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2013年10月29日 (火)

【DAI】Dragon Age Asunder (18‐2)

 リースが最後に出席した集会は壮大だった。

 カンバーランドのカレッジ・オヴ・メジャイは実際のところ宮殿である。かつてネヴァラの女侯爵の居城であったものがチャントリーに供与された。風聞では、ときの女侯爵が魔法の才能が発現した愛娘を遠く離れたサークルに渡すことを良しとせず、自分のような贅沢を享受させようと画策したことがその理由であるといい、リースはそれを信じていた。

 ホワイト・スパイアが抑圧的ともいえる威厳のせいで名高いなら、カレッジはその贅を尽くした装飾が売り物だ。大理石柱、華やかなフレスコ画、焼き物の壺、城壁を伝わる金色のつる。正面ホールには過去六百年にわたる歴代のグランド・エンチャンターの胸像が並ぶ。何もかもが煌めいているここにメイジたちが集うのは場違いなくらいだが、現にそのための場所だった。

 天蓋が赤褐色のマホガニー材でできていることから命名された「赤の講堂」には優に二百人以上の人々が収容できる。ファースト・エンチャンターたち、各フラタニティの代表者たち、シニア・メイジたち、好奇心に満ち溢れたアプレンティスたちまでがここに集い、議論し、派閥を組み、演説をする。「激しやすい」新参者たちを愉快そうに眺めているだけの年長者たちもいる。大音声の中をうろつきまわったリースは、公式の催し物が何一つないことに気が付いて愕然とした。すべて対話が優先され、秩序だったことは脇に追いやられていたのだ。

 他の参加者たちに言わせれば、そこで何かが決まることなど極めて稀だが、それ自体誰一人気にもしていないようだった。メイジたちは、自分が常駐するタワーよりも何か大きな存在の一員であること、その気になれば皆が声を揃えて主張することができることを確認しているだけであった。

 今回の集会は、そう呼ぶことすら憚られるほどまるで違っていた。

 集会のため招集されたメイジたちは、ホワイト・スパイアの大講堂の中で極めてちっぽけな存在に思われた。到着が間に合わなかった四名を欠く各地の十五名のファースト・エンチャンターたちにグランド・エンチャンターを加えたメンバーの他には、リース自身、エイドリアン、そしてウィンが出席しているだけである。出席者の倍以上の数のテンプラーたちが壁際に居並んで悪意に満ちた眼で睨みつけており、誰もが落ち着かない気分なのは明らかだ。

 自分があまり歓迎されていない気がしたリースは、出席者一同から離れて立っていたが、エイドリアンは現れてからこのかたグランド・エンチャンターの傍らからひと時も離れていない。ファラモンドの登場を待つ一同は誰一人言葉を発せず、そのこと自体が緊張を高めていた。事の顛末はウィンがすでに伝えており、ファースト・エンチャンターたちはその内容を快く思っていなかった。エルフが再びトランクィルになった姿で現れたら彼らがいかなる反応を示すのか、リースには見当がつかなかったが見ていて気持ちの良いものではないだろう。

 グランド・エンチャンター・フィオナは、黒髪のこめかみのあたりに白いものが混じる年恰好のエルフの女性で、背丈はエイドリアンと変わらない。二人にその存在を際だたせる苛烈さが備わっていなかったなら、ちっちゃい二人が背の高いメイジたちに囲まれている姿は滑稽ですらあっただろう。フィオナは同僚たちの心中を代弁するかのようにテンプラーたちを突き刺すような目で睨んでいた。

 様子見しているリースにエヴァンジェリンが近づいてきた。彼女の鎧は磨き上げられているが紅いクロークは纏っていない。彼女がどことなく目立たない趣きに感じられたのは、リースが今まで彼女を権威の象徴だと見なしていたせいだろうか。敢えて控え目に振る舞っているのだとしたら、ここにいるテンプラーの中で唯一の例外になる。

 彼女からメイジたちの傍にいないことを指摘されたリースは、自分が特別な存在だからだと返した。自分は殺害事件の容疑者である上に、あまりに魅惑的すぎて見かけた女性が失神してしまうから待機するように告げられたと冗談を言う。彼女は笑い、すぐに不真面目さを咎めるような顔をしたが目はまだ笑っていた。

 自分はファースト・エンチャンターではないから遠慮しているのだとリースが言うと、エイドリアンのほうは気にしていないようだとエヴァンジェリンが応じる。エイドリアンはまるでフィオナのお尻に貼り付けられたアクセサリーのようだとリースが揶揄すると、エヴァンジェリンはにやつきながら彼女のほうを見やったが、ふたりの視線に気がついたエイドリアンから見返されるとその笑顔が消えた。

 メイジたちが集会をはじめないのはファラモンドの到着を待っているからであった。リースはエヴァンジェリンにライト・オヴ・トランクィリティに要する時間はどのくらいなのか尋ねた。彼女はテンプラーたちに厳しい目を向けると、今時分にはとうに完了していなければおかしいが、誰に聴いても今こちらに向かっている途中だと告げられたと答えた。そして、騎士団から疎ましく思われている自分には誰もまともな返答をしないだけかもしれないと卑下した。

 彼女の不遇は自分のせいだとリースが詫びると、彼女は驚いた様子になって、自分は信じるテンプラーの掟に従ってコールを救いたかっただけであり、それを認めないのはテンプラーであって責めを負うべきはリースではないと言った。
 彼女がなんとかコールの記憶を維持しようと苦労していることがわかり、リースは理由もわからずに胸を打たれた。ふたりで長い間黙ったままそこに立ち、メイジたちがうろつくのを見守っているだけで心地よかった。

 リースはエヴァンジェリンへの尊敬の念を伝えた。そして自分が抱いていたテンプラー像を彼女がひとつ残らず打ち砕いたことを認め、彼女のような者が多くないことを残念がった。
 彼女は明らかに赤面したが、それを何げない素振りで隠そうとした。そして騎士団は必要に迫られると理想を脇に除けてしまい、同情や慈悲の心を示す者は他の見せしめとして糾弾されてしまうのだと悔しがった。

 リースは、自分たちふたりが似たような境遇にあり、今では彼女のことをずっと魅力的に感じていることを告げた。彼女はそれが本心からの言葉かどうか疑うような目でリースを見る。リースは冗談で誤魔化そうとしたができなかった。見つめ合うふたりの間に言葉にできない何かが通じ合った。

 これ以上我慢できないと誰かが叫び、頬を染めたエヴァンジェリンが視線を逸らす。もう少し気の利いたことが言えなかったことをリースは悔いた。

 騒ぎの中心にはグランド・エンチャンターがいた。周囲の注意を集めるため大理石の床を強く叩いた杖からは明るい炎があがっており、周囲の黒ローブの群れの中で彼女の白いローブを一際目立たせていた。見守るテンプラーたちが腹立たしそうに囁き、うち幾人かは扉に向かって駆け出していった。

 フィオナは宣言した。ここには待たされるために集まったのではないこと、議論すべき点は明白であること、テンプラーから侮辱されていることを示すもうひとりのトランクィルなど必要ないこと。
 黒髭を編み込んだアンティヴァン(Antivan、アンティーヴァ人)のファースト・エンチャンターがあわてて彼女を咎めようとする。

 杖を輝かせた彼女は他のメイジを振り返り、一年待たされた集会を無為に帰すつもりはないと告げた。それから劇的効果を狙って一呼吸置くと、サークル・オヴ・メジャイのチャントリーからの分離に関する動議を提起した。

 室内の者たちが驚愕して息をのむ。さらに何人かのテンプラーがまるで何かに追われているかのような勢いで扉に向かって駆け出していく。リースは悪い予感がしていた。怒りに満ちた空気は今にも爆発しそうだ。彼はエヴァンジェリンに続いてメイジたちの元へ走った。

 ウィンは、集会の議題はファラモンドの実験結果についてであり、それを逸脱したらこの集会は二度と開催されなくなることを警告する。
 フィオナは冷笑し、これを集会と呼ぶのは冗談にもならず、トランクィリティの議論などしても堂々巡りのまま徒労に終わるだろうと言い返す。第一、テンプラーがメイジたちの助言を受け入れるはずがない。

 ウィンが集会はディヴァインの意向によるものだと指摘しようとすると、フィオナはディヴァインすら罵倒した。冒涜の言葉に衝撃を受けた他の者の視線を浴びると彼女は溜息をつき、興奮したように額を撫でながら、周囲を懐柔するような口調でこう告げた。彼女自身は優れた人物かもしれないが、同じくそうであったカークウォールのグランド・クレリック・エルシナが皆の幸福を願う一心で何をもたらしたか。何も解決されないどころか、無作為の挙句殺されてしまったではないか。

 彼女はひとりの狂人の手にかかっただけだとウィンが反駁すると、フィオナはアンダースの所業を云々するつもりはないが、彼の意図は理解できるものであると言い返した。そして、自分はホワイト・スパイアの爆破などではなく、メイジが行動を起こすよう提議しているだけであると主張した。

 フィオナは、テンプラーがどう反応するかは彼らの問題であり、自分たちは自分たちの行動にのみ責を負うのだと言って、ファースト・エンチャンターそれぞれの顔を見回した。そして、自分がグレイ・ウォーデンを去ってサークルにやってきたのは何らかの行動を起こす必要を感じたためであると告げた。ウォーデン時代に彼女は、好機の到来を待ってそれを逃さず掴むことを学んだのだという。彼女によれば、今こそその好機だ。

 ウィンがグランド・エンチャンターの前に進み出ると、懇願するように両手であたりの者たちを指し示し、この者たちをテンプラーとの戦争に差し向けるつもりかと問い質す。そしてメイジの好機はファラモンドの発見にこそあり、ライト・オヴ・トランクィリティの欠陥が見つかったことはディヴァインにとって改革の手掛かりになると主張し、そこから改革が始まることを固く約束すると誓った。

 フィオナは、前回の集会でなされたウィンの誓いはどうなったかと熾烈な調子で責めたてた。そして、ウィンの気持ちは理解できるとしても、チャントリーが正しい行いをなすまで悠長に待ってはいられないと言い放った。
 リバタリアンズがメイジの運命を決めるのかとアンダー(Ander、アンダース人)訛りの太った禿頭のファースト・エンチャンターが問い質す。顎髭を編んだメイジは、ファラモンドの発見が眉唾ではなく本当に顕著なものかどうか知るのが先だと言った。

 ファラモンドは自分でトランクィルから復帰したが、テンプラーが彼を再びトランクィルに戻したのだ、とエイドリアンが口を挟んだ。彼女によれば、テンプラーが気に掛けているのはメイジに対する支配のみであり、儀式の本質にも彼の発見にも興味はない。

 ファースト・エンチャンターたちは彼女の言葉に同意しているようだ。ウィンが動揺している理由はリースのものと同じだろう。話の流れはグランド・エンチャンターに有利に傾いている。ウィンの擁護に回ると目されている者たちは沈黙を貫いており、ウィンと同様にエクイタリアンズであるファースト・エンチャンター・エドモンドは顔をしかめて髭を撫でているだけだ。

 さらに何人かのテンプラーが退室する様子をエヴァンジェリンが神経質そうに見つめていた。もはや一ダースほどしか室内に残っていないテンプラーは扉の傍に固まって、メイジたちの間の不穏な空気を監視している。外の廊下からは多くの者の足音が聴こえてきた。

 エヴァンジェリンは、自分の意見を無視するのも自由であると断った上で、何か事を起こすのなら早くした方がいいとメイジたちに告げた。エドモンドが驚いて彼女の真意を尋ねる。エヴァンジェリンはできるだけ中立を守るような口調で、集会はメイジが自らの道を選ぶ場であるのだから、何かを決めるなら早くするべきだと答えた。

 誰ひとり発言しなかった。ウィンもグランド・エンチャンターも黙考している様子なのは、語るべきことが残っていないからであろうとリースは思った。誰もが他の誰もがどう考えているかを知っており、論点が明らかなことにも気がついていた。誰もが断崖から飛び降りるのを躊躇しているだけなのだ。

 発言の許可を求めたリースは、皆の注目を一斉に集めたことに驚いた。自分はファースト・エンチャンターの一員ではないと断ると、禿頭のファースト・エンチャンターが、ウィンからしょっちゅう聞いているので皆リースのことは良く知っていると応じた。そしてリバタリアンズにしては穏健な見方をしているという彼が発言することを支持してくれた。

 リースは神経質に唇を舐めて自説を述べ始めた。この集会はメイジが手にする唯一の機会であるというグランド・エンチャンターの言葉は正しい。ここでの評決がどんなものであれロード・シーカーはそれを謀叛と見なすに違いなく、それ故自分たちにはたったひとつの問いしか残されていない。
 彼を見つめるエイドリアンの視線から、彼女が自分の考えを支持するよう要求しているのが手に取るようにわかる。
 リースは続けた。サークルの他の者たちに告げるべきことは何か。事態を悪化させないためにディヴァインを信頼するのか、それとも戦うのか。

 扉の外から聴こえる騒音は、タワー中のテンプラーが駆けつけてきていることを示すもののようだ。メイジたちの眼からは、彼らがリースの言葉の意味を正確に理解していることを読み取ることができた。
 サイは投げられた。もはや後戻りはできない。

 グランド・エンチャンターが自分の動議の採択を求めて賛同者を募った。
 だが時はすでに遅すぎた。剣を手にした大勢のテンプラーたちを引き連れてロード・シーカー・ランバートが大講堂の扉から現れた。ロード・シーカーと同じ鎧を身に着けた一団はシーカーズの部隊に違いない。室内に進入する彼らの立てる大音声は、まるで死が行進しているかのように聴こえた。

 テンプラーとシーカーの者たちはあっという間にメイジたちを取り囲む。歩み寄ってくるロード・シーカーの冷たい怒りの表情からその意図を読み誤ることはない。彼は集会の終了を宣言した。彼は、指示されたことすら守れないメイジたちはまるで子供のようであると揶揄し、ホワイト・スパイアの屋根の下で謀叛を許すわけにはいかないと告げた。

 グランド・エンチャンター・フィオナが他の者たちを守るかのようにして進み出る。ちっちゃな彼女とロード・シーカーが対峙する姿は、彼女の内に秘めたパワーを知らなければまるで冗談のように見えただろう。彼女の眼に宿る憤怒を映し出すかのように手にした杖が明るく燃えている。
 彼女は、これはディヴァインの許可を受けた集会であり、ロード・シーカーからなんら指図される筋合いはないと応じた。

 ロード・シーカーは、ディヴァインは愚か者であると断じ、このような試みが許されると考え、また殺害犯人の言に耳を貸すのなら、ここにいる者たちも皆同類であると言い放った。リースは自分が俎上に挙げられていることにしばらく気が付かなかった。

 ロード・シーカーは、トランクィルとなったファラモンドが今朝刺殺されたことを伝える。彼は一本のナイフを床に放り投げ、それがリースの居室から発見されたものであることを告げた。黒い柄のナイフの刃には血が付着しているのがはっきりわかる。それはリースの持ち物でもなければ、コールのダガーと似てもいなかった。だが刃物は自分のものではないと抗弁するリースの言葉をロード・シーカーは一笑に付した。

 エヴァンジェリンが進み出て、ロード・シーカーにはすでに殺害犯人の素性を伝えてあることを述べ立てようとするが、彼の一喝で遮られた。彼は、エヴァンジェリンはリースのブラッド・マジックの影響下にあるか、またはメイジたちに心酔するあまり心を惑わされているかの何れかであると切って捨てた。

 ロード・シーカーはテンプラーたちにリースを監禁するため引き立てるよう命じた。
 拒絶の叫び声をあげたウィンがリースを引き寄せようとしてその片腕を掴み、この不条理はどうあってもディヴァイン猊下のお耳に入れなければならないと誓った。
 リースは途方に暮れていた。ロード・シーカーから疑われていたのは知っていたが、彼がここまで手段を選ばないとは思いもしなかった。テンプラーたちが剣を手にして近づいてくる。メイジたちが威嚇するように杖を振り回すと室内にマナが充満しはじめる。事態は一触即発の様相を呈していた。

 ロード・シーカーは動じることなく、ディヴァインにはこの地に耐えがたいほどの混沌をもたらす意図があり、もはや彼女と論ずべきことは何もないと言った。そしてメイジたちに選択を迫った。降伏してそれぞれのタワーに無事帰還するか、ここで叛乱に加担するか。

 選択すべきはロード・シーカーのほうだとグランド・エンチャンター・フィオナが警告する。法と伝統に基づく集会の継続を認め、リースへの糾弾を合理的に調査する権利をメイジたちに与えるか、さもなくばもたらされる帰結をその目で見るか。

 それを脅迫と受け取った彼の目がエヴァンジェリンに移り、叛乱に加担しないでおくだけの正気は残っているのかと問いかける。
 エヴァンジェリンは歯を食いしばって剣を抜くとこう告げた。この場で正気を喪っているのは自分の過ちを認めようとしないたったひとりの男だけだ。

 是非もなし。

 ロード・シーカーが手を振ると、テンプラーたちが襲い掛かった。戦いに備えていたメイジたちですら、押し寄せる破壊の波に持ちこたえることはできなかった。テンプラーの力はメイジのスペルを妨害することに特化しており、ここではそれが圧倒的な威力を誇っていた。いくつもの魔法の盾が剣で砕かれ、眩い閃光が大講堂中を覆った。 

 だがメイジたちは挫けなかった。グランド・エンチャンターは怒りの叫びをあげ、近くのテンプラーに眩い光を放つエナジー・ボールを浴びせかける。何人かが盾を構えたが、エナジー・ボールが炸裂した途端に身体ごと周囲に弾き飛ばされる。爆発の衝撃が大講堂全体を揺さぶった。 

 テンプラーたちがリースに殺到する。近くにいた女性のファースト・エンチャンターが恐慌に襲われ、両手をあげて降伏すると叫んだが、その声も大音声に紛れたか、あるいは攻撃の姿勢に見誤られたのか、最初に走り寄ったテンプラーの剣が彼女の胸を深々と突き刺した。

 若いテンプラーの男は意図せぬ結果に驚愕の表情を浮かべていた。自分の胸に突き刺さった剣を困惑して見下ろす女性メイジを、彼は茫然自失の様子で見つめていた。メイジの口からは言葉の代わりに血が吹き出し、剣から滑り落ちた身体は音もなく床に崩れ落ちる。倒れた彼女のローブには血の染みが広がりはじめた。

 その反応は瞬く間に広がった。誰かの悲鳴が上がると多くのメイジが惨劇を知るところとなり、突如として戦いは自分の身を守るためのものではなくなった。エイドリアンが怒りの叫びをあげながら恐るべき焔の雨をテンプラーたちに降り注ぎ、火だるまになった者たちが恐怖の悲鳴を上げる。稲妻と煙塵からなる竜巻が只中に陣取った大講堂は混沌の渦に巻き込まれていた。
 テンプラーたちは今や周囲のメイジたちに手あたり次第に斬りかかっていた。 

 リースは天井から落下してくる石材から危うく身をかわした。煙の向うから剣を振りかざしたテンプラーが叫び声とともに襲い掛かってくる。リースは杖からボルトを飛ばして、相手を混乱の中に弾き飛ばした。

 リースが振り返ると、ウィンが斃れた女性メイジを抱きかかえているのが見えた。彼女は必死に治癒のスピリットを召喚しようとしているが、すでに死んでいる相手に対しては意味がなかった。彼女は恐怖に駆られて首を振りつつ、こんなことになるはずではなかったと泣き叫んでいた。 

 リースはむずかる彼女の両肩を掴んで無理やり立ち上がらせ、自分の目を見るように強いた。その意味することすら理解できない放心状態の彼女に、ここから逃げ出さなければならないと叫ぶ。 

 どこからともなくエヴァンジェリンが現れた。彼女の剣には血が付いており、その険しい表情からは彼女がこの事態を一切認めたがっていないことがわかった。ふたりを見つけた彼女は、正面扉に向かうように大声で告げた。封鎖されている扉もメイジの力なら吹き飛ばすことができるはずだ。 

 エヴァンジェリンがリースの腕を掴み、リースはウィンを掴んだ。三人は戦いの只中をよろめきながら駆け抜けた。スピリッツが空中を飛び回り、その霊体の姿にはいたって無防備なテンプラーたちを攻撃している。大講堂中で猛威を振るう魔法のパワーのためヴェイルが粉々になってしまっており、リースはそれを不安がった。憤怒と絶望に駆られたたったひとりのメイジがディーモンの憑依を許してしまったら、戦いはずっと醜悪なものになってしまうに違いない。

「どこに行くつもりだ?」

 漆黒の剣を事もなげに手にしたロード・シーカーが自分たちの行く手を阻んでいることに気が付き、リースの心臓は恐怖で縮みあがった。相手は周囲の混沌に気を逸らされる気配も一切なく、灰色の眼は目の前の三人しか見ていない。 

「そこをどきなさい、ランバート」

 エヴァンジェリンが警告する。 

「誰もここから離れることは許さない」

 彼は冷たい氷のような口調で告げた。

「一人たりとも」

 一ダースほどのテンプラーが彼の後ろに現れた。さらに大勢が駆けつけてくるだろうとリースは観念した。今やメイジたちは散り散りになっており、必死に逃げ出そうとして斬り倒されている者もいれば、テンプラーたちに圧倒されてスペルを撃つためのマナを集めることすらできなくなった者もいる。メイジは敗北しつつある。 

 ウィンはリースから身体を離すと、顔の涙をぬぐった。

「ただでは済ませませんよ!」

 彼女の叫び声は擦れていた。

「殺害犯人を正義の手に委ねることをか? それとも新らたな叛乱を始まる前から食い止めることのほうか? すべてはメイカーの御心に従ったまで。それに他ならない」 

 ロード・シーカーは前に歩み出て、剣にパワーを集めはじめた。同時にテンプラーたちがリースたちの回りを取り囲む。

 覚悟を決めた顔つきのエヴァンジェリンが剣を構える。ウィンもまた杖を構える。リースにはふたりを危険に曝すのが耐え難かった。彼は今まで浚ったこともないような奥深いところからマナをかき集めた。それから憤怒の叫びとともに杖を掲げ、魔法の奔流を一気に解き放った。

 周囲のすべてのテンプラーが、まるで彼らに体重がないかのように遠くまで弾き飛ばされた。建物全体が震え、リースはほんの一瞬だけ愉悦に浸った。このパワーは今まで感じたことのないものだ。彼の血管を通じて湧き上がってきたものだ。

 望むなら、まだいくらでも容易に繰り返すことができる。ヴェイルは脆く、そのすぐ向う側でこちらの世界に侵入する機会を狙っているディーモンの存在すらリースには感じられた。リースが一言呼びかければ、求めるパワーはすべて手に入る。数多くのテンプラーたちを道連れにして、彼らが一生忘れることのできない、最後の一撃をくらわすことすらできる。

 禁断のパワーはほんの指先にあり、リースを手招きしている。

 大変な苦悶の叫びをあげ、リースは瀬戸際から舞い戻った。ウィンとエヴァンジェリンに向き直った彼の眼はパワーのため輝いている。急げと彼は叫んだ。驚いて彼を見つめているだけのふたりは動く様子もなかった。急げと彼は吠えた。

 ふたりを待つこともせず、彼はテンプラーのほうを振り返った。閃光を放つ純粋なエナジー・フォースの壁が両者を隔てており、テンプラーたちは空しくそれに打ち掛かっている。リースはエナジーの嵐を巻き起こし、さらに大渦巻を付け加えた。その必要さえあるなら、大講堂全体を石材ひとつひとつまで崩壊させることもできた。

 ロード・シーカーがフォースの壁に近づき、自分のパワーを集めると、漆黒の剣の一撃で打ち砕いた。リースは熱い苦痛を感じた。リースは魔法のボルトを次々放ち、ロード・シーカーはそれらをことごとくはじき返したが、彼の接近を遅らせることには役立った。

 そのときリースは何者かに後頭部を強打され、視界が揺れた。彼はその目に見えない何かをスペルで天井まで跳ね飛ばし、骨を打ち砕くのに十分な打撃を与えた。今度はリースの側面から何者かが斬りつけてきたので、そちらを見ることもせずに同じように打撃を返した。

 目の前にロード・シーカーが立っていた。男の眼は憎悪に塗れていた。彼はアンドラステの導きを求めて念じると、全力で剣を振りおろした。

 魔法を妨害された衝撃でリースは後ずさりした。周囲の世界が回転をはじめ、とうとう地面に倒れ伏す。数人のテンプラーが即座に飛びかかり、金属の小手と剣の柄でリースの顔面を殴り始めた。激痛は目も眩むほどだったが、やがてそれも感じなくなった。 

 世界が消え去りはじめるとき、彼は周りを見た。ロード・シーカーが彼の傍に立ち、殴られるリースを至極冷たい眼で見つめている。だがウィンとエヴァンジェリンの姿はその場から消えていた。

 よかった。少なくともひとつは正しいことができたようだ。

 やがて暗黒が忍び寄り、彼を包み込んだ。

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