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2013年9月

2013年9月30日 (月)

【DAI】メイジの自由。

 Asunder要約(でもなくなってきたが)も、休日まとまった時間がないと仕上げられないのですが、なんだかんだあって週末遊び呆けてしまった。
 日曜日午後には少し時間ができるかと思ったら、「閃のなんとか」が届いていたので、Vitaの稼働率が低すぎて悲しい私としてはちょっと覗いてみようと思って、結局半日・・・。

 「ロードの数が多すぎて、その時間があり得ないくらい長い」と、まるでこの世の終わりが到来したかのような怨嗟の声が上がっているらしく、信者諸君うろたえるな!とか一部「宗教戦争」の様相を呈しております(笑)。こっちにすれば、もうちょっとロードタイムが長いとそのスライス・タイム(待ち時間)でAsunderを一行ずつ仮訳していけるかなー、と思ったのですが、そこまで長くはない。何事も思い通りにはいかない。

 それよりも何よりも、「空のなんとか」から数えてもうすぐ十年(シリーズ全体は二十四年目だそうだ)、コアな部分を何一つ変更していないのがスゴイ。ここまでくるともう「凄み」と呼んでもいいかもしれない。見た目も中身も「零式」と似たようなお話になりつつあるんだろうけど、あちらのような意味不明な(独りよがりな)背景設定も全くないし、何ごとであっても「そらそうでしょ」と思うようなリアクションしか返ってこないから、なんにも考えないでプレイできてしまう。
 御多分に漏れず、せこくDLCで小銭を稼ごうとする世界だけは、どうにも好きになれないんですけどね。

 ゲイダーさんのTumblrがちょうど宗教戦争、じゃないや、Asunderのテーマに少し触れているので、ご紹介しておきましょう(Asunderのかすかなネタバレはありますが、お読みいただいている方にはもう中身の三分の二まで紹介しているので、ま、自明なネタですかね)。

***

http://dgaider.tumblr.com/

告白(コンフェッション):小説Asunderと異なり、DAゲームでは魔法の危険性、社会がメイジに抱いている恐怖、メイジに特別訓練が課される理由などがあまりに軽んじられ、簡単に脇に追いやられ過ぎていると思う。DAIでは、これらがいかに困難な状況であるかが描かれ、たとえサークルが消滅しようとも生半可な革命の企みなどがそのまま正解扱いなどされないことを願っている。メイジの自由という安直な発想などよりも、(ここで描かれるべき状況は)ずっと複雑でそれが故にずっと興味深いのだ。

ゲイダーさん:メイジの革命が明らかに良い結末を伴う最良の答えである、などという発想を提示した覚えはないよ。ただし、この問題をややこしくしている理由がふたつばかりある。

 一つ目は、ロア(ゲーム内世界の伝承設定)とゲームプレイの間の区分けの問題だ。我々も今までなんとか表現できないかと試みてはきたのだが、結局のところ、プレイヤー・メイジ(あるいはパーティー・メンバーのメイジ)がメイジ一般と同じ憂き目を見ることはない。彼らはディーモンの罠に嵌められたり憑依されたりしないし、その力を野放図に用いることも、そういう誘惑に駆られることもないので、もしパーティー・メンバーがそんな風な行動をとったとしたら、それは本人の性急さとか愚昧さが生み出したものとみなされるだろう。プレイヤー・メイジがそうした艱難辛苦に直面することは決してないし、いつでも簡単な選択で逃れられるのであるから、それが完璧に理不尽な結論づけというわけでもない。

 そういう艱難辛苦をプレイヤーに与えることも可能ではあるし、いずれはそうなっていくのだろう。ところがこれは、ゲームプレイに関連するエイジェンシーの問題でもある。プレイヤー・テンプラーがレリウム中毒にはならないし、DAOではウォーデン以外のパーティー・メンバーがあれだけダークスポーンと戦っても誰もブライトに汚染されないのと同じことだ。なんてついてる連中だろうね。

 この話題についてはこれまでも、そして今でも議論を繰り返しているのだが、ゲームプレイの要請を軽んじることはできない。ストーリーが現にその問題を「核心」に据えている(Asunderがそうであるようにプロットがそれを中心に展開していく)のでない限り、この種の問題がプレイヤーに意味のある影響を与えることは難しい。

 ところが二つ目の問題は、自由という言葉の意味が、とりわけ西欧社会に生活するプレイヤーたちの意識の根深いところに埋め込まれていることだ。プレイヤーを取り巻くキャラクターや世界を描く際には、そうした話題に対する固有の信条や対立自体が内包している先入観を予め有した形にするのだが、たとえそれらがプレイヤーに個人的に大きな影響を与えたとしても、多くの者たちは、自由は素晴らしくて抑圧はよろしくないという固定的な発想から抜け出すことはしないのだと思う。とどのつまりはね。

 物事を随分簡単に見ているんじゃないかって? そうかもしれない。私が思うに問題の一部は、人々がこの抑圧の問題を現実社会にどのように当てはめて見るかにあって、それ自体は元々我々が意図したアナロジーなのだから構わないのだが、多くの者たちが現実と創作の間の違いを忘れているか無視してしまっているのはよろしくない。現実社会の人々はファイヤーボールをぶっ放したり、運悪くアボミネーションに変化したり、ディーモンと取引をしたりしない。むしろこれは銃規制の問題により近い。銃を持った者たちがキレてしまって無辜の人々を出会いがしらに殺してまわり、ロボトミー手術でもしない限り武装解除できないような場合を考えるべきだ。たとえ統計的にそうした事件の発生が稀であるとしても、社会がそういう連中から自らを守ろうとしないだろうという発想に立つ人がいるのであれば、現実社会がそのような事態にどのように反応しているかを無視している。ファイヤーボールもアボミネーションもここには関係ない。

 なぜそんな発想に立つ人たちがいるのか? なぜならメイジは銃ではなく人だからだ。そして看守よりも囚人のほうがずっと簡単に同情を抱かれやすいし、とりわけ看守の意図が宗教的正義(righteousness)に支えられている場合なおさらそうである。看守の行動が理にかなっているからと言って、それを好ましく思うかどうか、あるいはその背景にある先入観を肯定するかどうかは別の問題だ。セダス大陸には歴史的にも(そして現時点でも)メイジの自由についての議論が常に悲惨な結果を招いてきた沢山の前例がある、という議論も成り立つ。だが誰しもが歴史に学んだりするわけではないし、「今起きている」問題は常に過去のものとは異なってしかるべきなのだ。

 それとも、本当に異なってしかるべきなのか? 現実でも創作の世界でも、それこそこの議論の本質なのだ。

 いささか奇妙に感じるのは、私がプライヴェート・メールで受け取る最も多い質問のひとつが、私個人がメイジとテンプラーのどちらを支持するか尋ねるものであるという事実だ。私の答えはもちろん、どちらも支持しない、またはどちらも支持するだ。私は双方の立場についてひと通り考えなければならない。ある合理的な人物がどちらかの側を支援するために思いつくような論点を提示できないのなら、それはあまり良い議論にはならないからね。ありがたいことに私の場合は、両方の立場で議論することができる。

 そういう風に言うと、私の意見だけではなく他の者たちの議論についても、自分の嗜好に基づいて結論付けたがる多くの者たちは、きっと私の言葉を信用せず、どちらかの側に傾倒しているはずに違いないと考えるのだろう。まあ、それも構わない。

 我々がDAIでこれらのことをどう取り扱うのかご披露できる日を楽しみにしている。だが、DAIのストーリー全体が「メイジ・テンプラー抗争」を中心にして回っていくと見なしているのなら、それは間違いだ。(もちろん誰でも予想がつくように)それが大きな部分を占めることに違いはないが、それだけでは終わらないほどとても多くの物事が描かれることになる。ご参考までに。

***

 たとえばThe Witcherシリーズのように主人公ゲラルト固定であれば、(一種のアボミネーションでもある)彼に対して社会が抱く畏れと、一方でその資質に頼らざるを得ないというアンビヴァレントな立場さえ描いていればいいわけで、元がそういう題材の小説であることもあり面倒が生じることは少ない(ゲラルトこそ薬物中毒に陥る可能性大という設定ですが、ゲームプレイ上の影響はオン・オフできたと記憶している)。

 ロアとゲームプレイの間のトレード・オフは、主人公クラス・種族を多くの中から選ぶことが可能であったDAOでまず顕著に見られていて、セダスでは二重苦ともいえるエルフ・メイジ(女子まで入れると三重苦)の場合ですら、プレイ中に(抑圧や差別を)意識することはごく稀でした。
(この点はSkyrimも似たような感じで、主人公は一人でなんでもできる設計なので、カジートでもほとんど意識せずプレイできる。)

 ブライトとウォーデンが中心テーマであったDAOではあまり問題視されなかったわけですが、メイジ・テンプラー抗争がテーマとなったDA2では、主人公メイジ、パーティー・メイジが他のメイジに比べてあまりに自由奔放に活動できてしまうと感じられたのは間違いない(アポステイトであるメイジ・ホークを騎士団長メレディスが特に理由もなく野放しにしていたのは、シナリオ・ライター陣他のポカミスであったそうですが・・・)。
 DAIの世界ではサークルが全部廃止されているはずだからメイジは定義上全部アポステイト。DA2のような管理区分上の問題こそ起きないのですが、むしろパーティー内での(メイジ同志の)確執が熾烈になりそうです。

 「自由」についての議論はゲイダーさんの言うとおりでしょうが、彼自身も「西欧思想」にどっぷり漬かっていることに対する注意が必要です。
 かく言う私も、クリスチャニティへの懐疑にどっぷり漬かっている者ですから、これまた汚染まみれ。
 現実世界のクリスチャニティは最も虐げられているとみなされる人々(いわゆるマイノリティ)の救済を建前に構築されている思想であって、その意味で「囚人」は常に「看守」より上の存在である。ただし現実社会で唯一無謬かつ不可侵な「看守」が「教会」。

 「異能の者たち」を抑圧しているセダスのチャントリーは表面上違うように見えますが、結局は能力のない者たちとの相対的平準化(低きに合わせる)を目指しているのですから同じ。Asunderなどではディヴァイン(ジャスティニア五世)が現実社会のクリスチャニティ的(弱者救済の)発想を有しているかのようにも思えますが、実際やっていることが「異能者たちの復権」だとするとそれはまったく逆のこと。
 このテーマのことを「ずっと複雑でそれが故にずっと興味深い」というなら、その点はアグリーなのですが。

 同時に、Asunderが「ビックリするほど面白いわけじゃない」理由も実はそこにある。

 この先のネタバレにならないように書くとすると、エイドリアンが目指しているのは「自由」でもなんでもなくやりたい放題好き勝手の(自由の過剰であるところの)「放縦」、「平等」ではなく「平準」という名の悪平等(平等の過剰)。

 ロード・シーカー他テンプラー強硬派が目指すのは「規制」ではなくその過剰である「抑圧」、「格差」ではなくその過剰である「差別」。

 エヴァンジェリンが目指すのはこれらの間の平衡点である「公正」であって、本来の意味での「自由」と「平等」とはここのことを指すはず。この点でエクイタリアンズ(Aequitarians、公正派)・フラタニティの代表者であるウィンに発想は近い。そしてウィンの場合、特にリバタリアンズへの反論で出てきたように、ゲイダーさんの言う歴史に学ぶ態度が身に付いているように描かれている。(用語は一部西部邁氏のものを流用しています)

(追加)フランス革命のモットーである自由、平等、博愛の三幅対(トリアーデ、フランス国旗のトリコロールはこれのシンボライズしたものという俗説あり)を完成させるなら、「博愛」の過剰は「偽善」で、博愛に対抗する「競合」の過剰が「酷薄」(愛情の反対語は憎悪ではなく愛情の欠如、無関心なんですね)。

 Asunderの本編中で、ウィンが心の底からエイドリアンに愛想を尽かしてこう述べてますね。「メイジすべての利益を第一とする(博愛を旨とする)リバタリアンズにしては、自分の基準に合わない者(ファラモンド)を随分とあっさり(酷薄に)切り捨てるものだ」と。
 対してエイドリアンはウィンのことをのちに「偽善者」呼ばわりしますね。

 実はゲイダーさんは、上の三幅対を至上と考える発想(エイドリアンがそうです)に対して「本当にそうか?」という立場でアンタイセシス(アンチテーゼ)を用意してるんです(ウィンがそうです)。そこがAsunderのひねっている部分のひとつであり、ましてや「メイジの革命」が安直な正解であるなど、選りによってゲイダーさんが言うはずがないことはすでにおわかりですよね。まあ・・・、それを背徳のように感じる人が多いかもしれない。(追加終わり)

 おわかりのとおり、こんな(放縦でも抑圧でもない、平準でも差別でもない、あるいは偽善でも酷薄でもない)平衡点が容易に実現するのなら、現実社会なんてバラ色になっているはずです。
 そもそもこんな話をファンタジーでやって面白いはずがない。
 あちらでは「ゲーム・オヴ・スローンズ」はバカ受けだそうです。ゲイダーさんたちの目指しているところは、それよりもさらに(文学まではいかずとも文芸的なかおりを漂わせる)方面なんでしょうか。個人的にはそこが面白いところですが・・・。チャレンジング。

2013年9月26日 (木)

【DAI】Dragon Age Asunder (13-2)

 コールは城塞上部にある玄関待合所の闇の中に隠れていた。窓の外には晴れあがった夜空と月が見えるが、そのぶん室内はこれまでどおりの心地よい暗闇に覆われていて、何も見えない。彼はここで起きた惨劇を想起させるものは何も目にしたくなかったが、今訪れているような完全な静寂はそれ以上に耐え難いものだった。

 つい先ほどまで、あたりはとても静寂とは言えなかった。誰かの怒号で目を覚ました彼は、漆黒の闇の中を声のする広間のほうにゆっくり近づいていった。そこではリースとほかの者たちが口論していた。メイジたちの杖から発せられる明かりが照らし出している不自然な沢山の屍と燻っている煙から、その室内で何らかの戦いが繰り広げられたことがわかった。

 彼らが言い争っていたのは、ぼろぼろのローブ姿の、コールの知らない風変りなエルフの男性についてであった。騎士隊長が彼の殺害を意図しており、それに赤毛が抵抗していたが、誰もそのエルフの考えを尋ねようとはしていなかった。遠く離れた彼の場所からもエルフの眼に浮かんでいる絶望がはっきり読み取れた。彼は自ら死を欲していた。もし自分のところにやってきたなら、彼を暗く安らかな忘却の彼方に送り込むためコールは喜んで手を貸しただろう。

 コールは、リースに助力が必要なときの用心のためダガーを握りしめながら、部屋の隅まで忍び寄っていった。だが緊張に満ちた場面は唐突に終わった。どんな結論になったのかコールには定かではなく、また誰もそれに幸せを感じているようには見えなかったが、中でもエルフの男が最も不幸であるのは間違いなかった。コールは希望に見放され孤独なまま跪いているその男のことを気の毒に思った。

 コールはこれから何をすべきかわからずにいた。先ほどの夢の記憶は、ふだんの夢と同じように細部の多くが消え去っていたが、その核心はまだ居残って彼を苛んでいた。埋められ腐ったものから生まれる泡のように記憶が立ち昇り、その腐臭を感じることができた。

 自分が父親の胸の上にしゃがんでいる朧げな記憶が蘇る。彼の命を奪ったのが自分であることをわからせたくて、コールはダガーを父親の目の前にかざしていた。もう誰も傷つけさせないように。父親の口からは命乞いの言葉の代わりに血がごぼごぼ吐き出されていた。

 父親の心臓にダガーを埋めたときの充足感は彼の心に刷り込まれている。ダガーは母親のもので、父親から捨てるように命じられた物騒な刃物の中から、彼女が一本だけ庭に埋めて隠しておいたのだ。その様子を見ていたコールが、その場所から涙に暮れながら素手で掘り出したことも思い出した。

 妹のこともとてもよく覚えていたが、その考えが浮かぶとたじろいでしまうため、できるだけ思い出さないようにしていたのだ。だが、いくら追いやろうとしてもそれらの記憶が消え去ることはなく、まぶたを閉じるたびに望みもしない光景が浮かんでくるのだった。

 大丈夫か、と呼びかけられて彼は動揺した。周囲の音に注意を払っていたつもりが、ずっと自問自答をしていたので、リースが近づいてくることに気がつかなかったのだ。リースの杖から発せられる銀の光が暗闇をほんの少し押し戻し、コールはありがたく思った。

 結局誰もリースを傷つけようとはしなかったので、リースには自分の助けは必要なかった、言われたとおりタワーに戻ればよかった、とコールが認めてもリースは何も言わず、タワーで出会ったときのように憐れみと配慮に満ちた目で彼のことを見つめていた。見つめ返すのが辛いコールは地面に眼を伏せ、リースが隣に腰を下ろそうとしたときにもたじろがないように努めた。

 数分の間、お互いに言葉を発することなく、リースの杖の発する低い唸るような音以外は静かだった。ようやくリースが口を開き、フェイドで訪れた家がコールの生家で、現れたのは父親であったのかと尋ねた。コールはそれらを認めた。
 またしばらく沈黙が訪れた。それからリースが頷きながら、コールの身の上に起きたことはとても気の毒に思うと言った。サークルで生まれ育ったリースには、それ以外のメイジの暮らしぶりは話で聞く以外わからないが、多くの者はその話さえ語りたがらなかったという。 

 コールは返答に窮した。彼自身が他のメイジたちと話をしたことはなく、メイジたちが生まれ育ちを話題にするのも聞いたことがなかった。手に入れられなかったものについて話したがらないのかと思っていたが、もしかしたら過去を忘れ去りたいのも理由なのかもしれない。 

 コールはようやくリースと眼を合わせたが、まるで自分の個人的な何かをリースに奪われ、二度と取り戻せないかのような感じがして奇妙に居心地が悪かった。そのようなものがあること自体、コールは夢の世界に入るまで知らなかったのだが、今となっては二人の間にこの厄介なものが横たわっていることがわかる。 

 妹の身に起きたことで自分を責めなくていい、というリースの言葉を聞いて彼から目を逸らしたコールは、自分の頬が赤くなるのに気が付き、泣くか叫ぶかどうにかしたい衝動に駆られた。身体の中のどこかに慣れ親しんでしまうくらい長い間ずっと抱えていた暗く重い塊が、彼を静かに蝕んでいたのだ。 

 妹のことはよく覚えていないと言うコールに、リースは嘘だと言った。コールは、あんなことをするつもりはなかったと告白した。静かにしないとパパに聞かれてしまうから黙らせたかっただけで、ずっと静かだったから妹はよい子にしていると思ったのだ、と言った。コールが言葉に詰まると、その肩にリースが手を置いた。 

 コールは、リースが自分を怒っていないことが嬉しかった。霊廟で戦って以来、リースはコールには二度と会いたくないと思っているに違いなかったし、そう思われて仕方のない仕打ちをしたのだと諦めていた。安堵のあまり涙がこぼれてきて、次にそれがまるで泉のように湧き出し、最後に自分がすすり泣いていることに気が付いた。 

 コールは、自分を固く抱きしめているリースの肩に顔を埋めて泣きながら、自分は今までただの一度も泣いたことがなかったかもしれないと思っていた。自分の心があまりに乾ききっていたため、涙は馴染みのない、望ましくないものに思えた。とはいえ、泣くのは惨めな感じがすると同時に気持ちのいいものでもあった。 

 それからコールは、別の誰かが部屋にいることに気がついて凍り付いた。リースも部屋の入口に目をやる。そこには騎士隊長が立ったままふたりを見つめていた。彼女の鎧の胸の太陽の紋章には、誰かがバツ印をつけたかのように黒い焼け跡がついていた。 

 彼女は、リースを疑っていたことを詫びた。それから、他の者たちがファラモンドの身の回りの品を集めている最中に彼が姿を消したので、誰を探しに行ったのかは容易に想像がついたと言った。 

 彼女にはコールの姿が見えていた。だが彼女はふたりに近づこうとする途中で足をとめ、それはコールの呪いが解けたことを意味するのだろうかと尋ねた。
 リースは、彼女がフェイドでコールの姿を見たことが変化の理由かもしれないと言った。だが、それが永続するかどうかはわからず、彼女はまたすぐコールのことを忘れ去るかもしれないという。 

 その通りだと思ったコールは内心穏やかではなかった。だが同時に、自分から交流を求めなかった人物に自分の姿が見えているだけではなく、記憶に留められていることにも気が付いた。夢の世界ではさほど現実味もなかったことだが、今ここでは確かな感じがする。

 だが、彼女はコールがそこにいることを心から信じているようには見えず、すぐに何か別のもの、例えば昆虫やディーモンに姿を変えるのではないかと疑っている様子だった。とうとうコールは、自分を殺すつもりか、と彼女に尋ねた。 

 リースが不安げに騎士隊長を見やると、彼女は首を振って、今日はもう十分過ぎるほどいざこざを経験したから、と言った。

 彼女は以前よりもゆっくりとコールに近づき、すぐそばで跪くと、その綺麗な目でコールを見つめた。そして、あの夢の中で、コールの身の上に起きたことを自分も感じることができたと告げ、コールの犯罪が裁かれずに済むとは言わないが、少なくとも自分が断罪することはないと付け加えた。
 コールは返す言葉が見つからなかった。  

「私たちと一緒にサークルまで戻るの」と彼女は続けた。
「ロード・シーカーのリースに対する疑いを晴らすためには証拠がいる。あなたの呪いが解けないのなら、私にできたように、ロード・シーカーにもあなたの姿を見せるようにする。それから先のことは・・・、私はできるだけあなたの肩を持つ。約束できるのはそれだけ」 

 リースは嬉しそうに彼女を見たが、彼女の視線はコールから少しも逸れなかった。そこに見えた誠実さをコールは信じることにした。

「どうして僕の肩を持つ?」
「テンプラーの責務は第一にメイジを守ること。私たちはあなたを守れなかったというリースの言葉は正しかった。サークルにあなたを救う手立てがあるかどうか、試してみるべきだと思う」 
「連中は彼をトランクィルにしてしまうだろう」とリースが言った。
「まさかそれを忘れていないよね」

 彼女の表情は思いやりに満ちていた。

「そんなにひどいことかしら?」

 夢のない世界、記憶のない世界。暗闇に呑み込まれる恐怖も、永久に消え去ることに怯えることもない世界。

「いや」 コールが呟いた。「さして悪いことでもないと思う」 

 騎士隊長が自分に差し伸べた手を、コールが取った。

2013年9月24日 (火)

【DAI】Dragon Age Asunder (13-1)

 回りの世界が実にゆっくりとしか明瞭になっていかないので、リースは自分が実験室の床に横たわっていると気が付くまで数分を要した。他の者たちも一様にふらついていた。心にかかった霧が晴れていくと、むしろさっきいた世界の方が現実かのような錯覚に囚われもした。

 魔法の残滓が空中に帯電しているかのようで、まだ入口の開いているフェイドから不快な風が吹き込んでいるように感じられる。リースはその魔法に触れた身体の部分を掻き毟りたい衝動に駆られた。

 実験室は以前と何の変化もなかったが、唯一ディーモンだけが、醜く歪んだアボミネーションから長い白髪の老エルフに姿を変えていた。顔は血の気なく、ローブは汗まみれで、椅子の手すりを固く握りしめる両の拳が骨のように白かった。

 エルフが荒い息遣いで、ここは現実かと言葉を発すると、それが不自然な静寂を破ったかのように全員の注目が集まる。ウィンが四つん這いのままで結界のすぐ外まで近づき、ファラモンドの名を囁いた。

 信じられない様子でウィンを見つめたエルフの両の碧眼からどっと涙が流れ出し、身体が震えはじめ、しばらくすると突然耳障りな声で笑い出した。彼は椅子から飛び跳ね、部屋の隅々を呆けた涙まじりの笑みを浮かべながら見まわした。そして、自分は本当の自分に戻ったんだ、と叫んだ。

 彼は歓声をあげながらウィンのところまで駆け寄ると、彼女を立たせてその手を固く握り、口を何度もぱくぱくさせ、ついに抱き着いて何度も感謝の言葉を口にした。

 立ち上がったリースは身体の痛みに顔をしかめた。フェイドの時の流れは永遠にも感じられたので、自分の身体がここにどのくらい置き去りにされていたかはわからない。儀式を始める前に他のディーモンたちを倒しておかなければ、皆確実に死んでいただろう。永久にフェイドに囚われ、夢の世界から抜け出せない理由もわからず、最後にはそうする意義すら忘却したことだろう。

 近くではゴーレムが石の眉をしかめている。その隣でエイドリアンが自分の肩を擦りながら、ウィンを不信の目で睨みつけ、柄にもなく無口を保っている。リースはふたりの間に何かあったのだろうかと訝しんだ。
 ようやく立ち上がったエヴァンジェリンが何を考えているか、彼女が剣を抜く前からリースにははっきりわかった。

 エヴァンジェリンは剣をファラモンドのほうに突き付け、ウィンに彼から離れるように告げた。その姿を見たエルフの表情が喜びから恐怖に変わり、真意を訊ねながら後ずさりした。エヴァンジェリンは言うまでもないことだと告げ、剣を逸らさず歩み寄る。

 剣が自分の胸先近くに向けられることも頓着せず、ウィンがふたりの間に割って入り、殺生は無用だと言い放つ。シェイルも殺気立った様子でその傍らに立つ。

 エヴァンジェリンは、姿は戻っても憑依が解けた証しにはならない、ディーモンの詐術が続いていないとどうしてわかる、とウィンを詰問する。
 詐術などではない、と言ってウィンが自分たちの足元を指し示す。ファラモンドはすでに結界の外に歩み出ていたのだ。

 エヴァンジェリンはしばし黙考すると渋々剣を下したが、鞘には戻さなかった。そして、いずれにしろファラモンドには山ほど釈明しなければならないことがあるはずだと詰め寄る。

 問われた意味がわからず、途方に暮れている様子のエルフに、その所業によって城塞の無辜のともがらが一人残らず死に絶えたことをエヴァンジェリンが告げる。雷に撃たれたようになったエルフは大きく見開いた眼で彼女を凝視し、気遣って近づこうとするウィンからも飛び跳ねると、実験室の扉のほうに向かって駆けだしていく。
 エヴァンジェリンは責めるような視線をウィンに向けると、すぐにエルフを追い、他の者たちも後に続いた。

 ファラモンドは実験室のすぐ外で両膝をつき、恐れ戦いていた。黒焦げの屍があちこちに転がり、燻る煙には肉の焦げた匂いと腐臭が漂う。胃がむかつきはじめていたリースにとっては、暗闇で様子がよく見えないことが幸いだった。

 彼らを守るつもりだった、と言ったエルフは打ちひしがれた様子で首を振った。エヴァンジェリンから城塞の扉を封印したことを指摘されると、それも用心のためで、城塞長(Lord Mayor)からの提案でもあったと答える。実験には城塞の者たちが快く協力していたのだ。ファラモンドは身体を震わせ、皆を殺した責任は自分にあると啜り泣きながら認めざるを得なかった。

 落ち着かなげに見つめるリースにとって、エルフが涙に暮れる様は尋常な悲嘆などではなく、その身体から苦悶を無理やり引き摺り出されているかのように思われた。顔を両手で覆いながら咽び泣くのにあわせてエルフの身体全体が震え、前後に大きく揺れていた。

 ほんの少しだけ躊躇ったウィンが駆け寄ってエルフの隣に跪くと、気持ちはわかるが、ここに留まるわけにはいけないので気をしっかり持てと宥めるが、真っ赤な両眼を涙でかすませたファラモンドは、すべての感情が再び戻ってきてしまった今、嘆き悲しむのをやめることなどできないと言う。

 それから彼は床に崩れ落ち、灰を掻き毟りながらまるで幼児のように大声で泣き喚いた。ウィンが助け起こそうとしても叶わず、彼女は困惑した様子で他の者たちを、とりわけリースのほうを見た。

 トランクィルのままでいたよりも、今のほうが悲惨なのは間違いない。何の感情も抱かなかった状態から、一気にすべての感情を取り戻し、今ただその感情に翻弄されているだけの彼を見るのは、罠にかかった獣が苦悶する様子を見るのと変わらない。リースの心の一部は彼を救えと叫んでいるが、体はついに動かなかった。

 エヴァンジェリンがつかつかと歩み寄り、ウィンの制止も無視してファラモンドの肩を掴んで立たせると、その顔を横ざまに張り倒した。金属の小手の強烈な一撃は、エルフの身体を泣き声すらあげさせず弾き飛ばした。
 誰もしなければ自分がそうした、とシェイルが嘯いた。

 立ち上がったウィンの顔は怒りで歪んでいたが、言葉は発しなかった。張り手の効果は如実に出ていて、もはや泣き叫ぶことをやめたファラモンドは、赤く腫れた頬を押さえながら立ち上がり、エヴァンジェリンを用心深く見つめている。

 エヴァンジェリンから事の顛末を問い質されたエルフは、しばし躊躇して許しを請うようにウィンのほうを見やる。彼女はエヴァンジェリンにもはっきりわかるように頷いた。

 ファラモンドは長年にわたってライト・オヴ・トランクィリティの実態を研究していた。メイジがフェイドとの結合からどのように分断されて夢を見ることのない存在に変えられるのか、どうしてそれがディーモンの憑依を防ぐのか、その代替策はないのか、それらを解明するのが彼のライフワークであった。

 トランクィルは要請されたこと以外は何もしないはずだとエヴァンジェリンが言うと、その認識は誤りだとファラモンドが反論する。彼によればトランクィルは端的に何も欲望しないだけで、自由意志は有している。だがまた、どのみちこの研究はチャントリーによって彼に委任されたものであったことも告げた。チャントリーの関与についてはウィンも何も知らないようであった。

 いずれにしろ、チャントリーがディーモンの召喚まで認めるはずがないことはエヴァンジェリンが指摘するまでもなく明らかだ。ファラモンドは、ディーモンの召喚を意図したのではないと弁明する。

 トランクィリティの治癒を行うには、フェイドの内側から措置する必要があることは早い段階からわかっていた。スピリットがその橋渡し役を担う必要があるのだが、正確にどこに橋を架けるか知らしめなければならない。問題はトランクィルの姿がスピリッツの眼から不可視になってしまっていることだ。

 トランクィルはスピリッツから不可視なのではなく影響を受けないだけではないのかというエヴァンジェリンの認識もまた誤りだ、とファラモンドは反論する。それが最も得意な話題だと自負しているらしい彼によれば、スピリッツは単にトランクィルに無関心なだけなのだ。

 ディーモンが誰かに憑依するのは、その人生を経験したいという欲望のせいだ。トランクィルはその意味で無生物と変わらないし、より悪いことにトランクィルは憑依に抵抗する。トランクィルに憑依させようとするなら、ディーモンが橋を渡るように何らかの方法で誘引しなければならない。
 ファラモンドの実験の目的は、憑依されることではなく、その橋渡しが可能であると確かめることであった。スピリッツと交流するためにヴェイルの薄いここにやってきたのだ。 

 ファラモンドは悲嘆に暮れた顔つきで、黒焦げの屍のひとつの傍に跪き、それに触ろうとして思い止まった。急いで手を戻した彼の眼からはまた涙が溢れだしていた。ファラモンドによれば、城塞の人々は彼をまるで家族を扱うかのように心から歓待していた。心に傷持つ身のファラモンドが癒されることを願っていた。危険を承知で彼に手助けを申し出てくれ、彼も理論上危険はないと考えていた。

 エヴァンジェリンが首を振り、彼らの死は無為に帰したのであり、ファラモンドが得たどんな知識も無価値であると断じると、ファラモンドはそれにも異議を唱える。今度はエイドリアンも興味を示した。

 ファラモンドは当初、自分とフェイドとの結合を復元するためには、ディーモンが自分への憑依を試みる必要があると考えていた。だが実際には、ディーモンが架け橋を渡って自分の精神に触れるだけで十分であった。その瞬間、彼は治癒されて結合が復元した。憑依はまたその先の話だったのだ。

 リースは、その役割を果たすのはディーモンである必要はなく、十分に強力ならどんなスピリットにも可能だと指摘する。
 ファラモンドがそれに同意して、その場合にはスピリットを宥めすかす媒介者の存在が必要だと付け加えると、リースは、自分がそのひとりだと告げた。

 その言葉の本当の意味が皆の腑に落ちるまでしばらく沈黙が流れた。エイドリアンが首肯するが、エヴァンジェリンは同意するのを拒否し、周りの様子を見れば、実験を繰り返すことが愚行以外の何物でもないことは明らかだと非難する。
 エイドリアンは、ファラモンドは現にトランクィルから復帰できたのだし、ここで死んだ人々の命を無駄にしないためにも実験の成果は役立てるべきだと主張する。

 エヴァンジェリンは、トランクィルからの復帰は誰の得にもならず、ファラモンドにしてもこのまま悲惨な状態から立ち直らなければ復帰した意味もないと反駁する。彼女はさらに、そもそもトランクィリティの目的自体は依然として成立しており、むしろ今のファラモンドの存在は、この城塞の人々にとってそうだっただけではなく、他の皆への脅威になってしまったと断言する。

 ファラモンドが確かにそうだと認めると、その女の話を聞くなとエイドリアンが咎める。彼女は剣を構え直したエヴァンジェリンとファラモンドの間に割って入り、トランクィリティに代わる方策を発見できるのはファラモンドしかいない以上、ここで殺してはならないと主張する。
 エヴァンジェリンは、彼の知識は血塗れの手で得たもので、研究を続ければさらに流血が続くのであり、誤った希望に夢を託してはならない、と固い表情のまま応じた。

 ファラモンドに近づこうとするエヴァンジェリンを身を挺して遮りながら、エイドリアンは悲壮な声でリースに助けを請う。テンプラーにはこのような仕打ちをなす権利はないというのがリバタリアンズの日ごろからの主張であり、サークルが長きにわたってメイジたちに強いてきた苦行を今こそ覆す機会ではないのか。

 エイドリアンにとってはそうに違いないだろうが、リースはそこまで確信することができなかった。仮にファラモンドの実験を誰にも危害を与えず再現できるのだとしても、そうすべきだとは思えない。エヴァンジェリンの言葉に間違いはない。

 逡巡するリースのことは諦め、エイドリアンは今度はウィンに支援を訴える。
 ウィンは心中を推し量ることのできない表情のまま黙ってエイドリアンを見つめており、その落ち着いた態度がリースを驚かせた。やがて彼女は、ファラモンドが責苦を受けるのは心外であり、手に負えないから即座に罰するという発想も好まないが、ディーモンを召喚してしまった事実だけは事故では片づけられない、と言った。

「だからそれになんの違いがあるというのよ! 選りによってあなたにそれがわからないはずがない!」

 エイドリアンが問い詰める。ウィンは立ち上がり、杖をしっかりと握りしめてエイドリアンを睨み付けた。

「選りによって私だからこそ、違いがわかるのです」
「偽善者!」

 エイドリアンの示す敵意が尋常ではないことに慌てたリースが介入するより早く、エヴァンジェリンが割り込んだ。
 話し合いはここまでだ、と告げたエヴァンジェリンは、剣を振り上げてファラモンドに対面する。

「お前は禁断の魔術を用いて、無辜のともがらたちをおぞましい運命に追いやった。その科(とが)は看過しようもない。テンプラー騎士団の名に懸けて、私がここに・・・」

 怒りの絶叫をあげたエイドリアンの杖から魔法の一撃が繰り出され、エヴァンジェリンの鎧の胸当てを直撃した。その衝撃で彼女は周りにいくつもの屍が横たわる床の上に弾き飛ばされた。彼女は驚愕のうめき声をあげたが、剣はしっかりと握ったままだった。

 驚いたリースがエイドリアンを咎める。

「一体なにをするんだ!」
「ここに着いたときにやっておくべきだったことよ!」

 リースが見やると、ウィンは顔をしかめて事態を見つめるだけで介入するつもりはないようだった。シェイルも彼女の傍に寄り添っている。

 立ち上がって胸板から焦げ跡をこすり落としているエヴァンジェリンの表情は恐ろしげなものに変わっており、礼儀正しく振る舞う気持ちは捨て去ったようだ。今のは度を越していた、と唸った彼女は戦いの構えをとり、魔法を無力化するテンプラーの白いオーラを剣の周りに集め始めた。エイドリアンも魔法のマナを集めており、両手のそれぞれが赤い焔の玉で包み込まれている。

 やめろ、と叫んだ声が自分のものであったことにまたしても後から気が付いたリースは、勝手に動く自分の口に対して毒づいた。エヴァンジェリンが躊躇し、エイドリアンですら彼の方を見た。二人の間の緊張は一触即発で、一度火がついてしまったら取り返しはつかない。唇を舐めたリースは、それがからからに乾いていることに気が付いて驚いた。

 他に方法があるとゆっくりした口調で告げたリースは、周囲が沈黙する中、ふたりの間に歩み入った。エイドリアンがリースを睨む怒りに燃えた目は自分の肩を持てと告げていたが、どれだけ期待されても彼にはそのつもりはなかった。他の方法とは何か、とエヴァンジェリンが懐疑的な調子で尋ねた。

 リースは、ファラモンドに実験を依頼したチャントリーは彼の意図こそ知らなかったかもしれないが、その成果には価値を見出すのではないか、と言ってしばらく黙った。エヴァンジェリンはそれに答えずエイドリアンを睨み付けたままだ。リースはさらに続けて、このエルフの身柄はチャントリーに引き渡して、判断も預けてしまえばよく、ここで断罪する必要はないと言った。
 だが自分には与えられた任務がある、とエヴァンジェリンが応じる。

 ウィンはリースの横に立ち、突然事態に興味を抱いたかのように切り出した。自分の任務はディヴァイン猊下直々に承認されたものであり、エヴァンジェリンの任務がロード・シーカーの命によるものだとしても、彼すらも猊下の配下にある。この件にご興味を抱かれるとしたら猊下ご本人に違いない。

 エイドリアンは話し合いに苛立ち、焔の玉を高く掲げた。彼女が戦いを欲していることがリースにはわかった。一方エヴァンジェリンは、リースの提案を吟味しているようだ。その剣からエナジーは消えていないが、思慮深げにファラモンドのほうを見やっている。

 本当に自分で決断したいのか、とリースに問われたエヴァンジェリンが剣をゆっくりと下げると、それを取り巻いていたオーラも消えた。そして自分はテンプラーの一員であると同時に、チャントリーの配下にもあり、両者の判断が一致するのは間違いないだろうが、チャントリーに決断を仰ぐのはやぶさかではないと応えた。

 エイドリアンは失望した様子で、両手の焔を消し去って後ろに下がったが、リースを一瞥した表情から彼女が彼の介入をどう思っているかは一目瞭然であった。

 これで一件落着だとウィンがその場を引き取り、一行はこれからヴァル・ロヨーに戻ることになるが、自分はディヴァインに予め便りを送り、決断を彼女に委ねる旨伝えることにする、と告げた。
 チャントリーが事の顛末を嫌ったらファラモンドの処分はどうなるか、とエイドリアンが尋ねると、ウィンはそれさえも見守るしかないと返答した。

 エヴァンジェリンも頷いて剣を鞘に納めるが、室内の緊張が弱まった気配はまったくない。エイドリアンとの間に交わす視線は、いずれふたりが決着をつけなければならないだろうことを物語っている。リースにはエイドリアンが強硬な態度をとる理由がわからない。エヴァンジェリンは理不尽に振る舞おうと思えば容易にできたのだ。だが彼女は決断を上位者に委ねた。むしろそれこそ容易にできることではない。

 ウィンは、ファラモンドに手を貸して立ち上がらせる。自らの先行きも含めて事態が把握できず、困惑しきっている様子のエルフにリースは同情した。リースと同じように彼も迎えるべき運命が少し延期されただけかもしれないのだ。その代り、流血の事態を回避することはできたのだが。

 うつろな目で周りの屍を見つめるファラモンドは悲しげだ。一行が立ち去れば、ここも周囲を取り巻く土地と同じく不毛な場所となる。過去の住人たちに何が起きたか知る者が、ここに代わりに棲みつくこともあり得まい。この城塞は今や墓場となった。

 ここで禁断の知識が探究されたことを標すには、それが似つかわしいのかもしれない。

2013年9月22日 (日)

【DAI】Dragon Age Asunder(コメント4)

 ようやくフェイドから脱出。

 すでに要約というレヴェルちゃうやん、べた訳じゃん、という批判が出てもおかしくなりつつありますが・・・。 

 まじめにワードカウントして文字数を抑えようとしているのですが、ただでさえ無駄な遊びの少ない小説で、かつ何でもありのフェイド編で省略なんてしたら、ラノベとあんまり変わらなくなる(ちょうどGyaoのハルヒ無料全部見せで「夢オチ」やってたもんで・・・)。 

 フェイド編、ぶっちゃけ全部どこかで見聞きしたようなシーンの連続なのは仕方がないのです。夢ネタのほうが自由度が高いかというと、ふつーは陳腐で定型的なものになりがちなんですね。結局どこかで見た何かに似てきてしまうので、どうしても細部に凝って差別化するしかなく、そうなると省略なんてできないんですよね。 

 アーチディーモンが登場したのは、せっかくウィンとシェイルが登場しているのだからご愛嬌、友情?出演ということでしょう。 

 コールの家庭環境?は、歪んだ宗教観に裏打ちされたドメスティック・ヴァイオレンスの典型で、唯一神の問題を家父長制に押し付けるなら(それが歪んだ宗教観でもあるのですが)、そのままミソジニー(女性嫌い)問題にも通じます。
 この手の話はどうにも食傷気味なんですが、やっぱあちらでは説得力があるのかとても多用されている。それだけ身近なのでしょう。 

 ホワイト・スパイア編は「ビッグ・ブラザー・ウォッチング・ユー」に代表される管理社会、ディストピア。「カッコーの巣の上で」、「時計仕掛けのオレンジ」などのロボトミー・人格改変もの。これも例は枚挙に暇がありません。トランクィルの話題を突き詰めると必然的に導出される展開で、DA2の物語でも仄めかされた。いっぺん小説で描いておかなきゃなあ、ということでしょうね。
 ウィン(と彼女に憑依したスピリット)の活躍があって救われている感じでしょうか。

BIG BADASS BOSS

 任天堂、山内元会長が亡くなられました。謹んでご冥福をお祈りします。

 彼と任天堂の功績については、IGNのこの特集ヴィデオで語りつくされているでしょう。 

http://www.ign.com/videos/2013/09/20/game-scoop-celebrating-nintendos-badass-boss-hiroshi-yamauchi

 冒頭出演者が述べているように、仮に彼がいなければ、追悼ヴィデオに登場している彼ら(ゲーム・レヴュアー、エディター、ライター)たちの仕事自体もなかったかもしれないし、私だってこんなブログは書いていなかっただろうし、今あるヴィデオ・ゲームは何か全く違うものになっていたかもしれない。 

 実は舌禍問題もあったお方ですが、個人的には過去ビジネス雑誌のインタヴューで知った彼の発言が心に残ります。正確な引用ではないですが、こんな話でした。

「ヴィデオゲームは、地球の平和にも人類の発展にも一切貢献しない。そもそも人生に必要不可欠ではないものだ。
 元々いらないものだから,真剣に頭を使わないと売れないんだ」

 地球の平和にも人類の発展にも一切貢献しない。そのとおりで、むしろヴィデオゲームにうつつを抜かせること自体が、(少なくともその国家の)平和と、(技術や文化面での)発展の結果なんでしょう。 

 ファミコン30年(1983年発売)。もしあの形で、あの時期に世に出なかったら。もしそのあとでアタリのようになってしまったら。SEGA(一応PCエンジンのNECも、3DOのマツシタもあったけど・・・)との競争に負けても、そんときゃSEGAが代わりを務めたんでしょうけど、全く違う世界が展開していたでしょうしね。 

 そうか、仲の良かったお友達から「ドラクエ」(1986)なるものの存在を教えてもらってから、ほぼほぼすりー・でぃけいず、はや三十年か(私の場合出だしは三年遅いのだね)。そりゃあ、ふけるはずだわ・・・。

【DAI】Dragon Age Asunder (12-2)

 ウィンとゴーレムと一緒に市街地を歩いているエイドリアンは、周囲のすべてのものが奇妙なほど空疎になってきたことに気が付いた。
 街はもう燃えておらず、泣き叫ぶ人影もダークスポーンの群れも消え、寂れた通りには建物の暗い窓だけが並んでおり、寂寥を呼ぶ風がウィンの白いクロークを揺らしていた。

 事実、建物自体の様式もオーレイで見かけるような尖った屋根と白塗りの石壁主体のものに変化している。遠目に白い尖塔が見えはじめて、エイドリアンはここがヴァル・ロヨーであることにようやく気が付いた。自分たちはファラモンドが描く首都の光景の中にいるのだろうとウィンが言う。

 所用で首都の街中に出ることが多く、主要な通りはどれもよく知っているはずのエイドリアンも、ここが街のどの部分であるかはわからない。まるでそこに実際に訪れたことのない者が聞いた話だけに基づいて描いた街並みのようで、特に住人についてはすっかり失念したかのように、不気味なほど人の気配を欠いていた。

 道案内役として召喚されたウィスプが先を行くが、目的地がホワイト・スパイアであることはすでに明らかだ。問題は街中を移動することのほうで、現実にも入り組んで迷いやすい首都の街並みが、このフェイド版では事実上の迷路になっている。すでに何度も行き止まりに突き当たっては時間を浪費しているので、ウィンが焦燥しているのがわかった。

 エイドリアンがウィンに、他の者の助けなく彼女単身でここに乗り込んだらどうするつもりだったのか尋ねる。
 死んだだろう、とシェイルが口を挟む。
 ウィンはシェイルを苛立たしげに睨み、ここはディーモンが闖入者を捕獲する目的で仕組んだ罠であり、もし自分ひとりだったなら、隠れているディーモンはウィンと対峙するのを躊躇しなかっただろうと応じる。
 エイドリアンがそれでどうするつもりだったか繰り返し尋ねると、死んだだろう、とまたシェイルが口を出す。
 死んだりはしない、とウィンがいたずらっぽく否定し、今これからそうするように、そのディーモンを打ち倒しただろうと言うと、シェイルがさらに茶々を入れる。

「さっきのアーチディーモンを負かしたようにかい」
「厳密に言えば、さっきのアーチディーモンは私が造り出したもの」
「厳密に言えば、さっきあたしの目の前を老メイジが広場の端まで吹き飛ばされて行ったんだがね」
「ディーモンがフェイドの何もかもを創り出しているわけではないのは知っているでしょう、シェイル。連中は舞台を用意するだけで、あとは私たち自身が夢や悪夢で埋めてしまうの」
「もう少し当たり障りのない悪夢にしとけばよかったのさ」
「あなたの悪夢かもしれなかったのよ、シェイル。アーチディーモンの代わりに巨大なハトが現れたほうがましだったとでも?」

 そのほうがずっと燃えただろうと答えたシェイルに、それは次回訪問までお愉しみに取っておこうとウィンが応じる。そして、畢竟メイカーはシェイルの満足のためだけに万物を創造されたに違いないのだから、と皮肉を付け加えた。

 お互いの欠点を平気で指摘しあえるのは、ふたりが古い友人であるからだろうが、同時にエイドリアンは自分がよそ者扱いされていることにも気づいていた。ふたりが少しだけ自分の先を進んでいくのも、仲間扱いするつもりも会話に誘うつもりもないことをそれとなく知らしめるためだ。エイドリアンはリースと別れたことを心底寂しがった。 

 リースのことを考えると彼女の心は少し痛んだ。罰を与えるつもりで別れたのだが、彼に付いていくべきだったのだ。気に障ったのはディーモンの言葉ではなく、彼が自分を信用しなかったことだ。少し前までは気の置けない仲だったはずなのに、コールの話もサー・エヴァンジェリンの任務についても、リースは自分に話してくれなかった。リースはエイドリアンが秘密を守れないか、事態を悪化させないで済ませる分別がないと思っているに違いない。 

 確かに自分にも欠点があるが、それはお互い様だ。彼だって自分と同じくらいひどい癇癪持ちだし、容易に人を信用しすぎる。自分の身の上にまるで頓着しないので彼女が代わりに気を配ってきたのだ。彼は死に急ぐことに関しては見事に卓越していると言える。 

 正直に言えば、彼女は自分がリーダーを務めるリバタリアンズにひとりも友人がいない。回りにしてみれば彼女は臆病者たちを代弁してくれる役に立つ存在であるだけだ。リースだけがいつも彼女の肩を持ち、サークルのメイジが抑圧から解放されるべきだという主張も一にしていた。彼がいれば、変革を起こせそうな気がした。彼がいなければ、ただ孤独を感じるだけだった。 

 そのリースを、おそらくもっとも助けが必要なときに彼女は見捨ててしまった。彼女は彼があのコールのことを一番大事に考えているわけをどうしても知りたかった。彼がテンプラーの彼女を擁護するわけも同じくらい知りたかったが、それを知ればリースを永久に喪う結果になるかもしれないと考えると、不安で心が満ち溢れた。  

 エイドリアンが足を速めてウィンの隣に近づくと、老婦の顔つきが隠しようもなく険しくなった。意図せずフェイドに連れ込まれてからもずっと彼女に手を貸し続けている割には、大したお礼の返し方だとエイドリアンは思った。リースがこの女性について何らかの思いを抱いているのかでさえ、想像もつかない。確かにサークルでは傑出したメイジのひとりだが、リースとは何ひとつ似ていないし、これ以上母親らしくない女性がいるとも思えない。

 エイドリアンから息子のリースを手助けせずにファラモンドを救うほうを選ぶ理由を尋ねられると、ウィンはその質問自体に驚いた様子で、リースの身の上が心配ならエイドリアンこそ付いていけばよかっただろうと答えた。

 友人なら誰でも救うのか、家族よりも友人が大事なのはなぜか、とエイドリアンが食い下がると、ウィンはむっとしたようになって歯を食いしばり、エイドリアンは自分のことを何も知らないだろうし、リースのことはすでに救ったのだと言った。 

 見えないメイジか何かわからない得体の知れない存在を救うために、しかもあのテンプラーと一緒に追いかけているのだからリースはますます危険な状況ではないか、とエイドリアンがさらに執拗に問い質す。「あのテンプラー」という言い方が面白かったらしく、ウィンは微笑みながら、あのテンプラー女性のことを個人的に本当に気にしていないのかと問い返した。

 彼女は任務の遂行以外眼中にないのだから、気にする理由などないが、リースがその意味するところを理解していないのが心配だ、とエイドリアンが答える。ウィンは見下したような態度になって、エイドリアンこそ理解しているのかと訊き返し、自分自身もチャントリーの責務は重要だと考えているし、ファラモンドはたまたま友人だっただけだが、彼を運命の手に委ねるつもりもない、と答えた。 

 彼の行いの結果を見た後でもそうなのか、というエイドリアンの言葉にウィンは足を止め、冷たい眼差しを返してこう言った。メイジすべての利益を第一に考えるリバタリアンズにしては、自分の基準に合わない者を随分と簡単に切り捨てるものだ。早計に過ぎるのはテンプラー騎士団の専売特許でもないらしい。

 エイドリアンは度肝を抜かれ、更なる口論を招くことなしにそれに応じる術が見つからないでいた。ウィンはその沈黙を肯定と受け取ったようで、自分には果たすべき任務と救うべき友人がいるが、エイドリアンにはそのどちらもないのだから、先ほどのような問いを向けるべき相手は自分自身だろうと断じた。

 老婦が足早に立ち去り、取り残されたエイドリアンをゴーレムが見下ろしていた。二人の間のやりとりを見世物として面白がっていたのに違いない。

 ゴーレムはエイドリアンに、老メイジを本当に怒らせた相手は一捻りにされてしまうから、もう少し注意深くなるべきだと助言した。
 シニア・エンチャンターの自分はそう簡単に捻り潰されたりはしない、とエイドリアンが強がると、シェイルは、エイドリアンはウィンの本当の姿を知らないという。だが、その中身を詳しく告げることはせず、ゴーレムはウィンの後をどたどたと追いかけ始めた。

 エイドリアンはもやもやした気持ちのまま立ち尽くした。ウィンが強力なメイジであることに違いはないが、アーチディーモンを一人で倒したはずもない。フェイドのこの部分を支配しているディーモンのところまで出向いて行って打倒するだけの自信がどこから生まれてくるのかわからない。エイドリアンは、自分は何かを見逃しているのだろうかと自問した。

 しばらくの間、一行は空っぽの街の通りを進んでいった。ウィスプの道案内は確かだ。通り過ぎる建物の戸口は皆開いており、フェイドではそれらはただの移動点で、目的地を念じて入ればほとんどどこにでも出ることができる。どうしてそれを用いないのかとエイドリアンが問うと、ウィンはディーモンの罠があるかもしれないので用心して徒歩で進むのだと答えた。  

 すべてが見慣れないものではなかった。遠くの丘の上に見える宮殿はエイドリアンが覚えているのと同じように煌びやかで、ベル・マーシ(Belle Marché、仏:ベル・マルシェ、ヴァル・ロヨー随一の市場通り)の街並みも現実どおりだが、溢れかえっているはずの商人や大道芸人たちの姿も皆無で人っ子一人いなかった。エイドリアンの知る限り、ここは夜でもごった返しているはずなのだ。

 近づくにつれ、ホワイト・スパイアが視界の中でどんどん大きくなっていく。天を衝く蒼白い槍のように見える塔の先端は、空に浮かぶ島のひとつに触れんばかりだ。現実のタワーより大きいことに気が付いたエイドリアンは、これがホワイト・スパイア、あるいはサークル・オヴ・メジャイそのものが意識の地平の大部分を支配している人物の想像の産物だろうと考えた。 

 タワーの入口に到着すると、ツタに覆われた鉄製の扉と玄関広間に続く巨大な扉がどちらも開け放たれている。警護のテンプラーもおらず、ここも人の気配をまったく欠いていた。

 自分たちの来訪を歓待しているようだ、とウィンが指摘した。どうせ入ったらすぐ扉が閉まって出られなくなるのだろうから、扉を蝶番から外しておくかとシェイルが尋ねると、目的は内部にあるのだからそんなことをしても意味はない、とウィンが応じた。 

 ウィンが手を振ると、案内役のウィスプが嬉しそうに上下に動き、そして消えた。背後の建物の間を巡る風以外、何も音はしなかった。
 エイドリアンが、これは気に入らないと不満を漏らすと、ウィンもため息をつきながら、ここには気に入るものなど最初から何もないだろうと答える。

 今までの街中とは異なり、玄関広間は現実のものと寸分違わないように見えた。だがエイドリアンが期待したメイジの一団は現れなかった。隅々までに警戒の目を向けるゴーレムが石の拳を強く握りしめるにつれて鳴る音が、エイドリアンの神経を高ぶらせた。

 テンプラーが兵舎として用いているはずの主要階で、最初の生きている人物に出会った。本来至る所に見かけるべきテンプラーの姿は全くなく、一行を出迎えたのは一人の男性であった。エイドリアンは最初彼のことをメイジだと思ったが、着ているグレイのローブから、すぐにトランクィルであるとわかった。

 男が歩み寄ってお辞儀する。落ち着いた笑いはトランクィルに共通のもので、何かが愉しいのではなく、その表情が回りを安心させるから身に付いた作法だ。エイドリアンはその笑顔が、さらに言えばトランクィルという存在自体が不愉快に感じた。自分自身もいつでもそういう立場にされうると考えると、彼女は動揺し、同時に憤怒の念がこみ上げてくる。

 トランクィルは一行に歓待の辞を述べ、何かをお探しかと尋ねる。

 相手を注意深く観察していたウィンは、攻撃に打って出ようとするシェイルのほうに目を向けもせず片手で制止する。不満げなゴーレムはその指図に従った。
 ファラモンドの居所を尋ねるウィンに、トランクィルは予想していたかのように頷いてタワーの頂上に行けというように上方を指さす。

 自分のことを尋ねられても、トランクィルは名乗るほどの者ではないと返答する。その静かな確信に満ちた物腰に戦いたエイドリアンは、本当にこれがディーモンでないとわかるのか、とウィンに囁く。ディーモンだとは感知できない、と返すウィンの言葉は自信がなさそうだった。

 男は辛抱強く笑顔を保ち、今までの一生を他者に危害を加える存在として生きてきたのだから、時代が移り変わった今でも、自分に対してそのような疑念を抱く者がいるのも不思議はないと言う。
 エイドリアンが「時代が移り変わった」という言葉の意味を問うと、男はここが忘れ去られるべき歴史の遺物であり、もはやサークル・オヴ・メジャイもテンプラー騎士団も不要となっていて、自分のように残りたい者たちだけが居座っているのだと告げた。

 意味が解せないと言うエイドリアンに、ついてくればわかると言って男が階段のほうに歩き始める。
 男に掴みかかろうとするシェイルを再度制止したウィンは、自分の杖に明かりを灯し、警戒を怠るなと告げるように一同の眼を見まわして後に続いた。

 階段を昇ると、ホールの中を静かに散策している他の男女の姿も見え始めた。誰も言葉を発せず、グレイのローブが床に擦れる音以外は何も聞こえない。

 エイドリアンは、メイジたちが集まっている階層に到着してはじめて、自分の中に言いようのない不安が高まっていた原因がわかった。現実でもよく見かけたように共有広間には多くの人々が集まっており、いくつかの塊を作って囁き声を交わしていた。だが、そこにメイジはひとりもおらず、全員がトランクィルだったのだ。一人残らず。

 これで理解できたかと、男がエイドリアンに尋ね、まるで愉しんでいるかのように人々の方を指し示すと、世界に秩序が戻ったのでテンプラーはもはや必要ないのだと言った。
 恐怖の震えがエイドリアンの身体を走った。これはファラモンドの悪夢であり、同時にエイドリアン自身のそれだったのだ。 

 共有広間に歩み入り、群衆の中を目で探すウィンの唇は不快さを示すように固く結ばれてはいるが、彼女はエイドリアンほどこの光景に打ちひしがれてはないようだ。誰もが落ち着き払っていて、平穏のとばりがタワーを覆い尽くしているかのようだ。エイドリアンは叫び声をあげて逃げ出したかった。

 ファラモンドはどこか、とウィンが呼びかけると、全ての会話が止み、トランクィルたちの眼が一斉に一行のほうに向けられたので、エイドリアンは鳥肌が立った。訪れた完全な静寂が、ここにいるのはトランクィルたちではなく、夢の一部か、あるいはディーモンたちであることをはっきり示している。彼らがいつ敵意をむき出しにしてくるかもわからないし、その数を考えればこれは非常に良くない状況だ。

 シェイルがウィンの傍らに近づき、叩き潰していいかと尋ねるが、待てという返答だった。エイドリアンは、何をするにしてもできるだけ早くしたほうがいいとつぶやいた。

 人ごみがさっと左右にわかれ、新しく現れたトランクィルに道を譲った。長い白髪のそのエルフの男性には威厳を感じさせる雰囲気がある。エイドリアンは、彼が実験室で見たエルフと同一人物であるとわかった。ディーモンに憑依され醜く歪められる以前の姿で、その碧眼だけは同じように穏やかさを湛えている。 

 男がウィンに歓迎の挨拶をして微笑みかけるが、ウィンは険しい表情を崩さない。その杖から発せられる白いオーラから、彼女がすでに魔法のマナを集めはじめていることがエイドリアンにはわかった。自分も用心のため呪文の備えをしておくべきかもしれない。室内の緊張は目に見えて高まっている。 

 お前はファラモンドではない、とウィンが断じると、自分はもうファラモンドと一心同体だと男が返す。そこから叩き出してやるとウィンが宣言する。
 男はくくっと小さく笑い、回りのトランクィルのほうを手で示すと、これがお前を待つ未来なのになぜ抗うのか、自分もファラモンドも、お前自身もわかっているのだろうと言った。

 自分たちの未来はこうではないとウィンが反論すると、男は、ウィンがそれを防ぐために何をしてきたのか、せっかく手に入れた余命を無為に費やして、努力とやらの結果は全てその掌から砂のように零れ落ちてしまったのではないか、と詰(なじ)った。 

 エイドリアンは、そのディーモンの言葉がウィンの急所を直撃した様を驚きとともに見つめていた。できるだけのことはやってきたと返すウィンの言葉には、迷いが色濃く出始めている。
 男が嗤って畳みかける。ブライトの戦いの偉大な英雄よ、具体的に何をしたのだ。もはや成就も叶わぬ目的にしがみ付く、萎びた心の持ち主である女しかここには見えない。 

 美形のエルフが近づいてきて、顎を片方の手で持ち上げてもウィンは抗えない。

 いっそトランクィルになったほうが幸せだろう。お前の人生は過ちで、すべてが無駄に終わったのだ。

 ウィンの睫毛に汗が滴る。手にした杖の発する光が弱まると、彼女は膝をがっくりと折った。ウィンとディーモンの間で見えない精神の戦いが繰り広げられており、ウィンがそれに負けはじめていることにシェイルもエイドリアンもほぼ同時に気が付いた。 

 ゴーレムが怒りの雄たけびをあげて突進し、エルフを石の拳で打ち払うと、相手は微かな音を立てて空中を飛んでいった。老婦は床に崩れ落ち、杖がその手から転がり落ちる。

 トランクィルたちが一斉に行動を起こし始めた。穏やかな表情のまま声ひとつ立てずにシェイルとエイドリアンに殺到すると、剛腕で掴みかかる。怖気を震ったエイドリアンはそれを振りほどこうと後ずさったが、髪の毛を掴まれ、杖を奪われそうになった。

 やめろと叫んだ彼女は焔の環を作り出し、周囲の者たちを焼き払った。トランクィルたちは苦痛の叫びをあげて後退する。エイドリアンは歯を喰いしばり、連中が生身ではなく夢の一部であることを肝に銘じていた。本当の敵はディーモンだ。

 彼女はさらに集中して、より深い部分からパワーを絞り出した。焔の威力が熾烈なまで高まったところで、ようやく立ち上がったディーモンのあたりにそれを放出する。白熱した火の玉がディーモンに直撃すると爆発し、周囲の者たちもろとも火焔地獄に包まれた。 

 トランクィルたちは悲鳴を上げて逃げ惑う。室内には煙と焼けた肉の匂いが蔓延している。精魂尽きたエイドリアンはがっくりと膝をついた。焔の作り出すもや越しに、シェイルが両の拳で当たるを幸いに敵を左右に弾き飛ばしているのが見えた。

 ディーモンが、まるで何事もなかったかのように、焔の中から歩み出てくる。無傷で、むしろ面白そうににやつきながらこう告げた。まさかこちらの本拠地のど真ん中で勝てるなどと思ってはいまいな。ここにやって来たこと自体が愚かだったのだ。
 それからディーモンが天を仰ぐように両手を突き出すと、タワー全体が揺れ始め、エイドリアンの心が挫けた。 

 そのときウィンが立ち上がった。もはや老婦の姿ではなく、内部から何かの力が溢れ出しているかのようであり、その態度は大胆不敵だ。お前こそ過ちを犯したのだ、傲慢の生き物よ、と叫ぶ声自体にこの世のものではない力が宿っているようで、あたりの暗闇を押し戻すとともに、エイドリアンの心の中も浄化の風で洗い清めた。

 いくら私の心を読もうとしても、お前には届くことのできない場所がある、お前が恐れているのはそれだ、とウィンが告げると、ディーモンから冷静な態度が消え失せ、腰を低くかがめ、歯をむき出しにして唸り声をあげはじめた。エイドリアンは、美形のエルフが醜く邪な何かに変貌していく姿を見つめていた。

 ここにお前の居場所はない、スピリットよ、この男を奪うことはできない。

 ウィンは、宙を滑るようにしてディーモンのほうに近づいて行った。ローブは透き通ったような銀色に変わり、それが風に舞って彼女のパワーのオーラを一層輝かせた。

 もはや男は奪い返した、とウィンが言った。片手でディーモンの頸を掴み、その身体を宙に持ちあげる。ディーモンは抗い、無為にもがき、そして悲鳴をあげはじめた。肌がひび割れはじめ、そこから光がこぼれ出てくる。その光が身体を完全に覆いつくすまで、ディーモンは燃え続けた。

 エイドリアンは調べを聴いた。

 それは至るところに聴こえた。彼女が心地よさと恐れを同時に抱いていると、それは一瞬で彼女を掬い取ってしまった。次に彼女は、タワーも、焔も、トランクィルの苦痛に満ちた悲鳴も、みな置き去りにしてずっと上空を漂っていた。その絶景がどんどん鋭敏なものになっていき、どうとう彼女はもうお仕舞いにしてほしいと叫びたくなった。

 それから覚醒した。

2013年9月19日 (木)

【DAI】Dragon Age Asunder (12-1)

 周囲の光景を見まわしたエヴァンジェリンは鳥肌がたった。彼女とリースがついさっきまで歩いていたのは廃墟となった市街地だったはずなのに、今ふたりはさびれた農園地帯に立っているのだ。見渡す限りの焼野原で、至るところに燻っている煙が目に痛い。

 遠くにはプロヴィンシズで良く見かける類の一軒のあばら家が立っており、枯れ果てた土地からの収穫で何とか生き繋いでいる惨めな人々の生活がその佇まいからうかがえた。灰色の壁板、はげた塗装、風は寂寥を運んでいる。

 エヴァンジェリンがここで間違いないのかと問うと、リースは真剣な顔つきで頷き返した。彼の頭の横には小さな光のオーブ、コールの居場所へ導いてくれるというスピリットが漂っている。彼女はそのちっぽけな存在さえもふたりを道に迷わせる意図があるのではないかと疑っていた。スピリットは自分の意志など持ち合わせておらず、生身の者が決して及ばないほどフェイドについて熟知しているのだというリースの言葉を彼女は信じたかった。

 ふたりは街から、あるいは「悪夢」から抜け出していた。汚染に満ちていた空は虚無に変わり、星や雲の代わりに島々が浮かんでいて、不思議な光の群れが見える。光は緑色から金色へと彩りを変えつつ、ときに明瞭になる以外はまるで虚空を埋める瘴気のように拡散していた。

 靄のずっと先に比較的大きめの島が辛うじて見え、そこには闇のとばりを纏った都市がある。かつてのメイカーの御座所(おわしましどころ)、今や人の愚行の証となったブラック・シティだ。エヴァンジェリンはそれがフェイドに常在する唯一のもので、この世界のあらゆるところから見えることを読み聴きして知っていたが、まさか自分で目にするとは思いもしていなかった。

 何もかもがぼやけて見え、エヴァンジェリンは身震いした。人々は夢の中で夜な夜なフェイドを訪れていて、その旅を単に記憶していないだけであるとメイジたちは言うが、彼女にとってここは生者のいるべき場所とは感じられなかった。

 あばら家に人の気配はなく、正面の開いた扉は風に揺れて規則的に音を立てていた。物干し場の白布は黒く汚れ、半分は地面に落ちている。ここはすべてが打ち捨てられた場所であった。
 リースはここがコールの生家ではないかと自信なさげに告げ、あるいは彼がそこから逃避している記憶の一部かもしれないと付け加えたが、エヴァンジェリンはそれが良い記憶かどうか確かめるまでもなかった。

 ふたりが扉の外から中を覗っても闇以外なにも見えなかった。毛が抜け落ち、耳の片方がひどく焼け焦げた猫が踏み段の下から現れ、ふたりのほうに惨めな啼き声をあげた。エヴァンジェリンが腰をかがめて片手を差し出すが、そこに食べ物がないとわかった猫の啼き声は絶望のためさらに大きくなった。夢の中だと知りつつも彼女は憐憫を禁じ得なかった。
 任せろと言って彼女の隣にしゃがんだリースの手の中に小さな生肉の切れ端が現れた。狂喜した猫が飛びついてそれを咥え取り、その場で齧り続けた。

 剣は自分がそう思うからその手の中にあるんだ、とリースが言う。ただし、何もかも変えることができるわけではない。

 リースによれば、フェイドのスピリッツはリースたちの心の中にある世界をそのまま再現しようとするだけであり、それが本当にあり得ることかどうかは理解していない。リースたちの心の中では記憶と感情がごちゃ混ぜだが、スピリッツはそれらを現実だと思い込み、魅惑され、惹きつけられる。ただしすべての夢がスピリッツの創り出したものなわけでもない。

 エヴァンジェリンは意味がよくわからないまま頷いた。結局ここはメイジの領域なので彼を信用するしかなく、彼女はある意味そうしていた。リースは大バカ者かもしれないが、その心意気は善なるものだと信じていた。

 リースが咳払いして、先刻ディーモンから告げられた話を持ち出そうとするが、彼女はリースの友人を探すのが先決だとはねつけた。
 肉片を咥えて踏み段の影に隠れていく猫の姿を見つめながら彼女は黙考した。
 ディーモンの言葉にはリースとエイドリアンの間に不和を生み出す意図があって、エヴァンジェリンの見たところそれがほぼ成功したことも間違いない。あの娘は相手が誰であっても最悪の部分を見たくて仕方がないのだ。
 そうだとしても、あの言葉には少しでも真実が含まれていたのだろうか。それを考えても意味はないだろう。リースはメイジで、自分はテンプラーだ。いくら彼が魅力的だといっても、そんな目で自分を見てはいないだろうし、見るべきでもない。

 踏み段を軋ませて中に入ると、外の光がまったく中まで通らないため闇は不自然なほど濃かった。吐く息が白くなるほど空気も冷たい。エヴァンジェリンは剣を抜いてリースと用心深い目をかわす。彼が構えた杖のオーブも光り始める。

 中はろくに家具すらない有様で、数脚の椅子の他は汚い毛布何枚かとワインの瓶がいくつか転がっているだけであり、そのすべてに霜が降っている。エヴァンジェリンは一体ここで何があったのかと囁いたが、リースが彼女以上のことを知るはずもなかった。部屋には恐怖の記憶が染みついている。彼女がタワーに連行するメイジたちの中には、呪われた才能を恐れるあまりその場で殺してほしいと懇願する者たちがいたが、彼らから感じた恐怖も同じ種類のものだった。

 隅の一画には小さな台所があり、小ぶりの食器棚がいくつかある他は割れた食器が散乱していて、あたりの床にはまるで最近までそこに屍があったことを示すかのように凍りついた血の池がある。

 小さなスピリットが急に動揺しはじめたのでリースは静かにするように宥めた。リース曰くスピリットは何か普通ではないものを感じたようだというが、エヴァンジェリンにしてみればここに普通なものなどあるとは思えなかった。
 スピリットが苦悶しているかのように脈動しはじめたので、エヴァンジェリンは落ち着かなげに剣を握りしめた。自分が幻想に囚われているのでない限り、周囲はずっと寒くなってきている。

 食器棚のほうから囁き声が聴こえ、エヴァンジェリンがその声の出所を探ろうとしたとき、コールの名を呼ぶ怒鳴り声があばら家全体に響き渡った。リースが戦慄し、スピリットは恐怖のあまり逃げ出して視界から消え去った。あたりの冷気がさらに増し、剣を構えるエヴァンジェリンの鎧に霜が降りはじめた。声は地下室のほうから聞こえるとリースが言う。

 コール、永久に隠れていられると思うのか、とまたその怒鳴り声がして、重く響く足取りが階段を登ってくる音が聞こえた。エヴァンジェリンが台所から出ると、奥にある小さな扉ががたがたと揺れているのが見えた。リースによれば怒鳴り声の正体はコールをここに縛り付けているディーモンで、今は戦うしかない。

 扉が開け放たれ、でっぷり太った身体に白髪混じりの頭髪が残る禿頭の男が現れた。樽のような腹がはみ出るほど小さいシャツは返り血で真っ赤に染まっており、その上には血の手形がはっきり見える。顔は痩せて蒼白く、腐り始めの屍のように頭蓋から肉が削げ落ちている。それは唾を巻き散らかしながら怒鳴った。出てきて男らしく死ね、どんな罰を受けるかわかっているだろう。

 エヴァンジェリンは魔法を警戒しつつディーモンのほうにじりじりと近づいて行き、退け、自分たちはコールに用があるだけだ、と警告を発したが、彼女をなめ回すように見た相手は冷笑とともに役立たずと断じた。それからまた、自分の犯した過ちはずっと昔に消し去るべきものであった、母親から邪悪を受け継いだ息子のお前は、それが故に母親と同じ罰を受けるのだ、とコールに向けて怒鳴った。

 剣に精一杯のパワーを集めてディーモンを突き刺そうとしたエヴァンジェリンの身体は、その中途で凍りついたように金縛りになった。臭い息が届くくらいまで彼女に顔を近づけたディーモンは、言わぬことではないと嘯いた。
 彼女に手を出すな、とリースが吠え、駆け寄り様ディーモンを杖で打ち据える。触れたオーブから閃光が走ると相手は苦痛の叫びをあげながら後ずさり、地下室への階段を転がり落ちる寸前で戸口の柱に手をかけ、ようやく踏みとどまった。

 「メイカー、こやつとその忌々しい魔法に天誅を!」

 そう怒鳴ったディーモンの口が胸元あたりまでばっくりと割れ、そこから溢れ出た猛烈な吹雪を顔面に浴びたエヴァンジェリンが声なき悲鳴をあげた。リースは身を引くと同時にふたりを吹雪から守る魔法の障壁を造り出す。それからエヴァンジェリンの腰に手を回して抱えあげ、彫刻を運ぶようにして台所まで退くとその床に彼女の身体を横たえた。彼が荒い息のまま片手を彼女の額に当てると、エヴァンジェリンは身体の麻痺が即座に解けるのを感じた。

 危ない、と彼女が叫ぶと同時にリースの背後からディーモンが襲いかかり、床に押し倒した彼の肩に牙を埋めた。傷口から鮮血がほとばしり、苦痛の叫びをあげたリースが身を引き離そうともがくが、相手の剛力がそれを許さない。
 跳ね起きたエヴァンジェリンが両手で振りかぶった剣をディーモンの背中に深々と叩きこむと、それと同時に彼女のパワーが相手の魔法を無力にした。
 ディーモンはリースの肩から牙を離すと、傷口から青みがかった血を流しながら立ち上がり、災いに満ちた目をエヴァンジェリンに向けてこう言い放つ。まだわからんのか、この腐った愚か者が。

「メイカー、この邪まなるものに天誅を!」

 そう唸ったエヴァンジェリンが剣を横ざまに一閃させ、ディーモンの頸を刎ねた。宙に飛んだ首は床に落ちる前に霧散し、残された胴体は断端から黒いエナジーを噴き出しつつ、両手で虚空を掴むようにして仰向けに転倒した。亡骸が黒い沼地のようになり、それもやがて跡形もなく消えていった。

 エヴァンジェリンの息は荒く鼓動は早い。床に倒れたままのリースが傷口を押さえながら彼女を見上げて言った。

「これで、済んだのかな」
「だといいけど」
「そういえば、見事な一振りだったね」

 室内の雰囲気はすでに変化していた。冷気は去り、血の池は消えたが、闇だけは残っていた。惨劇の跡を何ひとつ留めない、ただ長いこと放置されていただけの農家のようにも見えるが、エヴァンジェリンは床板一枚一枚に邪なものがこびり付いているのを感じていた。

 警戒のため引き続き剣を構えているエヴァンジェリンが回りの全てが消え去らないわけを尋ねると、リースは魔法で自分の傷口を手当てしながら、ディーモンはコールをここに閉じ込めていただけで、悪夢自体はコールのものであり、縄張りがひとつ空いた今、必ず別のディーモンがやってくるから、その前にコールを探し出さなければならないと告げた。

 それを聞いたエヴァンジェリンは心中穏やかではなかった。先ほどのディーモンが実験室で出会ったものと同じなら一件落着だったのだが、そうではなかったようだ。あちらのディーモンはファラモンドとともにいるに違いない。同時に二箇所に存在するという発想が彼女をまごつかせたが、良く考えればフェイドにいるはずの自分の肉体も現実の世界のほうにあるのだ。

 傷の手当をしているリースを残して、エヴァンジェリンはコールを探し始めた。誰かを拉致する場所として地下室ならしっくりくると思い、ディーモンが現れた扉を開けた。
 だがそこで目にした完全な闇と、漂う生(なま)の恐怖、幼子の抱く類の恐怖と果てもなく続く絶望の感覚に怖気を奮い、彼女は慌てて扉を閉め直してしまった。そしてそれが戦士にあるまじき行為だったと自分を恥じた。父親ですら余程のことがなければ自分に手をあげたことはなかったので、さっき感じたのは自分自身の恐怖ではあり得ないのだが、あまりに現実味を帯びていた。

 だがそこで彼女は、ディーモンが出てきた地下室にコールがいるはずのないことに気が付き、先ほど台所で耳にした囁き声のことを思い出した。

 台所に戻ってきた彼女にリースが何事かと尋ねる。彼女はそれには答えずに耳を欹(そばだ)てるが何も聴こえない。彼女が台所の戸棚を一つづつ開けはじめると、リースが訝しげに何をしているのか尋ねた。

 最後の棚の中に、もつれたブロンドの髪の薄汚れた少年が隠れていた。歳のころ十二くらいで、顔には激しい恐怖を湛え、もはや枯れ果てたのだろう涙の跡が見開かれた眼から頬に伝っていた。それよりもおぞましいのは、幼い少女もまた彼と一緒にそこに閉じ籠っていたことだ。少年は自分の半分くらいの歳の少女の躰を力一杯抱き締めており、彼の片手は声を漏らすことすら許さないかのように少女の口元を塞いでいた。

 ただ、少女は死んでいた。

 啜り泣きを必死に堪えようとして身体を震わせている少年が、ここにいることは内緒にしてくれとエヴァンジェリンに囁いた。母親からふたりで隠れているように言われたのだという。
 彼女の後ろから近付いてきたリースが慄いた顔つきで、コールなのかと呼びかける。

 エヴァンジェリンは途方に暮れた。少年の震えがひどくなり、新しい涙を流し始めたが、それでも物音ひとつたてなかった。コールは彼女たちのことも覚えていなければ、自分自身が誰かすらわからないのかもしれない。

 彼女が少女の口元を塞いでいたコールの片手をよけると、「バニーが泣いちゃうから」と彼が小声で言った。母親が静かにしているように言ったから、この子も静かにさせなければならなかったという。

 エヴァンジェリンが少女の躰を優しく引き取っても、少年はさしたる抵抗もしなかった。骨と皮だけになっていた少女の躰に重さはほとんどなく、この年頃の娘なら見せびらかしたくなるだろう黄色いドレスの切れ端だけ身に纏っていた。棚から外に出した途端に少女の躰は霧散した。

 エヴァンジェリンから救いを求めるような目を向けられたリースは彼女を優しく横にどかし、棚の前にしゃがんで自分のことがわかるかとコールに話しかけた。
 リースをじっと見つめる少年の息遣いは恐怖と戦っているように早く不安げになっていった。リースが身体に触れようとすると、少年の手にダガーが現れ、徐々に顔つきが絶望に満ちた憤怒を示すものに変わっていった。

 もうかあさんを痛めつけさせない。もう許さない。

 エヴァンジェリンは慌ててリースの身体を引き寄せようとした。フェイドで殺されたらどうなるか知らなかったが、試す気もなかった。だがリースは少年に向かって降参するように両手をあげて、コールも他の誰も傷つけるつもりはないと囁いた。

 震えるダガーの先がリースの頚元に触れ、そこでとまる。啜り泣く少年の眼つきは恐ろしいほど激しかった。

 そこで少年の震えがとまった。突然リースの名を呼んだ声はすがるように憐れで痛ましかった。
 リースが頷くと、ダガーが床に落ち、すでに棚の外に出ていた少年はエヴァンジェリンが市街地の広場で見た若者の姿になっていた。
 コールはリースの胸に頭を埋めるようにしがみ付き、心の底から苦悶を絞り出すかのように咽び泣いていた。抱き締めていたリースが優しく宥めると泣き声がさらに大きくなった。

 あばら屋も消え、エヴァンジェリンは自分たちが焼野原の中に立っていることに気が付いた。まるではじめから農家などそこにはなかったかのように思えるが、彼女は心の深い部分で気が付いていた。コールの悪夢は彼の記憶の奥に仕舞い込まれていたはずで、暗く恐ろしい場所にそっと埋めておくべきだったその悲惨な思い出を、フェイドが無理矢理やり浚(さら)い取ってきたのだ。

 ただそこに立ち尽くして、リースが若者を優しく抱いている姿を居たたまれずに見つめながら、彼女の心は悲嘆に暮れていた。

2013年9月17日 (火)

【DAI】オープン・ワールド・コントロヴァーシー

 Asunder、果たして愉しんでいただけているのでしょうか。
 個人的には目いっぱい引き気味のフェイド編ですので、エイドリアンではありませんがとっとと任務を終えてさっさとリアル・ワールドに脱出したい(笑)。
 ダークスポーンやアーチディーモンと夢の中で戦ってもなあ・・・。うーん、ヴァーチャル・リアリティものにイマイチ引かれないのと同じ理由ですね。夢の中なのでなんでもありだが、そこで斬られたり喰われたりしたら実際に死ぬ。その感覚が私には通じないのです。

 かつて「バーサーカー皆殺し軍団」(Berserker)というセイバーヘーゲンの長く続いたスペースオペラ・シリーズがあって、Mass Effectシリーズがリーパーズを造形する際、このバーサーカーズなる戦闘マシン知能を手本にしたのは間違いないとされています。まだヴァーチャルなんて用語すら使っていなかったけど、その作中の「ヴァーチャル戦闘マシン」に搭乗して撃破されただけではホモ・サピエンス(人類起源の生命体)乗員は死なず、「ゲーム・オーヴァー」になるだけ。そうでなければマシン知能と遠隔操作のマシンで戦う意味自体ないんですけどね。今のドローン攻撃機に近い感じ。「アイアンマン」最新作でもそんな場面があった。
 一方、映画「アバター」なんかではヴァーチャルの死はリアルの死にされちゃうんでしょうね。小説「エンダーのゲーム」では・・・、ってこれはネタバレになるから映画公開されてからにしよう。オンライン・ゲームのヴァーチャル世界に閉じ込められて中の死イコール外の死となるネタも古くからありますし、最近の人気ラノベにもありましたね。

 夢の中(ヴァーチャル世界)で死んだら現実でも終わり。誰でも思いつくんですが、とても取扱いの難しいネタなことは間違いありません。

 Asunderもビックリするほど面白いわけではありませんが、ゲーム系のノヴェライズが圧倒的に面白いという例がもともと稀なのだと思います。かつてサルヴァトール氏のダークエルフ(Dark Elf)ドリスト(Drizzt)の物語とかドラゴンランス(Dragonlance)物語などDnD系のノヴェルに燃えた人は多いかもしれませんが、DnDワールドのファンは最初から面白がる義務を負っているきらいが多々ある。DnD4.0にも生き残ったレイヴンロフト(Ravenloft)も根強い人気があるようですが、何ダースもあった小説群はひとつでも日本語版になったのでしょうか?

 スティーヴン・キングの日本語訳最新作(JFK関連のネタらしい)を(電車が遅延したので珍しく)書店で立ち読みしてみましたが、最初の数ページで読むのをやめました。なぜなら、冒頭からあまりに面白すぎてやめられなくなりそうだったから。その場でゲーム攻略本ほどのサイズのある分厚い上下二巻を買ってしまいそうになったから(笑)。彼の過去の作品だってまだ沢山手つかずでおいてあるし、当分読む暇なさそうなんでやめた。

 サイファイ・ファンタジーの場合、「ジャンル小説」だからダルくても少しは我慢して読もう、という気になるケースが非常に多いのですが、あちらのホラーは、少なくともキング作品はジャンル小説の扱いではない。主人公のただの身の上話だけで何ページでも読ませてしまう腕前には舌を巻くしかありません。ここにさわりを書き出しても多くの人が「続きは?」と尋ねたくなると思う。残念ながら私も立ち読みした部分の「続き」は知らないのだ(笑)。よく考えれば「アトランティスのこころ」なんてのもほぼ全編(キング自身の)身の上話でした。

 Baldur’s GateやMass Effectのノヴェライズもちょこっとだけ読んで、あとは読まずに放置する場合がほとんどです。ジャンルものは設定の縛りがきつすぎて何が起きるのかだいたいわかっちゃう。Baldur’s Gate II、Star Wars: Knights of the Old Republic、Mass Effectのノヴェライゼーションを長い間書き続けてきたシナリオ・ライター・小説家であるドリュー・カーピシンDrew Karpyshyn)氏もとうとうBioWareを辞め、先日オリジナル小説を上梓したそうだ。BioWareがDnDの代わりにDAワールドを(そしてStar Warsの代わりにMEワールドを)創造したそもそもの理由は、WotCやLucasに高い版権料を払いたくないということではなく、斬新なアイデアにいちいち「それはダメ」と掣肘くらってイヤになったからでしょう(DAに関してはゲイダーさんがそうであると語っていた)。

 Asunderにもゲーム由来ジャンル小説の物足りなさを感じる場面があります。例えばエイドリアンとリースは幼馴染である、以上、でおしまいかよ!と言いたくなる。エヴァンジェリンの生い立ちは「ベルばら」のオスカルまでいかずとももうちょい膨らませてもいい気がするし、幼いリースの師匠もちらっと出るだけでとてももったいない。ウィンを知らない者はホワイト・スパイアには誰もいない、って読者は知らない場合がありえますしね。
 厳密な分量制限がある中で、DAの小説としてはアーチディーモン、ダークスポーンやディーモンを登場させるほうがずっと重要である。細かい背景や主人公たちの身の上はファンタジーの、あるいはDAワールドの「お約束や設定」に従っているのだからそちらで察しなさい、と読者が突き放される。そうやって小説の外側に拠り所を持って行っちゃうのがジャンル小説の便利なところでもあり、イマイチになりがちな点でもあるんでしょうね。

 DAのリード・デザイナーにしてBioWareのクリエイティヴ・ディレクター、マイク・レイドロウ氏が、雑誌インタヴューに下のように答えていたそうだ。元ネタはDAWiki。

***

“私が思うに、オープン・ワールドというのは含意まみれの(loaded)用語であり、聴けば誰しもが即座にSkyrimを想起して何もかもがあれと一緒になっていると思い込んでしまうんだ。我々の(DAIの)場合は、探索してまわることのできるものすごく大きな地域群(regions)は確かにある。

 (DAIは)複数の地域をまたぐゲームであり、プレイヤーはワールド地図を用いて移動することになる。プレイヤーはゲームの舞台となる大陸のある一塊に相当するとても広い範囲を歩き回る。それぞれの地域には固有の目的があって、プレイヤーには訪れる理由がある。それらの目的はストーリーに収斂していくもの、あるいは少なくともゲーム全体のテーマに関連するものだ。例えば敵が非常に活発に活動しているある地域ではその理由を探るとか、そういったことだ。

 言わんとするところは、それら目的は必ずしもストーリーにかちがちに縛られているわけではないということだ。なぜならストーリーは発見(discovery)のアンタイセシス(アンチテーゼ)だからね。だが(ストーリーは)どうしてもプレイヤーの進む道筋を示すことになる。何かを発見したプレイヤーは、それがたまたまそこにあるのではなく、結局ゲーム全体に関連するに違いないと考えるだろう。(DAIに)オープン・ワールドの要素があるのは間違いないと思うが、プレイ感覚はむしろBaldur’s GateシリーズやOriginsの世界を歩いているものに近い。たとえエリアや空間がより大きなものとなり、歩き回る範囲も広がって、異なる様々な地形や住民たちを目にすることができるとしてもね”

***

 相変わらず主語などを補足しないとわけわからなくなるレイドロウ調ですが、言わんとしていることは、DAIはSkyrimのようなオープン・ワールドとは違って、むしろBGやOriginsなどの複数の地域にまたがる物語に近くなるということ。

 「ストーリーと発見は対極にある」って話、わかりますかね。またしても村上龍を引用すると、ストーリーはエントロピーの増大でドラマはその減少である、という説にちょっと通じる(エントロピー論自体も最近ではだいぶ昔と違ってきてるそうだが)。
 「ストーリー」はコントロールできなくなったトロッコやローラーコースターのアナロジーで、レールの上を(時には)すごい勢いで走るかもしれないけど、やがてエナジーを喪失してどこかで静止する。それに乗り合わせてしまった人にとってその過程はドラマかもしれないですけどね(笑)。
 「発見」とはハプニングであり、ランダム(でたらめに、たまたま起きること)であり、ケイオスであるから、ドラマ。トロッコがレールから外れたり、レール自体が途中でなくなっていたらそれは(乗り合わせてしまった人を含む観察者にしたら)発見でありドラマ。物理法則に反する挙動をしたらそれはサイファイかファンタジー。

 以前から言っているように、リニア(一本道)ストーリーもオープン・ワールド(ルーズエンド)も、どちらもそれぞれ意味がある。またレイドロウ氏が言外に前提を置いているように必ずしも排他の関係でもない。Skyrimにもそれ自体大した意味はなくてもメイン・ストーリーはちゃんとあるし、Originsに探索と発見の機会がゼロというわけでもない。
 そして普通の人間はそのどちらも腑に落ちて納得を感じることができる(でなければ存続しえない)。前者は直進する時間で、後者は循環または往復(ピストン運動)する時間の表現ともいえる。

 この話には、小説(映画・ドラマ)とヴィデオ・ゲームの間の親和性が期待されるほどあまり高くない、って含蓄もあるかもしれませんね。

 PCを(泣く泣く)買い替えたので、ちょうど先日、Skyrim、Fallout 3、Fallout New Vegasのそれぞれのセーヴファイルを旧PCのバックアップから復元してちゃんと動くか試してみた。それはそれで動きました。(Fallout 3はパッケージ版でプレイしていたので、今回は安くなったSteamのDL版全部入りを買いました。おかげでMSのGame for Windows Liveが邪魔くさいことしやがりましたが)

 ちょっと様子をみるつもりだったのに、気がついたらNV(個人的にはこの不出来と言われる子が一番好き)のプレイをしばらく進めてしまっていた・・・。いかんいかんと思い、今度はSkyrimを覗いていたら、やっぱ小一時間ほどプレイを・・・。
 すでにメイン・クエストとDLC含む主要コンテンツを終えた主人公(それぞれのタイトルでひとりずつ)以外は、どの主人公が何をしていた途中かなんて覚えちゃいないのですが、逆に言えばその時点から何でも取り掛かれてしまう。Fallout 3の主人公のひとりなんて本編クライマックスの「誰がスイッチ入れるねん」のシーン直前で止まっていたのですが、それすらもほったらかして別なことできちゃうんだろうか。
 Fallout 3の最後のDLC、例の宇宙船のやつはPC版パッケージ版がなかったので日本では入手不可だったはず。これだけは個人的未経験コンテンツなんで(あんまし面白そうでもないけど)やらなくちゃなあとまた小一時間(笑)。カンペキな現代日本語を喋るサムライが出てきて驚いた。だって字幕も日本語でほとんどのガイジンにしたらただ喚いているだけなんだもん。
 それもあってきっと最後まで付き合うことになるんでしょう・・・。

 Steam時計によれば私のプレイ時間は三作品とも400から500時間の間。DAIもそんな感じになるようなら至福のときが訪れるってことでしょうね・・・。まだ来年の話ですが。

2013年9月15日 (日)

【DAI】Dragon Age Asunder (11-2)

 ようやく体を起こしたリースは、疲弊しきった今の自分なら一週間くらいぶっ続けて眠ることができそうだと思ったが、すぐに今すでに眠りに落ちていることを思い出した。フェイドの中で魔法を使うのが久しぶり過ぎて、ここでは純粋なパワーがむき出しになり、その後ひどい疲労と痛痒が襲ってくることを失念していた。

 広場は廃墟になっており、向こう側半分の地面は完全に陥没していた。建物はほぼ全部倒壊していて、あらゆるものが塵埃の衣をまとい、遠方のときの声すら聞こえない不気味な静寂が支配している。黒い雲だけはまるで何事もなかったかのように以前どおりに上空に渦巻いていて、リースは、自分が今、これまで経験したこともないような恐ろしい瞬間の中にいることを知った。

 無事を確かめる声に見上げると、エヴァンジェリンが手を差し伸べていた。顔中に血飛沫を浴び、全身しっくいの粉末に塗れていた彼女は、それでも誇り高き戦士の威厳はなんとか保っていたが、リースはそのとても不愉快そうな目付きが、自分に向けられているのではないことを願った。

 彼女の手をとって立ち上がったリースは他の者たちの姿を探した。打ちのめされた姿のウィンが立ち上がるのにシェイルが肩を貸している。広場のあちら側ではエイドリアンが自分のローブから塵埃を叩き落としている。だがコールの姿はどこにも見えず、彼が最後に滑って行った路地の入口は瓦礫で埋まっていた。うろたえてそちらに駆け寄ったリースが名を叫んでも返事はない。彼は絶望に打ちひしがれて岩を取り除き始めるが、それが何の意味もないことに気が付いた。もしコールがここに埋まっているならすでに死んでいる。そうでないなら、向う側に出る道を作るため瓦礫を取り除くのはとても無理に思えた。

 疲れきって血まみれの顔をしたエイドリアンがウィンと一緒に近づいてきた。老婦人の髪は乱れ、青いローブは裂けて埃まみれで、足を引き摺りながらゴーレムの介助でようやく歩いていた。彼女はコールが路地から逃げていくのを目撃していた。彼を探し出さなければならないというリースに、ウィンは任務を優先するべきだと答える。

 顔中純粋な憤怒に彩られたエヴァンジェリンが歩み寄り、その任務のおかげで皆がこのような窮状に陥ったのだとウィンを非難する。任務はこの場で中止すると宣言する彼女の声の響きに恫喝めいたものを感じたらしいシェイルが、ウィンを守るように前に出ようとする。リースは対峙する二人のことをおどおどして見守っていたが、エイドリアンは元々フェイドになんの興味も持っておらず、さらにあの実験室の一件の後ではリースとエヴァンジェリンに対する共感も失っていたので、まるで他人事であるかのようにしかめた顔をそむけていた。

 ぼろぼろの姿にもかかわらずウィンが背筋を伸ばして直立し、リースがタワーの大広間で見たときの尊大な女性に戻っていた。

「あなたにその権限はありませんよ、騎士隊長」
「間違いなくあります。自業自得の運命に陥ったらしき男一人のため、どれだけ多くの命を危険に曝せば気が済むのですか」

 エヴァンジェリンが剣を抜くのを見てシェイルの眼が殺気走るが、それを無視して彼女は続けた。

「その男と運命を共にする気もなければ、あなたにも他の者たちにもそうさせるつもりはありません」

 ウィンはゴーレムを掣肘して退かせると、エヴァンジェリンにこう告げた。

「あなたの剣は本当にその手に握られているとお思いか。剣が何かを斬れるのはあなたがそう信じているからに過ぎません。あちらではテンプラーが支配者かもしれませんが、ここフェイドでは違いますよ。ディーモンたちがメイジに惹きつけられるのは、私たちが現実を自由に歪められるから。それは確かに呪いかもしれませんが、ここではそれが私たちの力」

 顔を曇らせたエヴァンジェリンは剣を下し、強制ができないのはその通りだが、敢えてさらに危険な状況に自分たちを置くつもりかと尋ねた。

 ウィンは、ファラモンドをディーモンから解放してから事の顛末を見極めたいので、任務は最後までやり遂げるつもりだと答えた。危険を伴わないとは元々言っていなかったし、そもそもテンプラーの同行を頼んだ覚えはないが、すでにこうやって一緒にいるのでこの先もそのほうが良いだろうと告げ、問いかけるようにリースとエイドリアンを見た。

 リースはきっぱりと同行を拒否した。あの殺害犯人を探しに行くつもりかと驚いて迫るエイドリアンに、ドラゴンから自分の生命を救ってくれた者を見捨てることはできないと答える。

 エヴァンジェリンが、自分の任務はリースをタワーまで連れ戻すことなのでひとりにすることはできないと告げる。だが怒りを押し殺したリースから、コールもまたタワーに連行されてきたメイジの一人であり、テンプラーは彼を庇護することにしくじったのではないかと自分の鎧の胸板に指を突きつけられると、彼女は顔をしかめた。
 リースがさらに、彼女にもコールの姿が見え、以前は信じなかったリースの言葉が真実を告げていたことも明らかとなったのであるから、その任務はコールと自分を裁くことではなく、救うことではないかと批判を続けるのを、エヴァンジェリンは押し黙って聴いていた。

 一方エイドリアンはリースの胸の前まで近づいて顔を突き上げ、彼が今までバカやってきた理由はわかったが、そろそろ自分のことも考えろ、ファラモンドを見つけてここから出るべきだと迫った。

 その言葉はリースの躊躇を呼んだ。ドラゴンが再来してこなくても、他にどんな生き物がいるのかわからない。自分ひとりでコールを探索するのは無理だと悟ったリースは、エイドリアンに自分への同行を求めたが、それはにべもなくはねのけられた。

 代わりに同行すると申し出たのがエヴァンジェリンだったので、リースは仰天した。自分がその驚きを伝える暇もなく、エイドリアンが冗談をいうなと言下に否定する。

 だがエヴァンジェリンはリースの先ほどの言葉に動かされたようだ。コールが脱走メイジであればテンプラーにも責任の一端は確かにある。そして、誰かを身を挺して救った者には贖罪の機会を与えるべきで、ファラモンド同様、判断はことが済んでからにするべきだと告げた。 
 救われたと感じたリースは、彼女のほうに微笑みを返したが、言葉は見つからなかった。

 ウィンからしかめ面でしばらく見つめられていたリースは、それが失望のせいか怒りのせいなのか判断がつきかねていた。やがて彼女から本気なのかと問われたリースは、他の者たちも一緒にコールを見つけ出すのに手を貸して、それからファラモンドを探せばいいと答えた。

 その言葉にウィンは微笑むと、リースが友人を探さなければならないように、自分も友人を見つけなければならないのだと返した。そしてシェイルに向かって、少なくとも彼女は自分に同行してくれるように求めた。

 ゴーレムは、ようやくおしゃべりが済んだのか、先ほどのドラゴンが舞い戻ってきてもう一戦交えるまで時間を潰しているのかと思った、と皮肉で返す。ウィンがにやりと笑って、アーチディーモンに呑み込まれても自分だけは消化されないと踏んでいるようだが、結局腹の中を通って排泄されることになるのだと指摘すると、顔面がまるで蒼白になったようにみえたゴーレムは、流石にそれは勘弁だと応じた。 

 ウィンが出発を促した。ウィンとゴーレムに続いて歩き始めたエイドリアンがふいに足を止めた。リースのほうに疑念に満ちた顔を向けて、テンプラーのことは信用するな、エヴァンジェリンはメイジを助けるために来ているのではないことを忘れるな、と忠告し、彼が返答する暇も与えず去って行った。

 リースとエヴァンジェリンがふたり取り残された。彼女を横目で見ていたリースが咳払いをすると、ありがとうと告げた。
 だが彼女は笑わず、感謝するのはまだ早い、とだけ返した。

【ME3】The Final Hours of Mass Effect 3

 もうMass Effect 3のことに触れる機会もないと思っていましたが、Originで表題のようなものが売っていたので、300円(なぜかBWポイントではなかった)とお安いし、買ってしまいました。 

 PC(英語版)以外のプラットフォームはよくわからないのですが、下の公式サイトによると、まだPCのみですね。

http://www.me3finalhours.com/

 シリーズのディレクターであるケーシー・ハドソンを賞賛する、ファンが作った同人雑誌みたいな内容でした・・・。

 唯一Deleted Scenesというコーナーがあって、4つだけファイナル・カットとデリーテドの両方を比較できる短いヴィデオがついています。それだけはまあ他では観ることができなかったんでしょうねえ、と価値がありそうでホッとしましたが(デリーテドのほうは、声優すらテンポラリーに開発スタッフが棒読みでやっているような開発段階のレヴェルもある)。

 テキストの文章量自体はかなり多くて、ゲーム雑誌一冊くらいの分量があるのでしょうか。そのほかケーシー他スタッフへのインタヴュー・ヴィデオなどもあり、イルーシヴ・マンの最期に関するオルタナティヴ・シナリオ(没になった)の話題などは、読めば結構面白い内容かなとは思うのですが、如何せん本編リリースから、もうだいぶ時間が過ぎてます。

 Test of Time、時を経てもヴィンテージ作品として残したいという意図の企画なのかもしれないが、もう過去作をいつまでも覚えておいてくれるような、そんなのんびりしたご時世でもないんだよね。
 ME4(仮称)まで繋ぐネタが全くないので橋渡し、というのもこの企画の隠された理由かもしれません。 

 14年暮れから少なくとも15年中にかけてはDAIで手一杯でしょうから(私が!)、MEギャラクシーの続編はそのあとまで延びたって気にしないのです。

2013年9月12日 (木)

【DAI】シュレジンジャーのロマンス

 さてAsunderの翻訳記事ばかり書いていると、みるみる読者が減っていくわけでもないのですが、やっぱ人様の眼に曝す以上それなりに時間をかけないといけないので記事の間隔があいてしまう。

 たまにはゲイダーさんのTumblrの記事でもどうぞ。

 表題に「ロマンス」とあると、白眼視してサックリ読み飛ばす人も結構いるでしょう。ちょいとお待ち。これはむしろ以前も話題に挙げた「間違った(wrong)プレイスルーを恐れる人たち」に関する話題に繋がる。ゲイダーさんの憤懣と皮肉が爆発している、結構面白いゲームプレイ方面の話題と受け取ってください。

 ここの読者諸氏に「シュレジンジャー(墺:シュレーディンガー)の猫」についての説明は不要ですよね・・・。
 いや、あたしに量子論の説明求められても困るんでご興味あればぜひお調べください。
 文脈に関連するところだけひじょーに簡単に取り出すと、「箱の蓋を開けてみるまで、中の猫が青酸ガスで死んでいるかどうかわからない」という・・・、ほら説明になっていない。実はこのシュレジンジャーの思考実験の箱には一定確率でアルファ粒子を放出するラジウムとガイガーカウンターも入っていて、粒子が検知されると箱の中に青酸ガスが発生する(当然猫は死ぬ)仕組みになっている。そこでなされる問いは、ある時間経過した後に中の猫は生きているのか死んでいるのか。答えは、死んでもいるし生きてもいるという重なり合った状態である、というのがシュレジンジャーのパラドックス。

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 (ファンの質問)アイアン・ブル(訳:DAIのトレイラーやコンセプト・アートなどに登場するクナリ男性がそう呼ばれている)がロマンサブルかどうか知りたい。

 (ゲイダーさん)私は、ロマンスがゲーム内に存在するか(あるいは登場するコンパニオンが誰か)まだ公開できない期間のことを「シュレジンジャーのロマンス」(“Schrödinger’s Romances)期間と呼んでいる。

 なぜか。箱を開けてみるまで潜在的なコンパニオンの誰かとの間のロマンスはあるかもしれないし、ないかもしれないから。多くのファンの心の中では、ないと証明されるまで「ある」ことに決まっている。さらに一部の者たちはロマンスが「なくてはならない」とまで考えている。だからこそ箱を開けてロマンスがないことを発見すると、まるで我々がそこにあったものを奪ったように見なすわけだ。気が狂った悪魔が赤ん坊からキャンディーを取り上げたみたいに、我々がすでに書き終えていたロマンスをファイルから削除したことにされてしまう。なぜか。なぜなら我々はクソ野郎の集まりで、たぶん人種差別主義者か同性愛嫌悪症で、明らかに当該キャラクターか、またはそのキャラクターのファンたちのことをそうみなしているに違いないからだ。(つまりロマンスの対象ではないキャラクターを我々は取るに足らない者たちと考えているに違いないからで・・・、もちろんライターとしてそういう態度には憤然としてしまうが、結局私自身の意見を表明したところで、そう考えない者たちにしてみれば私はそれを下らない問題と考え放置していると宣言しているように受け止められるのだ)

 それも失望に向き合う方法のひとつには違いないと思う。一部の者たちがこのゲームはロマンスに関するものではないと頭では割り切っており、かつ我々は全てのキャラクターとの間のロマンスを書くことはしない(だから一部のキャラクターとの間のロマンスは全くない)にも係らず、欲しいものは欲しいという声を止めることはできない。

 だからそう、アートに登場するクナリを見てパーティーメンバーだろうとスペキュる(推測する)者がいることも知っているし、彼とのロマンスはどんな風になるのだろうと想像する者もいるだろう。すべての議論を読んでいるわけではないが、すべての登場キャラクターが公開されれば(そしてそれらが極めて忌まわしいものでなければ)そういう要素があることはわかる。また一方では、そのクナリが力任せの暴漢で、主人公を軽々と持ち上げてあらゆる手段で(two ways from Sunday)目茶目茶にしてしまう奴の可能性だってあるかもしれないしね(スマイル)。

 それと同時に、私はその箱を開けるのを待ち焦がれているわけでもないとも言っておこう。一部の者にはとても信じられないかもしれないが、私だって誰ひとり失望させたくないんだ。このクナリがコンパニオンかどうかについてファンを失望させるとか、させないとかを言っているのではなく、まだゲームをリリースする以前なのに、情報を公開した後に間違いなく起きるゴタゴタに向き合うのはあまり気分のいいものじゃないからだ。

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 この話にはまだ続きがあります。下は、あるファンが上述のブログ記事を引用して書いたブログをゲイダーさんが再引用したもの。

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 (Tumblrのファンのブログから引用)ロマンスについて過剰に気に掛けているファンが多いことと、どのキャラクターがロマンスの対象であるかいつまでも伏せておくことが相まって、敢えて失望を呼び起こすお膳立てをしているように思われる。

 (ゲイダーさん)我々がゲームのリリース前に情報を公開しなかったことがあったかね? 今回はまだしていない(まだパーティーの全貌も見せていなければ、ロマンス対象も明らかにしていない)わけだから、形式的にはどんなロマンスでもありうるという漠然とした状態に我々皆が置かれているわけだ。

 個人的には、コンパニオンについて事前に一切公開しないほうが好ましいと考えていて、もちろん誰がロマンス対象かについてもそのとおりだ。それらはプレイヤーが自分の手で発見してほしい(ゲームはそもそもそういう風に作られているんだ)。まだリリースもされていないゲームを予めひと通りプレイしてしまいたいという死に物狂いかのように思える「要求」に出会うと、私は奇怪な感じを受ける。DA2のスポイラー・スレッドをなぞっている者たちについて君(訳:上述の引用先のブロガー)が述べていたように、ゲームを「間違った」(wrong)やり方でプレイしてしまうという純然たる恐怖を避けるため、途中もエンディングも完璧な形でプレイすることに囚われ、結果からその原因となる全ての選択肢をリヴァース・エンジニアリングして(逆さまに追いかけて)いる者たちに似ている・・・。つまり、普通にゲームをするのではなくてね。
 
 私が、それらの発想を異質だと感じるからといって、プレイスルーを最初から最良と思える形に計画するべきじゃないとは言っていない。BioWareだってしかるべき時がくれば、できるものから公開するわけだから。

 もちろん、(先のクナリのように)あるキャラクターを見かけた瞬間に、それに関するロマンスの情報をすべて公開するべきだと我々に求める(だって、ロマンスは重要だから)のであれば話は違うが、まさかそうではないと思いたい。上述したように、不明瞭な物事は何であれ人々の不安を呼ぶのだ。何かを公開した瞬間にすべてを公開せよというのが要求であれば、結局我々は何ひとつ事前に公開しなくなるだろう。

 まあ、そうはならない。結局のところ、我々は相互依存関係なんだからね(スマイル)。

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 ここで事前紹介記事(及び事実上ネタバレ記事)を書いている以上、何もかも一切公開しないほうがいいとは言える立場にありませんが、「間違った」やり方でプレイすることへの純然たる恐怖ってやつには、私も非常に違和感を感じます。
 ヴィデオゲームは「百回死んでからがスタートだ」じゃなかったのかい。
 差別主義者呼ばわりされるかもしれないが、やっぱカジュアルはゲームをするな、じゃなくてカジュアルみたいにゲームをするなって思っちゃいます。

 例が悪いかもしれないが、P4G一周目で全てのアルカナを満点にすることは可能(そうなるように作っているから当たり前)ではあっても、攻略本がなければそれを実現するためにはわけのわからないくらいの労力をかけて試行錯誤しなければならない。その誰かの試行錯誤の結果できあがった設計図どおりにプレイして「わーい、できました」というのはどうなんだろう。愉しいのか。
 だったら(比較的裁量のある)ヴィデオ・ゲームなんかしないで、座ってれば済む映画やテレビでも観るか、簡単なプラモデルか組立家具でも作ったら?(これでもモデラーあがりなのでプラモデルなめとんのかーっ、とか言わないように。「簡単な」と言ったから)

 確かに自分を含め「時間がない」人たちにとっては、一周済ませたら他のパターンはどうなってるんだろうなと攻略本などを参照するのは仕方がないことだし、自分の場合わざわざメモなんて取ってないから図鑑替わりのデーター類として重宝します。最近の攻略本は読み物としても暇つぶしになるくらい立派だしね。

 大多数のMMOになじめなかったのも、ゲイダーさんのいうリヴァース・エンジニアリング、解剖主義が横行していたからだと思います。それでは済まないものこそ燃えましたけど。
 
 クナリじゃないクナリをどう呼ぶかという果てしない議論にも通じるんだよな。お手軽な答えを求めたいなら他になんぼでも時間をつぶせるものがあるだろうに。

 シュレジンジャーの猫までリファーして格調高く始まったはずの記事も、最後はいつものファンダムの悲鳴を許容するような書き振りになっちゃった。たしかにゲイダーさんもおまんまの食上げになっちゃうから「お前らのアイデアなんてクソだ」と思っていたって言えないしね。

 あたしゃ、一般市民が思いつくような(あるいは万人が納得するような)ゲームや物語なんて心の底から願い下げだけどね。

【DAI】Dragon Age Asunder (11-1)

 コールの心は抗った。

 荒れ果てた地で闇の化け物に遭遇したときとは随分と異なるように感じた調べが、今や悪夢となって彼を内部から引き裂こうとしており、しかもそれだけでは留まりそうになかった。地に伏し、耳を抑えて叫ぼうとしたが、闇に引きずり込もうとする調べ以外の音は何も聴こえない。
 やがて静寂が訪れたとき、彼は別な場所にいた。

 馴染ない街の屋外で、彼は戦いの真っただ中、建物が燃え、泣き叫ぶ人々が逃げ惑う混沌の中にいた。汚染をまき散らす不吉な闇が空を覆い、見えるすべてがおかしく思われた。まるで色つきのガラス越しに覗いているように、すべてが現実でもあり同時に完璧に非現実的にも見える。世界が異常に精細に見える一方で、視界の端ではぼんやりとしていた。

 コールは誰かを掴んで自分の姿を見せ、ここがどこか訊ねたかった。空を覆う山並みは何か。皆何から逃げているのか。なぜ周りでは全てが燃えているのか。だが彼は心の底から脅えていて、あまりに色々なことが一度に襲ってきていた。

 泣き叫ぶ子らの手を引き、身の回りの品物だけを抱えて逃げてくるエルフの一団から飛びのくと、コールは炎に包まれた店舗の中に退避した。街は死と煙の悪臭に塗れており、心臓の動悸は納まりそうになく張り裂けそうだ。一体何事が起きているのだ、と彼は叫びたかった。

 コールは、荒れ果てた地で見たのと同じ心を喪った青白い化け物たちがやってくるのを見た。粗末な剣を構えて血に飢えた叫びをあげつつ視界の中に駆け込んでくるその連中の様子もまたおかしかった。あの調べは聴こえず、化け物たちはただの器に過ぎないようだ。
 だがコールを見つけた連中は、剣で地面を叩くと彼の方に突進してきた。

 コールは自分でも気づかぬままにダガーを抜いて一匹目の喉を掻き切り、そいつは黒い漿液をまき散らしながら倒れた。二匹目の剣が逸れて扉の枠木に突き刺さり、コールはその腕に切り付けて剣を手放させると、身体を回して相手の胸板にダガーを深く突き刺した。悲鳴を上げて崩れるその陰からさらに別の化け物たちが近寄ってくる。多勢に無勢とみたコールは店の奥のほうに駆け出し、崩れた裏手の壁から外に脱出した。

 どこに向かって逃げているかもわからなかったが、追跡してくる化け物の叫び声が彼の逃げ足を早めた。黒煙が溢れ出ている曲がりくねった路地に入り、脅えながら立ち尽くす者たちの間をすり抜け、走り続けた。
 その先は血糊に塗れた広場のような場所で、死んだ兵士の屍がそこここに転がり、そのほとんどはヒューマンだったが身に着けている紋章はコールの知らないものだった。兵士たちは喉を掻ききられ、四肢をもぎ取られ、コールとさして違わない年頃の者などは膨れ上がった舌が紫に変色して、恐怖に満ちたその目は中空を見据えたまま絶命していた。

 路地の方から聞こえてきた恐怖の悲鳴がコールを急かした。広場の向こう側に見えた広い通りを目指して走り出す。中途まで辿り着いたところで起きた叫び声に振り返ると、何十匹もの化け物たちが路地から広場に飛び出して、こちらに突進してくるところだった。
 逃げ切れないと見て取り、ダガーを固く握りしめたコールの顔面から汗がしたたり落ちる。死んだ兵隊の盾や剣を使おうかとも考えたが、コールはそれらを一度も使ったことはなく、どのみち兵士たちにも身を守る役には立たなかったと気が付いて思いとどまった。

 男らしく死ね、と命ずる声がどこからともなく彼の脳裏に入り込んできて、コールは歯を食いしばった。近づいてくる化け物どもの歩みがまるで奔流の中を渡っているかのように緩慢に見えたが、動きが鈍っているのはコールのほうであった。

 そして爆発が起きた。
 強い爆風で化け物たちが吹き飛ぶ姿を、コールは信じられない思いで痺れたように見つめていた。中空を飛んで地面に激突した化け物たちは残らず炎に包まれ、不気味な声で泣き叫んだ。

 自分の名を呼ぶ声に振り返ると、駆け寄ってくるリースの姿が見えた。老婦と赤毛のメイジふたりと騎士隊長まで一緒だ。彼らに付き従っているのは岩石と水晶からなる彫像のような巨体だったが、すでにありったけ奇妙なものを見続けていたコールにとって、その彫像は単にもうひとつのおかしな光景に過ぎなかった。

 即座に返答したコールをリースは口をあんぐり開けて見つめるばかりだった。騎士隊長は剣の柄に手をかけてコールがその場から逃げ出すことを警戒しているようだったが、彼にそんなつもりは毛頭なかった。

 二人のメイジが杖から放つ魔法が、まだ両脚で立っている残りの化け物たちを打ちのめし、岩石の巨人が両の拳を地面に叩きこんだ衝撃でそれらを遠くまで吹き飛ばした。
 メイジたちがさらに魔法を放ち、化け物たちが斃れた同族を見捨て、武器を拾って路地まで退却をはじめる様子をコールは一歩も動かずに眺めていた。燃え盛る災の音と悲鳴が時折遠くから聞こえる以外は静寂が訪れ、コールはその場の一行全員から見詰められていることに、つまり皆に彼の姿が見えていることに気がついた。

 コールに近寄ろうとして騎士隊長に遮られると、リースは途方に暮れた表情でここで一体何をしていると尋ねてきた。タワーに帰れと言われたことはわかっていると答えたが、リースの質問の意味は、コールがこの場所に入ってきた方法だった。
 これだけの人々に一斉に見詰められる経験がなかったコールは戸惑っていた。リースを抱きしめ、許しを請いたくてどうしようもなかったが、こんな形の再会は予想もしていなかった。コールは、何かの調べが自分をここに送り込んだことを話し、ここがどこかもわからないと告げた。

 老婦人がここはフェイドだと言った。人の良さそうな老婆に見える彼女の、自分を値踏みするように見つめるその眼の奥には、コールが怖気を振るう何かが潜んでいることがわかった。彼は自分の姿がまた見えなくなって欲しいとさえ思った。
 
 老婦人によれば、ここはスピリッツの棲む領域で、一種の夢の世界であり、一同がいるのはおそらく老婦人自身の夢の中である。周りはフェラルデンの首都デネリムの光景で、アーチディーモンが打倒され、ダークスポーンが撤退することとなるブライトとの戦いの真っ最中だ。

 良い結末ではないかと言う赤毛のメイジの言葉に老メイジはがっくり落ち込んだ様子となり、見たとおり戦いの様相は悪夢そのもので、勝利と引き換えに支払った代償はあまりに甚大であり、その記憶が今までずっと自分を苛んでいることを認めた。
 建物が燃え盛る周囲を見渡す一同の頭上には空いっぱいに真っ黒な煙が渦巻いていた。コールは無数の屍が転がるこの場所から一刻も早く逃げ出したかった。これが夢ならどうして醒めないのだろうか。

 歩く彫像がでかい足音をたてて歩み寄ると、来たくもないフェイドの中にまたしても自分を連れこんだ、と老メイジを非難した。ヴェイルを抜けるのは自分だけであるはずだったが、なぜか皆巻き込まれてしまったようだと老婦人が釈明する。すると彫像はコールの方に向きなおり、この存在はどうにも気に喰わないのでペシャンコにしていいかと尋ねた。

 ずっと呆けた様子のままだったリースがその言葉で気を取り直すと、彼に手を出すなと叫ぶ。騎士隊長は、誰にも姿が見えなかったのに今はフェイドの中でリースのいる場所に忽然と姿を現したこの存在が一体何であるか、もはや自明ではないかと言う。
 コールはディーモンではないとリースが反論する。老婦人が自分に一歩近づいてくるのにあわせて後ずさりしながら、コールはまだ握りしめたままのダガーを使う必要に迫られるのかどうかと思案した。
 老婦人は、コールがスピリットだと感知はできないが、先ほどの化け物たちがスピリッツでもダークスポーンでもなかったようにフェイドの中では何でもあり得ると告げた。

 しばしの沈黙の後、コールはリースにまだ怒っているかとおずおず尋ねる。リースを守りたかっただけだというコールに、守ることなどできないのだからタワーへ帰れと言ったのだとリースが応じる。赤毛メイジが怒りに満ちた目でコールを睨みながら、リースがコールのせいでどれだけひどい仕打ちを受けたかについて鋭い口調で糾弾し、タワーのメイジを何人も殺害したことに対する非難をはじめると、コールは自分の立っている地面にぽっかり穴が開いてしまったような気がした。リースにすら満足にその理由を伝えることができないのに、この赤毛メイジに対して釈明することなどできるはずがない。

 
 騎士隊長はコールが殺害犯人であるという事実を知っても驚くそぶりは見せず、むしろリースが自分にそれを告げなかったことに失望を感じているようだ。予め告げるべきだったと非難する騎士隊長にリースは向きになり、たとえ伝えても保身のため嘘をついていると思ったはずだと反論する。
 それはその通りだと認めた騎士隊長は、ディーモンであれ殺害犯人であれ対処はひとつしかない、と剣を抜いてコールに向き合う。

 コールは飛び退き低く身構えた。あの蒼白い化け物の跋扈する街中には戻りたくかったし、ようやく見つけたリースの傍を離れるつもりもない。騎士隊長は綺麗な女性で、テンプラーにしては心優しくも感じられるが、彼女の任務はコールも知っており、リースも自分も彼女の手にかけさせるつもりはなかった。

 リースが騎士隊長を制止しようとその肩を掴むが、赤毛は殺害犯を庇う理由がどこにあるのかとにべもなく言い放つ。自分を見つめるリースの眼に浮かぶ沢山の疑念から見て、彼の返答は明らかだ。コールは、リースの身を是が非でも守ることでまだ彼の友人であることを証明したかったが、どうすればいいかわからず、リースがゆっくりと騎士隊長の肩から手を放すのを、苦痛とともに見つめるしかなかった。
 話はついたようだ、と言って騎士隊長はコールに容赦ない目を向けた。コールもダガーを固く握りしめて戦いに備えた。

 その時、世界が揺れた。

 耳を劈くような咆哮の風圧が、周りの何もかもと一緒にコールの身体を押し潰しそうになる。耳を塞いで体を折り曲げていても頭は苦痛で破裂しそうだ。何時までも続くと思われた大音声が止んだとき、コールは恐る恐る顔を上げた。
 ホワイト・スパイアの書庫で見たことがある壁画には、多くの騎士たちに槍や網で狩り立てられるドラゴンが描かれているものがあり、狩人たちに間もなく屈しようとしているその姿からは高貴な趣さえ感じられた。
 今コールが目にしているそれはまるで違う生き物だった。空を覆い尽くさんばかりの巨体を覆うのはすべすべした鱗ではなく、寄生虫が食い散らかしているむき出しの筋と腱だけで、あたかも肉片をかき集めてドラゴンの形にしたような姿だった。

 アーチディーモン、と老メイジが恐怖とともに叫ぶ。地響きとともに広場に降り立ったドラゴンが翼を一度羽ばたくとハリケーンのような風が広場中に吹き荒れ、下敷きにならないように飛びのいていたコールは沢山の屍とともに宙に巻き上げられて、それから石の壁に強烈に打ち付けられた。

 眼を回して地面に突っ伏していたコールは、全身に痛みを感じて息もできないほどであった。方向の感覚は喪われ、誰かが広場から急いで逃げろと叫んでいるが、それが誰の声でどこから聞こえているかわからない。

 ドラゴンの咆哮は先ほどよりさらに大きく、羽ばたきが巻き起こした砂埃が視界を遮っているため、その姿はもはや黒く巨大な塊にしか見えない。慌てふためいて立ち上がったコールは、まだダガーを手放していないことに安堵しつつ、リースの姿を探した。
 広場の向こう側に辛うじてそうだとわかるローブ姿の三人が駆けているが見えた。ドラゴンがそちらに頸を回し、息を吸い込んで口から黒い炎を吐き出す様に慄いたコールは、炎に呑み込まれたリースたちが死んだに違いないと覚悟した。

 だが黒煙が晴れると、片膝をついたリースが魔法の盾を張って炎を凌いだ様子が見えた。リースの身体が崩れ落ちると、老婦と赤毛のメイジが進み出て、それぞれ杖から稲妻と魔法のボルトを打ち出しはじめた。ドラゴンはまるで応えている様子はないが、その怒りを買ったのは間違いなかった。

 歩く彫像がドラゴンに突進すると、前にも殺したお前を再び殺してやると叫びながら、その脇腹を両の拳で殴り始めた。多少その身体が揺らいだように見えたドラゴンが、まるでうるさい蠅でも払うかのように弾き飛ばすと、彫像は砲弾のように宙を舞ってコールの傍の石造りの建物に激突し、崩れ落ちた瓦礫の山に埋もれてしまった。 

 その塵埃に巻き込まれて咳き込みながら逃げ場を探していたコールは、身体を回したドラゴンの尾が自分の方に向かってくる寸前に飛び退いた。見ると騎士隊長が大剣で斬りつけているドラゴンの脚からは黒い血飛沫が飛び散っており、ドラゴンがそれに反応するかのようにもう一度身体を回したので、コールと彼女はふたりとも横ざまに跳び退いてかわさなければならなかった。 

 付近に落ち始めた稲妻の魔法を避けるため逃げ惑っていたコールは、自分がドラゴンの目の前に出てしまったことに気が付いた。自分を見下ろす黒い不吉な両の眼玉は底なしの憎悪に満ちている。唇からはコールの腕ほどもある牙がずらりとはみ出しており、蔑んだように鼻を鳴らすと、開いた顎をコールのほうに突き出してきた。すべてがひどく緩慢な動きに思われ、ドラゴンの先の割れた舌、したたる唾液、口腔内の黒ずんだ肉の筋まで見て取ることができ、その歯牙ひとつひとつからつる状の汚染の瘴気が伸び、その吐息からは腐敗臭が漂っていた。 

 誰かが自分の名を呼ぶ叫び声が聴こえ、とっさに横ざまに転がったコールのすぐ後ろでドラゴンの顎が噛み合わさる嫌な音がした。真っ二つにされるところを逃れたコールは立ち上がって全速力で駆け出したが、まるで水の中を走っているかのように感じられた。 

 空気の流れが変ったのにあわせて身をかがめると、ドラゴンの前脚の一本が彼の頭上を掠めて行った。ほど遠くないところで顔面血だらけの騎士隊長がようやく立ち上がろうとしており、彼女と一瞬目が合ったコールは、その顔に浮かんだ恐怖の表情から次に何が起きるのかを悟った。
 振り向くとドラゴンが息を吸い込んでいる。 

 そのとき火の玉がドラゴンの背中に直撃して爆発し、火焔が巻き起こった。これも全く効いてはいなかったようだが、相手の注意を一瞬逸らすことには成功し、その隙にコールは相手の腹の下に潜り込んだ。 

 一体何をしているのだ。なぜ逃げないのだ。コールの頭の中では、いくら振り払おうとしても消えない小さな声がそう告げている。 

 這いつくばっているコールの頭上にはドラゴンの下腹があり、ちょっとでも運が悪ければ腹か脚の一本の下敷きになって一巻の終わりだ。コールはダガーを上向きにドラゴンの腹の皮に突き立てると、肉を切り裂き熱い汚臭のする血液をまき散らしながら匍匐で進んでいく。 

 それには応えたようで、ドラゴンは上空に飛び立っていき、広場を覆うほどの大きな翼を拡げて吠え、何度も羽ばたきをはじめた。その突風はあたりの岩も屍も飛び散らし、建物を二つばかり倒壊させ、周囲に恐るべき混沌を作り出した。コールは瓦解した建物の石造部にしがみつき、近くを転がっていく老婦の手から杖がもぎ取られるのをなすすべもなく見ていた。 

 ドラゴンが広場の遠いほうに再び着地すると、衝撃でその部分の地面の底が抜けた。自分の身体が浮かびあがっていることに気が付いたコールは悲鳴をあげる。ドラゴンのほうに滑り落ちないように逃げ出す彼の目の前の地面に亀裂が走り、それがどんどん大きく拡がっていくのを見て取ったコールは跳躍した。亀裂はあの砂漠でみたものと似て、その底には冷たい虚無以外何もありはしないと思われた。ぎりぎりで向う側の端の岩に手をかけることができたコールは、その手がかりが崩れ落ちそうになる前に、渾身の力で固い地面の上に躍り出た。

 ドラゴンがまた咆哮した。至る所に黒煙があがり、騎士隊長の叫び声と、魔法の打撃音が聞こえる。突然肩を掴まれたコールが振り返ると、血だらけでところどころ焦げ跡のついたローブ姿のリースがいた。 

 「コール! ここから逃げるんだ、早く!」

 「君を放ってはおけない!」 

 コールは、爪を拡げたドラゴンがこちらに急降下してくる姿を見た。

 「危ない!」 
 

 叫んだコールは、リースの身体を掴んで放り投げた。 

 ドラゴンはリースが一瞬前にいた地面に着地し、その衝撃で二人とも転げ回った。

 立ち上がったリースは怒りに燃えた顔をドラゴンに向ける。彼の身体から魔法のエナジーが発散しはじめ、その眩さでコールの眼が潰れそうになる。リースが叫ぶと魔法の奔流が流れ出していった。

 巨体のあちこちに魔法が炸裂する音がして、それに触れた部分が燃え始めると、たじろいだドラゴンが憤怒の金切り声をあげる。だがそれが反撃する間もなく、飛んできた巨大な岩石が脳天を直撃した。コールが見ると、瓦礫の下から這い出してきた歩く彫像がしかめ面をして、次々と岩石を拾ってはドラゴンに投げ続けていた。 

 今度はドラゴンの背中側から、大きな岩の上に立った赤毛のメイジが打ちひしがれてはいるが決然とした表情で白熱の焔を浴びせかけた。杖からほとばしる火焔はどんどん威力を増していく。

 岩石と魔法の攻撃に挟まれて身をよじらせるドラゴンは反撃の狙いをつけることができず、最後にふてぶてしい金切り声を周囲に響かせると、上空に撤退した。

 その翼が巻き起こす風に煽られたリースとコールは広場の端までずるずると押し込まれていく。リースは瓦礫に手をかけて踏みとどまったが、手がかりの見つからなかったコールは地面に強かに打ち付けられ、激痛に見舞われながら路地のほうに転がっていった。 

 ようやく動きを止めた彼が荒い息遣いで回りの壁を見上げると、そのひとつが崩れ始めた。混乱して見つめる彼の頭上目がけて大きなしっくい材が降ってくる。悲鳴をあげながら身をかわすと建物全部が崩壊してきた。

 飛び跳ねたコールは広場のほうに駆け戻ろうとするが、壁の巨大な一部が行く手を阻むように落下してくる。脳天を何かに直撃されて眩暈が襲い、後ずさりした。正面の建物も将棋倒しのように崩れ始め、降り注いできたしっくい材は、コールが慌てて脱出した路地を覆い尽くした。

 四つ角に出た彼は、目前の廃墟を見つめた。どうやら最悪の危機は去ったようだ。

 低い唸り声がした方を見ると、蒼白い化け物が一体、路地の別の端から剣を振りかざしてこちらを見ており、その後ろからも化け物たちが何体か姿を現し始めている。

 コールはダガーをなくしていた。どこかで落としたのか? 先ほどまでの戦いの大音声がうそのように静まり返っているのにリースの名を叫んでも返事がなかった。彼はもう死んでしまったのかもしれない。

 コールは逃げ出した。

2013年9月 8日 (日)

【DAI】Dragon Age Asunder(コメント3)

 物語のほぼ半分近くまできたAsunderですが、前回から掲載フォーマットを変更しました。一章で一記事を貫く美学を断念し、二記事に分けることにしました。記事数稼ぎと思われるのは本当にし、心外であります!が、下のようなやむを得ない事情によります。

 記事を書いている間、興がのってくると保存を忘れがちになるのですが、そういうときに限っていざ保存しようとするとココログにエラーが多発してテキストが蒸発。結構な分量の文章をまた書き直す羽目になることが何度か続いたので、ココログちねと思いつつも、やむを得ず分割してエラーの発生を抑えることにしました。 

 さて、DAIのPAX Seattleにおけるかなりの量の新情報を受け、そこでも何度も紹介されていたオーレイのウェスタン・アプローチをちょうど舞台にしているこのAsunder紹介も盛り上がるかと思ったのですが、よく考えると、例えば一遍小説で出してしまったアダマント要塞をゲーム内でまた使うことなんてあるのでしょうか? どうなのでしょう。  

 前から申し上げているとおり、そないワクワクするほど面白い冒険活劇なんかじゃないことはおわかりいただけているのではないでしょうか。

 ウィンの相棒としてふたり旅を続けていたらしいシェイルも登場して、一行は五人(四人と一体?)パーティーとなりました。

 どうも気になることに、リース以外はシェイルも含めて全部女性なんですよね。まあ、主人公がご覧のとおりのキャラクターなんでしょうがないのかもしれません。源氏物語風ともハーレム状態とも呼べそうにありませんけど。

 一方でコールはリースに諭されて以降なんとなく改心?しているような感じもありますが、途中でダークスポーンの調べを聴いたり(今までのDA世界でそうできるのはダークスポーンとグレイ・ウォーデンだけだった)、ファラモンドに憑依したディーモンからは同類扱いされたり、その正体探しはますます混乱を招くようになっていますね。

 前章は大バトルあり、悪魔の囁きの連発ありで、読む分には比較的愉しいのですが、要約方式にはちょっと辛い章でした。

 「悪魔の囁き」ネタなんか読んでいると、やっぱクリスチャニティの「原罪」の感覚が色濃く出ていてそうでない私たちは絶対勝てないと思います。 チャントリーのいう原罪(メイカーの代わりに古の神々を祀った第一の罪、メイカーの玉座を襲った第二の罪)という概念はちょっと違うのですが、根底にあるものは一緒でしょう。そもそもファンタジーにもご丁寧に原罪を導入しているところからして違います。

 さて、この後一行はついにフェイドに突入します。フェイド嫌い(夢ネタ嫌い)の私にとっては辛い章がやってきますが、できるだけその影響が出ないようにやっていきたいと思います。

 

【DAI】Dragon Age Asunder (10-2)

 先ほどの戦いがまるで単なる障害であったかのように淡々と任務を続けるのは奇妙な感じがした。あの化け物たちはディーモンに憑依されただけの無辜な存在だったはずだ。ファラモンドの実験がここの厄災の原因だったなら、その彼を救う価値があるのだろうかとリースは思いあぐねたが、その考えを口に出すことはしなかった。先に進む以外道がないのはウィンの言う通りだ。化け物との戦いが終わり、リースは闇の存在を再び感じはじめた。ここで起きたことの真相は次の部屋で見つかるはずだが、果たしてそれを知るつもりが自分にあるかといえば、リースは懐疑的だった。

 実験室の大きさはリースを圧倒した。そこは複数の階層からなり、書庫と工房を兼ねているようだが、それもウィンの杖の灯りで見える範囲だけの話だ。奇妙なことに、城塞の他の部分と異なりここはまったくの無傷であった。工房自体はホワイト・スパイアで見かけるものと大差がなかったが、極めつけの違いは部屋の真ん中の豪奢な椅子にエルフの男性が腰かけていることだった。

 その肉体が悉く醜く歪んでいる不自然な姿から、むしろエルフだったものと呼ぶべきかもしれない。腕は長すぎて指にはかぎ爪があり、歯をむき出した唇は歪んでいる。唯一エルフらしさを残す尖がった耳もまるで角のようだ。目だけはしっかりしていて、一行を静かに興味深そうに見つめている。 

 リースは、このエルフの内部を隅々まで支配しているディーモンの邪悪な脈動が部屋中に巻き散らかされていることを感じた。
 ウィンが指し示すほうを見ると、彼女がエルフに近づこうとしないのは、周りの床に描かれた強力なルーンの結界に気がついたからだとわかった。

 歓迎の辞を述べるディーモンの不気味な声の響きにリースは身震いした。ディーモンは、ヴェイルを通過してこちら側にやって来た興奮を自制できない低級な仲間たちが一行を悩ませた所作を詫び、客人を長いこと待ち侘びていたと告げた。

 ファラモンドか、と呼びかけるウィンに、ディーモンは判別もできないのかと問い返す。ファラモンドだったそれは今や別の存在になったのだろうとウィンが注意深く答えると、ディーモンは、憐れなウィンは他の低劣な人間であれば誰もが心から羨むような運命の寵愛を受けたのに、その恩恵に見合うだけのことが何一つできないのは惨めではないのか、と挑発した。険しい表情になったウィンはそれには応じず、ディーモンがウィンの名前を知っているのはなぜかと問うエヴァンジェリンに、自分の心を読んだのか、ファラモンドの記憶を探ったからだろうと答えた。 

 エヴァンジェリンが検分すると、ルーンはトランクィルが用いる結界の類であることがわかった。ファラモンド自身がそれを準備したのであれば、彼がディーモンを召喚するつもりだったかどうかにかかわらず、その危険があったことを承知していたに違いなく、城塞の扉を封印したのも彼なのかもしれない、とリースが黙考する。どちらも用心のためだったとしても、残念ながらそれでは不十分だったわけだ。残された疑問は召喚の方法とその理由だ。

 エヴァンジェリンは、ディーモンの関与が確認できたのだから真実を判断するには十分だろうとウィンに迫るが、彼女はファラモンドを救うのがチャントリーの完全な支援を得た自分の任務であり、まだ決断するには早すぎると反駁する。また、この先自分の任務を支援するもしないもエヴァンジェリンの自由であると突き放す。 

 ディーモンが愉快そうに笑いながら椅子から立ち上がるのを見たシェイルが、そちらに向かって突進しようと踏み出すが、ウィンに制止される。結界の中に誘うディーモンの挑発に乗ってしまえば相手の思う壺であり、シェイルが相手を倒してしまえばファラモンドを救うことができなくなる。

 ディーモンは、リースがテンプラーの密命についてウィンたちに告げていなかったことを暴露した。ウィンに不審の眼差しを向けられたリースを罪悪感が襲う。コールの話をしたとき、彼から教わったエヴァンジェリンの真の任務のことだけは隠していたのだ。今この場でそれを伝える羽目になったリースの身体をエイドリアンが押しやって、ここで発見したものがエヴァンジェリンの気に入らなければ、彼女は自分たちを皆殺しにして秘密を葬り去るつもりであり、外のテンプラーたちもそのために来たのだろうと決めつける。

 ウィンもエヴァンジェリンから遠ざかりながらそれは真実かと問い質す。シェイルがウィンを守るようにふたりの間に割って入る。剣の柄に手をかけたままのエヴァンジェリンはしばし沈黙したまま一同を見まわしていたが、やがて自分こそ知らされていなかったものの、外のテンプラーたちがここに派遣された目的がその通りであることを認めた。 

 メイジを守るといいながら、テンプラーが守るのは自分たちだけだ、とエイドリアンが非難する。エヴァンジェリンは、この任務の本質についてディヴァインに正しく伝わっていない危惧は最初からあったし、その危惧が現実のものとなった以上、好むと好まざるとにかかわらず自分は任務を全うするだけであると応じる。ディヴァインの指示に背くのかというウィンの詰問には、命令はロード・シーカーからのもので、彼がディヴァインの配下にある以上、自分は詮索する立場にないと答えた。

 命令に従うだけの存在なのか、と叫んだエイドリアンの両手に火種が生み出されている。彼女を制止しようとするリースから飛び退くと、エイドリアンは真実を告げようとしなかった彼のほうに非難の矛先を向け、その理由を問い詰める。エイドリアンの反応がわかりきっていたからかもしれないという彼の答えは、彼女の神経をことさらに逆なでした。

 テンプラーに殺されるとわかっていたら取るべき反応は最初からひとつしかない、とリースに告げてエヴァンジェリンに向き直ったエイドリアンの両手の炎はさらに大きくなる。
 このまま済むと思っているのかと恫喝するエイドリアンに、エヴァンジェリンはひるみもせずに対峙する。彼女は、ファラモンドの研究は城塞中の無辜の者たちを死に追いやった危険極まりないものであり、自分が命に代えても世界をそれから守ると誓った禁断の魔法だと応じる。

 テンプラーは理解できないものはなんでも禁断の魔術と呼ぶ、と蔑む笑いを浮かべたエイドリアンは、トランクィルがディーモンに憑依された理由を見つけるのがこの旅の目的であり、どんな方法を用いたかはともかく、ファラモンドがそれを実現したのは間違いないと指摘する。 

 謎解きの手助けを買って出たディーモンが愉しそうに顎をなでながらこう告げた。その方法の答えは、ディーモンである自分の力が強力過ぎてトランクィルでさえ憑依に抵抗できなかったか、またはエルフが自力でトランクィルの状態から復帰することに成功したか、いずれかしかあり得ない。

 トランクィルからの復帰はあり得ないと反論するエヴァンジェリンに、どちらの可能性のほうが高いか自問するがいいとディーモンがほくそ笑みながら応じ、もちろんトランクイリティから復帰が可能となってしまえば、テンプラーはメイジに加えてトランクィルまで監視しなければならなくなり、突如として誰も安全とは言えなくなる、と付け加えた。

 困惑するエヴァンジェリンが答えるより早く、エイドリアンがウィンにテンプラーの目論見を阻止するよう要求する。怒りに満ちた顔を二人に向けたエヴァンジェリンは、それで誰が何の得をするのかと訊ねるが、エイドリアンにとって、テンプラーの手によって召使い代わりの身分に貶められた同朋たちを元の姿に戻さない理由はない。

 エヴァンジェリンが険しい顔つきになってこう訊ねる。 

「あなたが言っているのは、才能を使いこなすだけの力を持たない者たち。自ら立ち向かうことのできないディーモンの餌食になる他、その者たちを救う道はトランクィリティ以外にない」

「力がないことをどうやって見分けてる? 一方ではディーモンと命を懸けた対決をさせておいて、それを逃れる道はトランクィリティの儀式しかないじゃない。野蛮なのよ!」

「ではどうしろと? さっさと殺してしまえとでも?」

「そのほうがずっと正直ね! まるで殺人鬼の集団じゃないみたいに振る舞うより、まるであたしたちの力になってると振る舞うよりましかもね!」

「バカな娘」

 エヴァンジェリンは、付き合いきれないという風に首を振った。

 その素振りを見て、ついに怒りを爆発させたエイドリアンがエヴァンジェリンの両眼を掻き毟ろうとして飛びかかる。テンプラーも剣を構えるが、リースが二人の間に割って入り、エイドリアンの身体を抱えて引き離した。

 ふたりのその振る舞いこそがディーモンの思惑どおりだとリースが責めると、彼をひっぱたきながらじたばた暴れていたエイドリアンが静かになる。リースはエヴァンジェリンに向かって、ディーモンはたとえ嘘をつかなくても、真実を操作して思い通りの結果に誘導するのだから聞く耳持ってはならないと忠告する。殺気走った目つきでふたりの対決を見守っていたウィンも彼の言葉に静かに頷き、エイドリアンさえも渋々頷いた。
 長い付き合いの間中、リースの説得がエイドリアンの真の怒りの爆発を阻止できなかったことは一度もなかったが、今回は危なかったのかもしれないとリースは思った。 

 エヴァンジェリンがリースに感謝の言葉を返すと、ディーモンが今度はリースに、彼女の密命を仲間から隠していた真の理由を問い質す。このような事態を避けるためだったと叫び返すリースに、そうではなくて、タワーに戻ったリースを待ち受ける運命から逃れるため、テンプラーの歓心を買いたかったからではなかったのか、それとも単にここにいる美形のテンプラーの歓心を買いたかったからではなかったのかと問い詰める。 

 エイドリアンはリースの手を放すと、彼と眼を合わさずに沈黙した。ディーモンの言葉に耳を貸すなとリースが彼女に囁くと、ディーモンは、真実のほうがずっと美味なときは嘘をつく必要さえない、と嘯(うそぶ)いた。 

 その言葉に激怒したリースは、ディーモンの薄ら笑いめがけて打つべく魔法のマナを集めはじめる。ウィンが杖で地面を強く付き、その音で彼を思いとどまらせると、ディーモンは無視すべしという彼自身の忠告に従うよう息子に告げる。 

 ウィンはエヴァンジェリンに向き直ると、自分たちがフェイドに侵入してこのディーモンと対決することも阻止するつもりかと訊ねる。テンプラーの答えは否であった。ディーモンはまるで謁見を受ける王のように椅子に踏ん反り返り、フェイドでの挑戦を受けて立つと言い放つ。 

 張りつめた沈黙が訪れ、不毛な話し合いは終わったのかとシェイルが訊ねるまで続いた。ウィンはシェイルの言葉を肯定したが、エイドリアンは無表情を装っているエヴァンジェリンを意味ありげに睨みつけながら、それもファラモンドを連れ戻すまでの間だけだと告げる。テンプラーはリースのほうには一瞥を向けただけで、極まりの悪い彼はその視線からも目を逸らした。今彼女は自分のことをどう思っているのだろう。エヴァンジェリンは確かに魅力的な女性だと言わざるを得ないし、テンプラーにしては正直で高潔な気品さえ感じられた。 

 それでも彼女はテンプラーに違いはなく、メイジの自分との間に何かあろうはずもなかったし、仮にそうでないとしても今そのことを考えるのは不謹慎に感じられた。彼は顔が紅潮してくるのを無視しようとした。 

 ウィンはふたりのメイジたちに、エルフを囲む結界の周囲に位置取りをするよう指図する。ヴェイルが薄すぎるここは少しの手違いでスピリッツを呼び込んでしまう危険があると告げるリースの言葉に、為すべきことは為さねばならないとウィンが返し、儀式の間のメイジの守護は任せたと言ってシェイルのほうを見やる。ウィンからレッドクリフ城で行った同じ儀式を覚えているかと問われたシェイルは、老メイジと違ってゴーレムは耄碌してものを忘れることはないと皮肉で返した。

 エイドリアンはディーモンとエヴァンジェリンに交互に怒りの目を向けている。沈黙に耐えられないリースは没頭できる作業があることを単に嬉しく感じた。彼はエイドリアンの身体を気遣って声をかけるが、彼女は彼の顔も見ずに大丈夫だと答えた。

 リースは自分のほうを品定めするように見つめるディーモンの視線から避けようとしていた。自分の研究でたくさんのスピリットに出会い、その中にはディーモンの類も含まれていたが、ここまで強力な存在は初めてだった。静かに座っているその相手と同じ部屋に立っていることは非現実的な感じだ。そのディーモンが、 エイドリアンはもちろん大丈夫だし、何も恐れることはないと口をはさむと、リースは黙れと命じる。

 ディーモンは、リースにディーモンと会話するまた別の機会を与えたかっただけであり、考えてみればテンプラーがこの出会いを許したのも驚くべきことだと告げる。エヴァンジェリンが儀式の最中にメイジたちを皆殺しにするつもりなら、シェイルだけでそれを阻止することはできそうになかったが、リースはこのテンプラーがそんな挙に及ぶだろうかと怪しく思った。

 リースは先ほどのディーモンの「また別の機会」という言葉が実はコールがディーモンであると示唆していることに気が付き、彼のことを何か知っているのかと相手に問い質す。青く輝くレりウムの溶液が入った巨大なビンを荷物袋から取り出して準備しているウィンが、ディーモンの話を聞くなとリースに警告する。

 コールのことになるといてもたってもいられないリースは、彼がディーモンであるとは考えたくなかったが、目の前の存在とコールの間になにか違いがあるだろうかと思いを巡らす。疑いを抱くことこそ相手の思う壺だ、と突然エヴァンジェリンが言葉を発し、答えが見つかるとしてもそれがこの化け物からもたらされることはない、と続ける。自分に向けられた彼女の予期せぬ配慮に少し安堵したリースは、感謝の気持ちを込めて頷き返した。

 ウィンの合図で儀式が始まった。レリウムの溶液に不用意に触れれば普通の者ですら狂気に見舞われ、メイジなら即座に死に至る危険がある。溶液を自分の身体に触れないように注意深く真鍮製の椀に移し替えるウィンの姿をリースは不安げに見つめていた。ディーモンは、気化したレリウムの青い雲が立ち上る様子を冷ややかな興味をこめて見ており、まるで歌でも口ずさみそうに愉快な表情であった。 

 目を閉じて集中していたウィンが両手で印を切ると、気化レリウムの雲の一部がツタのつるのような形になってエイドリアンの方に流れていく。それを彼女が受け止める仕草をすると、雲状のつるは彼女の身体の周りをゆっくりと取り囲み始めた。

 つるはリースのほうにも同じように伸びてきて、彼はレリウムの気体が奏でる調べに意識を集中した。彼の身体も雲状のつるに取り囲まれ、最後に彼とエイドリアンとの間にも絆を作り出すと、雲状の円環が完成した。ディーモンを囲むレリウムの環が発する力は次第に強力になり、それを耐え難く感じてきたリースは目を閉じてこらえようとするが、襲ってくる震動があまりに強いため、自分の身体が現実界からそのまま弾き飛ばされてしまうのではないかと錯覚するほどであった。リースは頭を振り乱してその考えを払拭しようとするが、その感覚はどんどん悪化していった。

 そしてヴェイルが裂けた。

【DAI】Dragon Age Asunder (10-1)

「少なくともあの間抜けな馬に乗らなくて済むわけだし」

 エイドリアンの声は狭い通路内でこだまになり、それが消えると、下に降りるにつれて強まっていた息苦しさと閉塞感がいっそう強く襲ってきた。エイドリアンが怯懦で蒼ざめているのを見て取ったリースは励ましの言葉を囁くが、彼女は逆に一体こんな場所で何をさせる気かと非難を返し、自分から志願して来たことを指摘されても意に介さない。 

 シェイルが赤い光を放つ眼窩でふたりを睨むと、頑丈なゴーレムの自分は構わないが、生身のメイジふたりはここに潜んでいる何ものかの関心を惹かないように静かにすべきだと注意する。むしろシェイルのでかい足音のほうがよっぽど騒々しいとリースは言いかけたが、相手が冗談を受け入れる雰囲気には見えなかったので思い留まった。

 エヴァンジェリンが抜かりなく剣を構えて先頭を進んでいく。先程来から聴こえている何かが蠢く音が大きくなってきているが、それがどれだけ近づいているのか知るすべはなかった。

 長い階段を降りた先は控えの間らしく、床と壁一面が血まみれで、遺体安置所のような匂いが漂っていたが、破れた衣服と少しの宝石類が転がっている以外、屍も何もなかった。

「なかなかいいね。ここの連中は内装の趣味が洒落ている」

 リースのつぶやきに、エヴァンジェリンが冗談めかして返す。

「歓迎色満載ね」

「ホワイト・スパイアも見習ったらどうだい?」

「血はどこから調達するのかしら」

「タワー中にメイジがいるのに? まさか本気で聞いてるんじゃないよね」

「言えてる」

 エイドリアンが疑わしげに自分を睨むのは、冗談をとばしたからか、エヴァンジェリンと息が合っていたからか、どちらが理由だろうとリースは思いあぐねたが、彼女のことだからおそらくその両方だろう。押し黙ることにしたリースは、蠢く音が時折する以外まったくの静寂であることが自分の神経を参らせていることに気がついた。

 通路を進むとまたいくつかの階段や通路が分岐している場所に出た。迷路のように複雑な通路をウィンの指図に従って進む間、リースは予想以上に大きなこの城塞からひとりきりで外に戻ることができるだろうかと不安になった。

 最近ここに居住していたのは数百人程度だろうというウィンの言葉に、居室の数からすれば千人は収容できるくらい大きいはずだとリースが返す。ウィンは、すでに伝えたようにここはグレイ・ウィーデンの要塞として建造されたものであり、第二のブライト当時は優に千人を超えるウォーデンたちが駐留していたのだろうという。そしてグリフォンたちも。

 エヴァンジェリンがグリフォンの話題に興味を示したので、ウィンは、当時のグリフォンの飼育洞(weyrs、訳注)が亀裂へと通じていたこと、そこへの通路こそ封印されているものの、間違いなくこの地下にまだ存在しているだろうことを言い添えた。 

 だが、数百人もいたという居住者はどこへ消えたのだろう。その末路は残された大量の血から容易に想像がつくが、中庭で二ダースほど見つけた以外、屍はどこにも見つからなかった。

 途中のいくつかの部屋は倉庫代わりに用いられていたらしく、猛獣に引き千切られたような木箱の残骸から穀物や食料が散乱しており、一部は血に塗れ、また多くはすでに腐ってしまって無数の蠅が雲のようにたかっていた。 

 そして異音はその次の部屋から聴こえていた。ウィンの杖の灯りが届く範囲の外は真っ暗闇だったが、まるで数百もの何かが蠢くような音は聞き間違いようがない。エヴァンジェリンは闇を見つめて、一行に戦いの用意をするように囁いた。  

 自分の杖が白く輝くようになるまでパワーを集めたリースは、同じように備えをしているエイドリアンの睫毛から汗がしたたり落ちているのを見た。

 ウィンは両手でアーケインの印を切り、クモの糸のようなエナジーの流れを一行それぞれの身体に送り込む。リースはそれが防護用の魔法であるとわかった。
 ウィンはシェイルに先頭に立つように伝える。生身の肉体は脆すぎるから当然だと告げると、シェイルは岩のこぶしを握り締めて暗闇に突入し、他の者たちもすぐあとに続いた。

 ウィンが放った照明光があまりに強烈だったため、リースは一瞬たじろぎ、腕で両目を隠さなければならなかった。薄目を開けて光に照らし出された光景を見た彼は、できれば見えないほうがよかったと思った。 

 兵舎だったであろう部屋は、身の毛もよだつような巣窟となっていた。無数の人々、かつて人だったものたちの姿が照らし出されている。今や不気味に歪んだ姿となった化け物たちはうずくまって人肉を貪り喰い、骨の山や他の化け物たちの上にのしかかり合いながら、肉の破片を奪い合っていた。血の中を這いずりまわり、以前身に着けていた着衣の成り果てたぼろの他は肌は血と汚物まみれであった。 

 闖入者一行に向けられた化け物たちの目は邪悪なかがり火のように輝いており、そこから内側の闇の力を放出しているようであった。鋭く血だらけの歯牙を向き出しにして不気味な唸り声をあげる姿は、まさに悪魔に取りつかれたもののそれであった。
 リースが生まれてこの方、これほど怖気を震ったことはない。

 気を付けてと叫んだエヴァンジェリンは、自分に向かってくる最寄りの化け物に突進して剣で真っ二つに切り裂いたが、すぐに他の化け物に掴みかかられ押し倒されそうになる。彼女はありったけの力で相手をふり飛ばすと、即座に起き上がって大きく唸り声をあげているその首を横ざまに刎ねとばした。

 シェイルはすでに彼女に先行していた。足音で轟音をたてながら突進し、憑依された男女をひとまとめに抱え上げ、部屋中に投げ飛ばした。化け物たちは金切り声を上げながら空中を飛んでいき、着地点にいる他の同類たちをなぎ倒す。
 だがシェイルの身体には他の化け物たちがよじ登ってきており、いくら弾き飛ばしても別の化け物が取って代わる。シェイルはついにそれらにかまけることをやめ、こぶしを振り回して、メイジたちに近づこうとする化け物たちを遠くに弾き飛ばすことにした。

 新手の化け物たちが次々に湧いてきて、吠え、悲鳴をあげる。ウィンはリースとエイドリアンに用意はいいかと尋ね、ふたりは頷き返した。

 恐怖を無理やり捻じ伏せたリースは、意識を魔法のパワーに集中させると渾身の力で呪文を放った。彼の身体を貫いた興奮は信じられないほど大きかった。シェイルとエヴァンジェリンの頭上を越えていった黒いエナジーの塊が壁に衝突すると、付近の化け物たちを周囲の空気や瓦礫もろとも虚無の中に吸い込む大穴と化した。離れた場所にいた化け物たちもまるで強烈な向かい風に押し戻されるかのように歩みが遅くなり、虚無に吸い込まれないように腰をかがめてもがいていた。

 リースは、目を閉じて集中しているエイドリアンの身体から放射される熱波を感じた。彼女が再び開いた両眼は炎で紅く燃えている。彼女の両の掌から発せられた火の玉は空中を進む間にその大きさも熱量も増し、化け物の一団に直撃すると同時に爆発して阿鼻叫喚の火焔地獄を生み出した。 

 ウィンが杖から稲妻を次々に繰り出すと、直撃された化け物たちは皆即座に斃れていき、電荷は付近の化け物たちも巻き込んでいった。エヴァンジェリンとシェイルの横をすりぬけて自分のほうに近づいてくる相手にウィンは冷気を浴びせて氷漬けにする。
 氷の壁と化した同類たちを完全に無視するかのように、その横を迂回して接近してくる一団にも、ウィンは幾度か冷気を放つが、とうとう中の一匹が彼女に跳びつくとそのまま床に押し倒した。 

 リースが母親の名前を叫び、ちょうど彼女の頸を噛み千切ろうとしていた化け物の頭に魔法のボルトを見舞う。吹き飛ばされても即座に立ち直った化け物を、今度はウィンが氷漬けにして粉微塵に砕いた。

 ウィンが感謝のまなざしをリースに向けたちょうどそのとき、今度はリースが一匹の化け物にのしかかられ、床に強かに打ちのめされた。その化け物は女性の変わり果てた姿で、肌は斑色で吹き出物だらけ、頭皮からは長い金髪の残りの束を垂らして、彼のほうに黒い唾液と血に塗れた牙をむいて喉からシューシューとした声をあげている。その力が思いのほか強いのでリースが危うく力比べに負けそうになった時、恐怖に顔をひきつらせたエイドリアンが杖でその化け物を何度か殴打した。飛び退いた化け物にエイドリアンが火焔の放射を見舞うと、それは悲鳴を上げながら闇の奥に消えていった。

 相手の数が多すぎると叫ぶエイドリアンの声がリースにかろうじて聞こえた。ウィンの稲妻に伴う雷鳴がエヴァンジェリンとシェイルが葬り去る化け物たちの断末魔と相まって、部屋は耳をつんざくような轟音が支配していた。

 エイドリアンとリースが見やると、シェイルが化け物の大群の中でもがいており、その岩石の身体でさえも化け物たちが徐々に削り取っているようだ。エヴァンジェリンの額から流れる血は彼女の顔面と鎧の胸まで赤く染めている。ウィンもついに押され始めており、これ以上長く持ちこたえることができないのは明らかだった。 

 火焔の嵐を呼ぶしかないと叫びながら、両掌で赤い火種を生み出したエイドリアンに、それではエヴァンジェリンが持ちこたえられないとリースが制止する。全員死ぬよりましだという彼女の返事に跳ね起きたリースは、周りにすでに風が巻き起こり始めてるのを感じた。

 リースは自分に殺到してくる化け物たちをありったけの魔法の力を呼び起こして弾き飛ばしながら、剣を荒々しく振り回しているエヴァンジェリンのほうに駆け寄っていく。周りを隙間なく化け物たちに取り囲まれた彼女は、その厳しい表情からもう長くは耐えられないと覚悟していることが見て取れた。

 リースが声を限りに名を呼んでも、彼女には聴こえていないようだ。付近の化け物を吹き飛ばしながらエヴァンジェリンの傍らまでたどり着くと、彼女が振り回す剣が彼の目の前間一髪でとまった。驚愕したような血塗れの顔で彼を見つめると、彼女は一体何をしているのかと叫ぶ。伏せろと叫んだリースは彼女を抱きかかえ、もろとも床に倒れこんだ。化け物たちがふたりに殺到し始め、エヴァンジェリンは怒りと恐怖に囚われて、リースの腕から逃れようと身もだえした。

 そのとき、火焔の嵐が襲った。部屋の天井まで達した火焔はハリケーンのように渦巻き、そこから轟音とともにしたたり落ちてくる炎が化け物の大群を一瞬にして黒焦げに変えた。両手を目いっぱい開いたエイドリアンは炎の環に包まれているが無傷だ。その身体は宙に浮き、赤い巻き毛が風に靡いている。復讐に燃える無慈悲な女神の姿だった。 

 リースはエヴァンジェリンの身体に顔をうずめ、彼女は自分の両手で顔を覆っていた。熱波は熾烈で、暴力的な轟音に打ちのめされたリースは悲鳴をあげようとしたが、呼吸すら難しい中でそれは無理だった。 

 はじまりと同様に嵐は突然やみ、不気味な静寂が訪れた。燃え滓がくすぶる音だけが聴こえ、炭と焦げた肉の匂いがした。

 リースに続いてエヴァンジェリンも顔をあげ、呆けたような顔を彼に向けた。語るべき言葉もなく、眩暈と奇妙な虚ろさを感じていたリースが杖から灯りを発して周囲を見ると、戦いが終わっていることがわかった。少し離れたところにシェイルが立っており、岩石の肌から熱い灰を忌々しそうにはたき落しながら、メイジもときには役に立つ、と不承不承認めていた。

 ウィンとエイドリアンも近くの床に伏せていたが、ふたりとも身動きしていない。リースが駆け寄ってみると、ウィンは髪の毛が焦げてぼさぼさになっている以外は無事だったが、エイドリアンは死んだように蒼白で、やっと息をしているようだった。彼が触れた頬は冷たかった。

 「エイドリ?」

 不安にかられたリースが囁く。

 「あたし死んだのかしら?」

 ようやく目を開いた彼女がうめいた。

 「いや、まだのようだ」

 心から救われた安堵で脱力感に見舞われたリースが笑って答える。

 「それは残念・・・」

 ふたりに近づいてきたエヴァンジェリンが剣を鞘にしまって、今のところは安全になったようだと言った。血と煤に塗れた彼女は、どこからみても百戦錬磨の戦士の姿だった。
 ウィンが杖に再び明かりを灯し、シェイルも無事なことを確かめると、向う側の通路がファラモンドの実験室に通じており、彼もそこにいるはずだと告げる。
 信じられないという顔をしたエヴァンジェリンが、このような状況で彼がまだ生き残っているとでも思っているのかと問い質すと、ウィンはそのとおりだと答えた。

***

(訳注) USのサイファイ・ファンタジー作家、故アン・マキャフリーの造語であるweyr(ウィーア)の複数形。おそらく養殖魚を放すweir(堰)が元。マキャフリーの物語では、多数の飛龍、その乗り手の戦士たち、および飛龍部隊を支える諸々の役割を担う者たち全て、またはその換喩のもととなる、飛龍部隊の駐屯地、一般には巨大なカルデラ(凹)状の地形そのものを指す(カルデラ状であれば辺縁部の外輪山が襲撃からの防護の役割を果たし、中央部は飛龍がそのまま離着陸できるよう開放されていて都合が良い)。日本語版では「大厳洞」などと訳されている。

 ここではマキャフリーの造語をそのまま用いているが、ウィンの説明によれば太古のグレイ・ウォーデンのグリフォン部隊は要塞のかなり下部に駐屯していたようである。よって大亀裂の側面に口を開けた大きな洞穴と考えるほうが自然かもしれない。

2013年9月 5日 (木)

【DAI】Dragon Age Asunder (9)

 馬上で目覚めたリースが自分の置かれた立場がわからない様子で身じろぎする姿を見て、エヴァンジェリンはそれも当然の報いだと面白がっているように微笑んだ。
 彼が落馬しないように支えたのは後ろに跨っているエイドリアンで、野営地を出発以降は以前より少しは彼の世話を焼くようになっていた。

 さらなる襲撃を恐れたエヴァンジェリンは、リースが覚醒するのを待って最悪もう一晩あの塔の下にとどまる危険を冒すよりは、まだ暗いうちにすぐ出発することを選んだ。

 昨夜の顛末を尋ねたリースに、馬を寄せてきたウィンは自分が治療したのだと告げた。青白くやつれた様子の彼女を見て、エヴァンジェリンは彼女が昨夜一体どれだけのパワーを費やしたのかと慮る。荒れ果てた地全体が明るく照らし出されていたかのようで、彼女が戦いの場に到着する頃には亀裂全体が崩壊しているのではないかと危惧するほどであった。

 エヴァンジェリンとエイドリアンが駆けつけなければ、おそらく命はなかっただろうとウィンから告げられたリースは、彷徨い出たことを改めて後悔した。エヴァンジェリンは、むしろ野営地の外にダークスポーンの襲撃を誘い出す餌になってくれたと冗談めかしていうが、もう一度繰り返せばアポステイトと見なすと釘を指すことも忘れなかった。

 登る太陽、あるいはこの荒れ果てた地でそう呼ぶしかないものが顔を出す直前、風が戻ってきた。空を覆う灰色の靄(もや)の中でもなんとか馬を進めることができた。ウィンが言っていたように、西に向かうにつれて亀裂は向こう側が見えなくなるほど幅広くなっており、もはや大地の果てと呼ぶのがふさわしい。

 命令に従っているとはいえ、エヴァンジェリンは自分がこの冷たく招かれざる土地で一体何をしているのかと幾度目かになる自問を禁じ得なかった。メイジひとりの居場所すら容易に見つけられない自分が任務を全うできるのかと不安になる。これから先悪いことが起きる予感がするのだが、それは胸の内に留めておくことにした。

 アダマント要塞の輪郭が、吹き荒ぶ砂嵐の中から徐々に姿を現してくる。大きくはないがその堅牢さは名前にふさわしい。黒玉石(jetstone)の高い城壁が周囲を取り巻き、大きな城門の両側には弓櫓の塔がある。亀裂の端に危なっかしく引っかかるように建っている要塞の姿は、眼下の獲物を狙って身構えている猛禽のようにも見える。亀裂側からの攻撃は困難で、攻め手は一方向からしか接近できない。

 近づくにつれて要塞の禍々(まがまが)しい雰囲気が、例えばその完全な静寂からも明らかとなる。塔に人影はなく門は半開きだった。ついさっきまで炎が燃えていたかのように黒い靄が中庭から漏れ出してきており、エヴァンジェリンは砂嵐の中でも漂う腐臭を感じることができた。

 エヴァンジェリンの馬が手綱どおりにいうことを聞かないのは、砂に半ば埋もれた多くの死体を避けているためだ。見ると城門から扇を描くようにして屍がそこここに散乱しており、それぞれが今やこんもりした砂山と大差なくなっているのを見れば、一行が進んできたのが墓場の中であったことがわかる。

 ウィンは、それらの屍が要塞の住人たちのなれの果てであり、前回ここに訪れたときには皆ディーモンに憑依されて正気を喪い、自分たちを攻撃してきたのだと一行に告げた。リースが聞きとがめたようにウィンは前回ひとりきりでここを訪れたわけではないようだ。
 地面に多数の蹄の跡を見つけたエイドリアンは、まだ中に敵が残っているのではないかと尋ねるが、それだけの大勢であれば外からやってきた者たちに違いないとウィンが言う。

 リースが指し示した方向には二十騎の集団がおり、遠い方の城壁の角の近くでゆっくりと馬を廻らせていた。エヴァンジェリンは重い鎧を身に着けたその集団がテンプラーであることにすぐに気が付いたが、同僚たちがここにいる理由は何も知らされていなかった。

 三人にその場に残るように告げたエヴァンジェリンは同僚たちの方に馬を進めた。アボミネーションの噂を聞きつけた他のタワーの者たちだろうか。まだここに留まっていることから見て、すでに事態への対処を済ませているということは考えにくかった。

 テンプラーの先頭にいた男が自分のほうに手を振ってきた。ロード・シーカーがホワイト・スパイアに伴ってきた腹心のひとりアーノード(Arnaud、仏:アルノー)であることにエヴァンジェリンは気が付いた。度を過ぎて美形かつ傲慢な男で、本来なら彼女の騎士隊長の地位をとっくに奪うはずだったと考えているのは間違いなかったし、おそらく事実その手はずだったのだろう。いずれにしろエヴァンジェリンはこの男の人を見下すような態度は無視して、できるだけ接触しないように心掛けていたのだ。

 馬を止めた彼女はテンプラー全員がホワイト・スパイアの者たちであることに気が付いた。ようやくのご到着かとアーノードが叫び、自分たちはロード・シーカーの命により派遣され、エヴァンジェリンが援助を欲しているようなら手を貸すように指示されていると告げる。

 ディヴァインの任務を遂行するウィンの安全を確保し、害のある何かを発見したとき対処するのが自分の役目だというエヴァンジェリンに、その際援護するのがまさに自分の任務だとアーノードは答える。害のあるものを発見することにロード・シーカーが確信を抱いているのだと思うとエヴァンジェリンは腹立たしかった。ロード・シーカーは何か自分の知らないことを隠しているのか、それとも単に警戒心が強いだけなのか。

 エヴァンジェリンは、自分たち一行が要塞内から戻るまでその場で待つようにアーノードたちに告げ、メイジたちのほうに引き返しはじめた。戻らなかったらどうするという彼の問いかけに答えなかったのは、そうなれば彼女の知ったことではないからであり、アーノードはロード・シーカーの歓心を買う方法を自らひねり出さなければならなくなるだろう。
 疑わしそうに尋ねるエイドリアンに、エヴァンジェリンはホワイト・スパイアのテンプラーたちは同行せずここで待つことになると告げたが、むしろそれは彼女の願望であった。

 城門は馬上の一行が通れる分だけ開いていた。内側にうず高く積もった砂を見れば、もう一度この要塞を利用するため門を閉めるには多大な労力を要することが見て取れるが、再建が無理なことは中庭の光景から一目瞭然だった。城塞自体は無傷で、階段の上の扉も固く閉まっているが、その他は全て廃墟と化している。城壁内部の建物は原形を留めないほど焼け落ちており、いたるところに見える焦げ跡はここで魔法の戦いが行われたことを物語っていた。中央の貯水池だった残骸を囲む石畳はどれも黒く灰にまみれていた。

 エヴァンジェリンは最近焼かれたらしい死骸の山を見つけ、それが遠くから見えた煙の出どころであると見て取った。あたりの熱源はそれだけで、他の部分は長いこと冷え切っているようだった。
 
 唯一場違いなのは階段の下に立っている高さ七フィートほどの粗削りな彫像で、ごつごつした岩石と水晶からできていた。エヴァンジェリンの目には、その趣味がオーリージャンの城には似つかわしくない奇妙なものに見えた。

 その彫像が動き出し、頭部を回して悪意に満ちた眼窩をこちらに向けてきたので、エヴァンジェリンは即座に剣を抜いて一行に警告を発した。ウィンが彼女に手を出さないようにと叫びながら馬から降り、同じように馬から降りたリースが引き留めようとするのを振り切って、彫像に近づいていく。

「老メイジが戻ると言って出てから随分と時間がかかったものだね」

 まるで石同志がこすれ合うような良く響くざらざらした声で彫像が不満を漏らす。

「あなたも一緒に来ればいいといったでしょう?」
「中の化け物をここに放っておいたままで? あり得ない」

 彫像は焼けた死骸の山を指し示す。

「掃除をしていたのさ。まるで召使みたいに。メイジのためにつまらない雑用をこなしていると、昔の記憶が蘇ってくる嬉しさで泣けてくるよ」

 小さく笑ったウィンはあっけにとられている他の者たちを振り返ると、彫像のことをシェイル(Shale)という名で紹介し、以前この要塞にウィンがやってきたとき同行していたのが彼女だと告げた。ファラモンドが彼女の姿を元に戻す手助けになると期待していたのだが、今やそれも望み薄となってしまった。

 ゴーレムなのか、「彼女」には見えないがそうなのか、とエイドリアンとリースが口々に質問を浴びせかけると、ウィンは、シェイルとはフェラルデンでともにダークスポーンと戦った仲であること、彼女は大昔にゴーレムを生み出す実験台になったドワーフの戦士であることを告げ、元の身体を取り戻す方法をずっと探しているのだが、今まで目ぼしい進展がないと言って憐れんだ。シェイルのほうはウィンの同情を意に介せず、生身の肉体にいかほどの価値があるか怪しんでいるようであった。

 馬から降りたエヴァンジェリンはゴーレムのほうに警戒した眼を向けた。それが太古の昔に喪われたドワーフの技術の産物であることは知っていたし、老いることがないので今でも多くが発見されるのを待っているが、そのほとんどは気が狂っているとも聞いていたのだ。ただしものを言うゴーレムのことは初耳だった。ウィンがその存在を事前に告げなかったことも警戒する理由だった。

 きちんと飼い馴らされているのかと尋ねる彼女のほうに向きなおったシェイルは、この横柄なテンプラーをペシャンコにしてやろうかと腹立たしげに息巻く。それを制止したウィンは閉じられた扉のほうに注意を向け、リースに対して何か感知できることがあるかと尋ねた。

 リースは、中にはディーモンが一体あるいは複数いて、この辺のヴェイルがホワイト・スパイアの周辺よりも薄くなっていると答える。ウィンはエヴァンジェリンにここで待つほうがいいと告げるが、テンプラーはウィンに同行することを主張する。

 ウィンから願いをこめた眼で見詰められたシェイルはため息をつき、轟音とともに階段を駆け上って両開きの扉の木の部分を指で突き破った。しばし扉と格闘していた彼女がとうとう二枚とも蝶番から引っこ抜いてあたりに放り投げると、ばらばらに飛び散った扉の一部がとっさに飛びのいたエヴァンジェリンのいた場所に墜落した。気でも違っているのかと抗議する彼女のほうに肩をすくめると、シェイルはテンプラーが意外と機敏だったことを悔しがった。

 狼狽しているエヴァンジェリン以外の者たちは開かれた扉の中にすでに注目しており、ウィンが決然とそこに足を踏み入れると皆すぐ後に続いた。エヴァンジェリンも最後に付き従う他に道はなかった。

 城塞の中は暗く、石造りだという理由だけでは説明つかないほど冷たかった。入口の細い光で照らし出された内部は悪夢の様相で、床も壁も乾いた血痕と血糊に覆われており、その匂いはかび臭くむせ返るようだった。屍は見当たらないが、遠くの闇の中から大きな物体が地面を蠢くような音が聞こえており、エヴァンジェリンはその音の正体を何通りも想像することができた。

 ウィンが白い杖から魔法の灯りを発するとあたりの闇が退き、大きな階段と奥へ進む回廊が姿を見せた。それでも自分が侵入者であるかのように感じているエヴァンジェリンの気は晴れず、不吉な予感がまるで冷たいうなぎのように彼女の肌を滑り抜けていった。

 エイドリアンが見つけた血で書かれた壁の文字はほとんど判別できる状態ではなかったが、「ここから出してくれ」という一文だけははっきり読み取れた。扉が内側から閂止めされていたのであれば自由に出ることができたのではないかと訝しがるエヴァンジェリンに、扉は閂止めされていたのではなく、封印されていたのだとシェイルが告げる。リースが壁の文字から遠ざかって胸のむかつきを抑えようとしていたが、エヴァンジェリンもそれと同じ思いだった。

 行先は階下であるとウィンが言う。要塞は亀裂の壁を這うように建造されていて、今いる階層は居住区に過ぎず、ファラモンドの実験室はここより下層にあるのだ。地下に向かうことについてはリースもあまり良い感じは抱いていないようだった。

 まだ友人を見つけたがっているのかと問いかけるシェイルに、ウィンはどこか自信なさげにそうだと答える。

 一行が闇の中に立ち止っていると、玄関の外から物凄い勢いで吹き付けている風の音が聞えてくる。もはや話すことが何もなくなった一行は歩み始めることにした。

 ***

 コールは、リースに諭されたとおりタワーに戻るべきかどうかひととき思案していた。来た道を辿ってあのおぞましい大きな都市にひとりで戻るのは一種の冒険であるとも言えた。

 だが外の世界で見知らぬ多くの者たちに囲まれた経験のないコールは、自分が今まで以上に見えない存在になってしまう孤独感に苛まれた。なじみ深いタワーの居心地はいいだろうが、そこにリースの姿はなく、現に窮地に立たされている彼が仮に二度と戻ってこなければ、自分は永久に孤独に耐えなければならないという思いが彼を衝き動かした。

 コールは追跡を続けたが、またリースに見つかることのないようにできるだけ遠くから追いかけることにした。道中リースが始終振り返るので、コールは道から離れて茂みの中を進んだ。そうしているうちにコールは、リースがもう自分の姿を見ることができなくなっている可能性があるかもしれないことに思い至った。

 その不安がまるで冷たい鉛の塊のようにコールの胃の中に居座った。毎朝起きるたびに、リースたちがすでに野営地から旅立ってしまっているのではないかという恐れに苛まれ、慌てて野営地まで駆けて行ってまだ一行が起きていないことを確かめるまでコールの心は休まらなかった。リースの寝顔を見て安堵する一方で、この場で起こして話をしたい衝動に駆られるのだ。 

 道中リースが後ろを振り返って何か意味のある仕草をしてくれないかとコールは待ち構えていたが、期待は裏切られ続けた。時折あまりに距離が開きすぎて一行の姿が丘のあちら側に消えるたびにコールは狼狽えてしまうのだった。

 土地が次第に乾きはじめ、やがて風と紫色の砂ばかりとなった。この風変りな荒れ地では周囲の世界が死滅して萎んでしまったかのように感じられた。風の咆哮は苦痛と無関心を感じさせ、コールの心は悲しみに引き摺られた。コールは世界にこんな場所があることも、そしてこんな土地に赴きたがる者がいることも知らなかった。 

 ここでは一行の馬の歩みが遅くなるので追跡が容易になるという恩恵があった。砂嵐の中でその姿を見失ったとしても、追跡できるだけの十分な時間、馬が砂の上に跡を残してくれる。 

 この土地には闇の化け物が潜んでいて、コールにその姿は見えないし、見たいとも思わなかったが、相手から目撃されることは恐れていた。最初の夜は恐怖の体験で、岩の裂け目に隠れつつ寒さを凌いだが、圧倒的な闇が彼を丸ごと消し去ってしまうのではないかと恐れた。 

 より悪いことに、彼には音楽が聴こえていた。なんの調べかわからないがずっと遠くから聴こえてくるそれは、焦燥によって鼓動を早め、血を燃えたぎらせるといった、あまり心地よくない方法で彼を呼ぶ歌声なのだ。自分でもなぜ知っているかわからないが、闇の化け物たちもその調べを聞いている様子を感じることができた。

 膝で耳をふさいでその調べを締め出そうとしていたとき、魔法と戦いを示す音が聞こえ、遠くでリースが悲鳴を上げている声も聞こえた。だが周囲の闇にあまりに怖気づいていたコールはその場から動くことができなかった。化け物が周囲の至るところにいることがわかり、もしタワーに戻れるものならコールは即刻そうしていただろう。

 その夜、あまりに疲れ切っていたコールは奇妙な夢に苛まれた。古傷が開いて膿が噴き出すように、脳裏を記憶が巡りはじめた。理由もなく恐怖を与える様々な顔が浮かび、自分がどこか遠い過去の暗く狭い場所に隠れているような感じがした。

 その場から逃げ出したところで夢から覚めた。あの音楽が深い水中に沈んだコールのところまで届き、光のもとまで引き上げてくれた。コールはリースの身を案じることも忘れ、自分が生きていることに安堵した。

 起き上がったコールは、一体の闇の化け物がすぐ近くに立っているのを見て凍りついた。その人の形をした化け物は内部から邪悪に蝕まれてしまったかのようで、周囲に闇をまき散らしている。自分の方を凝視しているように見えた脅えたガラス玉のような眼が次第に逸れ始めたので、コールには化け物が自分を視ていたのではなく、匂いを嗅いでいたことがわかった。自分のいる岩の方に化け物が一歩近づいてくると、コールは自分のダガーに手をかけた。

 もう一歩近づいてきたら戦わざるをえないと覚悟したところで、コールはまたしても音楽に救われた。突然はじまった調べを聴くかのように化け物が中空を見上げ、暗雲の狭間からこぼれてきた陽光を浴びるのがまるで苦痛であるかのように飛び跳ねると、すぐにその場から姿を消した。

 リースたちが向かった先を見つけるのは容易ではなかった。一行の馬の跡はすでに風が掃き散らして消えており、他に手掛かりもないコールは、途方もない絶望に打ちひしがれた。

 最後の手段は亀裂に沿って進むことだった。ずっと昔に何かが地面を引き裂いて、暗黒の何かをまき散らしたその亀裂に近づくと神経が昂るため、コールはできるだけ遠ざかっていたかったのだ。だがリースたちの今までの行程から見て、向かったのは亀裂沿いの方向に違いなかった。

 やがて亀裂の端にへばりつくように建っている城が見えてきた。外には何かを待ちながら談笑しているテンプラーたちの姿があり、その中には大鼻の他、見知った顔もいた。

 コールは何の目的でそこにいるのかわからないテンプラーたちを無視して城の中庭に入った。何かの存在が感じられるここは気分のいい場所ではなかった。今日一日あの調べは聞こえていなかったが、その代わりにほんのかすかに聞こえてくる囁き声がコールの神経を逆なでした。ここを死が支配していると感じられるのは、コールが目を背けている死骸の山のせいだけではなかった。どの石にもまるで昨日記されかのように恐怖が染みついており、コールはリースがここへ赴いた理由を訝しがった。

 中庭に繋いであった馬が見つかり、どれだけ前かわからないが一行が城塞の中に入って行ったことがわかった。コールが扉をくぐって中に入ると、囁き声はさらに強くなる。リースたちの向かった先を示す手掛かりはなく、しばらく腕を擦って身体を温めていたコールは、リースの名前を大声で呼んでみたが返事はなかった。城塞の中をひとりで探索するのは気が引けるがそれしか道はないようだった。地下の闇の中に降りるのは本当に必要な場合だけにして、コールは階段で上階を目指すことにした。

 階段には、血まみれの衣服の切れ端、壊れた調度品、子供用の人形など、人々が生活していたことを示す残骸が散らばっていた。寝室だったいくつかの部屋では寝台も調度品も破壊されており、そこここに血の跡があるが屍はひとつもない。すべての窓には鉄格子が嵌められ、漏れ入る明かりは空中の塵芥を照らすだけであった。すべてが干からびたような、だが妙に腐肉のような汚臭にまみれていた。

 リースはすでにここにいないのではないかと不安になったコールがまた何度か名前を呼んだが、返事はなかった。もう彼にはコールの声が聴こえなくなっているのかもしれず、自分の存在が薄れかけているのかもしれない。彼は周囲の冷気にも係らず熱く火照った身体を壁にもたれかけ、自分はここで何をしているのだろうと自問した。いくつもの部屋を何度も確かめたが、元の住人たちはとうの昔にいなくなったか、あるいは死んでいるのに違いなかった。

 誰かが近くにいることに気が付いて、彼は動きを止めた。タワーで感じたのと同様に、その相手もコールの姿を見ることができることを感じることができた。心を落ち着けるためダガーを手にした彼は、相手が隠れている場所に意識を集中して探りあてた。コールは暗闇の中で相手の鼓動を聞くことも、その絶望を感じることまでできる。静寂の中では甲高い呼び鈴のようにはっきりとわかるのに、どうして今まで気が付かなかったのだろう。

 城塞の頂上階まで登って大広間に入ると、そこには残骸も血痕もなく、下層を襲った災難から隔絶されていたことがわかる。寝室の一つは保育所替わりだったようで、空の幼児用寝台があった。

 タワーでは見たことのない類の居間らしき部屋には裕福な者が住んでいたらしく、豪奢な什器と、火の消えた暖炉、そして壁のひとつを覆うほど大きな書棚があり、書籍ひとつひとつ含め、まったく手を触れられていないようであった。
 だが、部屋の中央に敷かれた絨毯に残された大きな血溜まりの跡と、周囲の壁や書棚に飛び散った血飛沫が、誰かがここで激しく争い、そして死んだことを示している。

 コールが剥ぎ取った絨毯の下には隠し戸があり、戸を開けると中には埃まみれの姿でひどく痩せこけた若い女性が隠れていた。ぼさぼさの黒髪に質素な室内着姿の彼女は恐怖の悲鳴をあげ、狭い空間の中で身を隠そうと身じろぎした。女性の周りにある乾いた食糧や汚れた毛布、そして小便の強烈な匂いから、かなり長い間ここに潜んでいたことがわかる。
 疲労と恐怖のため震えている彼女の姿は、タワーのダンジョンで眠ることができずにやがて正気を失っていく人々に似ているとコールは思った。

 彼女に自分の姿が見えることがわかり、コールは安堵した。顔を覆っていた両手を下した女性がコールのダガーと顔を見比べ、自分を殺すつもりかと尋ねるので、コールは逆にそうして欲しいのかと聴き返した。返事はなかったが、彼女の震えが治まったことから、コールは、自分の言葉が恐怖からの解放を意味することを相手が理解したのだとわかった。 

 コールは、いまや目の前の女性の生命を左右する立場にあり、タワーにいたときと同じように、この世から消え去ることなく踏みとどまれと命じる内なる声を再び強く感じていた。だが誰かを殺してもこの世に留まる足しにはならないとリースに咎められたこと、一方でタワーで手にかけたメイジたちの誰もが命を絶つように自ら望んでいたことにも思い至り、コールの心は葛藤に苛まれた。

 殺しはしないとコールが告げると、女性はすすり泣き始めた。コールは、その理由がこの境遇に取り残される絶望のためではなく、ただ安堵しているからだと気が付いた。あまりに泣き続ける彼女を憐れんだコールは、このまま一人にした方がいいと考えてその場を立ち去ろうとした。 

 行かないでくれと引き止める女性のほうを振り返り、コールはリースの姿を見かけたかと尋ねた。女性はそれが誰かわからないと答え、外に出たのは食糧を得るためだけで、夜は襲われないようにずっとここに隠れていたと告げた。襲ってくるのはどこか下層にいる存在のことだとコールは理解した。 

 その場を後にしようとするコールを女性が再び呼び止める。隠し戸から顔を出して室内の様子を見まわした彼女の息遣いは、動揺を示すように早く荒くなっていった。
 女性がようやく隠し戸から這い出してきたのを見届け、コールが部屋を出ようとすると、追いかけてきた彼女に強く肩を掴まれた。

 どこに向かうのかと訊ねる彼女に、コールはリースを探さなければならないと答えるが、殺されてしまうからと思い留まらせようとする彼女への答えは見つからなかった。自分を殺そうとする相手ならリースにとっても危険に違いない。リースが死んでしまったら、彼を救うためにここまで来たことが無為になってしまう。あるいは騎士隊長がリースを殺すかもしれないし、外にいたテンプラーたちはそのためにやってきたのかもしれない。 

 彼女の顔が自分のすぐ近くにあることを意識しないようにしていたコールは、最後に誰かに身体を触られたのがいつだったか思い出すことができなかった。自分に実体があることを実感するのは心地よく、相手の匂いですら今は価値があった。

 名を尋ねられたコールが名乗ると、彼女はダブリサ(Dabrissa)と名乗った。扉が封印されてここから立ち去ることができなかったという彼女に、扉はすでに開かれているとコールが告げる。訝し気な顔をしていた彼女が駆け出し、コールは少し逡巡したのちに、その後を追った。 

 彼女は階段の頂上に立って開け放たれた玄関を見下ろしていた。大きな音に怯えてずっと隠れていたが、実際には逃げ出すことができたのだと知って、彼女が嗚咽し始めた。他人を安心させる方法も、なぜそれが必要かも理解できないコールは、どう慰めていいかわからず、女性の肩をぎこちなく何度か叩いた。

 城の外にいる騎士たちが助けてくれるかもしれないと聞くと、女性はコールに一緒について来てくれるかと尋ねた。リースを探さなければならないというコールの答えに頷いて彼女は玄関に向かって少し歩き始めたが、すぐに足を止めて振り返り、コールにこう告げた。

 「あなたは命の恩人です」 

 彼女は微笑んでいた。 

 「この恩は一生忘れません」

 「いや、それは無理だ」  

 コールは、彼女のほうを見てもいなかったが、最初はおそるおそる、やがて全力で階段を駆け下りていくその足音は聞いていた。そして彼女は戻ってこなかった。

 心の虚ろさを掻き立てる囁き声が舞い戻ってきたので、コールは先ほど女性に触られた自分の肩に触れてみた。リースを探すなら地下に向かうしかない。城塞の深い闇が彼を招き寄せていた。

2013年9月 3日 (火)

【DAI】パーティー・メンバー創造(2)

 前回の続き。

パーティーの構築

 キャストを決めるのも難しいが、コンセプト・アーティストとライターが最善を尽くしたその後は、さらに深い水中に潜ることになる。「我々はゲームの主要テーマを考慮して、プレイヤーたちへ投げかける高次の問題を決めるんだ」とクリエイティヴ・ディレクターのマイク・レイドロウは言う。「パーティーはそうした問いを投げかけるに際して手助けしてくれる手段のひとつだ。なぜなら、いつも傍にいて反応を返してくるし、自然と惹きつけられる関係になるからだ」

 キャラクターを単に何らかの問題の権化(ごんげ)として創造するのではなくて、その人物がある物事を何故に特定の視点から見ているのかという点についての洞察をプレイヤーに与えることが重要なのだ。「パーティー・メンバーはある問題を擬人化してくれるのに役立ち、我々はある問題に対する態度を、感情的な方法で代弁してくれるひとりの人物にまで蒸留することができるのだ」とゲイダーが言う。 

 DAIのパーティー・メンバーであるヴィヴィアンを創造するときにもそうであった。このサークル・メイジは、メイジが独立を宣言してチャントリーと袂を分かつ前までは、サークル・オヴ・オーレイのファースト・エンチャンター後継候補であった。「サークルとチャントリーの果たすべき役割についてかなり特別なものの見方をしている人物だ」とクリスチャンセンは言う。「過激なほどにサークル寄りであった者にとって、そのシステム自体が崩壊したら何が残るのだろうか? 彼女はインクイジションに対して非常に特殊な要求を抱くことになるだろうが、それは、必ずしも彼女が賛同するとは限らない主人公インクイジターの進む道によって決まるのだ」 相手がロマンス候補である場合、この種の問題によって主人公の思いが引き裂かれることを意味する。「メイジの保護に興味はないが、ヴィヴィアン個人の安全は守りたい、なんてことになるかもしれないよ」とレイドロウ。 

 BioWareチームが議論したもうひとつの課題は、パーティー・メンバー間の交流が予定されたアジェンダに従って進むのではなく、メンバーのダイナミックな関係によって示されるようにするということだった。「我々は、あるキャラクターは他のメンツたちについてどう思っているのだろう、それぞれとどんなおしゃべりを交わすのだろう、そもそも好感を抱きあっているのだろうか? などということを決めていった」とクリスチャンセン。「そうすることでゲームのメイン・テーマがさらに浮彫りにされるんだ。それはときには驚くべき形で現れることもあり、例えば当然いがみ合っているはずだと思われるふたりのメンバー同士の関係は、実はそうではないのかもしれない。そのふたりが好感を抱きあっていることは、ゲームやそのテーマについてより大きなことを物語っているのかもしれない」とレイドロウ。「あるいは、徐々に惹かれあっていくのかもしれない。イザベラとアヴェリンがそうであったようにね」 

 BioWareチームは、以前の作品のキャラクターを再登場させることも手掛けている。DAIも例外ではないし、大勢がそうなるように期待されているが、再登場するためには意味づけがいる。「何度も変更を重ねて、このキャラクターも出したいんだが無理だな、などという感じで決まった」とレイドロウ。モリガンの再登場は明らかになったが、パーティー・メンバーとして登場すると示されているのはヴァリックとカッサンドラだけである。「彼らの場合、どのように考えが変わったのか示す、という別のアプローチを用いた」とレイドロウ。「途中の年月で彼らはどう変わったのだろう? カッサンドラとヴァリックはどうやら旅に同行しているようだが、互いに嫌いあってたんじゃなかったのか?」

キャラクターの変遷と誤解

 パーティー・メンバーは最初から固まっているわけではなく、開発の過程でストーリーの要請が変化していく。例えば、当初のヴァリックはDA2に登場するような軽口好きで忠義深い人物とは似ても似つかなかっただなんて信じられるだろうか。「当初の彼は信用できない男だった。ケチな下種野郎で・・・」とゲイダー。だが開発が進むにつれて、ライターたちは、他の対極的な性格のメンバーたちの中で、主人公の肩を持つ人物が必要だと気が付いた。「彼は必要とされる位置に自然とはまり込んでいったんだ」とゲイダー。「我々はキャラクターがその役割を果たせそうなら試すことを恐れたりはしなかったし、徐々にできあがってきたパーティーがうまく回るようになったのだ」とレイドロウ。「そのキャラクターをお釈迦にしてしまうつもりはなかったが、書き直すことはあるかもしれない」

 プレイヤーが抱いている最大の誤解のひとつは、BioWareがすべてのパーティー・メンバーを気に入ってもらいたがっているというものだ。プレイヤーはメンバー全員の好感度をあげないと良心が痛むような感じをしばしば受ける。「パーティー・メンバー全部を好きになってほしいとは思っていないよ」とクリスチャンセン。「どうすれば全員から気にいられるようになるのか、ものすごく気にしている人もいる。まあ、それもプレイの一部だが、自ら望む決断をして、たとえ身近な者が憂き目を見るような結果であっても、その重さを引き受けるっていうのもプレイの一部に違いないんだ」

 キャラクター創造にあまりに情熱を注いだライターたちも、そのキャラクターが好かれていないからといって嫌な気持ちになるわけではない。デヴィッド・ゲイダーとモリガンの創造について話をしたとき、真っ先に彼は皆に好かれようなんて思っていないと告げたし、ファンが誰を好きになるか予測するなんてほとんど不可能であるとも述べていた。「あまり考えたくないのは、誰がモリガンを気に入ってくれたかなんて興味がないからだ」とゲイダー。「キャラクターを好かれやすく作ることを気にしなくて構わないというのはほっとする、だってとても難しいからね」クリスチャンセンも同意する。「嫌われて結構。それだって傑出している人物(killer)に違いはないからね」

 今のところ、ヴィヴィアン、ヴァリック、カッサンドラがパーティーに加わることがわかっているが、インクイジターとともに旅する他のキャラクターについてもBioWareが見せてくれるのを待ち焦がれてしまう。たとえその中に我々の神経を逆なでするような者が含まれているとしても。

****

 

 これまで何度か、「女子豹変す」がBioWareのお家芸であり、野郎はちっとも変わらないと書きました(「豹変」は必ず「良い方」に変わることですので誤用にご注意)。

 この稿を読んで、そうではないのかもしれないと思った。

 「野郎はやっぱり変わらない」のですが、最初は「本当の人格が見えない」ってのが正しいのかもしれない。この場合も、「本当の人格」は「見かけの人格」よりも「良い」ってほうがずっと感動を呼ぶのです。逆の場合は単に「馬脚を顕した」、「ボロが出た」とか「送りオオカミ」とか「見かけ倒し」、「とうとう本性顕わしよった」とか陳腐な物語ですもんね。

 「周囲は当然いがみ合っているはずだと思っているメンバー同士の関係は、実はそうではないのかもしれない」というところが私のヒントとなった。 

 昔TVドラマ「コンバット!」で、タイトルは忘れてしまったが、主人公サンダース軍曹が別の米兵とともに独軍の捕虜となるエピソードがありました。とんでもない下種野郎に間違いないと思っていたその彼が最後は身を挺してサンダースを逃がしてくれるのです。

 サンダースの最後のセリフがたしか(日本語吹き替えしかわからんが)「会った途端に嫌いになった下種野郎だったが、おそらく一生忘れられない奴になった」という感じだった気がする。

 エド・マクベインの87分署シリーズに「命果てるまで」という個人的に名作と思っている作品があります。これも映画になってるんだろう。「刑事コロンボ」後期でも流用したらしい。

 ここに83分署の刑事が登場するのですが、見た目も性格も行動もどうしようもないはぐれデカ。自署でも当然つまはじき、87分署のデカたちも誰一人付き合いたがる人はいない。
 ところが結局彼のむちゃくちゃな捜査が突破口になるし、最終的に事件を無事解決に導くのも彼だけが可能であったというオイシイ役どころ(クライマックス・シーンはサラッと表現されていますが、他に例のないくらい感動ものです)。

 
 そして彼自身は自分が87分署の刑事たちに好かれていると勘違いしていて、事件解決の手柄を土産に、87分署への転属さえ申し出るという・・・。

 んー、なんか野郎は下種に見えたほうがいいのかな?

【DAI】パーティー・メンバー創造

Gameinformerの記事紹介。

http://www.gameinformer.com/b/features/archive/2013/08/23/creating-dragon-age-party-members.aspx

 大義を抱く主人公も、勇ましい魂の持ち主たちが力添えしなければ旅を生き抜くことはできず、世界は崩壊の憂き目を見るだろう。
 フォロワーたちはDA体験の心であり魂だ。愛するも嫌うも自由だが、彼らの存在から完全に目を背けるわけにはいかない。

 BioWareはDAシリーズを通して傑出したパーティ・メンバーを創造してきた。モリガンとアリスターがやかましく口喧嘩しようとも、ヴァリックがお得意のほら話をかまそうとも、パーティーはプレイヤーの家族だ。ゲームの一部始終に関わることになる仲間たちの創造過程の裏側はどうなっているのだろう? DAIのキャストはどうなるのだろう? 今回の訪問でこれらについてBioWareに聴かないでおくことはできなかった。

出発点

 信じられないかもしれないが、キャラクターの描写について書かれる以前から、コンセプト・アーティストとの間で創造過程がはじまる。ライターはキャラクターについての売り口上(blurbs)を提供するだけだ。例えば「デクスターと蝶々夫人が一緒になったようなもの」(訳注)という程度の簡潔なコンセプトだけを伝える。「ライターが先走って完全なキャラクターを描き切ってしまってから伝えてしまうと、コンセプト・アーティストは『何を言っているのかちっともわからないよ』みたいなことになるし、それから先ずっと追いかけてこなくちゃなくなる」とリード・ライターのデヴィッド・ゲイダーは言う。
(訳注:デクスターは同名アメリカTV番組の主人公。蝶々夫人は説明不要でしょう)

 初期の段階からアーティストを巻き込むことで、プロセスはより協業的になる。コンセプト・アーティストは初期のヴィジョンを取り上げていくつかのアイデアを提示する。「売り口上を膨らませ、別な方向性を試してみる。初期にはすべてのことが固体でもなければ、まだ流体ですらないので、色々やってみることができるのだ」アソシエイト・アート・ディレクターのマット・ローズは言う。「我々の頭の中では、異なる売り口上が異なるストーリーを生み出している。我々がそれらを紙に描き出してライターに選ばせ、彼らはそれらをまた膨らませ、最終的には成立しそうなもの、皆がピンとくるようなものに削り上げていくのだ」

 この手法がライターの創造力をよく補完してくれる恩恵は、BioWareが身をもって経験してきたものだ。「アーティストが提供してくれるヴィジュアル素材が我々ライターたちをインスパイアしてくれるから、まるで一緒に作り上げているようなものだ」とゲイダー。「ストーリーボードに従って書いていた場面を書き直したことさえあるよ。一旦ストーリーを記述してから、できあがった絵画を見ていたら『全く違う感じだが、こっちのほうがいいな』なんてなることもある」とシニア・ライターのルーク・クリスチャンセンが言う。

見てくれを仕上げる

 創造過程が進むにつれてキャラクター説明の記述はより詳細になっていき、アーティストはデザイン面で考慮する材料をより多く手にするようになる。例えば外套がキャラクターの来歴を何か現わしているかもしれないし、よく知られているようにBioWareはストーリーを物語る小物を隠し玉として用いることで悪名高い。「キャラクターに隠し玉を持たせるのが大好きなんだ、その人格形成の重大な部分を占めるようなとてつもなく大事な何かをね」ローズが言う。「それをどこかに隠しておくのが大好きで、それに関係する小物を用意しておけば、プレイヤーが秘密を暴露されたときに「ずっと気になっていたこの品物は、結局それに関するものだったのか!」となるよね。だがやり過ぎはよくない。あまりに大きすぎるものには、アート全体をぶち壊しにすることなく表に出せないものもあるのだ」

 船頭が多くなればキャラクターの人格創造が難しくもなりうる。よってチームはそのキャラクターにとって最善なものになるように心掛けている。「キャラクターに個性(identity)を持たせる場合に、それが自ずから生まれるようにするにはデリケートなバランスが必要だ」とローズ。「あるキャラクターを際立たせるために、あまりに多くの者たちのあまりに多くの判断を持ち込んでしまえば、砂やすりで表面を全部削り取ってしまうような結果になりがちだ。外見的にもストーリーの面からみても、キャラクターの個性が自ずと生まれるように努力することは大変重要なことだ」 ローズは過去の例を示して、キャラクターを他から際立たせる主要な要素がコスチューム・デザインと見てくれ(affectations)にあるという。

 ローズは、ファンアートの作者たちがキャラクターを描く際に、常に顔つきと雰囲気を違うものに変えていることに気が付いた。「今回は、キャラクターがもっと際立つように押し出しを強くするつもりだ」とローズ。「誰かがあるキャラクターを描こうとしたら、鼻には必ずコブを描かなくちゃならないようにする。それも個性から切り離せないからだ。それでは魅力的ではないと思うかもしれないが構わないんだ。友人や愛する者たちの全ての部分が魅力的だなんて考えていないだろう? 相手の奇妙な部分もひっくるめて好きになることが大人になっていくことの一部だよ。

 全てのデザイン・ワークが完了したとき、BioWareが手にしたいのは完全無欠を具現化したキャラクターよりも現実味のあるキャラクターだ。だが創り上げたキャラクターを、その欠点も何もかも含めて世の中にお披露目するというのは、神経の磨り減る体験でもある。「自分の子供がはじめて登校する日に、まさかプロペラ付きの派手な帽子を被らせて行かせたりはしたくないよな、みたいな気分になったりもするね」とゲイダーが言う。

続きは次回。

(追加)

 プロペラ付きの派手な帽子(笑)

 propeller hat が見つからないので、propeller capで。

Propellorhat_2

2013年9月 2日 (月)

【DAI】新コンセプト・アート(8月29日)

 Twitter dragonageの新コンセプト・アート。

 (コンセプト・アーティストであるマット・ローズ氏のTumblrに適宜アップされているものは特にキャプションがないのでここでは紹介しません。次のそちらのブログをご覧ください) 

http://mattrhodesart.tumblr.com/

 

Throughabreach
 そらの綻びを潜り抜け、勇ましき者らいま赴くは、かつて夢見も憚られし地。

"Through a breach in the sky, the brave now walk where once we feared to dream."

 自分でも自信のない古文調・・・。現代語訳はこちら。

「中空の亀裂を抜け、勇者らが今向かうのは、これまで誰もが夢に見ることすら畏れていた場所である」

 フェイドですね。フェイドのことですね。またしてもフェイドに行くのですね。お約束のように向かうのでしょうね。あれだけでかいリアル世界のマップのほかに、さらにフェイドのでかいマップがあるのでしょうね。

 

 

2013年9月 1日 (日)

【DAI】PAX デモ映像@Youtube

 撮り手の声がガンガン入ってるのを気にしなければ、PAX Seattleのdemo全編(実際には前半部分のようです)を観ることができるようです。

 全部で三本あって、以下のリンクが一本目なのであとは同じポスターのもの探してください。 

http://www.youtube.com/watch?v=IML4hhg8Yz0

 画面からプレ・アルファ段階のビルドであることがわかります。

 見どころは色々ありますが、とにかくこのマップです。

 Demoの中盤くらいに主人公たちが向かう場所は、あのAsunderで舞台となったウェスタン・アプローチ、アビサル・リフトとアダマント要塞が位置する砂漠地帯。

Daimap 

 このマップがDAIのプレイアブルな地帯全域を示しているかどうかわかりませんが、西方オーレイを中心として、東南にフェラルデン、北東にネヴァラとフリー・マーチズまで描かれている。舞台がオーレイ中心であることは間違いないでしょうが、周辺地域は実際にどこら辺まで含まれるのか、これだけではわからないですね。

 Demoの途中で出てくるファイルロード画面から、以下の五か所の地名がわかります。Demo用に仕込んだファイルでしょうけど、全部オーレイ国内だと思われます。

(修正:レイドロウ氏の発言を聞いていると、クレストウッドはフェラルデン国内と言っているようです。フロストバック・パスに含まれると考えるのが妥当でしょう)

・クレストウッド・ヒルズ(Demo冒頭に訪れている場所であることは劇中会話からもわかりますが、Wikiには見当たりません。雪山の光景が見えること、それと英語ぽい名称からみてフェラルデンの近くかな。下にもあるフロストバック・バスの一部でしょうか。
 (修正:どうやら、その通りのようです)

・ウェスタン・アプローチ(中盤あたりで向かう。レイドロウ氏も散々説明していますね)

・フロストバック・パス(フェラルデンとの国境山脈地帯の一部でしょう) 

・ナハシン・マーシュズ(ウェスタン・アプローチの北、オーレイの首都ヴァル・ロヨーから西方にある大湿地帯ですね)

・サザン・デソレイション(desolationもまた荒れ果てた土地のことですが、いっぱいありすぎて(笑)、これはどこかちょっとわかりません)

【DAI】ゲームプレイ映像(CommynityNetworkTV)

 これは英語サイトのものではないようですが、セリフがないので問題ないでしょう。
 こちらも新しいコンバット画像@Youtube。

http://www.youtube.com/watch?v=-aK0z8xeAus&feature=youtu.be

【DAI】コンセプト・アーティスト・Tumblr

 以前も紹介した、DAIのコンセプト・アーティストのブログ(Tumblr)。

Tumblr_ms59p5wnv41rrrleuo1_1280

 DAI関連のコンセプト・アートが画像がいくつかアップされている。

 ちょっとディズニー・アニメ臭い絵柄ですが・・・。

 http://mattrhodesart.tumblr.com/

【DAI】プレイ画像@PAX Seattle

 PAX Seattle、DAIのプレイ画像は下。

http://www.ign.com/videos/2013/08/31/dragon-age-inquisition-impressions

【DAI】プレイアブル・クナリ

 PAX Seattleで、DAIの新画像も発表されているようです。

 http://www.gamespot.com/pax/dragon-age-inquisition-says-goodbye-to-claustrophobia-hello-to-tactical-combat-6413921/

 さらにクナリ(♂♀とも)がプレイアブル・キャラクターになる予定、だそうだ。どこまで「ファン」に迎合する気だろうかね。

http://www.gamespot.com/pax/qunari-will-be-playable-race-in-dragon-age-inquisition-6413926/

 

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