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2013年9月 8日 (日)

【DAI】Dragon Age Asunder (10-1)

「少なくともあの間抜けな馬に乗らなくて済むわけだし」

 エイドリアンの声は狭い通路内でこだまになり、それが消えると、下に降りるにつれて強まっていた息苦しさと閉塞感がいっそう強く襲ってきた。エイドリアンが怯懦で蒼ざめているのを見て取ったリースは励ましの言葉を囁くが、彼女は逆に一体こんな場所で何をさせる気かと非難を返し、自分から志願して来たことを指摘されても意に介さない。 

 シェイルが赤い光を放つ眼窩でふたりを睨むと、頑丈なゴーレムの自分は構わないが、生身のメイジふたりはここに潜んでいる何ものかの関心を惹かないように静かにすべきだと注意する。むしろシェイルのでかい足音のほうがよっぽど騒々しいとリースは言いかけたが、相手が冗談を受け入れる雰囲気には見えなかったので思い留まった。

 エヴァンジェリンが抜かりなく剣を構えて先頭を進んでいく。先程来から聴こえている何かが蠢く音が大きくなってきているが、それがどれだけ近づいているのか知るすべはなかった。

 長い階段を降りた先は控えの間らしく、床と壁一面が血まみれで、遺体安置所のような匂いが漂っていたが、破れた衣服と少しの宝石類が転がっている以外、屍も何もなかった。

「なかなかいいね。ここの連中は内装の趣味が洒落ている」

 リースのつぶやきに、エヴァンジェリンが冗談めかして返す。

「歓迎色満載ね」

「ホワイト・スパイアも見習ったらどうだい?」

「血はどこから調達するのかしら」

「タワー中にメイジがいるのに? まさか本気で聞いてるんじゃないよね」

「言えてる」

 エイドリアンが疑わしげに自分を睨むのは、冗談をとばしたからか、エヴァンジェリンと息が合っていたからか、どちらが理由だろうとリースは思いあぐねたが、彼女のことだからおそらくその両方だろう。押し黙ることにしたリースは、蠢く音が時折する以外まったくの静寂であることが自分の神経を参らせていることに気がついた。

 通路を進むとまたいくつかの階段や通路が分岐している場所に出た。迷路のように複雑な通路をウィンの指図に従って進む間、リースは予想以上に大きなこの城塞からひとりきりで外に戻ることができるだろうかと不安になった。

 最近ここに居住していたのは数百人程度だろうというウィンの言葉に、居室の数からすれば千人は収容できるくらい大きいはずだとリースが返す。ウィンは、すでに伝えたようにここはグレイ・ウィーデンの要塞として建造されたものであり、第二のブライト当時は優に千人を超えるウォーデンたちが駐留していたのだろうという。そしてグリフォンたちも。

 エヴァンジェリンがグリフォンの話題に興味を示したので、ウィンは、当時のグリフォンの飼育洞(weyrs、訳注)が亀裂へと通じていたこと、そこへの通路こそ封印されているものの、間違いなくこの地下にまだ存在しているだろうことを言い添えた。 

 だが、数百人もいたという居住者はどこへ消えたのだろう。その末路は残された大量の血から容易に想像がつくが、中庭で二ダースほど見つけた以外、屍はどこにも見つからなかった。

 途中のいくつかの部屋は倉庫代わりに用いられていたらしく、猛獣に引き千切られたような木箱の残骸から穀物や食料が散乱しており、一部は血に塗れ、また多くはすでに腐ってしまって無数の蠅が雲のようにたかっていた。 

 そして異音はその次の部屋から聴こえていた。ウィンの杖の灯りが届く範囲の外は真っ暗闇だったが、まるで数百もの何かが蠢くような音は聞き間違いようがない。エヴァンジェリンは闇を見つめて、一行に戦いの用意をするように囁いた。  

 自分の杖が白く輝くようになるまでパワーを集めたリースは、同じように備えをしているエイドリアンの睫毛から汗がしたたり落ちているのを見た。

 ウィンは両手でアーケインの印を切り、クモの糸のようなエナジーの流れを一行それぞれの身体に送り込む。リースはそれが防護用の魔法であるとわかった。
 ウィンはシェイルに先頭に立つように伝える。生身の肉体は脆すぎるから当然だと告げると、シェイルは岩のこぶしを握り締めて暗闇に突入し、他の者たちもすぐあとに続いた。

 ウィンが放った照明光があまりに強烈だったため、リースは一瞬たじろぎ、腕で両目を隠さなければならなかった。薄目を開けて光に照らし出された光景を見た彼は、できれば見えないほうがよかったと思った。 

 兵舎だったであろう部屋は、身の毛もよだつような巣窟となっていた。無数の人々、かつて人だったものたちの姿が照らし出されている。今や不気味に歪んだ姿となった化け物たちはうずくまって人肉を貪り喰い、骨の山や他の化け物たちの上にのしかかり合いながら、肉の破片を奪い合っていた。血の中を這いずりまわり、以前身に着けていた着衣の成り果てたぼろの他は肌は血と汚物まみれであった。 

 闖入者一行に向けられた化け物たちの目は邪悪なかがり火のように輝いており、そこから内側の闇の力を放出しているようであった。鋭く血だらけの歯牙を向き出しにして不気味な唸り声をあげる姿は、まさに悪魔に取りつかれたもののそれであった。
 リースが生まれてこの方、これほど怖気を震ったことはない。

 気を付けてと叫んだエヴァンジェリンは、自分に向かってくる最寄りの化け物に突進して剣で真っ二つに切り裂いたが、すぐに他の化け物に掴みかかられ押し倒されそうになる。彼女はありったけの力で相手をふり飛ばすと、即座に起き上がって大きく唸り声をあげているその首を横ざまに刎ねとばした。

 シェイルはすでに彼女に先行していた。足音で轟音をたてながら突進し、憑依された男女をひとまとめに抱え上げ、部屋中に投げ飛ばした。化け物たちは金切り声を上げながら空中を飛んでいき、着地点にいる他の同類たちをなぎ倒す。
 だがシェイルの身体には他の化け物たちがよじ登ってきており、いくら弾き飛ばしても別の化け物が取って代わる。シェイルはついにそれらにかまけることをやめ、こぶしを振り回して、メイジたちに近づこうとする化け物たちを遠くに弾き飛ばすことにした。

 新手の化け物たちが次々に湧いてきて、吠え、悲鳴をあげる。ウィンはリースとエイドリアンに用意はいいかと尋ね、ふたりは頷き返した。

 恐怖を無理やり捻じ伏せたリースは、意識を魔法のパワーに集中させると渾身の力で呪文を放った。彼の身体を貫いた興奮は信じられないほど大きかった。シェイルとエヴァンジェリンの頭上を越えていった黒いエナジーの塊が壁に衝突すると、付近の化け物たちを周囲の空気や瓦礫もろとも虚無の中に吸い込む大穴と化した。離れた場所にいた化け物たちもまるで強烈な向かい風に押し戻されるかのように歩みが遅くなり、虚無に吸い込まれないように腰をかがめてもがいていた。

 リースは、目を閉じて集中しているエイドリアンの身体から放射される熱波を感じた。彼女が再び開いた両眼は炎で紅く燃えている。彼女の両の掌から発せられた火の玉は空中を進む間にその大きさも熱量も増し、化け物の一団に直撃すると同時に爆発して阿鼻叫喚の火焔地獄を生み出した。 

 ウィンが杖から稲妻を次々に繰り出すと、直撃された化け物たちは皆即座に斃れていき、電荷は付近の化け物たちも巻き込んでいった。エヴァンジェリンとシェイルの横をすりぬけて自分のほうに近づいてくる相手にウィンは冷気を浴びせて氷漬けにする。
 氷の壁と化した同類たちを完全に無視するかのように、その横を迂回して接近してくる一団にも、ウィンは幾度か冷気を放つが、とうとう中の一匹が彼女に跳びつくとそのまま床に押し倒した。 

 リースが母親の名前を叫び、ちょうど彼女の頸を噛み千切ろうとしていた化け物の頭に魔法のボルトを見舞う。吹き飛ばされても即座に立ち直った化け物を、今度はウィンが氷漬けにして粉微塵に砕いた。

 ウィンが感謝のまなざしをリースに向けたちょうどそのとき、今度はリースが一匹の化け物にのしかかられ、床に強かに打ちのめされた。その化け物は女性の変わり果てた姿で、肌は斑色で吹き出物だらけ、頭皮からは長い金髪の残りの束を垂らして、彼のほうに黒い唾液と血に塗れた牙をむいて喉からシューシューとした声をあげている。その力が思いのほか強いのでリースが危うく力比べに負けそうになった時、恐怖に顔をひきつらせたエイドリアンが杖でその化け物を何度か殴打した。飛び退いた化け物にエイドリアンが火焔の放射を見舞うと、それは悲鳴を上げながら闇の奥に消えていった。

 相手の数が多すぎると叫ぶエイドリアンの声がリースにかろうじて聞こえた。ウィンの稲妻に伴う雷鳴がエヴァンジェリンとシェイルが葬り去る化け物たちの断末魔と相まって、部屋は耳をつんざくような轟音が支配していた。

 エイドリアンとリースが見やると、シェイルが化け物の大群の中でもがいており、その岩石の身体でさえも化け物たちが徐々に削り取っているようだ。エヴァンジェリンの額から流れる血は彼女の顔面と鎧の胸まで赤く染めている。ウィンもついに押され始めており、これ以上長く持ちこたえることができないのは明らかだった。 

 火焔の嵐を呼ぶしかないと叫びながら、両掌で赤い火種を生み出したエイドリアンに、それではエヴァンジェリンが持ちこたえられないとリースが制止する。全員死ぬよりましだという彼女の返事に跳ね起きたリースは、周りにすでに風が巻き起こり始めてるのを感じた。

 リースは自分に殺到してくる化け物たちをありったけの魔法の力を呼び起こして弾き飛ばしながら、剣を荒々しく振り回しているエヴァンジェリンのほうに駆け寄っていく。周りを隙間なく化け物たちに取り囲まれた彼女は、その厳しい表情からもう長くは耐えられないと覚悟していることが見て取れた。

 リースが声を限りに名を呼んでも、彼女には聴こえていないようだ。付近の化け物を吹き飛ばしながらエヴァンジェリンの傍らまでたどり着くと、彼女が振り回す剣が彼の目の前間一髪でとまった。驚愕したような血塗れの顔で彼を見つめると、彼女は一体何をしているのかと叫ぶ。伏せろと叫んだリースは彼女を抱きかかえ、もろとも床に倒れこんだ。化け物たちがふたりに殺到し始め、エヴァンジェリンは怒りと恐怖に囚われて、リースの腕から逃れようと身もだえした。

 そのとき、火焔の嵐が襲った。部屋の天井まで達した火焔はハリケーンのように渦巻き、そこから轟音とともにしたたり落ちてくる炎が化け物の大群を一瞬にして黒焦げに変えた。両手を目いっぱい開いたエイドリアンは炎の環に包まれているが無傷だ。その身体は宙に浮き、赤い巻き毛が風に靡いている。復讐に燃える無慈悲な女神の姿だった。 

 リースはエヴァンジェリンの身体に顔をうずめ、彼女は自分の両手で顔を覆っていた。熱波は熾烈で、暴力的な轟音に打ちのめされたリースは悲鳴をあげようとしたが、呼吸すら難しい中でそれは無理だった。 

 はじまりと同様に嵐は突然やみ、不気味な静寂が訪れた。燃え滓がくすぶる音だけが聴こえ、炭と焦げた肉の匂いがした。

 リースに続いてエヴァンジェリンも顔をあげ、呆けたような顔を彼に向けた。語るべき言葉もなく、眩暈と奇妙な虚ろさを感じていたリースが杖から灯りを発して周囲を見ると、戦いが終わっていることがわかった。少し離れたところにシェイルが立っており、岩石の肌から熱い灰を忌々しそうにはたき落しながら、メイジもときには役に立つ、と不承不承認めていた。

 ウィンとエイドリアンも近くの床に伏せていたが、ふたりとも身動きしていない。リースが駆け寄ってみると、ウィンは髪の毛が焦げてぼさぼさになっている以外は無事だったが、エイドリアンは死んだように蒼白で、やっと息をしているようだった。彼が触れた頬は冷たかった。

 「エイドリ?」

 不安にかられたリースが囁く。

 「あたし死んだのかしら?」

 ようやく目を開いた彼女がうめいた。

 「いや、まだのようだ」

 心から救われた安堵で脱力感に見舞われたリースが笑って答える。

 「それは残念・・・」

 ふたりに近づいてきたエヴァンジェリンが剣を鞘にしまって、今のところは安全になったようだと言った。血と煤に塗れた彼女は、どこからみても百戦錬磨の戦士の姿だった。
 ウィンが杖に再び明かりを灯し、シェイルも無事なことを確かめると、向う側の通路がファラモンドの実験室に通じており、彼もそこにいるはずだと告げる。
 信じられないという顔をしたエヴァンジェリンが、このような状況で彼がまだ生き残っているとでも思っているのかと問い質すと、ウィンはそのとおりだと答えた。

***

(訳注) USのサイファイ・ファンタジー作家、故アン・マキャフリーの造語であるweyr(ウィーア)の複数形。おそらく養殖魚を放すweir(堰)が元。マキャフリーの物語では、多数の飛龍、その乗り手の戦士たち、および飛龍部隊を支える諸々の役割を担う者たち全て、またはその換喩のもととなる、飛龍部隊の駐屯地、一般には巨大なカルデラ(凹)状の地形そのものを指す(カルデラ状であれば辺縁部の外輪山が襲撃からの防護の役割を果たし、中央部は飛龍がそのまま離着陸できるよう開放されていて都合が良い)。日本語版では「大厳洞」などと訳されている。

 ここではマキャフリーの造語をそのまま用いているが、ウィンの説明によれば太古のグレイ・ウォーデンのグリフォン部隊は要塞のかなり下部に駐屯していたようである。よって大亀裂の側面に口を開けた大きな洞穴と考えるほうが自然かもしれない。

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