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2013年11月16日 (土)

【DAI】Dragon Age Asunder (21‐2)

 リースもコールも、ふたりとも身動きしなかった。
 「なるほど」ロード・シーカーがほくそ笑んだ。「不可視とは、興味深いトリックであることは認めよう。もちろん、どんなトリックもタネが明かされてしまえば価値はない」彼は小瓶をしまうと小さな本を取り出した。それは彼の掌ほどの大きさで、輝く金で装丁された奇妙な代物だった。男はそれを開くと声をあげて読み始めた。古代テヴィンターの言葉で、実際にはほとんど詠唱に近い。相手が何を狙っているのかリースには見当がつかなかった。

 何かが変わり始めた。魔法のちりちりとした疼きが彼の首元あたりを刺激する。それが通路を風のように通り過ぎ、二人の姿を隠していた覆いを剥ぎ取っていった。コールが息を呑んだ。
 その音を聴きつけたロード・シーカーが即座に振り返る。ふたりを視野に捉えた灰色の瞳が狭まり、彼は冷たく笑った。「思った通りだ」彼は言った。「お前がコールだな」彼は本を放り投げると、剣を振り上げて突進した。

 コールは跳ね起きるとダガーを手にした。音も立てずロード・シーカーのほうに走り出す。彼を掴もうとしたリースが警告の叫びをあげる。「やめろ! バカはよせ! 逃げるんだ!」
 だがコールは止まらず、代わりにリースは堤防の端から転げ落ちてしまった。水中に落ちた彼の頭の中に血が充満して眩暈をもたらす。マナを召喚するため、心の奥底に残っているかもしれないパワーを必死に手繰り寄せようとするが、激しい頭痛のため引き戻されてしまう。彼は悲鳴を上げた。

 コールはロード・シーカーの最初の一振りを低く屈んでかわすとダガーを突き出した。だがそれは男の黒い鎧にあたって敢え無く弾き返される。リースの眼からはとても常人技とは思えない速さでシーカーが即座に体を回し、コールを蹴り飛ばす。金属のブーツで蹴られ、若者は苦痛のうめき声をあげながら下水の中に落下する。
 コールは長く倒れてはいなかった。彼は流れるような動きで飛び起きると、低く屈んで戦いの姿勢をとった。ふたりは円を描く用に間合いを保って動き、ロード・シーカーは相手の技倆を注意深く見極めている。

 「リースを傷つけさせはしない」とコールが唸る。ロード・シーカーに突進して、ヘビのような速さで打ちかかる。シーカーが振り下ろした剣をコールがぎりぎりのところで飛び退き、剣は空しく水を切る。すかさずコールが跳び上がり男の首元に斬りつける。ダガーは相手を捉え、ロード・シーカーが身体を捻って受け流さなかったなら、傷を負うだけでは済まなかっただろう。

 それで男は激高したようだ。彼は小手で首元を探り、それから小手に付着した自分の血を検分した。「素早いな」彼は言った。「それは認めよう」彼がコールに突きつけた剣先は、左右に位置を変える若者を追っていき、それから彼は突進した。ロード・シーカーの剣の振りは素早く、次々と繰り出してくるため、コールはすんでのところでかわすことしかできない。後ずさりを余儀なくされた若者が土手まで追い込まれたとき、ロード・シーカーはとどめを繰り出してきた。

 「コール!」リースが叫んだ。
 コールは相手の剣先を跳ね除けようとしたが、代わりにダガーを弾き飛ばされてしまった。地面に落ちたダガーをロード・シーカーが水中に蹴り込んだ。コールがそれを追って跳びつこうとしたとき、シーカーは剣の柄を素早く振ってコールの頭を打ちのめした。若者は弾き飛ばされ、通路の壁に打ち付けられた。

 コールが起き上がる前に、ロード・シーカーがコールの一方の肩を剣で貫く。剣は深く突き刺さり、痛みのためコールは悲鳴をあげた。
 シーカーが剣を抜くと、コールは獰猛な野獣のような唸り声をあげ、相手に跳びかかった。ロード・シーカーは不意を突かれた。コールは相手にのしかかるとその顔を掻きむしり、噛みついた。男はふらつき剣を取り落としたが、混乱から立ち直るのにそう長くはかからなかった。彼はコールの髪を掴んでぼろ人形のように投げ飛ばした。コールは大きな水飛沫をあげて水中に落ちたが、即座に立ち直った。だがそれさえも予期していたロード・シーカーがコールの腹部を蹴り上げた。それが強烈な一撃だったので、コールは数フィートも弾き飛ばされて再び水の中に落ちた。立ち上がろうとしたコールをロード・シーカーがまた蹴り上げた。弾き飛ばされるコールの口から鮮血がほとばしる。

 「やめろ!」リースが叫んだ。「コール! 逃げろ!」彼はロード・シーカーがダガーを蹴り込んだあたりの汚水の中を這いまわっていた。この近くのどこかにあるはずだ!ねばつく泥の中を探る彼の両手は震えていた。

 ロード・シーカーはコールのほうにずかずかと近づくと、髪を掴んで引き摺りあげた。もはやコールにはそれに抗うだけの力しか残されていなかった。シーカーは拳を固めるとコールの顔を殴った。コールは倒れたが、また立ち上がろうとした。ロード・シーカーは再びコールの髪を掴んで引き摺りあげると同じように折檻を繰り返した。二度、三度。最後の一撃でコールの鼻孔から血がシャワーのように噴き出した。コールは倒れ伏したまま、水の中を堤防の方に向かってのろのろと這い寄っていた。

 リースはダガーを見つけた。その柄を握り、彼は震えながら立ち上がった。世の中全部が彼の周りでゆらゆら揺れている。彼は突進するつもりだったが、ロード・シーカーのほうへただよろよろと近づいていくことしかできなかった。「彼に、手を、出すな!」彼は叫んだ。

 ロード・シーカーは振り向いて彼の手首を握り締め、ダガーを取り落すまで締め付けた。それから侮辱の意味を込めて、手の甲でリースの顔を叩いた。一撃でよろめいたリースは壁に打ち付けられ、汚物の塊の中に倒れ込んだ。彼の腹が刺すような痛みに見舞われ、床を転げ回って身もだえしたが、悲鳴はただの喘ぎにしかならなかった。

 苛立たしそうに溜息をついたロード・シーカーは、自分の剣のところまで歩いて行ってそれを手にした。そこで立ち止まると、彼はコールが再び起き上がっている姿を見つめた。若者の顔は血まみれで、片方の瞼が塞がっており、足元はふらふらしていたが、まだ戦う構えであった。シーカーは感銘を受けたようだった。「獲物を逃さないため、そこまで必死になるのか、ディーモン? フェイドに逃げ帰って、二度と現れないのが賢明だと思わんのか」
 コールが黒い血を吐き出した。「僕は・・・、違う・・・」

 「ディーモンじゃない? バカを言うな」ロード・シーカーは周囲を見回すと、先ほど自分が放り投げた本を見つけた。それを取り上げてコールのほうに示す。「『リタニー・オヴ・エイドララ』(The Litany of Adralla、『エイドララの連祷』)だ。これが何かわかるか?」
 コールは彼を睨み付けたまま何も言わなかった。
 「もちろん知らんだろうな」男は続けた。「ディーモンが人の心に与える影響を消散させるため、テヴィンターのとあるマジスターの手によって造り出されたものだ。それ以外に使い途はない」

 リースは絶望した。彼はコールから怒りが消えていく様子を見つめていた。彼はシーカーを困惑した様子で見つめている。

 「憐れで、愚かなスピリットよ」とロード・シーカーが言った。彼は本をしまうとコールの方に歩み寄った。若者は退こうとしたが、相手から眼を離すことができず、口をあんぐりと開いていた。「あまりに必死に人間の仲間だという振りをして、現実の存在の振りをして、自分が何者だったかまで忘れてしまったのではないか?」

 彼は乱暴に手を伸ばすとコールの首を掴んで、その身体を地面から浮き上がらせた。コールは喉をつまらせ、弱々しく揺れているだけで何もできなかった。「貴様は現実ではない」とロード・シーカーが言った。その口調は痛烈だった。「我々の世界に潜り込んで、自分たちが持つことのできないものを何でも呑み込む寄生虫の類に過ぎない」
 「彼を離せ!」リースが叫んだ。「お前には関係ない!」

 ロード・シーカーは心底仰天したような様子でリースに振り向いた。「この化け物は、たとえその価値がなかろうとも私が守ると誓った者たちを食い物にするのだ。貴様を騙し、貴様を殺害犯にし、そのうち貴様を宿主として利用するかもしれなかったのだ。なぜ擁護する?」
「お前は彼のことを誤解している」リースは気を強く持ち、ゆっくりと立ち上がった。「全てのスピリットが同じじゃない。全てのメイジが同じじゃないように。憑依された者全てがアボミネーションではない。全ての魔法が同じじゃない」彼はマナを召喚するため心の奥底を探った。苦痛は耐えがたいもので、目もくらみそうなほどだったが、むき出しの意志の力だけでそれに耐えた。白い焔が彼の両の拳の周りに現れ、魔法のために空気がぱちぱちと鳴った。

 それがロード・シーカーの注意を引いた。リースには彼が値踏みしている様子がその眼から読み取れた。はったりか? どれだけのパワーが残っている? 彼はコールから手を離して、地面に倒れ伏すままにし、剣先をリースに向けて警告した。「愚かな真似はよせ」

 リースはひるまなかった。「愚か者とは、知りもできないことを知ろうとする者。愚か者とは、自分が知りうることに限りがあると認めない者。僕は違う」

 コールはロード・シーカーの傍から逃げ出そうとしていたが、立ち止まった。彼がリースの方を見てふたりの視線が交わり、リースは彼が泣いているのを見た。それは否定でも、拒絶でも、憤怒でもなかった。そこにあるのは開悟(かいご)だった。コールの世界は彼の周りで崩壊し始めており、彼がいつも恐れていたことがとうとう現実になったのだ。彼は現実ではなかった。

 そしてその通りにコールの姿が消えていった。

 その瞬間、リースは真実を知った。彼の心の一部、ずっと奥深いところでは、とうの昔に気がついていたことだった。
 まるで彼自身の足元にぽっかりと穴が開いて、戦うための力がそこに全部吸い込まれて行ったような気がした。マナは霧散し、白い焔も消え、彼は両膝をついた。奴に殺されてしまえばいい。彼は思った。もう終わりにしよう、今ここで。

 「失望したぞ」リースのほうに歩み寄ってくるロード・シーカーの口元が不快そうに結ばれている。「もう少し戦う気概があると思ったが、エンチャンター。実のところこの叛乱は以前から予想していたのだが、正直に言えばかなり対処の難しいものになると考えていた」

 リースはようやく眼をあげた。「僕を斬り捨てればいい」彼は言った。「だがそれで他の者たちを止めることはできない」
 
 「他の者たちの番も巡ってくる。秩序は回復される。必要とあらばメイジひとりづつ順番にでも」
 「残念だけどそれにはもう手遅れよ、マイ・ロード・シーカー」闇の中から別の声がした。エヴァンジェリンだった。薄暗い光の中に姿を現した彼女が、今まで戦いを潜り抜けてきたことは明らかだ。鎧には血の筋がいくつも塗りたくられており、容赦ない厳しさを湛えた眼つきはかつての同僚たちとの殺し合いを余儀なくされた女性のものだ。だが剣を構えて彼女が歩を進める様子は、それも覚悟の上であることを示していた。

 「サー・エヴァンジェリン」ロード・シーカーは驚いたようだった。リースを無視した彼は彼女の方に顔を向け、自分の剣を注意深く構えた。「そうできるうちに逃げ出せば良かったものを。貴様は騎士団の名に泥を塗り、家名に泥を塗り、メイカーそのお方の名誉まで汚したのだ」

 ふたりとも相手から眼を離さず、水の中をゆっくりと円を描くように動いている。「他は好きに言ってもいいけれど」彼女が言った。「家族については違うわ。父は私の行いを誇りに思ったことでしょう。彼はいつもこう言っていた。専制とは導く資格を喪った者たちの最後のよすが」
 「たわけた教えだ」
 「エヴァンジェリン」リースはかすれ声で言った。身体中の力が抜けたような気がして、立っているのがやっとだった。「コール、彼は・・・」

 彼女はロード・シーカーから眼を逸らさない。「聴いていたわ。だからと言って何も変わらない」そう告げると彼女は突進した。剣士二人が激突し、二振りの剣が交わる。戦いの舞踏が繰り広げられ、腕の立つ剣士同志の間に情けも容赦もなかった。リースはただ見守るしかない。魔法を呼び起こそうとしても、そのたびに気が遠くなってしまった。

 他の者たちが近づいてくる。遠くの方から、彼らの声と彼らが走るときに立てる水音の反響が聴こえる。メイジたちか、それともテンプラーたちか。踏ん張るんだ、エヴァンジェリン。

 彼女は果敢に戦った。リースの眼から見て幾度かエヴァンジェリンがロード・シーカーより優位に立つ場面もあった。だがその度ごとに男は彼女の剣を弾き返すか、身を交わすかして辛うじて難を逃れた。
 彼女は徐々に押され気味になっていった。エヴァンジェリンは防戦を強いられ、後ずさりしながら相手の剣を弾き返すしかなくなっていた。ロード・シーカーは勝機を見て取った。彼は彼女の剣を激しく打ち据えはじめ、その力が一撃ごとに強くなっていくので、彼女は剣を取り落さないように必死に耐えるしかなかった。

 ついに人々の姿が現れ始めた。メイジたちだった。ウィンが先頭にたち、その杖は明るく輝いていて、少なくとも一ダースほどの他のメイジたちが彼女に付き従っていた。ロード・シーカーを阻止するため、水を掻き分け駆けつけてくる。

 だが手遅れだった。

 たった一度注意を逸らしただけで、ロード・シーカーが必殺の剣を繰り出すには十分だった。彼の痛烈な一撃がエヴァンジェリンの剣をその手から弾き飛ばした。剣は激しく回転して、リースの居場所から一フィートも離れていないところに落ちて水飛沫と大きな音を立てた。男は彼女が反応するより早く突進し、鎧の胸当て越しに剣で相手を突き刺した。

 「エヴァンジェリン!」リースが叫んだ。彼は彼女のほうに両手を差し出し、自らの無力を呪い・・・、そしてしばらくの間、周りのすべてが動きを止めた。リースの眼には自分を見つめるエヴァンジェリンの瞳しか見えなかった。そこには苦痛が、掴み切れなかったものへの喪失感があり、彼はそれらを彼女と同じくらい強烈に感じていた。エヴァンジェリンの唇が、ごめんなさい、と動き、その後から血が噴き出してきた。彼女の身体がロード・シーカーの剣から滑り落ち、音もなく水の中に沈んていく様子を、リースは信じられない思いで見つめていた。

 突進してきたメイジたちが足を止めた。歩み寄ってきたウィンが最初にエヴァンジェリンの亡骸を見つけ、次にリースを、最後にロード・シーカーを、厳しい表情で見た。「あなたの騎士団は負けた」彼女は彼に告げた。「あなたは敗北した」

 彼は何も言葉を発しなかった。緊張した様子で身構えながら、自分の立場を計算していた。傷を負って身を守る呪文も満足に打てないひとりのメイジ相手。ダガー一本だけで武装したひとりの若者相手。倒すのになんの問題もない。ひとりの腕の立つテンプラー相手ですら、彼は容易に凌駕することができた。だが怒れる一ダースのメイジたちが相手となると、話は全く違う。

 「だが貴様たちは何も手に入れることはできない」とうとう彼は告げた。「ここでしでかしたどんなことからも、その罪を逃れることなど許されない。我々は貴様たちを追跡し、また牢に放り込んでやる。そう誓う」
 ウィンが眼を細めた。「受けて立つわ」

 ロード・シーカーは退いた。近づくメイジは容赦なく斬るというように剣を構え、それから振り向くと闇の中に消えていった。メイジたちが杖に炎を纏わせて即座に追跡する。間もなくみなその場から立ち去ると、彼らの呪文の音さえも隧道の中に消えていき、ウィンだけがこの場に残った。老婦人は悲しげに首を振っていた。

 リースはそれにも気づかず、苦痛と衰弱に耐えながら水の中を這いずってエヴァンジェリンのほうに近づいて行った。彼は自分が涙を流していることにようやく気がついた。心の中では大声で悲鳴を上げていた。こんなバカなことがあってたまるか。こんなことが許されるのか。エヴァンジェリンはロード・シーカーが自分を殺すに任せればよかった、彼を制止して代わりにこんな目に合うことはなかったのだ。

 彼が彼女の亡骸に辿り着くと、水の中から引きあげた。彼はありったけの力を絞り出した。それから彼女を両手で包み込むと、血まみれの顔から濡れた髪の束を除けていた。彼女の死に顔はほとんど安らかなものだと言ってよく、その瞳はどこか遠くを見つめていた。「うそだ・・・、うそだ、うそだ、うそだ」彼は何度もそう繰り返し、とめどもなく湧き出てくる嘆きを抑える気持ちさえ今はなかった。

 彼女を死なせたくはなかった。彼女を取り戻したかった。リースは自分の心の中に残ったほんの少しのマナを探した。その苦痛で身体が震え、しかも見つけたのは惨めなほど少しだけだったが、それでも彼はエヴァンジェリンの亡骸にそれを降り注いだ。肌を治療の呪文で縫い合わせ、傷口を治癒の呪文で元に戻したが、なんの意味もなかった。彼女は蒼白で生気を喪ったままだった。

 手が彼の肩に優しく触れた。「リース」ウィンの声は憐憫のため痛々しかった。「もう手遅れよ。あなたには・・・」
 彼は首を振り、悲嘆のあまり支離滅裂なことを口走る。「彼女は最高の騎士だった。彼女がこんな目に合うなんておかしい。メイカーが僕の元からこんな風に彼女を取り上げるなんてできないはずだ・・・」彼はエヴァンジェリンの胸に自分の頭をあずけて泣きながら、自分にも死が訪れるように無言で祈った。コールを喪い、エヴァンジェリンを喪い、何もかもを喪った。彼はただ助けたかっただけなのに、皆を破滅に導いてしまった。

 ウィンは彼の髪を撫でていた。それは愛情のこもった仕草で・・・、そして彼が見上げるとウィンの眼に同情の涙が浮かんでいるのを見た。彼はずっと昔に出会った女性を思い出していた。ホワイト・スパイアを訪れたブライトとの戦いの英雄は、暖かい微笑みと広い心を持ち合わせた、彼が誇りを持って母と呼べる人だった。

 「任せて・・・」
 「あなたにも無理だ、彼女は・・・」
 「しーっ」ウィンは彼の唇に指を立てて黙らせた。それから彼女は彼の両頬を両手で愛おしそうに包んだが、その目には悲嘆と痛恨の念が浮かんでいた。「何年も昔に死ぬべきだった私のことを、あのスピリットが今まで生かし続けてきた理由がずっとわからなかった。今ようやくわかったの」

 ウィンはエヴァンジェリンに注意を向けた。彼女は両手を亡骸の上に置くと眼を閉じた。パワーがほとばしり出てくる。リースはそれをどう表現して良いかわからなかった。それはウィンの身体から湧き上がると、暖かい光で下水道の内部を充たした。リースは彼女の身体から何かが浮き上がり、それがエヴァンジェリンの亡骸に吸い込まれていく様を度肝を抜かれながら見守った。それは暗くも惨くもなかった。それは命だった。それは生の閃光だった。

 はじめは何も起きないかのように思われた。だがやがてエヴァンジェリンの頬に赤みが差してくるのを彼は見た。突然彼女が大きく喘ぐように息を吸い込んだ。両目を見開いた彼女は恐慌に見舞われて激しく動揺していた。リースは彼女が水の中に落ちないようにしっかり抑え付けていなければなかった。
 ふたりの眼が合った。それは彼女だった。彼女は生きかえった。

 リースはその本当の意味に気がついた。ウィンのほうを見やった彼は・・・、彼女が微笑んでいるのを見た。それは別離の微笑みだった。それから彼女は倒れ、今度こそ永遠の眠りに就いた。

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