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2013年9月19日 (木)

【DAI】Dragon Age Asunder (12-1)

 周囲の光景を見まわしたエヴァンジェリンは鳥肌がたった。彼女とリースがついさっきまで歩いていたのは廃墟となった市街地だったはずなのに、今ふたりはさびれた農園地帯に立っているのだ。見渡す限りの焼野原で、至るところに燻っている煙が目に痛い。

 遠くにはプロヴィンシズで良く見かける類の一軒のあばら家が立っており、枯れ果てた土地からの収穫で何とか生き繋いでいる惨めな人々の生活がその佇まいからうかがえた。灰色の壁板、はげた塗装、風は寂寥を運んでいる。

 エヴァンジェリンがここで間違いないのかと問うと、リースは真剣な顔つきで頷き返した。彼の頭の横には小さな光のオーブ、コールの居場所へ導いてくれるというスピリットが漂っている。彼女はそのちっぽけな存在さえもふたりを道に迷わせる意図があるのではないかと疑っていた。スピリットは自分の意志など持ち合わせておらず、生身の者が決して及ばないほどフェイドについて熟知しているのだというリースの言葉を彼女は信じたかった。

 ふたりは街から、あるいは「悪夢」から抜け出していた。汚染に満ちていた空は虚無に変わり、星や雲の代わりに島々が浮かんでいて、不思議な光の群れが見える。光は緑色から金色へと彩りを変えつつ、ときに明瞭になる以外はまるで虚空を埋める瘴気のように拡散していた。

 靄のずっと先に比較的大きめの島が辛うじて見え、そこには闇のとばりを纏った都市がある。かつてのメイカーの御座所(おわしましどころ)、今や人の愚行の証となったブラック・シティだ。エヴァンジェリンはそれがフェイドに常在する唯一のもので、この世界のあらゆるところから見えることを読み聴きして知っていたが、まさか自分で目にするとは思いもしていなかった。

 何もかもがぼやけて見え、エヴァンジェリンは身震いした。人々は夢の中で夜な夜なフェイドを訪れていて、その旅を単に記憶していないだけであるとメイジたちは言うが、彼女にとってここは生者のいるべき場所とは感じられなかった。

 あばら家に人の気配はなく、正面の開いた扉は風に揺れて規則的に音を立てていた。物干し場の白布は黒く汚れ、半分は地面に落ちている。ここはすべてが打ち捨てられた場所であった。
 リースはここがコールの生家ではないかと自信なさげに告げ、あるいは彼がそこから逃避している記憶の一部かもしれないと付け加えたが、エヴァンジェリンはそれが良い記憶かどうか確かめるまでもなかった。

 ふたりが扉の外から中を覗っても闇以外なにも見えなかった。毛が抜け落ち、耳の片方がひどく焼け焦げた猫が踏み段の下から現れ、ふたりのほうに惨めな啼き声をあげた。エヴァンジェリンが腰をかがめて片手を差し出すが、そこに食べ物がないとわかった猫の啼き声は絶望のためさらに大きくなった。夢の中だと知りつつも彼女は憐憫を禁じ得なかった。
 任せろと言って彼女の隣にしゃがんだリースの手の中に小さな生肉の切れ端が現れた。狂喜した猫が飛びついてそれを咥え取り、その場で齧り続けた。

 剣は自分がそう思うからその手の中にあるんだ、とリースが言う。ただし、何もかも変えることができるわけではない。

 リースによれば、フェイドのスピリッツはリースたちの心の中にある世界をそのまま再現しようとするだけであり、それが本当にあり得ることかどうかは理解していない。リースたちの心の中では記憶と感情がごちゃ混ぜだが、スピリッツはそれらを現実だと思い込み、魅惑され、惹きつけられる。ただしすべての夢がスピリッツの創り出したものなわけでもない。

 エヴァンジェリンは意味がよくわからないまま頷いた。結局ここはメイジの領域なので彼を信用するしかなく、彼女はある意味そうしていた。リースは大バカ者かもしれないが、その心意気は善なるものだと信じていた。

 リースが咳払いして、先刻ディーモンから告げられた話を持ち出そうとするが、彼女はリースの友人を探すのが先決だとはねつけた。
 肉片を咥えて踏み段の影に隠れていく猫の姿を見つめながら彼女は黙考した。
 ディーモンの言葉にはリースとエイドリアンの間に不和を生み出す意図があって、エヴァンジェリンの見たところそれがほぼ成功したことも間違いない。あの娘は相手が誰であっても最悪の部分を見たくて仕方がないのだ。
 そうだとしても、あの言葉には少しでも真実が含まれていたのだろうか。それを考えても意味はないだろう。リースはメイジで、自分はテンプラーだ。いくら彼が魅力的だといっても、そんな目で自分を見てはいないだろうし、見るべきでもない。

 踏み段を軋ませて中に入ると、外の光がまったく中まで通らないため闇は不自然なほど濃かった。吐く息が白くなるほど空気も冷たい。エヴァンジェリンは剣を抜いてリースと用心深い目をかわす。彼が構えた杖のオーブも光り始める。

 中はろくに家具すらない有様で、数脚の椅子の他は汚い毛布何枚かとワインの瓶がいくつか転がっているだけであり、そのすべてに霜が降っている。エヴァンジェリンは一体ここで何があったのかと囁いたが、リースが彼女以上のことを知るはずもなかった。部屋には恐怖の記憶が染みついている。彼女がタワーに連行するメイジたちの中には、呪われた才能を恐れるあまりその場で殺してほしいと懇願する者たちがいたが、彼らから感じた恐怖も同じ種類のものだった。

 隅の一画には小さな台所があり、小ぶりの食器棚がいくつかある他は割れた食器が散乱していて、あたりの床にはまるで最近までそこに屍があったことを示すかのように凍りついた血の池がある。

 小さなスピリットが急に動揺しはじめたのでリースは静かにするように宥めた。リース曰くスピリットは何か普通ではないものを感じたようだというが、エヴァンジェリンにしてみればここに普通なものなどあるとは思えなかった。
 スピリットが苦悶しているかのように脈動しはじめたので、エヴァンジェリンは落ち着かなげに剣を握りしめた。自分が幻想に囚われているのでない限り、周囲はずっと寒くなってきている。

 食器棚のほうから囁き声が聴こえ、エヴァンジェリンがその声の出所を探ろうとしたとき、コールの名を呼ぶ怒鳴り声があばら家全体に響き渡った。リースが戦慄し、スピリットは恐怖のあまり逃げ出して視界から消え去った。あたりの冷気がさらに増し、剣を構えるエヴァンジェリンの鎧に霜が降りはじめた。声は地下室のほうから聞こえるとリースが言う。

 コール、永久に隠れていられると思うのか、とまたその怒鳴り声がして、重く響く足取りが階段を登ってくる音が聞こえた。エヴァンジェリンが台所から出ると、奥にある小さな扉ががたがたと揺れているのが見えた。リースによれば怒鳴り声の正体はコールをここに縛り付けているディーモンで、今は戦うしかない。

 扉が開け放たれ、でっぷり太った身体に白髪混じりの頭髪が残る禿頭の男が現れた。樽のような腹がはみ出るほど小さいシャツは返り血で真っ赤に染まっており、その上には血の手形がはっきり見える。顔は痩せて蒼白く、腐り始めの屍のように頭蓋から肉が削げ落ちている。それは唾を巻き散らかしながら怒鳴った。出てきて男らしく死ね、どんな罰を受けるかわかっているだろう。

 エヴァンジェリンは魔法を警戒しつつディーモンのほうにじりじりと近づいて行き、退け、自分たちはコールに用があるだけだ、と警告を発したが、彼女をなめ回すように見た相手は冷笑とともに役立たずと断じた。それからまた、自分の犯した過ちはずっと昔に消し去るべきものであった、母親から邪悪を受け継いだ息子のお前は、それが故に母親と同じ罰を受けるのだ、とコールに向けて怒鳴った。

 剣に精一杯のパワーを集めてディーモンを突き刺そうとしたエヴァンジェリンの身体は、その中途で凍りついたように金縛りになった。臭い息が届くくらいまで彼女に顔を近づけたディーモンは、言わぬことではないと嘯いた。
 彼女に手を出すな、とリースが吠え、駆け寄り様ディーモンを杖で打ち据える。触れたオーブから閃光が走ると相手は苦痛の叫びをあげながら後ずさり、地下室への階段を転がり落ちる寸前で戸口の柱に手をかけ、ようやく踏みとどまった。

 「メイカー、こやつとその忌々しい魔法に天誅を!」

 そう怒鳴ったディーモンの口が胸元あたりまでばっくりと割れ、そこから溢れ出た猛烈な吹雪を顔面に浴びたエヴァンジェリンが声なき悲鳴をあげた。リースは身を引くと同時にふたりを吹雪から守る魔法の障壁を造り出す。それからエヴァンジェリンの腰に手を回して抱えあげ、彫刻を運ぶようにして台所まで退くとその床に彼女の身体を横たえた。彼が荒い息のまま片手を彼女の額に当てると、エヴァンジェリンは身体の麻痺が即座に解けるのを感じた。

 危ない、と彼女が叫ぶと同時にリースの背後からディーモンが襲いかかり、床に押し倒した彼の肩に牙を埋めた。傷口から鮮血がほとばしり、苦痛の叫びをあげたリースが身を引き離そうともがくが、相手の剛力がそれを許さない。
 跳ね起きたエヴァンジェリンが両手で振りかぶった剣をディーモンの背中に深々と叩きこむと、それと同時に彼女のパワーが相手の魔法を無力にした。
 ディーモンはリースの肩から牙を離すと、傷口から青みがかった血を流しながら立ち上がり、災いに満ちた目をエヴァンジェリンに向けてこう言い放つ。まだわからんのか、この腐った愚か者が。

「メイカー、この邪まなるものに天誅を!」

 そう唸ったエヴァンジェリンが剣を横ざまに一閃させ、ディーモンの頸を刎ねた。宙に飛んだ首は床に落ちる前に霧散し、残された胴体は断端から黒いエナジーを噴き出しつつ、両手で虚空を掴むようにして仰向けに転倒した。亡骸が黒い沼地のようになり、それもやがて跡形もなく消えていった。

 エヴァンジェリンの息は荒く鼓動は早い。床に倒れたままのリースが傷口を押さえながら彼女を見上げて言った。

「これで、済んだのかな」
「だといいけど」
「そういえば、見事な一振りだったね」

 室内の雰囲気はすでに変化していた。冷気は去り、血の池は消えたが、闇だけは残っていた。惨劇の跡を何ひとつ留めない、ただ長いこと放置されていただけの農家のようにも見えるが、エヴァンジェリンは床板一枚一枚に邪なものがこびり付いているのを感じていた。

 警戒のため引き続き剣を構えているエヴァンジェリンが回りの全てが消え去らないわけを尋ねると、リースは魔法で自分の傷口を手当てしながら、ディーモンはコールをここに閉じ込めていただけで、悪夢自体はコールのものであり、縄張りがひとつ空いた今、必ず別のディーモンがやってくるから、その前にコールを探し出さなければならないと告げた。

 それを聞いたエヴァンジェリンは心中穏やかではなかった。先ほどのディーモンが実験室で出会ったものと同じなら一件落着だったのだが、そうではなかったようだ。あちらのディーモンはファラモンドとともにいるに違いない。同時に二箇所に存在するという発想が彼女をまごつかせたが、良く考えればフェイドにいるはずの自分の肉体も現実の世界のほうにあるのだ。

 傷の手当をしているリースを残して、エヴァンジェリンはコールを探し始めた。誰かを拉致する場所として地下室ならしっくりくると思い、ディーモンが現れた扉を開けた。
 だがそこで目にした完全な闇と、漂う生(なま)の恐怖、幼子の抱く類の恐怖と果てもなく続く絶望の感覚に怖気を奮い、彼女は慌てて扉を閉め直してしまった。そしてそれが戦士にあるまじき行為だったと自分を恥じた。父親ですら余程のことがなければ自分に手をあげたことはなかったので、さっき感じたのは自分自身の恐怖ではあり得ないのだが、あまりに現実味を帯びていた。

 だがそこで彼女は、ディーモンが出てきた地下室にコールがいるはずのないことに気が付き、先ほど台所で耳にした囁き声のことを思い出した。

 台所に戻ってきた彼女にリースが何事かと尋ねる。彼女はそれには答えずに耳を欹(そばだ)てるが何も聴こえない。彼女が台所の戸棚を一つづつ開けはじめると、リースが訝しげに何をしているのか尋ねた。

 最後の棚の中に、もつれたブロンドの髪の薄汚れた少年が隠れていた。歳のころ十二くらいで、顔には激しい恐怖を湛え、もはや枯れ果てたのだろう涙の跡が見開かれた眼から頬に伝っていた。それよりもおぞましいのは、幼い少女もまた彼と一緒にそこに閉じ籠っていたことだ。少年は自分の半分くらいの歳の少女の躰を力一杯抱き締めており、彼の片手は声を漏らすことすら許さないかのように少女の口元を塞いでいた。

 ただ、少女は死んでいた。

 啜り泣きを必死に堪えようとして身体を震わせている少年が、ここにいることは内緒にしてくれとエヴァンジェリンに囁いた。母親からふたりで隠れているように言われたのだという。
 彼女の後ろから近付いてきたリースが慄いた顔つきで、コールなのかと呼びかける。

 エヴァンジェリンは途方に暮れた。少年の震えがひどくなり、新しい涙を流し始めたが、それでも物音ひとつたてなかった。コールは彼女たちのことも覚えていなければ、自分自身が誰かすらわからないのかもしれない。

 彼女が少女の口元を塞いでいたコールの片手をよけると、「バニーが泣いちゃうから」と彼が小声で言った。母親が静かにしているように言ったから、この子も静かにさせなければならなかったという。

 エヴァンジェリンが少女の躰を優しく引き取っても、少年はさしたる抵抗もしなかった。骨と皮だけになっていた少女の躰に重さはほとんどなく、この年頃の娘なら見せびらかしたくなるだろう黄色いドレスの切れ端だけ身に纏っていた。棚から外に出した途端に少女の躰は霧散した。

 エヴァンジェリンから救いを求めるような目を向けられたリースは彼女を優しく横にどかし、棚の前にしゃがんで自分のことがわかるかとコールに話しかけた。
 リースをじっと見つめる少年の息遣いは恐怖と戦っているように早く不安げになっていった。リースが身体に触れようとすると、少年の手にダガーが現れ、徐々に顔つきが絶望に満ちた憤怒を示すものに変わっていった。

 もうかあさんを痛めつけさせない。もう許さない。

 エヴァンジェリンは慌ててリースの身体を引き寄せようとした。フェイドで殺されたらどうなるか知らなかったが、試す気もなかった。だがリースは少年に向かって降参するように両手をあげて、コールも他の誰も傷つけるつもりはないと囁いた。

 震えるダガーの先がリースの頚元に触れ、そこでとまる。啜り泣く少年の眼つきは恐ろしいほど激しかった。

 そこで少年の震えがとまった。突然リースの名を呼んだ声はすがるように憐れで痛ましかった。
 リースが頷くと、ダガーが床に落ち、すでに棚の外に出ていた少年はエヴァンジェリンが市街地の広場で見た若者の姿になっていた。
 コールはリースの胸に頭を埋めるようにしがみ付き、心の底から苦悶を絞り出すかのように咽び泣いていた。抱き締めていたリースが優しく宥めると泣き声がさらに大きくなった。

 あばら屋も消え、エヴァンジェリンは自分たちが焼野原の中に立っていることに気が付いた。まるではじめから農家などそこにはなかったかのように思えるが、彼女は心の深い部分で気が付いていた。コールの悪夢は彼の記憶の奥に仕舞い込まれていたはずで、暗く恐ろしい場所にそっと埋めておくべきだったその悲惨な思い出を、フェイドが無理矢理やり浚(さら)い取ってきたのだ。

 ただそこに立ち尽くして、リースが若者を優しく抱いている姿を居たたまれずに見つめながら、彼女の心は悲嘆に暮れていた。

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