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2013年10月18日 (金)

【DAI】Dragon Age Asunder (17‐1)

 三週間。

 ディヴァイン直々の意向をよそに、ロード・シーカーに疎ましがられる存在となったエヴァンジェリンは名ばかりの騎士隊長に貶められていた。その職位の者としては前例のないダンジョンの巡回を単身担うよう命じられたのであるから、むしろ事態はなお悪いと言える。

 アーノードが始終現れては、悲惨な役回りに追いやられた彼女の様子を眺めて悦に入っていた。彼は癪に障る冷笑をまるで勝利の旗のように振りかざして、メイジの集会が終われば彼女も騎士隊長から解任される手はずだと愚弄し続けた。ディヴァインのご威光もそれ以降は及ばないという彼の言葉に間違いはないのかもしれないが、どんな結果を招こうともこの男の薄ら笑いを消し去ってやりたいと願う彼女の気持ちに変わりはなかった。

 もちろん他のテンプラーたちの中には、深夜ダンジョンを訪れて同情の言葉をかけてくれる者たちもいた。騎士団の身分を永久に喪いたくなければ、ロード・シーカーに土下座してその慈悲を請うべきだと助言してくれる者たちは、ロード・シーカー・ランバートには如何なる慈悲の心もないことを知らないのだろう。もはや彼女はそれすらどうでもいいことだと思うようになっていた。

 だがそれでは自分に嘘をついていることになる。彼女の内心ではやり場のない憤りが石炭の火のように燃え盛っていた。これは自分が選んだテンプラー騎士団ではない。どんな悲惨な状況でも最善を尽くす守護者たち。力は思いやりの心とともに用いるべしというメイカーから授けられた天命を肝に銘じ、メイジたちも無辜の者たち同様に助力を必要としていることを信じる者たち。騎士団長イーロンも、エヴァンジェリンの父もそう信じていた。

 だがロード・シーカーには一切の妥協を許さない冷たい確信以外何もない。他のテンプラーたちの多くが、メイジ同様彼の餌食にされることを恐れて異議を唱えようとしないのが事態をなおさら悪くしている。騎士隊長自身が完璧な見せしめとなった今、声をあげようする者たちの意思も急速に萎えてしまっているのだろう。

 彼女は闇の奥で毎日過ごさねばならない羽目になった。ロード・シーカーに何度面会を求めても拒否され、または無視された。だが彼女には、ほんの些細な不服従の気配を見せた途端に彼が鷹のように襲いかかってくることがわかっていた。リースや他の者たちを訪ねることもできなければ、ウィンと言葉を交わすのもすれ違うときだけであり、お互い接触しないのが得策であることも心得ていた。

 私室に監禁されているリースと話す機会を持てないことをもどかしく感じた彼女は、彼と誰のことについて話し合いたかったのか忘れてしまっていることに慄然となって立ち尽くした。あわててチュニックの奥を探って小さな羊皮紙片を取り出すと、最寄りの照明石の灯りの下に駆け寄って中身を読んだ。

 彼の名前はコール。歳ははたちくらい。目にかかるブロンドの前髪。汚れた皮の服はおそらく一張羅。リースを見つけた霊廟にいたが姿を見ることはできなかった。誰も見ることができず、見ても忘れる。お前が今忘れているように。
 あの夢を思い出せ。


 彼女は眼を閉じて自分の記憶を探った。フェイドの中の夢。おぞましい農家、その台所の棚に隠れていた少年のことはすべてを覚えていた。だがコール自身のことだけは顔も声も思い出せなかった。それでも彼女は思い出したかった。そうするのが自分の義務だと感じた。

 彼はどうしているのだろう。ディヴァインとの謁見から数日後にコールが彼女を訪ねてきたのだが、その記憶さえも確固としたものではなく、印象だけが残る夢の残滓のようだ。彼はリースのことを尋ね、自分がテンプラーに引き渡されるかどうか知りたがった。自分には見当がつかないと詫びるしかなかったエヴァンジェリンは無力感に苛まれ、彼が落ち込む様子を見るのは耐え難いものだった。

 彼女は、ホワイト・スパイアまでの帰路の間、彼が本当に脅えていたことを覚えている。彼の希望と不安を断ち切ることになるはずの瞬間は決してやってこない。一行がグランド・カシードラルを訪れた後のことは何もはっきりわからない。ロード・シーカーは彼女をここに幽閉し、コールもまたタワーの闇の中に戻ったのに違いない。
 もしかしたら今でも彼女のことを見ているのかもしれない。

 暇つぶしの読書かと呼びかける声に彼女は跳び上がった。ロード・シーカー・ランバートがダンジョンの入口に立ってしかめ面で彼女を睨んでいる。照明石のサファイア色の灯りが、彼が纏う黒い鎧の表面で煌めいていた。彼女が答えずにいると、彼は傍らの小さな机のほうに歩み寄り、彼女が卓上に並べていた遊戯用のカードを手慰みに動かした。そして、退屈であっても守衛は重要な任務だと言った。

 彼女が素っ気なく用件を尋ねると、彼は顔をしかめて、置かれた立場上ものの言い方に気をつけるべきではないのかと詰った。彼の言うとおりこれ以上波風を立てても何も意味はない。彼女は、面会を求めていたのは確かだが、彼自身がピットまで下りてきたことに驚いたと言った。腕を後ろで組み、しばらく黙ったまま室内をゆっくりと歩き回っていた彼は、エヴァンジェリンの提出した報告書について他の者たちの詮索のないところで話をするために来たと告げた。

 彼女の報告書には、タワーにおける殺害事件の真犯人がリースではなくコールと呼ばれる若いメイジであること、コールが不可視な存在で出会った者の記憶から消え去ることが記されていた。
 ロード・シーカーから自分も例外ではないのかと問われたエヴァンジェリンは、彼女自身もすでに忘れ始めていると答えた。

 彼は足を止め、彼女に好奇に満ちた目を向けると、わかったとだけ告げた。それから、コールがリースを救うためなら姿を現すと言っていたのであれば、彼女の呼び出しに応じさせることが可能かどうか尋ねた。エヴァンジェリンはコールの居所がわからないと答えた。

 ロード・シーカーはその答えを予期していたかのように頷いて、仮にコールの存在が事実だとすると、その特殊な能力については初耳だが、犠牲者の血を用いるブラッドマジックの一種ではないかと言った。エヴァンジェリンがそれを否定すると、彼は彼女やリースの精神にコールが悪影響を及ぼしているという疑いを確信をもって否定することができるのかと詰め寄った。

 エヴァンジェリンは溜息をついた。たしかに確信はない。コールに出会ったのがフェイドだったというのも都合が良すぎる。彼女が最初にそう疑ったようにディーモンかもしれない。あるいは禁断の魔法で他者の精神や記憶を操作する邪悪なメイジ(メレフィカー、maleficar)であって、彼女たち一行に自らが無害な存在であると思い込ませていただけなのかもしれない。

 だが一方で、彼女の記憶の中の彼は無害ではなく危険な存在であり、良く理解していない世界に放り出されて自力で生き抜かなければならない子供のように不安な存在でもある。彼女の直感によれば、彼は見た通りに助けが必要なのだ。

 彼女は確信を抱くまでには至ってないが、それでもそう信じていると答えた。そしてコールはタワーに連行されて以来、その才能を恐怖かなにかの理由で歪められており、完全に正気を喪って他の者に害を及ぼす前にトランクィルにしなければならないと指摘した。

 ロード・シーカーは頷き、彼女がリバタリアンズに感化されることなく、まだ儀式の力を信じていることに満足した。彼女は儀式の必要性は認めながらも、代替策が必要であるというリースの主張は間違っていないと応じる。リースはまた殺害犯人でもなく、自分たちは互いの違いを乗り越えて真実の発見に努めるべきだと付け加えた。

 随分威勢の良い言葉だと返したロード・シーカーがまた歩き始める。顎をなでながら黙考している彼の姿を見つめながら、エヴァンジェリンはこの男には情けが欠片もないと断じた。彼にとってすべての事柄は鮮やかに解かれるべきパズルであり、解いた後は棚の奥に仕舞い込んで忘れてしまうのだろう。そうできないものは何であっても彼にとっての脅威なのだ。

 彼は提案を告げた。彼女が発見次第、彼はコールに会うことにする。痛めつけはしない。彼女の主張が正しいことが判明すればリースは解放される。
 その見返りは何かとエヴァンジェリンが問う。
 彼女がファースト・エンチャンターの集会に出席し、ファラモンドの実験について非難することが条件だ、とロード・シーカーが答えた。

 彼がここにやってきた理由はすべてそれだったのだ。寛大さを示したと見なされることを嫌い、彼女の証言に促されて措置を講じたと思われたくもないのだろう。
 彼女は申し出を断った。

 ロード・シーカーは、自分を窮地に追い込んだ張本人は彼女であり、事態を正す責任もまた彼女にあると言った。反論しようとする彼女を遮ると、彼女がメイジたちに同情心を抱いていることは報告書からもあきらかで、それは称賛に価することであると告げた。さらに将来その点について慎重に吟味するのもやぶさかではなく、その場合は彼女に指揮を担わせることも考慮しているが、メイジたちが叛乱の口実となる材料を探し回っている今はその時機ではないと付け加えた。 

 同情心を示さないというそのこと自体が叛乱の口実を与えているのではないか、とエヴァンジェリンが追及すると、ロード・シーカーは、自分たちはゲームをしているのではないと言い返す。かつてこの世界は魔法が支配しており、メイカーはそれを打破するため愛する花嫁までもお遣わしにならざるを得なかった。彼によれば、テンプラーだけがそうした事態の再来を阻止する防波堤なのだ。 

 それは同情心をもってしてでも可能ではないのかと彼女が食い下がる。ロード・シーカーはダンジョンの独房が並ぶ通廊を見通せる扉のところまで歩いていって、まるでそこに潜むゴーストたちを見ているかのようにずっと奥の闇を睨んだ。

 同情心の行きつく先について、彼は自らの経験を話し始めた。  

 ロード・シーカー・ランバートはテヴィンター帝国の出身である。帝国チャントリーで十年近く任に就いていたが、そこのサークル・オヴ・メジャイが再起不可能なほど堕落したため立ち去ったのだ。
 そこでは自治を任されたマジスターたちが徐々にサークル内部の権力を侵食していった。当時は彼も、メイジ自身にメイジを統治させるのが最良の方策だと信じていた。

 エヴァンジェリンから疑いの眼差しを浴びせられるのを見て、ロード・シーカーは笑みをこぼしそうな顔つきになった。彼は続けた。 

 彼ははじめからメイジに不信の念を抱いて任務に就いたわけではない。彼がテンプラー騎士団に加入したのは事態を良くすることができると信じていたからだ。他の者たちの規範となるに相応しいと目されるマジスターたちの仲間もでき、ひとりとは友人と呼べるまでの仲になった。彼は友人と二人で世界を変えようとした。

 裏切られたのかとエヴァンジェリンが問うと、彼は首を振った。

 その友人はブラック・ディヴァインまで登り詰めた。ふたりの夢を実現するためにはこの上ない地位だ。だがそこで友人は権力の行使ではなくその維持に没頭することになる。敵対する者たちが禁断の魔術に手を染め、対抗するため友人も同様の手段をとった。ランバートにとっては考えもしていなかったことであった。

 ランバートの権限は徐々に無力なものになっていった。テンプラーたちはほとんどの情報から遮断され、些細な問題すら解決できない有様だった。権力の座に就くためランバートが力を貸したマジスターたちが、自分たちの腐敗を暴露されることに抗っていたのだが、彼はその事実を認めたくなかった。

 それでも結局実態を知ることになった、とエヴァンジェリンが言うと、彼は短く苦い笑い声を発した。 

 ランバートは友人と対峙することになった。友人から初心(うぶ)だと詰られ、権力のことが何もわかっていないと断じられた。実際彼は、その日にはじめて権力の何たるかを理解したのだ。 

 エヴァンジェリンは居心地悪そうに体重を足から足に移し替えた。ロード・シーカーの過去から洞察を得たいなどと思いもしなかったが、それも彼のことを理不尽な男だと信じたいがためかもしれなかった。テンプラーは各人それぞれが信念を持っていて、それらすべてが善なるものである。その一方で、それらすべてが釈明にしか聴こえない。それが悲しいかな現実なのだろう、と彼女は思った。 

 ここではそんな事態は起こらない、と彼女が言う。
 扉のほうから振り返った彼は彼女をじっと見つめ、メイジたちに少しでもゆとりを与えれば、連中の要求はどんどん高まり続け、結局最後にはまったく同じことが起きる、と言った。 

 エヴァンジェリンは首を振って言い返した。

「私たちは無謬ではありません、閣下。彼らをあまりに強く抑圧すれば、閣下が最も避けたかった事態そのものを招くことになるでしょう。他に方法があるはずです」

 ロード・シーカーは深く溜息をつき、ダンジョンの入口に向かって歩き始めた。

「他に方法などないのだ。だがこれ以上何を話しても無駄なようだ。であれば、集会で好きなことを話すがよい。だが、ディヴァインが如何に宣われようとも、このタワーに貴公の居場所がなくなることは覚悟しておくことだ」

「コールのことはどうなるのです?」

「本当に存在するなら、狩り立てるまでだ」

 彼は去り際に逡巡した。

「貴公に対する私の第一印象は誤りだったようだ。騎士団長イーロンに部下を選ぶ目がなかったことはどうやら間違いない。嘆かわしいことだ」

 そう言い残して、ロード・シーカーは立ち去った。 

 それはそれは、どういたしまして。

 彼女は心の中で毒づいた。

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