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2013年10月25日 (金)

【DAI】Dragon Age Asunder (18‐1)

 何か大きなことが始まりつつある。嵐の前に空中の電荷が蓄積されていくように、ここ何週間かにわたって事態は音もなく進行していた。タワーの者は皆気が昂っていて、嵐を避けたいと思いつつも、座してそれを待つことには耐えられないようだ。

 コールにはあまりよくわからなかったが、遠い土地から集まってくる重要なメイジたちが参加する会合があるようだ。彼らは皆「ファースト」・エンチャンターと呼ばれるが、皆一斉に「一番」であることなどできるのだろうか。

 そして彼らは皆テンプラーたちを恐れていた。周りで常にテンプラーたちが監視しているため、彼らはいつも声を潜めて話し合っている。テンプラーたちはまるで料理人が厨房でネズミを見つけたときのように腕組みしてしかめ顔をしている。重要なメイジたちは皆黒いローブを着ているが、だからといって囚人には変わりないようだ。

 ときどき見かける大鼻は新調した鎧を身に着け、エヴァンジェリンが身に着けていたものと同じ真紅のクロークを纏っている。彼が議論の内容を聞こうとして周りをうろつくためメイジたちは話をやめてしまう。皆コールと同じように大鼻のことが嫌いなようだった。

 テンプラーたちより怖いものなどないと思っていたコールが、自分でも不思議なことに今では普通に彼らに近づくことができるようになっていた。目と鼻の先に立って彼らの眼を見つめても誰も気が付かない。コールは、今はお前たちのことがよくわかるぞ、と彼らに告げてやりたかった。

 居室に監禁されているリースは彼を助けに来ることができない。コールは、自分のせいで多くの苦痛を与えてしまった相手に今更何を言えばいいのかわからず、そばに近づかないほうがリースの心もやすまるのだろうと思っていた。

 エヴァンジェリンも助けに来ることはできない。とても綺麗で優しさに満ちた彼女のことを考えると心が疼く。彼女がテンプラーたちの元に連れて行くと約束してくれたとき、コールは不安とともに希望も感じていた、彼女は強そうだし、誰よりもテンプラーのことを知っているはずだ。だが今彼女はピットにいて、他のテンプラーたちによれば騎士隊長に似つかわしくないことをさせられている。テンプラーたちが彼女の悪口を言うことは腹立たしく思っていた。

 老婦人もコールを助けることはできない。彼女がリースの部屋に行き来するときなどに姿は良く見かけるが、厳しく監視されていることは彼女自身も知っている。コールが見ていることにも気が付いていて、知らない振りをしているだけかもしれないし、実際彼女にはずっと最初から自分のことが見えていたのかもしれない。だが彼女の計画にコールのことは含まれていないので、気にする必要もない。

 赤毛、リースがエイドリアンと呼ぶ彼女は、コールを助けるつもりすらないだろう。彼女もリース同様自室に監禁されているが、それも形の上だけだ。彼女の仲間たちが部屋の前まで忍び込んで伝言の手紙を渡しているし、彼女自身も一、二度部屋から忍び出ていた。彼女の仲間たちが守衛の注意を逸らすために長い時間を費やして払う努力は見ものだった。エイドリアンも老婦人同様に多くの計画を有している。コールにとってそれを知ることは造作もないが、どれも自分の助けになるものではないはずなので興味はなかった。

 コールを助けられる者は誰一人いない。

 だが、コールは皆を助けることができる。ここへの帰路の間、皆テンプラーたちが諸悪の根源だと話していたが、今ではコールもそれに納得できる。彼らの眼を覗き込んでもかつてのような危険を感じることはなく、とてつもない恐怖だけが見える。

 コールにとって、これまでずっとテンプラーたちがディーモンであり、彼らから見つからないように闇に隠れるしかなかったが、そろそろそれもやめる潮時なのだろう。コールは誰にも見つからず、自由に動き回れるのだ。

 コールは、明朝の会合に備えて眠りに就こうとしているタワーの暗い廊下を歩いていた。この上ないほど高まっている緊張が、彼にはまるで叫び声のように聞こえている。些細なしくじりですべてが台無しになることがわかっていたので、彼は慎重に行動した。

 目指す扉の前では、太ったテンプラーの立哨が半分居眠りしながら立っていた。彼が眠りこけてしまっていれば楽だったが、あの黒鎧の男に対する恐怖が彼をそうさせないようだ。

 エヴァンジェリンの居室で出会ったあの男は研ぎ澄まされた鋼でできていた。コールの存在を感じることができた彼には他のテンプラーにはない何かの力が備わっているようだが、それが何かを言い当てることはできなかったし、知りたいとも思わなかった。

 ゆっくりと立哨に近づく間、コールの鼓動は高まった。ファラモンドは、誰からも忘れ去られてしまうのは自然にそうなってしまうのではなく、コールの操る能力なのだと教えてくれた。能力なら使わない手はない。

 コールは立哨の目を見つめ、集中して、何らかのものを召喚した。彼自身の心の奥底には、自分でも覗き込みたくない何かがあるのを感じていた。コールはそれに怖気づくかわりに、外に出てくるように呼びかけた。 

 コールは立哨の帯にぶら下がっている鍵の束に手を伸ばす間、彼から目を逸らさないようにした。鍵がこすれ合って微かな音がしたが、立哨の男は瞬きひとつしなかった。 
 自分は相手に姿を見せずに行動することができる。コールは愉快な気分に浸っていた。慎重に立哨から遠ざかると、鍵の束を胸の前で握りしめた。扉に近づいても立哨は依然として何の反応もしなかった。 

 コールは目を閉じて深呼吸をした。呼び出した闇は、彼の心の中に染み込み始めている。追い払おうとしてもそれは立ち去らず、逆に彼を引きずり込もうとしている。彼を消し去ってしまおうとしているのだ。 

 コールは歯を喰いしばり、気分が良くなるまでゆっくりと息を繰り返した。廊下中を包み込んでしまったと感じられる闇が彼のほうに手を伸ばしてくるが、彼はそれを無視した。自分は現にそこに立って行動することができる現実の存在なのだ。

 コールは扉を開錠して中に滑り込む。二フィートも離れていない場所にいる立哨は何も気づかない。

 寝室は狭く暗かった。鉄格子のついた窓から見える夜空からは初雪の予感がした。卓上に一本だけ灯されているロウソクはただのロウの塊になりかけていて、その明かりは室内の陰気さを深めているだけであった。そこは墓場、あるいはもうすぐ墓場になる場所であった。 

 闇の中から誰何する声は震えていた。小さい寝床に横たわる男の身体がかろうじて見えたが、それが誰であるかコールには尋ねるまでもなかった。

 コールが名乗るとファラモンドは跳ね起き、うろたえた様子で彼を見つめた。疲弊して蒼白な顔、目の下には黒い隈があり、やつれ切って体力の限界まで消耗しきったこの男が何日も、あるいは何週間も寝ていないのは明らかだ。かつて美男と呼ばれただろう白髪に碧眼のエルフは見る影もなく、今はただの老いぼれにしか見えなかった。 

 ファラモンドは、自分にコールの姿が見え、記憶からも消えていないことに当惑し、何がその変化をもたらしたのかと尋ねた。

 コールは、変わったのはファラモンドのほうだと告げながら寝床の端に腰を下ろした。ファラモンドの眼はコールが手にしているダガーにくぎ付けになる。コールは、ファラモンドに自分の姿が見え、記憶からも消えていないのは、彼が死を欲しているからだと告げた。

 エルフは大きく息をのんだ。目も逸らさず、質問もせず、それが誤っているとも言わなかった。彼は、明朝自分は再びトランクィルに戻されるのだと絞り出すような声で囁いた。そして、できることならいっそ死んでしまいたいと告白した。 

 コールは悲しげに頷いたが、ちらつくロウソクの炎を見つめたまま返答はしなかった。ずっと長い間ふたりとも黙り込んでいた。コールにとってトランクィルにされることはさほど悪いこととも思えない。闇に呑み込まれる恐怖とずっと長い間戦ってきたので、それから逃れられるのはむしろ救いに思えた。一旦無にされてしまえば、無にされてしまうことを恐れることもなくなる。
 死も同じことだ。
 
 コールは、ファラモンドをここから連れ出すことができると告げた。入ってきたときと同じ方法で出ていくだけだ。コールは慎重に考えをまとめた。自分の力は自分だけではなく、同行するファラモンドの姿も消すことができるはずだ。扉から外に出ていっても誰からも危害を加えられることはない。 
 うまくいかなかったらどうするかとファラモンドが尋ね、そのときはただ死ぬだけだとコールが答える。 

 ファラモンドは、脱走することなどまるで思いつきもしなかったかのように驚いた顔になった。彼は立ち上がって、部屋の中を興奮した様子でうろつきまわり、やがて足を止めた。ここを出てどこに行くつもりかと尋ねられたコールは、行けるところならどこでもいいと答えた。彼にとってタワーの外はほとんどが未知の世界だ。あの城塞までの旅にしても恐ろしさと寒さだけが印象に残り、人々はコールに対する以上にお互いに注意を払っていなかった。

 どこでもここよりましではないのか、とコールから尋ねられたファラモンドは窓に近づき、すでに霜が降りている鉄格子に指をはわせた。
 アダマントの冬はひどかった、と彼は言った。荒れ果てた地は氷のように冷たく、強風がまき散らす砂は生身を骨から削り取ってしまうかのように感じられた。城塞の人々は冬支度に何か月もかけるが、それでも毎年何人もが死ぬ。嵐に巻き込まれた狩人。不案内な行商人、愚かな子供。

 コールにはエルフがその話をする理由がわからなかったが黙って聞いていた。彼はとても変な感じがしていた。絶望に打ちひしがれた魂と出会う前にはいつも、彼らの燃えるような欲求が感じられるはずなのだ。彼らがコールを必要としているのと同じくらい、コールは彼らを必要としている。
 彼らの目を見るだけでそのことがわかり、その瞬間にコールは現実の存在になるので、彼らと敢えて話をする必要はない。

 ファラモンドは今どう感じているのだろうか。闇を解き放ち、飢えた昆虫の群れのように彼の身体を這わせても、燃えるような欲求は感じられない。コールはダガーの鋭い刃に指を這わせた。ファラモンドの嘆きを断ち切るのは容易い。だが彼がそれを欲求しないのなら、それでも殺害ではなく慈悲と呼べるのだろうか。 

「初雪のときには」 

 ファラモンドは話し続けた。

「毎年お祝いをする。不思議なんだ。冬は危険なものであって祝うべきものじゃない。ところが荒れ果てた地では、大変な富を注ぎ込んで盛大な饗宴を催す。それと踊りもだ。私もいつも仲間に呼ばれ、踊りに誘われるんだ。できないって皆知っているのに。いつも頭を悩ましながらそれを眺めているだけだった」 

 彼は言葉を詰まらせ、コールを見た。彼は泣いていた。

「今夜のアダマントでは、初雪のお祝いは催されないんだよな」
「ここから逃げ出したくないの?」
「逃げ出したくはない。いっそ君の手で殺してほしい」

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