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2013年11月13日 (水)

【DAI】Dragon Age Asunder (20‐2)

 コールの両足は痙攣しそうになっていた。彼はダンジョンの入口からそう遠くない闇の中に長い間隠れていた。

 見知らぬ連れと一緒でなければ隠れる必要すらなかったのだが、彼は老婦人がシスター・レリアナと呼ぶ短い赤毛の女性と同行していた。赤銅色のチェインメイルを身に纏い、太ももまで覆う黒い革製のブーツを履き、肩にはロングボウを担いでいる彼女のいでたちはコールが今まで見たこともないほど絢爛豪華で、とても尼僧には見えなかった。彼女は呼吸をするように気軽に戦いに臨むことのできる類の人物に見えたが、そんな尼僧がいるとも思えなかった。

 エヴァンジェリンたちと別れてこのかた、シスターとコールは一言も言葉を交わしていなかった。自分の隣にしゃがんでテンプラーたちを見詰めている彼女に、コールは老婦人やリースとの間柄について尋ねたかった。コールはおぼろげな記憶から、あの香水の匂いが漂う聖なる館で、背の高い帽子をかぶった女性の傍に立っていた女性とこのシスターが同一人物であるとわかったが、今の彼女はその時とは全く異なる佇まいであった。 

 だが今すべきなのは質問ではなく、リースを救い出すことだ。コールが牢の中の様子を覗いたとき、リースは蒼ざめ、話は要領を得ず、腹の傷はひどそうだった。薬品の知識もなければ治療の呪文も使えないコールはその時何もできなかった。あれから今までの間にリースが死んでしまったりしていないだろうか。 

 何時間も待たされたような気がした頃、ようやく事が始まった。 

 はじめに頭上の遥か遠くのほうから雷鳴のような音が微かに伝わってきた。その音が徐々に大きくなり、天井を揺らし始め、溜まっていた塵の塊が崩れてパラパラと降り注ぎ、テンプラーたちの警戒を呼び起こした。彼らは一斉に飛び跳ねると剣を抜いて口ぐちに叫び合った。

 ひとりのテンプラーが駆けつけ、タワーが攻撃されていると叫んだ。ロード・シーカーの居場所が不明だと知ってテンプラーたちはしばし混乱していたが、次に聴こえてきた爆発音をきっかけに、ようやく行動を開始した。指揮を執ったテンプラーが、三名だけをここに残して他の者たちと階段を駆け上がっていく。その足音が聞えなくなった頃、シスターがようやく身体の向きを変えた。

 彼女はロングボウを手にすると矢をつがえたが、弦はまだ引かなかった。そして三人も残ってしまったのは具合が悪い、と不愉快そうに囁いた。三人くらい楽に倒せるのではないかとコールが尋ねると、シスターは、ダンジョン入口の防御装置はたった一人で起動することができるため、三人いっぺんに倒さなければならず、それは至難の業なのだと答え、微かに笑って弓を持ち上げると弦をひき始めた。

 コールは彼女の肩に手を置くと、自分に任せてほしいと言った。シスターは好奇に満ちた目で彼を見たが、特に拒絶もしなかったのでコールは立ち上がった。
 コールは今までテンプラーを傷つけたことはなかった。だがリースを救うことを邪魔する者は許せなかったし、エヴァンジェリンからは時間をかけている暇はないと言われていたのだ。

 ダガーを強く握ると、コールは衛兵詰所に向かって通路を忍び足で進み始めた。入口付近に立っている最初のテンプラーのところまで近づく。日焼けして年季を示す肌の、白いものの混じった黒いひげを蓄えた年長の男だ。彼はコールの姿を通して階段のほうを不安げに見つめている。剣戟の微かな物音がするたびに彼の身体がぴくりと動いた。

 また叛乱か、と男が唸る。四角い顎をした女性のテンプラーは、兜ですっぽりと覆っている頭を振りながら、ロード・シーカーは今度こそ愚かなメイジたちの頸を刎ねるに違いないし、そうでなければ連中は何も学ばない、と答えた。

 年長のテンプラーは何かをぶつぶつ呟いた。男の目を見つめるコールには、その臭い息まで感じることができた。コールは自分の心の奥底にある闇の井戸に触れるため神経を集中させた。襲ってくる恐怖に打ち勝つよう気を強く持った。

 自分はこの世から消え去ったりはしない。リースは世界で唯ひとりの友人、彼を救うためなら何だってやる。

 コールはダガーを持ち上げ、そのぎざぎざの刃をテンプラーの首筋にゆっくりと近づけた。肌に押し付けると一筋の血が流れたが、男はまだ気が付かず、何事もなかったかのように前方を注視しているばかりであった。

 お前たちには僕は見えない。コールが深く切り裂くと、男の喉から鮮血がほとばしり、鎧の胸にしたたり落ちた。男は目を見開いて息を呑み、恐慌に見舞われて自分の首を抑えた。血の流れはさらに早くなり、チュニックを濡らして床にまで飛び散り始める。彼は自分の小手を見つめて困惑した顔つきになり、喉からごぼっと音を立てるとついに片膝をついた。

 お前たちには僕のすることが見えない。コールは年長のテンプラーを捨て置いて次の標的である女性に近づいた。コールは彼女の眼に自分がかけた覆いを感じることができた。彼女はそれに抗っていたが、そうしていることにすら気が付いていない。コールの両のこめかみは痛みで脈打っている。

 お前たちには僕を止めることはできない。コールはダガーの切っ先を彼女の喉元に突き付け、体重を乗せて押し込んだ。刃は奥までぶっすりと突き刺さり、ぐうと音を立てた彼女の口からほんの少量の血が吐き出された。それでも彼女は釘付けにされたままで、忘却の海から顔を出すことができないでいた。

 お前たちの誰も僕を止めることはできない。コールはダガーを抜き去り、女が後方によろめいて壁に倒れ掛かるのを見つめていた。彼女が剣を床に取り落すとガチャリと音がした。彼女は流血を食い止めようと両手で無為に傷口を抑えている。彼女は最後のテンプラーのほうに震える手を伸ばして警告を与えようとするが、その口からは締め付けられたような叫び声しか生み出せなかった。

 リースが死んでいたら、お前たちの最後の一人まで狩りたててやる。最後の一人まで逃がさない、そう誓う。

 最後のテンプラーは若い男であった。長くぼさぼさの金髪の男はどこかしらコールに似通っていた。若い男はなにか妙な感じを察知したかのように眉をひそめているが、その正体を突き止めることはできないでいた。コールはなんとか神経を集中させようとしたができなかった。自分の鼓動があまりに大きく響いていて、耳にはそれしか聞えないほどになった。 

 女はついに地面に倒れ伏し、その物音が若いテンプラーの注意を引いた。振り向いた彼が驚きの叫び声を発し、同時にコールの姿を目にとめた。若い男は叫び声をあげ、振り上げた剣でコールに斬りかかった。

 だが時すでに遅く、コールのダガーはすでに若い男の喉元を切り裂いていた。男はよろよろと後ずさりし、コールはその不器用な剣捌きを容易く避けることができた。男が再度剣を振り上げようとするが、もはや鮮血は留まることなく吹き出している。男の力は弱く、剣は揺れ動いてやがて床に落ちた。男も両膝から崩れ落ち、コールを驚愕の表情で見つめつつ、ゆっくりと倒れ伏した。

 コールは大きく強く息を吐き出した。死体から離れると壁に背中をあずけ、吐き気と戦っていた。彼の全身に蔓延する闇の力は、まるで身体の中のあらゆる線維に染み渡る瘴気に満ちた油のような感じがした。身体が震え、眉毛からは汗がしたたり落ちた。彼は目を閉じ、その闇を抑えつけようとした。自制を取り戻すためには、意志の力の最後の一かけらまで必要とした。

 コールが再びようやく震える足で立つことができるようになった頃、弓を手にしたままのシスターはすでに詰所の中に入っていた。彼女はテンプラーの死体には気が付いていたが、ずっとコールを注視していた。彼女の眼には彼に対する警戒が、むしろ恐怖が潜んでいた。

「あなた随分と・・・、興味深いことができるのね」と彼女は慎重に言葉を選んで言った。

「気にしないで。どうせあなたは覚えちゃいないから」 

 彼女はその言葉を信用していないようだったが、コールも気にしていなかった。彼がひとりのテンプラーのクロークでダガーの血を拭っていると、階上の叫び声が次第に大きく、近づいてきているように聴こえた。 

 シスターが壁の照明石を手にし、年長のテンプラーのベルトから鍵の束を取り上げると、ふたりは沢山の牢が連なる通路に駆け込んだ。コールはいくつかの扉の陰から大勢のくぐもった声がするのを耳にした。コールがいまだかつて見たことのないほどの人数が、こことさらに下の階にも閉じ込められており、皆が助けを求めているようだった。 

「リースを探さなくちゃ」

 彼は不安げに言った。

「もちろん!」

 シスターが最寄りの牢に駆け寄って開錠する。扉の中には片方の頬にむごい殴打の後のある背の低い女性がいて、追い詰められた猫が今にも相手に飛びかからんとしているかのように牢の隅っこにしゃがみこみ、ふたりに怒りの表情を向けてきた。コールはそれが赤毛、いつも口論ばかりしていたエイドリアンであることに気が付いた。 

「あたしをどうする気?」と彼女が詰問する。

 シスターがくすりと笑う。

「助けに来た相手に対して、随分なご挨拶だこと」

 赤毛は疑い深そうに目を細めた。

「助けに来た?」

「ここに居残りたいならどうぞご自由に」

 赤毛が事態を呑み込むまでほんの一瞬を要するだけであった。彼女は立ち上がり、手枷された両手を突き出した。

「じゃあ、これも外してよ」と彼女は言った。

「グランド・エンチャンターを探さないと。彼女だけはどうしてもここから逃がさなくちゃ」

 シスターは頷き、コールを振り返った。彼女は鍵束から鍵をひとつ抜き去って彼に放り投げる。

「他の人たちも出してあげて。急いで」

「リースを探さないと」彼が繰り返す。

「皆一人残さず逃がさないといけないの」

 彼女は即座にエイドリアンに駆け寄り、手枷を外した。コールは通路に走り出た。騒音はさらに大きくなっている。牢の中からあがる沢山の叫び声には恐怖が入り混じっており、彼は敢えてそれに身を曝すことにした。

 コールは目を閉じ、自分の思念を探り始めた。リースは生きている。彼が近くにいることが感じられる。か弱く、消え入りそうだが、持ちこたえている。まだ手遅れじゃない。他の者たちはシスターが救えばいい。コールはそのために来たのではない。

 死んじゃだめだ、と彼は呼びかけた。僕は君を救うために来たんだ、そう約束したじゃないか。

 死なせたりするもんか。 

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