた。それからエルフ商人の名を呼び、良い働きではあったが、自分は報酬を払うことはしない、なぜならそうすれば、お前の背中にナイフを突きたてるのと同じことになるからだと告げた。そして、向こうにいる者たちから倉庫を再建してもお釣りが来るだけの銀貨を受け取れるだろうと言った。感謝の言葉を口にして深くお辞儀をするエルフ商人を、大公の手の者たちが連れ去った。

 本当に支払うつもりかと疑うラマッチェ、将来の大公に対して、ギャスパードは微笑んだ。背中にナイフのほうが安全だが、今はエルフたちの衆目を集めすぎている。女帝の手先が放火した倉庫を再建するため手を貸す役目を演じておいたほうが、後の役に立つかもしれない。

 ラマッチェは金と銀のマスクの陰で無表情なまま頷き、そのエルフたちを利用するつもりか、と尋ねた。ギャスパードは、メルセンドレが手当てしたものが一体何であったか知る術もなくなり、用いることもできなくなった、と言った。だがデーリッシュの密偵とエルフの暗殺者がセリーンの手先として働いているとしたらどうだ。ギャスパードは馬車に乗り込みながら、そう尋ねた。

「メイカーズ・ブレス、それを利用する手口も見つけられないのなら、わしには玉座に収まる資格などないというわけだ」

*** 

 第4章はここまで。これで全体の四分の一です。

 お気づきのとおり、例によって要約でもなくなってきたし、要約の部分とベタ訳の部分も見分けがつかなくなってきたのではないでしょうか。 

 商業出版でもされない限り、ここ以外で紹介されることのまずないだろうDA小説を、慷慨(あらすじ)レベルだけおざなりになぞって済ませる気はない一方で、(実はずーーっと楽な)ベタ訳がそのままネットでコピペされ、知らないところで使われるのは勘弁である。

 このように、土台無理筋な命題を満足させることを試みていますので、「読みにくい」とか、「味わいが損なわれている」とか、「全訳しろ」などというご不満、ご注文はあるでしょうが、なにとぞご容赦のほどをよろしくお願いいたします。
 言ってみれば、再利用不可能なように、わざわざ翻訳に「欠陥」、いわば「毒」を埋伏させているようなものですから、オリージャンの陰謀物語には相応しい仕掛けとも言えるのではないでしょうか。 

 なーんて、文中の(今は亡き)メルセンドレのギャスパードへの手紙は、"self-congratulatory mysterious notes"、「自己愉悦(自己満足、自画自賛)に浸った謎めいた手紙」と表現されているのですが、それと似たようなことしてるだけかもね。

 サー・ミシェルまで颯爽とした野郎キャラという風情ではなくなってきました。 どうも最近のあちらの小説では、ヘタレまでいかなくとも、野郎キャラが弱いよねえ。それとも「あちら」だけじゃないのかあ。

 

The Masked Empire 4(3)

 倉庫はスラムの基準からみてもおんぼろだった。土の地面に置かれた古い木箱の数々は腐りかけており、中身が何であったとしても忘れ去られてもはや台無しになっているだろうが、それでも高く積まれたその山は倉庫内部に迷路を作り出していた。床の汚れや木箱についた武器の傷からみて、ブリアラには、ここが密輸業者の密会や人殺しの死体遺棄に用いられる場所であることがわかったが、冷たい風は不潔な身体と安い麻薬の悪臭を運んできていた。

 倉庫のどこかから、剣戟の音と苦痛に呻く声がする。ブリアラは視界を確保するために、下手をすると崩れてしまいそうな木箱の山のてっぺんまで登った。フェラッサンが彼女に、先祖譲りの才能を敬いたい気持ちはわかるが、エルフは今は誰も木に登ったりしない、リスではないのだから、と茶々を入れる。

 バカ、とだけ応じたブリアラは、サー・ミシェル・デ・シェヴィンが、バードのメルセンドレの死骸のそばに立ち、片手にダガーを、もう一方の手に奪った長剣を構えている姿を見た。兵士がひとり倒れていたが、側面には他の敵が回り込んでいて、ミシェルの分が悪い。まだ少なくとも半ダースもの敵が残っており、ミシェルは脇腹の傷口をかばっていた。「左、それから右!」

 ブリアラの指図に従って、フェラッサンが迷路の中をミシェルのほうに近寄っていくと、彼女は弓を持ち上げ、狙いをつけ、息を吐き、第一の矢を放った。いつも快感を呼ぶ瞬間だが、彼女にはそれが、暴力への渇望なのか、セリーンも授かっていない天賦の才を持つ喜びなのか、定かではなかった。 

 少しの間ブリアラは、矢が液体のような空気の中を飛んでいき、ミシェルの左にいた男の喉を貫くまでの様子を、心の中でほとんど完璧になぞることができた。
 最初の男が倒れ、ミシェルが呆然とした面持ちになる間に、彼女は次の矢をつがえた。予期せぬ援軍に驚きながらも、依然として当代最良のシヴァリエの一人であるミシェルは、躊躇することなく倒れた男のいた場所に動くと、木箱の壁を背にして立った。 

 ミシェルが敵ふたりの突きをかわす間、ブリアラは他の兵士を探った。ひとりが彼女のほうに顔を向ける。彼女が放った矢はその男の鎖帷子ごしに肺を捉えた。他の兵士たちが皆彼女のほうを振り返ると、ブリアラは一番でかい男に笑顔を見せ、別の矢を放った。男は慌てて身を隠そうとしたが、ミシェルがその膝に剣を打ち込み、ダガーを喉に埋め込んだ。 

「オリージャン・シェヴァリエに背を向けるか、犬め」 床に伏した男の亡骸を蹴りあげてミシェルが叫ぶと、他の男たちがうろたえ後ずさりした。「潔く剣を交えよ、されば貴様らには不相応な名誉ある死を授けよう!」 
「その要もなし」 角から姿を現したフェラッサンが言うと、掲げた杖から巻き毛状の青い光が走り、残った兵士たちを捉えた。 

 空気がシューッと鳴り、氷の爆発が続き、立ったまま凍り付いた兵士たちの表面はつやつやと輝いた。ひとりは絶叫をあげる最中の姿のままだった。
 フェラッサンが木箱の山のひとつに狙いをつけ、杖から緑色の炎を噴き出してそれを切り裂いた。凍り付いた兵士たちの上に、崩れ落ちてきた沢山の木箱が降り注ぎ、まるで棚一杯に並んだ陶磁器を金槌で粉々にしたときのような音が響き渡った。

「私の弓で簡単に倒せたのに」とブリアラが言った。山のようになった木箱の残骸のまわりで、赤っぽい色の氷が滑り、飛び跳ねている。
「ああ、かもな」 フェラッサンがそう言って、杖を回した。

 荒い息をしながら、ミシェルが困惑した顔つきでブリアラを見上げた。「ふたりに借りができたようだ」
 「その話は、無事宮廷に戻ってから」とブリアラが言って、木箱の山から慎重に床に降りた。スカートが破れていたが、今はそのままにしておくしかない。

 その声でミシェルが瞬きした。「ミス・ブリア? 陛下の侍女の?」
「何だって? いや、そんなバカな」 フェラッサンが驚いたような身振りをしてみせる間、手にした杖は、元の棒切れの大きさになるまで縮んでいった。
「あなたをここから連れ出さないと、サー・ミシェル」 ブリアラは彼の傷を負った脇腹を見た。「歩ける?」

 「もちろん」 彼は床に倒れている男の死骸のひとつに振り向いてその眼窩から小さなダガーを引き抜き、次にバードのメルセンドレの亡骸のほうを見た。彼は彼女の懐を手際良く探り、それから立ち上がった。「とっとと出よう」

 三人は倉庫を後にした。フェラッサンとミシェルは、それぞれシェヴァリエとデーリッシュ・エルフの相手を値踏みするように見ていた。ブリアラはよそを向いていた。
「連中はどうしてあなたを捕えたの?」 通りに出てから、彼女が尋ねた。中の戦いの騒ぎを聞きつけた者がいたとしても、他に漏らしたりしないだろう。広場のエルフたちはヴェナダールの回りで商売に忙しく、ブリアラと連れたちのほうに目を向ける者はいない。

「メルセンドレは、今日一日拙者を陛下のそばから遠ざけておくようにギャスパードから命じられた、と言っていた」 ミシェルは倉庫を振り返った。「まんまと嵌められた」
「どうやって?」 ブリアラは、ミシェルが後ずさりするまで詰め寄った。「どうやってあなたをここまで連れ出した?」
「騎士の名誉にかけて・・・」
「黙りなさい、ミシェル」 彼が瞬きする間、ブリアラは彼をまじまじと見つめた。「あなたは宮廷から酒場におびき出された。あなたは些細なことで任務を忘れたりしないから、彼女はあなたを何かで脅したか、惹き付けた。あなたは亡骸から何も見つけていないから、彼女はあなたのものを何か盗んだわけじゃない。友人からの偽の手紙、家族から、かしら?」 彼はひるんだが、片方の目の隅に浮かんだごくわずかなたじろぎには、自分でも気が付かなかっただろう。「でも、スラムの酒場に陛下のチャンピオンの友人なんているはずがないし・・・、あなたに家族は残されていない」 またしても、たじろぎ。家族がカギだ。

「尋ねても無駄だ、ナイフ耳」 ミシェルが言って、先刻奪ったダガーを片手で強く握りしめたが、持ち上げはしなかった。「陛下が尋ねるつもりなら、侍女を送ったりはしない」
「当たり前よ、バカ。陛下が送り込んだのは密偵」 彼女はフェラッサンのほうを向いた。「ナイフ耳」
 フェラッサンはあくびをかみ殺した。「傷ついたなあ。君も傷ついたか?」

「いいえ。彼がそんな呼び方をしたことなんて、これまで一度もないから。召使を呼ぶときだって、慌てているときだって」 ブリアラは微笑んだ。「つまり、彼は何かを隠していて、私たちの目を逸らそうとしている。何からなの、ミシェル? 家族の過去の醜聞? 違う。急な報せであなたを誘い出すことはできないから・・・、ああ」 彼女が満足げに頷くと、彼の顔面は蒼白になった。「偽の血筋。ブレヴィン伯爵は、あなたに類稀なる才能を見い出したに違いない」
「すっとぼけ通す顔つきができる才能じゃないな、きっと」 フェラッサンが言った。
「マスクを被り慣れていると、ちょっとした表情に心の中が出ることを忘れてしまうのよ」
「そして、シェヴァリエは貴族しか受け入れない、そうじゃないのかね?」 フェラッサンが尋ねた。
「その通り。さらに言えば、偽の血筋を名乗った者への罰は死罪」 ブリアラはミシェルの手を見下ろした。「庶民? いえ、それだけじゃない。ナイフ耳に力を置きすぎだった。 エルフの母親?」
「黙れ」 そう言ったミシェルの声は、囁きと大差なかった。長年訓練を受けたブリアラの目には、彼が戦いのためにダガーを握り変えたことがわかった。
「ダガーの手を緩めなさい、サー・ミシェル。こんな昼日中に、誰にも気づかれずに私たちふたりを殺すなんて無理でしょう、それだけじゃなく・・・」 彼女は彼に冷たい笑顔を見せた。「私の姿が消えればセリーンが気づくに決まってるし、彼女はとことん調べ尽くすはずよ」

 ミシェルはダガーを降ろしたが、その手は震えていた。「お前はあのバードよりたちが悪い」
「あのバードは、あなたを辱しめようとしていたし、あなたが始末しなければ、逆にあなたを処刑していたのよ。その彼女の計画を、まさか本気で私に引き継がせたいの?」 彼女は彼に指を突きつけた。「ギャスパードは陛下を脅かしている。そんな大変なときに、陛下のお側にチャンピオンをつけずに放っておくなんて私はしない。メルセンドレは、あなたの過去についてギャスパードに告げたのかしら?」

 彼女の言葉に、ミシェルは沈痛した面持ちで首を振った。「いや。まず拙者に確かめようとしていた」
「よかった。彼女が死んだ以上、私たちは安全ね。もしギャスパードが似たようなことをまた企んだら、あなたは真っ先に私に伝えること」 ミシェルは、彼女を疑わし気に見て、それからフェラッサンを見た。

「そのほうがいいな」 フェラッサンが言った。「自分ひとりじゃ、うまく立ち回れんだろう」
「そしてお前たちは秘密を守ると?」 ミシェルが、強張った、堅苦しい口調で尋ねた。死を命じられた男のような声だった。「セリーンにも?」
「条件がひとつある」 ブリアラは指を一本立てた。「いつか、あなたに頼み事をする。そしてあなたは私のためにそれをする、それが何であっても、秘密を守りたいなら」

「頼み事ひとつ」 ミシェルが吐き出すように言った。「そんな言い草を信じろと?」
「頼み事ひとつ、それだけ」 ブリアラは冷静な声を保った。彼に感情を剥き出しにすることはできなかった。自己の名誉と人生を危ぶんで自暴自棄になった男には、それらを上回るような立派な理由を示すしかないのだ。「それ以上求められたら、あなたはそれが私を殺す十分な理由になると考えてもいい。さっきのメルセンドレの亡骸を見たわ。兵士たちが到着する前に彼女はすでに殺されていた」 ミシェルはしかめ面になり、ブリアラは声を潜めた。「確かに約束したわ、ナイフ耳のひとりとして。あなたが約束を果したら、あなたの秘密は永久に漏れない。書き留めもせず、無二の親友にも囁かない。セリーンにさえも。頼み事ひとつ、どれだけ無茶なものであろうとも、たったそれひとつだけ」

 ミシェルは躊躇しており、ブリアラは彼のマスク無しの顔から、彼が考えを巡らす様子を見ていた。まず傷つけられた誇り、そして自問。この女は信用できるか? 今殺してしまって、過去の秘密を守ったほうがよいのではないか? 今約束したふりをして、あとから彼女を殺すことができるか?

 そしてついに、ひきつった渋い笑顔を見せた。「ギャスパードが別のバードを送り込んで来たら」と彼は言った。「お前の助けがいるだろう。取引成立だ」
「よかった」 ブリアラは、彼は彼女を信じてよいし、その決断を後悔することはないだろうと告げることもできた。だが庶民の血筋にも関わらず、彼は貴族のマスクをあまりに長い間身に着けてきたので、その言葉を信じることはなかったであろう。その代り、彼女はフェラッサンの方を向いた。「倉庫の中に何も痕跡が残されていなければ、私たちはより安全なはず」

 フェラッサンは頷いた。「ダーレン、倉庫そのものがあった痕跡すら、見つかることがないようになるから安心するがいい。この手の訪問はいつでも大歓迎だ」 彼は愉快そうに口笛を吹きながら、倉庫のほうに戻っていった。
 少しの間、気まずい時が流れた後、ミシェルがブリアラに身振りした。「行こうか?」
 ふたりがエルフのスラムを後にしたとき、後ろでは倉庫から火の手があがり始めた。

*** 

 残念ながら、第4章が終わる前に力尽きました。もう少し続きます。

2014年4月24日 (木)

The Masked Empire 4(2)

 DAIの発売日も発表されたので、ますますDA小説紹介に弾みがつくかというとさにあらず。めっちゃヴィデオゲームがやりたくなっている(笑)。DiabloIII! この際、いっそほぼ手つかずのライトニング・リ・・・、いや、それはさすがにやめとこう。

***

 ブリアラは、チャント・オヴ・ライトの教えを信じるように育てられた。あの読書室で両親が殺されて以来、その信仰はほとんど失われており、フェラッサンがエルフの神々のことをなかなか教えようとしてくれなかったにも関わらず、今では狩りの女神アンドルイルを崇拝するようになっていた。だがチャントリーの掟は捨て去ったと自分では思っていても、フェラッサンが魔法を用いる姿を見ると、知らずに後ろ髪が逆立ってしまう。

 ブリアラの師匠は、羽根飾りを額につけると、目を閉じ、片手を上に乗せた。羽根飾りが一瞬輝くと彼は頷き、行こうか、とだけ呼びかけて歩き出した。
 スラムの方角に向かう間、ブリアラから魔法を使うときはどんな感じがするのかと尋ねられても、フェラッサンは愚問だと言って軽くあしらうばかりだ。魔法使いがそれに答えるのは、ブリアラ自身が地下に棲むドワーフに太陽とは何かを伝えるに等しいという。

 彼の刺青が曝されたら、道行く半分のエルフは彼の足元にひれ伏し、残りの半分はこの伝説から彷徨い出てきた化け物に襲いかかるだろう。それが故に、彼は靴すら履く面倒を惜しみ、生きる神話というよりは木こりのような服装をしている。ヒューマンに関することは尽く冗談で笑い飛ばす。ブリアラは、彼が気づかれずに世界を渡り歩けるのはそのせいなのだろうかと不思議に思った。

 彼が滅多に口にしないデーリッシュの民の近況を尋ねても、デーリッシュは素晴らしい計画を手に入れており、ヒューマンが殺し合って誰もいなくなり、エルフがデールズを再び手に入れたときに完結するのだ、と冗談めかして答えるばかりだ。その計画はどのように始まるのかとブリアラが尋ねても、デーリッシュたちは鹿に牽かせた馬車に乗っていて、今は道半ばだとふざけた答えが返ってくるだけだった。彼らには師匠のようなエルフがいて幸運だとブリアラが言い返すと、フェラッサンはにやつき、首を振った。

 愚か者と暮らし、連中のため自分の意志を曲げ、言葉と身振りで取り繕う生活は疲れるだろう、とフェラッサンが問い返す。答えようとしたブリアラは、頭巾の陰の彼の目が怒りで鋭く光っていることに気づいて思いとどまった。彼女は、シャトレイン、衛兵隊長、他の多くの貴族たちが、自分を完全に無視するか、「ウサギ」と呼んでいたことを思い出した。セリーンの優しい指使いで自分の腕を触られるときの感触を思い出した。
 自分はよくやっていると思う、と彼女が言うと、フェラッサンも頷き、まだしばらくはそれも持つだろう、と答えた。

 スラムに入ると、そこでは数の上でヒューマンを凌駕しているエルフたちの怒りと警戒の視線を浴びる。フェラッサンは彼らの仲間と見られてもおかしくない姿だが、対照的にブリアラのほうは、清潔で継ぎあてのない衣装に上質の皮のブーツを身に着けていて、マスクを身に着けていなくても貴族の召使いにしか見えなかった。

 その手の視線に触れると、彼女はいつも、自分は宮廷内部でエルフの味方を務めているのだと告げたくなるが、やはりいつものように、ため息とともに思いとどまった。彼女たちは怒りの視線を無視して歩き続けた。

 不快なことなしに人の気を惹くことは難しい、 とフェラッサンは彼女に顔を見せもせずに告げた。そして彼は、昨日のお辞儀がちょっとだけ遅かったことを理由に、誰も家に怒鳴り込んできたりせず、死ぬ手前まで殴られるような目に合わなくて済んでいることには気が付かないものなのだ、とふざけ半分で付け加えた。

 多少は改善されているはずだ、とブリアラが主張すると、フェラッサンは、自分がここにいるのだからその通りだと冗談を言う。笑うブリアラに向かって彼は、彼女も今までよくやっているが、そんな苦労が誰からも理解されず、認められず、気づかれもしないことを悟った頃には、ブリアラの心は萎んで、内側から死んでいるだろうと言った。できるだけ長い間そうならないように心掛けよ、と彼は言うと、今度は不意に、チャンピオンの足取りを見つけたと告げた。

 彼は、炭で描かれた下手な絵や、綴りを間違えた侮蔑の言葉などが壁を覆っている、汚い掘っ立て小屋の酒場の前に立っていた。ブリアラが中に入ると、たったひとりだけ、バーの向こう側にエルフが立っていて、昨夜の乱闘騒ぎの後始末が片付かないから店は閉まっている、と睨み付けるような目で告げた。 

 グラスを強く握りしめる彼の手は真っ白で、金銭か脅しによって口止めされていることは間違いない。床に散らばる調度品の破片やおがくずが汚れていない。ブりアラは、乱闘騒ぎは昨夜ではなく、ほんの少し前に起きたのではないかとエルフに尋ねた。

 頑として事実を認めないエルフの手がバーの下に隠れる。自分の刺青が少しだけ相手に見えるように頭巾をずらしたフェラッサンは、指の爪を溶かされたらどれだけ熱いか知っているか、と脅した。怖気を奮ったエルフは、自分の手が相手に見えるようにゆっくりと持ち上げた。

 ブリアラは、バードの用いた粉の臭いに気が付いた。自分もよく用いるディープ・マッシュルームの窒息性の毒だ。彼女はフェラッサンと二人で店の外に出る。目当ての騎士は数人がかりで襲われ、最後は毒にやられたらしいとブリアラが告げると、そいつは素敵だ、とフェラッサンが答える。爪を溶かすよりは確かにひどいやり口だ、と彼女が先ほどの彼の脅迫を咎めつつ言うと、フェラッサンは、爪は黒焦げになってぽろりと落ちるだけで、指の方がずっと先にむくれて破裂するのだ、とうそぶいた。 

 フェラッサンにサー・ミシェルが捕らわれている場所が感知できることを確かめたブリアラは、一か所寄るところがあると言って、物騒な者たちがたむろしている迷路のような裏路地を進み、石造りの変哲のない空き家に入った。隠された仕掛けをいじると、他と見分けのつかない壁石のひとつが開き、奥から彼女の物入れが現れた。

 レッド・シダーの弓は、目立たないが十分役に立つ。ダガーは人目をひくシルヴァライト製だが、鞘から抜かなければわからない。矢じりにはデスルートの毒が塗られ、鮮度を保つために必要とするときまで被いがしてある。街中至る所に隠し倉庫があるのか、とフェラッサンがにやつく。師匠の教えの賜物だと答えると、ブリアラは引き出しを閉め、仕掛けを戻し、建物を出た。

 フェラッサンが先導し、ふたりは古い街区のひとつにやってきた。そこは汚く窮屈で、エルフが最初に住み着いた地区でもあり、フェラルデンのエイリアネイジと似たような場所であった。もはやあたりにヒューマンの姿はなく、ここに住むエルフは上流の市場を見たこともないだろう。 

 フェラッサンは、市場が開かれている広場の大木の前で足を止めた。ヴェナダールはリボンで飾り付けられ、周囲の土には柵があり、明るい布で飾られている。

「私たち民の木よ」とブリアラが言った。
「お前の民だ」
「そしてあなたの民でもある」 フェラッサンがそっぽを向く。「そうは思っていないのでしょうけど」
「これは良い木だ」とフェラッサンが言った。「ただの良い木のままにしておけ」
 ブリアラが言葉を返しかけたとき、角の向こう側からブーツの足音と、鎧のジャラジャラ鳴る音がしてきたため、ふたりはものも言わずに闇の中に身を潜めた。

 兵士たちは軍装ではないが、レッドスティールの鎖帷子と長剣を身に着けている。「そこいらのごろつきには手の出ない品だ」 広場の端の倉庫の中に、列を作って入って行く彼らを見て、フェラッサンがつぶやいた。「君の女帝の手の者でもない」
「違う。彼女なら完全装備の兵士たちか、目立たない服装の暗殺者を送り込む。ギャスパードの手の者だわ」
 フェラッサンは頷いた。「そいつは、いい報せだ」
 ブリアラがその顔をみつめた。「真面目に言ってるのですか?」
 フェラッサンは目を回して見せた。「死骸ひとつを運ぶのに、あれだけの兵士が必要だと思うかい、ダーレン?」
「なるほど」 ブリアラは立ち上がった。簡素な召使いの衣装は動きやすいが、その姿で戦うことになるとは思っていなかった。「次回には、隠し場所に鎧も用意しておかなくちゃ」
「全部の隠し場所に? 肥えたらどうする? それだけの鎧を入れ替えるのは大変だぞ?」

 ブリアラは長い息を吐いた。「狩りに参りましょうか?」
「いいとも」 フェラッサンが歩調も変えずに、外套のひだの中から棒を取り出すと、それが生き物のように曲がって延び、一瞬もしないうちに先が渦巻状で、エメラルド色に光るメイジの杖の形になった。二人は揃って、建物の中に駆けこんでいった。

*** 

 本来のサブ・チャプターなどの区切りではありませんが、ここまで。
 フェラッサンのジョークは・・・。ウィークス氏の冗舌ぶりがそのまま出ているのでしょうが、「肥えたらどうする?」(What if you gain weight?)はちょっとねえ・・・。くだらないアメリカンの平凡な夫婦の会話そのまんまで、下世話、小市民、俗、リベラル丸出し。どうにかならんものか。
 

 この人のこういうセンスは、テイスト的には私とはあまり合わなさそうです。ま、そこら辺はあまり期待せず、アクション場面に賭けてみましょう。

 

【DAI】英語版Amazon.comで買えるはず。

 今見たら、Amazon.comに(英語版に違いない!)PCデラックスもスタンダードもあったので、デラックス予約しときました。X360/ONEもPS3/4もある。

 日本のOriginで予約したデジタル・デラックス(日本語)のは、キャンセルするかどうか直前まで考える。お布施として残すか・・・、あるいはOriginアカウントで余計な誤動作する心配を防ぐためにやめるべきかも・・・。

 さらに、商品の情報量があまりに少ないので、Amazon.comがでたらめこいてる可能性も否定できませんので。

2014年4月23日 (水)

【DAI】セリーンに統一します。

 週末、猛然とThe Masked Empireの紹介記事を書き進めようと思っていたところに、思わぬプレゼントが。

 すでにコメントいただいていますが、なんと日本語版あり、かつEAJapanのサイトも真面目に日本語で紹介している。
 やりましたねえ。日本語版(ほぼ)同時発売は雨乞い担当としては苦節三年(だったかな)、感無量。ようやくBioWareというかEA、日本で稼がないとどうしようもなくなったかな。 

 問題は、日本のOriginから買うと、「強制的に日本語版になる」ということですが、英語版についてどこにも書いていなかったような気がする。今までのアホなEAのままなら、きっとそうだろう。

 んー、英語版を入手する方法を考えないと・・・。
 (もういまどきオンライン・セキュリティもいい加減使わないだろうから、パッケージ版英語版を買えば済むと期待していますが)

 なお、そのEA Japanの紹介記事でも、女帝は「セリーン」となっていたので、過去記事も小説版だけは遡ってそちらに統一することにします。
 たしかにDAOのDLCでウィンが呼ぶときも「セリーン」と聴こえたしね。

【DAI】10月7日発売、予約開始

 今、スマホの小さな画面で覗くしかないですが、DAIの予約がはじまっていますね。
 2014年10月7日発売(現地)。

 日本からだとOriginでデラックス・デジタルかスタンダードが予約可能。
 速攻予約してみます。
 またBioWareのサイトも大幅更新されている。読んでる暇ないんですが。

 トレイラーも、グラフィックも、ライティングも結構な数ありますので、今週末は楽しめそうです。


 取り急ぎご連絡まで。

2014年4月20日 (日)

The Masked Empire 4(1)

 ウィークス氏の婉曲表現、省略表現、なかなかきつい。ちゃんと考えないと、まったく逆の意味にもとりかねない(だからこそ、婉曲なんですが)。なんか意味が変だなあと思うところは大抵こちらが間違っているので、大事には至らないと思いますが・・・。

***

 ミシェルは、痛みで充血した目で目覚めた。目をしばたたせて涙を散らし、咳き込み、身体を起こそうとし、それに逆らおうとする頭がい骨の痛みに唸り声を上げた。

 シェヴァリエの第一の教えに従い、目を閉じて呼吸に専念する。外界よりまず自己を把握せよ。肺も心臓も、筋肉も、傷んではいたがまだ思い通りに動きそうだ。 

 手足は枷ではなく縄で縛られていて、自分の脇腹の、傷などと矮小な言葉で呼びたくない裂け目に激痛が走るが、少し閉口する程度まで意識して抑え込むことができた。筋肉、関節、呼吸を確かめ、ギャスパードのバードから浴びせられた窒息の粉の残りを吐き出した。

 自分を取り戻すと、ミシェルは目を開いた。倉庫の柱に縛りつけられ、四隅に積まれた木箱で囲まれた部屋のようになった場所にいる。鉄格子のついた小さな窓から差し込む明かりが、宙に舞う埃を輝かせている。床は土がむき出しで、木箱からは腐りかけの果物や古着の臭いがする。外からは馬車の走る音や遠い叫び声が聞こえ、ヴァル・ロヨーの街中にいることがわかる。だが商業地区の商人が、倉庫をここまで無様な状態にしておくことはありえない。ゆえに、ここはスラムだろう。

 バードは彼の剣とダガーを奪い、上着を脱がせ、脇に血まみれの裂け目のある亜麻布の下着だけの姿にしていた。ミシェルは武器を隠し持っていない。彼はシェヴァリエとして訓練された戦士であり、暗殺者ではないからだ。

 足音を聴いたミシェルは姿勢を正した。シェヴァリエの掟は奇襲や戦術的待ち伏せを認めており、彼らは庶民向けの舞台で演じられるようなバカ正直な騎士ではない。それで逃げられるなら、寝ているふりをして不意を突くことも恥ではない。だがその手段が使えない限り、彼は敵の前に惨めな姿を曝すことを拒んだ。

 メルセンドレが木箱の陰から姿を現した。もうお目覚めなのね、と彼女は言って、彼の蹴りを受けないように間合いを保って片膝をついた。そして、酒場で彼に倒された男たちが、生き残った者ですらまだ昏睡していることを告げ、ミシェルの武芸を称賛した。

 ミシェルは、あの小袋の粉のせいでまだ傷んでいた喉で、狙いは何かと問い質す。お近づきになりたかっただけかも、とバードはにこやかに笑って、黒髪を肩越しに払い、昨夜の晩餐会でも、先ほどの酒場でも、まだ正式なご挨拶も済ませていない、と言った。彼女は立ち上がると、この場所のみすぼらしさを詫び、ここは大きな樹木の生えているエルフ地区の市場の一画にある場所だと言った。

 マスクなしでも良く知られているミシェルを、ヒューマンの多い場所に連れ込むわけにはいかなかったのだ。

「でも、本当のところは、良く知られていないのではないかしら?」
「何が望みだ?」とミシェルが再び尋ねた。

 メルセンドレはため息をついた。「シェヴァリエの心には、ちょっとした礼儀作法の占める場所もないのかしら。でも、考えたら、そのようなお家の出ではなかったのでしたね」 彼が黙ると、彼女はまた微笑んだ。
「あなたの後見人、シャロンズのブレヴィン伯爵は、亡くなる際にオーレイ大学に遺産を寄贈したことをご存じかしら?」
「ブレヴィン伯爵は熱心な学者であった」とミシェルが言うと、メルセンドレがようやく会話ができたことを喜んだかのように微笑んだ。

「そうね。そこで問題は、召使たちは彼の書籍をときたまぞんざいに扱うこと。クナリや、地下に棲むドレイクの角の治癒効果に関する研究書に、金銭の出納表が容易に紛れ込んだりする」メルセンドレは、はにかんだように指先を頬に当て、考え込んだような素振りを見せた。「あなたの訓練について、サー・ミシェル、彼が支払ったのはとてつもない額だったの」
「拙者は、家族を若い頃に皆亡くした」 ミシェルは声の落ち着きを保って言った。「そしてブレヴィン伯爵が拙者を引き取った。また彼からは、拙者がアカデミー・デ・シェヴァリエに入学するための学費を支払っていただいた」

 メルセンドレは首を振った。「モントフォートには、人々が『レ・マージャ・ドゥ・ソ』(le Mage du Sang)と呼ぶ男がいた」 ミシェルの虚ろな顔つきを見て、彼女は首を傾げて考え込んだ。「では、ご存じなかった。あなたの後見人、ブレヴィン伯爵がその男に大変な額の金銭を渡したことを」

 ミシェルは歯を食いしばった。「ブラッド・メイジ? 嘘をつけ、バード。ブレヴィン伯爵は善良なお方だった」 十歳の男の子が、三人の年長の子たちと路地で喧嘩しているところを見かけて馬車を止めさせ、そこから救い出したくらい善良だった。その男の子を引き取り、温かい食事と、古い貴族が有していた機会、捨て去ることなく有意義に使うことができるようにその力を与えてくれるほど、善良だった。「彼はブラッド・メイジなどと取引きしない」
「ああ、でもそれは名前だけの話よ」 メルセンドレが言って、また媚を売るような笑顔を返した。「つまり、レ・マージャ・ドゥ・ソは実際には書士で、紋章と公文書の専門家だったの。彼は、何もないところから貴族の血筋を生み出す能力でその名を獲得したのよ」

 ブレヴィン伯爵の地所で暮らしてから三年経った頃、ミシェルは、自分のその後の人生を大きく変えることになる紙片を一枚持って、自分の部屋に静かに入ってきた主人に起こされた。ブレヴィンは、ミシェルの剣の腕前は衛兵や傭兵にしておくには惜しいと言った。ミシェルは類まれな技量を有しており、それは帝国のために育むべき技量だと言った。そして最後に彼は、アカデミー・デ・シェヴァリエは貴族の血筋の者しか受け付けないこと、それから、その家名を他に用いる術のない死に絶えた貴族の家系があることを告げ、旅立った彼らの魂も、その家名を実りある目的に供するなら名誉に感じるであろう、と言った。

 メルセンドレは、ほとんど悲しげな顔つきで彼を見つめており、ミシェルは、自分の沈黙から彼女が何かを読み取ったことに気が付いた。「彼は支払いの記録を残していた。実際、とても多額の支払いだった。あなたのことを本当に買っていたのに違いない」 彼女はため息をついた。「そして彼は正しかった。あなたはセリーンのチャンピオンとなった」
「そうだ、拙者は女帝陛下のチャンピオンだ」 ミシェルが言った。「そしてお前はギャスパードに従っている。なぜ拙者を殺さない?」
「なぜなら、死んでしまったらあなたは、大公の悪辣な背信のために殺された殉職者になってしまうから」とメルセンドレが言って、彼のとなりで再び片膝をついた。「でも生きたままなら、そしてあなたの偽の貴族の血統が明るみに出たなら、あなたは女帝の名を貶めることになるから。想像してみて、そのときの審問、公開処刑、そして醜聞を、ミシェル。あなたが生き長らえている理由はそれ」

 勝利のさなかにあっても、彼女は幸せそうに見えなかった。彼女の微笑みには弱さが見え隠れしており、彼と目をあわせようともしなかった。

「拙者はいずれ程なく死ぬ」と彼は彼女に告げた。
「そうね」と彼女は頷き、ゆっくりと息を吐き出した。「そして、どのみちもったいない話。私も武芸大会の経験は豊富にあるけど、あなたこそ剣を手にするために生まれてきた男に違いないと言えるわ。本物の貴族かどうかなんてどうでもいいじゃない?」 彼女は苦々し気に首を振った。「私は大抵の廷臣たちよりも『ゲーム』を上手にこなせるけど、乳しぼり女と休暇中の兵士の間に生まれた父なし娘よ。身分相応のままでいろなんて嘘だわ」
「かもしれん」 ミシェルは肩をすくめ、気にしてない風を装った。「だが拙者たちは依然としてこうしている」

 メルセンドレは彼にまた悲しげな微笑みを向けた。「あなたは少なくとも、高貴な血筋でない者たちを慮る女主人に仕えている。そこは違う。彼女は大学に庶民だけではなく、エルフを入学させようと・・・、ああ、その話がまだ

 彼女の悲しげな面持ちが消え、楽しげな、クリームを舐めているときの猫のような笑顔が戻り、ミシェルは、オリージャン・バードと話をして、その同情を買えるかもしれないと考えた自分の間抜けさを呪った。冷たく、締め付けるような恐ろしさがこみ上げてきたが、彼は無表情を装った。「なにがまだだ?」

「私は農園で育ったって言ったでしょう」 メルセンドレは彼の隣に、今や親しげな様子で腰を下ろした。「とてつもなく退屈だったから、できるだけ早く逃げ出して、新し人生と新しい名前を手に入れた。あなたも同情してくれるわよね」 彼女は肘で彼のことを、ふざけるようにして突いた。「でも、いくつかのことは忘れていない。白い雌牛を黒い雄牛と番わせると、黒白まだらの仔牛が生まれるの。葦毛(あしげ)の牝馬と黒い種馬を番わせると、灰色の仔馬が生まれるけど・・・、その仔馬は育ってから黒い毛色の仔馬の親になるかもしれない。まるで黒い毛が血の中に残っているようなものね。牛や、馬の場合はそうだけど・・・、いえ、実は全てがそうなのよ」

 彼女は知っていた。

「でも、ヒューマンの場合は」とメルセンドレはまるでお天気の話のように言った。「エルフと番うと、生まれてくるのはいつもヒューマン。エルフの耳もなく、大きく可愛い目でもなく、ただのヒューマン。本当のヒューマンかどうか、見極める方法はない」 彼女はちらりと横目で見て付け加えた。「自分から告白でもしなければ」
 ミシェルは生唾を飲んだ。

「ギャスパードはあなたを排除したがっていて、あなたを貶めることのできる情報を集めるよう私に命じたけど、絶対に必要でもなければ殺さないようにも命じた。彼って紳士でしょう?」 彼女はほくそ笑んだ。「私があなたは偽の身分をつけた庶民だと言ったら、彼の喜びは計り知れないでしょうね。私が彼に、あなたがナイフ耳の売女から生まれたと伝えたら、セリーンのちっぽけな宮廷がどうなるか、考えてもみてごらんなさいな?」

 彼女は、如何わしい小さな秘密を知ってることを知らせる笑顔で、はにかみながら言った。彼女は自分で愉しんでおり、ミシェルがなんとか慈悲を乞うこと、または条件次第で取引きしたがることを望んでいた。あるいは訓練された密偵や人を操る名人として、他の情報を引き出そうと、またしても彼のことを弄んでいるだけかもしれなかった。

 サー・ミシェルは彼女の顔に額で頭突きを食らわせた。彼女が横向きに倒れると、彼は仰向けに転がり、両腕を強く引き下げ、両手を曲げた両脚にひっかけて、まだ結びつけられたままのそれらを持ち上げ、メルセンドレの頭から首に回した。彼は縄を輪にして、ひねり、強く引っ張った。彼女があげる苦痛の悲鳴は、ごぼごぼと半狂乱のような音を立てる喉に詰まって声にならなかった。

「拙者はサー・ミシェル・デ・シェヴィンだ」と彼は言って、彼女の首にかけた縄を引いた。
 最期の力を振り絞って、メルセンドレは尻の鞘からダガーを引き抜いた。彼女がそれを使う前に、ミシェルは両手をぐいと持ち上げ、強く引き落とし、メルセンドレの頭を地面に叩き付けた。彼女の身体はだらんとしたが、彼は何度も何度もそれを繰り返した。

「拙者はサー・ミシェル・デ・シェヴィンだ」 彼はもはや抗わない彼女の手からダガーを掴みとり、自分を縛っている縄を切りはじめた。しばしの後に自由の身になった彼は、彼女の前に立った。
「拙者はサー・ミシェル・デ・シェヴィンだ」 彼はまたそう言うと、彼女の傍らに膝をつき、その喉を切り裂いてとどめを刺した。

 彼がまた立ち上がったとき、ギャスパードの手の者たちが現れた。 

***

 真面目に(いつもですが!)訳しながら、この場面の光景を想像していると、正直メルセンドレにはまりそうになってやばかった。彼女が駆使するのは、バカな野郎どもを狂わす「アイドル」のお作法みたいなやつですよねえ。怖い怖い。

 最初に読んだときは、この最後の部分のブルータルな結末に驚いたものです。そして(野郎の一員として)、その残忍な結末に、心のどこかで喜んでいた。

 日本語ではよく、マルキ・ド・サドって呼びますけど、サド侯爵ですね。マーキス・デ・セイドウ(Marquis de Sade)。英語でサド言っても通じない。サディスト(sadist)はそのまま。

 細かいことですが、(私は全く違うが)競馬好きの読者がいるといけないので、馬の毛色は慎重に。黒い毛の馬は青毛と呼び、黒毛とは言わないそうで。灰色の毛は葦毛(芦毛)

The Masked Empire ウェブページご案内

 PC画面ですと右上、「ウェブページ」にThe Masked Empireを追加しておきました。
 

 スマホだと直接いけませんから(ココログのせい)、下のリンクからとんでくだされ。

http://vanitie4.cocolog-nifty.com/rain_dancing_vanity_13/the-masked-empire.html

 そこに、下にも掲げたオーレイの地図が乗っています。作中登場する地名(主に貴族たちの領地)のだいたいの場所がわかるので、きっと役に立つことでしょう、いずれ、たぶん。 

Orlais_9  

 登場人物などは、おいおい拡充していきます。ただ、必要最低限のことしか書けないと思う。新しく読む人にとってネタバレになってしまうのを避けるため。 

 笑劇(ファース、仏語:ファルス)という演劇ジャンルがあって、ナンセンス・コメディ、スラップスティックスなどにも近く、一般にはもっとも低俗とされていますが(だからこそ生き延びているわけですが)、最初の頃、著者のパトリック・ウィークス氏にはそっちに寄りやすい傾向があるのかもしれないと思っていました。まず大学での、次に羽根飾りのくだりなどで。

 ドタバタはもちろん嫌いではない(筒井康隆先生の信奉者であるし)が、Dragon Ageにそれはあまり期待しない。ダーク・ファンタジーというからには、シニスター(sinister)な、不吉な、あるいはドレッド(dread)な、とても恐ろしげな、何かを期待するわけですから。

 サー・ミシェルの失踪あたりから雰囲気変わってきましたよね。

 むしろ問題は、この後えへらえへら笑えるシーンがあるのかどうか、逆に心配になってくるってところですか。フェラッサンあたりが、そこら辺の偏りをカヴァーするのかな。

 

The Masked Empire 3(4)

 記事数を稼いでいると思われるのもしゃくなんで、各章三回くらいに留めたかったが、それも諦めた。ひとつの記事が長くなると、このブログ(ココログ)が具合悪くなって、長文が平気で消え去ったりするのも怖いのです。

 貴族間の人間関係がややこしく、またちらっと登場した人物が後で重要な役割を担ったりするといけないので、なかなか省略できません。(実は、チャントラル伯爵の登場は晩餐会で終わりだと思っていましたし(笑))

*** 

 ブリアラはフェラッサンに続いて外に出たが、二人とも無言だった。彼女は彼の沈黙には信頼を置いている。平穏と忍耐は、デーリッシュたちがシェムレンと呼ぶヒューマンの社会の外側での生き方の一部である。少なくともフェラッサンに言わせればそうだ。

 ブリアラは、変装と髪留めを売って手に入れた代金のおかげで、ハラムシラルまで逃げることができた。その都市は古代エルフの本拠地で、郊外に広がるデールズがデーリッシュの名の由来だ。フェラッサンがいなければ、一人きりで街道を歩いていた彼女はヒューマンの盗賊たちの餌食となっていただろう。盗賊たちは彼の手で皆殺しにされたが、ブリアラにとって、エルフがヒューマンを攻撃するところを見たのは初めてだった。

 彼女はそのとき、お辞儀もいらず、愛想笑いの必要もない世界を知った。「ウサギ」が「ナイフ耳」よりましだと覚えておく必要のない人生を知った。貴族が自分の両親を殺す暗殺者を放ったりしない世界を知った。

 鹿肉と茶色のパンを夕食に、ブリアラの話を聞いたフェラッサンは、その世界を手に入れたいのなら、彼女はセリーンのところに戻る必要があると告げた。彼女はついにデーリッシュの駐留地までたどり着くことはなかった。

 フェラッサンは、商業地区の真ん中にある公園で足をとめた。彼はベンチを無視して芝生に腰掛けると、樹木に寄り掛かった。
「野生ではない」と彼は言った。「だがみじめな建物を眺めているよりはましだ。君たちは、どうしてあの中に一日中いて平気なんだ?」
「習慣。芝生に座っちゃいけないの」とブリアラは言って、不安げに周りを見回す。「誰かが気づいたら・・・」

「何とけしからんことをするのかと」 彼が微笑むと、顔の刺青が菫色の両目の回りで歪んだ。「ゲームの具合はどうだい、君の女帝殿と、彼女の、えー、従兄弟? 兄弟?」
「従兄。ええと、従兄に近いけど、実際は・・・」
「細部はいい、ダーレン」 フェラッサンは上の空で手を振った。「私が細々した話をどう思うか、知っているだろう」

「知っています」 ブリアラは息を吸った。フェラッサンの態度は、彼女が期待していた古代の知恵を司る者というよりも、宮廷内のめかし屋に近いように見えたが・・・、出会ってからは、彼からもセリーンからと同じくらい学んでいた。「セリーンがエルフ商人を手助けするように、エルフを大学に入学させるように仕向けました。でも彼女は、テンプラーとメイジの間の緊張を解くためチャントリーを介入させようとしていて、そのために立場を危うくしています」

「案外と愚かな女だな」 フェラッサンは木の樹皮を指で突いた。「どうして宗教の連中に権力を委ねようとする? シェムレンにすら、いかにひどい考えかわかりそうなものだ」
「彼女は、内々に抑え込めると考えています」とブリアラが言った。「サークル・オヴ・メジャイとテンプラー騎士団はどちらもチャントリーの支配下にあるから」

「それもまたひどい考えだ」 フェラッサンは樹皮を少し剥ぎ取ると、口に入れて噛んだ。
「何をしているのです?」
「デーリッシュは、ヒューマンが忘れてしまった薬効を数多く知っている」 フェラッサンが言って、噛み続けた。「ある種の樹皮を噛むと頭痛が治まる」 彼は間を置いた。「これは違う。残念ながらただの樹皮だ」

 ブリアラは首を振った。彼がこういう雰囲気のときにやり合っても無駄だ。「では、メイジとテンプラーの問題をどう解決すればいいと?」
「お互い殺し合いに疲れ果てるまで、待つんだな」 フェラッサンは噛んでいた樹皮を取り出し、目を細めて矯めて見ると、また樹木に戻した。
「それでは、時間がかかりすぎます、敬愛する師よ」
「だがいずれそうなるのだ、ダーレン」 フェラッサンは目を見開いた。

「私の名は、我々の民の間では『ゆっくりした矢』を意味する。フェンハレル神が、とある村から巨獣を退治するよう頼まれた物語に由来するのだ。彼は夜明け頃に巨獣のところまで出向き、その力を見て、戦えば殺されることを知った。その代りに矢を一本、上空に向かって撃ち放った。村人たちがフェンハレルに向かって、どのように村を救っていただけるのか尋ねると、彼はこう言った。『お前たちを救うなどと、いつ言った?』 それから彼は立ち去り、その夜巨獣が村に暴れこみ、戦士たち、女たち、老人たちを殺した。だが、巨獣が子供たちに向かって巨大な口を開いたとき、フェンハレルが放った矢が空から落ちてきてその口に突き刺さり、巨獣を殺した。村の子供たちは親たちや老人たちが死んでしまったことを嘆き悲しんだが、それでも村人が願ったとおりのことをしてくれたフェンハレルに感謝の貢物をした。彼は巨獣を退治した。その狡猾さと、巨獣が決して気づくことのなかったゆっくりした矢によって」

 ブリアラはその物語について、しばし思いを巡らせた。彼女が答えに飛びつくことを師匠は許さない。「トリックスターのフェンハレル、決して誰の味方でもなかった」
「フェンハレルはそのとおりに卑劣なクソ野郎だった、古い物語によれば」 フェラッサンが言った。
「そしてあなたが、ゆっくりした矢?」

 フェラッサンは微笑んだ。「そうありたいものだ」 彼は肩をすくめた。「君の女帝殿は戦を食い止めることができないかもしれない。メイジとテンプラーがお互いを滅ぼし合い、愚かで避けられない戦が始まれば、シェムレンは弱体化して、エルフがデールズを奪還できるかもしれない。それもいつの日にかわかる。今のところは、君はこの帝国の掟に従って生きているエルフたちの力になっている。それで満足するしかない」

「私はセリーンのチャンピオンのことが心配なのです」 ブリアラは立ち上がった。「彼は姿を消し、私には見つけることができない」 ブリアラは周囲を見回し、声を潜めた。「力を貸していただけますか?」
「いくつか手口はある」 フェラッサンは笑った。「彼の持ち物を用意しているか? 手に持っていたり、身に着けていたりしたものだが?」
 笑顔とともにブリアラは、背の高い黄色い羽根飾りを取り出した。

 
 
*** 

 第三章はここまでで終わり。
 
 
 

 さて、どうやら重要人物になりそうなひとり、デーリッシュ・エルフの男性が登場してまいりました。実はここまで、サー・ミシェル以外に碌な野郎キャラが登場していなかったんですよね。でもDAファンならご存知の、エルフの神にしてトリックスター、恐るべき狼、フェンハレルの化身、あるいはワナビー(志望者)。一癖ありそうです。

 

2014年4月19日 (土)

The Masked Empire 3(3)

 The Masked Empireの紹介、「要約版」と表題につけてしまって、失敗しました。
 この表題がずらっと並ぶと、きっととても気持ち悪い。
 過去分も含め、表題から「要約版」を取り、逆に第一章のみにあったベタ訳に「全訳」をつけることにします。

***

 ブリアラは宮廷から外に出ると、マスクと羽毛の外套を脱いで、いつも用いる隠し場所に仕舞った。ただのエルフに戻った彼女は、サー・ミシェルの足取りを探り始めた。

 オーレイで最も著名な密偵はバードたちだ。情報を嗅ぎまわる伝説的な技能を有していて、貴族たちを思い通りに操ることができる術策にも長じている。それにもかかわらず、ときにはそれが故に、貴族の男女から演奏のため招かれる。「ゲーム」に興じる貴族の男女たちは、欺瞞の達人たちに機知の戦いを挑むことを好み、またそこからいくばくかの手口を学ぶ。

 だが、バードが貴族たちを遣り込めることができると言っても、著名で、伝説的ですらある以上、監視されている。今のブリアラは、市場に数多く行きかうエルフのひとりに過ぎない。
 香辛料の荷降ろしをしていたエルフの少年からは、チャーニューの今年の収穫は思わしくないこと、洗濯女からは、ヴァル・ファーミンの商人の話として、アダマント要塞で奇妙なことが起きていることを聞いた。最後には、駅馬車のヒューマンの御者から、この早朝、チャントラル伯爵が、大公ギャスパードの邸宅に乗り付けたことを聞きつけた。

 ブリアラは、サー・ミシェルの行き先を示す手がかりを見つけるまで、歩き、見聞きし、そして待った。

 子供の頃、まだ十歳のセリーンの髪を直している間、マンティロン侯爵未亡人と、セリーンの母方の従兄にあたるプロスパー公爵が、セリーンの両親と晩餐の卓を囲んで話をするのを聞いていたことがある。最初は貴族たちの狩りの話だったが、やがてプロスパーが、セリーンは黄金の獅子を射止めるかもしれないと言ったのを聞いて、ブリアラは不思議に思ったものだ。セリーンは、レディ・マンティロンからようやく弓矢の扱いを教わりはじめたばかりだった。だが、セリーンの息遣いがその話題に反応し、レディ・マンティロンとセリーンの両親が彼女の顔を見つめていた。ブリアラは躾けられたとおり、食卓の誰とも目を合わせず、壁に掲げられたヴァルモント家の紋章、紫地に描かれた黄金の獅子のほうを見た。ヒューマンたちは狩りについて話をしているのではなかった。 

 ブリアラは、自分の母親が別のエルフの召使いの女性と、どちらの娘がセリーンの侍女になるべきかについて口論していたことを覚えている。だが次の朝には相手の女性は屋敷から姿を消しており、セリーンの父親であるレイノード王子の財布から盗みを働いたせいだと皆が噂していた。ブリアラの母親は何も語らなかったが、彼女にセリーンの言うこと全てに従い、その友人になるように言い含めた。
 貴族たちがオーレイの玉座を射止める話をするのを聞いてはじめて、彼女は母親がなしたことの重大さに気がついた。

 市場では、ヒューマンの針子の女が召使いのエルフの少女をしかりつけている。ヒューマンたちはにやにや笑い、エルフたちは目を逸らしていた。ここにはエルフの商人の姿は少ないが、特別な品を売るエルフ商人は、上流階級向けの市場で商売することを許されており、彼らに対する脅しはセリーンが厳しく戒めている。徐々にではあるが、ブリアラの民たちの地位は良くなりつつあった。

 ブリアラはまだ少女の頃から、注意深く観察することをセリーンに学んでいた。少女、とりわけエルフの少女は男性のように振る舞うことはできないからだ。素早く攻撃的な行動を起こす男は、大胆不敵だと称賛される。同じ行動を起こす女は、愚かで自暴自棄だとみなされる。ヴァルモント家の召使いであることを示すマスクがなければ、エルフであり庶民であるブリアラは侮辱からも暴力からも身を守ることができない。彼女の強みは、取るに足らない存在であることだ。貴族たちは、隠語や独特の言い回しを召使いが理解し、そのままセリーンに伝えているとは思いもしない。セリーンの家族の「ゲーム」を見守ることで、ブリアラは淑女の最大の武器である、耳と目を使う術を学んだ。

 セリーンの母親が死んだとき、セリーンを抱きしめていたのはブリアラだった。貴族たちは狩りの事故と言っていたが、ブリアラは「狩り」の意味をすでに知っており、プロスパー公爵は公然と涙を見せながら、セリーンと父親への支援を申し出ていた。喫煙室の外の闇の中で、室内にいるプロスパー公爵とレイノード王子が、狩り場の事故を演出した娘の父であるギスレインのバスティエン公爵邸を訪れる算段をしているのを、セリーンの代わりに盗み聞いたのもブリアラだった。 

 バスティエン公爵の娘が狩りの事故のため死んだ夜、ブリアラは、帰宅したレイノード王子の腕に小さな傷を見つけた。傷は日に日に黒ずんでいき、最後には彼の命を奪った。召使いたちは皆毒のことを囁き合っていたが、死因は病気ということにされた。

 両親を喪ったとき十六歳で、虚ろな目をしていたセリーンを世話したのは、皇帝フロリアンじきじきに出頭を命じられ不在だったプロスパー公爵ではなく、ブリアラだった。
 ブリアラはセリーンの舞踏会の着付けをする際、女性たちの衣裳について他の召使いたちに聞き込みをさせ、セリーンがほんの少し優位に立つように手配した。セリーンがジェネヴュール伯爵夫人の子息、それからレディ・マンティロン本人の子息を招いた席では、ブリアラは飲み物を給仕するため傍らに立ち、オリージャン・バードから教わった身振りで、セリーンが世界最大の帝国の玉座を争う際の味方になるよう、男性たちの気を引き付けるためのちょっとした提案を伝えた。

 両親の死以来、レディ・マンティロンから招待を受けた初めての日、セリーンが歓喜とともに思い切り抱きしめたのはブリアラだった。

 過去の勝利を思い出すことは、ブリアラの今の苛立ちを増すだけだった。サー・ミシェルはセリーンのチャンピオンとしての身分で動き回ったのではないらしく、足取りはつかめなかった。今どこにいようが、彼に身の危険が及んでいることは確かだ。忠誠心の塊である彼がセリーンを見捨てることなどありえないが、ブリアラの知る限り、彼の出自に脅迫を受けるような材料は何もないはずであった。彼はシェヴィン家の傍流の出だが、エティエンヌ・シェヴィンはセリーンの親密な仲間のひとりである。

 だが何か理由があるはずだ。ミシェルは今危険にさらされているか、または下級貴族に過ぎない以上、もう殺されているのかもしれない。「ゲーム」の賭け金が十分多ければ、身を守ることのできる身分なくして貴族たちの近くにいる者の身は危険である。ブリアラはその教訓を十分に学んでいた。

 カーテンの向こう側から、セリーンが隠れているブリアラを小声で呼ぶ。今は完全に静かにしていなければならないという。ブリアラが赤いヴェルヴェットのカーテンを開けると、読書室の床に敷かれた上等なネヴァラ絨毯には血だまりができていた。血だまりのあちらの端には、ブリアラの両親が倒れている。セリーンがブリアラの視界をふさぐようにして立ち、温かい両手でブリアラの両腕をつかむ。暗殺者たちが召使いを皆殺しにしており、もうじきここに戻ってくるだろう、とセリーンが言った。

 

 暗殺の意図がわからないブリアラは、セリーンがレディ・マンティロンと会ってきたのだから、彼女が助けてくれるのではないかと尋ねる。セリーンは涙を浮かべた目で、自分の両親が死んだときと同じ理由なのだと告げる。レディ・マンティロンはセリーンの支援を約束したが、皇帝フロリアンがそれを認めなかったのだろう。

 だが、ブリアラが盗み聞いた暗殺者たちの会話からは、連中はセリーンが今宵外出していること、そして程なく帰宅することを知っていた。その事実を知っているのは、レディ・マンティロンただひとりだ。

 読書室の中はとても暑かった。ギャスパードは、セリーンが「ゲーム」から脱落したと考えており、玉座は自分のものだと思いこんでいる。暗殺者たちが彼の差し金であるはずはないし、万が一そうであっても、連中が帰宅の時刻を知っているはずがない。レディ・マンティロン本人が送り込んだのではない限り。

 セリーンの涙は頬を伝わり落ちた。もしそうなら、ブリアラはここを立ち去らなければならない、とセリーンは言った。連中に見つかれば、ブリアラは殺されるだろう。物心ついてこの方、ここ以外で暮らしたことがないため困惑するブリアラに、セリーンはデーリッシュを訪ねて行けと言う。見つける方法もわからないと途方に暮れるブリアラに、セリーンは自分のために是が非でも生き延びるように命じる。

 セリーンはブリアラを抱きしめ、身体をこわばらせる彼女の唇にキスをした。それから相手を押しやると、彼女の外套と古いマスクを身に着け、彼女のように振る舞いながら馬車に乗り、できるだけ遠くへ逃げるように言った。その先はこれを売ってデールズまでの足代にするようにと言いながら、無造作に自分の髪から外した何かをブリアラの手に押し付ける。それはレディ・マンティロンから貰った宝石飾りのついた髪留めで、あまりに力強く握らされたため、ブリアラの手のひらに切り傷ができた。


 茶屋で待っていたブリアラのところに相手が到着したのは、午後の遅い時刻だった。彼とは毎月一度会って、いつもは情報を交換するだけだったが、今日のところは、サー・ミシェルの足取りを示す何の手がかりも見つからないので、助力を仰ぐつもりだった。

 茶屋に現れた外套姿の男の顔は頭巾で隠れ、その動きは流れるようで無駄がなく、あたかも森の中を進む狩人のようだ。彼は他の客たちの好奇のまなざしを無視しつつ、ブリアラの座っている席に静かに滑るように近づくと、椅子に腰を下ろした。午後の優しい日差しの中で、ブリアラは男の顔を覆う刺青をほんの少しだけ垣間見た。デーリッシュの間では、その刺青はヴァラスリン、「血の筆跡」と呼ばれている。

「フェラッサン」 ブリアラは救われたような声で呼びかけた。
「アネス・アラ、ダーレン」 彼は完璧なエルフ語でそう言うと、にやりと笑った。「麗しきシライーズの名に懸けて、一体全体どうしたんだね?」

***

 レディ・マンティロンは、"Dowager Marquise Mantillon"、マンティロン侯爵未亡人。実はDA2のDLCであるMotAには、その肖像画と人物紹介だけ登場します。先代皇帝フロリアンの愛人、暗殺者、バード、その他諸々。舞台の後ろで政界を操るフィクサー、キング(この場合エンペラーだが)メイカーという感じでしょうか。あるいは「ゲーム」の譬えに倣えば、それこそゲーム・マスター(GM)か。
 オリージャンの警句に曰く、「オーレイの『ゲーム』に参加したいなら、侯爵未亡人と踊らなければならない」

 いつか人物表でも作ってアップしておきたいが、中途半端にやるとネタばれになっちゃうのがつらいところ。

 なお、シライーズ(Sylaise)は、これも読み方暫定ですが、古代エルフの女神、暖炉の神(Hearthkeeper)。アウトドア派の狩りの神、アンドルイル(Andruil the Huntress)と姉妹の関係。シライーズはインドア派で、火を司る他、詩歌、芸術を嗜む。日本でいうところの竈(かまど)の神とはちょっと意味合いが違うようです。 

 第三章はまだ続きます。

The Masked Empire 3(2)

 DiabloIIIを遊ぶ時間を削ってまでがしがし翻訳して、あたしゃいったい何をやっているんだろう。
 そう思って、Asunderの紹介記事を読み返していたら、やっぱ、やっといてよかったあ、と思った。老後の愉しみのためやっていることを忘れていた。

***

 午後の狩猟旅行の時間になってもチャンピオンが現れないため、セリーンはたいそう機嫌を損ねた。昨晩の勝利の流れを維持してギャスパードの動きを封じ、ディヴァイン・ジャスティニアがメイジ・テンプラー抗争に対する直接的行動を起こすまで時間を稼ぐのが重要だった。狩りの旅は旗幟鮮明にしていない貴族たちを見極め、正しく導き、ギャスパードに与する者たちには然るべき制裁があることを示す格好の機会だ。 

 常に時間厳守で責任感の塊であったサー・ミシェルが何の伝言も残していないことから、不在が意図的なものでないことは確かだ。
 セリーンは、彼の捜索にブリアラを派遣した。狩りの中止は弱さを示すことになるため、彼女は自分の白い牝馬を呼び、乗馬用スカートを正し、戦場へ繰り出した。

 貴族の男女たちは一ダースほどの人数で、彼らの従者たち、チャンピオン不在でもセリーンを守るに足りるだけの衛兵たち、それから貴族たちが自らするつもりのない細々したことを世話する狩人たちが付き従った。木々は丁寧に剪定されており、狩りの楽しみを奪うことなく、不慣れな乗り手でも怪我しないように配慮されている。

 セリーンの回りは、従者たちが手下に指図する怒鳴り声、貴族たちのおしゃべりや笑い声、猟犬たちの吠える声で騒々しかった。貴族たちは外套やレザーを身に着け、マスクの装飾とあわせた金銀やリボンで飾り立てている。後を追う従者たちは、狩りよりも飲み食いが好きな貴族のため、水で薄めた葡萄酒の入ったゴブレットや、肉、チーズ、酒づけの果物の串刺しをいつでも渡せるように用意していた。 

 馬上のセリーンは冷たく上品な微笑みを保っていたが、ミシェル捜索の指図に忙殺されて出がけに茶を嗜むのを忘れたため、その神経は昂りかつ曇っていた。
 普段サー・ミシェルが並び掛けている場所は、ギャスパードが占めている。

 モンツィマード侯爵から、弓を携えていないことを指摘されたギャスパードは、貴族たちが血を見て怖気づくことがないようにそうしたとうそぶく。セリーンは顔もむけずに、では従兄殿は何を飲むつもりか、と言い放つ。

 弓なくして獲物は手に入らない、そう言った馬上のチャントラル卿は、赤ら顔で不器用な動きをしていた。
 入り用になったら羽根飾りでも使うか、とギャスパードが笑いながら言うと、貴族たちは静まりかえった。

 得手でもないだろうに、昨晩は容易に奪われたわけだし、とセリーンが言うと貴族たちは笑ったが、味方としての盛大な笑いではなかった。昨晩の出来事で勝利を得たとの考えは間違いだったのか。 

 獲物を見つけた猟犬たちが猛追をはじめた。セリーンは衛兵たちに号令をかけ、森の中に馬を走らせる。いつもの狩りの時にはゆったりと構えている女帝とは別人のような態度は、貴族たちを驚かせた。ギャスパードとのやりとりで怖気を奮った女帝は、次のやり取りまでの間に気持ちを持ち直さなければいけなかった。

 他の乗り手たちの馬を振り切ったと思ったが、一頭の重い蹄の音が追い付いてきていることに気付くと、彼女は逃げていると思われることを恐れ、馬の進みを早足まで落とした。ほどなくギャスパードが並び掛けてきた。よく手入れされた径(こみち)にくつわを並べて進むしばしの間、他の貴族に声は届かない。

「弓はどのみち無駄になったであろう」
「さほどにお粗末な狩り手?」 セリーンが尋ねた。
 ギャスパードは、くっくっと笑った。「いや。だがこの森はあまりに手ぬるい。むしろ庭園と呼ぶべきだ。わしはライデスの狩りの方を好む」
「では、この冬リマッチェ公爵から招かれないのは残念なこと」 
「実を言えば、昨晩リマッチェから招待を受けた、舞踏会のあとでな」 ギャスパードがそう言って、語気を強めた。「あそこの森は危険なほど育ってきたので、名誉ある男の同行を歓迎するとのことだ」
「ああ、おやめなさい」 セリーンは苛立ちまぎれに言った。「周りには他に誰もいないのですから」 

 ギャスパードは彼女の傍らでしばし沈黙した。それから大声で笑い出し、「メイカーズ・ブレス、セリーン!」 彼は自分の膝を打った。「いつも勇気を失わない、それは認めよう。男だったら、軍を指揮することもできただろうに」

 「だからわたくしに対してよからぬ企てをするのですか、ギャスパード?」 彼女は尋ね、相手の顔をつぶさに見た。「わたくしが男ではないから?」 
 彼は実際に考え込んだようだった。「いや」 彼はついに言った。「本当の問題は、お前がわしではないことだ」
「あなたのような人はまずおりません、ギャスパード」 セリーンは首を振った。彼は、少なくとも愚劣さにかけては正直だった。

 空地に出ると、セリーンは馬を止めた。「モンツィマードと、今やチャントラルを味方につけ、リマッチェとも通じていると」
「彼らだけではない」 ギャスパードは肩をすくめた。「羽根飾りの一件は度を越しておったようだ」
「玉座を奪うためにオーレイを脅かすつもりですか? この折も折?
「是が非でも」

 セリーンは怒りの身振りをした。「あなたこそ、冬の前にメイジとテンプラーの間で戦争が起きかねないことをわかっているのではないのですか、わたくしたちが食い止めない限り!」
「連中は間違いなく戦うだろう、そして輝けるお方にはそれに対してなす術は何もないとしか思えん」
「そしてわたしにも思えません、大公殿、フェラルデンに侵攻することが助けになるなどとは」 彼女は彼を睨んだ。「バン・ティーガンを殺していたら、わたくしたちの兵士たちは、あなたの愚劣さのせいで、春になる前に死んでしまっていたでしょう」
「良き戦は国をまとめ上げる。チャントリーとサークルのバカどもには、国境の中の者ではなく、外の連中を殺させるほうがいいのかもしれん」 ギャスパードは手を挙げ、セリーンが驚いたことに自分のマスクを脱いだ。 

 彼の素顔を最後に見たのは何年も前だった。顔つきは依然鷹のように鋭く、いかつく、野外で過ごすことが多いため、日ごろマスクで隠れている部分の縁には日焼けの跡がついていた。

 その行為は、事実上決闘の申し出を意味する。
 しばしの後、セリーンも自分自身のマスクを脱いだ。彼は笑顔のまま、小さく頷いた。

「お前は正しい、確かに」 彼は言った。「わしらには、強い帝国が今どうしても必要なのだ。戦が迫っておるというのに、ゲームにうつつを抜かしている場合ではない」

「ゲームにうつつを抜かしているのはあなた自身で、わたくしたちとフェラルデンとの関係を危うくさせ、周りではチャントリーが崩れかけているのに、わたくしが無為に過ごしていると決めつけているのです」
 ギャスパードは眉を吊り上げた。「ジャスティニアに権力を渡しているだろう」
 

「わたくしはチャントリーに、自力で立ち直る最後の機会を与えているのです、わたくしがオーレイを民の血の海に浸した狂える皇帝として、歴史に名が刻まれるような行動を起こさねばならなくなる前に」 

 彼は首を振った。「お前はいつも、歴史にどう残るかばかり気にかけ過ぎる、セリーン」 それから彼は身体を近付けてきた。「わしと結婚せい」

 彼女は度肝を抜かれ、それが顔に出たこともわかった。彼女は、マスクを脱ぐように脅した彼のことを呪った。「随分とずうずうしい、従兄殿」

「お前は筋金入りだ、セリーン」 彼の声には嘲りも、諧謔もなかった。「それには感心する」
「あなたの妻がわたくしの母を殺した」
「それゆえに、お前の父が彼女を殺した」 ギャスパードは、特段熱を帯びることなく言った。「それから自分も死んだ、おそらくキャリエーヌがいつも懐に忍ばせていた小剣に塗ってあった毒のために。そしてそれらは『ゲーム』であり、お前の側とわしの側双方が真摯に取り組んだ結果だ。オーレイを救う代わりに、わしらの血塗られた過去に拘泥するつもりなら、わしはお前を買いかぶりすぎていたわけだ」 彼は息を吐き、かすかな微笑みとともに彼女を見た。

「お前の両親が死んだとき、わしはお前が『ゲーム』から脱落したと思っていた。バスティエン公爵もそう思っていた。ジャーメイン公爵もそう思っていた。わしら皆が間違っていた」 彼は森のほうを身振りで示し、両手を振ってオーレイ全体を表した。「お前は大学や、条約や、舞踏会や晩餐会を気にかけている。わしは違う」 彼は再び、捕食者の笑いで微笑えんだ。「だが、わしはどれだけの血を流そうともオーレイの安全を守ることができる。ふたり合わせれば、この帝国を救うことができる」

 ふたりが遠縁にあたる事実は取るに足らないことであり、実際、その結婚はオーレイをひとつにまとめ上げることができるはずだ。セリーンはしばしそのことを実際に考え、マスクを脱いだまま大きな軍馬の鞍に、得意げな、いかつい顔をして跨るギャスパードを見つめていた。

 だが、最後に彼女は首を振った。「帝国を守るために、わたくしにはあなたの知恵と力が必要です、ギャスパード。夫は必要としていません」
 彼は首を振った。「尋ねるだけはした」 彼は肩をすくめた。 

 そして彼は、その体格から見てあり得ないほどの素早さで馬を寄せ、彼女に身体を近付けた。彼の片手が彼女の肩を掴んだ。
「お前の衛兵たちに声は届かず、お前のチャンピオンは具合が悪いようだ、セリーン」 彼はしかめつらで言った。「わしはお前の母の死には関係ない。実際、その話丸ごとにむかつきを覚える。だが、狩りの上での事故を装うやり方は知っている」

 セリーンの片手が彼の手首を握ると、彼は痛みで悲鳴をあげ、後ろによろめいた。彼の腕から煙があがっており、上質な服が焼け焦げていた。彼は傷を負った腕を別の腕で胸に押し付けた。

 「わたくしは十六のときに玉座に就いたのです、ギャスパード、あなたの妻が私の母を殺したあとに」 彼女はそう言うと片手をあげ、パチパチと炎をあげている輝くルビーの指輪を彼に示した。「そして、いいえ、わたくしには家族の血塗られた過去の話をするつもりはありません。それについてはよく承知しています、お生憎様」 彼女が素早く指を引くと、腕に隠した鞘からナイフが滑り出てきた。彼女が持ち上げるとそれも炎に包まれた。「そしてこの二十年間、わたくしは舞踏会と晩餐会でオーレイを支配してきたわけでもありません」

 彼は剣に手をかけ、しばしの間、ふたりは身動きしなかった。

 彼が動き、セリーンが激しく襲い掛かり、彼が鞘から剣を抜き去る前腕のあたりに炎の軌跡を描いた。彼女は馬を離して間合いを取ると、姿勢を低く保った。剣の長さでは彼に分があったが、彼の利き腕に彼女が十分な傷を負わせることができれば・・・。

 そのとき、遠くから猟犬たちの吠える声が再び聞こえた。ギャスパードはその方角を一瞥し、ため息をつき、首を軽く下げて会釈した。 「これだけは覚えておけ、従妹よ。これから何が起きようとも、婚儀の誓いで避けることができたことを」 彼は剣を鞘に収めた。

 彼女は、そのとき騒ぎ立てることもできたことに気づいていた。ギャスパード側の貴族たちの何人かは鉄の忠誠を誓っていたが、何人かは女帝相手に剣を抜く考えに青ざめるだろう。彼女は自分の衛兵たちが到着するや否や、従兄に手枷をかませることができただろう。
 だがそうすれば、オーレイは日没前に内戦に突入する。

 彼はマスクを被り直し、火傷した腕をまだ胸に押さえつけたまま、馬を空地から走り去らせていった。
 セリーンは首を振り、ナイフを鞘に戻した。
「具合が悪い」 彼女はつぶやいた。「サー・ミシェルを見つけないと」

***

 ここも、ギャスパードとのやり取りはベタ訳のほうがいいでしょうね。ギャスパードが「愚劣さにかけては正直」というのは、すごいな。"(H)e was honest in his folly."、「愚劣さを隠し立てしない」というか、それすら気づいていないので「愚劣さに嘘偽りがない」ということですかね? むき出しの愚劣さ。

 セリーンがギャスパードを"cousin"と呼ぶときは「従兄(いとこ)」、逆の場合は「従妹(いとこ)」としていますが、(原語ではいつものように)長幼の関係は実際わからない。でも、ギャスパードの亡き妻がセリーン幼少のころにその母を殺したというのだから、だいぶ年上という推測で間違っていないでしょう。

  ただし、日本語の従兄妹(いとこ)を「遠縁」(distantly related)と言うのには違和感がある。あちらの"cousin"は少なくともひとりの先祖を共有する関係であり(もちろん父母、祖父母、兄弟姉妹、叔父叔母など近すぎる関係を除く)、はとこ(またいとこ)なども含む、ずっと広い意味なんですね。日本でいう従兄妹は"first cousin"。

 あちらでは貴族同志は国内でも国をまたいでも"cousin"と呼ぶ習わしだったそうですが、遡れば共通の先祖がいることが多かったからでしょうか(もちろん最後まで遡ればごく限られた先祖たちに行き着くはずなんでしょうけど)。

 ご承知のとおり、リアル西欧のかつての貴族社会では、教会法に反していたはずの「いとこ婚」は禁止されていたわけではない。それどころか、頻繁に繰り返されていた。 

 そう言えば、NASAがはくちょう座の方向、500光年かなたに、地球によく似た(地表に水がありそうな)惑星を発見したとのニュースで、これも日本語では地球の「いとこ」と書いていますが、NYTimesによれば、科学者の発言は“Perhaps it’s more of an Earth cousin than an Earth twin(.)”
 この場合は、twin (双子の兄弟姉妹)と比べているから、first cousin(日本語のいとこ)のことでしょうね。

2014年4月16日 (水)

The Masked Empire 3(1)

 クリフハンガーも大概にしましょうね。眠いけど次。

***

 第三章 

 ミシェルは、剣が鞘から抜かれるときの金属の擦れる音を背後にいくつも聴いた。
 「六人か?」 彼はバードに尋ねた。
 彼女はにやりと笑った。「七人よ、でもそれで違いがあるわけないでしょう?」
 ミシェルは体を回し、椅子を後方にいた男に蹴りつけ、そして動いた。

 彼の剣、公式の剣ではないが、レッドスティールの長剣で、十分役に立つうえに人目を引かずに済むその得物は、鞘から抜き放たれると、一寸の狂いもない空中のリンゴを突き刺す剣士の剣技そのままに、即座に最初の男の喉元に埋まった。

 誰一人まだ動き出しておらず、驚きの悲鳴があがると同時に、ミシェルはその死にかけの男を仲間のひとりのほうに肩で突き飛ばし、それから手前の男の身体を貫いて第二の盾の教えどおりに、二人目の男に完璧な狙いをつけた突きを入れた。ミシェルが剣を引き抜くと、二人が崩れ落ちた。 

 七人が、今や五人。メルセンドレはダガーを抜いたが、乱戦からは十分距離を取っていた。

 ようやく動き出した残りの者たちが彼に斬りかかると、ミシェルはそのど真ん中に飛び込んだ。彼は右からのほとんどの攻撃を剣を大きく振って薙ぎ払い、上着の補強された左の前腕で別の一撃を受け流し、彼を釘付けにしようと狙ってできた輪を打ち破った。

 二本目の剣がないため、狼を殴り倒す熊の大半は使えなかった。彼は倒れたままの自分の座っていた椅子を左に蹴り、男たちの動きを遅らせると、それから右に動き、両手で長剣を握って一番近い敵の膝元に振り下ろした。彼の目前の男がその攻撃を防ごうと動くと、ミシェルは両手で握った剣を今度は逆向きに突き上げ、男の顔を浅く、だが醜く切り裂いた。 

 四人。メルセンドレは自分とミシェルの間にテーブルを挟むようにして、彼を不安げに見つめている。

 ミシェルは自分の左後方に剣を振り、耳で聴こえただけの敵の一振りを阻むと、一歩踏み込んで剣の柄で敵の顔を突いた。その男の顔を突くには近すぎたが、彼は第二の盾のまた別の汚い手口を用いて、その男の後ろを目がけて突き出しており、そこにいた別の者の膝を不意打ちした。ミシェルは唸り声とともに前に突進し、敵二人を後ずさりさせる。彼らがテーブルにぶつかって転倒すると、ミシェルは後ろに下がり、ひと刺し、ふた刺しして彼らを葬り去った。 

 三人、そしてふたり。彼の視界の端で、メルセンドレが扉のほうに駆けだすのが見えた。 

 振り向くのが少し遅れ、後方から刺された脇腹に熱い痛みが走る。彼は顔をしかめると二の太刀を払いのけ、男の手首目がけて剣を振り下ろし、さらにその喉元を斬りあげた。

 残りひとり。バードのみ。

 ミシェルは部屋を駆け抜けて扉から外に出ると、彼女が外の市場の人混みの中に紛れ込む前に見つけようと、必死にその姿を探した。

 目の隅で何か投げつけられてきたものの動きをとらえた彼は、振り向きざまに斬りつけた。
 薄い布の小袋だったそれは斬りつけると同時に破裂して、彼の顔に緑色の粉の雲を浴びせかけた。

 両目と喉に痛みを感じた彼は後ろによろめき、咳込み、息を詰まらせた。目が見えず、息もできず、ミシェルは地面に突っ伏したくてどうしようもなかったが、長年の訓練のおかげで立ったまま剣を構え、本能的に守りのための回転姿勢を取っていた。 

 だが、それも役に立たなかった。何かが彼の後頭部をしたたかに打ち付けた。
 彼は地面に倒れ、消え去る直前の意識で、バードこそ真っ先に葬り去るべきだったことを忘れた自分のふがいなさを見たら、かつての教官たちはさぞあきれ返ったことだろうと思った。

***

 結局、クリフハンガーやん。 

 

 

 

 

2014年4月15日 (火)

The Masked Empire 2(3)

 第二章の最後です。

 いいところでやめんなよ、って言われてもしょうがない、小説だから。

***

 サー・ミシェルは、自室の寝台の下に手紙を見つけたとき、しばらくぶりに怖気をふるった。サー・ミシェル・デ・シェヴィンとの宛名は、最初は丁寧な筆致であったにも関わらず、デ・シェヴィンの部分で歪み、引っ掻いたようになっていた。

 サー・ミシェルが手紙を開くと、時間と場所のみが記されていた。セリーンのチャンピオンとして女帝の日程は暗記しており、午前の貿易大臣との面会は特に問題ないが、午後には、昨夜の舞踏会の後もヴァル・ロヨーに留まっている貴族たちと狩りに出る予定だ。その時には、彼は女帝の傍らにいなければならない。体裁を保つためもあるが、多くの政権交代が狩りの最中の事故に伴って起きていることも理由だった。手紙の主との会合を短く済ませれば、時間には間に合いそうだ。

 女帝のチャンピオンは、宮廷生活の周辺部を歩んできた。デ・シェヴィンの名は貴族の出自を示すが、彼は一切の個人的野望を抱くことも、女帝とシェヴァリエの名誉以外に忠誠を抱くことも避けるよう求められていた。暗殺者や挑戦者から身を挺して女帝を守ることは誓ったが、彼は女帝の衛兵であると同時に親密な友人でもあり、彼女から沢山の秘密を打ち明けられ、また女帝不在のときにはその目や耳となるよう求められていた。

 彼は、戦いや公的な場面では女帝自身の生きる権化であり、それはギャスパードが、テヴィンターやフェラルデンと対決しているときにはオーレイの生きる化身であるのと同じであった。とはいえ、比べられるのはギャスパードも御免だろうが。

 彼は、戦いやすいように工夫された乗馬用の服に着替えた。召使用の通用門から宮廷の外に出るとき、マスクを外して懐に仕舞った。ヴァル・ロヨーをマスク無しで歩けば、彼もただの人に過ぎない。

 急ぐつもりはなかったが、足取りは早まった。宮廷近くの富裕層の住む地区を離れると、左手の丘の上に、実際には要塞の一部であるタワーと緑の公園が見えてきた。アカデミー・デ・シェヴァリエだ。 

 その公園の芝生には、シェヴァリエの他には稽古を受ける学生しか立ち入れない。今、学生たちは、大きな樹木の上によじ登って、教官たちが樹木の上に投げ掛けた巻布を手にして降りてくる最中だ。彼らは地面に着いた途端に剣と盾を手渡され、打ちかかってくる教官の模擬剣から身を守らなければならない。しばらくすれば、巻布が樹木の上に投げ戻され、また最初からそれを繰り返す。 

 ミシェルにとって、アカデミー時代がこれまでの人生最良の生活だった。彼は、モントフォートのガイ伯爵から血統を証明した推薦状と、学費分の金貨を受け取り、それ以外なにも持たずに入学した。そこでは、身体が言うことを利かないくらい疲弊しても立ち、呼吸し、動く方法を学んだ。大剣、剣と盾、大小二刀流などの剣技、軍馬と一心同体になること、訓練されていない馬でも殺されないように乗りこなすこと、プレート、チェイン、レザーなどの鎧それぞれを着て有利に戦うことを学んだ。
 さらには、シェヴァリエの名誉ある歴史、また命に代えても任務と武勇を守ること、戦いで仲間を守り、名誉のためには死も辞さないことを学んだ。 

 アカデミーでの試練が終わると、彼は他の上級生たちとともに馬車に乗せられ、夜のスラム街に連れ出された。身体も精神も鍛えられたと教官から告げられると、強い酒の入った袋を渡されて馬車から降ろされた。そして、貴族の男女がここのエルフたちに近頃頻繁に襲われていることを知らされ、オーレイのシェヴァリエとして、奴らに正義の剣を食らわせろ、と命じられた。

 ミシェルは、その話がでたらめであり、かつ、この最後の試練では、それが真実であるかどうかには意味がないことにも気づいていた。彼は酒をあおると、自分の剣の腕前を試しに向かった。

 サー・ミシェル・デ・シェヴィンは過去を振り返らない。 
 彼はアカデミーに背を向け、スラム街に入って行った。 

 彼は、手紙に記されていたみすぼらしい酒場に着いた。この朝の早い時分、中には他に行き場のない酔っ払いと盗賊だけしかいなかった。
 メルセンドレ、昨夜の晩餐会に招かれていた黒髪のバードが、今日はドレスではなくレザーを身に着け、腰にはリュートの代わりにナイフをぶらさげ、机にひとりで腰かけていた。 

 彼女はミシェルに微笑み、愉快そうに呼びかけた。彼が腰をおろして用件を質す。バードはミシェルに、自分の幼年期のことを思い出してみてもらいたいと謎をかけた。ミシェルは机がきしみ音を立てるくらい強く握りしめる。シェヴァリエには冗談が通じないくらい、自分もそろそろ気づかなければいけない頃合いだ、とバードが言って、機転だけで生きていくのは危険な人生なのだ、とうそぶく。
 そして、自分たちが訓練した若い貴族の血が、実際には貴くないかもしれないとの疑いがもたれたら、シェヴァリエたちはどう思うだろう、そのときは笑うのだろうか、とミシェルを挑発した。

 今や断絶したとされているシェヴィン家の遠い親戚に過ぎないことを揶揄されたのは、お前からがはじめてではない、とミシェルがバードを睨み付けながら応じる。そして、自分の出自への疑念は、自分の名誉への疑念と同義であり、面倒な公式の審理を経て疑惑が晴らされた頃には、糾弾した歌い手は間違いなく死んでいるであろうと恫喝した。

 メルセンドレは言葉を口にしなかった。脅しが利いたことに満足したミシェルは、何が望みだと問いかける。バードが欲しがる品を自分が持っていない限り、ここにわざわざ呼びつけた意味はない。

 バードはくすりと笑うと指を鳴らした。ミシェルの背後で、酒場の中にいた男たちの全員が一斉に剣を抜いた。

 サー・ミシェル、望みの品はとうに届けていただきました、とバードが言った。

2014年4月14日 (月)

【DAI】PAX EAST 新情報

 正直、The Masked Empireで手が回らないので、PAX EAST関係のDAI記事は、誰かやってくんないもんですかね?

 http://www.gameranx.com/updates/id/21356/article/dragon-age-3-inquisition-game-elements-revealed-in-pax-east/

・カッサンドラとカレンが、ロマンサブル・コンパニオンとして確定。 

 カレンがコンパニオンかどうかすら、ごく最近に噂として語られただけだったのに、いきなりLIまで昇格してしまいました。

 DAIのロマンスには(上の空)、今までとは違って、以下のような種類があるのだそうだ。

 愛情のこもったロマンス、ライヴァルリーを基本とした禁断のロマンス、ユーモラスなロマンス。ロマンスを丸ごと無視することもできる(棒読み、というか棒訳)。

You can have affectionate romance, a rivalry-based forbidden romance, even a humorous romance. You can also choose to ignore romances entirely.

・ゲームのテーマ的には、DA2に比べてよりオープン・エンド指向。

・以前のゲームのコンパニオンたちがはぐれ者(outcasts)揃いだったのに対し、今回は皆それぞれの分野の一人者。

・探索は報われる。ルートや、特徴的なボスなどを発見することができる。
・ランダム要素が持ち込まれるので、遭遇戦はいつも同じ様子にはならないい。
・出現する場所や状況などに相応しい敵が登場するなど、迫真性(いうと恰好いいが、verisimilitude、もっともらしさ)を重視している。 

・ウォーデン、ホーク、フレメスなどの再登場については未確認。

・フェイドは(またしても!)登場する。ただし、ごく限られた範囲で(ほっ)。

・主人公インクイジターのバックグラウンドは、選んだクラスと種族で決まる。

・チャントについて、いくつかの楽譜(シートミュージック)が提供されるかも?(知るか)

・ 女性キャラクターの長髪と、襟足の高い鎧との整合性に苦労して取り組んでいる(結んどけ、まとめとけ)。 

・クナリ(この場合は種族としての、ですかね)の魔法は、フェラルデン/オリージャンのそれと同じ。サレバス(クナリ(この場合は社会としての、ですかね)にとってのメイジ)の魔法に関する歴史についても言及される。 

・ストーリーに責任を負っているのは、マイク・レイドロウ(リード・デザイナー)とライティング・チームのみ。レイドロウによれば、ゲームのストーリーは、「あてにならない」物語に満ちている。
 よって、プレイヤーがゲーム内で情報を得たら、それは「誰から」得た情報であるか気にかけ、常に用心深く振る舞っていてほしい、とのこと。 

 つうか、そうのたまっているマイク・レイドロウご本人のお話が、一番「あてにならない」って結果にならないようにしてほしいものだ(心から!)

 てな感じですかね。んー、少し疲れたんで、The Masked Empire紹介記事に取り掛かる前に、ちょっとだけDiablo IIIで息抜きしようっと(こらこら)。

The Masked Empire 2(2)

 第二章の続き。次がいつになるわからないのでアップしときます。細切れですんませんが。

*** 

 ギャスパードは、ヴェランのチャントラル伯爵の会釈を受けて座席を示した。モンツィマード侯爵はすでに着座してブランデーを口にしている。ギャスパードがヴァル・ロヨーに用意している邸宅の喫煙室は暗紅色の壁で囲われ、上質なアイアンウッドのテーブルが配されており、ウェアウルフの頭部、ダークスポーンの巨大な大剣など沢山のトロフィーが掲げられていた。クリスタルの壺に飾られているのは、巨大な琥珀の塊から削り出された薔薇の飾りで、ギャスパードが若い時分に武術試合で勝ち取ったものだった。  

 三人とも室内着ではなく、皮の乗馬服を身に着けている。今日遅くにはヴァル・ロヨーの貴族たちが女帝主催の狩りに招かれているのだ。

 乗馬が控えていることを理由に、ギャスパードからのブランデーの誘いを断ったチャントラルを、ヴェランくんだりでは酒も飲まずに何をして過ごすのだ、とモンツィマードが茶化す。彼は大男で、若い頃は優秀な兵士だったが、大混乱の白兵戦で利き腕に傷を負い、以来剣を手にすることもできず鈍った身体も太ってしまっていた。とはいえ、レリウム結晶を配したマスクの羽根飾りはシェヴァリエの資格があることを示している。 

 ギャスパードはモンツィマードの冗談をたしなめると、チャントラルに昨夜の舞踏会の感想を求めた。困った事態であったと意見を述べたチャントラルは、ギャスパードが新しい黄色の羽根飾りをマスクに取り付けていることを指摘する。戦争の時代には、シェヴァリエの羽根飾りが戦いの後に無傷で残っているほうが稀なのだと、モンツィマードが口をはさむ。

 ギャスパードは、昨夜は真剣な決闘の場であったにも関わらず、セリーンがフェラルデンに対して卑屈にも見えかねない態度をとったことを非難する。シェヴァリエの名誉の印を玩具のように弄んだ、とモンツィマードが付け加える。いずれ皇帝の冠も弄ぶつもりではないのか。 

 チャントラルはシェヴァリエではない。おそらく戦場で血を流したこともないだろう。だが彼は、オーレイを愛する気持ちは他の者たちと同じであると主張した。彼の父親はフェラルデンとの戦争で戦死していた。

 ギャスパードは、国を愛する気持ちを共有する者は多く、女帝が敵国に媚を売るのを皆許せないと感じていると指摘した。
 そこに謀叛の意味を感じ取ったチャントラルが動揺する。ギャスパードは、まるで貴族の娘のように気弱なこの男を何とか味方に引き入れる必要があった。

 ギャスパードは、セリーンが二十年にわたる統治の間、国力を増すために必要な結婚もせず、フェラルデンに媚を売り、チャントラルの気持ちを弄び、メイジとテンプラーの抗争に対してすら無策を貫いてきたことを糾弾する。彼によれば、むしろ謀叛を働いているのは女帝のほうだ。 

 長い沈黙の間、ギャスパードがモンツィマードに目配せして制止する。チャントラルが共謀を断っても、彼が沈黙を守るようにやんわり脅すことは造作もない。喫煙室で男を斬り倒すのは、シェヴァリエであるギャスパードにとって沽券に係わる。

 ついにチャントラルはブランデーを所望し、モンツィマードが渡したグラスを震える手で受け取る。ギャスパードは微笑んだ。

 セリーンは昨夜の会戦で勝利を手中に収めたと思いこんでいるだろうし、宮廷の気取り屋どもやめかし屋どももそう感じているかもしれない。だがギャスパードにとって、来るべき戦争でオーレイが必要としている男は、そんな連中ではない。

 ギャスパードは、今日の狩りの場で女帝に協力を申し出るつもりであると打ち明ける。もし彼女が受諾すれば、ここでの話は酒席の戯言で終わるだろう。

 貴族の衆目が集まるところで事をなすのは難しい。また自分のグラスに酒を注ぎ直したモンツィマードが指摘する。ましてや、あのチャンピオンが常に女帝のそばにいるのだ。

 女帝とは内密に話をするつもりだ、とギャスパードが告げ、にやりと笑う。そして、チャンピオンについて言えば、今日の午後は具合を崩して病欠するだろう、と付け加えた。

***

 「喫煙室」、Smoking Roomってのは、虐げられた喫煙者が狭い空間に押し込められている現代日本のガス室とは全く関係ない。

 あちらの正式なディナーの後、野郎連中だけが集まって、パイプ煙草、または葉巻(巻きたばこも大抵許されるが軽く軽蔑される)とブランデー(今はブランデー以外も用意されているのかな)に興じる部屋のこと。原則女人禁制。

 現代でもあちらの高級ホテルや会員制クラブには用意されているが、女人禁制かどうかは国柄や、その場所の伝統による。一見、女性差別と勘違いされるが、むしろ女性に煙害(健康面への配慮というより、あのパイプタバコや葉巻の強烈な香りのほう)を与えないため紳士道としてはじまったという言い訳もあるようだ。
 かつては正餐の際に着用していた燕尾服を脱いで、喫煙室用のガウン(室内着)に着替えていた。

 本文でいう暗紅色とはバーガンディー色のこと。室内着もそういう色が多い。赤いヴェルヴェットも多用される。室内も通常そういった極めてマンリーな内装になっています。一説ではタバコの発祥地となったトルコ風の造りがデフォルトとか。 

 ボーイズ・クラブですから、そこで交わされるのは如何わしい話題であることも多いでしょう。
 現代アメリカン作者の小説なんで、敢えて喫煙シーンを描くことはしないんでしょうね。

2014年4月13日 (日)

The Masked Empire 2(1)

 さて、第二章からは要約版のみとなる予定です。とはいえ、今回章の最後までお伝えできるかどうか不明なので、表題にはすでに(1)と一部分であることを示すナンバリングをつけておきました。

 ところどころ見せ場や大事な部分だけはベタ訳もするつもりですが、いってしまえば全部見せ場なんですよね。どれだけできるかは、私に時間の余裕があるかどうかだけの話。

***

 第二章

 レメットは、仕事帰りに寄った酒場からの家路を、仲間のスレンと一緒に急いでいた。松明に照らされたハラムシラルのスラムの夜道を歩く間、彼は盗賊とヒューマンに注意を怠らなかった。フェラルデンや、ここ以外のオーレイでも、エルフはエイリアネイジ(異邦人居住区、ここではエルフ居住区のこと)と呼ばれる一画に閉じ込められて生活していると聞く。だが、エルフのほうがヒューマンより数多いここデイルズでは、逆にヒューマンのほうが高台の自分たちの居住区に引きこもっている。
 彼はエイリアネイジを見たことがなかったが、こことは異なり、ヒューマンの衛兵に殴打されたりすることもなく、高台へ続く街路だけではなく、街中もずっと清潔なのだろうか。そうは思えなかった。 
 エルフの商人や職人が集まって住むこの地域の道路は、今までほとんど補修されたことがない。通りの往来を伺う三人組のエルフの若者たちは、隙を見せればいつでも盗賊に化ける構えで、レメットは彼らから目を逸らさないように用心していた。 

 スレンが、レメットは今夜早めに家に帰ろうなどとせず、酒場にいたジネットという娘と楽しく過ごすべきだったとからかう。レメットは、ジネットがエルフの歴史ばかり話題にするので辟易してしまったのだ。エルフの歴史を公然と話題にしたからといって、酒場にいた誰かがヒューマンに告げ口するわけではないが、デイルズの古い栄光と、シェム(エルフがヒューマンを呼ぶ蔑称)に蹂躙された話を聞かされた若者が、義憤にかられて余計なことを思いつくのは御免だった。

 レメットたちもこの地区に住む職人で、日ごろはヒューマンの用いる馬車の修理を生業にしていた。だがきちんと支払いを受けることは稀で、今回もベンコアー卿から前回の支払いが済む前に、また別の修理を依頼されていた。

 馬のいななきが聴こえたふたりは、脇道の闇の中に身をひそめた。この時刻に貨車を動かす商人などいないので、馬車の持ち主はヒューマンに間違いない。ハラムシラルのエルフなら誰もが、スラムに馬を乗り入れてきたヒューマンに姿を曝さないように心掛けている。

 自分たちの酒場の話を聞きつけたのか、とうろたえるスレンに、レメットは静かにしてやり過ごせと告げた。
 馬車は真新しく白い色に塗り上げられ、黄金で縁どられており、大男の御者は胸元にナイフを携えていて、乗室の両脇には武装した衛兵たちがしがみついていた。赤いヴェルヴェットのカーテンに隠されて、中に誰が乗っているのかは見えなかった。馬はみな金色の飾り布を被せられ、白いたてがみをしていた。

 馬車が目の前を通り過ぎて、レメットがほっとしたのもつかの間、どこかの闇から石つぶてが飛んできて、ひとりの衛兵の肩にガチャリと当たった。
 レメットは、通りの向こう側に幼い男の子が立っていて、手にした別の石つぶてを投げようとしているのを目にした。その子の怒りの形相から、盗賊の手先ではないことがわかった。 

 馬たちがいななき、馬車が止まった。レメットは、驚いて制止しようとするスレンを無視し、通りを急いで横切ると、ふたつめの石つぶてを投げようとしている男の子の肩を掴んだ。男の子はレメットに殴りかかろうとした。自分の母親を殺したヒューマンたちが、ここにやってくるのは許さない、と男の子は言った。レメットは男の子をその場から逃がすため、横道の奥に追いやろうとするが、身体を押された男の子は泥の中に転んでしまう。

 レメットは突然壁に叩きつけられ、次に地面に乱暴に倒された。仰向けにされた彼は、怒りに満ちた表情の衛兵、石つぶてが当たった者ではない男のブーツで脇腹をしたたか蹴られた。
 誰の仕業かわかったのか、と馬車の中から問われたその衛兵は、泥まみれになったとはいえまだましな服装のレメットと、石つぶてを手にしたぼろ着の男の子の両方を見た。 

 レメットは、男の子のほうに近づこうとする衛兵のブーツを手で掴んだ。下手人は何人いたのか、と馬車の中からまた問う声がした。衛兵は男の子を睨み付け、それからレメットを見て頷いた。こいつ一人です、メインセレイ卿。衛兵はレメットを横道から連れ出した。石つぶてを当てられた衛兵が抜き身の剣を手にして近づいてくる。レメットは目を閉じ、中にはまだましなヒューマンもいたことをメイカーに感謝した。

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 ブリアラの腕に抱かれたまま、ようやく目覚めたセリーンは、寝台に差し込むか弱い秋の日差しを目にした。 

 若い頃、バードの訓練で疲れきったり、遅い時間の宴会で帰りが遅くなったとき、娘としては遅い時間まで朝寝坊した。目覚めれば、新しい日に待ち構えている出来事の期待で胸をわくわくさせたものだった。
 それも彼女がオーレイの全責任を負う前の話だ。

 今では毎晩、照明石の灯りを頼りに、頭が痛くなるまで、または茶を嗜むには遅くなりすぎるまで、報告を読み、文献を漁り、それから寝台に倒れ込んで目を閉じ、数限りない些細な問題を心から押し出そうとするのだった。それでも朝は日の出よりもずっと早く目が覚めてしまい、何か書き留めておくに値する考えが生まれるまで、悶々とした不安な時を過ごす。
 息抜きができるのは、ブリアラと寝台をともにするときに限られていた。

 セリーンは、静かに寝息をたてているエルフの恋人の髪をぼんやりしながらなでた。黒い巻毛は日の出前の光では灰色に見え、日の光が差し込んでくると、今度はシナモンの明るい茶色に変わった。 
 娘の頃、セリーンはそれを土の色と呼んでいた。セリーンの金髪の醜い影である馬糞の茶色。ふたりとも子どもで、セリーンはまだ、「ゲーム」の競争相手ではない信頼のおける友人が大切な存在であることを知らなかった。

 ブリアラの肌はセリーンのそれより浅黒かったが、彼女は日中ほとんど室外に出ることはなく、目のあたりの素肌に残る日焼けの痕を人目にさらすことはなかった。セリーンは、ブリアラがそれをとても恥じていることを良く知っている。マスクを被っていてもわかるエルフの耳でもなく、愛らしくうるんだ両目でもなく、日焼けした肌、可愛らしいソバカスの浮いた肌を恥じているのだ。

 セリーンはブリアラの素肌の腕に触れ、エルフの女性が目を覚ますと微笑んだ。
「お眠りになれないとおっしゃっていたのでは」とブリアラが言った。
「休んでいられるだけの働きをあなたがしてくれたわ」 セリーンは笑顔でそういうと、ブリアラの頬にキスをした。
「舞踏会では、他に何かございました?」 ブリアラが尋ね、身を起こしながら体を掻いた。寝台から滑り出ると、昨晩満たしておいたセリーンの魔法のティーポットが置いてあるクローゼットに歩み寄った。

 セリーンは微笑んだ。「一番の見ものだった部分は、あなたもご存じのとおり」 彼女がローブのありかを手探りし、ブリアラが片手で茶を混ぜているにも関わらず、もう一方の手でそれを滑らせてよこしたところを捕まえた。「バン・ティーガンからいただいた丁寧な感謝の手紙によると、あのお方はこれ以上のいざこざに巻き込まれるのを避けるため、フェラルデンに戻ることにしたとのこと。モンツィマード侯爵は、カークウォールの惨劇以来、増加する一方のサークルからの脱走メイジを追跡するテンプラーを支援するため、傭兵を雇い入れるための資金を要求してきた。そしてもちろん、ヴェランのチャントラル伯爵は、セレスティン湖がとても美しい楽園であるため、オーレイの女帝が自分の求婚を受け入れるべきであると信じ続けている」

 ブリアラは笑った。チャントラルは、ここ何年もの間ずっと、礼儀正しく、熱心で、不器用だった。「その他には?」 彼女は茶を注ぎ、カップと皿をセリーンに手渡した。
 セリーンが今朝最初の一口をすすると、その香ばしさのおかげで、頭がい骨の後ろの部分にほんの少しだけ感じていた緊張が和らいだ。彼女は微笑み、香りを嗅いでからカップを置くと、ローブを肩に羽織った。「ありがとう」

 ブリアラは首を振って微笑んだ。「あくまで保身のためです、陛下。お茶のない朝の陛下を存じていますから」
 セリーンは腹を立てたように鼻を鳴らすと、カップと皿を手にして、もう一口素晴らしい茶を味わった。「ライデスから知らせがありました」と、少し間をおいてから彼女が言って、とうとうブリアラの先ほどの質問に答えた。

「リマッチェ公爵?」 ブリアラが衣装ダンスのガウンを検分するのをやめ、セリーンのほうを見開いた目をして振り返った。
「あなたとサー・ミシェルが愛すべきキャスパードを打ち砕いたよりもさして前ではない時分、リマッチェは大公のことを、間抜けで野暮な田舎者だと決めつけたの。彼はギャスパードを、この冬のライデスの狩りに招くことはしないつもりであるし、彼の求婚をわたくしが受け入れるなら、ギャスパードはヴァル・ファーミンの狩りにも招かれない」

 ブリアラは話を聞きながら、セリーンの今日の衣装を考え、行事や活動に合わせた宝飾品を選んでいた。「それは以前のものよりもずっと気前の良い申し出ですね。リマッチェが貴族たちを味方に引き入れれば、フェラルデンとの間の戦争を呼びかけるギャスパードに耳を傾ける者はいないでしょう」
「だけど、あなたの深夜の訪問を受け入れられなくなりましてよ?」 セレーネは笑いながら尋ねた。「それほどの価値があるのかしら」 ブリアラの唇がにやにや笑いのため曲がった。「陛下が、ときたま夫君以外の者から深夜の訪問を受ける最初の支配者というわけではございませんし」 だがそう言う間、ブリアラはセリーンと目を合わせようとしなかった。「そして、フェラルデンとの間の婚儀がもはや成立しないというのであれば・・・」

「残念ながらそれは無理」 セリーンは一度、まだ若い頃に、ミーグレンと彼の本当にいたかどうか疑わしいマバリ犬が力で成し遂げようとしてしくじったことを、結婚を手段として実現できることを願っていた。望んで味方についたフェラルデンの力があれば、オリージャン帝国はネヴァラの侵攻を追い戻し、さらにはテヴィンターの動きまで阻止することができただろう。 

 不幸なことに、ケイラン王はその時すでに結婚していた。フェラルデンの玉座に新しい王を就けるためいかほどの血が流されたか、そしてフェラルデンが直近のブライトからの復興の道半ばであることから考えて、オーレイからのいかなる関与も謀略とみなされかねず、それはまた別の攻撃と受け取られるであろう。

 彼女が他のフェラルダン貴族と結婚することはもちろんできたが、それは反対の問題を生んだだろう。ギャスパードのように好戦的な貴族であれば、セリーンがたとえフェラルダン王と結婚したとしても、世界最大の国家の女帝が、身内の誰かではなく、犬コロ貴族の王と結婚するまでその身を貶めたことに憤り、剣を握りしめるに違いない。それより身分の低い相手と結婚したというのなら、さらに多くの者たちが好戦的な者たちの主張に賛同することになるのだ。
 そして胸中では、セリーンもまた実のところはそう考えていた。

「一考に値します」 セリーンの考えを遮るようにしてブリアラが言った。セリーンは、ティーカップにお代わりを注いでいる間もまだ目を伏せているブリアラの姿に目をやった。
「それは違います」 セリーンは、エルフの女性の肩を掴み、ブリアラの顎をやさしく上に向けさせ、その美しい目が自分を見るように仕向けた。「わたくしがどこかのお方と契りを結ぶということは、デューヴィン平原の良い狩り場を手に入れるだけの話ではありません」 わがままなのかもしれない。それだけではなく、「ゲーム」としてみれば過ちなのかもしれない。だが、セリーンはこれまですでに自分自身の人生で、もう十分なほど多くのものをオーレイ帝国のために喪ってきたのだ。・・・そして、ブリアラ自身もそうだった。

 ブリアラのまなざしが和らいだ。「陛下」
「さて、今朝の貿易大臣の話がどんなものになるのか教えて頂戴」
「彼は、デイルズ全域の貿易税法の改正を求めています」 ブリアラは話す間、セリーンの背中に回って彼女のローブを引き下げた。「かの地の税収は低いため、彼は馬車税を少々増額したいと申し出ています」

「ところが?」 セリーンは、ブリアラの指先が自分の背中をなぞり、一日中きついコルセットに締め付けられる予感にすでに苛まれている彼女の緊張を揉み解すのにあわせてため息をついた。
「彼はエルフ商人を窮地に追い込もうとしています」 ブリアラの巧みな指遣いが、セリーンの肩から背筋を伝わると、セリーンは恋人の腕の中に少しばかりもたれかかった。「実のところは、裕福ではない商人を、ですが。彼らが箱貨車や、小さ目の荷馬車を用いているのに対し、貴族御用達の商人たちは大きい馬車を用いています。馬車一台あたりの増税は、貴族にはほとんど影響を及ぼしませんが、零細商人たちの多くは破産してしまうでしょう」

「荷の重量に課税してはいけないのですか?」 セリーンが尋ねた。「異なる商品によって重量換算を変え、貴族と庶民により平等に負担することができるのではないですか」
「数字を確認しますが、それによって玉座がより多く収入を得ることができるでしょう」とブリアラは言いながら、セリーンの背中を撫で続けていた。

「ありがとう」 セリーンは窓のほうを見た。太陽は地平線から完全に顔を出しており、室内は陽光で明るかった。渋々ながら彼女はローブを羽織り直し、穏やかにさせてくれるブリアラの指先から歩み去った。「ギャスパードが今日は何を企んでいるのか見つけて頂戴。衛兵隊長が他に情報を持っていないのなら、バードのほうをあたってみないといけないかもしれない」
「彼女はギャスパードから正式に暇をもらったわけではありません」とブリアラは言った。「私の手の者たちは彼女の足取りを見失いました。探させていますが、身を隠すと決めたオリージャン・バードを見つけ出すのは至難の業で」

 セリーンは微笑んだ。「いつものようにね。サファイアのヘアピン、どちらがいいかしら、あるいは、アンティヴァンのダイアモンド・レース?」 
 ブリアラは顔をしかめ、しばらく両方を手に取って、セリーンのほうに吟味するような顔を向けた。「サファイアのほうがお似合いですが、商人とお会いになるのでしたら・・・、アンティヴァンのダイアモンドが、私たちの取引きの何たるかを示すことになるのでは」

 セリーンも同じことを考えていた。「では、相応しい象徴の祭壇の前に、わたくしの装いを犠牲として差し出すことにいたしましょう」
 ブリアラが歩み寄り、笑って、彼女にやさしくキスをした。「あなたは殉教者というわけですね、輝けるお方」
 それから彼女は自分のマスクを化粧台から取りあげ、彼女自身の部屋への通路が隠されている姿見のところに向かい、姿を消した。

 セリーンはティーカップを唇のところまで持ち上げ、大きく息を吸った。彼女が二杯目を飲み終えてから呼び鈴で召使たちを招き入れると、ブリアラと他の者たちが、着付け、髪結い、化粧のために現れた。
 ブリアラ以外の者は、一杯目の茶のことも、彼女を眠りに誘ったある女との間のひそかな時間のことも、誰も知らなかった。

***

 結果的に、セリーンとブリアラのやりとりはベタ訳となりました。これは省略しないほうがよかっただろう。

 第二章はまだ続きます。

 何度も書きますが、ここのブログは固有名詞はできるだけ「英語読み」とするルールですが、実はよくわかりません。(フレンチにもなじみ深いだろう)カナディアンと、べたなアメリカンが同じなのかどうかもわからん。すべて暫定。

 セレーヌ(Selene)(注、結局セリーンに統一しました)、ブリアラ(Briala)すら確かではないし、貴族名はベンコー(Bencour)、メインセレイ(Mainserei)、ギャスパード(Ghaspard)、モンツィマード(Montsimmard)、チャントラル(Chantral)、リマッチェ(Remache)など、みな ラテン系。仏語では読みの規則はルールがはっきりしているので、ギャスパードは、もちろんガスパールですし、モンツィマードはモンツィマー、チャントラルはシャントラルでしょうが、リマッチェにいたっては・・・。 なにやらサッカー選手にいるそうですが、日本語ニュースの読み方はあてにならない。レマシェかなあ。

 "Return to Ostagar"とか、"Mark of the Assassin"でもプレイし直せば、Seleneの読み方は出てくるはずですが、PC壊れてから、新しいPCにインストールし直すの面倒なんでやってない。セリーンだったかもなあ・・・。

2014年4月 9日 (水)

The Masked Empire, Chapter 1 (全訳3)

 セリーンは、オリージャン・シェヴァリエの稽古を見知っていた。もっとも著名な試練のひとつは、少なくとも公の目に触れるものの中では、大きな木製の足場に一連の剣先が配置されているものだった。召使たちが影にある巨大な車輪を操作すると、剣先が回転したり突き出したりして、前を通過しようとする者を目も眩むような速さで攻撃するのだ。夏祭りでは、分厚いパッド付きのチュニックを着た勇敢な若者たちが、その前をうまく駆け抜けようと腕試しするが、大抵の者は誇りもろとも身体をぼろぼろにされてしまう。話によれば真の試練では、剣先は研ぎ澄まされ、シェヴァリエは鎧を身に着けずにその試練を潜り抜けなければならない。 

 公式の晩餐に思いを巡らせるとき、セリーンはきまってその試練のことを連想した。
 幸運なことに、彼女は試練をひとりで駆け抜けなければならないわけではなかった。彼女のチャンピオン、サー・ミシェルがいつものように付き従い、セリーンが群衆の中を行き来する際に邪魔にならないように鎧こそ身に着けてはいなかったが、剣だけは手放さなかった。彼のタイツは豪華な黄金色の絹で、ダブレットはドワーフたちが牛代わりに飼っている獣の菫色のなめし革だった。鞘は、紫のサファイアを目とたてがみの部分に配した黄金の獅子の飾りを散りばめたものであり、両手には、剣技の邪魔になることを嫌って他の貴族が好むような指輪も腕輪も着けていなかったが、マスクのてっぺんには、シェヴァリエであることを示す背の高い黄色の羽根飾りが付いていた。

 「ご指示を、陛下?」 彼は、彼女にしか聴こえないようにできるだけ低い声で尋ねた。ミシェルがこの手の催しの場で喋ることはほとんどなく、セリーンもそれを好いていた。彼女のチャンピオンである彼は、彼女の公的な立場の付属物であり、他の関心を集めるべきは彼ではなく彼女のほうなのだ。彼は「ゲーム」にはほとんど関心がなかったが、その眼は鋭く、命令には忠実であった。彼は前任のチャンピオンが暗殺者を阻止するために落命してからこのかた、十年近く彼女に従ってきた。

「ブリアラが見つけたもののことはお聞きになって?」
「茂みの中の剣のことなら聞きました、陛下」 彼は声を低く平静に保っており、彼の身振りはあたかも、嗜好品の並んだ卓上にある愛すべきワイヴァーンの氷の彫刻について語っているように見せかけていた。
「バードのメルセンドレに気を配って頂戴。彼女がきっかけになる」
「できれば今宵は、宗教的偶像に関する謎かけは勘弁していただきたいところです」
 セリーンはくすりと笑った。「また必要になるときがあれば、今度は予め警告を与えることにいたしましょう」

 ギャスパードのバードであるメルセンドレが夏の終わりと喪った恋について愛らしい声で歌う間、セリーンは友軍と敵軍の、言祝ぐ者たちと挑戦の機会を狙う者たちの対峙する戦場を歩き回った。

「輝けるお方」 ヴェナンのチャントラル伯爵が彼女の視線をとらえてお辞儀をすると、彼の真珠色のマスクに数珠つなぎに取り付けられた黒真珠が音を立てた。「陛下の光が鳥たちに秋の渡りを思い留まらせているように存じます、まだ夏が続くと思い込んでいるかのように」 ここしばらくの間、チャントラルは彼女にしつこく求婚し続けていた。彼の見誤ることのない忠誠心と、「ゲーム」が不得手なことにかんがみ、彼女は彼の希望を完全に打ち砕くことはせず、穏やかで親しげな程度の関係に距離を保っていた。 

 セリーンの象牙色の夜会服の胸元は大きく開いていて、彼女の蒼白い肌に映えるように黄色のダイヤモンドがひとつ、豪華な黄金の台枠の中で輝いていた。夜会服はその立派な宝石を引き立てるつくりになっていて、彼女の胸元から黄色のリボンのように流れる涙形をした数多くの琥珀が、裾や両手首の黄金のせいで暗い色に見えていた。彼女のマスクはこの朝身に着けていたものと同じだが、羽根の部分が黄金細工に取り換えられていた。

「あなたのまごころは、まるでセレスティンの暖かい湖水のように、わたくしの心をなごませてくれます」と彼女は言った。「そして鳥たちは冬の寒さで凍え死ぬことのないよう、渡りをはじめなければならないでしょうが、ヴェランに春の空が訪れるとき、喜んでまた戻って来ることでしょう」 彼女はその場を立ち去り、レディ・モンツィマードと目を合わせた。彼女のマスクは、両頬の部分に輝くレリウム結晶を配しており、それらはオリージャン・サークルのファースト・エンチャンターから贈られたものであった。「コシーヌ」と彼女が親しげな内密さで呼びかけると、相手の女性は片方の膝を深々と屈してお辞儀をした。「しばらくたちますね。教えて頂戴、アヒルはいかがでした?」

「ソースが絶妙でございました、輝けるお方」 レディ・モンツィマードと彼女の夫は、夏の間大公ギャスパードを歓待しており、過去何年かは、サークルに対する一家の親密な関係と、その支配関係を交渉材料に用いていた。セリーンはその夫が危険で、彼女は愚鈍であることに気が付いており、メイジとの関係がどれだけ予断を許さない状況であるかについて、レディ・モンツィマードは何も気が付いていないのではないかと疑っていた。そして相手がこう付け加えたことによって、その読みが当たっていたことがわかった。「ところが実のところ、私どもがサークル・オヴ・メジャイを訪れたときには・・・」

「ああ、彼らと食事をするときは気を付けねばなりませんね」 セリーンは、軽く笑いながら割り込んだ。「彼らが食事を用意するときには、回りのものまで全部燃やしてしまうのでしょうから」 彼女は、レディ・モンツィマードがわざとらしい笑顔で別れの言葉を口ごもるのに任せ、その場を立ち去った。セリーンは自分の背後で、サー・ミシェルがレディ・モンツィマードに非難の視線を浴びせかけ、セリーンは笑って「ゲーム」に興じることも、もしそう望むなら、レディ・モンツィマードの頭を槍の先に飾ることもできることを無言で教えている様子を、目にする必要もなくわかっていた。彼女は、マダム・デ・ファー、帝国宮廷お付きのメイジに対して、モンツィマードとメイジたちとの親密な関係について知らせておくべきことを銘記した。

 彼女は人ごみの中にどんどん分け入り、毒を織り交ぜた挨拶と親し気な言葉を交わし続けた。ブライトからの復興も道半ばなフェラルデンとの間で、オーレイはより有利な交易条件を結ぶべきか。カークウォールのような事態がここで起きないようにどのような策を取るべきか。貴族の子弟が学ぶ大学に、ナイフ耳どもの入学を認めるべきか。笑顔を続けていたセリーンの顎は痛みでうずいた。顔の上半分を覆うマスクと、彼女の顔を覆う何層もの化粧の下で、最もはっきりわかる表情が笑顔だった。剣先を繰り出し合うような会話をよそに、メルセンドレの美しい歌声が続いていた。だがついに、大公ギャスパードの笑い声によってショウは終わりを告げた。

 それはかつて多くの戦場に響いた、深く、鳴り渡るような轟きであった。それはまるで弔鐘のように臆病者や召使たちを沈黙させ、他の貴族の男女たちの含み笑いを誘った。
 セリーンの前の人ごみが分かれ、大公と黒髪のバードのためにきれいに道を開けた。メルセンドレはマスクを身に着けていなかったが、庶民が貴族の会合の場に臨むときの厚化粧を施しており、ギャスパードが言った何事かに困惑して他所のほうを向いていた。

 セリーンは、外面上は一切表情を変えず、気を強く持っていた。彼女はこれまでの半生の間、ほとんどずっと「ゲーム」に興じてきた。どれだけ準備をしていても、どれだけ戦略について熟慮し、計画し、心を決めていても、常に恐怖の瞬間は訪れる。

 その瞬間が過ぎ去ると、彼女は、ギャスパードに忠誠を誓う衛兵隊長の手によって人目を避けるように来客リストに追加されたバードのほうに歩み寄っていった。サー・ミシェルの確かな足どりが彼女のものに同調して続き、大男が歩調を完璧にあわせていることがわかる。

 メルセンドレは良くやっている、彼女はそう心に留めた、だが完璧ではない。顔を覆う化粧は、彼女が本当に困惑している印である赤面を創り出せない事実を隠しているが、彼女は周囲の貴族たちにどの道そう思い込ませることができるように、あらかじめ頬に赤味を差す化粧を施しておくほど利口ではなかった。そのちょっとした不完全さ、過ちとまでは呼べないが、セリーンのほうが上手にできたであろう細部、それによって全てがより簡単なものに見えてきた。

「それで、従兄殿がその美声であたりを静かにさせたのは、いかなる趣向のためなのでしょうか?」 セリーンは、問われることを待ち侘びている沈黙に対してそう問いかけた。
 メルセンドレは不快そうにたじろいだが、ギャスパードは頭を少し傾け、見誤りようのない無礼とまでは辛うじて呼ばれずに済む程度のお辞儀をした。「皇帝陛下」 彼は含み笑いを続けながら言った。「この若い女性の歌は、『ミーグレン王のマバリ犬』の節回しによく似ておると指摘していたのだ」

 周囲に集まった貴族たちが、不埒な愉しみを込めて忍び笑いした。セリーンは笑顔を保っていた。最初の攻撃としては上々だ。その歌は有名で、何十年か前、フェラルデンがオリージャン占領下であった時代なら無害なものであった。不幸なミーグレンが、皇帝フロリアンに命じられて望まずフェラルデンに送り込まれたことを歌ったものだ。歌の中身は、その不運な貴族が粗暴なフェラルデン文化にいちいち腹を立てるというもので、よだれを垂らしたマバリ犬が彼のマスクを食べてしまったことまで含まれる。

 禁止こそされなかったが、フェラルデンのマリック王がミーグレンを殺害してから、その歌は人気を喪った。権力を握ってからこのかた、セリーンは両国間の緊密な関係を強化するため尽力してきたので、粗暴なフェラルダンとその文化的ではない風習に関する歌が再び人口に膾炙するようなことはなかった。
 それもこれまでのところは、だったようだ。

「行軍の間、兵士たちと歌ったことを覚えておる」とギャスパードが言った。「オーレイが世界全土の支配を覗う時代のことを思い出させてくれた。憐れなミーグレン、メイカーの眼差しから遠く外れたところに囚われ、犬コロ貴族どもの間でなんとか寛ごうとしていた」 彼は背が高く、肩幅が広く、ダブレットとタイツは無骨な仕立てで、銀の縁取りが鎧のような見かけを演出している。彼のマスクは黄金で、多くのエメラルドが彼の一家の紋章の形にあしらわれており、背の高い黄色の羽飾りがマスクの上から飛び出しているのは、サー・ミシェルと同様、彼もシェヴァリエの一員であることを示している。

 彼はまた、バン・ティーガン・グエリン、フェラルダン大使から十ペースも離れていないところに立っていた。化粧を施していない男の顔には、自らの民が「犬コロ貴族」と呼ばれたことに明らかに腹を立てている様子が現れていた。

「わたくしども皆にとって、悲しい時代でありましたし」とセリーンが言って、大使のほうに微笑みを向けた。「そしてオーレイは、この難しい時代にあって、フェラルデンを友好国に含めることができることをうれしく思っています」
 ティーガンは嬉しそうに微笑むと、お辞儀をした。「皇帝陛下、フェラルデンも同様に望んでおります」
「もちろん」 ギャスパードが歩み寄って来た。「過去のことは過去のこと、ですな、ティーガン? そして我々はただの老兵ふたりになってしまった」 彼はフェラルダンの肩を叩き、バン・ティーガンはその馴れ馴れしさに身体を強張らせた。

「犬もオーレイにお連れになったのですか、閣下?」 メルセンドレが付け加え、黒髪のバードの無邪気を絵に描いたような物言いに、人ごみから含み笑いが漏れた。ティーガンは振り向き、拳を両脇で握りしめた。「ええ、ただしこの舞踏会には連れてきていませんよ。ここの食事が口に合うとも思えないので」
 人ごみから笑いが起きた。「ゲーム」の達人ではないとはいえ、このフェラルダン貴族は、自分が嵌められていることに気が付き、周囲を味方につけておこうと試みるほどには利口だった。
「いずれ、貴殿の犬を見せてもらわねばならん、ティーガン」 自らの筋書から逸れることなく、ギャスパードが言った。「だが今宵は、我らの帝国と、貴殿の、えー、王国との間の友好を祝うため、贈り物を用意してまいった」 彼が指を鳴らすと、豪奢な緑色のヴェルヴェットで包まれた長い包みを携えた召使が急いで近づいてきた。

 ギャスパードは包みを受け取り、満面の笑みとともにティーガンに手渡した。渋々ながら、罠に踏み込もうとしていることを知りつつも、そこから抜け出す算段も見つからない大使は、包みを解いた。
 中身は、ブリアラが今日の午後早い時間にセリーンに告げたとおり、剣であった。フェラルダンの造りで、ほぼ実用に耐えうるものだったが、柄と鍔の回りには装飾の名残りがあり、貴族が戦闘で用いるものであることを示していた。剣は使い古して痛んでいて、刃にはへこみが残り、ところどころ錆が浮いていた。

「ギャスパード大公!」 ミシェルが自分の身体をセリーンと剣の間に割り込ませた。この広間に武器を持ち込むことは許されないはずであった。暗殺者が武器を内部に持ち込まないように、宮廷玄関の衛兵がすべての手荷物を検査しているのだ。だからこそ、とセリーンは思いを巡らす、ギャスパードは、今日の早い時分から包みを宮廷内にこそこそ持ち込み、迷宮の庭園に隠すことに苦心惨憺していたのだ。

「落ち着け、シェヴァリエ同輩」 ギャスパードは剣を見詰めた。「わしがこいつを手にした途端に、誰かが暖炉の火かき棒を手に打ち込んでくるだろう」 彼はバン・ティーガンに頷いた。「その剣は、憐れなミーグレンとの確執のため捕えられた、とあるフェラルダンの貴族の女性の亡骸から拾われたものだ。モイラ、と言ったかな」 黄金と緑色のマスクの陰で、彼の両眼は愉快そうに輝いていた。「わしらの召使どもが、地下蔵のネズミを退治する際に用いておった」

 ティーガンは身じろぎひとつすることなく、まるで宮廷の他の部分が丸ごと消え去ったのように、両手で支えた剣を見詰めていた。緑色のヴェルヴェットが、蒼白になるまで握りしめられた彼の両の拳の回りにくるまっている。
「貴族の剣だったのかしら?」とメルセンドレが尋ね、おんぼろの剣で周囲を笑いに誘うための最後の的確な仕上げを講じるとともに、ギャスパードが自分への侮辱と受け止めることのできるような一言を口にするよう、ティーガンの背中をさらに一押しした。 

 単純な策だが効果的だ。バン・ティーガンは怒りに任せて何かを口走るまで追いつめられるだろう。そうなったらメルセンドレが驚愕とともに息を呑んでみせ、一番愚鈍な貴族ですら、腹を立てるべき事態だと気づかせる算段だ。そうなったらセリーンは、オーレイの名誉を守るためにサー・ミシェルに対してティーガンとの決闘を命じるか、または自分は沈黙し、シェヴァリエの名誉の掟をこれ見よがしに振りかざしたギャスパードが自ら決闘を申し出るのを待つか、いずれかを選ぶしかなくなる。どちらの結果もオーレイとフェラルデンの間の関係悪化を招き、両国をまた別の愚かな戦争へ一歩近づけることになる。
 戦争こそが、ギャスパードの本領なのだ。

 これらすべての事柄がセリーンの胸中に去来している最中、ギャスパードはナイフをもてあそんでいた。「ふむ、彼女は自ら叛乱軍の女王と名乗っておったな。盗賊やら傭兵やらの首領という方が近かったんだろう、実のところは。彼女はわしらをフェラルデンから追い出せると思っていたのだ」
「実際そのとおりになった」と、依然としてギャスパードの方に目を向けずにティーガンが言った。「彼女の子息、マリックが我々の王国から貴殿らを叩き出した」
「モイラがそれを生きて目にできなかったのも残念なことだ」とギャスパードが言って、にんまりした笑い顔で室内を見回した。「彼女が貴殿らのでかい犬コロの一匹でも傍に置いておいたら、もしや・・・」

 何人かの貴族が笑った。ティーガンの堪忍袋の緒が切れるにはそれで十分だった。セリーンは、彼の両肩が強張るのを見て取り、また、ギャスパードがずっと待ち受けているまさにその言葉を発すべく、彼の口が開きかけているのを見た。
「バン・ティーガン」と彼女は呼びかけた。彼女は世界最大の帝国を二十年にわたって統治してきたのであり、自らの声を人ごみの中に分け入らせ、周囲を沈黙に導く術を心得ていた。口を半開きにしたまま、ティーガンが彼女のほうを振り向いた。

 彼女とギャスパードは、長い間「ゲーム」を戦ってきた宿敵の間柄であるため、足を踏み出す前に、彼女は従兄に小さな笑顔を投げかけた。なかなか上出来だった、とその笑顔は告げていた。もしかしたら次回には成功を手にすることができるくらい利口に立ち回れるかもしれないが、今宵はそうはいかない。

「皇帝陛下」 バン・ティーガンは身構えて立っており、彼の首筋には血管が浮いていた。「閣下の表情から、この剣が古い感情を呼び覚ましたことが見て取れました。モイラ・テイリン、フェラルデンの叛乱軍の女王の死がオーレイの仕業であったことについて、ずっとお気に障っておられたのでしょうか?」 群衆が一斉に溜息をつくと、彼女は付け加えた。「閣下は、その名誉挽回のため決闘をお申し出になるおつもりでしょうか?」
 ティーガンは両手で支えた剣に視線を落とし、それからギャスパードに目を向けた。そして最後に、彼は「ゲーム」に関しては冴えなかったかもしれないが間抜けではなかったので、セリーンのほうを見て、彼女の立場を見極め、静かに言った。「そのとおりです」

 群衆から叫び声が噴き上がると、セリーンは微笑んだ。ギャスパードは目を閉じて頭を振り、すでに敗北を認めていたが、かたや彼のバード、メルセンドレは彼の方を困惑した様子で見つめており、今となっては群衆の関心を取り返すためどうすべきか途方に暮れているのは明らかだった。

 セリーンがミシェルのほうを見て小さく頷くと、彼女のチャンピオンは剣を抜いた。むき出しのシルヴァライトの青さが大舞踏場に閃めくと、叫び声をあげていた貴族の集団は静まり返った。

「決闘をご所望とあれば」とセリーンはフェラルダン大使に言った。「サー・ミシェル?」
「輝けるお方?」とミシェルは尋ね、剣を手にしたまま、ティーガンからひと時も目を逸らさなかった。「わたくしどもは決闘の申し出を受け、あなたはわたくしのチャンピオンです。高貴なる血筋の者同士の決闘において、オーレイの名誉を守る用意は整いましたでしょうか?」

 間髪を置かずに、サー・ミシェルが言った。「まだです、輝けるお方。我ら決闘の申し出を受けた側が、お互いの用いる武器を選ぶ定めとなっております。それがなされない限り、はじめるわけにはまいりません」

「ああ」 セリーンはしばし間を置いて、雰囲気を高めた。「なるほど。わたくしは依然修復の途上にある二国間の友好関係を、過去の侮辱を償うために流される高貴な血で染めることには気乗りがいたしません」 彼女はバン・ティーガンのほうを見た。「よって、わたくしの権限により、この決闘に用いる武器は・・・、羽根飾りとします」
「心得ました、輝けるお方」 サー・ミシェルがそう言うと、躊躇することなく、自らのマスクに付いていた長い黄色の羽根飾りをもぎ取った。

 貴族の群衆は、気まぐれで、血に飢えていて、自惚れの塊だったが、何にもまして、彼女の臣下であった。血腥い決闘騒ぎが大好きなのと同じくらい、機転の利いたやり取りも称賛するのだ。サー・ミシェルが、剣の達人の鮮やかな精密さで羽根飾りを構えると、貴族たちは喜んで笑い声をあげた。

 目に見えて緊張を解いたバン・ティーガンは、ヴェルヴェットの包みを傍らの床に置くと、セリーンに救われたような笑顔を向けた。「輝けるお方、この種の決闘のための得物を手にしてこなかったことが悔やまれます。国元では、羽根飾りよりも毛皮のほうを好みますゆえ」 彼が毛皮飾りに覆われた自分の袖口を掲げると、群衆から笑い声さえ湧き上がった。

「そうでしょうとも」 セリーンがギャスパードのほうを見やると、彼は礼儀正しい微笑みを浮べていたが、それは宮廷内で敵対者からとげとげしく言い募られることを聞き流すときに用いる表情だった。「従兄殿、今宵の最初の贈り物によって、フェラルデンの従兄弟たちにあなたの気前の良さを示すことができました」 彼女は片手を挙げて、感謝の念を示した。「できましたら、ふたつめの贈り物を差し出していただけますでしょうか?」
 ギャスパードは目をしばたたせ、お辞儀をした。「幸甚の至り」と彼が言うと、素早く節度ある物腰で自分のマスクから羽根飾りをもぎ取った。
 それから、彼はその黄色の羽根飾り、オリージャン・シェヴァリエの名誉の印を、ついさっき彼が愚弄したばかりのフェラルデンの犬コロ貴族に手渡した。

 サー・ミシェルとバン・ティーガンが、お互いの手にした羽根飾りで突き合い、身をかわし合うのを観て、群衆は愉快そうな笑い声をあげていた。セリーンは微笑み、何か景気づけになるような歌を披露するよう、メルセンドレを促した。

*** 

 ブリアラはその夜、姿見の後ろの壁に隠された秘密の扉を通ってセリーンの寝室にやってきた。

 女帝は、しばしばそうしているように、舞踏会の後で入浴を済ませ、豪奢なヴェルヴェット織りのサテンの寝室着に着替えていた。書き物机の上の燭台は、彼女が読んでいた書籍のページを辛うじて照らせるほどの明るさであり、室内のほとんどの部分は、窓から差し込む天上の秋月の淡い黄色の光と、眼下のヴァル・ロヨ―街路の橙色の光だけで照らされていた。

「彼は話はじめたのですか?」 セリーンが書き物机のほうから振り返りもせずに尋ねた。
 ブリアラは女帝に向かって微笑んだ。相手の長いブロンドの髪はまだ湿っており、彼女の背中を流れ落ちるようにして月の光を受け止めていた。「ええ、ですが、その程度のことで今夜お邪魔する必要はないと考えておりました。陛下の元衛兵隊長は、ギャスパードの贈り物を宮廷内に持ち込んだことを白状し、陛下のご慈悲に身を委ねると申しております」

「随分と楽観的な心構えですこと」 セリーンはくすりと笑い、ペンを置き、ブリアラのほうを向いた。セリーンの顔は、幼少のころからずっと、彼女のマスクの繊細な写しだ。華奢な骨格、陶磁器のような肌、自然に愛らしい形に湾曲した紅い唇。「それで、シャトレインは?」

 ブリアラが躊躇すると、セリーンは好奇に満ちた微笑みを向けた。ついにブリアラが言った。「愚かでのぼせ上っていましたが、忠誠を喪ってはおりません」 ディシレラとリレーヌが、アヒルの出来栄えが悪ければ彼女に鞭打たれたかもしれなかったことを思い出し、彼女は付け加えた。「とはいえ、ちょっとした折檻を与えることで、彼女もその新らたな落胆を、優雅さと気品をもって、受け入れることができるかもしれません」

 セリーンは立ち上がり、まだ微笑んでいた。「もちろん」と彼女は言って、近づいてきた。「今宵の大公ギャスパードに対する勝利のあとには、寛容さだけが相応しいでしょう」 セリーンの指がブリアラの首の横を優しくなぞると、小さな音とともに、ブリアラのマスクが外れた。「結局のところ、ブリアラ」と彼女はマスクを脇に置きながらささやくように言った。「のぼせ上った恋ゆえの過ちは、大目に見なくてはなりませんもの」
 むき出しの頬がセリーンのそれに触れ合うとき、ブリアラは薔薇と吸い葛(すいかずら)、女帝の入浴剤の優しい香りを嗅き、サテンの寝室着は、滑り落ちて蒼白い肌を曝す際にブリアラの指の間に冷ややかな感触を残した。「いかようにでもお望みのままに、輝けるお方」と彼女はささやき、それから空いているほうの手で燭台の灯りを素早く消した。

The Masked Empire 1(3)

 第一章は今回で終わり。当初二つに分けようとしていた意図に反して三つの記事に分かれてしまいました。過去記事含め表題のナンバリングを調整しています。

 分かれて読みにくいとしたら面目ないが、今後も次がいつできるかわからないので、とにかくできた分だけでもアップすることにしていきます。

***

 公式の晩餐に臨むとき、セリーンはいつもオリージャン・シェヴァリエの著名な試練のひとつを思い出す。数多くの剣先がからくり仕掛けで回転したり突き出されたりする前を、シェヴァリエが身をかわしながら駆け抜けるというものだ。だが幸い彼女はその試練をひとりで受ける必要はない。背後には、鎧こそ身に着けていないが、帯剣したままのチャンピオン、サー・ミシェルが控えている。前任者が暗殺者から女帝を守るため落命してから、彼はかれこれ十年近く彼女に付き従ってきた。 

 セリーンは、他の者たちの耳に入らないようにして、バードのメルセンドレから目を離さないようミシェルに命じた。ブリアラが迷路の庭園で発見したのは、一振りの剣であった。どんなことが企てられているにせよ、直前に招待客に加えられたバードがそのきっかけになるのは間違いない。 
 それからセリーンは、シェヴァリエであることを示す長い黄色の羽根飾りをマスクのてっぺんにつけた巨漢のチャンピオンを伴って、敵と味方が入り混じる戦場の中に足を踏み入れた。

 領内にセレスティン湖を擁するヴェナンのチャントラル伯爵は、ここのところセリーンにしつこく求婚を迫っていた。女帝には至って忠実だが、「ゲーム」の才能はからきしな男であり、セリーンはつかず離れずの関係を保つことにしていた。詩情に満ちた彼の挨拶に、同じく格調のある答えを返すと、セリーンはその場を立ち去った。

 領地にオリージャン・タワーを擁するレディ・モンツィマードのマスクには、タワーのファースト・エンチャンターから贈られたレリウムの結晶が配されていた。昨年の宮廷晩餐会に出されたアヒル料理が、サークル・タワーのそれに劣ると非難していた女性だ。夫の方は危険な男だが、彼女は愚鈍で、メイジとテンプラーの間の緊張関係すら重大事だと思っていない。またしてもサークル・オヴ・メジャイの料理の話を持ち出そうとする彼女を遮ったセリーンは、メイジが料理をするときは周り中を燃やし尽くしてしまうだろうと軽口を叩き、その場を去った。背後ではサー・ミシェルが、不調法なレディ・モンツィマードにあからさまな非難の眼差しを向けていることを、セリーンは見もせず知ることができた。 

 毒の混ざった社交儀礼を次々とこなしていく間、ずっと笑顔を続けていたセリーンの顎が痛みでうずいた。言葉の戦いをよそにして、晩餐会場にはメルセンドレの美しい歌声が続いていたが、それも大公ギャスパードの豪快な笑い声のため途絶えた。
 周囲の人ごみが開けると、メルセンドレが困惑した素振りで大公からそっぽを向き、オリージャン・シェヴァリエにして百戦錬磨の常勝将軍である大公キャスパードは、まだ笑い顔をしたままセリーンが口を開くのを待ち構えていた。

 これまでどれだけ「ゲーム」に慣れ親しみ、どれだけ準備怠りなくしていても、いつも必ず最初の瞬間に訪れる恐怖を、セリーンは感じた。

 その恐怖が去ってから、セリーンはギャスパードが招待客リストに最後に滑り込ませた黒髪のバードのほうに近づいていった。体格差が大きいにも関わらず、サー・ミシェルが完璧に歩調を合わせて彼女に追従しているのが足音だけでわかった。セリーンは、公式の場でマスクの着用を許されない庶民のように顔中厚化粧で覆ったバードが、困惑の演技を補強すべき頬紅を差し忘れているという、ほんの些細な手抜かりを犯していることを見逃さなかった。

 セリーンは、自分の従兄にあたるギャスパードに笑い声の理由を問い質す。サー・ミシェル同様、マスクにシェヴァリエであることを示す長い黄色の羽根飾りを付けている大公は、女帝に対する最低限の礼儀すら怠らんばかりの横柄な態度で、バードの歌の節回しがオリージャンが昔親しんでいた歌、「ミーグレン王のマバリ犬」によく似ているから笑ったのだ、と答えた。

 ミーグレンは、今から数十年前、オーレイがフェラルデンを占領下に置いていた時代に、帝国からフェラルデンに派遣された征服者の王であった。
 ギャスパードは、すぐそばに立っていたフェラルデン大使のバン・ティーガン・グエリンにはっきり聞こえるように、辺鄙で文化果つる「犬コロ貴族」の国に派遣されたミーグレンを憐れんで見せ、周囲の笑いを誘う。

 セリーンは女帝の地位に就いてからこのかた、隣国フェラルデンとの良好な関係を構築するため腐心してきた。彼女は、フェラルデンがいまやオーレイの友好国であることを指摘して、明らかに腹を立てている様子のバン・ティーガンを落ち着かせようとするが、無邪気を装ったメルセンドレがマバリ犬の話題を持ち出してその話の腰を折る。バードからオーレイに犬を連れてきたのかと尋ねられたティーガンは、料理が口に合わないだろうから、この晩餐会には連れてきていない、と反撃する。

 ギャスパードは、ティーガン大使への贈り物だと言って用意しておいた包みを手渡した。罠と知りつつも他になす術のないティーガンが包みを解くと、中からはブリアラが日中に庭園で見つけたものと同じ、使い古した一振りの剣が現れた。大公を諌めつつ、サー・ミシェルは剣と女帝の間に身体を割り込ませる。この広間内への武器の持ち込みは厳に戒められているはずだった。だからこそ、それを持ち込むためギャスパードが日中苦心惨憺していたことに、セリーンは思いを巡らせた。

 ギャスパードは、その剣がオーレイ占領軍への抵抗を試み、オリージャンによって亡き者にされたフェラルダン叛乱軍の女王、モイラのものであったことを仄めかした。セリーンは、ギャスパードの策略が単純だが効果的であることに気づいた。バン・ティーガンが屈辱に耐えきれずにあらぬ事を口にすれば、メルセンドレが驚愕の素振りでそれを増幅してみせ、もっとも愚鈍な貴族ですらティーガンがオリージャンを侮辱したことに気付かせるという寸法だろう。行きつく先は決闘しかなく、そのときセリーンには自分のチャンピオンであるサー・ミシェルを戦わせるか、ギャスパードが受けて立つのを傍観するか、その選択肢しか残されていない。どのみちフェラルデンとの関係は悪化し、また別の愚かな戦争の足音が近づくのだ。
 ギャスパードにとって、戦争こそ本領であった。

 怒りで目もくらまんばかりの様子のティーガンは、モイラの子息であり、のちにフェラルデン王となるマリックがオリージャン軍をフェラルデンから追い払った歴史に言及する。対してギャスパードは、モイラの傍に役に立たないフェラルデン兵ではなく、マバリ犬が一匹でもいれば、彼女も生きて国の解放を目にすることができただろうと侮辱を続けた。

 ギャスパードの策略にまんまと乗せられ、もはや堪忍袋の緒が切れたティーガンは、言ってはならない事を口走らんばかりだ。その様子を見て取ったセリーンが、女帝としての威厳ある声でティーガンに呼びかけると広間内に沈黙が訪れる。セリーンはティーガンに対して、オリージャンがもたらしたモイラの死に対する名誉挽回の機会を求めるつもりかどうか尋ねる。すなわち決闘による決着のことだ。セリーンの思惑を読み取ったティーガンは、決闘を求めると申し出た。

 周囲の貴族が叫び声をあげる中、セリーンがサー・ミシェルに頷き、チャンピオンは剣を抜いた。むき出しのシルヴァライトの青い光の輝きを目にした周囲は静まりかえった。
 セリーンから名誉ある決闘の用意は整ったかと問われ、チャンピオンは即座に否定した。決闘の申し出を受けた女帝側には武器を選ぶ権利がある。その手続きを踏まなければ決闘を開始することはできない。

 セリーンは、二国間の過去の遺恨のために尊い血を流すのは忍びないと告げ、自ら決闘の武器を選んだ。それは、羽根飾りだった。 

 サー・ミシェルが合点すると、自分のマスクについている黄色の長い羽根飾りを素早くもぎ取り、剣の達人の鮮やかな精密さでそれを構えた。その恰好を見た周囲の貴族は大喜びする。貴族たちは何を置いてもセリーンの臣下たちであった。みな血腥い決闘騒ぎも大好きだが、機転の利いたやりとりにも目がないのだ。

 あきらかに救われた様子のティーガンは、自分にはフェラルデンの毛皮が得物として相応しいが、あいにく手持ちがないと軽口を叩き、それもまた周囲の笑いを誘った。
 セリーンは、いまや何事もなかったかのように礼儀正しい笑顔を浮かべているギャスパードに対し、一つ目の贈り物に加えて、もう一つの贈り物でさらに気前の良さを示すように促す。大公は自らのマスクの羽根飾りをもぎ取ると、それをティーガンに差し出した。

 サー・ミシェルとバン・ティーガンが長い羽根飾りで突き合い、身をかわし合う様子を、貴族たちは大騒ぎしながら見物していた。セリーンはメルセンドレに、景気づけの歌を歌うように促した。

--- 

 その夜、ブリアラは女帝セリーンの寝室に秘密の扉を通ってやってきた。入浴を済ませた寝室着姿の女帝は、薄暗い中で読書をしていた。ブリアラは、今や職を解かれた衛兵隊長がギャスパードのために剣を持ち込んだことを白状し、女帝の慈悲を請うているとの報告をする。シャトレインについて尋ねられたブリアラは少し躊躇したが、女主人は愚かでのぼせ上ってはいたが、忠誠心を忘れたわけではない、と弁護する。ただし、アヒル料理が不出来だったら彼女に鞭打たれたかもしれないエルフの娘たちのことを思い出し、多少の折檻は必要であろうと付け加えた。

 セリーンは、今宵のギャスパードに対する勝利の後には寛容さこそ相応しい、と応じると、ブリアラの首筋を優しく指でなぞってそのマスクを脱がせた。のぼせ上った恋には多少とも同情する余地がある。マスクを横に置きながらセリーンはそう言った。セリーンと頬を合わせたブリアラは、女帝の入浴剤である薔薇と吸い葛(すいかずら)の香りを嗅き、相手のサテンの寝室着を脱がせる際には、指でその冷ややかな感触を味わった。それから彼女は、空いているほうの手で燭台の灯りを素早く消した。

2014年4月 8日 (火)

The Masked Empire ぼやき

 ついに、Kindleで"The Masked Empire"が配信されてしまいました。全17章。

 Amazon.co.jpで同時に予約したペーパーバックはまだ届いていないけど(例によって、ほんとに来るんだろうか・・・、心配)、取り敢えず読み進めることはできる。

 第一章はちょうど訳し終わったところなのですが、約束してしまった要約版ができていない。
 今週末までには、まとめてアップできるでしょうけど。

 フェラルデンのバン・ティーガンまで登場しているんですよ。過去キャラ総動員態勢か?

 サー・ミシェルの活躍を早くお伝えしたい! 

 なぜかあまりに忙しくて時間がない。Diablo IIIもやらずに頑張ったんだが・・・。 

 本当にベタ訳のほうが楽ちんだし、(セリーンのエクステンション(下記引用部分参照)、あくまで付属物でしかないチャンピオン)サー・ミシェルの活躍は、要約版では結構省略の憂き目に合いそうなんで、また方針が揺らいでいる。

 なんか、いい方法ないものか・・・。

 ウィークス氏の書きぶりは、(ゲイダーさんに比べて)本当に独特で込み入っていて、さすが英文学メジャー、詩文の影響なのか、結構崩れていて洒落ていて、訳すのはなかなか難物ではあるが、あ、そんな感じでもいいのか(成立するのか)、ととてもためになります。

“Orders, Majesty?” he asked in a voice low enough to carry only to her. Michel usually spoke little at these events, which Celene appreciated. As her champion, he was an extension of her public presence, drawing attention not to himself but to her. He cared little for the Game, but he had good eyes and followed orders. He had been with her for almost ten years, since her last champion had died stopping an assassin.

(ちなみに、エレキギターはギタリストの「エクステンション」と言う・・・、「身体の延長、その一部」、ちょっと違う意味だけどね。下ネタも入ってるかも)

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2014年4月 6日 (日)

The Masked Empire, Chapter 1 (全訳2)

*** 

 
 貴族が公共の場で身に着ける顔半分を覆うマスクは、その召使いたちのマスクとよく似ているのが常だが、後者のものは贅沢さが少なく、また貴族が流行に合わせていくつかのマスクを持つ余裕があるのに比べると、変化に乏しい。主人の家系のマスクが、象牙から削り出され、縞瑪瑙と黄金が散りばめられた獅子の形であれば、その召使いたちのマスクも、同様に獅子の形ではあるが、黒に塗られて真鍮の線が描かれている。マスクは外出時の召使いを守る役目があり、貿易商や商人が召使いに示した侮辱は、そのまま主人へのものになることを警告している。他の家の召使いにとっては、マスクは相手をたちまち見分ける手段である。潜在的な味方であることを・・・、あるいは潜在的な敵であることを。

 ヴァル・ロヨーの宮廷内で公的な場に出ることがある召使いが身に着けるマスクは、女帝セリーンのそれとよく似ている。彼女のものが月長石を散りばめられているのに対して、召使たちのものは単にエナメル加工されたものか、上級の召使いなら象牙から切り出されたものであり、黄金と菫色はただの塗料であった。ヴァル・ロヨーの召使いたちは仮面の下の顔を白く塗っており、特別な立場であることを示している。

 来訪者が黄金と菫色に飾り付けられた青白い顔の海を見ても、見分けはほとんどつかない。女性たちが身に纏う給仕の衣裳、男性たちのぴったりしたズボンは、どちらも最先端の流行に即して仕立てられ、皇室の色で染め上げられている。衛兵たちと、決して公的な場面に出ない、例えばコックやその助手たちのような召使いたち、私室の清掃人たちは、顔を曝している。
 だが、すべての召使いが顔半分を覆うマスクを身に着ける目的は、壮麗さを誇示するためであって、匿名性を維持するためではなかった。そうでなければ、ブリアラのマスクはエルフを示す耳までを覆っているはずである。

「あんた、そこ、ウサギ!」ブリアラが大広間を通り過ぎようとすると、シャトレイン(宮廷の家政一切を取り仕切る女主人、その職名)が呼び止めた。
 ブリアラは振り返った。「ご主人様?」
「追い出されたんだね?」シャトレインは大広間を振り返り、召使たちが梯子に乗って、女帝セリーンの出自、ヴァルモント家の黄金の獅子が正しい高さになるように大きな紫色のバナーの位置を直している方を見た。「普通の日であれば、あんたに女帝陛下の気付けをさせてもいいんだが、舞踏会だから、連中何もかもきちんとやりたいんだろう」彼女は眼を細めた。「左が高い!」

 ブリアラはシャトレインが数えきれないくらいの舞踏会の準備をしてきたことを知っている。この女性はいつも怒っていて、ときにはぶっきら棒になるが、そうできる相手なら誰にでも自分の不安をぶちまけるのだ。だが今日は違う感じがした。彼女の辛辣さには熱がこもってなく、召使いは皆、セリーンが最も公式な場に出るための着付けを行う女性たちとブリアラがうまくやってきたことを知っているのだ。そうしなければ、彼女たちの敵になってしまうのだが。

 それだけではなく、シャトレインのマスクの下にほつれた髪の房がいくつか挟まっており、それは宮廷のどの召使いであってもまったく許し難い不作法なのだった。マスクを外し、また急いで着け直したのではない限り、シャトレインが気がつかないはずがない。
「はい、ご主人様」ブリアラは言った。彼女は幼い頃からセリーンの侍女であり、それはセリーンがまだ、玉座を争う数えきれない候補者のうちのひとりの娘に過ぎなかった頃だ。今やヴァル・ロヨーにおいて、ブリアラは公的な場面で身に着けるマスクを与えられた数少ないエルフのひとりである。

「では、何か仕事をやって頂戴。厨房に走って、コックと娘たちに話して。ここのところ空気が乾いているので、お肉が干からびないようにしないとね」彼女はブリアラに向きなおった。「去年の秋、レディ・モンツィマードが、サークル・オヴ・メジャイのほうがここよりまともなアヒルを出すと言ったの」彼女が睨み付ける目が細くなるのが、マスクを被っていてもわかった。「もし今年もそんなことになったら、娘たちに鞭打ちを食らわしてやると言ってきな」
「はい、ご主人様」ブリアラはまたそう言って、敬意を間違いなく示すため首をすくめた。宮廷召使いの階層は厳格で明確であり、ブリアラがセリーン付きの侍女という立場のためその命令系統から外れているとはいっても、そこから完全に解放されているわけではまったくなかった。

「ああ、心配いらないよ、ウサギ」シャトレインは親しげに彼女の肩を叩いた。そうするとき、ブリアラは女性のカフの留め金がはまっていないこと、シャトレインの着付けをする召使いが今までしたことのないような過ちを目にした。「怠けた仕事にメイカーのお怒りを与えるだけだよ。お前を鞭うったりは決してしないから。さあ、お行き」
「はい、ご主人様」ブリアラはみたびそう言うと、召使いたちにバナーの左が下がり過ぎだと叫んでいるシャトレインを残してその場を立ち去った。

 
 床は良質なネヴァラン絨毯に覆われ、壁には古典的な絵画と渦巻き型の飾りしっくいが並んでいる大広間を通り過ぎる間、ブリアラは考えた。
 シャトレインは十年以上にわたってセリーンに忠実に仕えてきた。彼女は職務にとても熱心で、彼女の威信にかけて、舞踏会の日に仕事から気を逸らすようなことはないはずであった。留め金と髪の房は、新しい恋人、彼か彼女かが強引に言い寄って、シャトレインの時間を少しばかり横取りしたことを示している。

 もちろん、ただそれだけのことなのかもしれないが、ヴァル・ロヨーでは、すべてが「ゲーム」の一部であり、重要な地位にある召使いの秘かな情事ですら例外ではない。ブリアラはその「ゲーム」を見ながら育ってきたし、セリーンの手ゴマのひとつとして、それに勝つ覚悟を決めていた。
 ブリアラの最悪の予感が当たれば、シャトレインは巻き込まれていることにも気づいていない。セリーンの困窮はシャトレインの困窮でもあり、メイカー許したまえ、仮にセリーンが亡き者となったり、その権力を喪ったりしたら、シャトレインも職から外されることは間違いない。もしこれが情熱的に過ぎる恋人の話だけでは済まないのであれば、シャトレインは道具であり、積極的に策略を企む一味ではない。
 問うべきは、誰の道具なのかだ。

 厨房の熱気は息も詰まるほどで、世界中ありとあらゆる地方の料理が支度中であった。コックのリレーヌは、太った赤ら顔の女性で、その前腕は若い頃の事故によるやけどの跡があった。前任のシャトレインがリレーヌのことをでしゃばリ過ぎると考えた結果を「事故」と呼べるのであればだが。ブリアラは彼女を好いていて、その女性を守るためできることはしたのだが、「ゲーム」の複雑さを理解するよりも菓子パンを焼く方が得意な女性だった。

「ミス・ブリア!」とリレーヌは呼びかけ、ブリアラが入ってくるのをにこやかに出迎えた。「輝けるお方のために晩餐会が始まるまで何かお入り用? ライデスのおいしい菓子パンがあるのよ」
「ありがとう、リレーヌ、でも必要ないわ」彼女はリレーヌが使っている女たちを見た。ヒューマンも何人か含まれているが多くはエルフであり、誰もマスクを身に着けていなかった。貴族の目に触れることがないのである。「シャトレインはアヒルを心配しているわ。たいそう・・・、きつい感じで」
 リレーヌは、感謝をこめて頷いた。「あたしが自分でやるわ」 彼女はやけど跡のある手から小麦粉をはたき落とすと、ソースの中でローストされたアヒルがぐつぐつ煮えている鍋のほうに歩み寄った。
「それから、誰か女の子を遣わして、シャトレインが直前にスケジュールを変えていないかどうか確かめさせたほうがいいのじゃないかしら?」とブリアラが申し出た。
「そうね、ミス・ブリア」リレーヌは微笑んだ「あなたのところに送るわ」
「ありがとう」

 ブリアラは厨房を後にすると、宮廷の中を見て回った。大広間ではシャトレインがバナーの位置決めを終わらせており、今度は食卓の配置について大声で指図していた。広間に接する手の込んだつくりのいくつかのカード・ルームは、それぞれ異なる国のスタイルに飾り付けられており、大きな熊の毛皮と金のマバリ犬の彫像が置かれたフェラルデン風から、退廃的なシルクと魔法のランプのテヴィンター風まで揃っていた。バルコニーは大広間を見渡すことができるとともに、そこから外の空気を吸うため退出することもでき、ヴェランダからはきらめく大理石の噴水群が点在する迷路状の庭園が眺望できた。

「おい、そこ、ナイフ耳!」
 大抵親しげに見下す場合の「ウサギ」という呼びかけなら、ブリアラも多少歯を食いしばる程度で済んだが、「ナイフ耳」は侮辱以外のどんな意味でもなかった。仕事をするには怠けすぎ、盗みもできないくらい愚かな掃き溜めのごみを呼ぶときにヒューマンが用いる言葉なのかもしれない。
 宮廷衛兵の隊長はマスクを身に着けていなかった。衛兵は誰もがそうだった。暗殺者が紛れ込み、武装したまま女帝に近づくことがあまりに容易になるからだった。彼の尖った顔は貴族の血筋を示しており、外衣の下には、ヴァルモント家の黄金の獅子が鮮やかに描かれた儀式用の胸当てが輝いていた。

 ブリアラにとってより重要なことは、彼の胸板の留め金のひとつが斜めに曲がっており、片方の耳の下に恋人に噛まれたときできるような腫れた跡があったことだった。
「こそこそ隠れまわって、仕事をさぼるつもりか、ナイフ耳?」彼は嘲りとともに言った。
「女帝陛下から、今宵の晩餐会の準備怠りないことを確認するよう申し付かっております」ブリアラはお辞儀をしなかった。衛兵の隊長は彼女が当然そうすべき重要人物だが、ブリアラはそう望んだときには規則を迂回するだけの力を持っており、今がまさにその時だった。
「都合のいい話だな」彼は鼻を慣らし、今度は別の興味を抱きながら彼女を見た。「必死に隠そうとしてるんだろうが、お前の頭から飛び出している汚い耳を見逃してやってもいいくらい、いい身体してるじゃないか」彼は近づき、彼女から庭園の視界を遮った。「たぶん、手綱みたいに引っ張れるんじゃないのか」彼からは汗の匂いの他に、シャトレインのお気に入りの香水、ラヴェンダーの匂いがした。
 彼女は室内に踏み下がった。「女帝陛下がお許しになるとは思えません」彼女は振り向くと後ろも見ずにその場を立ち去り、そしてまだ思案していた。

 衛兵の隊長がシャトレインとよろしくやっていて、今、彼女が立ち去るまで嫌がらせを続けた彼が実際注意をこらしていたのは、彼女に眼下の迷路の庭園を見せないようにするためで・・・、だから視界を遮ったのだ。ブリアラの記憶によれば、隊長は前任者の死を受けて最近登用された。その以前は軍に所属していた。ブリアラは配属部隊までは知らなかったが、大公ギャスパードが兵士たちから人気を集めていることを考えれば・・・。
 誰が、どこで、はこれでわかった。あとは何を企んでいるかを突き止めるだけだ。

 彼女は、赤いヴェルヴェットの絨毯を大理石の段に敷き詰めた曲り階段を急いで降りたが、迷路の庭園に続く扉に辿り着くまえに、後ろから呼びとめられて足を止めた。
「ミス・ブリア!」ブリアラが振り返ると、厨房で働いていたエルフのひとりが急いで追いかけてきた。「探すようにいわれてきました」
「ありがとう、ディシレラ」ブリアラは若い女性に微笑んだ。「なにか見つけた?」
 ディシレラは声を潜め、細い指先で袖口を神経質に引っ張った。「シャトレインが、バードのメルセンドレを今夜の招待リストに追加しました」
 ブリアラは頷いた。「ありがとう。さて、リレーヌからもうしばらくあなたを借り受けることにして、今日衛兵隊長が何をしていたか探ってもらえるかしら?」
「もちろんです、ミス・ブリア。リレーヌはあなたを手伝うように言ってましたから」
「よかった」ブリアラは迷路の庭園のほうに向きなおった。「私はあそこに行く。狩りのため」

The Masked Empire 1(2)

 申し訳ないですが、要約版に思いのほか時間がかかりそうなので、こまめにアップすることにします。全訳版とは(1)、(2)など表題の括弧内の数字で紐づけているつもり。

***

 貴族の召使たちが着用しているマスクは、自分の仕えている相手を示すため、大抵は主人の簡素版になっている。マスクは、外出など単独行動をとっている間、召使たちの身の安全を守るためにも役立つ。召使たちへの侮辱は主人への侮辱と同義であるからだ。

 ブリアラは、ヴァルロヨーの宮廷内でマスクの着用を許されている数少ないエルフだ。彼女は女帝セリーンの幼少の頃からの侍女であり、彼女のマスクは女帝自身のそれの簡素版であったが、そのエルフ特有の長い耳を隠しはしない。 

 ブリアラは、今宵の舞踏会に先立つ晩餐会の準備であわただしいシャトレイン(宮廷内の家政を取り仕切る女主人の職名)に呼び止められた。いつも舞踏会では女帝の着付け女たちと一緒に作業するブリアラは、今日に限って珍しくその仕事から外されたのだ。普段は周囲の召使たちをがみがみと叱り飛ばすシャトレインが、今日はいつになく穏やかな物腰なことを、ブリアラは奇妙に感じた。彼女のマスクが髪の束を挟み込んでおり、カフの留め金もひとつ外れている。いずれも宮廷召使いの身だしなみとしてあるまじきことだ。 

 シャトレインから、料理の準備に粗相がないようコックたちにくぎを刺すよう言付かったブリアラは、厨房へ向かう道すがら、シャトレインの密かな情事が女帝の身の安全に無関係なものであるのかどうか思案していた。だが、大いなる権力の「ゲーム」が戦われているここヴァル・ロヨーで、しかも女帝そのお方の手ゴマのひとつとして、それに勝つ覚悟を決めているブリアラにとって、無関係なものなど何もない。もちろんセリーンがその地位を追われれば同時に職を喪うシャトレインが何らかの陰謀に積極的に加担しているはずはない。誰の道具として使われているかが、問題なのだ。 

 世界中の料理の支度が整えられている厨房では、コックの女性リレーヌがブリアラをにこやかに迎えた。肉料理の加減について粗相がないようにとのシャトレインからの伝言を伝えたブリアラは、さらにリレーヌに、賓客のリストに直前の変更がないかどうか、シャトレインのところに誰か人をやって尋ねたほうがいいと忠告する。リレーヌは厨房で働く娘の誰かを遣わせると約束する。 

 厨房からの帰り道、宮廷の中を見て回っていたブリアラは、迷路状の庭園が眺望できるヴェランダで、横柄な態度の衛兵隊長に呼び止められた。宮廷のコックたちは来客の前に出ないのでマスクを着用しないが、貴族の顔だちをしていた衛兵隊長も素顔を曝している。衛兵はマスクを着用しない。武装した暗殺者が容易に女帝の傍に近づけることがないようにとの配慮だ。 

 衛兵隊長は、エルフへの蔑視を隠そうともせず、また同時にその身体に下品な興味を示しながらブリアラに近づいてきたが、彼女には、男の真意がそのどちらにもないことに気が付いた。女帝に直接仕える身分の特権を行使してその場から急いで立ち去った彼女は、迷路状の庭園へのブリアラの視界を塞ぐように衛兵隊長が近づいてきたこと、相手の鎧の胸板の留め金がひとつ曲がっていたこと、男の首筋に接吻の跡があったこと、シャトレインの好きな香水の匂いをさせていたことなどから、何かを企んでいるのが誰で、それはどこで行われようとしているのかについては整理できたと思った。だが、何を企んでいるのかは探らなければならない。

 ブリアラは、コックが遣わしたエルフの娘ディシレアに呼び止められた。彼女によれば、シャトレインは直前になってバードのメルセンドレを招待リストに追加していた。ブリアラはエルフ娘に衛兵隊長の今日の行動を探るように命じると、自分はそのまま迷路状の庭園に向かうことにした。狩りのために。

 

 

 

The Masked Empire, Chapter 1 (全訳1-2)

 建物の中の空気はひんやりとしているが、秋風の肌寒さはなく、外に居たよりは快適であった。ステンドグラスの窓から振り注ぐ深紅の光は、チャントリー内をその磨き油の匂いで満たす木製の座席を照らしていた。講堂の別のほうの端には、永劫の焔が大きな黄金の火鉢の中で明るく燃えており、窓から差し込む光以外唯一の灯りであった。

 チャントリーには、平シスターのローブを身に着けた赤毛の女性ひとりだけがおり、セリーンが近づくと立ち上がった。「皇帝陛下」と彼女はつぶやき、深々とお辞儀をした。
 エルフの件に関するモラク総長との肩慣らしは、この朝の真の試練の穏やかな前触れであった。セリーンは女性に直るように合図した。「ディヴァインが会見をお望みなのは喜ばしいことです」

 赤毛の女性は微笑んだ。チャントリーに仕える者がしばしばそうであるように、彼女はマスクを身に着けておらず、言葉は生粋のオリージャンのアクセントである一方で、その容貌はフェラルダンのものだった。マスクは、オーレイの王朝が生まれては消えて行った非情で終わりのない戦い、その「ゲーム」の一部であり、チャントリーがマスクの着用を忌避する理由は、自分たちは政治の世界の埒外にあるとの意思表明だ。オリージャンの貴族でそんなことを鵜呑みにする者はほとんどいなかった。「今取り組むべき問題は、陛下の密使が述べられましたとおりに大変深刻なものであり、ディヴァインはその解決をお望みです。この件について、私が彼女の代弁者となります。ナイチンゲールとお呼びいただければ幸いに存じます」

 そのマスクの下で、セリーンは眉を吊り上げた。オーレイの女帝が相手から偽名で呼ぶように求められることは滅多にない。とはいえ、ジャスティニアが送り込んでくるのだから彼女が全幅の信頼を置いている者であろう。

 礼儀作法を抜きにして、セリーンがベンチのひとつに腰掛けると、彼女のクリーム色のサテンのガウンが不恰好に膨らみ、紫水晶が木に擦れてカチャカチャ音をたてた。「あなたは、ナイチンゲール、テンプラーとメイジの間の緊張関係について詳しくご存じですね?」ナイチンゲールが躊躇すると、セリーンは彼女にも腰を下ろすように手を振った。
「もちろんです、輝けるお方」ナイチンゲールは、何気ない優雅さを示しながら、彼女の簡素なローブが皺にもならず、膨らみもしないように腰を下ろした。そのさりげない一連の動きは訓練を受けたバードの証であり、セリーンはその観察を後で用いるために銘記しておいた。

「カークウォールの一件以来、テンプラーは以前にも増して焦燥しています」、セリーンはそう言うと、火炙りの薪の上に立つアンドラステを描いたステンドグラスの明るい紅い光を見つめた。何年にも渡る訓練により、横にいる女性の動きを視界の端でもはっきりと捉えることができる。「その点はメイジもまた同様です。ドロシアはどうするおつもりかしら?」

 彼女は敢えてディヴァイン・ジャスティニアの本名を呼んで、そして視線の端でナイチンゲールがそれに反応するのを見た。相手の女性の両眼がほんの少しだけ狭まったが、その姿勢は全く変わらなかった。怒りを感じたようだが、無礼な素振りは見せなかった。ナイチンゲールはディヴァインを本名で呼ぶのかもしれないし、彼女がその地位に就く前から深い知り合いだったのかもしれない。

 鼓動一回分の間を開けて、ナイチンゲールが言った。「ディヴァインは、カークウォールで起きた一件について、信仰に熱心過ぎたテンプラーたちの手によって、ひとりの気の狂ったメイジが痛ましい行動に追いやられたものであるのに過ぎない、という見方を取るお考えはございません。ご承知のとおり、マーチャーのいくつかの都市国家のメイジたちは、オーレイよりも厳しい監督下に置かれています」

「承知しています」とセリーンが言った、「そしてまた、あなたがまだ、わたくしの質問に答えていないことも承知しています。ドロシアがテンプラーとメイジの仲を取り持つために何の
算段も講じないのであれば、彼女はグランド・クレリック・エルシナ、カークウォールが引き裂かれる間もただ待って祈っていた彼女と同じ轍を踏むことになるのでしょう」
 相手の女性は、ディヴァインの本名に再び反応した。「ジャスティニアは、この世界がより良くなることを望んでいます、輝けるお方。気まぐれに行動を起こしても得るものはございません」
「欲しいだけの時間が手に入らない場合もあるのですよ、とりわけ魔法が関与しているとなると」セリーンがナイチンゲールのほうを見ると、彼女は、簡素なローブに身を包み、真っ当な淑女の物腰で寛ぎ、落ち着いて、そして思案していた。「先のブライトでは、ひとりのシニア・メイジがアボミネーションに化したことによって、フェラルデンのサークル・タワーが壊滅寸前となるところでした。フェラルデンの英雄はその化け物を殺した後に、タワー内に生き残ったメイジたちを皆殺しにすべきかどうか、その場で決断を迫られました」

 彼女の棘は急所を突いたらしく、ナイチンゲールは瞬きし、熱を帯びた口調でこう言った。「今は戦場にいるわけではありません、輝けるお方」
「わたくしたちは常に戦場にあるのです」とセリーンが言った。「いつも、それに気がついていない者がいるだけなのです。マージョレインという名のバードが、かつてわたくしにそう告げました。彼女はフェラルデンで残念な最期を迎えたと聞きましたが」彼女は溜息をついた。「悲しいことですね、ナイチンゲール?」

 ナイチンゲールはしばしためらい、セリーンのほうを用心深い関心とともに見た。「おそらく」と、ようやく彼女は言った。「ものの見方によるのでしょう。それから、私のことはレリアナとお呼びいただいたほうがよろしいかもしれません」
「そうかもしれません」セリーンはそう言うと微笑み、それから声を潜めてこう続けた。「ディヴァイン・ジャスティニアには知っておいてもらわなければなりません。この件について、玉座から直接的な行動をとるように、私邸の広間でわたくしに懇願する貴族たちがいるのです」レリアナの驚いた顔に、彼女は頷いた。「わたくしたちが、治安維持の名のもとに自らの民に刃を向けることになると考える、気の早いオーレイの者たちがいるのです。唾棄すべきことですが。ドロシアもその気持ちはおわかりのはずです。ただし、わたくしは連中に何らかの代替策を示さなければならないのです」

 レリアナは立ち上がり、思案気に眉をひそめた。「陛下はディヴァインに、事態を打開するための何らかの目立った動きを示すよう、お望みなのですね」セリーンは息を吐いた。「実のところ、それがどのような目立った動きであっても、わたくしがチャントリーに、この帝国をわたくしのために支配する行動の自由を与えたという批判を集めることになるでしょう」と彼女が言うと、レリアナは無言でうなずいた。「しかし、わたくしが帝国自身に刃を向けるように強いられる前に、ジャスティニアがいざこざを納めることができるのであれば、そのくらいの対価を支払うのはわたくしの望むところです」

 レリアナは微笑んだ。「私が想像していた以上に、ご自身のことよりもオーレイのことをよりお気にかけていらっしゃるのですね、輝けるお方。支配者として恵まれた資質をお持ちのようです、今まであまり目にかかったことのない種類の」
 セリーンもまた立ち上がると、一瞬の間、彼女のガウンがステンドグラスの深紅の光の色に染まった。「教えていただけないかしら。アーチディーモンはどのくらい大きかったのでしょう?」

 レリアナは、貴族の女性か訓練を受けたバードの、繊細で上品な笑い声をたてた。そのため、彼女のシスターのローブがお粗末な変装衣裳のように見えた。「とても大きいです、輝けるお方、あれを見たあとでは、ほとんどの問題が取るに足らないものに見えてしまうくらい」彼女の顔が真剣なものに戻り、こう付け加えた。「ジャスティニアには、直接的な行動を取るよう求めてみます。自分自身のために権力を簒奪しようとしているといった糾弾から彼女が身を守るためには、陛下の支援が必要となるでしょう」
「もちろん。彼女をお招きして開催する、宮廷舞踏会で声明を出すようにしたらいかがかしら?」

 レリアナはそれについて思案した。「彼女がそのような表明をする場としてあまりふさわしくはないのですが・・・」
「だからこそ、あなたは気に入っているのでしょう」とセリーンが言って、微笑んだ。「加えて、わたくしに行動を取るよう懇願している多くの貴族が、いやでも彼女の言葉を聞き、事態への対処がなされていることを知ることになるのです」
 レリアナはにこやかに笑った。「バードの訓練をお受けになっていたのですものね、輝けるお方。うっかり失念してしまうのですが。お申し出はディヴァインにお伝えします」
「三週間」とセリーンは言った。「長くても、ひと月。それ以上かかれば、わたくしも行動を起こさざるを得なくなってしまいます。貴族たちは冬の別荘に引きこもる前に、解決の糸口を手にするよう求めているのですから」
 レリアナはお辞儀した。「皇帝陛下」

 ディヴァインの密偵は隠し扉から退出し、セリーンはベンチに腰掛け直した。学習したおかげで、今回は物音を立てたり膨らみや皺を作らずに座ることができた。
 あと三週間、他の貴族たちを煽動して戦争をはじめようともくろむ大公ギャスパード相手に、歯ぎしりしたまま立ち向かわなければならない。あと三週間、世の中のあり方を考えようともしない、やくざまがいのテンプラーとメイジの間の思想的な抗争を無視し続けなければならない。

 そうした彼女の忍耐に対する報いは、彼女がチャントリーの権力をさらに強めていると非難するギャスパードの喚き声で、権力はまるで剣のように一度にたった一人の手中にしか収まらないとでも考えているようだが、それは事実ではない。権力はパートナーたちの間を渡り歩く舞踏であり、導くとき、従うときを知ることであり、そして宿敵のガウンの裾をあっさり踏みつけ、相手を床に転がして笑い者にする時機を見計らうことである。
 迂闊な者の手に渡ったら、そうした権力はセダス最大の帝国ですら崩壊に導く。セリーンは、オーレイのすべての文化と歴史を守護しなければならなかった。
 このようなときだからこそ、強情な教授を自分の意志に従わせるような、単純な気晴らしを彼女は楽しんだのだ。「三週間」とセリーンは言うと、しばらくの間、ステンドグラスを透して踊る炎色の光を眺めて過ごすことを自分に許した。

The Masked Empire 1(1)

 まだ構成が多少混乱していますが、The Masked Empireの要約版。第一章の一部。
 途中までは前回アップした内容と同じです。

***

 第一章

 カークウォールのチャントリー爆破事件に端を発したテンプラー・メイジ抗争は、ここオーレイ帝国でも一触即発の様相を呈していた。
 オーレイに冬の到来が迫るある早朝、オーレイ帝国の女帝セリーンは、従者や衛兵など取り巻きたち、そして自らのチャンピオンであるオリージャン・シェヴァリエであるサー・ミシェルを伴ってオーレイ大学を訪れた。

 総長以下教授連が、大学構内で最も背の高い建物であるチャントリー教会の中庭にて彼女を出迎える。大学総長のヘンリ・モラクは、女帝の訪問の意図を内心訝しがっているようだが、女帝は彼が自室に招く暇さえ与えない。代わりにその場に折り畳み式のベンチを用意させ、屋外での謁見を想定していなかった総長の度肝を抜いてみせる。

 総長が申し出たクナリ文化に関する学術論議への誘いを退け、女帝は突然、数学分野の話を持ち出した。テヴィンター帝国の一学者が解明したある数学定理についての説明を求められると、自身も数学者である総長は女帝の意図が読み取れずに困惑し、それが極めて難解で自分には理解困難なものであることを白状する。

 テヴィンターの一介の学者がものした定理を、オーレイ大学の誰一人として理解できないのであれば、ここがセダス大陸随一の学窓であるとの評判は騙りではないのか。女帝から辛辣な皮肉を浴びせられると、総長はオリージャン貴族のはしくれとして身に着けているはずの如才なさをかなぐり捨て、苛立ちを顕わにした。彼は、オーレイ大学の学識の高さは比類ないこと、またテヴィンターの学者はメイジ支配者であるマジスターの奴隷に過ぎないことをあげ、学究の内容について宗教的にも政治的にも掣肘されないのがオーレイ大学の強みであると、潜在的な女帝の介入を暗に批判した。

 会話が盛り上がってきたことに内心喜んだ女帝は、とある伯爵夫人がこの大学に推薦した才能ある若者についての話題に切り替える。大学の門戸は才能ある全ての者に開かれている建前だが、総長は伝統を維持するとの名目で高貴な血筋の申請者のみ入学を許していた。
 女帝は、今度は数字の零についての謎をかける。彼女によれば、これまでこの大学に入学した貴族以外の血筋の人数だ。総長は、くだんの若者が実はエルフであったことを告げる。

 女帝はサー・ミシェルに、周囲にエルフをひとりも見かけないのではないかと問いかけた。彼はチャントリー教会の扉の上に掲げられたアンドラステと門弟たちの壁画を指差して、描かれているひとりが実はエルフのシャルタンであることを指摘する。シャルタンは、アンドラステがテヴィンターの奴隷制度からエルフを解放して以来、彼女に付き従った最初期の門弟であった。のちにヒューマンとエルフとの間で紛争が勃発したとき、ときのディヴァイン・レナタはエルフ討伐のための「聖なる進軍」を発動するとともに、シャルタンを異端化し、チャントリーの所有する作品のうちエルフの描かれたあらゆるものを破壊するよう命じた。

 ここのチャントリーの扉の上に掲げられた壁画は複製であったが、そのオリジナルの作者がディヴァインに熱心に懇願したことにより、シャルタンのエルフに特徴的な耳の部分を削る条件つきで、その作品は唯一破壊を免れた。
 女帝は、サー・ミシェルの説明に礼を告げ、ディヴァインですら妥協した逸話があるにもかかわらず、総長モラクは微塵も譲る気持ちがないのかと問うた。総長は若者の入学申請を見直すように約束した。

 総長との用件を終えた女帝は、しばしアンドラステに祈りを捧げる旨一同に告げ、総長にはその間の人払いを命じ、サー・ミシェルすら同行を許さずにひとりチャントリーの中に入った。

 中に待っていたのは平シスターのローブを着た赤毛の女性であった。言葉のアクセントはオリージャンだが、容貌はフェラルダンである。女帝が会見を申し込んだディヴァインの密使であり、代弁者でもあるという女性は、ナイチンゲールと名乗った。

 誰かに偽名で呼ぶよう求められたことのない女帝は、内心穏やかではなかったが、相手はディヴァインが最も信頼する者に違いない。女帝は相手の物腰から、自分と同じようにバードの訓練を受けた者であることを見抜いた。

 女帝セリーンの狙いはただひとつ、緊張の高まるテンプラーとメイジの間で勃発しかねない戦争を回避することである。自ら鎮圧の軍を挙げて帝国の民に差し向けることは彼女としては論外であるが、そう主張している貴族連中を宥めるためには、目立った動きを起こす必要があるのだ。
 女帝は、その件についてのディヴァインの意向を相手に尋ねる際、敢えてディヴァインの本名であるドロシアという名前を用いた。相手が微かな反応を示すことを女帝は見逃さなかった。

 ナイチンゲールによれば、ディヴァインはカークウォールの一件をひとりの気の触れたメイジの単なる愚行であるとは見ていない。だが、事態に対応するために性急な行動を起こすつもりもない。
 女帝は、かつてカークウォールの紛争を拱手傍観したあげく、かの地のチャントリーもろとも爆殺されたグランド・クレリック・エルシナの例を引き、世の中には望むだけの時間が手に入らない場合もあると警告する。先のブライドの折、フェラルデンのサークル・タワーでアボミネーションと戦ったフェラルデンの英雄は、メイジたちの運命をその場で即決しなければならなかった。

 今は戦場にあるわけではないとナイチンゲールが反論すると、女帝は、かつてマージョレインというバードから、我々は常に戦場にあり、単にそのことに気がついていない者がいるだけであると教わったと告げる。女帝がさらにフェラルデンにおけるマージョレインの非業の死について触れると、自分の素性についてこれ以上隠し立てしても意味がないと悟ったナイチンゲールは、本名であるレリアナを名乗った。

 女帝の求めに応じてチャントリーが目立った動きを取れば、女帝が自己保身のためチャントリーの権限強化を図ろうとしていると貴族連中から非難を浴びることになるのは間違いないが、女帝は、自国の民に刃を向けることに比べれば、その程度の対価はやむを得ないと考えていた。女帝の滅私の姿勢に感心しているナイチンゲールに、女帝はアーチディーモンの大きさについて尋ねる。フェラルデンの英雄とともにアーチディーモンと戦ったナイチンゲール(レリアナ)は、他のどんな問題もあれに比べればちっぽけに見えるくらい大きかったと答える。

 ナイチンゲールは、女帝の意向をディヴァインに伝える旨約束した。女帝は、ディヴァインを賓客として招待する宮廷舞踏会を、チャントリーの立場表明の場にするよう提案する。舞踏会で政治宗教を話題にすることはきわめて異例ではあるが、多くの貴族連中が冬の別荘に引きこもる前に伝えるには格好の場であった。 

 ナイチンゲールが隠し通路から消える直前、女帝はチャントリーが行動を起こす期限を三週間と区切った。その間、好戦派の貴族たちを束ねる大公ギャスパードの誹謗中傷や、一触即発の関係にあるテンプラーとメイジたちの傍若無人の振る舞いを耐え忍ばなければならないが、権力は舞踏のようなものだと心得ている女帝にとって、それは他の迂闊な者たちの手に渡すことの許されないものであった。彼女はオーレイ帝国の命運を左右する立場だ。大学総長との先のやりとりなど、それに比べればただの気晴らしに過ぎなかった。

 

2014年4月 4日 (金)

The Masked Empire, Chapter 1 (全訳1-1)

 試行版です。細部磨いていないのでまだ多少粗いかも。

 前回記事の要約に対応する部分ですが、どんだけ違うかおわかりいただけたでしょうか・・・。

 ゲームの小説版(に限らずエンターテイメント系小説)は、アクション・シーンや殺気立った場面から始めるのが鉄則みたいになっていますが、敢えてそうしないところが、著者ウィークス氏の「小説家」としての矜持なのか、DAシリーズというフランチャイズなので(もっぱら読者がファンだから)許されるのか。
 ちなみに彼の小説"Palace Job"の劈頭は思い切りアクション・シーンだったのですが。

 サー・ミシェルが恰好よすぎ! 
 なーんて、要約じゃなかなか伝えにくいもんねえ。

 ちなみに固有名詞の読み方は暫定。オーディオ・ブックでも出してくれりゃいいのに(DA小説の売り上げ部数じゃまず無理かな)。

***

第一章

 女帝セリーンは、オーレイ大学の広い「チャントリー中庭」に、従者と護衛からなる取り巻き集団、さらには彼女自身のチャンピオンであるサー・ミシェルを伴って歩み入った。大学の教職員全員が謁見のため集合しており、教授たちは彼女が近づくとお辞儀をした。

 蒼白い朝の陽ざしの中、大理石の壁は新雪のように輝いていた。中庭の石畳はアンドラステの姿を描くモザイクになっており、真珠色に輝く鎧に身を包んだ誇らしげで大胆な様子の彼女と、その背後の紅玉色の焔を表していた。
 セリーンは、ここを前回訪れたとき、無頓着な者たちに踏まれたモザイクの石畳が幾つかずれていたことに気がついていたが、今日はそれらが修復されていることを目にして満足した。
 アンドラステのモザイクは、瑠璃の両眼でその中庭の名前の由来となった教会を見つめている。大学の中では最も背の高い建物であり、組になった輝くふたつの青銅製のドームがあたりを睥睨しているが、学生たちはふざけてそれらを「アンドラステのおっぱい」と呼んでいた。

 大学総長がセリーンにそう告げたわけでは、もちろんない。

 大きな青銅製の扉の上、アンドラステとその門弟たちの壁画の上には、チャント・オヴ・ライトの一節が石の中に金文字で彫り込んである。「学び多き子は、親たちにとっての、メイカーにとっての賜物」。
 総長と教授連は、その一節の下でお辞儀したまま、セリーンと取り巻きたちがアンドラステのモザイクの上を歩み寄ってくるのを待っていた。

「皇帝陛下」、総長ヘンリ・モラクがそう告げ、セリーンの合図を待って、彼と同僚たちは頭をあげた。「ご来訪いただき、光栄に存じます」
「このように大変なときですが、モラク、あなたと他の教授たちがオーレイの未来のため与えてくれる知識と知恵は、わたくしの心に安らぎをもたらしてくれます」 セリーンが微笑んで従者に手を振ると、そのうちふたりが複雑で精巧なつくりのシルヴァライト製のからくりを取り出し、何度か曲げたりひっくり返したりして、ちいさいが驚くほど快適そうなベンチを鮮やかな手並みで完成させた。
 サー・ミシェルが横に踏み出し、回廊と大理石の壁に穿たれた窓に目を向けて、女帝に対するいかなる脅威も見逃さないように警戒していたが、セリーンが個人的従者に要求するように、その間いつもどおり自信に満ち溢れた雰囲気を保ったままであった。

 モラクは驚愕して跳び上がった。明らかに彼は彼女を自室に招き入れ、自分の管轄するこの地をセリーンが訪れた意図を尋ねるつもりだったのだろうし、またおそらくは、将来を嘱望される学生が新らたにものした論文原稿に目を通してもらうつもりであったのだろう。野外における会話の糸口を探るためしばし沈黙している間、モラク家の家督以外の男子であることを示す比較的簡素なマスクの下で、彼の唇は困惑と思慮のためすぼまっていた。セリーンは、こんなにもあっさりと彼の意表を突くことができたことを静かに愉しんでいた。

 女帝は、ロープのように数珠つなぎになった真珠を縁取りにあしらい、ヴァルモント家の色を示す紫水晶を配した黄金の複雑な紋様を織り込んだ、クリーム色のサテンのガウンを身に纏っていた。それですら彼女の女帝としての地位に許される、乗馬以外の公的な場面における最も簡素でくつろいだ装いであったが、そうであっても、一日中身に着けていたら背骨と腰を押し潰すのに十分なだけの重さがあった。彼女は小さなシルヴァライト製のベンチに、安堵や不快さが思わず顔に出ないように、いつものように注意深く腰を落ち着けた。

 オリージャンの上流階級の者たちが公的な場面で身に着ける顔の上半分を覆うマスクは、彼女が表情を秘匿するのに役立った。それには月長石が散りばめられ、頬骨と鼻を示す部分は黄金で縁どられている。両目の周囲は沢山の小さな紫色のサファイアで囲われており、また染め上げられた多くのクジャクの羽根が流れるように後ろに拡がり、黄金と菫色の冠とともに彼女の頭を取り巻いていた。サファイアと羽根は、特定のガウンに合わせるために、または特別な場面であることを示すために着け替えられるようになっていた。女帝のマスクの下の顔は白粉で覆われ、唇は深い紅色に塗られていた。

「皇帝陛下のお望みいかんに存じますが」と総長モラクは話し始めた。「ダウシー教授が、クナリ社会の劣等性に関する彼の学位論文の一部をご披露することをお許しいただけるなら、彼も大変な名誉に服すことでしょう。それはブラザー・ジェニティヴィの初期の記述を大胆に発展させたものでございまして、本職の記憶が正しければ、陛下は彼の初期の作品は極めて前途有望であるとお考えであったと存じます」
「とても素敵な申し出ですわ」、セリーンはそう言うと、モラクが横を向いて、彼の右手に並ぶ教授連の中からひとりを呼ぼうとするまで待ってから、こう付け加えた。「ですが、パー・ヴォレンの大きなツノの生えた支配者たちに関する議論は、冬の到来がすでに予感されるこの時分には、少々殺伐としたものに過ぎないでしょうか」 彼が驚いて振り返ると、彼女は続けた。「おそらく、あなたの教授のうちどなたかおひとりから、数学の研究についてお話いただく方がよろしいかもしれません。わたくしは、わたくし独自の単純な方法でヴィラニオンの定理に取り組んでおりますので、あなたの博学な学者の中のおひとりから、その証明過程を説明いただけると大変うれしく思います」

 しばしの間、大きな中庭に静寂が訪れ、学生や庭師が餌付けしている、冬に南へ渡ることをやめた小鳥たちがさえずる声だけが聴こえた。
 モラク総長は生唾を呑んだ。家督の身分ではないとはいえ、彼は落ち着きを喪うべきではなかった。胸中をあからさまに顔に出してしまうことが帝国宮廷の場で害をなすと考えた一族が、彼を学者生活に追い払ったのか、それとも彼自身が大学生活に慣れてしまい、宮廷生活のための訓練を忘れてしまったのか、とセリーンはぼんやり思案していた。いずれにしろ、彼の評判にとって良いことではない。

「輝けるお方」とついに彼は言った。「ご自身の学究をそれほど軽んじてはなりません。ヴィラニオンの定理はとてつもなく複雑です。白状しますが、本職の数学研究においてすら、知性の波は岩肌の並ぶ浜辺に打ち付けられて粉々に砕け、ほとんど何の成果も見出せておりません。しかしながら数学の実演をご所望とあれば、自然界においてあまりにも頻繁に眼にする特定の比率が、メイカー自らのご意思を反映しているに違いないことを示す論文をものしました。光栄にも、もしそれを・・・」

 「お茶を」とセリーンが求め、従者のひとりに手を振ると、火を用いずに中の水を温めるルーン紋様の施された美麗な銀のポットが取り出された。別の従者が取り出したアンティバン陶磁器のいくつかのカップと皿のセットは、あまりに繊細なつくりのために朝の陽射しが透けていた。
「他の教授の中には、ヴィラニオンの定理を解明している方が間違いなくおられることでしょう。仮にわたくしどもが、テヴィンターの一介の学者がものした定理すら理解できないのであれば、オーレイ大学をセダス一博識な学び舎と呼ぶことは到底できませんから」

 モラク総長は、それには腹を立てたように見えた。ついに貴族の誇りを丸ごと喪ってしまったのだろう。「申し上げますが、輝けるお方、知識と文化の探究においてオーレイ大学は比類なき存在でございますし、またテヴィンターの学者連中が、メイジ支配者の単なる奴隷の身分であることもその無視できない一因でございます。宗教的な、また政治的な抑圧から解放していただいているからこそ、本職らは陛下から、オーレイの文化をさらに拡充するようお力添えをいただいているのです」

 そう、ときに辛辣な言葉を投げつけるくらいのことは、モラクは宮廷生活の訓練をまだ覚えていた。セリーンは、ついに会話が面白くなってきたことを喜んだ。「では、あなたの学生のおひとりについては? 昨年ヘレーヌ伯爵夫人と乗馬を楽しんでいた折に、彼女が、並はずれた数学の才能がある若者をここに推薦していると聞きました」、彼女は従者からティーカップを手渡されると、一口すすった。「今思い出しましたが、彼こそがヴィラニオンの定理を研究していて、その議論が元でわたくしが詳しく調べるつもりになったのです。確か、若者の名前はレナンでしたでしょうか」

 「ああ、その件で」とモラクが言って、セリーンが話をどこに進めようとしているか気がついた彼の視線は無情なものになった。「その者の入学申請は覚えております。そしてもちろん、私どもの門戸は誰にも広く開かれているとはいえ、貴族の血脈やその正当な推薦をもって、彼らが私どもの威厳ある伝統を間違いなく維持していくことを・・・」
「教えてください、モラク」セリーンは言うと、お茶をすするのを止めた「あなたは数学を研究しているのでしょう。零についてはご存じ?」

 お茶は素晴らしい味わいで、シナモン、ジンジャーとチョウジのリヴァイニ・ブレンドに、セリーンの好みに従ってハチミツで甘みをつけていた。
「存じております、輝けるお方」モラクはしばらく沈黙した後、その質問がただのお愛想ではないことに気がつくと、そう答えた。彼はセリーンの従者が差し出したティーカップを、ほとんど隠しもしない苛立ちとともに受け取った。
「結構。それは、あなたの大学で学ぶ貴族以外の血筋の学生の数です。それについては、少しばかり失望を表明しなければなりません、モラク総長、というのも前回お話をしたときから少しは改善が見られると期待していたものですから」
「輝けるお方・・・」
「お茶をいただいたらいかがですか、モラク。わたくしはあなたの校舎に農奴たちを徘徊させるようにお願いしているのではありませんよ。血筋を越えた知性を有していることを貴族たちが見極め、ここに推薦してきた庶民たちを入学させ、彼らの研究によってオーレイがより強大になる機会を与えるよう、お願いしてきたのです。」
 モラクの拳は手にした皿と同じくらい蒼白になっていた。「あなたがお話になっているその若者は、皇帝陛下、エルフでした」 

 セリーンは彼女のチャンピオン、サー・ミシェル・デ・シェヴィンのほうに向きなおった。彼は帝国の紋章が塗り上げられたシルヴァライト製の鎧を身に着け、威風堂々とした出で立ちであった。彼の家系の紋章は心臓の上の部分に描かれており、彼のマスクはセリーン自身のそれの簡素化されたものである。「サー・ミシェル、シェヴァリエはその鋭い目で名高いと聞きます。この中庭には、これまでひとりのエルフも見かけなかったのではないですか?」

 サー・ミシェルはかすかに微笑んだ。「ものの見方によりますでしょうね、陛下」 彼はチャントリーを、特にその青銅の扉の上にある壁画を指差した。「拙者に間違いがなければ、あの壁画は伝説のヘンリ・デ・ライデスの手による、アンドラステとその門弟たちを描いた作品の忠実な複製です。ヘンリがオリジナルを制作した時分、エルフはまだオーレイを裏切りも攻撃もしていなかったので、同盟相手と考えられておりました。二十年後、ディヴァイン・レナタがエルフに対する聖なる進軍を始めたとき、彼女はまた、チャントリーが所蔵しているエルフが描かれたすべての作品を破壊するようにも命じました」彼は微笑んだ。「しかしヘンリ・デ・ライデスがあまりにも優雅にかつ熱心に嘆願するので、この作品たったひとつだけが破壊を免れたのです。ヘンリが、いまや異端となった門弟シャルタンの耳の部分を削ぎ落とすという条件つきで」

 セリーンは、感謝をこめて首を傾げた。「ああ、そうでした。そして大学はオリジナルを忠実に複製したようですね。どれがシャルタンか指差せますか、モラク? 耳は変えられましたが、その大きな目は見間違えようがありませんもの」

 モラクは壁画を見て、それからセリーンに視線を戻した。「もちろんです、輝けるお方。チャントリーと異なり、大学は正しい歴史を再現することに誇りを持っております。あれこそ、アンドラステが忌わしきテヴィンター帝国の奴隷身分から解放したエルフです」

「とても奇妙なことに、研究範囲を制限しようとする宗教的抑圧と戦うことにそこまで熱心な大学が、この件については、ディヴァイン・レナタ自身と同じだけでも考えを曲げようとしないわけですね」
「確かに謎ですな、陛下」サー・ミシェルが言って、総長モラクを見やった。
 総長はティーカップを長い間すすっていたが、それを皿に戻すと、カップが踊って陶磁器がカチャリと鳴った。「ヘレーヌ伯爵夫人の申請については、もちろん、喜んで再検討させていただきます」
「オーレイは、その文化と学術に対するあなたの貢献を誇りに思います」セリーンは首を傾げると立ち上がった。従者のひとりが小さなシルヴァライト製のベンチを取り上げ、彼女の背後でそれを折りたたみ、セリーンはカップと皿を他の従者に返した。「さて、宗教に関するお話のあとでもありますから、ここのチャントリーが授ける教えを有難く味わう時間を持ちたいと思います。誰にも邪魔されないようにお願いしますよ、モラク総長」それから彼女は微笑むと、和平を持ちかけるために付け加えた。「わたくしの用が済みましたら、そのメイカーのご意思を示すという比率のお話もぜひ伺ってみたいものです」

 教授連はお辞儀をし、セリーンが大きな青銅製の扉に近づけるように、急いで道を開けた。セリーンの従者たちは、サー・ミシェルを除いて誰も付き従わなかった。
「お話の向かう先を予め教えていただいてもよかったのではないでしょうか、陛下」彼はつぶやいた。「シャルタンの異端は、あまり一般的な知識ではございません」
 セリーンは彼のほうを見ずに微笑んだ。「あなたを頼りにしていましたよ、チャンピオン」
「中に同行いたしましょうか?」
「アンドラステのおっぱいの中は十分安全だと思います」セリーンがそういうと、サー・ミシェルは扉を引き開けた。ミシェルが中を覗き込み、部屋を見渡して危険の兆候を探し、彼女のほうに向きなおって頷くと、彼女はひとりで歩き出した。

“The Masked Empire”紹介方法の試行について(前振り)

 下を書いたのは、エイプリル・フール前だったのですが、できもしないウソと思われると困るので、アップを差し控えていました。

 ところが事情が変わって来て、忙しさのあまり、翻訳している暇なんて週末くらいしかないことが判明しました。んー、Diablo3を遊ぶ時間を減らせば、平日にもできなくはないが(笑)。
 果たして下の当初目論見のようにできるかどうか、非常に不安ですが、今週末には、第一章のみ、出来栄えをご覧いただくつもりです。

***

 “The Masked Empire”をどう紹介しようかと考えていたのですが、第一章を読んだ限りでは、”Asunder”紹介で試みた方式を踏襲するのはやはりキツイ。
 「全部ベタ訳」が一番楽とはいえ、禁止が大原則。私ごときの翻訳がまことしやかに出回るのは本当によろしくない。
(翻訳ではありませんが、Google  Booksなどは第三者に勝手な商売をさせないようにページを飛ばしてアップしているんですね。さすがにそれはまずかろう)

 結局、ふたつのパートで構成するしかないかなと思います。

 ひとつめは、章全体のサマリーをごく普通にまとめたもの。残念ながら、すでに紹介したようなセリーンの衣裳やマスクについてのカラフルでしつこいくらいの詳細な描写は省略せざるを得なくなる。

 ふたつめは、その章で最も重要と思われる部分の描写を、できるだけ原文に忠実に日本語にする。
 主として主要登場人物同士の会話のシーンになるでしょうが、比較的無言のシーンでは、話者の心模様だったり、情景描写だったりするかもしれない。

 Asunderでも(成功したかどうかはともかく)この手口は一部試みていて、(お気づきになったかどうかわからないが)章全体については一部省略しつつ、できるだけコンパクトに淡々とまとめたつもり。そして一カ所か二カ所だけ、その章で最も大事と思われる会話部分を、原文に忠実に日本語にする。
 やってみると(特に話者の視点を管理する点で)ものすごくしんどいことがわかったし、最終章あたりになるとほぼ全部が重要なのでこの手が使えない。
 コンパクトでもなんでもなかったじゃないかという批判は甘んじて受けるしかないが、その原因の一部は書き手のゲイダーさんの原文自体がほとんど無駄のない、省略しづらい構成になっているから。
 
 ウィークス氏のThe Masked Empireのほうは、前作”Palace Job”(DAと関係ないオリジナル・ファンタジー)ではそこまで感じなかったが、(少なくとも第一章は)いかにも英文学メジャーらしい、ディテールに凝りまくった絢爛豪華な書きっぷり。(その良し悪しは別にして)逆に省略しやすい反面、これがずっと続くとなると、薄っぺらーい「まとめ」になってしまいそう。

 次の記事で、「第一章」を試しにやってみます。そしてその次の記事で「第一章」に限って、全文をできるだけ忠実に翻訳してみます。その順番が逆だと、(すでに章全体の知識を手に入れた読者が)私のまとめが「とてもヘタクソ」にも係らず、(脳内でダメな部分を補完してしまって)うまくいってるように錯覚してしまうでことしょう。
 「なんだかなー」、「まだるっこしいなあー」、「自分は読むだけなんだからつべこべ言わず全部訳せよ」と思われるかもしれない。こっちだってネットにごく少数のクソがいなければ全文ベタ訳が楽ちんに決まっているんです。つても、私の動機づけは、ヴォランティア7割、自己顕示(ヴァニティ)3割くらいの配分だけどね。

*** 

 第一章を上の方式で試しにやってみて、思いのほかどえらい辛いことに気が付いた。うーん、最後まで続けるつもりなら方針変更が必要かもしれません・・・。

 

 とりあえず冒頭部分だけ(これで第一章のまだ三分の一か四分の一です)。

 これじゃ全く面白くないでしょうね・・・。次の記事にこの部分の全文載せますので、どんだけ違うかお分かりになると思います。

 

(以下、試行段階)

 第一章

 カークウォールのチャントリー爆破事件に端を発したテンプラー・メイジ抗争は、ここオーレイ帝国でも一触即発の様相を呈していた。
 オーレイに冬の到来が迫るある早朝、オーレイ帝国の女帝セリーンは、従者や衛兵など取り巻きたち、そして自らのチャンピオンであるオリージャン・シェヴァリエであるサー・ミシェルを伴ってオーレイ大学を訪れた。

 総長以下教授連が、大学構内で最も背の高い建物であるチャントリー教会の中庭にて彼女を出迎える。大学総長のヘンリ・モラクは、女帝の訪問の意図を内心訝しがっているようだが、女帝は彼が自室に招く暇さえ与えない。代わりにその場に折り畳み式のベンチを用意させ、屋外での謁見を想定していなかった総長の度肝を抜いてみせる。

 総長が申し出たクナリ文化に関する学術論議への誘いを退け、女帝は突然、数学分野の話を持ち出した。テヴィンター帝国の一学者が解明したある数学定理についての説明を求められると、自身も数学者である総長は女帝の意図が読み取れずに困惑し、それが極めて難解で自分には理解困難なものであることを白状する。

 テヴィンターの一介の学者がものした定理を、オーレイ大学の誰一人として理解できないのであれば、ここがセダス大陸随一の学窓であるとの評判は騙りではないのか。女帝から辛辣な皮肉を浴びせられると、総長はオリージャン貴族のはしくれとして身に着けているはずの如才なさをかなぐり捨て、苛立ちを顕わにした。彼は、オーレイ大学の学識の高さは比類ないこと、またテヴィンターの学者はメイジ支配者であるマジスターの奴隷に過ぎないことをあげ、学究の内容について宗教的にも政治的にも掣肘されないのがオーレイ大学の強みであると、潜在的な女帝の介入を暗に批判した。

 会話が盛り上がってきたことに内心喜んだ女帝は、とある伯爵夫人がこの大学に推薦した才能ある若者についての話題に切り替える。大学の門戸は才能ある全ての者に開かれている建前だが、総長は伝統を維持するとの名目で高貴な血筋の申請者のみ入学を許していた。
 女帝は、今度は数字の零についての謎をかける。彼女によれば、これまでこの大学に入学した貴族以外の血筋の人数だ。総長は、くだんの若者が実はエルフであったことを告げる。

 女帝はサー・ミシェルに、周囲にエルフをひとりも見かけないのではないかと問いかけた。彼はチャントリー教会の扉の上に掲げられたアンドラステと門弟たちの壁画を指差して、描かれているひとりが実はエルフのシャルタンであることを指摘する。シャルタンは、アンドラステがテヴィンターの奴隷制度からエルフを解放して以来、彼女に付き従った最初期の門弟であった。のちにヒューマンとエルフとの間で紛争が勃発したとき、ときのディヴァイン・レナタはエルフ討伐のための「聖なる進軍」を発動するとともに、シャルタンを異端化し、チャントリーの所有する作品のうちエルフの描かれたあらゆるものを破壊するよう命じた。

 ここのチャントリーの扉の上に掲げられた壁画は複製であったが、そのオリジナルの作者がディヴァインに熱心に懇願したことにより、シャルタンのエルフに特徴的な耳の部分を削る条件つきで、その作品は唯一破壊を免れた。
 女帝は、サー・ミシェルの説明に礼を告げ、ディヴァインですら妥協した逸話があるにもかかわらず、総長モラクは微塵も譲る気持ちがないのかと問うた。総長は若者の入学申請を見直すように約束した。

 総長との用件を終えた女帝は、しばしアンドラステに祈りを捧げる旨一同に告げ、総長にはその間の人払いを命じ、サー・ミシェルすら同行を許さずにひとりチャントリーの中に入った。

 

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