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2013年11月 5日 (火)

【DAI】Dragon Age Asunder (19‐2)

 咳き込んだリースの全身は激痛に見舞われた。口の中に吹き出してくる血はおぞましい銅の味がして吐き気をもたらす。独居房の石の床に何度か吐き出してみても胃が痛くなるだけなので、彼は咳き込みが治まるまで目を閉じてしばらく待つことにした。 

 意識を喪う直前の朦朧とした瞬間、誰かに殴られたことだけは覚えている。でかい鼻をしたテンプラーの男で、アダマント要塞でリースたちを待ち構えていた中にもいた奴だ。彼は、当然の仕打ちだと思い知れ、メイジどもめ、と言いながらリースを殴った。胃の中に冷たい剣先が突き刺さったことも、まるで昨日のことのように覚えている。
 それですら大したことではない。 

 いくらでもそうする口実があるのに、なぜ彼らはリースを殺さないのか。叛逆者と呼ばれても仕方なく、彼の死がメイジたちの怒りを呼ぶわけでもあるまい。大講堂の激戦の後、ホワイト・スパイアは公然と叛旗を翻したのか、あるいは完全に閉鎖されてしまったのか。他のサークルがその報を受けたときの反応は想像するしかないが、テンプラーはてんてこ舞いに違いない。  

 自分の頸が刎ねられた途端、ファラモンドの業績は永久に喪われてしまう。それが理由か。テンプラーがリースだけが知っていると考えているその情報を欲しているのだとしたら、さぞ失望するだろう。トランクィリティの治癒に関するエルフの理論は聞いたが、それ以上話を聴く時間はなかったのだ。 

 ファラモンドのことを考えると心が痛む。彼がトランクィリティの恐るべき忘却から復帰したのも、再び同じ刑を受ける直前に殺されてしまうためだけだったのだ。
 コールが殺したのではない。ロード・シーカーが見つけたダガーは彼のものではなかった。テンプラーがファラモンドを処刑して、その罪をリースに擦り付けたに違いない。 

 少し前に眼を醒ましたとき、コールに見詰められていた記憶がある。傷の痛みでうなされていたときの夢だと思っていたし、他にもエヴァンジェリン、ウィン、それにエイドリアンの姿すら現れて、彼を憐れむなり詰るなりしていた。とはいえ、実際にここに現れるとしたらコールだろう。

 ここから必ず連れ出すと約束する。彼が本当にそう言ったかどうかまるで自信はなかったが、それが事実ではないことを願った。エヴァンジェリンやウィンと同様、コールもこれ以上危険な目にあわせたくない。来るべき事態に呑み込まれることのないように、ヴァル・ロヨーからできるだけ遠くに逃げ出していて欲しい。

 ここで起きる叛乱はカークウォールのそれとはきっと比べ物にならない。リースは何人かのファースト・エンチャンターが殺められるのを目撃したが、他の者たちの安否すら、もはや頓着する意味がなくなったのかもしれない。

 扉の錠前が開けられる音を聞いたリースは、苦痛をこらえて何とか起き上がった。大きな音とともに金属の扉が開くと牢の内が急に明るくなり、リースは眼の痛みをやり過ごすため瞼を閉じた。
 ついに自分も処刑されるのか。

 ふたりきりにするよう命じる声がして、ひとりの足音が立ち去りがけに扉を締め直す音がした。目を開けたリースは残像を消し去るため何度か瞬き、目の前の姿に焦点を結ぼうとした。照明石の淡く青い灯りが照らす鎧から、男がロード・シーカーであることがわかった。 

 男は軽蔑の眼差しでリースを見下ろしていた。リースが目覚めていたのは都合がよいと告げると、照明石を壁に掛け、彼自身が持ち込んできたに違いない椅子に腰かけた。それまで完全な闇の中であったので、最初からそこにあった椅子にリースが気が付かなかっただけかもしれない。

 食事ではなくて残念だと減らず口を叩くリースの言葉を無視し、ロード・シーカーはしばらく振りに二人きりで話す時分だろうと言った。吹き出してしまったリースは、咳き込んでまた血を吐いた。彼は、話し合いなどではなく処刑のほうがずっと楽だし、自分だけ他の者と違う扱いをされることに納得がいかないと言い返した。 

 ロード・シーカーは辛抱強く微笑んでいるが、目はまったく笑っていない。彼は、誰の処刑も執行されないこと、大講堂で殺されなかった者たちは、他の多くの者たちと一緒にここの牢に投獄されていることを告げた。そして、ここのダンジョンがこれだけ混み合っているのはおそらく何世紀ぶりのことだと付け加えた。 

 他の者たちも処刑されないのかとリースが尋ねると、男は椅子の背もたれに身を預けて腕組みし、リースを鋭く見つめてこう告げた。他の者たちの命運はひとえにリースにかかっている。 

 ロード・シーカーはリースに懺悔を求めた。リースはファラモンドを殺害したのが自分ではないことは承知しているはずだ、と言い返した。
 ロード・シーカーは失望したように眉をあげると、見えない男コールが他のメイジたち同様にファラモンドを殺したという話を繰り返すのかと言った。

 リースの背筋に冷たいものが走った。他の者たち同様にテンプラーたちもコールについての記憶を喪っていることを期待していたのだ。だがエヴァンジェリンもコールのことを覚えていたように、そうはならなかったようだ。少なくともあの見つかったダガーを使ってファラモンドを殺したのはコールではない、と彼は答えた。 

 確証があるのか、と詰め寄るロード・シーカーが顔を近づけてきたので、のけぞったリースは寝床に仰向けに横たわった。だがリースは、その突き刺すような灰色の眼に懸念が潜んでいるのを見て取った。それがリースに対するものか他の何かに関するものかはわからないが、この男に何等かの慈悲の心があると考えること自体笑止であるに違いない。 

 コールの正体について問われたリースは、このタワーに連行された後で行方不明となったメイジであろうと答えた。ロード・シーカーが、その場合コールの能力についての記録がない理由はブラッド・マジック以外にありえないと告げると、リースはコールがブラッド・メイジではないと反論した。 

 初めてコールと出会った時期を問われたリースが答えないでいると、ロード・シーカーが椅子から立ち上がって、狭い牢の中を歩き回りながらこう告げた。
 リースがコールと出会ったのはこのタワーの中に違いない。はじめは他の誰も気が付かない見知らぬ者の姿をちらりと見かけただけだった。ところがリースは彼と話がしたくて、それから彼の姿を追い求めはじめたのだろう。 

 コールを見たのは自分だけではなく、エヴァンジェリンもその一人だとリースが言い返すが、ロード・シーカーはそれはフェイドの中での話であると切り捨てる。彼は、コールがリースたちを追いかけてきたという考えにも疑問を呈した。途中一度もリースに気づかれず、馬上の者たちから引き離されることもなく、帝国のおよそ半分を追跡できることなど可能であるとは考えられない。
 重要なのは、最初にコールを見かけたのが、リースが彼の姿を追い求めていたときだということだ。 

 歩みをとめたロード・シーカーはリースに疑惑の眼を向けた。そして、リースほどの賢い男がそれらの事柄をより良く説明できる別の理由に気づかないはずがない、と言った。
 リースは、コールはディーモンではないと言い返したが、その言葉にすでに確信は持てなくなっていた。その考えは今まで何度も拒絶してきたのだ。コールと話をしているとき、リースの直感はこの若者が現実の存在であり、救いを求める見捨てられた魂であると告げていた。彼もリースと同様ひとりの人間のはずだ。だが今、彼の心の中では疑いが頭をもたげはじめていた。 

 待て! この男は自分を嵌めようとしているんだ!

 これはもうひとつまた別の罠だ。相手は自分の役に立つ懺悔をさせたいだけなのだ。

 記憶を新たにしてもらおう、と告げたロード・シーカーは、椅子の後ろに立って一冊の書籍を床から取り上げた。それはリース自身がスピリッツの研究を書き記したうちの一冊だった。中断を命じられて以降、その研究に思いを巡らしたこともなかったリースは不意を突かれたが、それ以上に驚きだったのはロード・シーカーがそれを書庫の奥からわざわざ発見してきたことだった。

 照明石のそばに近づいた男は、自分の探していた一節をみつけると声をあげて読み始めた。

 ディーモンはヴェイルを通過する際にしばしば混乱に陥る。こちらの世界では自分たちの支配が及ばず、接点もないからだ。彼らは接点を探し求め、見て触れることのできる何らかのものに憑依する。それから自分たちが後にしてきた世界、不変の現実からではなく概念と感情からなる世界で享受していたものと同様の安息を得ようとする。自分たちを命ある者たちの世界に組み込もうとする。彼らが発狂する理由はそれに他ならない。

 男は音をたてて書籍を閉じ、沈黙したまま疑惑の眼をリースに向けた。落ち着かない気分になったリースは、コールは混乱したスピリットだというつもりかと相手に尋ねかけたが、ロード・シーカーはそれを遮り、尋問を再開した。 

 殺害事件が発生し始めたのは、リースがコールと出会った後であるのはなぜか。コールが長い間タワーの中を彷徨っていたのなら、なぜそれ以前に誰かを殺害しなかったのか。

 コールは、殺害の動機を自分が消え去らないようにするためだと言っていた。それはこの世界との接点を維持するためであり、他者を殺害することで接触が強固になるという意味にとれるのではないか。

 ロード・シーカーは顎を撫でまわしていた。恫喝や譴責を受けることは十分覚悟していたリースにとって、この尋問は予想外のことであり、彼の不安をますます募らせた。 

 ロード・シーカーは言葉を続けた。

 ブラッド・マジックとは生命エナジーの操作であり、生命エナジーはマナのもっとも強力な供給源である。それが故にメイジが利用することを禁じられている唯一の供給源だ。たとえ一時的であっても、スピリットがこの世界との接点を維持するために生命エナジーを利用するのは有効なのではないのか。

 リースはゆっくりと頷いた。ロード・シーカーはさらに続けた。 

 だがブラッド・マジックを用いることができるのはメイジのみである。このコールなる者は、とある不幸なメイジの身体を利用しているアボミネーションであるのか、あるいは他者の精神に影響を与える能力のみを有している肉体を持たないスピリットが、我々の世界との接点を必死に維持しようとしているのか、そのいずれかではないのか。

 ロード・シーカーは両手を広げると、こう告げた。
 問題は、我々が対峙しているのは一体そのどちらであるかだ。 

 どちらかでもない場合もあるのではないか、とリースが尋ねた。もう一度起き上がる際に胸に刺すような痛みが走る。仮にコールがどんな存在であれ、自分が求められている懺悔とは関係もないし、コールがスピリットであるなら自分が殺害犯人として告発されるはずがないのではないか、と抗弁した。

 ロード・シーカーはそれがまるで優れた問いであるかのように頷くと、こう告げた。

 リースは情け深い男であり、他者を救おうと心掛けているから人望が厚い。悲惨な身の上の若者に出会ったならさぞ心を痛めるであろう。
 自分だけがその若者を救うことができる。どんな誤解を生むかもしれないので誰にも伝えられないし、誰にも若者の姿が見えない。どうして自分だけが彼と出会えたのかは不明だが、偶然のなせるわざかもしれない。自分でも気が付いていない自分の才能なのかもしれない。 

 気味が悪いほど耳慣れた言い方に触れ、リースは押し黙った。ロード・シーカーは続けた。 

 この憐れな若者をどうすれば救えるのか。ブラッド・マジックなら可能だし、それができるのは自分だけだ。牢獄の中で死にたくて仕方のないメイジを探し出し、慈悲を与えるという名目でその生命エナジーを吸い出して・・・。

 自分はやっていない、とリースが叫んだが、ロード・シーカーは、さもありなん、と言いたげな目で見つめて話し続けた。  

 ロード・シーカーはあらゆる記録を調査した。それにはすべてのアポステイトに関するありとあらゆる記録が含まれているが、コールという名前も、容貌が似ている男の子についても記録は一切見つからなかった。この若者には記録を消す能力が備わっていると考えるのも自由だが、コールなる者は最初から存在していなかったと考えるべきではないのか。

 話に我慢のできなくなったリースは、相手から目を背けるため身体をひねった。 心臓が脈打ち、大声で相手が間違っていると叫び出したかった。だが今やリースの頭の中には疑惑が渦巻いている。
 コールが彼自身に関する他者の記憶を消去できるなら、他のことに関する記憶もそうできるのではないか。リース自身が彼に協力することを合意した記憶も消去されてしまったのではないか。たった一晩だけのつもりでコールをこちらの世界に呼び込み、その記憶自体を消されてしまったのではないのか。

 ロード・シーカーがリースに飛びかかりざまその喉元を掴む。鋼鉄の小手で強く締め付けられたリースの顔は相手を見つめるように仕向けられた。男の灰色の眼から忍耐の色は消えうせている。 

 「懺悔せよ」 

 彼は強要した。

「ファースト・エンチャンターたちにディーモンの影響を受けていたと告げよ。エルフも、他の者たちもその手に掛け、意図せずディーモンの力を増大させ、タワー中のメイジを煽動させたことを告白せよ」
「嫌だと言ったら?」 

 リースは喰いしばった歯の間から絞り出すように言った。

「貴様は死ぬ」 

 男は手を離すと再び退いた。床に崩れ落ちたリースは咳き込み、息を詰まらせ、その胸の痛みはほとんど耐え難いものになっていた。

「ファースト・エンチャンターたちは処刑され、ここに投獄されているエンチャンター・エイドリアンも他のメイジたちも同じ目に合う。我々は叛乱を見過ごすことはできず、それに対処するためなら手段を問わない」

 リースは笑い出した。痛々しくあえぎながらも弱々しい笑いをやめることができなかった。口の中にはさらに血が溜まり、それを吐き出しながら彼は笑い続けた。見つめるロード・シーカーの不審気な顔が徐々に怒りの表情に変わっていった。

「危うく口車に乗るところだった」 

 にやりと笑ったリースは体を返し、重労働のためひどい汗をかきながらようやく身体を持ち上げた。ロード・シーカーは無表情で彼の苦行を眺めている。
 その顔から笑いがゆっくりと消えていったリースは、ロード・シーカーを真剣に見つめながら口元の血をぬぐった。

「コールがあなたの言うような存在であっても」と彼は言った。
「彼はそのことに気づいていないだろう。タワー全体のメイジを操ってなんていないに決まっている。罪を擦り付けるなら他所を当たった方がいい」

「貴様が皆を殺害したのに違いないのだ」
「それともあなたが嵌めようとしたか。ちょうど今やっているようにね」

 リースは愉しそうに微笑んだ。

「そのどっちなのか、最後まで謎だけどね」

 ロード・シーカーは言葉に詰まった様子でリースを探るように見ており、リースは自分の今の言葉を撤回すべきかどうか悩んだ。実際に自分が殺害犯人で、コールがディーモンだったらどうなのか。自分はどの道死ぬが、告白すれば少なくとも他の者たちの命は救えるのだ。 

 救えるといっても、皆トランクィリティにされてしまうのではないか。メイジたちに嘘を告げれば、彼らはテンプラーが信じさせようと望むあらゆる種類の嘘も受け入れてしまうことになる。リースの心の奥底ではコールが見た通りの存在であることを信じており、ロード・シーカーについても見た通りであることは同じなのだ。彼は、サークル・オヴ・メジャイが自分の目の前で音を立てて崩壊することを必死に食い止めるため、藁にもすがろうとしているひとりの男に過ぎない。 

 好きにするがよい、とロード・シーカーが言った。彼は照明石を取り上げ牢から出ていった。扉が閉まると、リースは再び暗闇の中に取り残された。 

 メイカー、我に力を。

 彼は祈った。

 皆が自分を助けに来ようとしませんように。自分の身を守るため逃げ出しますように。

 目を閉じると、突然極度の疲労に見舞われ身体が震えはじめた。

 コールのことも救いたまえ。彼がどこにいて、正体が何であっても、善かれと思ってやっているだけなのだ。

 そう信じている。

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